マヌスのような異形か、人間性みたいなモヤモヤか。
暗い。
暗い。
上、下、右、左、どこを見渡しても底の見えない闇が広がる。
まるで、水の中のように、身動きが上手くとれない。
怖い。
恐い。
纏わりつく闇が、私を優しく撫でるのが怖い。
纏わりつく闇に、私が手を取り、屈するのではないかと恐ろしい。
火が見えた。
私は必死に火に向かう。
纏わりつく闇を払いたくて、暗い周囲から抜け出したくて。
無様にも、体をジタバタさせながら、少しずつ進む。
火にたどり着いた。
しかし、私がそこにたどり着いた時に気づいた。
それは、ただの火ではなかった。
暗い火、冷たい火。
表現しにくいが、私は、この目の前の火が、周囲の闇よりも恐ろしく感じたのだ。
“近づいてはいけない“
“逃げなければならない“
しかし、それの感情が、実行に移される事はなかった。
体が動かないのだ。
目の前の火を見て、恐ろしさを感じた瞬間から体が言うことをきかない。
火が大きくなった。
大体私の2倍より、少し小さいぐらいだろうか。
この大きさは、火と言うよりは炎だろう。
次に感じたのは視線。
何かに見られている。
それも、とても近くで。
体が動かせない中、周囲を見渡すも見えるのは闇だけ。
だが、それはすぐに見つかった。
それは目だ。
炎の中に一対の目があるのだ。
次第にそこから、人間の特徴のある部位が増えていく。
鼻、耳、口、頭、首、腕、手、体、腰、足。
そのシルエットは人のだが、ただの人の形の炎ではなかった。
その姿は、おそらく”クトア“だ。
まず、大きく違うところがある。
一つは、年齢だ。
目の前の彼女は、私よりも見た目10歳ほど年上だ。
年の離れた姉の方がしっくり来るぐらいだ。
二つは、雰囲気だ。
あの、子供であるクトアは、“少なくとも私の記憶”では、無口で無垢な少女のはずだ。
これだけの相違点がありながらも、彼女が『クトアであろう』と思う点があるのだ。
瞳、つまり目だ。
彼女の”赤い“瞳を見て、私は『彼女は間違いなくクトアだ』と確信しているのだ。
彼女の燃えるような赤い髪には見覚えはない。
彼女の白磁のような白い身体にも覚えはない。
彼女の赤いドレスなど、初めて見た。
だが、その赤い瞳だけは、なぜか知っている
「ようこそ、我の契約者よ。」
「…………?…………!?」
(声が出ない!)
私は、『貴方は何物?え、声が出ない!?』と言った。
それが、発せられる事はなかった。
「言葉に発せずともよい。思考するだけで、我と汝は通じる事ができる。『このようにな。』」
最後の“このようにな“だけ、脳内で響いた。
私も、頭のなかで、目の前の彼女に語りかけるように思考する。
『あなたは、クトアなのですか?』
『如何にも……だが、汝の知っているクトア本人ではない。あえて言うならば、入り込んだ者、早すぎた上位者という所だ。』
入り込んだ者…上位者……なんの事かは分からない。
『さて、次は我の質問だ。汝は、我を受け入れるか?』
『受け入れるというのは?』
『我ソウルを汝の物とするかだ。』
ソウル。それは、この世界において、最も重要なもの。
この世界の光、この世界の生命。
この人物は、それを私に渡そうとしているのだ。
『何故私に?受け入れると何かあるの?』
『理由は今言うべきではない。今は、受け入れるか受け入れないかだ。』
『………。』
正直、怪しいと思う所が多い。
だが、盗人のときに、あるいに愛用していた“直感“では、受け入れるべきと囁いている。
『決めかねているようだな……。我からは何もしないよ。捨てるも、殺すも、生かすも、壊すも、創るも、汝次第だ。自分の心に従うがいい。』
『………じゃあ、私は…………』
大分間隔が空いてしまいました。
ぼちぼち、続けていこうと思っています。