千景と友奈に挟まれること小一時間が経過していた。
半分以上意識が消えていた彼が、ふと気づいたことがあった。
(………ぁ、今自分精霊じゃん)
精霊はそもそも霊体である。身体が神造されている精霊は今のところ自分だけだからつい忘れていたが、実質彼は幽霊みたいなものなのだ。
「「あ」」
「ぷはぁー」
一旦霊体化、後に実体化することで拘束から抜け出し、久しぶりに生き返ったような気持ちになる虚。
女神に触れられて浄化、昇天するような思いで失神しかけていた彼がようやくまともな思考に戻った瞬間でもある。
しかし、彼女達も流石勇者。抜け出した虚を見て、素早く行動を開始した。
「高嶋さん!」
「うん、わかってるよぐんちゃん!」
「え?え??」
ババッと窓と扉の前に陣取る二人。
飛翔する彼は天井がある部屋の中となればその高度には限界がある。
ここでなら、実体化している彼を捕まえることは不可能ではない。
「えっと……」
「逃がさないわ」
「お話しよ、ね?」
「ぅ」
鋭い瞳と、暖かい雰囲気に挟まれてさっきとは違う意味で身動きが取れなくなってしまう。
逃げ続けるのは限界があるし、そもそも話さなきゃいけないことだってあるだろう。
今のまま逃げるわけにはいかない、が。
(勇者と巫女に囲まれると、ショートしてしまう。絶対ッ!)
許容範囲は3人……頑張って4人だろうか。それを超えると正常な判断が出来るか危うい気がしてならない。
慣れるまで大変なことが容易に予想される。だが、情報を共有する為には全員と話す必要があるだろう。それも、時間の無駄を省くために全員に一度に言わなければ。
「で、でしたら……」
「?」
「なに?」
「は、半径1メートルほど離れた距離なら、話、します」
「「??」」
何を言ってるんだこの子はという目で見つめられてしまう。
あぁ、うん。分かるよ、勇者である歌野のサポートをしていたのに今更って話ですよね、そりゃそうなるよね。
「ホント、お願いします!」
「ど、土下座までしなくても……」
「あわわ、そんなことしなくていいよ、お顔上げて?」
空中から地面に着地すると、綺麗に土下座を披露する虚。
自分のプライド?そんなものは彼女達に比べれば塵芥と化すのです。
「いえ、つい逃げてしまった謝罪も込めて……いっそ踏んでもらっても……」
「いやいやいや!」
「私たちを何だと思ってるの、貴方は……」
「ぁ、そうですよね!勇者ですから、踏んだりしませんよね……では、拝ませてもらいます。謝罪だけでなく、尊敬とかの念も込めて……」
「「………」」
虚の勇者像が酷く気になった二人。
だが、土下座の次は両手を合わせだした彼を見て、あまり突っ込みすぎると今度は何をするのか分からないと判断して何も言わずに携帯を取出した。
取りあえず彼の要望通り1メートルほど距離を取ることを通達し、教室に改めて集まることとなった。
「えー……四国の巫女様、勇者様方初めまして。そして諏訪の勇者様に巫女様改めまして、虚です。精霊やらせて頂いてます、どうかよろしくおねがいしますでございます!」
((((((ど、土下座……))))))
空中で見事な土下座をおみまいする虚。
何と言っていいのか四国の勇者と巫女は迷い、取りあえず心の中でツッコミをいれた。
対する諏訪の二人は……。
「こーら、丁寧口調禁止。それに歌野でいいって言ってるでしょ?貴方と私達は戦友、フレンドなのだから!」
「そうだよ?それにそんなに丁寧過ぎても引かれちゃうよ?」
現在進行形で若干引かれてるのだが、というか彼としては寧ろ自分の存在はなるべく隅っこに追いやって仲良くやってくれると嬉しかったりする。
「い、いや、なんといいますか、こんなに尊、もとい素晴らしい方々を目の前にすると緊張が……」
「何を緊張してるのかわからないが、もっと楽にしてくれて構わないぞ?」
「いえ、緊張と言うかなんというか……勘弁してくださぃ」
「いや、だから何故土下座をする!?」
若葉の思いやりある言葉に思わず自然と低姿勢になってしまう。
いけない、これでは話が進まない。分かっているのに止められない、これが勇者パワー……!?
