1
南アメリカ合衆国軍、第27基地。
迷路のように複雑に入り組んだアマゾン川の下流域に存在するこの基地は、密林の奥にあると言う秘匿性は勿論の事ながら、川のすぐそばにあると言う事もあり、補給の面でも優れている。
その為、南米軍としては物資の集積所としてひじょうに重宝している基地でもある。
基地の風景としては、戦争中とは思えないほど穏やかな空気が流れているのが見受けられる。
物資を積んだトラックが往来し、格納庫では荷降ろし作業が行われているのが見える。基地の隅にはストライクダガーが駐機されているが、動力は入っていない。一応の警戒として置いてあるだけである。
ここより北の基地では、侵攻してきた地球軍と迎え撃つ南米軍との間で激しい戦闘が繰り広げられているが、この基地では、そのような事は一切感じる事ができない。
敵に発見されていない基地という時点で、警戒が薄くなるのも無理からぬことであった。
「これで最後だったな?」
「はい、あとは次の便になります」
輸送船の船長が、クルーにそう尋ねる。
この基地では1日に何度か、船を使って物資を輸送している。
複雑に入り組んだアマゾン川の地形は、地元住民でもない限りは把握する事は困難である。その地形的有利を活かして、南米軍はこの基地に物資の集積を行い、ここから更に、前線への物資供給を行っているのだ。
「よし、じゃあ出発するぞ。全員を集めてくれ」
「はい・・・・・・・・・・・・あれ?」
船長の命令を伝えるべく走ろうとしたクルーが、ふと足を止めて上空を見上げる。
「どうした? 早く・・・・・・」
乗組員の不審な様子に訝りながら、自身も上空を見上げる船長。
その視界の中で、太陽の輝きが一瞬反射した。
次の瞬間、
突如、飛来した閃光が、駐機してあるストライクダガーの内の1機を直撃した。
いかに強力なモビルスーツでも、パイロットが乗ってなければ人形と同じである。
直撃を受けたストライクダガーが、炎を上げて爆散する。
「な、何だ!?」
爆風に吹き飛ばされないように地面に這いつくばりながら、どうにかして顔を上げる船長。
その視界の中で、上空から舞い降りてきた、1機のモビルスーツが姿を現した。
胸部装甲の青と、四肢の純白が目を引く、引き絞ったように細い手足を持つ機体だ。
明らかに連合系の技術で開発された機体であり、背部にX字になるように装備した大型スラスターが目を引く。
見るからに空中戦を意識したような、機動性の高さが見て取れる機体である。
GAT-X109P「プロト・ストーム」
かつて大戦中盤に地球連合軍がヘリオポリスで開発し、一時期は地球軍最強の呼び名も高かった「GAT-X109 シルフィード」の後継試作機である。
コックピットの中で顔を上げた少年は、その双眸を大きめのサングラスで覆っている。
その奥に隠された瞳は一切揺れ動く事無く、ただ静かに、己の目標を見定める。
少年の操縦に合わせてストームが右腕を持ち上げた。その手には、通常のビームライフルよりも小型の銃が握られている。
ビームライフル・ショーティと呼ばれるこの武装は、銃身を切り詰める事で取り回しやすさを追求したものである。粒子加速器の役割を持つ銃身が短くなった結果、射程距離は低下したものの、より接近戦に対応した武装となっていた。
トリガーを引き絞り、銃口より閃光を放つストーム。それに伴い、基地施設を次々と破壊されていく。
その頃になって、遅まきながらようやく、事態の深刻さに思い至った南米軍にも動きが生じる。
兵士達は一斉に銃座へと走り、迎撃の準備をする。
格納庫内で待機してあった予備のストライクダガーも、よろけるようにして出て来るのが見えた。
だがストームを操る少年は、その動きも予想していたように動いた。
