機動戦士ガンダムSEED 南天に輝く星   作:ファルクラム

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Episode-02「英雄との邂逅」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 足下から、地面を噛む音と振動が伝わってくる。

 

 場所は悪路と呼ぶ事もはばかられるような、鬱蒼とした森である。中にはモビルスーツの背丈を越える木も存在している。

 

 しかしモビルスーツとは本来、このような場所で運用する事も考慮されている。そう思えば、この使い方は間違いではないのだろう。そう考えればこの機体も、本来の用途に沿った使い方をされて、さぞ満足しているのかもしれないが。

 

「ひどい・・・道ですね」

 

 キラのぼやきを聞くまでも無く、この道とも言えない道が最悪なのは、ジェスにも判っていた。

 

 バーでのやり取りから3日。

 

 フリーのフォトジャーナリストと元テロリストと言う、この上無いくらい奇妙な即席コンビは、ジェスが個人所有するモビルスーツに乗って、南米大陸奥地にある南アメリカ軍第12基地を目指していた。

 

 いや、コンビと言うからには、聊か語弊があるのかもしれない。

 

 なぜなら、この旅の道程には、2人以外に道連れが存在しているからだった。

 

《進路に問題は無い。方角は合っている》

 

 「ピボ」と言う電子音と共に、ジェスの傍らに安置されたサブモニターに、そんなメッセージが表示されている。

 

 取り外して、アタッシュケース大の状態で持ち運びする事も出来るそのモニターは、「ハチ」と言う名前の人工知能であるらしい。

 

 元々は、ジェスにこのモビルスーツを譲ってくれたジャンク屋の相棒的存在だったらしい。そのジャンク屋が拾った際、唯一、読み取れたコードが「8」だった為、その名がつけられたのだとか。

 

 そのジャンク屋は火星まで長距離旅行に行ったらしいのだが、しかし当のハチは火星行きを拒否。その際、知り合ったジェスに託され、今はこうして一緒に旅していると言うのが現状のようだ。

 

 何にしても、存在からして面白い。コンピューターでありながら実に感情豊かで、機械的な会話だけでなく、状況によって怒る事もあれば笑う事もある。コンピューターだけに様々な機能を取りそろえ、更には各種機器の取り扱いや、機体の操縦まで行う万能振りである。

 

 面白いと言えば、ジェスが「アストレイ・アウトフレーム」と呼んでいるこの機体もまた、キラの興味を引いていた。

 

 アストレイと言えば、戦争終盤にキラが所属していたL4同盟軍や、その中心母体となったオーブ軍が主力機動兵器にしていたM1アストレイの事を差しているのだが、この機体は、どちらかと言えばM1よりも、地球軍が開発した初期6Gの内の1機、GAT-X105ストライクに特徴が似ている気がする。

 

 この機体も、ハチの相棒のジャンク屋がジェスに譲ったらしい。しかし、一応は作業用モビルスーツのような体をしているが、キラが見たところ一部には戦闘用なのではないかと思える箇所がいくつも見て取れた。

 

 いずれにしても、謎の機体である事は間違いない。

 

 先述したとおり、アウトフレームは今、南米奥地にある基地へと向かっている。

 

 目的は、そこに現在、駐留しているある人物の取材を行うためである。

 

 エドワード・ハレルソン

 

 南米出身の元地球連合軍エースパイロットで、独立戦争の開戦と共に愛機を持って地球軍を脱走。今は南アメリカ軍の旗印的存在として、侵攻してきた地球連合軍相手に転戦を続けている。

 

 地球連合軍時代、愛機であるGAT-X133「ソードカラミティ」を駆り、多くのザフト機を撃退した。その飛び散ったオイルが機体に付着し、まるで返り血のように見えた事から、付いたあだ名は「斬り裂きエド」。

 

 まさに「時の人」とも言うべき存在である。

 

 本来なら、簡単に取材できるような相手ではないが、ジェスの依頼主が働きかけて、取材許可を取り付けたのである。

 

