□滝野亮
いきなりダブったが問題ない。俺のかるたが模倣した部分以外ヘボなのは重々承知だ。それでも真太先輩と奏太先輩には勝てた。なぜかというと、
「よのなか『は』」
こういう四・五・六字決まりには『囲い手』が生きるからだ。囲い手は身体的な技術。つまり模倣できる。クイーンは囲い手も上手いからな。しかも男の俺のほうが手が大きいから、より鉄壁になっている。
しかもそれだけじゃない。
「きみがため『を』」
大山札(六字決まり)。俺は自陣の「きみがためは」を囲い、相手のイケメンは自陣の「きみがためを」を囲った。そのまま行けばイケメンの取りだけど俺が『囲い手破り』で先に取った。
これもクイーンの技だ。相手の囲い手を掻い潜り先に当たり札を取る。
囲い手も囲い手破りも本来は高度な技だ。本来は俺のようなかるた歴3ヶ月の初心者にできることじゃない。形だけできてもこれほど上手くはとても無理だ。
敵はさっきのダブと今の取りを比べて混乱していることだろう。こいつは上手いのか下手なのか、と。できればそのまま混乱しててくれ。
試合が進めば決まり字は変化し一字・二字決まりが増え、囲い手で取れる札はどんどん少なくなる。できれば序盤に枚数を稼ぎそのまま勝ち逃げしたい。
「なには『が』た」
□真島太一
また囲われた!こいつの囲い手とんでもなく低い。とても抜ける気がしない。
いきなり初心者丸出しのダブをしたと思ったらこの上手い囲い手、さらに囲い手破り。そのくせさっき俺が送った友札は分けてない。こいつの実力が測れない。
そんなことを考えている間にもどんどん枚数差が増える。このままじゃ負ける…?いや、まだまだ。
「あき『か』ぜに」
取った!しかも相手は「あきの」払った!あんなキレイな払い方のくせにまたダブ。暗記が甘いのは間違いない。
「富士崎2勝!!」
(やった!)(エロム先輩!)
駒野が負けた。これでもう1敗もできなくなった。
しかし場の枚数が減ってきて、決まり字はどんどん短くなっている。囲い手はもう怖くない。勝てるかもしれない。いや、勝つ。
□滝野亮
ぬぐぐ、またダブった。先生が呆れてるのが分かる。しかもエロム先輩に先越された。
今は俺が三枚差で勝っている。けどほとんどの札が一字・二字決まりになった。もう囲い手は使えない。
現時点で俺の最大の武器がクイーンの囲い手なのは間違いないがそれだけじゃない。クイーンの払い手がある。あの札際に厳しい取り方は『感じ』が特別優れていなくても、相手よりも札を取り易い。
それに札の枚数が少ない終盤は俺もお手つきをしにくい。ましてや相手は予選も戦ってきていて消耗している。対する俺は今日が初戦だ。
「た『ご』のうらに」
よし、取った。相手が遅い取りをしたところを拾った。一瞬別の場所に反応してたな。前の試合の暗記が残っているんだろう。
自陣は後一枚になった。
(くそ、ミスった。今のが取れてれば)
相手が一生懸命なのが伝わってくる。
(まだ勝ち目はある。ここから連取するんだ)
きっと喜ばせたい人がいるんだろう。
(勝って千早を喜ばしてやる)
もしかしたらそれは好きな人かもしれないな。だとしたら俺と同じだ。
ただ、俺の愛の方がずっと強い。
「『た』きのおとは」
「…ありがとうございました」
「ありがとうございました」
それだけは断言できる。
「富士崎3勝!!」
◆
瑞沢に全勝し二回戦を突破した富士崎は、その後も順調に勝ち進み優勝。5連覇を達成した。
喜びを分かち合う50人の部員たち。俺も他の1年生たちに誉められた。
「すげーよ亮!」「やるな滝野!」「イケメンの無駄づかい!」「ダブ王子!」
いや貶されてた?なんにせよ優勝は嬉しい。ちょいちょい、とつつかれた方を見ると理音がいた。
「やったね、亮」
「おう」
能面みたいな表情で祝福されるのは変な気分だな。なぜか自分から話しかけてくるようになったし。まあコミュニケーションをとるのは良いことだ。
浮かれていた部員たちの視線が一点に集中する。先生が話をするのだ。
「団体戦優勝おめでとう。この結果はあなたたちが厳しい練習を乗り越えたからこそ掴んだ成果よ。誇りなさい」
「けどこれで終わりじゃない。まだ明日の個人戦があるわ。喜ぶのもほどほどにして体を休めなさい」
『はい!!』
「じゃ、ホテルに移動するわよ」
『はい!!』
(流石桜沢先生…優勝してもクール)(いつも通りの表情だったな)(過去の4連覇でも笑わなかったらしいよ)(まじ?)
みんな先生の冷静さに驚いてるな。けど俺には分かる。今の先生はめちゃくちゃ機嫌が良い。ただ表情に出てないだけ。そんなところも愛おしい。
団体戦終了です。
※感想でオリ主のセリフの矛盾点をご指摘を頂きました。直しました。未熟な作者でごめんなさい。これからもそういった間違いを見つけたらどんどん教えて欲しいです。まあ間違えないのが一番良いんですが。