機動戦士ガンダムSEED 南天に輝く星   作:ファルクラム

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Episode―04「眩しく輝く光」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エドがジェーンとの対決を行うべく、太平洋沿岸へと移動していた頃、南米北部の別の場所では、ジェーンの動きと連動するような動きが見られていた。

 

 密林を分け入るように、一団のモビルスーツ部隊が、地響きを鳴らして進軍している。

 

 ストライクダガーとよく似たシルエットを持つ機体は、その同系統の機体である事をうかがわせる。

 

 ダガーLと呼ばれるこの機体は、地球連合軍が先の戦役中にストライクダガーの後継機として開発し、本来ならプラント制圧戦に投入される予定であったのだが、しかし月基地への配備前にプラント侵攻軍が大量破壊兵器ジェネシスの照射によって壊滅状態となった為、月への移送は見送られていた。

 

 その曰くのある機体を、地球軍は南米軍との戦いに大量投入したのである。

 

 ダガーLは背部にコネクタを装備し、ストライクダガーでは不可能だったストライカーパックの装備を可能とし、更に防御面の強化を図るなど、より完成度の高い機体として仕上がっている。

 

 基本的にストライクダガーを主力機動兵器としている南米軍を、兵器の差で圧倒できるはずだったのだが、

 

「クソッ 何なんだ、この邪魔っかしい森はよッ 面倒くせえったら無いぜ!!」

 

 部隊を指揮するベイル・ガーリアン中尉は、吐き捨てるように言う。

 

 生い茂る木々に機動力と視界を奪われ、さしもの最新鋭機も、十全な性能を発揮できなくなっている。

 

「まったく、上の連中は何を考えてるんだか。こんな所にわざわざ好き好んで住んでいるような奴らは、どうせみんな頭がイカレてるんだろうから、核でもぶち込んでみんな焼き払っちまった方がすっきりしちまうだろうがよ」

 

 強硬派ブルーコスモスの思想を持つベイルにとって、「自分達こそが人類の代表。他の者は自分達に従うのが当然」と言う考え方が魂の底にまで染み付いている。そんな彼の視点からすれば、大西洋連邦の意向を無視して独立を図ろうとする南米の動きは、許しがたい背徳であり、南米人が歩いた大地まで火葬場に放り込んでも構わないとさえ考えているほどだった。

 

 勿論、件の自然保護条約など知った事ではない。そんな物はベイルにとって、路傍の恋しいかの存在でしかなかった。

 

 自分たちに逆らう者は全て焼き尽くす。それ以上に重要な使命など、この世界にあるはずがないのだから。

 

《隊長、間も無く予定ポイントです》

「おう、周囲の警戒を怠るなよ。連中、南米軍のゴキブリどもは、腕は大したことないくせに、何かに隠れる事だけは馬鹿みたいに上手いからな。1匹でも奴らの影を見付けたら、その周りに最低30匹はいると思えよ」

《ハッ》

 

 部下に指示を下してから、ベイルは更に自分のダガーLを前へと進める。

 

 この先に南米軍の基地がある。そこまで辿り着けば作戦開始である。

 

 作戦と言うが、南米軍は装備も実力も褒められたような物ではない。戦いはこちらが一方的に敵を蹂躙する形になるだろう。

 

 ほとんど抵抗できない南米軍の連中を炎の中に沈め、逃げまどう民衆どもを捕まえて、1人残らず嬲り殺す。

 

 その時の事を夢想し、ベイルは口の端を吊り上げた笑みを浮かべる。

 

 そう言う戦いこそ、ベイルの望むものである。

 

 自分達に逆らう者共を、圧倒的な力で蹂躙し、嬲り、犯し、破壊し、そして殺す。

 

 これ程面白い戦いは他にはない。特に自分達に逆らった連中を、卵の殻を潰すようにひねり殺す時が、ベイルにとっては最高の瞬間だった。

 

 連中は自分達に逆らった愚か者。人以下のクズでしかないのだ。

 

 クズに慈悲を掛ける必要性は無い。連中は炎に焼かれ、踏み潰され、蹂躙される事によってのみ、魂の底から救われるのだ。青き清浄なる世界の下に。

 

 唯一、厄介な要素である「斬り裂きエド」は、頭のおめでたいエースのお歴々が押さえてくれている。その間にこちらは、存分に楽しませてもらおう。

 

