不死の感情・改   作:いのかしら

8 / 51
You shouldn’t abandon your will by which we assumed that it wasn’t accomplished by once of defeat freely.
(成し遂げんとした志をただ一回の敗北によって捨ててはいけない。)

ウィリアム=シェイクスピア


第2章 ② 我が意志よ

あと3分でポイントに着こうとするときに入った無線に驚愕した。

 

「クルセイダー4輌が背後から急襲。キルゾーンを突破された」

 

こちらはもうポイントまでの一本道に入った所。背後から敵が追ってくる中引き返すのは不可能。つまりクルセイダー急襲で混乱しているまさにそこに、チャーチルとマチルダIIが乗りこんで来るのである。しかも挟み撃ち。

 

「取り敢えず私達が撃破されないように後退!」

 

最早絶対絶命、私の考えた最悪のシナリオが実行されていた。

 

 

こちらは523地点。敵が来た時にウサギさんチームのM3とカモさんチームのB1bisの放った砲弾は、全速力で突っ込んでくるクルセイダーに華麗に避けられ、カモさんチームとウサギさんチームはすぐにクルセイダーの砲弾の餌食になった。

 

「IV号が来る前に潰せ!撃てっ!撃てっ!撃ちまくれぃ!クルセイダーの装甲でこの近距離なら、当たれば撃破出来るぞ!」

 

河嶋はそれしか命令しない。まさにトリガーハッピーの状態だ。しかも自分の撃った弾は一発も当たらない。そんな感じのカメさんチームの38tもすぐに側面に砲弾を食らいお陀仏になる。III突はなんとか下に回避して、IV号と合流するときに備えていた。

高台では砲撃戦が繰り広げられる。レオポンチーム、アリクイさんチームが1輌ずつ撃破したが、こちらは撃った直後のアリクイさんチームの3式とサメさんチームのマークIVが撃破され、レオポンチームもエンジン近くに被弾している。

酒場での乱闘が繰り広げられていた。

 

「カモさん、ウサギさん、カメさん、アリクイさん、サメさんが撃破されちゃって、レオポンさんも危ないって。乗員はみんなは無事だよ」

 

沙織さんからの報告に流石の私も耳を疑う。たった1分で5輌撃破、しかも最主力のポルシェティーガーが撃破寸前である。おまけに隊長車が撃破されている。この相手がクルセイダー4輌だと言うのだから驚きだ。仮に4輌全て犠牲にする気でも、こっちにこれだけの損害を与えられた上、先頭から砲撃というこっちの作戦を封殺出来るなら大いに価値がある。

こちらの策に対する対応としては最善ではないが十分過ぎる。私なら後ろの道を作る崖の上に待機させ、合流直前に稜線射撃させて上からボッコボコにしてやるところだが。そしたら最後にノコノコやってきた私たちを撃ち抜いておしまいだ。

ま、そこは彼女らの言う騎士道とやらの成した道なのだろう。あるいは時間の関係か。こちらに救いがあるなら、彼女らがとった策が最善ではないことと、負傷者が確認されていないことだろう。

 

「急ぎましょう」

 

焦りを隠しながら淡々というしかなかった。

 

 

ダージリンは戦況報告を聞きほくそ笑んでいた。

 

「そして最後に羊を頂くのは1番強いブルドッグ」

 

新たに淹れられていたカップの紅茶を全て飲み干した。

 

「ブルドッグですか?」

 

オレンジペコが装填しながらダージリンを見上げる。

 

「そいつは牧羊犬ではないわ。番犬よ」

 

一発撃ったアッサムが言う。ペコは首を傾げる。どうやら意味が分かっていないようだ。

 

 

大洗側は大きく混乱していた。隊長車が撃破されたため命令が途絶え、なんとか個々が戦っている状態だ。私から話しかけても返事がくる車輌はない。

 

「西住ちゃん!」

 

急に会長さんから無線が入る。

 

「会長さん、大丈夫ですか!お怪我は!」

 

「それはいいんだ。全員問題ない。それよりこっからの指揮は西住ちゃんが採ってくれ」

 

「えっ?ちょっ……」

 

「頼んだよ。負けたら祭りでチームごとあんこう踊りやってもらうから!」

 

急ぎ目に、しかし耳に残る声が駆け抜けた。

 

「えっ?あんこう踊り……切れちゃった」

 

沙織さんが声を震わせて振り向く。

 

「み、みぽりん?い、今何て言った?」

 

「会長さんが指揮は私に任せることにして、負けたらうちのチームごとあんこう踊り?というのをやれって」

 

「あんこう踊り!あれ踊ったらお嫁に行けない!」

 

沙織さんが頭を抱える。何なのだそれは?

