精霊になって勇者達を拝んでいたいです……!   作:...

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来ないでください、死んでしまいます!

 目が覚める瞬間はとてもあやふやだ。

意識にスイッチが入る感覚が、実は嫌いだった。

現実に入る瞬間が、彼はとても好きではなかった。

 

「――あ、出た!ハロー、虚くん。随分ゆっくり眠っていたわね」

「ずっと出てこないから心配したよ」

「………?」

 

 聞き覚えのある少女達の声が聞こえた。

出た?何が?どこから?

 

「アハハ、寝ぼけてるのかな?」

「これが、精霊……?」

「随分と、なんというか、不思議だな」

「あらあら、可愛いですね」

「ぐぐぐ、タマにはよく見えんぞ~!」

「タマっち先輩、ジャンプしても無理だよ……?」

「どーいう意味だ!?」

 

 わいやわいやとやけに騒がしい。

……あれ、というか全員聞き覚えがあるぞ?

はて、自分はこんなに女の子の知り合いがいたっけ?

 

「ッ!?」

 

 そんなことはない、言っては何だが友達は少数派で、同性が殆どだった。

自分が転生したことを漸く思いだし、顔を上げる。

どうやら、歌野の中で意識を失った後、そのままだったらしい。今いる場所は歌野の頭の上だった。

 

「ハ、わ、の―!!」

「如何した?」

 

 文字通り飛び起きた虚が見下ろした光景は、彼にとって正しく絶景だった。

運動着に着替えた歌野と水都を囲むように、高嶋友奈、郡千景、乃木若葉、上里ひなた、土居球子、伊予島杏が集まっていたのだ。

 これだけでも動揺するというのに、歌野より少し背の高い乃木若葉が一歩近寄って背伸びをし、こちらへ顔を近づけてきた。

 

「……!……!」

「ん??」

 

 彼は、原作の白鳥歌野や乃木若葉達の在り方が大好きだった。

たとえ死んでしまっても自分の想いを貫く姿がカッコいいと思っていた。

勇者は皆尊くて、綺麗で、鮮烈で、格好良く、それでいて可憐だ。

 勿論、原作とは違うこの世界の勇者たちだって大好きで……というか、今現在進行形で尊すぎて――。

 

「わ、わ、わぁあああああ!?!?」

 

 色々許容量を超え、思わず妙な声を叫びながら全速力で飛び去ってしまった。

 

――これ以上居たら、尊みで死んでしまう!!

 

 一心不乱に窓を透過し、上空へと逃げていった。

 

 

「え?」

「ワォ」

 

 虚が飛び去った後の運動場では、残された勇者と巫女がポカンとしていた。

 歌野と水都が四国に到着してから、既に一週間以上の時間が経っていた。

彼女達は新たに四国の勇者と巫女として認められ、こうやって一緒に訓練に励む日々を送っていたのだ。

そんな中、ずーっと自分達を助けてくれた彼、虚を四国の勇者たちに紹介したかったのだが、中々目覚めてくれなかった。

歌野の中に居ることは分かっていたのだが、本人が気絶していては彼女達にはどうしようもなかった。

 神造とはいえ、神樹様ではない神が造った彼の詳細を神樹様の神託で知る事も出来ず、半ば途方に暮れていたのだ。

精霊と言う存在が現実世界に居る理由、あの満開と言う能力、その他にも色々訊きたいことがあったのに、色々四国の彼女達に自分達の仲間は凄いんだぞって自慢したかったのに……まさか、逃げるとは。

 

「えっと、私なにかしたか?」

「あーいえ、何と言うか……」

「忘れてたわ。虚くん、凄いシャイボーイなのよ。最初迎えに行った時も隠れちゃったって言ってたし」

「なるほど、照れ屋さんなんだね。囲まれてびっくりしちゃったんだ」

「あぁ、まぁ分からなくもないわ」

 

 寝起きに異性に囲まれていたらそりゃびっくりするだろうと、納得したように高嶋友奈と郡千景が頷いた。

彼にとっては異性とか以前に、アイドルとか大統領とか、いっそ女神と言ってもいいかもしれないような存在が目の前に居た為、全力で自分と言う不純物を取り除こうとした結果でもあるのだが、そんなことをわかるわけもない。

そもそも彼女達がこうやって仲良くしている光景からして既に致命傷(・・・)なのだ。……いや、もう死んでいるのだが、ともかく致命傷なのだ。

 