ビームライフルの銃口を向け、稼働する前に銃座を次々と潰していく。
こうなると、ろくな防御装備も無いむき出しの銃座など、モビルスーツの火力の前には無力である。
ストームのライフルが火を噴くたび、南米軍の火力は確実に減っていく。
いくつかの砲台は、ストームの攻撃を受ける前に攻撃を開始する事に成功した。
銃口から吐き出される弾丸が、基地の中央で暴れまわっているストームへと討ち放たれる。
しかし、それもつかの間の抵抗に過ぎない。
放たれる砲火に対して少年はストームのスラスターを起動、地上すれすれを滑るような機動で移動しながら全ての砲撃を回避、更に、反撃とばかりにライフルを放ち、銃座を先行が齎す炎の中に沈黙させていく。
全ての銃座を沈黙させると、少年は向かってくるストライクダガーへと向き直る。
数は2機。ストームに向けて、盛んにビームライフルを放って来ている。
しかし、狙いはかなり甘い。
大戦中、常に最前線で戦い続けてきた連合やザフトの兵士と違い、南米軍の兵士は大半が実戦経験が無い者達ばかりであり、その数少ない熟練パイロットも、大半が前線の基地に配置されている。こんな後方の基地に配属されている兵士など、昨日今日、訓練学校を出たような者達ばかりである。
それでは自分には勝てない。
飛んでくる閃光を回避しながら、少年はストームを前に出す。
スラスターを吹かして急接近。同時に、腰からビームサーベルを抜き放つ。
一閃。
その一撃で、ストライクダガーはボディを斬り裂かれ、地に倒れ伏す。
もう1機のストライクダガーは慌てたようにビームサーベルを抜こうとするが、それも遅い。
ストームの右腕が旋回すると同時に、真っ直ぐに突き込まれる。
その一撃が、ストライクダガーのコックピットを正確に刺し貫いた。
ストライクダガーはがっくりと膝を突き、そのまま力が抜けたように地面に座り込んでしまった。
「・・・・・・脆いね」
低い声で、少年は囁く。
南米軍のあまりの技量の低さに、落胆すらできないと言った様子だ。
件の「斬り裂きエド」をはじめとした一部の熟練パイロットに戦線維持を依存しているから、全体としての技量向上が成されていないのだ。こんな事では早晩、南米軍の戦線は崩壊するのではないだろうか?
とは言え、そんな事は目下のところ、少年には全く関係のない事である。
既に基地全体は火災に覆われ、全ての施設に火が回っている。集積した物資も全滅した事は間違いないだろう。
南米軍がここを基地として使用する事は、もうできない。
「・・・・・・・・・・・・任務完了」
低く囁かれた声が、炎を上げる基地の中で静かに響き渡った。
そのまま、帰投すべく機体を反転させる。
通信用の受信機が、着信を告げたのはその時の事だった。
「・・・・・・何だ? ・・・・・・緊急命令?」
訝りながら、命令書を開封する少年。
だが、そこに書かれていた内容を一読した瞬間、思わず目を見開いた。
2
キラとジェスの予想は、杞憂ではなかった。地球連合軍は、この時の為に綿密な作戦計画を策定していたのである。
作戦の第一段階として、《白鯨》ジェーン・ヒューストンがエドワード・ハレルソンへの刺客として送り込まれる。
首尾よく、ジェーンがエドを討ち取ればそれで良し。あとは待機していた大軍を進撃させ、南米軍を文字通り押し潰せばいい。
しかしジェーンが敗れ、そして南米軍の捕虜になった場合(実際には寝返ったが)に備え、ジェーンには「大規模ミサイル攻撃で南米の各拠点に殲滅戦を仕掛ける」と言う偽の情報を渡してあった。
そうなると、南米軍としては打てる手が限られてくる。北米大陸にあるミサイル発射基地へ、地上から攻撃を仕掛ける事は不可能。あとは大気圏降下による奇襲しかありえない。そして、それができるのも、南米軍ではエド以外にはいなかった。
