ストライクウィッチーズ 鷹の目を持つ少年 作:何処でも行方不明
「今日は編隊訓練を行う!」
坂本の横で俺はその言葉を聞いていた。
俺は教導係でもあるが同時にお目付け役でもある。
暴走……することはないとは思うが、メンタルケアの都合上、見るだけで相手の状態がおおよそわかってしまう俺の目はそんなことにも利用されている。
が、今回は勝手が違うらしく俺はユニットを履いて格納庫で待機してる。
「ディートリヒの二番機はリーネ!」
「はい!」
「ディートリヒわかったな!」
「言われなくても見えてるっての…了解!」
爆弾の類は必要数しか積まずに魔力の具合を確かめるため、ユニットに魔力を流す。
「うん、今日も調子はいい」
さらにDo335V2の積載量は今回は余裕がある。
いつもより速度が出るだろう。
先に外に出ていたトゥルーデと宮藤を相手に今回は模擬戦を行う。
ペイント弾を使い、一定の被弾をした方が負け。
という簡単な模擬戦だ。
……ちなみにシールドの使用は認められていないので明らかに宮藤が不利だったりする。
まあ、俺も俺で一切の固有魔法の使用は認められてない。
その程度で覆るほどの経験差はトゥルーデの方が階級が上とはいえ取られていないはずだ。
「相手に取って不足はない。やるからには勝つぞ」
「はい!」
※※※
「どうだミーナ」
「やっぱり少し変ね。いつもなら僚機を必ず視界に入れてるはずのトゥルーデがまるで勝ちに急いでるみたい……」
元々の目の良さから精密射撃に定評のあるディートリヒと魔法【射撃弾道安定】を持つリーネのコンビは目立った撃ち漏らしもなくバルクホルンと宮藤を追い詰め、撃墜する。
策というものを一応は使っているもののディートリヒ曰く「いつものトゥルーデならまず引っかっかることはない」ものだとか。
「僚機を引き離し、リーネが狙撃。バルクホルンの軌道を予測しディートリヒが足止め。全く、こんな安直な手に乗るなど……」
「評価は総じて周りが見えていない……ってところかしら?」
「だろうな。魔法を封印しているディートリヒにあの有様では今後の戦闘は期待できそうにない」
「そうねぇ……次の出撃はお留守番かしら」
エースが欠けるということは最前線で命を懸けた戦いに身を投じる軍人として不安材料でしかない。
バルクホルンの火力はディートリヒの爆撃に迫るモノもあり、なおかつ積載量ギリギリまで積んでいるディートリヒに比べ、軽快に動き回る技術も差もある。
敏捷性は的が小さいこちらがネウロイに太刀打ちできる要素でもある。
それに宮藤に上を体験させることで、シールドに頼る戦いを脱却させる狙いもあった。
「ディートリヒはシフト入っていたか」
「やる気らしくてね。まだまだいけるそうよ」
「迷いもなく、割り切っているアイツの強さはわかるが……」
視た夢の影響を二人とも受けている。
バルクホルンは後悔。ディートリヒは憤り。
救えなかった命と守れたとはいいがたい命。
後悔がよみがえる出来事に直面した時、二人の差が大きく出てしまっていた。
もっとも、それは坂本やミーナにわかるはずもないが。
そんな折に信号弾が上がる。
上げたのはディートリヒ。
しかもその色は……
「敵襲!?」
『数は1、このまま向かいますか』
「……」
バルクホルンが本調子でないこと、そしておおよその位置はディートリヒにしか理解できていない。
ちかちかと塔の方にモールス信号で伝え共有化を測ってはいるがそれもすぐにはいかないだろう。
「実銃はお前しか今積んでないだろう。単独で活かせるほど、血も涙もないわけじゃない」
※※※
青空でトゥルーデにサインを送る。
が、反応がない。
いつもの冷静な彼女にしてはおかしいサインは多々ある。
宮藤と妹を重ね、息巻いている。
しかし、それは空回りでしかない。
「……おい、トゥルーデ!」
肩を掴み呼びかける。
ようやく反応を返す、それでも薄いというしかない。
彼女らしくないと一蹴するのは簡単だ。
だが、それでは……仲間に家族にあまりにも不義理だ。
だからこそ手が出てしまった。
ぱしん!と乾いた音がトゥルーデの頬から響く。
「いい加減にしろ!何を考えているかわからないとでも思うか?それほどまで浅い仲だと俺は思ってないぞ!」
「ディー……」
「痛い目を見ないとわからないか!妹すら守れないと自分を責めるか!?」
我慢をしていた。だが、ここ最近のトゥルーデは揺れすぎている。
あまりにも見てられないほどに、同じ祖国で育ち祖国を失った軍人として恥ずべきだと思うほどに。
それは空を優雅に舞うエースである彼女を知っているから。
責任感が強く、気丈に振る舞うトゥルーデを知っているからこそだ。
「悪いが今のお前に背中は預けれない」
そしてこの一言がどれだけ効くかも知っている。
軍人としての責務、誇りそして訓練の日々を否定する言葉。
憤りも覚えるだろう。だが、俺もそれ並みに怒っている。
一度決めたことに悩むのも、切り捨てた気になるのも、らしくない。
「祖国も親友も失った、だからもう……俺からなにかを失わせないでくれ、頼む」
迷いが言葉だけで消えるはずもない。
だが、言葉だけで語るなんて器用な真似はできない。
後悔も憤りも全部ぶつける。心を読めてしまう、見えすぎる瞳を持った俺にはこれしか想いをぶつけることができない。
感情を載せる、簡単なようで難しいこと。
結局綯い交ぜになったよくわからない想いがまとまらず……口からあふれ出す。
「涙……」
トゥルーデのつぶやきで俺が涙を流していることを思い知る。
カールスラントが落ちた日。焼け野原になる祖国がアイツを残して火に呑まれる基地が。
俺にだけ伝わるように言葉を残したクルトの顔が蘇る。
プロパガンダでもない、ただミーナが何にも縛られず歌える世界を取り戻す。
そのために俺は……捨てるのではなく背負いこむことにした。
自分のしたいこと、親友の遺言、祖国奪還の願い。
その全てを翼にこめ……と表現するのは詩的過ぎるだろう。
「そう……だった。家族か……」
ようやくマシな顔になる。みっともなく泣いた男と
頬を紅くし伏し目がちな女。
感情も想いもぶつけた……あとはトゥルーデ次第だ。
~後日~
強制的に休暇を取らされた俺は眼鏡をかけさせられ食道にいた。
鳥たちの世話はリーネに任せ、外出することになっているからだ。
用件は墓参りとトゥルーデの付き添い。
休暇をせっかくだからと同じタイミングに取らされる。
そしてミーナに。
『自分の吐いた発言の責任は取りましょうね、女誑し』
とも言われた。いや、そんなつもりはない……ただ、男仲間と同じノリでちょっと語彙が乗ったというか……
言葉が効きすぎたというのはミーナ談だ。
「なあ、トゥルーデ。俺は別についていかなくても……」
「妹に仲間を紹介したいだけだ。別にそれぐらい付き合ってくれてもいいだろう?」
「……あいよ」