「んー、しかし話しはしたい。我々としても知りたいことは山ほどあるしな」

「そうだね、自己紹介は大切だよね!」

 

 乃木若葉の言っている話したいことと、高嶋友奈の自己紹介は絶対的にすれ違っているのだが、それを指摘するような人は此処に居なかった。

 

「えっと、後で改めて集まった時にとかで大丈夫ですか?」

「「んー……」」

 

 上里ひなたの言葉に考え込む歌野と水都。

後でというのは、この午前の訓練が終わった後、恐らく昼食時とかだろう。

しかし、彼は精霊。食事をとっている光景を見たことが無い。

時間になっても来ない可能性がある。

 

「……そもそも、虚くんが近寄ってくるのかが分からないわ」

「それはどういうことだ?」

「さっきも話したけど、神託があって迎えに行った時彼、隠れちゃったのよ」

「でも出てきたんだろ?だから一緒に居るんじゃないのか?」

「それが、出てきた理由が私がピンチだったから、だから……」

「つまり、今危機的状況じゃないから、もしかしたら隠れたままかも……ということですか?」

 

 伊予島杏の予想に、まさしくその通りだと頷く。

 

「えぇーと、それは困りましたね」

「バーッと探して捕まえちゃえばいいだろ?」

「タマっち先輩、そんな簡単じゃないよ?」

 

 厄介なことに空を飛ぶ精霊を捕まえる手段などなく、一度隠れてしまえばあの小柄な精霊はまず見つからないだろう。

 

「そもそも窓をすり抜けていったのよ?物理的に捕まえられるの?」

「ん~、何か方法は無いかな?」

「ふむ……」

 

 全員で考えるが、特に浮かばなかった。

当たり前だ、四国の勇者は初対面なのだから、そもそも彼がどういう行動を起こすのかすらわからない。

なら、非常事態の異常事態だったとはいえ、半月共に過ごした彼女達が言い出すのはとても当たり前のことだった。

 

「んー、でも虚くんは私たちが嫌いとかじゃないのよね。寧ろとっても気に入ってくれてると思うわ」

「だよね、じゃないと助けてくれないよ」

「それに、あのタイミングで助けてくれたってことは、隠れた後も私たちが見える範囲にはいてくれたってことだしね。多分、もしかしたら今も……ぁ」

 

 歌野がキョロキョロと目線を辺りに巡らせると、見事窓の隅っこでこちらを見ていた虚と視線が合った。

彼は直ぐに隠れてしまったが、やはり近くにいるのだろう。

 そもそも、彼は彼女達が好きどころではなく、大好き、超好き、愛してるまであるような一歩間違えれば変態さんの仲間入りするレベルで重病なのだ。

混ざることは出来なくても、隅っこからちょっと彼女たちの和気藹々とした姿を覗くだけでも、彼にとってはご飯より栄養になりうる。

 実際、元人間だった彼が半月何も飲み食いしてなくても精神的に大丈夫だった理由は、歌野と水都が居たからという理由なのだから、本当に彼はどうかしているのかもしれない。

 

「取りあえず、もうちょっと近寄りやすくなるように午後はばらけましょうか」

「そうだな、集まっているとそれだけ警戒されるだろう。みんな、ひなたの言う通りにして午後は自由にしてくれ」

 

 こうして、午後のうどんと蕎麦をそれぞれ食べた彼女達は、各々自由時間となった午後を過ごすこととなった。

勿論、自由と言っても一番の目的は虚との接触だ。

 

「……ふむ、私なら近寄れば気配で分かるのだがな」

「もー若葉ちゃん?そんなに気を張ってたら彼が近寄ってきにくくなってしまいます」

「そう、だな……いや、そうか?」

 

 チラッと振り返ると、こちらを伺っている小さな姿が廊下の陰に居た。

小さすぎて見逃しかねないが、勇者として常在戦場の精神で居る彼女には直ぐ見つけられた。

 

「もう少し近寄って来てくれるといいんだが……」

「んー、難しいですね。見張っているというより、遠目に眺めているという感じだから、これ以上は近寄っては来ないかもしれません」

「なるほど……――だがなひなた、ここで待つというのは、性に合わん!!」

「若葉ちゃん!?」

 

 ひなたの驚く声を背に、小さな精霊に向かって走り出す若葉。

 

「!?!?」

「待ってくれ、話を―あぁ、くそ!」

 

 ぴゅーっと廊下を飛翔する彼を必死に追うが、距離は縮まらない。

 

「なら……これで、どうだ!」

 

