不死の感情・改   作:いのかしら

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「リーダーシップ」とは、人々を共通の目的のために団結させる能力であり、人々に確信をもらたらす資質である。

バーナード=モントゴメリー


第2章 練習試合です!
第2章 ① 初陣の初動


2日後の放課後、生徒会室。そこのホワイトボードには河嶋さんが用意した試合会場の地図と黒い線の書かれた紙。

机の上には車長の数と会長さんと小山さんの分の地図が用意されていた。

 

「まず試合会場は前回も言ったが大洗で、その南西部の高台と隣接する市街地の一部だ。今までの彼らの戦いを見るにチャーチル、マチルダIIと言った歩兵戦車を中心に、輌数の関係からクルセイダー巡航戦車を投入すると思われる。

チャーチル、マチルダIIの装甲は厚い。我々の一番強いポルシェティーガー以外の戦車なら100m以内でなければ抜けないと思え。しかも相手にはちょこまかと動くクルセイダー巡航戦車がいる。整地60km/h出せるこいつの機動力に勝てる戦車は我々にはいない。遭遇戦になる上、舗装路が多いから市街戦は避けるべきだ。

そこでその地図上に丸をつけたところを見てくれ。東西に通る道の途中にあるそこの高台に待機し、1台が敵を手前のキルゾーンに引きつける。ここなら仰角から考えて敵は道中からこちらを狙うのは厳しい。

つまり擬似的な稜線射撃を生み出した上で、そこの手前の道で1列になった敵の部隊を倒して数的優位に立つ!特にマチルダやチャーチルを撃破出来れば、クルセイダーはこちらの装甲と大差ない。こっちにも勝ち目がある!」

 

河嶋さんがその右手をボードに叩きつける。

 

「おぉー!」

 

どよめきの中で皆はこの作戦の成功を思い浮かべ、楽観的になっていた。ただ1人を除いて。

私は顎に手をかけ、頭で駒を動かしていた。悪くはない。彼女が今年から始めたばかりなのを考慮すれば、戦術の基本は抑えている。敵戦力が縦に細長くなる場所で、その先頭を戦力を集中させて順々に撃破する。各個撃破の典型だ。

イメージ的には陸上の地形を利用した丁字戦法、といったところか。だが典型的過ぎる。この地形を見たら、戦術の基礎に触れたものならばそれを考慮に入れるだろう。みすみすこれに掛かるものが隊長ならば、そのチームが大会で上位に進出することはあるまい。

そしてこの作戦は取り逃がすと両翼包囲を受ける上、後ろの道の形状からして早期脱出が困難になる諸刃の剣である。そして生憎、現状の能力ではその刃はこちらを傷付ける可能性が高い。

要するに相手が如何様に行動するか、そして敵が直線状に並ぶ短時間で実際に撃破可能な能力を我々が持っているのか、それらが十分に計算されていない。少し顔が曇る。それを気付かれたようだ。

 

「どうしたの西住ちゃん。なんかあったら言ってよ」

 

それを見て会長さんが身を乗り出して聞く。

 

「いえ……」

 

「言っちゃって良いんだよ。参謀として来てもらってんだから」

 

にやけた顔で会長がさらに顔を近づけてくるる。確かにこのことを言わなくて利点はない。皆も真面目にやっているのだから私もちゃんと言うべきことは言わねば。河嶋さんの方に顔を向ける。

 

「あの、確かに待ち伏せ作戦は良いかと思います。しかし相手の装甲と今の我々の砲撃の腕ではキルゾーン内で全車両仕留められるか微妙です。もし突破されたら、地形的に我々は両翼から挟み撃ちを食らうことになります」

 

なるほど、あぁー、といった声とともに頷く者などが出る。

 

「五月蝿い!黙れ!これ以上の作戦があるというのか!そもそも車輌数が同じといえども、乗員や車輌の質的には大きな差があるんだぞ!地理的優位を優先的に確保するのは当然だろう!なんなら貴様が作戦考えろ!」

 

ただ一人そうではなかった河嶋さんが反論する。いや反論ではない、単に激昂しているだけだ。この人練習でもキレる時あったけど、まさかこれでキレるとは思わなかった。いや、その『地理的優位』が本当の優位とはなり得ないだろうから言っているのだが。

だが強く言われると萎縮して言い返せなくなってしまうのは、私の悪い癖だとつくづく思う。それに私もまだより確実性のある他の策を思い付けていない。

 