「しかし、世の中、本当に判んないよな・・・・・・」

 

 アウトフレームの操縦桿を操りながら、ジェスは少し訝るような態度でキラに話しかけてきた。

 

「何がですか?」

「だってよ、世間じゃ『ヴァイオレット・フォックス』って言ったら、泣く子も黙るテロリスト。老人から幼子まで、容赦なく殺す非道な存在って言われてんだぜ。それがまさか、俺よりも年下の子供だなんて、誰も思わないだろ」

 

 ジェスが言っている横で、ハチのモニターには過去のヴァイオレット・フォックスの活動記録・・・・・・要するに「キラの悪行」の数々が羅列されていく。

 

 CE63 パナマ基地破壊工作。

 

 CE64年8月 大西洋連邦産業理事長暗殺事件。

 

 CE65年12月 ワシントン工科大学学部棟爆破事件。

 

 CE67年5月 ルクセンブルク同時多発テロ。

 

 CE68年1月 コペルニクス、ホテル スカイパレス爆破事件。

 

 同年11月 東アジア共和国軍士官学校爆破事件。

 

 etc etc

 

 思い出しただけでも、キラ自身が背筋が寒くなりそうである。軽く10回は地獄に堕ちても尚、お釣りがくるだろう。

 

「がっかりさせて申し訳ないんですけど、生憎、本物なんですよね」

 

 そう言いながらキラは、力無い笑みを浮かべる。

 

 自分がかつて、最悪のテロリストであった事は、今となっては本当の事だったのか、他ならぬキラ自身が実感を持てなかった。

 

 勿論、犠牲になった人たちの事を忘れた事は無いが、「テロリストとしてのキラ」の役割は、組織が大西洋連邦当局の一斉掃討作戦によって壊滅した時点で、事実上の終焉を迎えている。

 

 その後も暫くの間、反動的にテロ行為を続けたのは、殆ど抜け殻が惰性で動いているにすぎなかったのだ。

 

 だから、疲れ切ったキラは地球を離れ、安息の地を求めてヘリオポリスへと渡った。もし、何事も無ければキラは、一生をヘリオポリスに身を置いたまま、ひっそりと過ごしていたかもしれない。

 

 しかし、時代は少年に安息を与える事無く、以後、キラは自身でも予想していなかったような、数奇な運命に巻き込まれていくことになった訳であるが・・・・・・

 

 それより何より、キラが現在、目下の懸案事項としているのは、嬉々としてモビルスーツを駆り、密林を踏破している目の前の青年の事だった。

 

 キラとしては、「元テロリスト」と言う自分の経歴を披露する事で、ジェスが同行願いを取り下げてくれることを狙ったのだが、何を思ったのかジェスは、ますますキラに興味を示し、半ば無理やりモビルスーツに放り込まれ、こんなアマゾンくんだりまで連れてこられてしまった。

 

 キラとしては完全に当てが外れた形である。と言うより、ジェスの本性を見くびりすぎていたのかもしれない。野次馬としての本領発揮と言うべきだろうが、元テロリストを何の躊躇いも無く同行させる根性もまた、色々どうかと思う。

 

 しかしまさか、今からジャングルを歩いて帰る訳にもいかず、仕方なくキラはジェスの取材に同行する事態となった訳である。

 

 その時、アウトフレームの足底に装備したスパイクが、岩を噛むような音を立てると同時に、機体が地面に対して背中を向けるような姿勢になった。

 

 どうやら大きな岩場を超えるらしい。

 

 作業用モビルスーツのアウトフレームには、戦闘用の機体には無い面白いギミックが装備されている。射出型のワイヤーアンカーや、足底の滑り止め用スパイクなどがそれだ。

 

「大丈夫ですか?」

「ん、何となかるだろ」

《慎重にな》

 

 尋ねるキラに対して、ジェスは軽い調子で答え、ハチがたしなめるように続く。

 

 その間にもアウトフレームは、慎重に岩山を上っていく。

 

「難儀ですね」

「まあな。自然を守るってのも、大変だよ」

 