 ポケットから携帯を取出し、桔梗の花のアプリを押した。

勇者への変身である……精霊を追うためだけに、彼女は変身した。

 

「あわわわわ!?――ぁ」

「よし――え?」

 

 走り、思い切り跳躍した彼女。

精霊しか見ていなかった若葉は……窓の外まで飛翔していた虚を追って、空へと跳んでいた。

そしてもちろん、跳べば落ちる。

 

「わぁぁ――おぉ!?」

 

 勇者なのでダメージは無いだろうが、思わずバリアで衝撃を殺してしまった。

ポフンと柔らかな着地をした乃木若葉を見届けた後、彼は飛び去って行った。

 気配が遠ざかっていくのを感じた若葉は、小さく逃げられたと呟いた。

無論、直後ひなたにお説教を貰い、正座をしたのは言うまでもない。

 

 

 土居球子と伊予島杏は本当の姉妹の様に仲が良い。

彼女達はこんな時だって、迷わず二人で行動していた。

 

「……で、タマっち先輩。なにしてるの?」

「ふっふっふ、捕まえる為に秘策があるのだ!タマに任せタマえ!」

 

 仲良く行動しているが、各々その行動理由を把握しているわけではない。

何やら準備をすると言って移動し始めた球子が何をするつもりなのかなど、杏には把握していなかった。

杏が見守る中、球子が用意したそれは………うどんだった。

 

「タマっち先輩、それは……?」

「うどんだ!」

「うん、それは見てわかるよ?そうじゃなくてね、なんで、うどん?」

「なんだ、杏わかんないのか?」

 

 分かるわけがない。行き成り捕まえる為にうどんを用意するなんて、ちょっと理解の外である。

 

「いいか!うどんは全てに通じる!故に、精霊であるウツロにも通じるはずだ!」

「えーと、つまりうどんに夢中になる虚くんを捕まえる、つもりなの?」

「そうだ!」

 

 何と言えばいいのか、杏には少し分からなかった。

まず、半月もの間一緒に居た歌野と水都は彼がご飯を食べていなかったと証言している。勿論、だからと言って食べられないとは限らないが、必要としては居ないのだろう。

そして次に問題点があった。

 

(……全部、聴かれてるんだよねぇ)

 

 さっきから球子の後ろのドアからちらちらとこちらを伺う小さな影が見えていた。

使う得物が得物なだけ、杏は動体視力が良く、視界の範囲も広かった。

 

「おっと、こうしている間にも匂いにつられてくるかもしれない!隠れるぞ、杏!」

「あ、う、うん……」

 

 まぁ球子が楽しそうだからいいか、と考え直し恐らく来ないだろうと思いながら適当に、柱の陰に身を隠す二人。

 

(って、来た……いや、来てくれた?)

 

 あんまりにも元気一杯に用意してくれたのが忍びなかったのか、うどんが伸びてしまうと思ったのか、虚はすーっと静かにうどんへと近づいて行った。

そして、どうしよう……と見るからに困っているのが分かる雰囲気でうどんを上から凝視している。

 

(あぁ、なんだか申し訳ない……タマっち先輩がごめんなさい)

 

 ついでにチラッと一瞬こっちを見たのも確認した。

あぁ、凄く気を遣わせていると杏がはっきり自覚し、心の中で謝罪した。

 そんな杏を知ってか知らずか、そっとうどんを手に取ろうとして……。

 

「………タマっち先輩、あれ」

「あぁ……掴めてないな」

 

 小さすぎてうどんの杯がつかめず、箸を両手で持っても口に持って行けるはずもない。

素手でつかむには熱く、そもそも行儀が悪い。

 そうして、球子も杏も少し不憫に想い、同時に虚は箸をおいた一瞬、間が出来た。

そして、その一瞬で………虚が中学生ほどの少年に変化した。

 

「「へ!?!?」」

「あ、い、戴きます……」

 

 うどんと箸を手に持つと、バリアで溢さないように覆った。

そして驚く二人から逃げるように……事実走って逃げていった。

 

「お、おっきくなったね……」

「あ、あぁ……」

 

 遠めだったが身長は高嶋友奈と同じ程度だったように思う。

そこまで高くないな、という感想と精霊って何なんだろうという疑問が二人の頭を過ぎり……。

 

「って追いかけないと!」

「あぁ!?」

 

 大急ぎで追いかけるも結局窓から飛翔され逃げられてしまった。

もし二人が素早く動いていれば、結果は違っていたかもしれない。

無論、初めてのことばかりで驚くなと言うほうが無理なため仕方がないだろう。

 