 その瞬間が、間も無くやってこようとしている。

 

 高揚したままダガーLを進ませるベイル。

 

 その時だった。

 

《隊長、前方に熱源反応有りッ》

「あん?」

 

 部下からの報告を受けて、ベイルはダガーLのカメラを前方へ向ける。

 

 するとそこには、密林の中に佇むにして、1機のモビルスーツが立っていた。向こうもベイル達の存在に気付いたのだろう。モノアイ型のカメラを警戒するようにこちらへと向けてきている。

 

 識別リストには無い機体である。

 

 滑らかな曲線が印象的なフォルムや、連合系モビルスーツには無い、力強さを感じる太い四肢など、どこかザフトのジンやゲイツを連想させられる機体である。

 

 だが、その機体を見た瞬間、

 

「前方の機体に攻撃開始だ!!」

 

 ベイルは叩き付けるように命令を下した。

 

「奴を徹底的に破壊しろ!!」

《し、しかし、隊長・・・・・・》

 

 突然のベイルの命令に、隊員の1人が戸惑ったように声を上げた。

 

《我々の任務は、この先にある敵拠点の攻撃ですッ それなのに!?》

「判らんのか、このグズが!!」

 

 ベイルは反応の鈍い部下達に、吐き捨てるように叫ぶ。

 

「あれはザフトの機体だッ 南米軍の奴らはザフトとつるんでたんだよッ」

 

 言いながらベイルは、ダガーLのライフルを謎の機体へと向ける。

 

「まったく、南米人と言う奴等は度し難いほど愚かな連中だよ。まさかザフトと手を組んでいるとはな。地球人の誇りも忘れ、モルモットとつるむような奴らに遠慮する必要は無い。叩き潰せ!!」

 

 ベイルの命令に従い、謎の機体に向けて一斉にライフルを向ける地球軍。

 

 相手はたった1機。これだけの機体で掛かれば簡単に撃墜できるはず。敵拠点を殲滅する前に、良い感じに駄賃ができた。

 

 ベイルはそう考えて、ほくそ笑む。

 

 ライフルが木々をなぎ倒しながら、一斉にザフト機へと向かう。

 

 対してザフト機は、とっさにその場から跳躍しながら攻撃を回避。同時にオープン回線で通信を試みてきた。

 

《こちらはザフト軍、兵器試験部隊所属機。当機を攻撃中の地球軍部隊に告げる。当機に交戦の意思無し。攻撃を中止されたしッ 繰り返す・・・・・・》

 

 どうにか戦闘を回避しようと、ザフト機からは戦闘停止の申し入れがなされる。

 

 しかし、

 

「うるさい黙れッ モルモット風情が人間の言葉をしゃべるんじゃない!!」

 

 言いながらベイルもまた、ダガーLが装備したビームライフルを、地を走りながら回避行動中のザフト機めがけて撃ち放つ。

 

 その攻撃を高速で回避して行くザフト機。

 

 だが、ベイルは執拗に追いかけながらライフルを連射する。

 

「『交戦の意思無し』だと? そんな事は死体になってから言うんだなッ お前らが生きて吸って良い酸素など、この地球には無いという事を思い知れ!!」

 

 言いながら、更にザフト機への攻撃を強めるベイル。

 

《繰り返す。こちらに交戦の意思無しッ この場は自然保護条約にある中立地帯である。ただちに攻撃を・・・・・・》

「さえずるなよ、クズモルモットが!!」

 

 ザフト機からの交信を強引に遮り、更に筆誅距離から攻撃しようとするベイル。

 

 次の瞬間、

 

 ザフト機は上空に跳躍しながら地球軍の攻撃を回避。同時に背中から、巨大なトマホークを抜き放って構えた。

 

 降下と同時に振るわれる斧。

 

 その一撃が、ベイル機の後方に立っていたダガーLをあっさりと斬り捨てる。

 

 斬り捨てられたダガーLは、爆炎を上げて崩れ落ちる。

 

 その様子を見て、目を剥くベイル。

 

「こいつ、抵抗するかッ!? モルモットの分際で!!」

 

 呻くベイル。

 

 その間にもザフト機は動く。

 

 地球軍の隊列の中へ斬り込むと、トマホークを手に縦横に駆け巡りながら、立ち尽くすダガーLを斬り裂いていく。

 