こうしてエドが南米を離れた隙に、大軍を南米に侵攻させる。
仮に、エドが急を知って引き返そうとしても、そうはいかない。
軌道上には《月下の狂犬》モーガン・シュバリエが、エドを討ち取るべく待ち構えている。連合屈指の宇宙戦闘のプロであるモーガンが相手では、さしもの《切り裂きエド》と言えどもただでは済まないはずだ。
何段にも渡って周到に練られた作戦を、南米軍が打ち破れるはずも無かった。
既に北部戦線では、地球軍の大軍に対して、南米軍が必死の抵抗を続けている所である。
しかし、南米軍の主装備は、一世代前のストライクダガーであるのに対して、地球軍は105ダガーやダガーLと言った新型機に更新している事に加えて、数の上でも南米軍を大きく凌駕している。更に実戦経験の面でも南米軍に勝っている。
あらゆる面において劣っている南米軍の抵抗は、微々たる物でしかなかった。
隊列を揃え、火力を集中させながら進軍してくる地球軍。
数十機の機体が列を作り、それが幾重にも渡って連なりながら大地を踏みしめて歩いて来る光景は、見る者に果てしない畏怖を与える。
地を埋め尽くすかのような地球連合軍の進軍。集団戦法を得意とする地球連合軍。その神髄とも言うべき大兵力が進軍する風景は圧倒的であり、まさに王者の軍とも言うべき風格を出している。
対抗するように放たれる南米軍の反撃はと言えば、殆どまばらであり、散発的な砲火が飛んでくる程度である。
放つビームが時折、地球軍の機体に命中して撃破するのが見えるが、そうやってできた隊列の穴も、地球軍の強大な物量の前では殆ど意味が無い。すぐに別の機体が隊列を組み、開いた穴を塞いでしまうのだ。
そして、報復はすぐに成される。
微々たる抵抗を行う南米軍に対して、地球軍は圧倒的な火力を叩き付けて撃破していく。
僅かな慈悲すら示さない。
自分達が通った後には、草木一本残さないと言う意思が見える。まさに「死の行軍」である。
そして、それは決して誇張ではない。
地球軍が通り過ぎた後には南米軍の兵士はおろか、僅かな生命の反応すら見つける事ができない。
ただ、破壊されたストライクダガーの残骸のみが、躯のように転がっているのみだった。
やがて南米軍の反撃も下火となり、僅かに残った機体も、牽制の射撃を行いながら後方に退避していくのが見える。
恐らく、後から来る増援部隊と合流するつもりなのだろうが、所詮は無駄な事である。仮に南米軍の全軍を糾合したとしても、この大軍を止められる筈が無い。
エドワード・ハレルソンのいない南米軍が、いかに脆い物であるかを象徴するような光景である。
《隊長、ここら辺の掃討は終了しました!!》
部下からの通信が、隊長機のダガーLへと入ってくる。
南米軍の主力が撤退し、残った敵の掃討も完了したらしい。
作戦は順調である。この調子で行けば、南米領の半分は数日の内に制圧できるかもしれない。
「よし、引き続き、逃げた敵を追って進軍する!!」
全軍へ進撃の合図を出そうとする隊長。
まさに、その瞬間だった。
突如、飛来した閃光が、隊長機の右腕の肘から先を直撃して吹き飛ばした。
「何ッ!?」
突然の事態に、思わず呻き声をあげる隊長。
コックピット内では、部位欠損を示す赤いランプが点灯している。
そこへ、更に攻撃が続く。
連続して降り注ぐ砲撃。
それによって、腕や足を吹き飛ばされ、戦闘能力を喪失する機体が続出する。
大破した機体は無い。ただ手足や武装を吹き飛ばされる気が相次いで行く。もしこれを狙ってやっているのだとしたら、敵のパイロットは恐るべき技量である。
「い、いったい、何が起こっているのだ!?」
訳が分からないまま被害が増大していくことに、不安を覚えずにはいられない。
その時、センサーが高空から舞い降りてくる機体がある事に気付き、隊長は機体のカメラを上へと向ける。