「……虚くん、何だかおかしなことを考えてない?」
「!?」
「やっぱり……何となく分かってきた気がするよ、貴方のコト」
「流石みーちゃんね!でも言いたいことは私にも分かるわ。虚くんって一々大袈裟なテンションになるから」
「!?!?」
諏訪の二人は虚がどうしようもない重病人だと薄々勘づき始めているらしい。
今のところ、何だか勇者や巫女をやけに敬っている『熱狂的な信者』程度の認識のようだが。
「えっと、そろそろこちらの紹介に入ってもよろしいでしょうか?」
「あ、はいすいませんごめんなさい」
「いえいえ、そんな低姿勢にならないでください。私は巫女の上里ひなたです」
はい、若葉さま超好きーですね、存じております。
「私は乃木若葉、勇者で四国のリーダーを請け負っている」
はい、耳かきが弱点なギャップ萌えの勇者様ですよね、凛とした姿にも萌えられます。
「タマは土居球子!困ったことは大体タマに相談してくれタマへ!」
はい、妹な杏さん超スキー様ですよね、姉妹は尊みが分かり易く、強いです。拝ませてもらいます。
「私は伊予島杏です。えっと、さっきはタマっち先輩がすいません」
「いえ!うどん御馳走様でした!」
「ふふ、お口に合ったならよかったです」
えぇ、小説好きーで活字中毒、尚且つ「タマっち」先輩マジ好きさんですよね。ある意味ネタに困らない勇者様で、その気遣いがとても可憐です、ありがとうございます。
「次私かな?高嶋友奈です!えっと、さっきはごめんね、窮屈だったでしょ?」
「いえ、逃げたのは自分ですし、大変申し訳ない上に尊みすぎてありがとうございましたでした!!」
「とうと……??」
半ば失神しかけていたのでうろ覚えだが、柔らかな感触や女子特有の甘い香りも堪能出来た上に、何より千景とのやり取りがとてもおいしくてあれだけでご飯何杯分なのか分からない。
虚の言ってることがあまりわかっていない純朴さもとても好きです、精一杯敬わせてもらいます!!
「……郡千景よ…………さっきはごめんなさいね」
「へ?」
「捕まえて異性の部屋に連行……扱いがペット感覚だったわ。私なら冷静になれない」
「いえいえいえいえ!!とてもお世話になりました!!!」
「……感謝なのか謝罪なのか分からないけど、土下座は止めて頂戴」
「サーイエッサー!」
「ヤめて」
高嶋様超絶好き、もとい超絶ラブなヤンデレ系乙女勇者様はとても寛大だった。
女神だろうか?あ、勇者だ……拝もう、とてもとても念を込めて。
「やめなさい」
「はわぁ?!!?」
両手を合わせた途端、全く痛くないツッコミを受けてしまった。ポフンと軽く叩かれてしまい思わず赤面してアワアワしだす虚。
それを見て、なるほどと四国の勇者と巫女が頷く。
「確かにオカシなテンションと行動だな」
「んー、タマもよく皆に畏まられるけど、こりゃ尋常じゃないなー」
「びっくりだよね……でも、1メートル以内に近づかないでっていうのも分かるなぁ」
「うんうん、すっごい恥ずかしがり屋さんだよね!」
「高嶋さん……そういうことじゃないわ」
「あれ、そうなの?」
友奈だけが少し違う解釈をする中、コホンと軽く咳払いをして注目を集めるひなた。
……虚は赤面したままだが、対話の続きを始めた。
「それで、貴方は精霊と言う事でしたが……私たちの知っている精霊とはずいぶん、違いますよね?」
「あ、はい。神造、カミサマが体を作ってくれたのでこうして動いてます」
「神さま…神樹様が?」
「あー、アレは多分違うと思います」
ニヤニヤというか、ニタニタというか、どこか愉しそうな雰囲気だったカミサマを思い出す虚。
彼?彼女?は何だか目的があるようなないような、とてもフワフワした印象しか残っていない。
「神樹様以外の神さま?まさかとは思いますけど、天の……?」
「いえいえ、だとしたら自分なんか選びませんよ。自分の自由意思で動いていいって言われてますし」
人間を滅ぼそうとしている神が、人の魂を態々運んだりはしない。
アレは多分、天とか地とか云々ではない。もっと概念的な意味でのカミサマだろう。
「第三者の神、ですか……では、次に精霊と言いましたが貴方は一体何の精霊なんですか?」
「え?なんの?」
「はい。諏訪のお二人から報告は聴いています。切り札、力の強化、バリア、満開……特に後者二つは聴いたこともないです」
「ぁー」
どう説明しようかと悩む虚。バリアは身体を得た精霊の力だし、満開はもっと……三百年ほど先の未来で使われるはずの技術だ。今回は神樹様に協力を仰いで無理やり再現したに過ぎない。
暫く悩んだが、もう素直に分かり易く砕いて伝えることにした。
「えーカミサマの自作、オリジナルみたいなものです。どっからか魂を引っ張ってきて、力を設定してくれて……」