 圧倒的な性能である。従来のザフト機を遥かに超えるポテンシャルだ。凄まじい機動力で接近したかと思うと、強力な刃を振り回し、最新鋭機であるはずのダガーLを紙人形のように切り裂いていく。

 

 対する地球軍はと言えば、なまじ大軍である事が仇になっていた。

 

 密集状態であり、更に周囲は鬱蒼とした密林に囲まれている為、陣形の改変どころか、回避行動を取る事すら難しい状況である。

 

 そのような中を、比類無い機動力で剽悍に襲い掛かってくるザフト機に対抗する事は不可能だ。

 

 次々とトマホークで切り裂かれて撃破され、密林に躯を晒していく地球軍機。

 

 一部のダガーLは、ようやくの事で体勢を立て直し、シュベルトゲベールやビームサーベルを抜いて接近戦に備えようとしている。

 

 しかし、それもまた束の間の抵抗に過ぎない。

 

 ザフト機は反撃に怯む事無く機体を飛び込ませ、手にしたトマホークを旋回させてダガーLを斬り裂く。

 

 圧倒的な力の差である。しかもザフト機は接近戦用のトマホークのみを使用し、背部に備えた大型の大砲を使っていないのだ。どうやら、機体性能もさることながら、乗っているパイロットもかなりの凄腕であるらしい。

 

 地球軍のパイロットは、ろくな抵抗も出来ずに屠られていく。

 

「こんな・・・こんなバカな!?」

 

 部下達が血祭りにあげられていく様を目の当たりにしながら、ベイルは歯ぎしりしながら呻き声を上げる。

 

 コーディネイター(モルモット)共が作った玩具のような機体が、自分達、正当な人類が作った兵器相手に圧倒的な力を見せ付けるなど、あってはならない事だ。

 

 コーディネイターの側からすれば根も葉もない、それでいてベイルのようなブルーコスモス信者からすれば、生物が呼吸するよりも当たり前の理屈が、頭の中で支配する。

 

 だが、そうしている間にも、ダガーLはザフト機によって斬り捨てられていく。既に数10機いた部隊も、ベイル機を含めても数える程度しか残っていない。

 

「このッ 野郎が!!」

 

 自身もビームサーベルを抜き放ち、斬りかかっていくベイル。ザフト機は今、部下のダガーLを斬り捨てた直後であり、ベイルに対して背中を向けている。つまりザフト機から見て、ベイル機は完全に視覚になっているはずだ。

 

 今なら確実に倒せる。

 

「死ねェェェェェェ!!」

 

 ビームサーベルを振りかざすベイル。

 

 しかし次の瞬間、ザフト機が振り返る。

 

 同時に水平旋回するように、振り翳されるトマホーク。

 

 一閃された一撃が、ビームサーベルを持つベイル機の右腕を斬り飛ばしてしまった。

 

「何ィィィィィィィィィィィィ!?」

 

 驚愕するベイル。

 

 普通に考えて、回避できるタイミングではなかった。それが、こうもあっさりと反撃を食らうとは。

 

「おのれッ モルモットのくせにィィィ!!」

 

 歯噛みするベイルの目の前で、とどめを刺すべくトマホークを振り上げるザフト機。

 

 しかし、

 

《隊長!!》

 

 部下の1人が、ベイルを守るようにして割って入り、トマホークをシールドで受け止めようとする。

 

 しかしトマホークの切れ味は凄まじく、受け止めた瞬間、ダガーLのシールドは紙のように切り裂かれ、そのまま左腕も斬り飛ばされてしまった。

 

「チィッ!?」

 

 その様子を見たベイルは、とっさに機体を翻して退避にかかる。

 

 そのままスラスターを全開にして、その場から離脱して行く。

 

「くそったれがッ 南米軍の奴ら、あんな卑怯な連中と手を組むとはなッ」

 

 吐き捨てるように呟きながら、ベイルは離脱するコースへと機体を向ける。

 

 後方では尚も、部下たちが高性能のザフト機相手に絶望的な戦いを続けているが、そんな事は自分が構う事ではない。引き際を正確に見極める事も軍人には必要な事だ。間抜けな連中は、それが分からなかっただけの話である。

 

 それよりも重要なのは、生き残って、あの高性能なザフト機の事を報告しなくてはならない。勿論、南米軍とザフト軍との癒着についても。

 

