「ん……ふぁぁぁ……あ、司令官さん。おはようございます」
「おはよう電。よく眠れた?」
「はいなのです!」
パジャマ姿で敬礼をビシッと決める電であるが、装備を外した上でこの格好では普通の子供にしか見えない。
「司令官さんはお早いのですね?」
「いや、俺も起きたの二十分ぐらい前だから。さて、身支度がすんだら朝食にしよう」
「了解なのです! あ……」
「どうした?」
「着替え……自分の部屋に置いてきてしまいました」
雄輝の部屋に来た時にはパジャマ姿で着替えの類は持ち合わせていなかった。さびしいという感情が優先されてその後のことまで気が回らなかったのだろう。
電は着替えに戻るために雄輝の部屋を後にしたのだが宿直の職員に見つかり、またも愛でられていたというのはまた別のお話。
『次のニュースです。深海棲艦の大型化に伴い、横須賀海軍工廠では対抗手段として大和型一番艦である大和の建造を始めたと発表しました。完成予定は……』
「司令官さん、大和型戦艦ってそんなにすごいものなのですか?」
「排水量と主砲口径は今でも世界最大の戦艦だからな……今のうちでは出撃どころか演習や訓練すらまともにやらせてやれないぐらいの燃費になるだろう……恐ろしいことだ」
「そ、それは凄そうなのです……」
朝食を食べながら流れてきたニュースの中で気になったことを聞き、まだ見ぬ戦艦を想像する。きっと大人の女性なのだろうと考えた電は牛乳を飲む量を増やそうとひそかに決意した。
○
会議は踊る、されど進まず。
リーニュ侯爵であったシャルル・ジョゼフが1814年から15年にかけて行われたウィーン会議を評した言葉として知られているが、艦娘の建造に関することはまさにこんな言葉が当てはまるぐらい迷走していた。
登場当初、艦娘は確かに受け入れられてはいたものの、建造についての問題になると各国の意見が割れなかなかまとまることを見せず、会議は半年近くにわたり行われていた。
即決できなかったことはさらに決めることが難しくなる原因にもなった。人造人間に反対するとある組織が世界大会を開いたりと世界的な世論にも揺さぶりをかけてきていたりと少々まずい状況になった。
少し話を戻すが、ウィーン会議が終結する要因になったのはナポレオンがエルバ島を脱出したことで危機感を抱いた各国が妥協し、ウィーン議定書が制定されたのだが、皮肉なことにこの会議もとある危機がきっかけで終息を見ることになった。
マーシャル諸島共和国、ビキニ環礁。この場所で深海棲艦の出現が報告された。出現数は一体のみであったが……出現したのは全長200メートルを超える戦艦クラスの深海棲艦。重巡洋艦クラスまでは報告されていた深海棲艦であったが戦艦クラスが出現したのは初のことだった。
さて、この出現に対して各国メディアはどう報じたか。ビキニ環礁という場所、その大きさ、そして過去の出来事。それらから彼らはこう報じた。
『長門の怨念』と。
これが世界に深海棲艦の由来説の一つである怨念説が広まる一端にもなったりするのだが別の話。
当然だがこれをそのまま放っておくわけにはいかない。メディアの報道もあったためかこれの討伐に熱心だったのがどこの国かなんてことはもはや語るまでもないが、結論からいえばその国の攻撃ではその戦艦を倒すことはできなかった。
ではいったいこれをどうするのかということになるが……会議が長引いていたことがここではじめて役に立つことなる。
会議が長引くということはその間は何の決まりもない一種の無法状態になるということであり、当時の横須賀海軍工廠ではその六か月の間にある程度の艦娘をそろえていた。少数ではあったものの比較的火力のある重巡洋艦も建造していたため火力不足もある程度は解消していた。
そのため最終的には艦娘の出番と相成った。火力こそ高かったものの数の有利さを利用しての戦いであり有利に進めていった。装甲も厚かったため夜まで長引きはしたものの無事に撃破。艦娘の力を示示す絶好の機会になったのだ。