 アウトフレームを慎重に操りながら、ジェスはキラの言葉に答える。

 

 まさか、モビルスーツで本格的なロッククライミングをやる羽目になるとは思っても見なかった。

 

 こんな場所、飛んでいけたら目的の基地まで1日程度で辿りつけるのだが、現状はこの通りである為、このまま行けば、行程にもう数日は掛かる見通しだった。

 

 その時だった。

 

 ガクン、と不吉な音が響き、次いで、岩登り中のアウトフレームは一瞬にしてバランスを崩した。

 

「《「んなッ!?」》」

 

 同時に声を上げる、キラとハチとジェス。

 

 次の瞬間、アウトフレームの巨体は100メートル近い眼下目がけて、一気に落下していく。

 

 岩の上に固定していたアンカーが外れてしまったのだ。

 

 落下していくアウトフレーム。この高さから落下したりしたら、機体が無事でも中の人間はただでは済まない。よしんば、コーディネイターのキラならどうにか助かるかもしれないが、ナチュラルのジェスは即死確定だった。

 

「どわ~~~~~~~~~~~~!?」

「は、早く、予備のスラスターの噴射を!!」

 

 自然保護だとか、悠長な事を言っている場合ではない。ここは一刻も早く姿勢を立て直さないと。

 

 そう思った瞬間、

 

《サブワイヤー射出!!》

 

 1人(?)冷静なハチの画面にそう映った瞬間、アウトフレームの膝から予備のワイヤーが射出され、先端のアンカーが岩に突き刺さり、どうにか落着前に機体を支える事に成功した。

 

「うわっ すごい、こんな事も出来るんだ・・・・・・」

 

 素直に関心の声を上げるキラ。こうして見ると、作業用モビルスーツも色々と面白い物が多いのが分かる。

 

《備えあれば憂い無し。フフフ》

 

 この事態を予測して備えていたらしいハチは、不敵な笑みを浮かべる。

 

 それを見ながら、ジェスは呆れ気味に首を振る。

 

「何なんだ、お前は・・・まあ、いい。とにかく先を急ぐぞ」

《おう!!》

「ですね」

 

 ジェスの言葉に頷きを返すキラとハチ。

 

 何はともあれ、この2人と1台による珍道中は尚も続行されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから2日ほどの時間をかけ、人跡未踏のジャングルを踏破したアウトフレームは、ようやくの思いで南アメリカ軍第12基地に辿り着く事ができた。

 

 険しい山岳地帯を越えた先にある基地は、その僻地の印象とは裏腹に、広大な滑走路をいくつも有する立派な物だった。航空機の使用が制限されているこの南米だが、それでも基地維持の為に大型輸送機が頻繁に出入りしているらしく、それでこれほど大きな基地になったらしい。

 

 目を転じれば、滑走路の脇にはモビルスーツの姿もある。あれは地球連合軍が戦争終盤に量産に成功したストライクダガーだ。キラもオーブ防衛戦以降、幾度も砲火を交わした相手である。

 

 その時、

 

「ジェス、あれを見て」

 

 キラが指差した方向に目を向けると、2枚羽のような張り出しローターを持つVTOL機が、滑走路上に降りてくるのが見えた。

 

「ザフトの輸送機・・・・・・何でこんな所に?」

 

 ジェスの言うとおり、降りてきたのはザフト軍が標準的に使用している輸送機であり、モビルスーツを1機搭載できるほか、人員や物資輸送にも使用される小型のVTOL機である。

 

 しかし、こんな所にザフトの輸送機が何の用があるのか、と2人と1台が訝っていると、輸送機の後部ハッチが開き、中から人が出て来るのが見えた。

 

 遠目にも判るその人物は、髪を短く切った女性だが、見るからに軍人ではない。物腰からして一般人であるようだった。

 

 取りあえず、キラ達も機体を降りて輸送機の方に近付いていくと、向こうの方もこっちに気付いて振り返ってきた。

 

