転生した彼は死んでもいい!
勇者であるシリーズが大好きだった。
未来へ繋げるために命を懸ける彼女達が、明日を生きるために必死に足掻く勇者たちが、自分は大好きだった。
だって尊いじゃないか。儚いじゃないか。眩しいじゃないか。
自分なら立ち向かえない、耐えられない、絶対絶望する。
そんな自分では出来ない事をやる彼女たちの物語が大好きで、凄く嵌まった。
でも彼女たちの輪に入りたいとかそんなことを願ったことは無かった。いや、だって尊さ半端ないんだもの。
自分があの中に入るとかムリムリ。十歩離れたところから拝ませてもらえたら昇天しても良い!程度には思うが。
そんなことを想っていたのですが……。
「えっと……マジ?」
「まじまじ♪」
目の前にいるのは
そして、やってほしいことは転生と言うテンプレだという。
行先は……勇者であるシリーズ。
「好きなのを選びなよ。初代か、それとも神世紀か」
「………えと、何故?」
「気まぐれって言っちゃうとアレだし、そうだね。何となく?」
「大して変わらないですよそれ」
「アッハッハ、まぁ許して転生してよ。じゃないと呼んだ意味がない」
「………」
自分が、あの世界に……拒否権は、あるのかもしれないけど勿体ない。
なら、行先も行く方法も一つだけだ!
「初代の世界に――精霊として行かせてください!!」
「……おぉ?そう来たかー」
てっきり時間跳躍とか持ってくるかと思ったと呟きながら、何やら光の輪を描き始めた。
「能力はどうする?外殻はサービスでデフォルメと人型の両方にしといてやるよ」
「えっと……」
武術を齧ったことはなく、自分自身今まで普通の一般人だった為、扱うとしたら……。
「切り札や満開の後遺症をどうにか出来たり、できます?」
「んー……まぁ精霊になるんだし、そういう無茶は効くだろうけど、多分きついぞ?」
「おねがいします!」
「OKOK。じゃぁ強化と援護重視の精霊にしといてやるよ。力を譲渡するっていうより、力を増幅させる系だな」
「ありがとございます!!」
もはや礼しか言っていない。
しかし、それ以外いうことが無かった。
「名前は何がいいかねぇ。『人魂』じゃぁ直球過ぎるし……『御使い』だと神の代行になっちまうからやっぱ違うよなぁ」
暫くブツブツと考え出す謎の人物。
自分から見ると逆光でよく見えないのだ……。
「そうだなぁ。架空の存在、偽物の神聖、虚構の精霊。ウツロでいいだろ」
「うつろ……虚?」
「そうそう。空虚なる偽精霊、ぴったりだろ?」
笑っているらしい彼?彼女?はそれだけ言うと、こちらに手をかざした。
「じゃ、逝ってらっしゃい」
「ぁ――」
とたんに意識がおぼろげになり……自分は転生を果たした。
「……てかこれって転生っていうのかねぇ?
呟いたカミサマの言葉は、誰にも届くことはなかった。
(……おぉ!何処だ此処!?)
目が覚めると、何故だか神社らしき場所に立っていた。
ついでに頭痛も酷かった。どうやら力の使い方を無理やりインストールされたらしく、情報を整理しきれていないようだ。
「痛い……あぁでも凄いなぁ」
外殻は人型とデフォルメ型を用意したと言っていたが、全く違和感がない。
試しにデフォルメにもなってみたが、うん。動くことに支障はないらしい。
「えぇと、で此処は何処?……あぁ、諏訪神社かぁ……ゑ?」
諏訪神社と言えば、乃木若葉は勇者であるに登場した白鳥歌野という勇者が守護していた場所だ。
白鳥歌野は勇者であるという別シリーズも発行されており、面白いが悲しい物語で……いや、そうじゃなく。
「これ、時期によってはツんでるんじゃ……」
確か2018年の9月にバーテックスによって滅ぼされたはずである。
そして今は……夏っぽいという事しか分からない!!