「オリジナル、ですか?」
「カミサマは空虚なる偽精霊って言ってました。まぁなんちゃって精霊みたいな感じですねーアハハ」
勇者はピンと来ていないようだが、巫女でありそういう神聖で尚且つ眼に見えない力を感じ取る力を持つ二人はコトの凄さをよく理解していた。
混乱させてしまうと悪いから言葉に出さないが、詰まる所第三者の神さまが気まぐれで起こした奇跡のような存在が彼なのだ。
しかも、何処からか引っ張ってきたと言った彼の言葉を信じるならば、彼は英雄でも妖怪の類でもない。
それこそ
勿論、何かしら基準はあったはずだがこうして会話をしてみたところ、彼自身からは神聖さも特別さも感じない。その身体は確かに神聖で潔癖であるというのに、何処までも感性は彼女たちのソレに近いモノだ。
(いえ、一番恐ろしいのはそんな急展開なのに順応している虚さんでしょうか……)
神は他人の都合をあまり考えてくれない。仕方ない事なのに不敬だと怒り、天災を巻き起こしたりもする。
今回の気紛れだって彼には急なことだったろうに、何故こんなにも落ち着いているのか、ひなた達には不思議でたまらなかった。
『設定』された際に何かあったのならともかく、それ以前からこうなのだとしたら、
だが、だからこそこうして今対話をしているのかもしれないが。
「えぇと、それで精霊に関してもっと詳しい話を伺ってもよろしいですか?」
「はい、どうぞ何でも聞いて下さいな!」
それから精霊と言う存在に関して訊けるだけのことを聞いてみた。
まず、神樹様の概念記録に登録されているひなた達の知る精霊も、同じように体を与えることで彼と同じことが出来ること。
この情報だけでも目から鱗だが、如何せん今の技術では相応に難しい。
神樹様にこの事は既に虚を通して伝わっており、何時でも身体は造れるだろう。
だが、その条件付けや何より『勇者システム』のアップデートに幾らか時間がかかりそうだった。
虚の知る精霊と言えば、携帯に登録された主を護るモノだ。
だがこの時代に登録できる精霊はおらず、一々神樹様にアクセスしている状況。
しかも未だ精霊には外殻が無いため、切り札のような形で卸して貰わないと守護も何もできない。
「この外殻、身体をつくるのにちょっと手間が要りそうですね……」
「そうなのか?」
「はい。素人換算ですが、多くの人材と時間を必要とすると思います」
「そうか……」
知ったばかりの未知の技術。巫女と技術者が総動員しなければいけないだろう。
今すぐ導入するのは、神樹様に大きな負担となりかねない。
「ですが、虚さんの御力を全員で共有することは出来そうです」
「それは本当なのか!?」
「はい。さっきおっしゃってたアプリに登録するだけですが、それだけでも共有できる力は大きいでしょう?」
「まぁ遠隔バリアが出来そうですね。強化もそうだし、切り札の影響の緩和や遮断も……」
「そんなことも可能なのか!?」
「は、はい……勿論、力がばらけちゃいますから、いざ一人に集中ってなると他がおろそかになったりしますけど」
「逆に言えば一人に集中すれば、少なくとも切り札の影響は遮断されるわけだな?」
「は、はい……ちょっと疲れますし、完璧に遮断できるかはやってみないと分からないですけど、可能です」
自分だけの切り札状態だッとはいえ、半月以上も歌野とそれを維持し続けても歌野は何の変化もなかったのだから、不可能ではないだろう。
精霊の切り札には大社も勇者も巫女も悩んできたことだった。緩和だけでも十分なのに、遮断となるとありがたいなんてレベルの話ではなかった。
「十分です。今まで碌に身を守る手段がありませんでしたから……とても助かります」
「なるほど……満開、というのは出来ないのか?」
「それは大分難しいですね。精霊から直接力をお借りするのではなく、勇者たち自身の力を極大化させるとなると……若葉ちゃん達に合わせてアプリをアップデート、いえ、必要なら一度フォーマットしてから情報を再入力して最適化しないといけないかもしれません」
「……気の遠くなりそうな作業になりそうだな」
「はい。その前に、その満開を制御するのを手伝ってくれる精霊や、そもそも力を貸してくれる神樹様の了承や規模諸々……頭が悩まされることでいっぱいです」
何だかひなたの中では色々な未来予想図が出来ているらしく、本当に頭を片手で抱えだした。
少し申し訳なく思うが、三百年は先の技術を
「ともかく今は登録してもらって、皆さんと虚さんの連携を深めてもらおうと思います」
「つまり……」
「これから訓練ですね、頑張ってください♪」
にこやかなひなたに対し、やる気十分な勇者と……。
(ゆ、勇者たちと連携、訓練……!!!)
