機動戦士ガンダムSEED 南天に輝く星   作:ファルクラム

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Episode-06「英雄参集」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、得た物は思った以上に少なかったように思われる。

 

 エド不在を見透かして行われた地球連合軍の大規模侵攻作戦だったが、南米軍の予想外の抵抗に遭い、地球軍は思わぬ苦戦を強いられる事になってしまった。

 

 当初の地球軍の計画では最低限、南米北部にある拠点の大半を壊滅、もしくは制圧する事で橋頭堡を確保。その後は占領した地域を足掛かりに、大々的に南下。南米軍主力を壊滅させた後、残敵を掃討しつつ南米大陸を制圧してしまおうと考えていた。

 

 しかし、最終的に得た戦果は、いくつかの拠点を壊滅させただけに終わった。占領地域にしても、主力部隊が壊滅的な損害を喰らったせいで、占領維持は難しいと判断され撤退する羽目に陥ってしまった。

 

 更に、本命とも言うべきエドワード・ハレルソンの抹殺にも失敗してしまった。作戦後、彼が南米基地に辛うじて帰還した事は、後の調査で確認されている。

 

 事実上、今回の作戦は地球軍にとっては戦略的敗北。損害ばかり大きく、得る物の無い戦いとなってしまったわけである。

 

 カリフォルニア基地に帰還したラキヤは、ストームをメンテナンスベッドに固定して整備兵に預けると、その足で司令本部へと赴いた。

 

 今回の作戦において、ラキヤは当初予定していた敵拠点陥落に成功し、さらにその後で、撤退する味方部隊の援護も行っている。

 

 ラキヤ個人の戦績だけを見れば、今回の戦いは決して敗北ではない。

 

 しかしそれでも、ラキヤはそれを喜ぶ気にはなれなかった。

 

 戦闘終盤で戦った、あの南米軍の機体の事がどうしても思い出される。

 

 背中に装備した大振りな双翼が特徴の機体は、圧倒的な戦闘力で地球軍主力を蹂躙し、更にラキヤとも互角の戦いを演じた。

 

 あの後分かった事だが、あの機体の攻撃で死亡した地球軍の兵士は皆無だった。どうやらあの機体は、意図的に機体を大破させるのを避けていたらしい。

 

 まさに戦慄すべき技量であると言える。いかにすれば、あのような戦い方ができると言うのか? 自分で言うのも何だが、とても人間の技とは思えなかった。

 

 ふと考えてしまうのは、再戦の可能性。

 

 あの敵と再び戦った時、果たしてラキヤは生き残る事ができるのか? それは判らなかった。

 

 そんな事を考えて歩いていると、1人の女性士官が向こうから歩いてくるのが見えて、ラキヤは足を止めた。

 

 長い黒髪を後頭部で束ね、すらっとした体型を持つ美人である。近付いて見れば、顔には何かの際に付いた細かい痣が見える。

 

 その痣こそ、彼女の異名を表す要素の一つとなっている。

 

 《乱れ桜》レナ・イメリア大尉。

 

 エドへの刺客として招集された3人の内の最後の1人であり、まだ新設されて間もない地球連合軍モビルスーツ訓練部隊において、教官も務める程の実力者である。

 

 かつては、あのエドワード・ハレルソンの教官も務めたと言うのだから、その実力の高さを伺う事はできるだろう。

 

 その容貌と相まって、冷たい印象を持たれがちであるが、本来の彼女の性格は、仲間思いで優しい物であると言う。

 

 しかし、

 

「・・・・・・戻ったのですね」

 

 ラキヤの姿を見るなり、レナは冷たい瞳を向けて言い捨ててきた。

 

 対して、聊かバツが悪そうにしながら、ラキヤも頷きを返す。正直ラキヤにとってレナと言う女性は、ここに来て苦手な存在ワースト1と言って良かった。

 

 断っておくが、ラキヤが彼女に対して何か気に障るような事をしたわけではない。ただ、嫌われている事は会った瞬間から気付いていた。

 

 レナには、ラキヤを嫌うのに十分な理由がある。それは、ラキヤの経歴が関係していた。

 