「まあまあ。西住ちゃんの言うことも最もじゃないか」

 

会長さんが私の側に着きつつ、河嶋さんをなだめてくれる。

 

「それと、」

 

その中でナカジマさんが手を挙げた。

 

「この待ち伏せの場所の背後に道があるじゃないですか。そこから敵が来た時の対策はどうなっていますか?」

 

「よくぞ聞いてくれた!」

 

間髪入れずに自信ありげに、河嶋さんの右手の指先がナカジマさんの方を向く。

 

「これが今回の待ち伏せ場所での戦車の配置だ」

 

もう一枚の紙がホワイトボードに張り出された。それは待ち伏せ予定地の場所の地図を拡大したものである。崖に挟まれた東西に渡る道の途中に、例の高台がある。その高台のところに、縦に戦車を表すと思われる記号が9つ並ぶ。

 

「北からIII突、3式、B1bis、M3、マークIV38t、ポルシェティーガー、八九式。IV号が囮だ。そして場所はキルゾーンの方を前に弓形の布陣をとる。重要なのはM3とB1bis」

 

「えっ?」

「うちらなの?」

 

澤さんと園さんが前を向く。

 

「その2車輌は砲塔の回転で前後ともに攻撃が出来る。万が一挟み撃ちをされても前後両側を攻撃出来るこの2輌を中央に置くからその2輌は東から来た戦車の撃破もしくは足止めを頼む。こちらの道は2輌も通れない狭い道、1輌封じれば道は塞げる。その時III突は砲塔を向けるのに時間がかかるから下に行ってもう一方の側面を叩く!」

 

またどよめきが起きた。皆を再び楽観的な空気が包む。ここに陣を取るならばこの布陣には同意する。しかしその空気に私の挙げた問題点はかき消されてしまった。しかもB1bisの人員では両方からの攻撃に耐えるには足りないと思われたが……

そのまま作戦会議は終わってしまった。

 

 

 

週末、大洗の港に接近した学園艦から9輌の戦車を載せた輸送艦が出航した。大洗女子学園は今では数少ない学園艦のひとつだ。だが事情により大洗の港には接岸出来ない。向こうもまた学園都市から輸送艦に戦車を載せて大洗港に乗り付けている。

こちらはその後専用車両で試合会場へ向かう。試合会場周辺は封鎖され、近くの広場には久々の地元での試合に合わせ、多くの出店と住民が観戦に来ていた。祭である。この住民たちも試合会場になったため家にいられなくなりこっちに来ている場合あるため、一様に喜ばしい姿だと断言することは出来ない。

 

試合開始場所には大洗の戦車9輌、聖グロリアーナの戦車はチャーチル歩兵戦車1輌、マチルダII歩兵戦車4輌、クルセイダー巡航戦車4輌、そして華美な服装をした者たちがその背後で一列に並んで曲を演奏している。

 

 

平和日本の始め 命を受け

蒼海の中より興る

相模の友ぞグロリアーナ

伝統ぞ証 成長の証ぞ

我らの先人は 歌い合えり

統べよグロリアーナを 海原を鎮めよ

グロリアーナは崇高であれ

 

 

それが彼女らの所属する学院の歌であることは、聞けばすぐにわかる。

私は隣にいた会長さんを肘で突いた。

 

「ちょっとちょっと、会長さん?」

 

小声で耳元に口を寄せる。

 

「どったの?西住ちゃん?」

 

「いやいやいや、何でです?彼女ら、グロリアーナの学院長親衛隊の軍楽隊ですよ?何でこんな練習試合の応援に呼んできてんですか?」

 

「私が呼んだんじゃないよ?向こうが勝手に連れてきた。まぁ私も試合の盛り上げ役として丁度いいからOK出したんだけどね」

 

「いやしかしですね、私は外交は門外漢ですけど……」

 

「門外漢なら、専門に任せてくれないか?」

 

一枚干し芋を齧りながら、会長さんはこちらに視線を向けた。じっと、私の動きを封じる風を呼び寄せる。なるほど、彼女は分かっていてやっているのだろう。それがどういう道かは知らないが。

 

 

チャーチル歩兵戦車のキューポラから紅い服に身を包んだ少女が現れた。身軽に戦車から降りると一歩前に進み出る。こちらは河嶋さんがこれを迎える。

 