この事件の影響もあり、決まりを策定し早々に艦娘の研究を始めなければならないという空気になり艦娘に関する取り決めが作られた。
……余談だが会議当初、開発者が日本人ということもあり日本に研究施設(費用は日本持ちで)作ってしまおうというどこぞのライトノベルのような計画があったのだが、完全に助けられるような形となったため強く言いだせなくなったということを追記しておく。
○
そんな感じで今に至るわけだが……現在の建造の環境はというと
「あ、もしもし。横須賀海軍工廠でしょうか? 舞鶴鎮守府の平塚です。建造をお願いしたいのですが……」
まさかの電話注文である。実はこの舞鶴鎮守府には建造用ドックがそもそも存在しない。正式な建造用ドックがあるのは今電話している横須賀と呉のみなのだ。正式なと書いたとおり、簡易的なものなら佐世保やこの舞鶴にも存在するがあんまり増やしすぎると維持費とかの問題が発生するためにまとめられたそうだ。
雄輝はそのあと呉の海軍工廠にも電話を入れ、建造の注文の済ませた。各工廠で使えるのは二つのドックまでなので計四隻の注文になる。
「司令官さん! 終わったのですか?」
「ああ。駆逐艦三隻、軽巡洋艦一隻の注文だ。電のお姉さんたちが来る予定になってる」
「そうなのですか! 楽しみです!」
基本的に姉妹艦の物質構成は似た構成になるので同型艦であるということや姉妹であることはきちんと認識できるらしい。そういった無駄なことにまでこだわるのはある意味日本クオリティーといえるのかもしれない。ちなみにこれ以外にも軽巡洋艦を一隻、簡易ドックで建造している。まだ数が足りないということで使用許可が下りたのだ。
「同型艦って同じところに配備されるのですか?」
「基本的にはそうだな。特Ⅰ型は横須賀、特Ⅱ型は呉に配備されてる」
「電は特Ⅲ型ですが……三つ目にできたのは佐世保鎮守府ですよね? なぜ佐世保に配備されなかったのでしょう?」
「……あくまで噂話の範囲なんだけど特Ⅲ型は電たち四隻しかいないから扱いに困ったっていうのもあるらしい。特Ⅰ、特Ⅱは十隻ずついるしな。結局佐世保には白露型が配備されているから数の都合っていうのが大体の見方だな」
「そう……なのですか」
明らかに電は落ち込んでいるようだった。数が少ないのは自分のせいではないのにそんな些細なことを抱え込んでしまうような勢いだった。都合であった以上必要でないというわけではないが、精神年齢が低めに設定された駆逐艦である彼女にとっては少々きついものであったのかもしれない
「……電、落ち込むな。きちんとお前がここにいる以上必要とされているんだ」
「で、でも数が足りなかったから……ご迷惑をおかけしたみたいで……」
「それは別に電のせいじゃないよ。それに俺は全く迷惑してないし。ほら、ティッシュ。鼻水かんで」
ちーんとかわいらしい声が入りながら鼻をかむ電。
「……落ち着いたか?」
「申し訳ないのです……」
「とりあえず最初の仕事、さっさと終わらせようか」
「? 何をです?」
雄輝が引き出しから取り出したのは白い巨塔、もとい……
「書類仕事。あんまり好きじゃないけどなるしかないんだよなこれ」
書類の山。とりあえずすぐに終わりそうにないことだけは確かなその量を見た電は
「司令官さん! 一緒に頑張るのです!」
完全に立ち直ったのがはっきりわかる笑顔を向けてきたのだった。
少々追記事項。建造のみで仲間が増えると目次のところで書きましたが一部例外がある可能性が出てきました。拾うわけでは無いのですが例外があるということだけは先にお伝えします。
さて第三話をお送りしました。相変わらず艦娘の歴史っぽい話がちらほらと見受けられますが完全に創作です。当たり前ですが。
艦娘の所属も一部明らかにしていますがこれは未実装の艦も含みます。
特Ⅲ型姉妹の登場はどうやらまだ少し先のようなのでしばらくは電ちゃんと雄輝でお送りします。他の姉妹登場は早くてあと3話先になるかと