機動戦士ガンダムSEED 南天に輝く星   作:ファルクラム

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Episode-03「霧が映す想い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テレビには、双剣を振るう深紅の機体が大暴れしている様子が、鮮明に映し出されている。

 

 先日、第12基地で行われた戦闘の様子である。

 

 エドの駆るソードカラミティが、上空を乱舞するレイダーを華麗に切り裂いていく様子は圧巻と言っても良く、その姿にはただただ感嘆しか出てこない。

 

 陸戦型モビルスーツと空戦型モビルスーツ、1対3という不利な状況をものともせず敵を斬り捨てて行くエドの戦闘センスは見事と言えるだろう。

 

 だが、

 

「あいつ・・・・・・俺が助けたシーン、カットしやがった・・・・・・」

 

 見ていたジェスは、悔しそうに歯噛みしながら呟く。

 

 キラ、エド、ジェス、ハチが並んで見ているのは、プラント国営放送による映像で、先日のベルの取材によるものであるが、戦闘終盤、アウトフレームがソードカラミティを救助するシーンがスッパリとカットされていたのだ。

 

「しょうがないだろ、主役は俺なんだから」

 

 悔しそうなジェスに対して、一緒に見ていたエドはそう言って肩を竦める。エドとしては、自分の活躍シーンが格好良く映されていたのが満足なのだろう。

 

 そんな2人のやり取りを見て、苦笑するキラ。

 

 キラとしては、自分がレイダーを狙撃したシーンもカットされていて、丁度良かったと思っている。もし、元テロリストの自分が世界的な放送に顔が出て、そこから面が割れでもしたら堪った物ではなかった。

 

 もっとも、あの後、エドから猛烈に南米軍へスカウトされてしまったのは、予想外の事であったが。勿論、丁重に断っておいた。

 

 そんな事を考えていると画面が切り替わり、マイクを持ったベルが登場した。

 

《たった1人の兵士に苦戦する連合。これでは最早、連合は我々の敵とは成り得ない存在だと言えるでしょう。『切り裂きエド』を倒さない限り彼等に未来は無い。そう断言できます。以上、ベルナデット・ルルーがお伝えしました》

 

 そう締めくくると、また画面が切り替わり、今度は別のニュースへと移る。

 

 だが、最後のベルの言葉を聞き、ジェスは渋面を作ってモニターをにらみつけた。

 

「何だよこれ・・・・・・これじゃあ、プラントを『よいしょ』するプロパガンダ放送になってるじゃないか」

 

 言ってから、勢い込んで視線をエドに向ける。

 

「それに、あんな放送されたんじゃ、連合の奴ら、あんたを必死で潰しにくるぜ」

 

 確かに、とキラも心の中で同意する。

 

 ベルの放送内容は、エドの活躍をダシにしてプラントの優位性をアピールしているのだが、これでは、ジェスの言う通り、地球軍はエド討伐に躍起になる事だろう。何しろ、エド1人で地球軍を押しとどめているかのような内容であった為、そのエドに苦戦させられている地球軍としては、面目丸つぶれである。

 

 いかにエドでも、1人で地球軍の猛攻を支えるのは不可能である。それは、地獄のようなオーブ防衛戦を経験したキラには嫌というほど分かっている。たった1人のエースで、津波のような大軍を押しとどめるのは不可能なのだ。

 

 だが、とうのエドはと言えば、平然とした態度を崩す事なく、手にしたコーヒーカップを口へと運んだ。

 

「良いんだよ、それで」

「え?」

「南アメリカは広い。俺1人で全土を守るなんて無理だ。だから、敵の方が俺を目標に集まってくれた方が戦い易い。あのお嬢ちゃんも、ちゃんとそれが分かっていてレポートしてくれたのさ」

 

 その言葉を聞いて、思わずキラは目を見開いた。

 