「この度は急な申し出に関わらず受け入れてくださったこと、誠に感謝する。ダージリン殿」

 

河嶋さんが頭を下げる。

 

「構いませんことよ。我々は黒森峰やプラウダなどの行う野蛮な戦いには身を染めませんの。それに出場しないならば、互いに騎士道精神に則り正々堂々と試合を行いましょう」

 

ダージリンさんは少々微笑み、身をあげて河嶋さんと握手を交わす。両校の生徒は一列に整列する。

 

「只今より聖グロリアーナ女学院対大洗女子学園の試合を始める。一同、礼!」

 

「よろしくお願いします」

 

審判の透き通る声と皆の挨拶がよく広がる。

 

「それでは20分後に開始となります。各校、準備を!」

両校の生徒は各車輌に去った。向こうから聞こえる校歌の続きを口ずさんでいたら、沙織さんから不思議がられた。

 

 

 

審判の笛の合図とともに両校の戦車が発進する。

「今回の作戦を確認する。今回はあんこうチームが囮となり、我々が待機する523地点まで誘き寄せる。それ以外は移動後北から予定通り並んで待機。車長は場所を操縦手と連絡しながら移動するように!

確かに相手は強豪、我々なぞ取るに足らぬ相手かもしれん。だが我々だって練習して自分たちの技を磨き上げてきた。それを今こそ示す時だ!絶対勝つぞ、いいか!」

 

「はい!」

 

河嶋さんから作戦の確認と檄が飛ぶ。車輌はIV号を除いて途中で右折し、待ち伏せの場所に向かう。私はキューポラから身を出した。正直気分は乗り切れない。斜め上に長く息を吐き出す。

IV号は直進し、平原を見下ろす場所に陣取った。

 

「私が偵察に向かいます。皆さんはそこで待機してください」

 

「西住殿、私も行きます」

 

優花里とともに車外に出て、平原が隅まで見える場所で身を伏せた。

視界の右側から砂埃とともに陣形を組んだイギリス戦車の群れが現れたのは、それから間も無くであった。

 

「敵5輌前進中。チャーチルとマチルダII」

 

双眼鏡で確認した。色も皆違うから分かりやすい。

 

「距離1040メートル」

 

「へっ?」

 

いきなり距離を算出した私に優花里さんは驚くいたようだ。なぜなら私の持っていた双眼鏡は優花里さんが持っているようなメモリ付きのものではない、ただの曇りのないレンズだったらだ。優花里さんは自分のもので測ったようだが、すぐに1040メートルだと算出した。

私は嫌いだが流石は軍事オタクという人種に区分けされるだけはある。戦車の大きさは頭の中に書き込まれているようだ。言っておくが彼女自身を嫌うわけではない。その一面以外が素晴らしいことは私自身よく知っている。

 

「すごい!どうして分かったんですか?」

 

「この双眼鏡使い慣れてるし見た目の大きさと実際の大きさを比べたらわかります」

 

あっさり言ってしまったが、これは当然なものではないのだ。彼女の唖然とした口と憧れが込められた目が組み合わさった表情がそれの証明だ。

 

「それにしてもすごい行軍ですね」

 

「はい。あれだけスピードを合わせて走れるなんて素晴らしいです」

 

「我々の戦力だとポルシェティーガーしか正面装甲は抜けませんが」

 

「それは戦術と腕かな?」

 

微笑んだ顔を優花里さんに向け、沙織さんに合図した。あ、カッコつけすぎた……

 

「こちらあんこう。敵発見、これから引きつけます」

 

河嶋さんが答えたことを沙織さんがハンドサインで示す。私は一つ咳払いをしてから、キューポラの中に身を投じた。

 

「麻子さん、敵に気付かれないようにゆっくりエンジンかけて。優花里さん。AP(徹甲弾)装填」

 

「はい!」

 

短いリズムで低音を刻むエンジン音が響き、IV号が少し前進する。

 

「華さん、狙ってください。距離は980です」

 

砲塔が少し回り、砲声とその後に砲弾がマチルダIIから1メートルほど離れた所に着弾した音が、視覚より少し遅れて流れてきた。上がった土煙を眺め華さんが振り返る。

 

「すみません、みほさん。外してしまいました」

 

「いえ、いいんです。撃破が目的ではありませんから」

 