 

「絶対ネットで晒し者にされます」

 

優花里さんも同調する。

 

「よくわからないですけど……そんな酷い踊りなのでしょうか?」

「勝とうよ!勝てばいいんでしょ!」

 

「そうですね。試合ですから負けるわけにはいきません」

 

「そうですね、やりましょう。西住殿!」

 

「やるしか無いぞ、西住さん」

 

皆がこちらに勝利を求め呼び掛けてくる。本当にあんこう踊りとは何ものか。少なくともこうやって絶望の淵から戦意高揚に繋げられるだけの力は持つようだが。

いや、そんなこと考える場合ではないな。隊長、副隊長両名が失われた今、やる他ない。皆で勝ちを掴みに行こうか。

 

「……分かりました。どこまで戦えるか分かりませんが、できる限りのことはやりましょう」

 

力強く息を吸い込み、私のかつての心を呼び起そうとする。勝ちへの絶対的な希求を。

 

「沙織さん、他の車輌の現状を!」

 

「分かった。アヒルさん!」

 

「こちらアヒル!一応無事です!車長に繋ぎます!」

 

近藤さんの声が返ってくる。

 

「うちの車長が臨時の隊長になります。よろしくお願いします」

「了解した!指示を頼む!」

 

無線を繋がれた磯辺からの返事が返る。その後もカバさん、レオポンさんも私の隊長案に賛成した。まぁこれは隊長の責任回避もあるんじゃなかろうか。

 

「まずクルセイダーの撃破を優先してください。III突も上に上がって」

 

「OK」

レオポンチームの中島さん

 

「心得た!」

カバさんチームのエルヴィンさん

 

「了解しました!」

アヒルさんチームの近藤さんが答える。

坂を登り左側面に退避していたIII突がすぐにクルセイダー1輌を仕留める。

 

「こちらカバ、1輌やったぞ」

 

「分かりました。我々の到着と共に市街地へ後退します。レオポンさん、しんがりを頼みます」

 

「了解したよー」

 

「why not!」

 

「大洗は庭です。任せてください」

 

皆の陽気な返事が帰ってくる。期待がこの一身に集められるのを感じた。IV号が斜面の右から登るなかで、3輌に囲まれつつあった最後のクルセイダーを近距離で撃破した。これにより、大洗は背後への退路の確保に成功した。

 

「全車後退!あんこうを先頭に進んでください!」

 

 

 

裏の道に入り、他の車輌の速度を見つつ砲弾を躱しつつ移動する方向を麻子さんに指示する。これは容易いことでは無いが、私からしたら難なくこなせることであり、むしろそれを聞いて素早く速度と向きを変える麻子さんの方が素晴らしい。

するとしんがりのポルシェティーガーのエンジンから煙が登る。それと共にポルシェティーガーはとまり、自動判定装置の旗が上がる。

まぁもともとぶっ壊れやすいエンジンに砲弾を打ち込まれていたんだ。ここまで動いたことを奇跡と思おう。

 

「こちらレオポン、やっちゃった」

 

「いえ、ありがとうございます」

 

「西住さん、宜しく頼むよ」

 

ポルシェティーガーが道の半分を塞ぐ形になった。そのおかげで敵の行動を遅らせ、私達はなんとか敵を振り切り市街地に入った。アハトアハトの喪失は痛いが、寧ろこれからの戦いでその巨躯は障害になり得る。そう思おう。

 

「こちらは3輌、敵は5輌。戦力、防御力は相手が上ですが、こちらは地の利を活かしましょう」

 

さぁこい田尻凛。これが私の、負けが許されるがそうしたくない意志が見せる戦いだ。

 

 

 

道中を警戒しながら進んでいたマチルダIIに対し、路肩の狭いところに入ったIII突が側面から奇襲を仕掛け、白いフラッグをはためかさせた。

 

「やったぞ!マチルダII一輌撃破!」

 

沙織さんの無線に状況を伝えるエルヴィンさんの嬉々とした声が舞い込む。彼女らから提案された作戦だったがこんな上手くいくとは。

私はすぐにその場を離れるよう指示し、彼らの土地勘に委ねた。

 

