機動戦士ガンダムSEED 南天に輝く星   作:ファルクラム

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Episode-07「舞い散る桜吹雪」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先の攻勢において、キラ達の活躍もあり辛うじて地球軍の攻勢を撃退する事に成功した南アメリカ軍。

 

 しかし、その損害はあまりに大きかったと言わざるを得ない。

 

 質、量ともに地球軍に対して劣性である事は否めない南米軍だが、先の戦いではそれが顕著に現れ、前半は大兵力を誇る地球軍の攻勢に対して、寡兵の南米軍がほぼ一方的に防戦と撤退を強いられると言う光景が各所で繰り広げられた。

 

 後半になってキラがエアリアルで参戦し、辛うじて押し返す事には成功したものの、それまでに被った損害はあまりにも大きすぎた。

 

 無論、地球軍の方も無傷ではない。キラは勿論、浮き足立っていた南米軍も部隊を再編制して反撃に転じた為、後半は逆に地球軍を圧倒していた。そのおかげで辛うじて状況を五分にできたような物である。それが無かったら、ズルズルと押し切られ、なし崩し的に敗北が確定していたであろう事は間違いない。

 

 こうして、辛うじて勝利する事ができた南米軍だが、その傷は大きかった。

 

 地球軍は大損害こそ蒙った物の、もともと南米軍の数倍にも及ぶ兵力を誇っている。損害回復は比較的短時間で可能であるし、その上で南米大陸へ再侵攻を行う事もたやすかった。

 

 これに対して南米軍は主力部隊を含む多くの部隊が損害を被り、死傷者も多数に上った為、早急な整備と再編成が必要とされたのだ。しかも地球軍はすぐにも再侵攻を行う事ができる体制にある為、南米軍には部隊を再編成する時間すらなかった。

 

 予備兵力の有無が、完全に表れていた。

 

 地球軍は最悪、先の戦いと同程度の損害を被ったとしても、尚も戦い続けるだけの余力は残されているのに対し、南米軍には最早、地球軍の攻勢を正面から支えられるだけの力は残されていなかった。

 

 そこに来て、地球軍の第二次攻撃が開始されてしまった。

 

 大々的な部隊を、南米北岸へと上陸させて侵攻を開始する地球軍。

 

 それに対して南米軍も、残った戦力をかき集める形で伝統のゲリラ戦を展開、地球軍の侵攻に対して遅滞戦闘を行う。広大なアマゾンの密林に身を隠し、侵攻してきた地球軍に対し不意打ちを行いながらダメージを与えていくのだ。

 

 更に、この状況において南米軍には、数こそ少ないものの心強い援軍が参戦していた。

 

 《白鯨》ジェーン・ヒューストンは、修理が完了したフォビドゥンブルーを駆り、数少ない水中戦力として、海上封鎖を行う地球軍艦隊に強襲を仕掛ける。艦隊を攻撃する事で、地球軍の補給線に負担を掛ける事が狙いである。

 

 《拳神》バリー・ホーも、南米軍から貸与されたストライクダガーを駆ると、持ち前の格闘術を駆使して最前線に立ち、侵攻してきた地球軍を相手に一歩も退かずに戦い続けている。

 

 祖国を守る為に意気上がる南米軍の兵士達と、その彼等と共に戦うエース達。

 

 そんな彼等の奮闘は、地球連合軍に対して少なくない損害を与えている。

 

 しかし、その奮闘もまた、地球軍の物量の前では大した抵抗にはなり得ない。

 

 南米軍の戦線は各地で破綻を来し、侵攻してきた地球軍に対して薄紙を破られるように粉砕される。

 

 バリーやジェーンは大いに活躍し、多数の地球軍機を撃破するものの、それもやがて孤立し、孤軍奮闘する事を余儀なくされていった。

 

 一部の部隊が奮戦しながらも、それでも大軍の前に抗する術がない。まさに、かつてのオーブ防衛線と同じ展開が、時と場所を変えて南米で繰り広げられていた。

 

 そのような中、《切り裂きエド》ことエドワード・ハレルソンは、僅かでも味方の助けとなるべく、自身の最後の戦いへと赴いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超低空をすれ違うように飛翔しながら、手にしたビームサーベルを一閃する。

 

 こちらの接近を阻もうとライフルを構えていた105ダガーの腕は、それだけで斬り飛ばされた。

 

 エアリアルを駆りながら、キラは戦場を縦横に駆け巡っている。

 

 敵の数は多い。対してキラは1人。かつてのように無限の動力を持つ機体に乗っている訳ではないので、かなりきつい戦いである。

 

 しかしそれでも並みのパイロットが相手なら、どれだけ来ようとキラの相手にはならない。

 

 今また、エアリアルの剣がダガーLの頭部を斬り飛ばして行動不能にする。

 

 地球軍の方でも、ただ1機の敵を屠ろうと攻撃を集中させてくるが、機動力において圧倒的に勝るエアリアルを捉える事はできないでいる。

 

 キラは低空を駆け抜けていたかと思うと、火線を集中される前に高度を上げて回避、更に隙を突いて突入し、手にしたライフルやサーベルで敵機を撃墜していく。

 

 その全ての攻撃を、相手のコックピットやエンジン部分を避け、手足や頭部、武双に集中させる。

 

 戦場で行う不殺。

 

 見る者によっては自己満足の欺瞞に見えるその行為は、しかしキラだからこそできる事。僅かでも犠牲を減らす事によって、未来ある人々を1人でも多く守りたいと願っているキラならではである。

 