 エドは、自分が全ての敵を相手に戦うつもりでいるのだ。確かに先述したとおり、広大な南米を1人の英雄が守るのは不可能である。

 

 だが、敵がエドのみを狙って戦いを仕掛けてくるなら、まだ戦いようはあると考えているのだ。

 

 そして、その事を見越してレポートの内容を組んだベルの先見もまた見事と言える。

 

「・・・・・・気付かなかったよ」

 

 ジェスは消沈したように呟く。同じジャーナリストとして、より高い視点で物事を見ているベルの思惑に気付けなかった事が悔しかったのだろう。

 

 そんなジェスを慰めるように、エドが笑いながら話しかける。

 

「良いさ。それよりお前ら、いつまで俺に付きまとっているんだ?」

 

 エドは現在、南米軍の次の拠点に向けて移動している最中である。第12基地は地球軍に場所が割れてしまった為、使えなくなってしまった。そこで、味方が多く駐留しており、援護が期待できる拠点に移動しているのだ。

 

 厚かましくも、それに同行してきた2人と1台だったが、

 

「俺はあんたの全てが見たいッ 少なくともこの戦いが終わるまでは見届ける心算だ!!」

 

 勢い込んで、エドに言い募るジェス。

 

 対してエドは、やれやれとばかりに頭を抱える。

 

「早くこの戦いが終わってほしいって、こんなに強く思ったのは初めてだよ」

 

 がっくりと肩を落とすエド。

 

 と、言う事は、必然的にジェスに付き合う形でキラとハチも残留が確定的となったわけである。

 

「て言うか、僕達の意見は聞かないんだね?」

《そういう奴さ》

 

 そう言うとお互い、ため息交じりに苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 その頃、北米カリフォルニアにある、南アメリカ侵攻軍の前線基地では、数人の人物に招集が掛けられていた。

 

 地球連合軍は南アメリカ合衆国に対して海上封鎖を行い、連日にわたって攻撃を仕掛けているものの、件の自然保護条約と、巧みに地形を活かしてゲリラ戦を仕掛ける南米軍の前に、思うように戦果が上がっていなかった。

 

 アマゾンが広大かつ複雑に広がっている事から大部隊の大量投入ができず、更に視界が効かない事から火力戦を仕掛ける事も出来ない。更に飛行制限まである為、大々的な爆撃を仕掛ける事も出来ない。まさに南米と言う場所は、大兵力を誇る地球軍にとっては、却って相性の悪い場所であると言えた。

 

 そして何よりも忌々しいのは、エドワード・ハレルソンの存在だった。

 

 かつては地球軍として同じ釜の飯を食ったあの男が、今や南米軍にとって希望の星となっているのは皮肉な成り行きである。

 

 そこに来て、先に行われたプラントの国営放送である。

 

 エドの存在を引き合いに出す事によって地球軍の評判を貶めたあの放送の存在により、南米軍の士気は大いに上がり、逆に地球軍は厭戦気分が蔓延するのも時間の問題だと思われた。

 

 その状況を打破する為、今日、4人の人物が招聘された。彼等は皆、「斬り裂きエド」を抹殺する為に選ばれた刺客達である。

 

「これ以上、奴を野放しにしておく事はできん」

 

 錚々たるエース達を前にして、司令官は厳しい口調で告げる。

 

 《白鯨》ジェーン・ヒューストン

 

 《月下の狂犬》モーガン・シュバリエ

 

 《乱れ桜》レナ・イメリア

 

 いずれ劣らぬ、一騎当千の猛者達である。

 

 そしてもう1人。

 

 3人とは少し離れた場所で、壁に寄りかかって立つ人影がある。

 

 3人と比べても一際若く、まだ少年と言っても良いくらいの外見だが、顔には大きめのサングラスを掛けているせいで、表情まで窺い知る事はできない。

 

「可及的速やかに奴を討ち、この馬鹿げた戦争を終わらせるのだ」

 