 現在でこそ地球軍に所属するラキヤだが、先の大戦中はザフト軍の兵士として参戦していた。ボアズ防衛線の際、核攻撃に巻き込まれて重傷を負ったところを、地球軍の艦船に捕虜として収容されたのである。

 

 その後、軍事裁判にかけられて極刑を言い渡されたラキヤだったが、司法取引が行われ、「赦免する代わりに地球軍に入隊する」という条件で許された。というのが、ラキヤがここに至るまで辿った経緯である。

 

 レナの弟は、コーディネイターとの紛争に巻き込まれて死亡したらしい。その為、ザフト軍にいたラキヤを嫌うのも無理からぬことである。

 

 実のところ、ラキヤは諸事情でザフト軍に所属していただけの事であり、人種的にはコーディネイターではなく、純粋なナチュラルである。

 

 しかしいずれにせよ、ザフト軍に所属していたと言うだけでレナからすれば憎悪の対象となるようだ。もっとも、流石のレナも直接的にラキヤを害そうと思っている訳ではないらしく、こうして基地内ですれ違えば憎しみの視線を向けてくる程度である。

 

 正直な話、レナの気持ちもラキヤには判る。誰だって大切な人を理不尽な理由で失えば、奪った相手を憎みたくもなるのだ。そう言った輩はザフト軍にもたくさんいた。そう言った人種とレナは、結局のところ「どっちもどっち」なのだ。

 

 後は、周囲の人間がうまく合わせていくしかない。

 

 そこに来てレナは、一応、最低限の節度は守ってくれている。これは彼女本来の優しさと生真面目さが齎しているものなのだろうが、今はその性格に感謝しておくことにした。

 

「行くんですね」

 

 歩き去ろうとするレナに、ラキヤは背後から声を掛ける。

 

 恐ら、レナはこれから、機体の整備が完了次第、エド討伐の為に出撃する事になるだろう。その前にラキヤと行き会ったわけである。

 

「《月下の狂犬》も《白鯨》も失敗した。それでも行くんですか?」

「聞かれるまでもないでしょう」

 

 尋ねるラキヤに対して、レナは素っ気無く返す。

 

 並みいるエース達が失敗したからこそ、自分が行く。レナは無言でそう語っている。

 

 大戦中の激戦で多くのエースパイロットが散っていく中、常に激戦区を駆け巡りながら、それでも生き残った《乱れ桜》レナ・イメリアは、間違いなく現状、地球軍最強の存在である。

 

 しかし、それは同時に、レナの存在が地球軍にとって最後の切り札である事をも意味している。万が一にも彼女が敗れるような事があれば、もはや誰も《切り裂きエド》を止める事はできないだろう。

 

 地球軍の命運は全て、レナの双肩にかかっていると言っても過言ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第33基地上空へアプローチしたキラは、識別コードを送って着陸態勢に入る。このコードは、出撃前にアルベルトが気を効かせて用意してくれたものであるが、これが無ければ、照会に更なる時間を取られるところであった。

 

 その頃には既に、エアリアルはよろ這うようなスピードしか出せなくなっていた。

 

「・・・・・・ちょっと、ミスったかな」

 

 呟きながら操縦桿を操り、キラは舌打ちを漏らす。

 

 第33基地まで戻ってくるころには、エアリアルの搭載推進剤もバッテリーも、殆ど切れかかっている状況だったのだ。万が一、帰路に地球軍の襲撃を受けたりしたらひとたまりもないところだった。

 

 慣れとは恐ろしい物で、つい最近まで核動力機であるイリュージョンに乗っていた弊害が、こんな所に出ていた。

 

 イリュージョンなら推進剤はともかく、バッテリーの心配は必要ない。その為、キラがかなり強引な操縦を行っても、余裕で追随してこられるだけの性能を持っていた。

 

 しかしエアリアルはバッテリー駆動である為、残存戦闘時間は常に計算に入れて戦わねばならなかった。当然、イリュージョンと同じ感覚で操縦すれば、すぐにバッテリー残量が消耗してしまう。

 

 とは言え、その他の性能については、キラは特に不満は無かった。

 

 機動性は、イリュージョンには流石に劣るとはいえ、その前に使用していたシルフィードよりは高いし、空戦性能も充分である。武装が多少貧弱ではあるが、これは追加で幾らでも底上げできる。

 