その頃もう1輌のマチルダIIが罠の中に入ろうとしていると報告が入った。屋内駐車場と二段式パーキングが向かい合わせになっている場所にアヒルさんチームが待機し、わざわざブザーを鳴らしてまで迎え入れたそうだ。

 

「こちらアヒル!マチルダII撃破!」

 

続いてアヒルさんチームはそう一報を送ってきたが、一応麻子さんに場所を確認させてから、いや確認するまでもなく煙の立ち上り始めた場所へ向かってもらった。

アヒルさんチームは驚いただろうな。駆けつけたあんこうチームのIV号が砲身から煙を登らせながら走り去ったのだから。

やっぱり八九式じゃ無理だったか。保険かけといて良かった。煙が出てたから燃料タンクは壊せたみたいだけど。さてこれで2輌撃破。数ではトントンになった。だが向こうもこちらの遊撃戦を許してはくれないだろう。ここからが勝負よ。

 

 

「マチルダII2輌撃破されました!」

 

ダージリンの乗るチャーチルにこの報告が飛び込むと、彼女は驚きで右手を滑らせた。反時計回りに回りつつ地に落ちたティーカップが割れて四散する。これで3輌対3輌。数的優位は失われた。思わず顔をしかめる。

 

「おやりになるわね……」

 

おそらくこの変化はIV号のあの少女、西住みほによるものだろう。面白くなって来た。カップを失った分以上に楽しませてもらおう。

 

「全車作戦変更」

 

 

あんこうがマチルダIIを撃破してからしばらく、エルヴィンから報告が入った。

 

「待ち伏せ場所の近くに敵がいる。こちらには気づいていない。狙うなら今だ」

 

さてここでyesと下せるか、それが重要だ。聖グロリアーナほどの敵が何度も待ち伏せに乗るのか、と。おまけに先ほどの場所に近い、ということが私を惑わせる。

 

「隊長、攻撃命令を!」

 

エルヴィンさんが急かしてくる。確かにここで機会を逃す方が後々響くかもしれない。

 

「……わかりました。くれぐれも慎重にお願いします」

 

それから30秒後、

「こちらカバさんチーム。すまない、撃破された。囮作戦を使ってきた」

 

敵が油断を無くした。明らかに私のミス。撃破の為の火力は完全にIV号に託された。そう考えていた時側面から履帯の音がする。チャーチルだ。

 

「側面にチャーチル!全速前進!」

 

麻子さんにアクセルを踏み込ませる。また壮大な追いかけっこが始まった。合流した残りのマチルダIIと共にチャーチルが全速で逃げるIV号を追う。麻子さんの土地勘に頼りつつこちらは敵の攻撃を避けさせ、周囲の道路や建物が砲弾の餌食となって崩れ落ちる。

ただひたすら逃げるしかないIV号は当たらずに済んでいたが、いきなり道の真ん中に看板が見えた。工事中による封鎖だ。考えてみれば船の上にいた彼女らに最近の工事の概要など知りようもない。誰も責められない。

引き返そうとするが、背後にはすでにチャーチルとマチルダII2輌が来ている。砲塔を回転させて対応しようとするが、まもなく雁首そろえてIV号にその砲塔群を向けた。

 

「こんな諺を知ってる?イギリス人は恋愛と戦争では、手段を選ばない」

チャーチルの上でダージリンが何かほざいているが、知るかアホ。そんなことはどうでもいい。重要なことじゃない。今ここをどうやって切り抜けるか、いま考えるべき問題はそれだ。ダージリンの挙がった手が振り下ろされようとしたその時、

「ゆくぞー!」

 

左脇の道からサッと八九式が入ってきて、急ブレーキをかけた。

 

「アヒルさんチーム!」

 

「来てくれたんですね!」

 

優花里さんの喜びの声を聞いた。

可能性が姿を露わにした。プランが早急に固まる。

軽い金属音がその後にこだました。チャーチルの装甲が厚すぎて撃ちぬけなかったのだ。マチルダIIも撃ち抜けないからしょうがないね。

次の瞬間には3つの砲身が火を吹いた。その3発は全て89式を撃ち抜き、煙と共に旗が上る。

 

「1秒停止!マチルダIIに1発撃って!そしたら脇に!」

 