 基地司令の言葉に、ジェーン、モーガン、レナの3人は静かな闘志を燃やして頷きを返す。

 

「優秀なパイロットでしたのに・・・・・・」

「昔から、自分勝手な奴さ」

「裏切者は許さない・・・・・・」

 

 レナは哀嘆を込めて、モーガンは皮肉を吐き捨てるように、ジェーンは隠しきれない憎しみを抱いて、それぞれ、来たるエドとの戦いに思いを馳せる。

 

 そんな中1人。

 

 何も話さない少年に、司令官は睨みつけるような視線を向ける。

 

「お前の任務は、3人の支援だ。良いな? ボアズで瀕死の重傷だったお前を拾い、尚且つ、裏切者だったにもかかわらず軍にまで入隊させてやった、我々の恩を忘れるなよ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 司令の言葉に対して、少年は無言のまま、ただ視線を外して部屋を出て行く。

 

 やがて、4人が出て行ったのを確認するように、別の人物が入れ替わって入ってきた。

 

 燃えるような赤い髪をした男で、目はどこか状況を皮肉げに見ているように細められ、口元には薄ら笑いが浮かべられている。

 

 顔立ちそのものは端正と言っても良いが、どこか雰囲気的に危険な物を感じずにはいられない男である。

 

「お前のやる事は判っているな?」

「勿論ですとも」

 

 司令官の問いかけに対して、男は慇懃無礼に返事をする。

 

「馬鹿共が乱痴気騒ぎをしている内に、部隊を率いて出撃しますよ。任せてください。連中が気付く頃には、あらかた終わっているでしょうから」

 

 男はそう言って請け負う。

 

 司令官は、初めからエド1人を狙ってこの作戦を立てた訳ではない。エース達が刺客としてエドを押さえる一方で、特殊部隊を南米に潜入させ破壊工作を行う事が真の目的だったのだ。

 

 戦線維持の大半をエドに依存している南米軍の戦力では、地球連合軍の精鋭に敵し得ないはず。

 

 これで、この戦争も一気に片が付くであろうと思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベルの放送から数日が経過したある日。

 

 南米軍の新たなる拠点に移動したジェス達の元に、奇妙な客が訪れた。

 

 ジャンク屋組合(ギルド)から来たと言うその女性は、妙に間延びした口調で自己紹介と作業内容を伝えると、何やらアウトフレームのバックホームに乗り込んで、何かの作業を始めたのだった。

 

 その様子を、キラ、ジェス、エド、ハチの3人と1台は、アウトフレームの足元に集まって見上げていた。

 

「いったい、何を始めたの?」

 

 訝るキラ。

 

 ジャンク屋の女性は、既に作業を始めて1時間以上も、何かの作業に没頭している。状況が見えないだけに、機体の持ち主であるジェスは不安な様子だった。

 

《心配無い。装備のパワーアップだ》

「装備ねえ。ミサイルでも積むのか?」

 

 自信たっぷりなハチの言葉に、エドも首をかしげながら尋ねる。

 

 それを聞いていたジェスは、バックホームに向かって声を上げる。

 

「おい、武装とかはやめてくれよ!! こっちはジャーナリストなんだからな!!」

 

 アウトフレームには、いくつか武器に転用できる装備が施されてはいるが、基本は非武装の作業用モビルスーツである。唯一武器らしいものと言えば、対装甲ナイフ・アーマーシュナイダーくらいの物だが、それとて機体を固定したりするのに使う程度である。

 

 すると、ジェスの声にこたえるように、バックホームの中から返事が返って来た。

 

「あーい。あ、だいたいできました~ ちょっと見てくださ~い」

 

 間延びした声に誘われるように、バックホームの居住区に上がる一同。

 

 そこには、

 

 人1人が寝そべって入れる程度の大きさを持った、強化プラスチック製と思われる桶が鎮座していた。中には程よい暖かさの湯気を放つお湯が張られていた。

 