 装甲はPS装甲ではなく、若干防御力の低い軽チタン合金。恐らく機動性を上げるための措置だろうが、これにより、多少は防御力の低下は否めない。しかし、敵の攻撃は機動力を駆使してかわすか、さもなければシールドで防げばいいと思っているキラにとって、PS装甲は必ずしも必要な物ではなかった。

 

 滑走路にエアリアルを着陸させると、キラは機体を着陸させる。

 

 すぐに整備兵達が駆けよって来て、機体に取りつくのが見える。

 

 敵はまた、すぐにもやってくるだろう。今回はどうにか撃退する事ができたが、次もそうあるとは限らない。機体の整備はなるべく早く済ませておく必要があった。

 

 歩いていると、数人の男女が佇んでいるのが見えた。

 

「おう、キラ!!」

 

 キラの姿を見つけたジェスが、手を振りながら駆けよってくる来るのが見える。

 

 様子からして、かなり慌てているように見える。

 

 先ほどは、映像越しでジェスに頼まれて出撃したキラ。どうやら、そのキラを心配して待っていたらしい。

 

「無事だったか。良かった!!」

 

 万が一にも、キラに何かあったらと心配していたのだろう。心の底から安どした感じで、キラの肩を叩くジェス。見れば、彼の手にあるハチも《無事で何よりだ》と言ってきている。

 

 対してキラも、微笑を浮かべた。

 

 見れば背後には、エドやジェーンの姿もある。彼等も無事に戻って来る事ができたようだ。

 

 パナマ宇宙港から宇宙空間に出たエドだったが、そこでは《月下の狂犬》モーガン・シュバリエが待ち構えていたらしい。

 

 モーガンは元戦車乗りという経歴の持ち主ながら宇宙戦闘の名手でもあり、かつてのムウ・ラ・フラガ少佐同様、高位空間認識能力の持ち主で、この時期にはまだ大々的な量産化は行われていない、全方位攻撃武装ガンバレルの数少ない使い手でもある。

 

 軌道上でモーガンと対決したエドは、装備の差もあり、初手から苦戦を強いられた。

 

 最終的にはモーガンの罠にかかり、大気圏へと突き落とされたエドだったが、とっさに近くを通りかかった大型デブリをシールド代わりにして熱と衝撃を防御し、辛うじて帰還する事に成功したのだった。

 

 そして、そのエドの背後から、別の人物が現れた。

 

 かなり大柄な体格をした、鋭い目付きをした男性である。盛り上がった筋肉は極限まで引き絞られ、まるで研ぎ澄まされた日本刀のような印象を受ける。

 

 その姿を見た瞬間、

 

「バリーさん!?」

 

 キラは驚いて声を上げた。

 

 釣られるように、バリーと呼ばれた男も驚きの顔を見せた。

 

「お前は・・・・・・キラ・ヒビキ、生きていたのか・・・・・・・」

 

 互いに驚いて、視線を交わし合う2人。

 

 驚いたのはジェス達も一緒である。

 

「何だ、2人とも、知り合いだったのか?」

「え、ええ・・・・・・・・・・・・」

 

 尋ねるジェスに対して、キラも躊躇うように頷きを返す。

 

 まさか、こんな所で知り合いに会うとは、思っても見なかったのだ。

 

 バリーはかつて、L4同盟軍でキラと戦列を並べて戦った戦友である。

 

 元々バリーはオーブ軍の人間というわけではなく、地球上から宇宙空間まで、色々な旅をしながら修業を行う格闘家である。しかし、たまたま地上に戻ってきている時に、地球軍のオーブ侵攻に巻き込まれ、そのままクサナギに乗って宇宙へと脱出した後、協力者という形でL4同盟軍に参加した。

 

 バリーの戦い方は「独特」と呼ぶ事すら憚られるくらい「特殊」な物で、何と武器は一切使わず、モビルスーツの手足を使った格闘術で、あらゆる敵を撃破してのけたのだ。

 

 格闘家としての天性のセンスと、長年積み重ねてきた修業の結果、ある種の境地に達しているバリーの拳はモビルスーツでも有効で、打撃によって装甲を破壊する事はもちろん、「浸透勁」と呼ばれる格闘術の極意を用いる事で深刻な内部破壊をもたらすという手法も用いられた。