3輌が一斉に撃った後の絶対的なタイムラグ。

4秒あれば十分だ。

砲塔と車体の間を狙った1発は見事にマチルダIIを撃破へ導く。

敵の弾を捨てさせたことへの感謝は後で伝えねばな。

脇に入ったら次の角で右に、全速力で突っ走らせる。

途中の道で敵視認。

やはり歩兵戦車は歩兵戦車だった。

 

「麻子さん!次の角右に曲がったら壁に沿って走ってください!」

 

素早く車体をカーブさせ、角へ急ぐ。

道から最後のマチルダIIが砲身を覗かせる。

直ぐに停車させ、素早く撃たせる。

その弾は側面に見事に命中した。

白い旗が登る。

あとはチャーチルとの一騎打ちのみ。

 

「後退!」

 

素早く車体を後退させる。チャーチルが発砲するも蛇行した車輌には当たらない。

IV号も素早く発砲するもチャーチルの厚い正面の装甲に弾かれる。

デカブツだけに大層な装甲を持ちやがって。

IV号は数少ない可能性のある側面を狙いたい。

しかしそれを察しているチャーチルは側面を見せないように移動する。

その機動、まさに見事。

このままでは防御の薄いIV号の方が不利だ。

 

「短期決戦で行くしかない」

 

次のチャーチルの弾丸が右側に着弾する時に指示を出した。

 

「敵に突撃するふりをして素早く敵側面に回り込んでください。旋回は出来るだけすぐに終わるように。かなり難しいと思いますが麻子さん、出来ますか?」

 

「やってやろう。そうすれば勝てるんだろう?」

 

どう考えても戦車道を始めてから半年の人間に頼むことではないが、この際気にしていてはいられない。

彼女の技量なら可能だ。

優花里さんが装填を急ぐ。

麻子さんが撃ったあとの煙の残るチャーチルの正面へ進める。

チャーチルがすらりと長い砲身をこちらに向ける。

 

「今っ!」

 

その声と共にIV号は左、そしてすぐ大きく右に曲がる。それに合わせチャーチルの砲身もぐるりと回る。

甲高くコンクリートの地面を削る履帯。

そして互いに静止する。

双方の砲が火を吹いたのはその直後だった。

煙が周囲を覆う。

無言の煙が晴れた時、純白の旗は1本のみ挙がっていた。

その旗の側にはあんこうのマーク。

 

「大洗女子学園、全車輌撃破!よって聖グロリアーナ女学院の勝利!」

 

審判は笛の音に続き宣言した。

大洗は、負けた。

 

 

キューポラの縁に寄りかかった。顔には少し笑みが現れているだろう。

満足だ、ただそう思った。自分の出来ることはやった。敵が手強いことが非常に面白かった。この負けも生きて味わうことが出来る。

これまでこの気持ちを味わえる戦いはいつぶりだろうか。

口から微かに声が漏れる。

 

「待って!」

 

沙織さんの一言で現実に引き戻される。

思わず斜め下の車内を覗き込む。

 

「負けたらうちのチーム全員であんこう踊りじゃ……」

 

「あっ……」

 

だから本当に何なのだそれは。

 

「取り敢えずやれることはやったんだ。戻るぞ」

 

麻子さんがなんとかその場をまとめ、私も力の抜けた体をキューポラから引き抜き、全員車輌から出て移動する。

 

 

「全員、礼!」

 

最初の場所に集まった両チームの選手再び互いに一列に並んで頭を下げた。まずは破損した車輌の輸送準備だろうか、と背筋をぐいと伸ばしていた。するとダージリンが部下らしき女を2人連れてこちらに歩み寄ってきた。

 

「貴女が西住さんでしょうか?初めまして、聖グロリアーナ女学院戦車道部隊隊長、ダージリンですわ」

 

おまけにこちらに向けて話しかけてきたのだから、私は身体が急にロボットになった気がした。

 

「は、はい。私が……西住みほ、です。隊長でもない私のことを覚えて貰っているとは、えっと……本当に光栄です」

 

正面に向き直り深めに礼をする。

 

「貴女を知らない戦車道関係者の方が珍しいと思いますわよ。それよりも貴女がかの学園を離れた後も戦車道をなさっているとは、少し驚きましたわ。あれだけのことがあった後ですもの」

 

「……えーと、これにはなにぶん理由がありまして……」

 

来たばっかりとはいえウチの学校の評価は落としたくないから、なんと言えば良いか。

 