次の瞬間、
急降下してきた何者かが、隊列を組んでいる地球軍の真っただ中へと飛び込むと、手にしたライフルを振るい、次々とダガーLを吹き飛ばしていく光景が現出された。
「な、何だ奴は!?」
見た事の無い機体である。
額にあるツインブレードと、双眼を思わせるカメラアイは、所謂「ガンダム顔」の機体である。機体カラーは、赤、青、白のトリコロール。
背中には1対の翼があり、四肢はやや細いのが特徴的である。見るからに、空中戦を意識した機体である。
「作戦区域に到達。これより戦闘を開始します」
そのコックピットに座し、キラ・ヒビキは静かな宣言と共に、眦を上げた。
同時に、機体の双眸を表すツインアイが、鋭く光りを放つ。
AMF-X14「エアリアル」
背中の双翼など、かつての愛機であるイリュージョンを髣髴とさせるフォルムだが、あちこち細かい部分や、機体の配色など相違点も多い。
更に、武装や装甲も違う。イリュージョンは対艦刀やガトリング、狙撃砲など強力な武装を装備していたが、こちらはライフル、サーベル、シールドなど基本的な装備のみ。装甲もPS装甲ではなく、機動力を稼ぐために軽チタン合金を採用している。
更に、核動力ではなくバッテリー駆動であるという違いもあった。
しかし、
「それで、充分だ!!」
敵陣へと飛び込むキラ。
同時に腰からビームサーベルを一閃。立ち尽くしていたダガーLを斬り捨てる。
慌ててエアリアルに向け、ライフルを向けようとするダガーL。
しかし、
《馬鹿、やめろ!! 味方に当たったらどうする!!》
静止を受けて動きを止める。
しかし、そこに致命的な隙が生じる。
斬り込んでくるエアリアルに対して、対抗が追いつかない。
狙われたダガーLはそのまま、ライフルを保持した右腕をビームサーベルで斬り落とされ、戦闘力を喪失してしまった。
なまじ大軍である事が仇となっている。
殲滅戦を行う為に隊形を密集させていた地球軍。しかしそのせいで、懐に飛び込んだエアリアルに対処が追いつかないのだ。
キラはかつて参戦したオーブ防衛戦での経験から、1機で多数の敵を相手取る方法を心得ていた。
まずは敵陣へ飛び込む。そうすれば、敵は同士討ちを恐れて攻撃を鈍らざるを得ない。
更に高速で機動する。動きは止めない。文字通り四方八方的だらけなのだ。止まっていたら的になるだけである。
どうにか体勢を立て直そうと、地球軍は対艦刀やビームサーベルと言った武装を手に、エアリアルへ向かってくる。
だが、その動きはキラにとってはあまりにも遅い物である。
1機が繰り出したビームサーベルをシールドで防ぎ、更にその機体を踏みつけるようにしてジャンプするように機体を操るキラ。
ダガーLが見上げる中を大きく跳躍するエアリアル。
モビルスーツの動きとは思えない、優雅さすら感じられる機動である。
急降下と同時に振り下ろされたビームサーベルが、目標にしたダガーLの腕部を斬り飛ばした。
並みのパイロットが相手では、キラには決して敵わなかった。
「おのれ!!」
部下達が次々とやられていく様子を見て、隊長は激昂して叫ぶ。
まさか南米軍が、これ程の切り札を隠し持っているとは思わなかった。「切り裂きエド」が宇宙へ上がった事は間違いなく確認されている為、いま目の前で猛威を振るっている機体は、エド以外の存在であると言う事になる。
エド以外にもこんな凄腕が存在しているのなら、南米に対する攻撃計画は根底から揺らぐことにもなりかねなかった。
だが、思考している暇はない。その間にもエアリアルは猛威を振るい続け、地球軍の数は急速に減って行っている。既に半数以上の機体が損傷を負い戦線離脱を余儀なくされている。
「これ以上はやらせん!!」