「お、あれ、ベルナデット・ルルーじゃんか」

「誰ですか?」

《ザフト系列のニュースレポーターだ。サイン貰えよ!!》

 

 ハチの説明を聞くに、何やら有名人らしかった。キラもニュースを見ていない訳じゃなかったが、キャスターやレポーターには興味ないので、いちいち名前や顔まで覚えていない。

 

 ジェスはと言えば、早速ベルナデットに駆け寄って話しかけていた。

 

「俺はジェス・リブル。ベル、あんたの同業者でフリーのジャーナリストだ。よろしくな」

「・・・・・・もしかして、あなた達もエドの取材?」

 

 ベルナデットはジェスと、その後ろに控えているキラに胡散臭そうな目を向ける。

 

「よく、許可が下りたわね」

 

 鼻につく言い方だが、それも仕方がない。何しろ2人はこの3日間、ろくに風呂に入っていなかったので、かなり汚れている。これでモビルスーツから降りてこなければ、そこらの浮浪者と変わりがない。

 

「それより、そっちこそ、よく飛行機に乗って来れたな」

 

 南米が自然保護の名目で、上空に飛行制限を敷かれている。航空機の使用には重大な規制が掛けられている。だからこそ、キラ達もわざわざジャングルを踏破すると言う面倒な方法を取らざるを得なかったのだ。

 

「私達はプラントの正式な代理人として取材するのよ。ザフト軍が空路を開けてくれたの」

 

 成程。フリーで活動する人間と国家公認では、待遇はこうも違う物であるか。

 

 とは言え、ジェスはそれよりも、さっきから気になっていた事を口にしてみた。

 

「あんた、テレビで見るよりもだいぶ大きいな」

 

 そう言った瞬間、

 

 先を歩いていたベルナデットが、カチン、と言う擬音と共に動きを止めた。どうやら、本人も気にしている事であったらしい。

 

 しかしベルナデットは、初対面の無礼男に対して、ジャーナリストならではの鉄の自制心を発揮すると、込み上げかけた怒気を飲み込んだ。

 

「・・・・・・あなた達こそ、身だしなみには注意した方が良いわよ。そんな汚い姿では、取材相手に失礼よ」

 

 そう言うと、1人でさっさと歩いて行ってしまう。

 

 顔を見合わせるキラとジェス。

 

「何か、怒らせるような事したか?」

「さあ?」

《腹でも減ってるんだろ》

 

 女心が致命的に理解できない2人と1台は、そう言って首をかしげるのだった。

 

 そこへ、南米軍の軍服を着た1人の青年が、駆け寄ってくるのが見えた。

 

「ああ、お待ちしていました。ジャーナリストのルルーさんと、リブルさんですね」

 

 恐らく20代前半と思われる、人のよさそうな顔付の青年は、駆け寄ってくると、南米軍式の敬礼で出迎えた。

 

「私は南アメリカ合衆国陸軍、第12方面軍所属、アルベルト・コスナー少尉です。お二人が来るのをお待ちしていました」

 

 どうやら事前に、今日ジェス達が来る事の根回しはされていたらしい。

 

 と、そこでアルベルトは、1人、予想外の人物がいる事に気付いてキラに目を向けた。

 

「あの、あなたは・・・・・・」

「ああ、こいつは俺の助手さ。悪いな、急に雇う事になったんで連絡が行ってなかったと思う」

 

 慌ててフォローに入るジェス。こんな辺境の、それも紛争の渦中にある基地である。イレギュラーな事態はなるべく遠慮したいところなのだろう。

 

 それに対してアルベルトは、しばらく考え込むような素振りをしてから、納得したように頷いた。

 

「・・・・・・成程、判りました。では、この件は私の方で上に報告を入れておきます。あとでジェスさんには、追加の書類をいくつか書いてもらう事になりますが、宜しいですね?」

「ああ、それで構わない。悪いな」

 

 アルベルトの提案に、快く引き受けるジェス。元々、予定にない事をしてしまったのはこちらである。事を穏便に済ませる為にも、多少の手間は惜しむべきではなかった。

 