「えっと……みぽりん、相手の隊長さんと知り合いなの?」

 

傍から沙織さんが顔を覗かせた。この話を切ってくれたのはありがたい。話しづらいったらありゃしなかったからな。

 

「まぁ……知り合いといいますか……」

 

「話したことはないけど、互いの顔は知っていることを共に認識している関係、といったところでしょうか」

 

詰まっているところに最適な助け舟が流されてきた。

 

「そんなところ……なんでしょうかね?」

 

「分かりにくいよー、もー」

 

「彼女は?」

 

「私の車輌の通信手にして、友人である武部さんです」

 

「初めまして。武部沙織です!モテモテになる為に戦車道やってまーす!だけど最近は戦車道やることそのものが楽しくなってきました!」

 

阿呆。少し舌を出して顔の横でピースサインしながらいきなり言うことがそれかい。キラッとか擬音が付いてそうだぞ。ダージリンさん思いっきり面食らってるじゃないか。まぁ戦車道を楽しそうにやる友人の姿を見せられたのはプラスかな。

 

「な、中々個性的なご友人をお持ちですね」

 

「お恥ずかしい限りで」

 

「恥ずかしいって何よ!」

 

見たまんまだわ。恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。こっちが頭下げなきゃいけなくなるだろうが。私たちの世代での戦車道の主流を担うであろう方にかける言葉ではない。

 

「ですが貴女の笑顔が見れただけで、こちらとしては十分ですわ」

 

「あ、えっと……一つ疑問があるのですが、宜しいでしょうか?」

 

軽く手を挙げて顔をダージリンさんの方へ戻した。初めて話した人にこちらから声を掛けることが出来たことは、後になってから驚きをもたらした。

 

「ええ、簡単なものなら」

 

「ありがとうございます。本日の試合、あのクルセイダーの投入時間から貴女方は我々をそれ以前に見つけていた、つまりIV号を除く残り8輌があの場所にいたことを知っていたはずです。

なら何故そのまま両端を塞いで叩かなかったのです?クルセイダーを先に投入しなければ我々はまともな手を打てず全滅し、貴女方もこの試合ほどの被害は出なかったでしょう。そしてその程度のことに貴女が気付かなかったとは思えません。

宜しければ何故そうしなかったのか教えて頂けますでしょうか」

 

ダージリンさんは手に持っていたカップを少し傾けてから微笑んだ。

 

「簡単な話ですわ。あの程度の作戦、貴女が立てるとは思えませんもの」

 

「……と仰いますと?」

 

「貴女と正面から戦ってみたかった、というのは理由として不足かしら?」

 

「……率直に申し上げますと、ここの戦車道部隊はそこまで優秀ではありませんし、外部にもそのように認知されているでしょう。そこにグロリアーナが練習試合とはいえ負けた、若しくは戦況が拮抗したとなれば、グロリアーナにおける貴女の立場は悪化するでしょう。

それは貴女が望む所ではない。それでもこの試合で最善の勝ち方を狙わないのですか?」

 

「試合前に申し上げたでしょう?我々は野蛮な戦いには身を染めませんの。軟式戦車道においては勝ちが全てではありませんわ。それくらい学院も学院長殿下も承知済みです。

それに私は仮に一騎打ちになっても負ける気はありませんから」

 

話には幾らか納得出来たが、流石に私に対して油断し過ぎだ。ひとつ釘を刺しといてやろう。

 

「なに、次があるなら私が勝ちます。そういうことなら私も安心して戦えますよ」

 

「あら、それは楽しみにしておりますわ」

 

次、か。私から言っておいてなんだが、そんなことを考えたのも前、いつあっただろうか。勝たねば組織内で足を掬われる。場合によっては死。そんな世界では思いもしなかったことだ。

 

「ダージリン様、そろそろ」

 

背後の部下の1人がダージリンさんに耳打ちする。

 

「ええ、そうしましょう。すみません、西住さん。そろそろ……」

 

「あ、お引き止めして申し訳ありませんでした」

 

ダージリンさんは手を振りながら背を向け仲間と合流していた。戦車の方に見せかけて少し離れた場所へと引き下がっていく。

 

「流石ですよ西住殿!あのダージリン殿に直々にお声を掛けていただけるなんて!」

 

「みほさんをお褒めになっていらっしゃいましたし、私も嬉しいです」

 