残った左手で腰からビームサーベルを抜き放ち、エアリアルへ斬り込んで行く隊長機。
技術も戦力も劣る南米軍相手にこうまで翻弄され、壊滅的な損害を被ってしまった。敵わぬまでも、一矢報いなければプライドが許さないし、軍内でも立場が無かった。
「死ねェ!!」
エアリアルに斬り掛かろうとする隊長。
しかしキラは冷静に隊長の動きを見定めると、素早くビームライフルを抜き放ち斉射。サーベルを保持したダガーLの左腕を吹き飛ばしてしまった。
バランスを保てず、地に倒れ伏す隊長機。
部隊を統べる隊長格ですら、キラの足元にも及ばなかった。
その姿を見ながら、キラは久方ぶりに握る操縦桿の感覚を確かめるように、指に力を込める。
エアリアルは、その形状からして、かつて地球連合軍がオーブの資源衛星ヘリオポリスにて開発した初期6Gを意識している事は間違いない。
その中でも特に、キラが乗機にしていたシルフィードと特性がよく似ていた。
これはキラの知らない事であるが、かつて地球連合軍が戦線投入したシルフィード(つまりキラ)の猛威に手を焼いたザフト軍が、ディンに代わる空専用モビルスーツ開発の試験用として建造したのが、このエアリアルである。
この機体を使用して各種空戦実験を行ったザフト軍だったが、そのデータを活かした機体が開発される前に、戦場は地球上から宇宙空間に移ってしまった為、データは日の目を見る事無く、エアリアルも長くカーペンタリア基地の倉庫に死蔵されていたのだ。
その機体を、南米軍はとある傭兵斡旋業者を介して手に入れたのだが、生憎と言うべきか、南米軍の技量では、エアリアルの性能を十全に発揮できるパイロットはいなかった。唯一、エドならば乗りこなす事も出来たのだろうが、彼には既に同レベルの機体であるソードカラミティがある為、今さら乗り換える気はない。と言う事で、この南米でもエアリアルは、なかなか日の目を見る機会が無かった。
それがキラ・ヒビキと言う最高のパイロットを主に得て、ついに戦場に立つ機会が訪れた訳である。
当初、南米軍の間では、軍関係者でもないキラに、最高級の機体を提供する事に難色を示す声も大きかった。しかし地球軍の攻撃が至近まで迫り、更にキラが乗りこなせるだけの技量がある事が分かった為、緊急措置と言う事でキラに貸与されたわけである。
かつてのキラに対抗するために作られた機体に、当のキラ本人が乗り込むと言うのも皮肉な成り行きである。
しかし、かつては地球連合軍やL4同盟軍で最強の名で呼ばれたキラ。そのキラが、仮初めとは言え自らの「剣」を手にしたとき、並みの者では、その進軍を止める事は叶わない。
この区域を担当していた地球連合軍が、壊滅的な損害を出すまでに、そう時間はかからなかった。
キラは地球軍を完全改装に追い込むべく、ビームサーベルを構えて斬り込もうとする。
その時だった。
突如、上空に新たなる接近反応が現れた。
「上ッ!?」
とっさに機体を翻らせるキラ。
ビームの閃光が、最前までエアリアルが経っていた場所を直撃したのは、正にその時だった。
振り仰いだその先には、噴射炎を翼のように広げて飛翔してくる機影がある。
「新手ッ!? でもあれは・・・・・・」
連続して攻撃を仕掛けてくる新たな敵機を前にして、キラは呻き声を上げる。
背部のスラスターが推進器になっているであろうその機体は、かなりの高速でエアリアルに接近すると、背中からビームサーベルを抜き放って斬り掛かってくる。
「チィッ!?」
舌打ちするキラ。
同時に左腕に装備したシールドを翳して、斬撃を防ぎ止める。
火花を散らす、剣と盾。
次の瞬間、衝撃に押されるように、互いに後退を掛ける。
対峙する両者。
その中でキラは、奇襲を掛けてきた機体をよく観察する。
「・・・・・・・・・・・・似ている」