「お風呂です~」

「いや、見りゃ判るが・・・・・・」

 

 あまりと言えばあまりにも予想の斜め上を行く光景に、呆然としたままツッコミを入れるエド。

 

 どうやら先日のアマゾン踏破の際、ろくに体を洗う事ができなかった事を考慮し、ハチがジャンク屋組合に発注を依頼した物らしかった。

 

 確かに、身ぎれいにしておく事も、取材を円滑に行う上で必要な事かもしれなかった。

 

「お湯の温度調節は、お風呂とコックピットの両方でできます。パワー残量がレッドゾーンに入ると、お風呂がぬるくなりますので、お風呂優先にもできますが、どうしますか?」

「・・・・・・そのままで良いよ」

 

 ややげんなりした調子で答えるジェス。

 

 バッテリー残量が乏しい時に、いちいち風呂の心配をするほど阿呆ではなかった。

 

 作業を終えた女性が、自分専用の機体に乗って去って行くのを、キラ、ジェス、エドの3人は、やや脱力した感じで見送っていた。何となく、あのジャンク屋の女性が発する緩い空気に充てられてしまった感がある。

 

「何か、トロそうな姉ちゃんだったが、本当に大丈夫なのか?」

「どうだろう? ただ、お風呂を取り付けて行っただけだし、たぶん大丈夫なんじゃないでしょうか?」

 

 不安しか感じないエドに、キラはそう言っている。

 

 とは言え「トロそう」と言うイメージはキラも共有するところであり、正直、これが元でアウトフレームが誤作動でもしようものなら目も当てられないのだが。

 

 しかし、そんな不安を払拭するように、ジェスの手元で「ピッ」と言う電子音が響いた。

 

《何を言っている。彼女はユン・セファン。あのレイスタの設計者だぞ!!》

 

 レイスタとはジャンク屋組合が開発した作業用モビルスーツで、ユンが乗って帰った機体は、そのカスタム機に相当する。元々はオーブ防衛戦の際に大破、放棄された多数のM1アストレイのパーツを元に組み上げられた機体であるが、その多機能高性能振りは内外から好評であり、戦闘目的以外であるならレンタルも行われている。ジェスもアウトフレームを譲り受けるまでは、度々使用していた機体である。

 

「なるほど、人は見かけによらないな」

 

 エドは感心したように言ってから、もう一度、バックホームに目を向けた。

 

「しかし、モビルスーツに風呂とはね」

「ちょっと、考え付かないですよね」

 

 ぼやき気味のエドの言葉に、キラは苦笑しながら同意する。

 

 とは言え、風呂の有る無しで、居住の快適さがだいぶ変わってくるのは事実である。分けても、ある意味、「客商売」と言っても良いジャーナリストにとって、身だしなみを整える事も重要な要素である。

 

「せっかくだし、入ってみるか」

《おう!!》

「いいねえ、そのノリ」

 

 早速服を脱ぎ始めるジェスに、ハチとエドがはやし立てる。

 

 だが、ジェスが半ばまで服を脱いだ時、基地全体に轟くように警報が鳴り響いた。

 

「警報!?」

 

 瞬時に警戒を顕にするキラ。警報が鳴ったと言う事は、戦線に何らかの動きがあったと言う事だ。

 

 見れば、エドも鋭い眼差しをしている。

 

「・・・・・・どうやら、仕掛けた網に敵が掛かったな」

 

 先の第12基地での戦闘から数日。そろそろ、地球軍が何らかのアクションを起こす頃合いと思われた。

 

「出撃する」

「あ、おい、エド、待てよ!!」

 

 慌てて服を着ながら追いかけるジェス。どうやら、今回も戦闘の取材として同行するつもりのようだ。

 

「僕達も行こう」

《おう、発進準備だ!!》

 

 その後から、ハチを抱えたキラも続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南米大陸の太平洋側沿岸には、しばしば濃密な霧が発生する。

 