「では、ご案内します。隊長は既にお部屋の方で待機していますので」

 

 そう言って歩き出すアルベルトに先導され、3人と1台は基地の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 軍事拠点らしく、内部は素っ気ない簡素な作りになっている。

 

 このようなジャングルの奥地に作られた基地である。快適さよりもむしろ実用性を重視したのだろう。

 

 司令部の建物に入ってしばらく歩くと、アルベルトはあるドアの前で立ち止まった。

 

「隊長はこちらにいらっしゃいます。どうぞ」

 

 アルベルトに促されるまま、執務室と思われる部屋の中へと入る。

 

 緊張に包まれる。

 

 相手は「斬り裂きエド」などと言う、不吉な異名で呼ばれる程の存在である。性格は残忍極まりなく、粗野で、人を人とも思わないような、そんな人物なのではないだろうか?

 

 キラは、身構えながらドアを潜る。

 

 自分はジェスの護衛役として雇われている。もしエドが異名通りの凶悪な人物であるなら、自分はジェスを守る為に最善を尽くさなくてはならないだろう。事によっては一戦交える覚悟も必要である。

 

 緊張の面持ちで視線を上げた一同。

 

 そこには、

 

「よう、よく来てくれたな!! まあ、自分の家だと思ってくつろいでくれ。何か食うか?」

 

 浅黒い顔立ちの青年が、ハンバーガー片手に陽気に手を上げているのが見えた。

 

 拍子が、一気に抜ける。

 

 話の筋から察するに、彼がエドワード・ハレルソンなのだろうが・・・・・・

 

「ちょ、この人で間違いない? 実は替え玉、とか・・・・・・」

《ウム、間違いないぞ。気持ちは判るが》

 

 ヒソヒソと話し合うキラとハチ。

 

 最前まで感じていたイメージが、一発でガラガラと崩れていく。

 

 実際のエドワード・ハレルソンは、剣呑な雰囲気など一切感じさせない青年であった。唯一、右目の上に額の部分に、古い切り傷の跡が残っているのが歴戦の戦死らしい貫禄を醸し出してはいるが、それとて、青年の発する圧倒的に陽気な雰囲気を壊すには至っていない。

 

「それにしても・・・・・・」

 

 エドは、3人を順繰りに見回してから、遠慮なく口にした。

 

「綺麗なお嬢さんと・・・・・・汚い兄ちゃん達だな」

 

 先程、ベルからも言われた事をハッキリ言われてしまう。

 

 恐縮するキラとジェスを見て、エドは大いに笑い声をあげた。

 

「まあ、気にすんなよ。女性が汚いのは困るが、男は綺麗だろうが汚かろうが、俺には関係ないし。第一、俺も人の事は言えないしな!!」

 

 そう言って呵々大笑するエドの様子に、一同は唖然とするしかなかった。

 

 その後は、予定通り取材開始となった。

 

 もっとも、エドは多忙である為、それほど時間が取れない。そこで、ジェスとベルは2人同時にインタビューを行うと言う事になった。

 

 ベルは流石、プラントを代表するレポーターと言うべきか、繰り出す質問がどれも鋭い。

 

 先のヤキン・ドゥーエ戦役におけるエドの活躍に始まり、この独立戦争の意義、戦後における南米の立場、現在の地球圏における政治情勢等を斬り込んで行く。

 

 それに対してエドは一つずつ答えていく。

 

 しかし、その態度はあくまで陽気で、時には質問をしたベルを茶化すような事までしてくるため、聞いていて可笑しな気分になってくる。

 

 やはり、第一印象の通り、エドはなかなか気さくな人物であるらしかった。

 

 とは言え、

 

 ベルの質問に答えるエドの様子を見ながら、キラは誰にも気づかれないようにそっと、目を伏せた。

 

 陽気さを前面に出したエドの態度は、キラに否が応でも、ある人物を思い起こさせたのだ。

 

 ムウ・ラ・フラガ

 