「よく分からんがよかったな。勝てなかったけど。あ、戦車は自動車部が仮整備、輸送含めて手配済みだそうだ。学園艦に帰ったら整備も全部するらしい」

 

他の3人も話が終わったタイミングで私たちのいる方へやって来た。

「それはすごいですね。あの量ですよ?」

 

「徹夜でやれば一晩で出来るらしいぞ」

 

ジョークだろう?黒森峰の整備隊でも20輌使った試合の整備なんて、10人使って1日がかりだぞ。たった4人で夜も眠らず、それで車輌のお国もバラバラな9輌を修復するとは。いや、練習の時も次の日には全部修理済みになっているから凄いとは思っていたけど……損傷のレベルが違うぞレベルが。

それの見物はあと回しにするとして、反省会をとっとと開きたいところだが、どうもそうはいかなかいようだ。

 

「いやー、お疲れ。西住ちゃん」

 

背後から会長さんが声をかける。生徒会の2人も一緒だ。

 

「約束通りやってもらうぞ」

 

河嶋さんが5人に視線を向ける。その目に怯える者と悟る者と理解していない者がいた。

 

「はい服」

 

そう言って会長さんが真っピンクな服とこれまたピンクの帽子を取り出した。襟を持ち一枚ずつ数を数える。

 

「うん、8枚あるからよろしく」

 

「えっ?8?」

 

河嶋さんが冷や汗を流す。

 

「うちらもやるよ。頑張った部下にやらせて隊長がやらないってことはないよね?こういうのは連帯責任だし、何より隊長が真っ先に撃破されたのはいかんでしょ」

 

会長さんがサラッと言う。小山さんは微笑みを河嶋さんに向ける。

会長さんはともかく、やっぱり小山さん腹黒いだろ絶対。沙織さんは温厚そうだって紹介してくれたけど。ガチギレしたら全裸で戦車に載せたりしそう。無表情で。私の空想であってほしいけど、もちろん。

 

「うっ……」

 

「ダージリン」

 

少し離れた場所へ会長さんが呼びかける。その声にダージリンさんはどこからか仲間とともにこちらへ向かってきた。ていうか呼び捨て?

 

「如何しましたか、角谷さん?」

 

「私らこれから向こうの広場で歓迎も兼ねて踊るんだ。見に来てよ」

 

「そのピンク色の服でですか?私たちに媚びても上とは繋がりませんわよ?」

 

「なぁに、そんな面倒な裏はないさ。敗者の見世物として見てってくれ〆

 

自分もやるのに会長さんはけらけらと気楽に笑っている。

 

「それならせっかく時間も空いていることですし、歓迎を受けますわ」

 

私は納得した。

 

 

大洗マリンタワー前広場。ここには元から白い舞台が用意されている。行事などにも使われるのだろう。どこからかやってきた司会が話を切り出す。

 

「最後は今日の敗戦への反省をこめて、大洗女子学園の戦車道チームの人があんこう踊りを踊るそうです!」

 

会場がどよめきに包まれる。ケータイやカメラを用意する者がちらほら見受けられる。

 

「やっぱり晒し者にされますよう」

 

優花里さんが内股になって怖気づく。

 

「恥ずかしいよー、もー」

 

沙織さんも自分の格好を手から隅々まで確認してから手で、それも鰭のようなものがくっついたものだが、顔を覆っている。

 

「やるしかありません」

 

華さんは覚悟を決めたようだ。こういう時ほんと強いよなこの人。

麻子さん?変わりない。何も気にせず虚空を見つめている。

 

「出番です」

 

係りの者が裏方の幕をめくる。生徒会の3人から順に舞台と上がる。

もはやこの珍妙極まりない格好で踊ることは規定事項。私の敗北のささやかな責任だ。正面にいた人の群れがどうしてようと、私は甘んじてこの罰を受けるのみ。

 

〜あっああんあん、あっああんあん~

 

何も考えていない。ただ周りに合わせて手足を動かす。しかしよく分からない一体感がその8人を覆っていたのは事実だった。回ったり足を上げたり忙しいったらありゃしない。

 

~あったまのあっかりはあ~いのあかし~

 

隣からは愚痴が聞こえるが、こういうのは連座、連帯責任だ。下手な事を考えたら負け。会長さんだけが楽しそうだったのは、彼女がこの罰ゲームを仕組んだのだから然り、か。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。