 地元の住民からは「ガルーダ」の名前で呼ばれる霧は、南極大陸から流れてきた海流が、南アメリカの温暖な気候に温められる事によって発生する。

 

 視界はほぼゼロになり、ほんの数メートル先にある物体すら視認は困難となる。航空機や船舶にとっては魔の霧と言える。この霧のせいで、今でもこの海域では海難事故は頻発している。

 

 反面、Nジャマーの影響で電子機器がほとんど意味を成さなくなった昨今において、軍事行動を起こす側からすれば天然のステルスになると言う訳だ。

 

「すごい霧だけど、撮影の方は大丈夫?」

「流石に、ちょっときついかもな・・・・・・」

 

 カメラの微調整をしながら、ジェスは尋ねるキラに応える。

 

 視界が効かないと言う事は、当然、アウトフレームのガンカメラも役に立たないと言う事だ。

 

 だが、その程度で諦めたのでは「野次馬ジェス」の名が廃ると言う物だ。

 

「こんなチャンス、滅多に無いんだ。絶対スクープをモノにして、あのベルの鼻を明かしてやる!!」

《何にしても、やる気があるのは良い事だ》

「そうだね。付き合わされる方は堪った物じゃないけど」

 

 そう言って、肩を竦めるキラとハチ。

 

「諦めたら終わりだ。根性で何とかして見せる!!」

 

 そう言うとジェスは、本当に馬のように鼻息を荒くする。

 

 この男なら、本当に根性で何とかしそうではあるが。

 

 アウトフレームは現在、シューティングコートと言う特殊な布状の素材で機体全体を覆っている。これは複数の色を持つ迷彩装備で、今回のように戦闘シーン等を取材するのに使う物だ。

 

 現在、周囲の霧に合わせて白いコートを展開している。これである程度距離を置いておけば、戦闘に巻き込まれる事も無いはずだった。

 

「そう言えば・・・・・・」

 

 そこでふと、キラは前方に佇むソードカラミティを注視しながら呟く。

 

「エドは網を張ってたって言ったけど、敵がここから来るって、どうして判ったのかな?」

 

 南米は広い。簡単に網を張ると言っても、精密な索敵網を形成するのは無理がある。

 

 にも拘らずエドは、敵が必ずこの霧を利用して上陸するであろう事を先読みしていた事になる。

 

 いったい、そう考えるに至った要素はどこにあるのか?

 

 エドは何も言わない。

 

 ただ、佇むソードカラミティのコックピットで目を閉じ、何かを待つように沈思している。

 

 どれくらいそうしていただろうか?

 

 全くの唐突に、

 

 それは現れた。

 

 突如、崖下の海面が割れ、巨大な機影が踊り出る。

 

「あれは!!」

 

 見覚えのある姿に、キラは声を上げる。

 

 頭をすっぽり覆うカブトガニのようなユニットと、そこから左右に突き出した装甲。手には長大な槍を装備している異形の姿。

 

 装備に若干の違いはあるが、それはかつて対峙した事もある機体である。

 

 GAT-X252「フォビドゥン」

 

 かつての初期6Gの内、ブリッツが持っていたミラージュコロイドの技術を応用し、ビームを偏向する性質を有している機体で、その為、自機が放ったビームをありえない方向に捻じ曲げたり、逆に飛んできたビームを明後日の方向に逸らすなどの戦術を可能としている。

 

 ビーム兵装主体のイリュージョンでは、かなり苦戦させられたのを覚えている。

 

 あの機体はフォビドゥンをベースに、ゲシュマイディッヒパンツァーの偏向作用とTP装甲の防御力を利用して水中用に改装した機体である。

 

 GAT-X255「フォビドゥンブルー」

 

 ザフト軍の海戦型モビルスーツに手を焼いた地球軍が、急ピッチで開発した、初の水中用モビルスーツである。

 