 かつてヘリオポリスで知り合った、地球連合軍の士官。陽気で気さくな性格で、キラにとっては兄貴のような男だった。

 

 しかし、そのムウも今はいない。

 

 最終決戦となった第2次ヤキン・ドゥーエ攻防戦の折、愛する女性を守って虚空に散華してしまったのだ。

 

 エドの陽気な態度は、どこかムウにも通じるものがあり、否が応でも彼の事を思い出さずにはいられなかった。

 

 そんな事を考えているとベルのインタビューは終わったらしく、エドはやれやれとばかりに肩を回しはじめた。

 

「お嬢さんが政治とか戦略とか、難しい事聞くから肩凝っちまったぜ」

 

 言ってから、エドは促すように視線をジェスへと向ける。

 

「兄ちゃんは、殆ど口を挟まなかったけど、他に聞きたい事は無いのか?」

 

 キラは先ほどから、その事が気になっていた。

 

 しゃべっているのはベルばかりで、ジェスは時々、捕捉質問をするくらいである。

 

 もっとも、ベルの質問が的確過ぎた為、ジェスとしては聞きたい事はだいたい聞いてしまった、と言うのが本音である。

 

 とは言え、このままではあまりにも立つ瀬がないのも事実である。

 

 考えた末に、ジェスは一つの質問をぶつけてみた。

 

「それじゃあ、好きな女性のタイプは?」

 

 聞いた瞬間、場の空気が凍り付いたのは言うまでもない。

 

 エドもベルも、そしてキラも呆れ気味にジェスを見ている。

 

 ハチも《おい!》とツッコミを入れる中、

 

「ハ~~~ハッハッハッハッハッハ!!」

 

 一拍置いて、エドの口から高笑いが迸った。

 

「お前面白いな!! そんな質問されたのはプライベート以外では初めてだよ!!」

「す、すいません」

 

 力強い手で肩をバンバンと叩から、恐縮するジェス。

 

 対してエドは、フッと、それまでとは少し違う感じの笑みを浮かべ、どこか懐かしむような口調で語った。

 

「良いさ、答えてやるよ。前にその質問を、俺にした女だ。そいつが俺の好みの女だったのさ。自分の胸に飛び込んできてくれる女が最高の女さ」

 

 表情を見ていればわかる。エドが今でも、その女性の事を愛していると言う事が。

 

 もしかしたら、何かやむにやまれぬ事情があって、別れてしまったのかもしれなかった。

 

 ジェスがさらに、何か言おうとした時だった。

 

 突然、低く唸るようなサイレンが耳に聞こえてくると同時に、扉が開いてアルベルトが駆け込んで来た。

 

「隊長、大変です!!」

 

 アルベルトはエドに駆け寄ると、何事かを耳打ちした。

 

 報告を聞くと同時に、エドの顔つきが変わるのが分かった。先程まで見せていた陽気な好青年の印象は消え、獰猛な獣のような、剣呑な雰囲気が混じった。

 

「どうしたんだ?」

「どうやら、連合がここを嗅ぎ付けたらしい。俺は応戦に出るから、あんたらは早く逃げろ!!」

 

 ここはジャングルの奥地にある、いわば秘密基地だ。しかし地球軍は、どうやらここにエドが潜伏している事を察知して強襲を仕掛けて来たらしい。

 

「アンタは逃げないのか?」

「逃げたいね。逃げるってのは、楽に戦いに勝つ一番の方法さ」

 

 尋ねるジェスに対して、エドは不敵な笑みを見せる。

 

「だが、今はダメだ。背負っている荷物が重すぎるからな」

 

 エドは南米軍の象徴である旗印である。エドが逃げれば、それだけで南米軍は瓦解の危機にさらされる。

 

 いわばこの青年の双肩には、南米の全てが掛かっているのだ。

 

 その事を感じ取り、ジェスは顔を上げた。

 

「俺は逃げない。ぜひ、アンタの戦いを取材させてくれ!!」

 

 この男を追えば、きっと何か、これまでとは別の物が見えてくるかもしれない。ジェスにはそう思えてならなかった。

 