もしかしたら、訓練の最中に昇天してしまうかもしれないくらいテンションが高くなっている精霊。
「……また変な感じになってるね、虚くん」
「んー、ミステリアスよねー」
傍から見てもおかしい彼は、一度浄化された方が良いのかもしれない。
「これからよろしくお願いしますね、虚さん」
「はい、
「「だから、土下座はしなくていいって!!」」
「……先が思いやられるわ」
超低姿勢な虚にツッコミを入れる歌野、友奈、そして呆れる千景。
彼女達と連携を深める前に、色々慣れる必要があるだろう……一々逝ってしまっては戦闘にならないのだし。
「ということで、これから虚さんは私たち、主に勇者の方々とコミュニケーションを取ってくださいね?」
「え!?」
「朝、昼、晩、ちゃーんと団体行動してくださいよ?」
「そ、そんな!?」
断言しよう、彼はきっと一日に最低でも三回は死ねるだろう。
朝のおはように、昼の彼女達の賑やかな光景に、そして晩のおやすみに……なにより、「また明日」という挨拶に。
「寝るのまで一緒と言わないだけ有難いと思ってくださいね?」
「………ぁぃ」
既にここまでの会話で十分限界ぎりぎりな彼に、ある種の死刑宣告がされた瞬間である。
彼がまともに勇者とかに転生していたら、彼の敵は紛れもなくバーテックスではなく彼女達であろうことは想像に難くない。
(精霊で良かった……)
取りあえず、白目剥きそうになっている自分を律することから始めたいと思った彼だった。
無論、意識を戻した瞬間に見えるのは勇者たちの姿なので、すぐさま元通りになってしまうため無駄な努力なのだが、彼が気づくことはない。
もとい、気付いたとしてどうしようもない。なぜならば、彼は重症なのだから。
「よし、そうと決まれば特訓だ!」
「私も付き合うわ。レッツ鍛錬!」
「二人とも、落ち着いて……」
「というか、その前に登録しないとな。えっと、これどうするんだ?」
「タマっち先輩、私に聞かないで。ひなたさん、登録のやり方は……」
「あぁ、それはですね、一度携帯を回収してからになりますから……」
「じゃぁ今日はもう訓練終わりということですか?」
「そうなりますね」
「わーい、ぐんちゃん何して過ごそっか!?」
「……高嶋さんのやりたいことで、いいわ」
(グハッ…………そうか、ここが、天……国)
彼女達を見つめる彼は、とても安らかだったという。
~ウツロん気絶後~
高嶋「……ぐんちゃんぐんちゃん」
郡「どうしたの、高島さん?」
高嶋「虚くん、寝てる……?」
郡「……いえ、これは気絶してるわね」
高嶋「私、こんな安らかな気絶初めて見るよ」
郡「私もよ。というか、普通こんな気絶しないわ」
タマ「いやー、精霊って凄いんだな!」
伊予島「タマっち先輩、多分精霊だからってわけじゃないと思うよ?」
乃木「どうでもいいが、これ起きるまで待つのか?」
上里「んー、起こそうにも手が届きませんし」
白鳥「大丈夫、数分で元に……目は覚めるわ」
藤森「元の普通の状態の虚くんって、どんなのなんだろうね……?」
白鳥「みーちゃん、深く考えても無駄よ。寧ろこれがノーマルだったらどうするの……」
藤森「……うん、取りあえずみんなお茶持ってくるね」
上里「あ、手伝います」
ガヤガヤ