 ただし、水圧対策がゲシュマイディッヒパンツァー恃みである為、高い水圧には耐えられず、戦闘海域が浅海面に限定さると言う欠点が試験段階で発覚した為、地球連合軍はその点に改良を加えたディープフォビドゥンを開発、実戦配備している。

 

 そのディープフォビドゥンは、大戦末期に起こった第2次カサブランカ沖海戦の折、地球連合軍が少数ながら戦線投入する事に成功し、それまで海の王者であったグーンやゾノを圧倒、ジブラルタル基地陥落に大いに貢献した機体である。

 

 この後、更に改良を加えたフォビドゥンヴォーテクスの開発を行う事になる地球連合軍は、こと水中モビルスーツに関する限り、完全にザフト軍を圧倒する事になる。

 

 この事を憂慮したザフト軍もまた、新型水中用モビルスーツ「アビス」「アッシュ」の開発を急ぐことになるのだが、それはまだ先の話である。

 

 水中から飛び出したフォビドゥンブルーは、手にした三又鉾(トライデント)を振り翳し、ソードカラミティへと襲い掛かる。

 

 対抗するように、エドもまたシュベルトゲベールを1本抜き放ち、ビームを発振しないまま迎え撃つ。

 

《やはり来たか、ジェーン!!》

《あんたの方から出迎えてくれるなんてね!! エド!!》

 

 アウトフレームのスピーカーからは、会話をする2人の声が聞こえてきた。

 

 相手は《白鯨》ジェーン・ヒューストン。

 

 水中戦のエースであり、先述した第2次カサブランカ沖海戦でも、フォビドゥンブルーを駆って参戦し、ザフト機多数を撃沈している。肩のシールド部分に描かれた、潜水艦をデフォルメした白いクジラがトレードマークである。

 

 エドが剣を振り払うと同時に、両者は一旦距離を置く。

 

 ともに地球連合軍で鳴らしたエース同士。実戦の場における初の激突となる。

 

《お前のやる事なら、何だってわかるさ!!》

 

 言いながら、ビーム刃を展開したシュベルトゲベールを振り翳すエド。

 

 大剣を手に斬り掛かってくるカラミティに対し、フォビドゥンは左のゲシュマイディッヒパンツァーを構えて受け止めに掛かる。

 

 刃と盾の接触。

 

 すると、シュベルトゲベールの刃を構成するビームが、急速に拡散されていくのが分かる。

 

 これこそが、ゲシュマイディッヒパンツァーの効力。ビーム兵器はこの装甲を前にしたら、全くの無力と化すのだ。

 

 堪らず、距離を置こうとするエド。

 

 しかし、それを見逃すジェーンではない。

 

《裏切者のエド・・・・・・アンタは誰にも殺させないッ レナにも、モーガンにも、他の奴にもッ あんたを討つのは、このわたしだ!!》

 

 言い放つと同時に、フォビドゥンの背に負った甲羅型のユニットを展開。その先端部分に装備したフォノンメーザー砲を発射する。

 

 いわゆる「音」のレーザー砲であるフォノンメーザー砲は、本来なら水中でこそ最大限に威力を発揮する武器だが、多少限定されるものの、地上での使用も可能である。

 

 放たれたフォノンメーザーを、紙一重で回避するソードカラミティ。

 

 だが、ジェーンの猛攻はそこで留まらない。

 

 ゲシュマイディッヒパンツァーの装甲を跳ね上げ、内部の魚雷キャニスターポッドを開放する。

 

 本来であるなら、そこには超音速(スーパーキャビテーティング)魚雷が6発装填されているのだが、今回ジェーンは地上戦を想定して、ミサイルランチャーに換装してきている。

 

《やめろジェーン!! 判ってくれ!!》

《判らないねッ アンタは全てを捨てて祖国を取った!! なぜだ!?》

 

 一斉発射される6発のミサイル。

 

 飛んできたミサイルのうち、エドは5発を回避、1発をシュベルトゲベールで切り払った。

 