「好きにしな。ただし、命は粗末にするなよ」

 

 言い捨てるようにして駆け出すジェス。

 

 その背中を見送りながら、キラもまた何かを決意したように瞳を吊り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 格納庫から、赤く塗装された機体が姿を現す。

 

 双眼に、2本のブレードアンテナを持つ、所謂「ガンダム顔」の機体は、背には2本の長大な剣を装備し、接近戦に対応した武装を持っている。

 

 GAT-X133「ソードカラミティ」

 

 元々はフリーダムに匹敵するほどの重火力型として開発されたカラミティだったが、あえて火器の大半をオミットし、代わりにソードストライカーにも装備されたシュベルトゲベール対艦刀を中心に接近戦武装を装備して完成したのが、このソードカラミティである。

 

 そして、エドが「斬り裂きエド」と言う異名で呼ばれる事になった因縁ある機体である。

 

 キラ自身、オーブ防衛戦とメンデル会戦でオリジナルのカラミティと交戦した経験がある為、あの機体の性能は良く知っている。

 

 配置に着くカラミティ。

 

 その後方には、ガンカメラを構えたジェスのアウトフレームと、ベル達プラントの取材クルーが乗ったジープの姿があった。

 

 だが、キラは1人、彼等とは少し離れた場所に佇んで、戦闘の開始を待っている。

 

 程無く、雲を突き破るようにして、上空に機影が姿を現した。

 

 大きな翼をもつ、鳥のような外見をした機体である。

 

 こちらは、カラミティと同時期に開発されたGAT-X370「レイダー」の制式仕様機である。コードも試作機の「X」が外されGAT―333になり、変形機構や武装がオリジナルのレイダーに比べて簡略化されているのが特徴である。

 

 数は3機。頭上を取られている上に、掩護する機体も無いエドの不利は明白である。

 

 右のシュベルトゲベールを抜き放ち、構えるエドのソードカラミティ。

 

 先制は、レイダー側によって成された。

 

 翼下のミサイルを放つレイダー。

 

 迫る巨大なミサイルを、エドは刀身で切り払うと同時に、地を蹴って駆ける。

 

 ミサイル発射体勢のまま降下を続けるレイダー。

 

 それに対してソードカラミティは、肩のハードポイントからマイダスメッサー ビームブーメランを抜き放ち投げつける。

 

 レイダーはとっさに上昇を掛けようとするが、遅い。

 

 フライトユニットにもなる下翼部を斬り裂かれ、バランスを崩すレイダー。

 

 それを逃さず、スラスターを吹かしたソードカラミティが、シュベルトゲベールを振り翳して斬り掛かる。

 

 不用意に低空に舞い降りて来ていたレイダー。なまじ航空機型で、直進スピードが高すぎる事が完全に災いした。

 

 二刀に構えたシュベルトゲベールを振り抜いた瞬間、レイダーは両翼を斬り飛ばされた。

 

 そのまま揚力を保てず、地面に落下するレイダー。

 

 これで1機。

 

 しかし、空中に飛び上がってしまったソードカラミティは、身動きがほとんどできなくなる。

 

 そこへ突っ込んでくる、2機目のレイダー。空戦能力の低いソードカラミティを仕留めるチャンスである。

 

 しかしエドは、その動きも読んでいた。

 

 左腕に装備したロケットアンカーを射出。レイダーの顔面を捉える。

 

 そのまま引き寄せると同時に横薙ぎに一閃される剣戟。

 

 豪剣の一撃が、レイダーの胴体を両断する。

 

「上手い・・・・・・・・・・・・」

 

 鮮やかな手際の良さに、見ていたキラも思わず感嘆の声を上げる。

 

 地球軍で、そしてL4同盟軍においてエースとして鳴らしたキラから見ても、エドの戦闘技術には驚嘆する物を感じずにはいられなかった。

 

 最後の1機となったレイダーは反転し、その場を飛び去って行く。数で攻めても勝てなかった事から、エドには敵わないと判断したのだろう。賢明な判断である。

 

