取り敢えず試合の描写少なくしました(逃げ)
□滝野亮
俺はかるた大会に出場するため埼玉に来ていた。
この大会は静岡からは遠いため、富士崎から出場するのは俺だけだ。当然先生もいない。他の部員の練習があるからだ。
以前の俺ならやる気200%減だが、俺は先生に相応しい男になると決めたのだ。一月後には名人位・クイーン位挑戦者決定東日本予選大会がある。この大会はA級しか参加資格がないため、一月後までにA級にならなくてはいけない。
組み合わせを見て番号の席に向かう。一回戦の相手はやたら細くてパッツンヘアーの男だ。
真っ赤なTシャツには大きく北央とプリントしてある。北央学園って確か…
「東京予選で瑞沢に負けたとこ?」
相手の細いやつが反応する。見るからに怒ってるのが分かる。
「初対面で失礼なやつだな!それに北央学園は瑞沢より強い!試合で教えてやるよ!」
怒らせてしまった。まあ良い。新しい技をちゃんとした試合で使うのは初めてだ。どれだけ通用するか確かめさせてもらおう。
◆
「『あ』りまやま」
「ありがとうございました」
「…ありがとうございました」
あっさり勝った。十五枚差もつけて。正直物足りない相手だった。これならC級の理音のほうが歯応えがある。まああいつは読手によって速さが全然違うから一概に強いとは言えないが。とにかく良い滑り出しだ。
落ち込む細いやつを尻目に次の試合に向かう。次の相手は真島太一…瑞沢のイケメンじゃないか。埼玉の大会なだけあって東京の選手が多いな。まあ一度勝った相手と戦えるのは嬉しい。今日はくじ運が良いな。
◆
□真島太一
よし、勝った。名人戦予選は来月。この大会が昇級の最後のチャンスかもしれない。この調子で勝つ。
二回戦の組み合わせが終わったようだ。俺の相手…滝野?もしかして団体戦で戦った富士崎の1年か?まさか埼玉の大会に出てくるとは驚きだ。
夏の大会じゃあいつに負けたが、結果は三枚差だ。あいつは何度もダブしてたし、十分勝機はある。
滝野の戦績を見る。ヒョロ相手に十五枚差!?嘘だろ?ヒョロの実力は俺とそう変わらない。滝野が夏の実力のままならこんなに差がつくことはない筈だ。どうなっている?
俺は不穏に感じながら試合に向かった。
◆
「ちぎり『お』きし」
また渡られた!自陣右下段から自陣左上段にかけて流れるような渡り手。
こんなの団体戦じゃ全く見なかった。この二ヶ月で身に付けたっていうのか?
それだけじゃない。団体戦でも見たこいつの払い手、どっかで見たことがあると思ったら、若宮詩暢に似てるんだ。似てるっていうか若宮詩暢そのものだ。どんな手品を使ってるんだ?
とにかくこのままじゃ不味い。相手は武器が増えてるのに加えて送り札や友札の分け方も地味に上手くなってる。お手つきも夏ほどではなくなっていて付け入る隙がない。どうにかしないと、どうにか…
◆
□滝野亮
この試合も問題なく勝てた。一回戦よりは苦戦したが結果は十二枚差。上出来だ。瑞沢のイケメンが悔しがっている。こいつもこの大会に賭けてたのかもな。
◆
□綾瀬千早
金井さんに一回戦負けした私は、A級からD級までの決勝戦を行う会場の観覧席に来ていた。それにしてもどうしよう?まさかB級の決勝に肉まんくんが、D級の決勝にかなちゃんと机くんが出てるなんて。両方見ようと頑張ったけど無理だ。こんがらがる。どっちをを見ればいいのか分かんないよ。
私が悩んでると太一が横に座った。
「あっ、太一どうしよう!肉まんくんの方もかなちゃんたちの方も見たいんだけ「千早」
「西田の方を見てろ」
太一が即答したことに驚いて、思わず反論する。
「で、でもかなちゃんと机くんの試合も大事でしょ?」
「西田の対戦相手のあいつ。あいつが戦うところを見ておいた方がいい」
「?」
肉まんくんの相手…何でだろ?取り敢えず読手が読み始めるので静かにして、太一の言うとおりにしてみる。
「た『ま』のおよ」
わっすごい!キレイな渡り手。私あんなの絶対できない。
「あれのこと?見た方がいいって」
「違う」
太一の目が対戦相手の人の手元から離れない。すごく真剣な表情だ。
「『す』みのえの」
……えっ!?
「こ『ぬ』ひとを」
何で?何であの人…詩暢ちゃんと同じ払い手ができるの?
◆
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
試合が終わった。肉まんくんが十一枚差で負けたとか、まだかなちゃんと机くんの試合が終わってないからそれを見なきゃとか、色々思い浮かぶけど今はどうでもよくなってしまった。
あの人に聞きたい。あの音のしないかるたの秘密を教えてもらいたい。その一心で会場から出て行った肉まんくんの対戦相手を追いかける。
「あのっ、すみません!」
「はい?」
「えっと、その…」
ど、どうしよう。何て聞けば良い?『その払い方どうやって身に付けたの?』それとも『やり方教えて』かな?どもっていると目の前の人はどんどん怪訝な顔になる。と、突然顔色が変わった。
□滝野亮
「先生!!」
「大きな声を出さない。まだ他の級の人は試合中でしょう?」
「な、何でいるんですか?」
何故か先生が目の前にいる。俺は大会があるから休んだが富士崎は今日も練習の筈だ。
「練習が早く終わったから見に来たのよ」
「…俺のためだけに?」
信じられない。なんでわざわざ…
「A級になるって宣言してたから見ておこうと思って。けど一足遅かったみたいね。念のために聞くけど勝ったの?負けたの?」
試合が早く終わるということは大勝したか大敗したかのどちらかだ。
「勝ちました」
誇らしげに結果を告げた。すると先生がにっこりと微笑んだ。……微笑んだ?
「よくやったわね」
先生が笑った。全国大会で優勝しても笑わなかった先生が。
厳密に言えば一月前にも見たか。けどこんなに優しい笑顔は初めてだ。まるで天使…聖母…ああ召されそう…。
「かるたを初めて半年足らずでA級なんて滅多にないことよ。本当に…亮!?」
おっと愛が吹き出てしまった。というか止まらない。先生が慌てている。なかなかレアな表情だ。しっかりと脳内メモリーに保存せねば。
原作主人公登場です。