それは、かつての愛機である、シルフィードによく似た機体だった。
恐らくは後継機。そのプロトタイプか何かだろうと思われる。
一方、エアリアルと対峙するストームのコックピットでは、
「・・・・・・これを、1人でやったのか」
ラキヤ・シュナイゼルが、サングラス越しに周囲の状況を見回しながら、呻くように呟いた。
ラキヤは当初の予定通り、南米軍第27基地襲撃に成功して帰投しようとした時、緊急命令を受けた。それによると、主力部隊が南米軍の奇襲を受けて壊滅したと言う。
俄かには信じられなかった。
南米軍の中で注意すべきなのはエドワード・ハレルソンくらいの物である。だからこそ今回の作戦は、エド不在という状況を作り出した上で実行されたはずなのだ。
予定に反してエドが戻って来る。あるいはエド以外の有力なパイロットがいる事など、計算外も良いところである。
そして、ラキヤは現実を目の当たりにする。
彼の目の前で、圧倒的な兵力を誇っていた筈の地球連合軍主力部隊は壊滅的な損害を被っている。転がっている残骸の殆どが、ダガーLばかりである。
そして、
躯を晒すように大地に倒れ伏しているダガーL。
そんな残骸の中で、1機だけ佇むエアリアルの姿は、まるで地獄から這い上がってきた死神のようだった。
しかも驚くべき事に、殆どの機体が、破壊されているのは武装や手足ばかりである。見た限り、完全大破した機体は1機も無い。
いったい如何にすれば、このような戦い方ができると言うのか?
しかし、思案している暇はない。ラキヤ自身はやるべき事をやるだけである。
「掩護は引き受けるッ 今の内に撤退するんだ!!」
《す、すまない!!》
通信機に叩き付けるようにして叫ぶと、ラキヤは背部のスラスターを吹かして突撃していく。
対抗するようにキラも、エアリアルのビームライフルを構えて迎え撃つ。
放たれる砲撃。
それをラキヤはシールドで防ぐと、速度を落とす事無く斬り込んで行く。
「ハァァァァァァ!!」
振り下ろされるビームサーベル。
しかし、キラはそれよりも一瞬早くスラスターを吹かして跳躍、ストームを飛び越える形で回避する。
上空からライフルの閃光を放つキラ。
対してラキヤは舌打ちすると、エアリアルが放つビームをシールドで防御する。
「こいつ、強い!?」
エアリアルの動きを見て、舌打ちするラキヤ。
大軍をたった1機で壊滅に追い込むくらいだから、かなりの実力である事は判っているが、機体の動きが大胆なようでいて一切の無駄が無く、更に滑らかな機動を見せている。相手は間違いなく、かなりの実力である事が伺えた。
着地したエアリアルを追いかける形で、ラキヤはストームを駆って斬り込んで行く。
「来るかッ!?」
対抗するようにサーベルを抜き放って構えるキラ。
そこへ、先制攻撃を仕掛けるように、ストームが全速力で斬り込んだ。
真っ向から振り下ろされるビーム刃。
対してキラは、掲げたシールドで防御して刃を防ぐと、同時に機体の体勢を沈み込ませるようにして動き、ビームサーベルを斬り上げるようにして繰り出す。
だが、
「そうは、いくか!!」
直前でエアリアルの動きを察知したラキヤは、とっさにストームを後退させ斬撃を回避する。
同時に頭部のイーゲルシュテルンを牽制代わりに放ち、エアリアルの追撃を警戒する。
対して、キラも無理に追撃を掛けようとはしない。
実はこの時、既にエアリアルのバッテリーや推進剤の残量が心もとなくなり始めていたのだ。
元々、緊急出動に近かった事に加えて、あれだけの大軍を1人で殲滅したのだ。核動力機でない限り、限界が来て当然だった。
見れば、周囲の地球軍は、損傷した味方機を庇いながら撤退を始めている。
地球軍を撃退すると言うキラの目的は、既に達している。これ以上の戦闘は無意味だった。