 着地するソードカラミティ。

 

 しかし、戦いはまだ終わってなかった。

 

 去り際に、レイダーはゴミ捨て宜しくミサイルを撃ち込んで来たのだ。

 

 とっさの事で、流石のエドも反応が遅れた。

 

 着弾したソードカラミティの足元が崩れ、崖下へと落下していく。

 

 落ちていくソードカラミティ。

 

 もし落着すれば、機体は無事でもエドは重傷を負いかねない。

 

 その時だった。

 

 それまで状況を撮影していたアウトフレームが、カメラを置いて、更に背中に装着したバックホームもパージすると、全速力で駆け寄る。

 

「ジェス!!」

 

 声を上げるキラ。

 

 ジェスは背部のクレーンにナイフを装備し、更にそれを地面に突き刺す事で機体を固定すると、作業用ワイヤーを伸ばしてソードカラミティを落着前にキャッチする事に成功した。

 

 見ていたキラも、思わず安堵する。

 

 恐らくハチのサポートもあったのだろうが、ジェスのとっさの判断力が光る光景である。

 

 何とか事無きを得たエド。

 

 しかし、その状況を好機と判断したのだろう。最後のレイダーが、反転して再び向かってくるのが見えた。

 

 恐らく身動きが取れなくなったソードカラミティを、今度こそ仕留める気なのだろう。

 

 このままやられるのか?

 

 誰もがそう思って絶望する中、

 

「どうやら、無駄にならなかったみたいだね」

 

 1人冷静に、キラは足元のガンケースを開くと、中から大ぶりなライフルを取り出して、手早く組み立てる。

 

 対装甲大口径狙撃ライフル

 

 装甲を張り巡らせた車両や機体を撃破する為に使う、携行火器である。こうなる事を想定して、基地の武器庫から拝借してきておいたのだ。使わなければあとでこっそり返しておこうと思ったのだが、どうやら使わざるを得ない状況のようである。

 

 口径は15・5ミリ。その重量から言って、立射は難しい。

 

 キラは銃身の二脚を展開して自身もうつ伏せになりながら、伏射の姿勢でスコープを覗きこむ。

 

 ボルトを引き、薬室に弾丸を送り込む。

 

 装弾数は1発。

 

 1発で充分、と言うより、1発で仕留められなければ、反撃を喰らってこちらがやられるのは必定だ。

 

 相手はモビルスーツ。しかもレイダーはトランス・フェイス装甲を装備しており、物理攻撃には高い耐性を持っている。普通に考えれば、歩兵用の携行火器で倒せる相手ではない。

 

 だが、

 

「・・・・・・やれる」

 

 長年戦い続けて来たキラの勘が、可能だと告げていた。

 

 レイダーは、ソードカラミティとアウトフレームを狙って降下してくる。

 

 その一瞬を見定め、

 

 キラはライフルのトリガーを引き絞った。

 

 打ち放たれる大口径弾。

 

 次の瞬間、時間の流れが元に戻る。

 

 放たれた弾丸は真っ直ぐに飛翔し、次の瞬間、レイダーの頭部、カメラアイに相当する部分に真っ向から命中した。

 

 より威力の高い、対装甲バズーカや誘導性の高いロケットランチャーをキラが選ばなかった理由がこれである。

 

 物理防御の高いTP装甲相手に、バズーカやロケットランチャーを当てても意味はない。それよりも、モビルスーツの頭部はセンサーが集中している関係で、他の部位よりも脆い構造をしている。故に、高い照準と低弾道性を持ち、精密な照準が可能な狙撃ライフルで頭部を狙い撃てば、敵の「目」を潰す事ができると考えたのだ。

 

 狙いは成功で、予期しなかった攻撃でカメラアイを潰されたレイダーは、このままでは戦いにならないと思ったのだろう。再反転して飛び去って行く。

 

 その姿を、キラは満足げに見送るのだった。

 

 

 

 

 

Episode-02「英雄との邂逅」      終わり

 

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