「クックック 見ていろ、南米のウジ虫ども。貴様らがこの薄汚いアマゾンでのうのうとしていられるのも、後わずかの間だけだ!!」

 

 高笑いするベイル。

 

 そんな彼の耳には、後方で悲痛な叫びを上げる部下たちの声は、一切聞こえてこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジェーンとの戦いから数日が経過した。

 

 エドの真意を知ったジェーンは、それまで抱いていた憎悪を完全に消し去り、以後は南アメリカ軍に協力する旨を確約してくれた。

 

 現在、彼女のフォビドゥンブルーは、損傷修理を行う為に収容されている。同時に、エドのソードカラミティも、連戦から来る疲労が激しい為、一時的にメンテナンスを必要としていた。

 

 とは言え「切り裂きエド」に続いて「白鯨」まで仲間になってくれるのは、南米軍としてはこれほどありがたい事は無いだろう。

 

「これで、お前さんも正式に仲間になってくれれば嬉しいんだがな?」

 

 そう言って笑いかけてくるエドに対して、キラは曖昧な返事を返すしかない。

 

 キラ自身の経歴はエドには話していないし、ジェスも気を効かせて黙ってくれてはいるが、先日の戦闘では、狙撃ライフルでレイダーを撃破すると言う芸当まで示してしまった。そんな人物、エドでなくても興味をひかれて当然である。

 

「まあ、良いさ」

 

 言い淀むキラに対して、エドは一転、あっけらかんとした調子で前言を翻すと、少し痛いくらいに肩を叩いて来る。

 

「エド・・・・・・僕は・・・・・・」

「誰にだって、言いたくない事とか、やりたくない事だってあるだろ。だったら無理する必要なんて無いさ」

 

 そう言うと、エドは手近な場所に置いてあったバナナを1本取り、口へと運ぶ。

 

 エドを見ながら、キラは黙考する。

 

 確かにエドの言うとおり、ここでキラが南米軍に参戦すれば戦線は圧倒的に南米軍有利に傾く事だろう。

 

 戦備に劣る南米軍だが、かつては地球軍で、オーブ軍で、そしてL4同盟軍でエースパイロットとして鳴らしたキラである。その程度の差などハンデにもならない。

 

 だが、キラにはどうしても、決断できずにいる理由があった。

 

 この南米での戦争は、キラにとっては本来なら何のかかわりも無い戦いである。

 

 これは、無関係である、自分には関係ないと言う無責任な思いから出た事ではない。

 

 接してみて分かったが、南米の人々は、エドを始め皆純真で、誰もが真剣に国を取り戻そうとしている。そんな熱い思いを抱いて戦っているのだ。しかしキラには、この南米には何の思い入れも無い。ゲリラ時代に何度か訪れた事があるが、ただそれだけの事である。

 

 そんな自分が、真の意味で南米を救いたいと思っている人たちと共に闘う事は、彼らの戦いに対する冒涜になるのではないかと思っているのだ。

 

「ねえ、エド・・・・・・」

 

 キラが何かを言いかけた時だった。

 

 ジェスを伴ったジェーンが、扉を開いて部屋の中へと入って来た。

 

 既に南米軍の軍服を身にまとい颯爽とした様は、所属が変わってもエースとしての貫録はいささかも失われていない。むしろ、愛する男と戦える分、より溌剌とした印象すらあった。

 

「エド、生憎だけど、のんびりしている暇は無いよ」

 

 開口一番、ジェーンは恋人に対してそう切り出した。

 

「大西洋連邦は、南アメリカの独立を決して認めようとしない。敵は次々と送り込まれてくるよ。それに・・・・・・」

「それに?」

 

 言い淀むように会話を止めるジェーンに対して、キラは訝るように先を促す。何か言いにくい事を抱えているようなジェーンの様子が気になったのだ。

 

 ややあってジェーンは、顔を上げて言った。

 

「私達がエド、アンタの攻略に失敗したら、大西洋連邦は南アメリカ大陸に向けて大規模なミサイル攻撃を行う事になっているのさ」

 

 ジェーンの言葉を聞いて、一同の間に衝撃が走った。

 

 大陸に対する大規模ミサイル攻撃。そんな事をされたら、犠牲者の数は計り知れない事になる。

 

「いくら連合でも、そんな・・・・・・」

「いや、プラントに核を打ち込んだような連中だ。いざとなれば形振り構わないだろう」

 