「力は在ってもここら辺は文明人だったからなぁ。カレンダーとか、ないよねー」
しかしどうしよう、と思っていると、何やら神社に近づいてくる人影が。
「――で、みーちゃん神社に何があるの?」
「えっと……神託で、何だか重要なモノが居るって」
「モノがいる?不思議なフレーズね」
そして、その声は彼には凄く聞き覚えがあった。
だってゆゆゆいこと花結いのきらめきという勇者シリーズのアプリゲームで散々聴いた声だから。
つまり、そう。
(勇者と巫女だぁあああああああ!!!)
うぉおおおお!とテンションが上がるデフォルメ精霊。
しかし、ここで叫ばず思わず隠れてしまったのは彼の悪い?信条のせいだろう。
拝ませてもらえれば、死んでもいいをガチで通せるような精神の持ち主である。
ぶっちゃけ、生勇者と巫女に対面して無事でいられる自信が無かった。
「ん~、なにもないよ?」
「おかしいなぁ……」
がさがさとあちこち探し回るが、見つかるわけがない。
デフォルメされた彼は屋根の上に居るのだから。
(え、どうしよう。どうしたらいい?あれ、自分なにしてんの!?)
最早大混乱で当事者は呆然としていた。
アホだがアホなりに必死になった結果であることは察してほしい……。
「……ごめん、うたのん。遅かったのかも」
「んーん、みーちゃんが謝ることないよ」
「でも、でももうすぐっ」
「みーちゃん」
白鳥歌野は巫女である藤森水都の頭に手を置くと、優しく撫でた。
「だいじょーぶ。私は負けないからさ」
「うたのん……」
とても良い光景なのだが、どう考えても良いフレーズには聞こえない。
というか、死亡フラグにしか見えない。
(え、あれ、これもしかして9月近い?諏訪エンド近い!?)
やばいやばいやばいと焦るがどうしようもないことに彼はピクリとも動いていなかった。
そして、その時はやってくる。
「! うたのん……来る」
「……そっか。よし、じゃぁみーちゃんは皆を避難させて!」
「うん!うたのん……頑張って」
「サンキュー!いってきます!」
走り出す白鳥歌野と藤森水都。ひとまず追おうとフワフワ飛翔する。
そして見えてきた光景は……正しく絶望だった。
「……ハハハ、これはちょーっと拙いかな」
空笑いと共に大嘘を吐く歌野。
どう考えてもちょっとではない。見える範囲にバーテックスがうようよいる。
これを彼女一人で処理しきるのは不可能だ。
「でも、頑張りますか!!」
ファイト私!と衣装にササッと着替えた彼女は武器である鞭を持って敵へ突撃した。
彼女の伸縮自在の鞭は敵を薙ぎ払っていくが、固めの敵にはまるで効果が無い。
(……ぁ)
そして、遂に彼女はバーテックスによって吹き飛ばされてしまった。
「痛た……」
身体に傷を負いながらも立ち上がり、敵を睨み付けるその姿は正しく勇者。
だが、彼女には力が足りない。戦ってくれる味方がいない。
そんな彼女に一方的にバーテックスが群がっていく。
(なに、してるんだ自分は――!)
視ているだけでは何にもならない。
前へ出ろ、お前は既に人間ではない。だって、他でもない
「う、おぉおおおおおお!!」
「え!?」
デフォルメされた人型は、超速の弾丸となってバーテックスへと突撃し、そのまま頭突きをくらわせた。
一体のバーテックスは他のバーテックスを巻き込み、吹き飛んでいった。
「ワット!?な、なに?」
「い」
「い?」
「痛ぃいー!!」
むがー!と空中で器用に転げ回る虚。
それを見てポカンとする白鳥歌野。自分を助けたこの小さいのはなんなのだろうと疑問が頭を埋めるが、今はそれどころではない。
「が、頑丈さを上げるのを忘れてた……」
「え?」
「あ!えっと、勇者様ですよね!」
「え、あ、イエスイエス、私は勇者だけど?キミは、一体?」
「自分の名前は
「えっと、こうでいいのかな」
右掌をこちらに向けた彼女の掌に……ちょっとおどおどしながらちょこんと座った。
「
「おぉ!?」
虚の姿が掻き消え、同時に彼女の身体に力が漲った。
外見的な変化は……少し衣装の色が明るくなったことくらいだろうか?