 

 冗談のような話であるが、実際、その光景を目の当たりにした事があるキラからすれば、事実であると認めざるを得ない。バリーの拳にかかれば、本来なら物理衝撃を無効化するはずのPS装甲すら無力と化すのだ。

 

 その類い稀なる格闘術と、決して揺るがない信念から「拳神」と言う異名で呼ばれている。

 

 戦後は野に下り、再び修行の旅に出ていたバリーだったが、この南米の地で再び戦いに巻き込まれてしまっていた。

 

「なぜ、ここにいるのだ? 姫や、お前の仲間達も、お前の事をとても心配していたのだぞ」

「それは・・・・・・・・・・・・」

 

 追及するバリーの言葉に、キラは言葉を失って黙り込む。

 

 皆が自分の事を心配しているであろう事は、言われるまでも無くキラには判っていた事である。本来なら、すぐにでも生存を知らせるべきである事も。

 

 だが、「ヴァイオレット・フォックス」と言う名前の不吉な影は、どれだけ逃げようともキラを追いかけてくる。その陰から逃れられない限り、キラと言う存在が周囲に災厄をまき散らす事は目に見えている。

 

 だから帰る事も、生存を知らせる事すらキラには躊躇われているのだ。

 

「・・・・・・何か、事情があるのだな?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 静かに尋ねるバリーに対し、キラは無言のまま頷きを返す。

 

 バリーはキラの経歴については何も知らないが、どうやら何かしら人には言えない事情を抱えていると言う事は理解してくれたらしい。

 

「だが、皆がお前の事を気にしていた事だけは忘れない事だ。特に、あの娘は・・・・・・」

「判っています」

 

 バリーの言葉を遮るように、キラは返事をする。

 

 その脳裏に浮かぶ1人の少女の姿が、キラの中では焦燥に近い形で大きく膨れ上がろうとしていた。

 

 だが今、自分が戻れば彼女にも迷惑をかける事になる。だから、それだけはどうしてもできなかった。

 

「それにしても、バリーさんはどうしてここに?」

「うむ。実はアマゾンで修行中だったのだが、その近くで地球軍とザフト軍の戦闘が起こってな。それで、偶然居合わせた彼女の機体に乗って、その場を離脱したと言う訳だ」

 

 そう言って、バリーが指示した先には、何やら見覚えのある女性が所在無げに立っているのが見えた。

 

「ユンさん、まだいたんですか? 確か、帰ったはずじゃ・・・・・・」

 

 それは、アウトフレームに風呂の設置を行ったジャンク屋組合のユン・セファンだった。

 

「そうなんですけど~ 帰る途中で戦いに巻き込まれてしまって・・・・・・こちらの方に助けていただきました~」

 

 相変わらず脱力気味に間延びした口調で言いながら、バリーを指差すユン。

 

 何とも災難に遭ったものであるが、しかし、地球軍がなぜ、南米に来てまでザフト軍と交戦していたのか、気になる所であった。

 

「どうやら、私もまた、戦いからは逃れられない運命にあるようだな」

 

 バリーはそう言って、諦念の中にも、ある種の覚悟を滲ませた口調で言った。

 

 と、

 

「なら、ちょうどいい。あんたも俺達と一緒に戦ってくれないか?」

 

 それまで状況を見守っていたエドが、横から声を掛けてきた。

 

 態度は相変わらずの軽い調子ではあるが、《拳神》とも呼ばれる凄腕の格闘家であり、エースパイロットでもある存在を前にして興奮を隠せずにいる事が見て取れた。

 

 対してバリーは、僅かに目を細めて睨むような視線をエドへ向けた。

 

「《切り裂きエド》。あなたとは、ヤキンの戦いで敵同士だった・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 バリーの言葉に、一瞬、場に緊張が走ったのを誰もが感じ取った。

 

 忘れがちな事だが、エドはヤキン・ドゥーエ戦役中は地球連合軍所属であり、当然、L4同盟軍とも交戦経験がある。幸いと言うか、キラはエドと対峙した事は無かったが、どうやらバリーは対戦した経験があるらしかった。

 

 と、次の瞬間、

 

 バリーはフッと笑みを浮かべ、同時に張り詰めていた空気も霧散して行った。

 