 ジェスの言葉に、エドは即座に否定の言葉を被せる。

 

 地球軍が形振り構わない姿勢を持っている事はキラも同意である。ヤキン・ドゥーエ戦の時、実際にプラントへの核攻撃を防いでいるのは、他ならぬキラ自身であるから尚更である。

 

 だが、これはまずい事態である。

 

 仮にレナ・イメリア、モーガン・シュバリエという、残り2人の刺客を退けたとしても、大陸をミサイルで焼き尽くされてしまったら南米軍の敗北は必定である。

 

 ここにきて、戦略を練り直す必要性が出てきた。

 

「・・・・・・なら、すっきりしてから2人と戦おう」

 

 ややあって、エドは顔を上げて言った。

 

 その表情には不敵な笑みが浮かべられている。何か、妙案が思いついたのかも知れなかった。

 

「パナマ宇宙港からレイダーで大気圏外に出て、宇宙からミサイル基地を強襲する」

 

 大気圏突入からの降下揚陸作戦は、本来ならザフト軍のお株だが、モビルスーツ技術の発展により地球連合軍でもよく使われる戦術となっていた。

 

 特に有名なのは、以前にも話したカーペンタリア攻略を目指した「八・八作戦」時のエアーズロック効果作戦で、これには当のエド本人も参加して、ザフト軍に大打撃を与えている。

 

 キラ自身も、今まで2度、低軌道会戦時とアラスカ戦介入時に経験している。

 

 確かに、地上から平面的な侵攻が難しい以上、それ以外に手段は無かった。

 

「よし、じゃあ俺は、すぐに準備する。後の守りは任せたぞ、ジェーン」

「ああ。ここはこの《白鯨》に任せておきな」

 

 力強く請け負うジェーン。かつての恋人であり、頼もしい戦友でもあった事から考えても、エドにとってこれ程頼もしい存在は他にいないだろう。

 

 一方、

 

「くそっ 取材したいけど、宇宙じゃ俺は付いていけないからな」

 

 ジェスが悔しそうに歯噛みしている。

 

 野次馬の血は止められないが、さすがに物理法則を越えて無茶をやるほどではなかったらしい。

 

 そんなジェスを見て、エドはフッと笑った。

 

「ジェス、本当にミサイルが降ってきたら、その時はお前の出番だ」

「エド・・・・・・・・・・・・」

「その時は何としても生き残って、連合の非道を世界中に伝えてくれ」

 

 そう、これはこの中で、ジェス以外には誰にもできない事なのだ。ジャーナリストとして真実を見ようとする事に対して、一切の妥協をしないジェスだからこそ、エドもその役目を任せるのだ。

 

「分かった。そっちは任せてくれ」

 

 エドの言葉を受けて、静かに燃えるような瞳を輝かせるジェス。

 

 フリージャーナリストとして、己の戦場に立つ事ができるのが、何よりもうれしく思っているのだ。

 

 南米を救う為、ミサイル基地破壊に向かうエド。

 

 そのエドから信頼され、後を託されたジェーン。

 

 そして、そんな彼らの為に、自らの力を駆使して戦おうとしているジェス。

 

 地獄のような戦場の中にあって、それでも輝きを失おうとしない彼等を、キラは眩しそうに見つめているのだった。

 

 

 

 

 

 エドがミサイル基地攻略の為にパナマへ向かってから、数日が経過した。

 

 恐らく今頃エドは、マスドライバーを使用して宇宙へと上がっている事だろう。

 

 パナマのマスドライバー施設「ボルタ・パナマ」は、大戦中に一度、ザフト軍の攻撃を受けて破壊されているが、南米独立戦争の開戦に伴い、所有権はかつての南アメリカ合衆国に戻っていた。

 

 マスドライバーの再建はまだ途上だが、それでもシャトルの発着等は既に可能となっている為、エドはその施設を使って宇宙へと上がったのである。

 

 地球軍が、資源や重要拠点の少ない南米大陸に拘るのも、地球圏でも数少ないマスドライバーを保有している事が理由の一つと考えられる。

 

 かつて、地球軍は同様の理由でオーブを滅ぼしている。

 

 あの時は、ウズミを始め多くの尊い犠牲を出しながらも、マスドライバーとオーブの心を守り通す事ができたが、その事を考えれば、キラとしても忸怩たる物を感じずにはいられない。

 