「えっと、何なのかしら?」
『随力・頑強・速度・ついでに再生力も強化!』
「お、おぉ?!」
『(負担はこっちで賄う……け、結構きついなこれ)でも、これじゃ足りないだろうから、プラスでさらに強化!』
「これは、グレートね!」
疲労を感じながらも、彼女に強化を加えていく。
そうして強くなった彼女の一撃は――敵を見事斬り裂いた。
「『って斬れた!?』」
内側に居る虚と声が被る白鳥歌野。
星屑の様な比較的柔らかいバーテックスならともかく、今断ち斬ったのは幾らかの星屑が集まって出来た進化体であった。
「ってあなたが驚くの?」
『初めてのことだから……あ、ほら次来る!』
「おぉっと、よく分からないけど今の私はデンジャラス!負ける気がしないわ!」
その後文字通り敵を千切っては投げた彼女は見事生き残った。
多少の傷を負いながらも諏訪を護り切った……だが。
「うたのーん!」
「みーちゃん……お疲れ様」
「うたのんが一番お疲れ様だよ……あぁ」
見下ろす諏訪の景色は、もう
田畑は荒れ、残った結界も最早今いる村民が住めるだけの余裕はない。
「これから、どうしよっか」
「……乃木さんを、四国を頼ろう」
今のバーテックスの襲撃で皮肉にも村民は
藤森水都から聴いた人数なら、ギリギリ護りながら移動は不可能ではないはずだ。
「村民を集めて。今日中に移動を開始しよ」
「うん!……そういえばうたのん、何だか神々しいね?」
「あぁ、ちょっと不思議なことが合って……ウツロくーん?」
『あ、はい今出、いや、移動するなら後回しの方が……』
「自己紹介は大事よ!さ、出てらっしゃい!カモン!」
『は、はぁ……』
勇者に言われれば仕方ないと、彼女から光の玉となって抜け出し、改めてデフォルメの姿となった。
「わわ、ナニ!?」
「どうどう、落ち着いてみーちゃん。この子は虚くん。どうやってか私に力を貸してくれたの、文字通りね」
「えっと、虚です。精霊やってます、よろしくお願いします」
「せ、せいれい?」
「えっと、ちょっと普通の精霊とは訳合って違うけど、精霊です。よろしくお願いします」
「あ、はい。藤森水都です、巫女です……よろしく」
「おぉっと、最後になっちゃったけど私は白鳥歌野よ」
「はい、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げ続ける虚。
「あ、そんな、助けて下さったんですし頭を上げてください!」
「いえ……その、神社に迎えに来てくれたのに、思わず隠れちゃったりして……謝罪の意味も込めて、土下座を……」
「「しなくていい、しなくていいから!」」
こうして、勇者と巫女、自我を持ち自由に動き回る精霊が邂逅する事となった。
「取りあえず、乃木さんに連絡をしよっか。丁度定期連絡の時間だし、ナイスタイミング!」
「私は準備を進めてるね」
「えと、一応自分は勇者様についてきます」
「歌野でいーよ。様づけとかなんかこそばゆいし、なにより戦友、フレンドでしょ私たちは!」
「は、はい……」
「敬語もなし!なんならみーちゃんのこともみーちゃんって呼んでいいよ!」
「それはちょっと……」
何だか勇者のテンションについて行けるか心配になりながらも、彼らは行動を開始した。
これは、とある人間が精霊になることを選び、勇者たちの為に頑張る物語。
ある意味利己的で身勝手な精霊は何を為すのか、それは未だ誰にもわからない……。
「取りあえずさっきのスーパーフォームは何て名付けようかしら!」
「い、一応切り札って言われてるんですけど……」
何はともあれ、自分は彼女たちの為なら何でもしよう。
取りあえず、拝むだけでも尊さで死ねるので、もうちょっと距離は取りたいです。
いや、あの尊さを間近で見れるなら死んでもいいんですけどね!!
~その後のウツロん~
白鳥「ねぇ、みーちゃん」
藤森「どうしたのうたのん?」
白鳥「いやね、今私虚くんとコネクトしてるわけだけど、偶にこう、なんというか……きゅん?っとくるのよね。これ、なんなのかな?」
藤森「?? 何かの強化とか?」
白鳥「でも今も感じてるのよねー?」
「「???」」
(多分二人の尊みを感じてる自分の感情ですホントありがとうごめんなさい!)