ビームサーベルを抜いて斬り掛かってくるストーム。
「悪いけど・・・・・・」
対してキラは、サーベルを戻して替わりにビームライフルを構えた。
「ここは退かせてもらうよ!!」
言いながら、ライフルを3斉射する。
「このッ 何をッ!?」
突然の事で、とっさに回避行動を取るラキヤ。
その隙を、キラは見逃さなかった。
エアリアルの背中にある双翼を広げると、スラスターを全開にして離脱を図る。
対して、ラキヤはとっさにビームライフルショーティを抜いて、上空のエアリアルを狙撃しようとする。
しかし、すぐにあきらめて、ライフルを持つ腕を降ろした。
射程の短いビームライフルショーティでは、上空を飛翔する機体を狙撃するのは効率が悪い。それに、ラキヤも南米軍の拠点を襲撃した直後である。バッテリーや推進剤が心もとないのは、キラと同じだった。
「・・・・・・逃げた・・・・・・いや、見逃してもらった、て考えるべきかな?」
自嘲気味に、ラキヤは呟く。
ラキヤ自身、モビルスーツの操縦には自信があるが、あのパイロットはそのラキヤと比べても遜色がないレベルであったと思う。
「次に会った時は・・・・・・・・・・・・」
言いかけて、やめる。
次に会った時に、何だと言うのだ?
自分は所詮、ここでは何者でもない空虚な存在に過ぎない。
そんな自分が、秘めた想いを持つなど、似合わないにも程がある。
飛び去って行くエアリアルの機影を見詰めながら、ラキヤは心の中でそう呟くのだった。
Episode-05「交錯する両雄」
設定
エアリアル
武装
ビームライフル×1
ビームサーベル×2
アンチビームシールド×1
対装甲コンバットナイフ・アーマーシュナイダー×2
ピクウス頭部機関砲×2
パイロット:キラ・ヒビキ
備考
ヤキン・ドゥーエ戦役中にザフト軍が開発した機体。元々は地球軍最強の機体であるシルフィードを研究する為、ディンに代わる空戦モビルスーツ開発用に建造された機体。強力なスラスターと大型の翼を有し、高い空戦能力を誇っている。しかし試験が終わる頃には戦場が宇宙に移っており、実戦投入される事は無かった。その機体を南米軍は、傭兵斡旋業者を介して入手した。武装に関しては、互換性の低いザフト系列の物から、比較的手に入りやすい連合系の武装に換装されている。しかし、せっかく手に入れた機体も乗り手がなく、暫くの間倉庫で死蔵されていたが、キラ・ヒビキという当代最強のパイロットを得て日の目を見る事となる。
プロト・ストーム
武装
75ミリ自動対空防御システム イーゲルシュテルン×2
ビームライフル・ショーティ×1
ビームサーベル×2
アンチビームスマートシールド×1
パイロット:ラキヤ・シュナイゼル
備考
シルフィード級機動兵器の次期主力機として、大西洋連邦が研究開発を進めているストームの試作機。ベースはあくまでもシルフィードだが、背部の飛行ユニットは水平スタビライザーからX型スラスターに変更されるなど、後の制式ストームに準ずる装備がいくつも採用されている。軽量化による機動性の確保を図る為、武装面がやや簡素になっている。
キラ・ヒビキ
コーディネイター
17歳 男
備考
元L4同盟軍のエースパイロット。ヤキン・ドゥーエ戦役終結の後、オーブには戻らず当てのない放浪の旅に出ていたが、流されるように南米へとやって来た。
ラキヤ・シュナイゼル
ナチュラル
17歳 男
備考
ナチュラルながら元ザフトレッドで、隊長を務めたほどの逸材。ボアズ戦で核攻撃に巻き込まれたが奇跡的に生存し地球軍の捕虜になる。その後、司法取引で地球連合軍に編入される。
今までは機体設定やら人物設定やらを、専用ページで紹介していましたが、文字数制限があってそれもできなくなったので、これからはこういう形で紹介していこうと思います。