「だが、それも過去の事。これも拳の導きと言うべきだろうな」

 

 そう言うとバリーは、エドに向けて右手を差し出す。

 

「良いだろう。俺も共に戦おう」

「ありがたい」

 

 互いに手を握り合う両雄。

 

 その様子を、早速とばかりにジェスがカメラに収めている。

 

「《切り裂きエド》に《白鯨》。それに《拳神》まで加わったんだ。これで、こちらの価値は間違いないね」

 

 それに《ヴァイオレット・フォックス》も。

 

 得意げに語るジェーンの言葉に、キラは内心でそう付け加える。

 

 これだけ錚々たるメンツが集まったのだ。これからの戦いにも、明るい展望が見えてきたような気がした。

 

 だが、

 

「だと良いがな」

 

 突然、背後から冷水を浴びせるような言葉を掛けられ振り返ると、そこには見慣れない男性が近付いてくるのが見えた。

 

 その人物は20代前半ほどと思われる男性で、やや荒々しい印象を受けるものの、この南米のアマゾンでスーツを着ていたり、無精ひげを剃り整えていたりなど、どこか小奇麗な印象を受ける人物である。

 

「お前、カイト!!」

 

 驚いて声を上げたのはジェスである。予想していなかった人物に驚いている。そんな感じの表情だ。

 

「ジェス、知り合いなの?」

「あ、ああ、そう言えばキラは、会うのはじめてだったな」

 

 そう言うとジェスは、紹介するのも嫌そうに、カイトと呼ばれた青年を見ながら言った。

 

「こいつの名前はカイト・マディガン。前に話した事もある、俺の正式な護衛役だよ」

「ようは、子守だな」

 

 そう言って微笑を浮かべるカイトに。ジェスは苛立ったように睨みつける。どうやら、その様子を見るに、相性はあまり良くないらしい。

 

「そんな事よりカイト。さっきの話はどういう事だよ? これだけのメンツが揃っても、地球軍には勝てないってのか?」

「ああ。何しろ、今度は相手が相手だからな」

 

 レナ・イメリア。

 

 純粋なナチュラルでありながら、コーディネーターを遥かに上回る実力を持ち、モビルスーツ訓練校の教官まで務めた人物。

 

 現状、間違いなく最強最悪の敵である事は間違いない。

 

 キラ自身、ムウ・ラ・フラガやカガリ・ユラ・アスハなど、幾人かはナチュラルでありながら、並みのコーディネイター以上の活躍をした人物を知っている為、レナの噂もあながち眉唾ではないと思われた。

 

「レナが強いのは知っているさ。けど、それだけじゃ、こっちかが負けるとは限らないだろ」

 

 反論したのはジェーンだ。彼女としてもレナの実力は良く判っているが、それでも自分達、特にエドの実力はレナにだって負けないと信じていた。

 

 しかし、それに対してカイトは素っ気なく首を振った。

 

「問題なのは個人の強さがどうこうって事じゃない。ここの市民は、あまりにもエドに頼りすぎている。万が一、エドが負けて倒れるような事があれば、全てが終わるだろう」

 

 確かに、とキラもカイトの言葉に心の中で同意する。

 

 エドは「南米の英雄」である。そしてそれは、彼の強さのみを差して言っているのではない。エドの存在そのものが南米を支え、皆を奮い立たせているのだ。

 

 エドは今や、南米の支柱その物と言って良い。そのエドが倒れた時、それはまさに、南アメリカがこの戦争に敗れる時でもある。

 

 だが、

 

「いや、俺はそうは思わない」

 

 否定の言葉を口にしたのは、当のエド本人であった。

 

 その瞳は、どこまでも真っ直ぐにカイトを見据え、一切揺らぐ様子は無かった。

 

「ほう、なぜそう思うんだ?」

 

 どこか、期待するような口調で、カイトはエドに尋ね返す。目の前の「英雄」が、自分の問題提起に対していかなる答えを出すのか、興味津々といった感じである。

 

「確かに連合は強大だ。普通に考えれば、敵にする事自体馬鹿げている。俺1人が頑張ったところで、どうなるわけでもないだろう。だがな、俺が戦い続ける事で、この国の人達も信じる事ができるはずだ。『自分たちでも戦える』ってな」