あの練度で最初からあの近距離に寄せるとは、やはり華さんには静止射撃の才能がある。黒森峰のあの人よりは上かもしれないな。

ふとあの顔をが頭をよぎる。生きる為に能力的に排除しようとした彼女の顔が。やめろ、この試合くらいはやめてくれ。

 

「西住殿、大丈夫ですか?」

 

優花里さんの声で幻影はとりあえず消えた。気を取り直して深呼吸。敵は5車輌陣形を歪ませることなく旋回し、こちらに向かって来ていた。

 

「では敵をポイントまで引き寄せます。麻子さん、できるだけジグザグに走って敵を撹乱してください」

 

「分かった」

 

敵の第一射が近くの岩に命中する時、撤退命令を下す。

 

 

ダージリンは着弾後、装填手オレンジペコの淹れた紅茶を飲み切った。

 

「あそこからですか。アッサムさん、あなたの言っていた羊達は少しは走り回るようですわよ」

 

砲手アッサムが照準を冷静に合わせながら答える。

 

「それでも羊には変わりありません」

 

「全車追撃」

 

指示を下すと、それに対する返事かのごとく通信手が他の車輌との無線を繋いだ。

 

「こちらローズヒップ。敵8輌を523地点で発見しましたわ。どうなさいます?ダージリン様のおっ紅茶の冷める前に勝負を決めてしまってもいいのでは?その為の準備は整っておりますの」

 

ダージリンは不敵な笑いを浮かべる。

 

「紅茶はポットに蓋をして蒸らしてから楽しむものよ、ローズヒップ。そちら4輌は待機。次の指示を待ちなさい」

 

5輌はIV号への追撃を開始した。

 

「やはり凡庸なる羊のようですね」

 

「全く」

 

 

5対1の競争は熾烈になっていた。次々火を噴く砲塔。それらを私の指示のもと麻子さんは見事に車輌を左右に揺らし、回避していた。この技術は黒森峰の親衛隊に居ても遜色ないレベルだ。おまけに操縦方法をマニュアル読んだら覚えていた、と聞いた時は私でも唖然とした。そんな人間がゴロゴロいたら世の中楽だろうに。いや逆にその中で凄い奴が出てくるんだろうな。

 

「みぽりん、中に入って」

 

沙織さんが頭の上の蓋を僅かに開けて呼びかけてくる。

 

「こちらの方が敵の様子が見やすいので。軟式だから当たってどうこうなるものでもないですし」

 

「そうじゃなくて、万が一みぽりんに何かあったら……」

 

ほおを緩めた。自分より友である私を心配してくれる人がいることが嬉しかった。まぁこれを全く無視するのは後味悪そうだ。

 

「ならばお言葉に甘えて。あ、麻子さんすぐ左に!」

 

10センチほど身を屈めた。そしてすぐ右にマチルダIIの砲弾が着弾した。

 

「こちらあんこう、あと4分でそちらに到着します」

 

「了解。こちら異常なし」

 

「クルセイダーが見当たりません。気をつけてください」

 

「分かった」

 

「……下手を承知で申し上げますが、もう1輌、例えば89式とか偵察出しませんか?クルセイダーの動向が一向に分からないのは厳しいものがあるかと」

 

「いや、下手な分散は各個撃破の的になる。ここで火力を集中せねば、撃破出来るものも出来なくなる。そちらの5輌が集団で行動しているところを見ると、クルセイダー4輌も集中運用している可能性が高い。1輌だけ繰り出しても見つかったら終いだ。特に八九式ではな。

今回IV号を偵察に出したのも、一定の機動力といざという時にはそれらを相打ち出来るだけの火力を見込んだからだ。それに匹敵する車輌はここにはない。それに最も近い三式では相打ちまで持ち込める練度はない。これから離脱させる時間もない。よって却下だ」

 

「……はい。準備を宜しくお願いします」

 

 

一方ダージリンも同時に無線を使った。

 

「あと4分でそちらに到着しますわ。用意しておいてくださいね」

 

「おっまかせですわ。葉っぱのダンスは終わってしまいましたし、蒸らしすぎてミルクティーにぴったりになっておりますの。底までしっかりかき混ぜて差し上げますわ」

 

「素晴らしいわね。さあ、羊は足の速い牧羊犬を使ってまとめますわ。ペコ」

 

「了解です。AP装填完了」

 

「It's game time.」

 

ダージリンは右手を前に差し出した。

 

「さぁ、戦車道を楽しみましょう」

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