 そのキラはと言えば、1人、第12基地の片隅に座って、ぼんやりと空を眺めていた。

 

 ジェスはいない。彼は今、以前の取材で一緒になったベルナデット・ルルーに呼び出されて、ザフト軍の拠点に向かっている。今回はジェーンが同行を申し出た為、キラは居残りする事になったのだ。

 

 居残り、と言っても南米軍の兵士でもないキラには、ここで何かする事がある訳でもない。ここに来たのだって、半ばジェスに強引に連れてこられた為だ。その為、完全に暇を持て余してしまったわけである。

 

 見上げた紫色の双眸が映す蒼い空には、ゆっくりと流れる白い雲が見える。

 

 風は東から西へと流れているようで、雲もまた、その方向へと向かって消えていく。

 

 ふと、考える。あの雲はオーブにも行くのだろうか、と。

 

「・・・・・・・・・・・・未練だよね」

 

 自嘲気味に笑う。

 

 自分から捨てておいて、何を今更、馳せる思いを抱いているのか。そんな資格も無いと言うのに。

 

 自分はオーブを捨てた。その自分がオーブの事を思うなど、身の程知らずなことだと思ったのだ。

 

 今の自分を見たら、みんなはどう思うだろうか?

 

 アスランは? カガリは? ラクスは? サイは? ミリアリアは? リリアは? トールは? マリューは?

 

 そして・・・・・・

 

 そこまで考えた時だった。

 

 俄かに、周囲が喧騒に包まれたのを感じ、キラは顔を上げた。

 

 怒号が飛び交い、兵士や整備員達が慌ただしく走り回っているのが見える。

 

「何か・・・・・・あったのかな?」

 

 訝るキラ。

 

 ちょうどそこへ、見覚えのある士官が通りかかるのが見えた。

 

「アルベルトさん!!」

 

 名前を呼ばれ、アルベルト・コスナー少尉は、急ぐ足を止めて振り返った。

 

「ああ、キラ君。こんな所にいたのか」

「何かあったんですか?」

 

 状況から考えて、ただ事ではない事が伺える。何か南米軍にとって、不測の事態が起きた事は間違いなかった。

 

 尋ねるキラに対して、アルベルトは暫く考えた後、意を決するようにして顔を上げた。

 

「実は、たった今入った報告で、地球軍が大規模な攻勢を掛けてきたんだ。既にいくつかの拠点が陥落している」

「えッ!?」

 

 勢い込むアルベルトの説明を聞いて、キラは驚愕の表情を浮かべた。

 

 これまで大規模な軍事行動を控えてきた地球軍が、まさかここに来て一気に攻勢に出るとは、完全に予想外である。

 

 南米軍の戦力では、本格侵攻を開始した地球軍を食い止める事は難しいだろう。しかも今、守りの要とも言うべきエドワード・ハレルソンは、ミサイル基地破壊の為に宇宙へと上がっている。

 

 まさに、南米が手薄になったのを見透かしたかのような攻勢である。

 

「・・・・・・・・・・・・いや」

 

 キラは頭の中で何かが引っ掛かり、思考を一時中断した。

 

 エドの不在を見計らうようにして大規模な攻勢を開始した地球軍だが、キラの感じた違和感は、そこから発せられている。どうもキラには一連の流れが、あまりにもタイミングが良すぎるような気がしてならないのだ。

 

 加えて、大規模ミサイル攻撃を画策しているはずの地球軍が、なぜ今頃になって攻勢を掛けて来ると言うのか? そんな事をすれば自分達の身肩まで巻き込んでしまうと言うのに。

 

 そこまでキラが思考した時だった。

 

「すいません、キラ・ヒビキさんですよね?」

 

 1人の兵士が駆け寄ってきたと思うと、キラの名前を呼んで来た。

 

「実は、ザフト軍の基地から通信が入っています。あなた宛てに」

「僕に?」

 

 訝って首をかしげるキラとアルベルト。いったい、ザフト軍の誰が、キラに用があると言うのだろうか?