 再び対峙する、カラミティとフォビドゥン。

 

 その様子を撮影しながら、ジェスは2人のやり取りにかすかな違和感を覚えずにはいられなかった。

 

「・・・・・・あの2人は、もしかして知り合いなのか?」

「僕もそう思います。何だか、お互いの事を、よく知っているような素振りですよね」

 

 キラもまた、ジェスと同様の違和感を口にする。

 

 先程から行われている2人のやり取りからして、どうもただの同僚程度の関係では無いように思えるのだった。

 

《ジェーン・ヒューストンは、『八・八作戦』でエドと組んで戦った事がある》

 

 ハチが説明してくれた。

 

 八・八作戦とは、戦争終盤に地球連合軍が行った作戦であり、CE71年8月8日に発動された事から、その作戦コードが付けられた。最終的な攻略目標は、ザフト地上軍最大の拠点であるカーペンタリア基地。作戦は制式レイダーを使用した衛星軌道上からの「エアーズロック降下作戦」と太平洋艦隊が行う洋上からの侵攻作戦の二種類同時刊行される形で行われた。

 

 当初は洋上艦隊と内陸に降下した地上部隊による、大規模挟撃作戦を取った地球連合軍が、圧倒的な勝利で幕を閉じるかと思われた。

 

 しかしカーペンタリアに立て籠もったザフト軍が頑健な抵抗を示したため、結局決着が着かず、カーペンタリア基地は終戦まで保持し続ける事になったのだ。

 

 その作戦で、エドとジェーンは共に肩を並べて戦ったと言う。

 

 だが、

 

「・・・・・・いや、あの感じ・・・・・・戦友と言う以上に何か・・・・・・」

 

 考察している間にも、戦いは続く。

 

 今のところ、戦況はジェーンの方が優勢に進めている感があった。

 

《なぜ仲間を、私達を捨てた!?》

 

 振りかざされるトライデントの穂先に対して、ソードカラミティは辛うじて剣で弾きながら体勢を立て直そうとする。

 

 そこへ更に攻め込んでくるフォビドゥン。

 

《くそッ 好きで捨てた訳じゃない!! だが、俺は・・・・・・》

 

 そこでようやく、エドは体勢を立て直す事に成功する。

 

 同時に、その心の内では、自らの使命が沸々と湧き上がってくるのが分かる。

 

 自分は南米軍の象徴。自分の背には自由と独立を願う多くの南米人たちがいる。その自分がここで倒れると言う事は、彼等の希望の芽を摘んでしまうと言う事だ。

 

 ならば、一時の気の迷いに身を委ねるべきではない。

 

 決意も新たに、双剣を構えるカラミティ。今度はエドの方から仕掛ける。

 

 地を蹴ると同時、双剣を振り翳してフォビドゥンに斬り掛かる。

 

《祖国に良い女でもいたか!?》

《ジェーン・・・・・・》

 

 対抗するようにトライデントを振り翳すフォビドゥン。

 

 しかし、こうなると、先程までとは完全に攻守が逆転してしまう。

 

 元々フォビドゥンブルーは水中戦用のモビルスーツであり、ジェーンもまた海戦のエースである。それに対して、エドの得意分野は陸戦であり、ソードカラミティも地上戦に対応している。

 

 この状況では、いかに《白鯨》と言えど、良く言って「陸に打ち上げられた鮫」程度の力しか発揮できない。

 

 ソードカラミティの斬撃が、フォビドゥンブルーの左肩に装備したゲシュマイディッヒパンツァーを斬り飛ばす。

 

 同時に、機体バランスを崩したフォビドゥンブルーも、その場で片膝を突いてしまった。

 

《・・・・・・前にわたしに言った事は嘘だったのか?》

 

 問いかけるような口調のジェーン。

 

 その言葉は、先程までの迸るような激情とは打って変わって、どこか救いを求めるような響きが込められているように思える。

 