 

「……おいしい」

 

 久しぶりに食べ物……うどんを食べる虚。

少年の姿になっているが、初めて人間の姿に変化した時はもっと大きかった気がする。

何故だろうと思ったが、答えはあっさりわかった。

 

(そっか、これ無理やりな満開とか切り札とかの影響か……)

 

 自分と言う存在を少なからず削っているとは思っていたが、まさか年齢が幼くなるとは予想外だった。

気絶と同じで力が満ちればきっと大きくなるのだろうが、暫くはこのままかもしれない。

アプリなしの歌野の無茶にあれだけ付き合ってこれだけの代償と思うべきか、あのくらいで成人が中学生になるなんて、と落ち込むべきか。

 

(精霊って成長するのかなぁ)

 

 年齢とか外見の成長ではなく、力の成長。

力の扱い方が上手くなれば、もうちょっと頑張れる気がしていた。

 

「ん、ご馳走さまでした……どうしよ、これ」

 

 食堂に戻れば土居球子や伊予島杏と鉢合わせてしまうだろう。

取りあえず近くの水道で水洗いし、教室の適当な席に置いておく。

そして、改めてミニマム状態に戻り、見つからない様に飛翔する。

 

(丸亀城……カッコいいなぁ)

 

 男子として城がカッコよく思えて仕方が無かった。

もしかしたら何か忍者屋敷みたいな罠とか、隠し扉とか、裏ルートみたいなものがあるんじゃないかとワクワクしてしまう。

 

「~~♪」

 

 もしかしたら何か見つかるかもと鼻歌交じりに探索していると、曲がり角でポフっと何かに当たった。

人に当たったのだと気付いたのは、その相手に抱きかかえられた時だった。

 

「あ、捕まえた~♪」

「!…!?」

「………動かなくなったわね」

 

 高嶋友奈の腕に抱えられ、緊張やらなんやらでピキッと固まってしまう虚。

そんな虚を意外そうに見る郡千景。もっと逃げようと暴れるものだとおもっていたらしい。

 

「えっと……もしもーし?」

「……………」

「ダメね。取りあえず一旦離し、たら逃げるか」

 

 前述したとおり、彼の交友関係は狭い。

ましてや、女子に抱っこされるなんてまず無いことだった。

女の子特有の甘いにおいと、柔らかな身体の感触に身動き一つとれなくなっていた。

自分が動くことで汚染?してしまってはいけないという思いと、早く離れなければという思いがぶつかり合い……結果ショートしていた。

 

「取りあえず連絡かしら?」

「あ、ぐんちゃんまってまって!」

「?」

「このまま皆を集めてもきっとまた逃げられるか、気絶しちゃうよ。少し落ち着くまで待とう。ね?」

「……そうね。取りあえず、私の部屋にでも行きましょ」

 

 こうして、郡千景の部屋に連れていかれる虚。

勿論、女子の部屋に入ることも経験がほぼゼロである彼は意識が飛びそうになり、内心いっそ気絶したいと願った。

というか、この二人が一緒に仲良くしているだけでも十分尊いというのに、その間に自分が居ていいものか…。

 

(死ねる、女子の部屋というだけでもあれなのに、勇者二人……それも、あの高嶋友奈と郡千景の大親友コンビに挟まれて……しねる)

 

 緊張と尊さと申し訳なさとその他諸々の感情により、彼の精神が落ち着くまで大分時間がかかることとなった。

何はともあれ、虚捕獲作戦は成功した。

 

「……高嶋さん、捕まえるの変わるわ。腕疲れるでしょ?」

「ありがとぐんちゃん。でも、軽いし全然問題ないよ?」

「それでも、ずっと同じポーズは知らず疲れるモノよ」

「そうかな?」

「そうよ」

 

(ゴフッ)

 

 二人の思いやり合いの言葉と高嶋友奈から郡千景に移され、新たな柔らかさと温もりで吐血しそうになる虚。

もしかしたら、彼は落ち着く前に死ぬかもしれない……。

 

(それはそれで、ほんも、う)

 




 ~そうして至福の虚ろウツロん~
高嶋「………白目剥いてない?」
郡「でも、幸せそうね」
高嶋「緊張してるんだと思うけど、何でだろうね??」
郡「さ、さぁ?」
高嶋「ん~?」

郡(私でも高嶋さんにそんな風にされたら、なりそうとは言えないわね……)

 ジェラッ!
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