 

 とにかく、行ってみない事には話にならないと言う事なので、兵士に案内される形で、キラとアルベルトは通信室の方へと移動した。

 

 案内された入った通信室は、さながら戦場真っ只中のような様相であった。

 

 各方面から入ってくる増援の要請や被害の状況、それらを報告する声が重なり合い、誰が何を言っているのかすらわからない有様である。

 

 そんな中を縫うようにして歩きながら、キラは指定されたモニターの前に立った。

 

 すると、

 

《おう、キラ。来てくれたか!!》

 

 驚いた事に、モニターにはザフト軍の基地に行っているはずのジェスの姿があったのだ。通信とは彼からの物だった。

 

「ジェス、これは一体・・・・・・」

《詳しい事は後だ、キラ。お前も、話は聞いているな?》

 

 韜晦を省いたジェスの質問に、キラも彼が何を言いたいのか理解して頷きを返す。

 

 既に地球軍が大規模な攻勢を仕掛けて来た事は、ザフト軍の拠点の方にも伝わっているのだろう。だからジェスは、わざわざザフト軍の通信施設を借りてキラに連絡を入れて来たのだ。

 

《俺達は完全に嵌められたッ たぶんミサイル攻撃の情報は、エドを宇宙におびき出す為の罠だったんだ!!》

「やっぱり・・・・・・・・・・・・」

 

 ジェスの言葉を聞き、キラもまた自身の感じた違和感に対して確信を強めた。

 

 恐らく地球軍は、エドを宇宙におびき寄せる一方で、別働隊を組織し、南米軍の各拠点に大規模な攻勢を仕掛ける作戦を立てたのだ。恐らくエドも、今頃は宇宙で襲撃を受けているのではないだろうか? 事態を知ったエドが救援の為に戻るのを阻止する為に。

 

 エドさえいなければ、南米軍は烏合の衆と化すことを計算しての作戦である。

 

 そして悔しい事に、その認識は間違いではない。

 

 南米軍の軍人達は、自分達の祖国を取り戻そうとする心に偽りはないし、その為に士気も高い。しかし残念ながら、純粋に戦力も、個人の技量も不足している南米軍には、大攻勢を掛けてくる地球軍を止める事はできないだろう。

 

《頼む、キラ!!》

 

 モニターの中で、ジェスが訴えかけてくる。

 

《今、みんなを救えるのは、お前しかいないッ》

「ジェス・・・・・・」

《お前がお前の過去に蟠りを持っているのは判っている。けど、どうか頼むッ みんなを助ける為に、力を貸してくれ!!》

 

 そう言って頭を下げるジェス。

 

 つまりジェスは、キラにモビルスーツに乗って地球軍と戦ってくれと言っているのだ。

 

 対して、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 キラは無言のまま、モニターの中のジェスを見詰める。

 

 確かに自分が出撃すれば、南米の皆を救う事ができるかもしれない。

 

 理屈じゃなくて、そう思う。キラならたとえ、100の敵に囲まれても戦い抜く自信があった。

 

 だが、再びあの迷いが、キラの心を縛るように湧き上がってきた。

 

 自分には、ここで戦う理由が無い。そんな自分が武器を持ち、真に祖国の危機を憂う者達と共に戦う事が本当に正しいのか、キラにはまだ、どうしても決断できずにいた。

 

《・・・・・・なあ、キラ》

 

 そんなキラに対して、モニターの中からジェスが語りかけてきた。

 

《誰かが守りたいって思ってる物を守るってのも、立派な戦う理由になるんじゃないか?》

「それは・・・・・・・・・・・・」

 

 ジェスの言葉に、キラは己の心が僅かに揺れ動くのを感じた。

 

 考えてみればキラは、いつだって自分の為に戦った事など一度も無かった。常に誰かの為、仲間の為、友達の為、大切な人達の為に戦い続けてきた。

 

 そして今や、エドやジェス、ジェーンもまた、キラにとっては掛け替えの無い存在になっている。

 

 そんな彼等が守りたいと思っている南米を守る事もまた、キラにとっては戦う理由になるのではないだろうか?

 

《もう一度頼む。キラ、力を貸してくれ!!》

 

 モニターの中のジェスと、キラは互いに無言のまま視線を交わし合う。

 

 ややあって、

 

 キラは一度目を閉じ、

 

 そして、ゆっくりと開いた。

 

「・・・・・・・・・・・・判った」

 

 静かな決意と共に呟きを返す。

 

 その瞳には、先程までにない強い輝きが宿っているのを、ジェスは見逃さない。

 

 それはかつて、L4同盟軍の一員として、仲間を守る為に戦っていた時と同様の輝きであった。

 

 

 

 

 

 

Episode―04「眩しく輝く光」

 

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