《あれが嘘なら。わたしは何を信じれば良い?》

《ジェーン・・・・・・》

《答えろエド!! わたしの質問に答えろ!!》

 

 2人は最早、引き返せないところまで来てしまっている。ジェーンの悲痛な叫びが、何よりもその事を物語っていた。

 

 だからこそエドも、最早逃げる事は許されない。

 

 ジェーンの全てを受け入れたその上で、南米の英雄としての責務を果たさなくてはならない。

 

《今もあの言葉に嘘はないぜ。だが連合を脱走した時に決めたんだ。誰が敵になろうと戦い抜くと!!》

 

 次の瞬間、

 

 トライデントを構え直して、最後の突撃を行うフォビドゥンブルー。

 

 対してソードカラミティは、2本のシュベルトゲベールを並走連結させて迎え撃つ。

 

 両者の刃が交錯した瞬間、

 

 強烈な光が、互いの視界を遮った。

 

 

 

 

 

《あ、それじゃあ、好きなタイプの女性は?》

《はーハッハッハ!! お前ッ 面白いな!! そんな質問されたの、プライベートでは初めてだ》

《す、すいません・・・・・・》

《良いぜ、答えてやるよ。前にその質問を俺にした女だ。そいつが俺の好みの女だったのさ。自分の胸に飛び込んできてくれる女が最高の女さ》

 

 

 

 

 

 映像は先日、ジェスがエドにインタビューをした時の物だった。

 

 2人の会話からエドとジェーンの関係が、ただの戦友の枠を超えた特別な物である事を見抜いたジェスが、とっさの機転を利かせ、霧をスクリーン代わりにして投影したのだ。

 

 エドとジェーンは、地球軍時代、互いに想いを寄せ合った恋人同士であった。

 

 しかしエドの地球軍脱走に伴い、置いて行かれたジェーンは、その身を焦がす程の怒りに震え、憎悪の鬼と化して今回の刺客任務を請け負ったのだ。

 

 だが、どれほどの憎悪に身を焦がそうとも、心の内に小さく灯った火は決して消える事は無かった。

 

 ゆっくりと、槍を降ろすジェーン。

 

《・・・・・・なぜ、わたしにも声を掛けてくれなかった? あなたの祖国を守る為だったら、わたしだって・・・・・・》

《お前を巻き込む事はできない。これは、俺の我儘なんだ》

 

 実際、脱走する際、エドはひどく迷った。

 

 自分とてジェーンの事を忘れられるとは思えない。だがそれ以上に、連合の傘下に置かれ、屈辱の日々を送り続ける祖国を捨て置く事もできなかった。例えそれが、ジェーンから恨まれる事になったとしても。

 

《あなたはわたしの英雄なんだ。初めて会った時からついて行くって決めてたんだよ》

 

 そのまま、フォビドゥンブルーは、全てを任せるようにしてソードカラミティに縋り付く。

 

《もう離れないッ 絶対に!!》

《やれやれ、流石は俺の惚れた女だ。頑固なのも筋金入りだな》

 

 そのまま寄り添う2人。

 

 その様子は、アウトフレームにいるキラ達の目にも見えていた。

 

「上手く行って良かったですね」

「ああ。まったくだ」

 

 実際、あの2人が恋人同士であるかどうかは賭けに近かったのだが、ここは素直に「野次馬ジェス」としての勘を賞賛すべきところだった。

 

 それにしても、

 

「恋人・・・・・・か・・・・・・」

《どうした、キラ?》

 

 思わず漏らしたキラの言葉に、ハチが訝るように尋ねてくる。

 

 しかしキラは「何でも無いよ」と微笑して、それ以上は何も言おうとはしなかった。

 

 ただ、遠くを見つめるような瞳で、何かに思いを馳せているかのような表情をしていた。

 

 

 

 

 

Episode-03「霧が映す想い」      終わり

 

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