 

 英雄の役割は、人々に希望を与える事。

 

 英雄が勇気を持って雄々しく戦って見せれば、心ある者は必ず後に続いて立ちあがってくれる。そうなって初めて、英雄の戦いは意味がある物になると言える。

 

「そうなれば、もう俺は不要だ。たとえ死んでも全ての市民が、俺の意思を受け継いでくれる」

 

 エドはそこまで考えて「英雄」の役割を演じているのだ。南米の人々が奮起して、立ち上がるその瞬間を信じて。

 

「俺も、ニュースであなたの戦いを見た。だからこそ、共に戦う事にした」

 

 低い声でそう言ったのはバリーである。かつては敵同士だった彼ですら、エドが戦い続ける姿に感じる物があったのだ。だからこそ、共に戦う事を了承してくれた。

 

 時代の流れは正に、エドが望んでいた方向へと進もうとしている。

 

 英雄が1人でできる事など、多可が知れている。本当に重要なのは、大きな力となる奔流を作り出す事なのだ。

 

 そして、傍らで見ていたキラもまた、エドが守りたいと思う物を自分も守りたいと思ったがゆえに、ジェスの呼びかけにこたえて再び立ち上がる決意をした。

 

 これだけの人々が揃った事も、まさに「南米の英雄」の偉業であると言って間違いなかった。

 

「エド、アンタの想いは、ちゃんとみんなの伝わっているさ」

 

 ジェスはそう言って、笑いかける。

 

 ジェスが成した事も、大きな物であることは間違いない。

 

 ジェスがいたからこそ、エドの活躍が世界中に広まり、ジェーンが積年の想いを胸に、味方になってくれた。バリーも共に戦ってくれた。そして、キラが再び立ち上がるきっかけにもなった。

 

 ジャーナリストと言う職業柄、決して歴史の最前線に立つ事は無いジェス。しかし、気が付けば人々の中心に位置し、皆をつなぎ止める芯となっている。

 

 ジェス・リブルという男は、考えれば考えるほど不思議な存在だった。

 

「俺はあんたの戦いを追い続けるぜ。その思いが、この国の全ての人々に届くようにニュースにする」

「頼むぜ、ジェス」

 

 そう言うとエドは、この戦いを通じて親友とも呼べるようになった青年の肩を力強く叩く。

 

 その様子を見て、カイトがやれやれとばかりにため息をつく。

 

「おいおい、この野次馬バカをあまり炊きつけないでくれ。兵士でもないのに前線に出たがるなんて、俺の手間が増えるだけだ」

「じゃあ、ついてこなくて良いよ。俺にはキラがいるし。なあ、キラ?」

「え・・・・・・いや、そう言われても・・・・・・」

 

 突然話を振られて、戸惑うキラ。

 

 そもそも、振り回されて気苦労が絶えないのは、キラもカイトと想いを同じくする所である。ぶっちゃけた話、正規の護衛であるカイトが合流したのだから、どうにかして護衛役を押し付けられないか、半ば真剣に検討中だったりした。

 

 そんな様子を見て、笑い声を上げる一同。どうやら、戸惑うキラの様子が、あまりにも可笑しかったらしい。

 

 ひとしきり笑った後、エドは真剣な表情を作って宣言するように言った。

 

「とにかく、全力で戦う。それ以外に最善は無いはずだ」

 

 まずはやってみる。

 

 どんな困難が立ちはだかろうとも、英雄が戦い続ける姿勢を示し続ければ、必ずや皆が立ち上がる原動力になるはずだった。

 

 その時だった。

 

「隊長!!」

 

 声を上げながら、アルベルト・コスナー少尉が走ってくるのが見えた。遠目にも血相を変えているのが分かるところをみると、何か前線で動きがあったのは間違いなかった。

 

「どうした?」

 

 尋ねるエドに対し、アルベルトは荒れた息を整えながら直立不動で報告を行う。

 

「前線部隊より入電しました。《地球軍の第2波上陸を確認。本格的な進行と考えられる》!!」

 

 一同に、緊張が走る。

 

 今、南米独立戦争、最後の決戦の幕が上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

Episode-06「英雄参集」      終わり

 

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