 たとえ真の意味で自己満足だと罵られようと、キラは構わない。このやり方を変える気はなかった。この事がやがて、多くの人々を救う事になると信じているからである。

 

 味方機多数を撃墜されながらも、地球軍はエアリアルに対する攻撃をやめようとしない。

 

 縦横に駆け巡るエアリアルに対して、どうにか逃げ道を塞ごうと火線を集中させてくる。

 

 敵の攻撃を回避し、あるいはシールドで防ぐキラ。同時にスラスターを吹かして斬り込みを掛け、ダガーLを1機ずつ確実に屠っていく。

 

 その一方で、視線は別の方向へと向けていた。

 

「・・・・・・僕よりも、深刻なのはあっちか」

 

 呟く視線の先。

 

 そこには、互いに手にした刃を振るって斬り結ぶ、青と赤の機体が対峙していた。

 

 1機はエドの駆るソードカラミティだ。両手に装備したシュベルトゲベールを振り翳し、相手に斬り掛かるタイミングを計っている。

 

 そしてもう1機。青い装甲を持った機体。

 

 こちらも、何とソードカラミティである。

 

 蒼い装甲は、かつてのオリジナルカラミティを髣髴とさせるが、シュベルトゲベール対艦刀をはじめとした装備は、間違いなく、その機体がソードカラミティである事を継げている。

 

 ソードカラミティ対ソードカラミティ。

 

 同型機。それも特機同士による対決となると、なかなか珍しい光景であると言える。

 

 片方は言うまでも無く、エドの駆る深紅のソードカラミティ。

 

 そしてもう一方は《乱れ桜》レナ・イメリアが駆る、ソードカラミティである。機体番号的にはレナ機が初号機で、エドの機体は二号機に当たる。

 

 斬り込みを掛けようとするエド。

 

 だが、その直前に、レナ機は胸部の複列位相砲スキュラを発射、エド機の突撃を牽制してくる。

 

「おわっと!?」

 

 堪らずエドは、突撃を諦めてその場から回避しにかかる。

 

 しかしレナはと言えば、シュベルトゲベールの柄尻に増設されたビームガンを駆使して、エドのソードカラミティに対して徹底的な遠距離攻撃を仕掛けてくる。

 

 スキュラまで交えた砲撃を前に、エドは接近する事も出来ずに回避行動に徹する。

 

 やがて、ようやくの思いで安全圏へと退避したエドは、改めて剣を構え直し、レナ機と対峙する。

 

「レナ教官、相変わらずの強さだな」

 

 エドは苦笑交じりに、そう話しかける。

 

 地球軍が最強最後の切り札として繰り出して来ただけあり、レナの実力はジェーンやモーガンと比べても、頭一つ抜きんでている感がある。それは、エドの得意とする陸上戦闘において、互角以上に戦っている事から考えても間違いなかった。

 

《エド、投降しなさい。このままでは絶対に勝ち目はないわ》

 

 それに対してレナは、冷静な口調でエドに対して諭すように声を掛ける。

 

 今回レナは、エドとの雌雄を決する為に、部隊を率いて出撃してきた。

 

 しかしその部隊に所属する機体も、既に大半がキラの駆るエアリアルによって撃墜され、戦闘力を喪失している。

 

 今回、ラキヤ・シュナイゼルはストームの整備が間に合わなかったために出撃を見合わせているが、元々レナはラキヤを最初から当てにしていない。あのような元ザフト兵の手を借りずとも、自分1人でエドを倒す事は充分に可能であると考えていた。

 

 しかしここに来てレナには、思わぬ誤算が生じてしまった事になる。まさかエド以外の南米軍に、これ程の戦力が存在したとは思わなかった。恐らく率いてきた部下だけでは、あの羽根付きを倒す事はできないだろう。

 

 だが、それもエドさえ倒す事ができれば、事態は逆転できる。そしてそれは、まだまだ充分に可能であった。

 

 だからこそ、レナはエドに対して降伏の勧告を行ったのだ。

 

 レナもまた、かつてのエドを知る者の1人であるし、彼女の教え子の中では特に優秀で目を掛けていたのがエドだ。それだけに、ここで死なせるにはあまりにも惜しいと思っていた。

 

《いずれ多くの市民が、この戦いに巻き込まれる事になる。あなたも気付いているでしょ? あなたは勝ち過ぎたのよ。連合は、あなたをターゲットにするのをやめたわ》

「・・・・・・・・・・・・」

 

 そう、エドにも既に気付いていた。連合が戦略を変更した事を。

 

 いかにエドが強かろうと、エドは1人しかいない。ならば鬱陶しいのを無視して、エドが対処できないくらいの多方面に大兵力を投入すれば、南米の陥落もたやすいと言う訳だ。

 

 大兵力を有する地球軍ならではの戦略であると言える。悔しいが、エドを始め一部のパイロット以外に対抗手段が無い南米軍には、かなり有効な戦法であると言える。

 

 仮にエドの活躍で一方面の敵を押さえたとしても、その他の敵に攻め込まれて終わりという訳である。

 

《間も無くあなたの故郷が火の海になるのよ。市民を助けたかったら、独立のシンボルであるあなたが投降するか、ここで死ぬしかない。あなたが英雄ごっこをこのまま続ければ、いずれこの国は完全に滅びる事になるわ》

 

 降伏か? 死か?

 

 まさに、最悪の二者択一である。

 

 コックピットに座したまま、エドは悔しそうに唇を噛みしめる。

 

 いかにエドが英雄として奮起しようと、多くの市民がそれに呼応して立ち上がらないと何の意味も無い。

 

 まさに状況は、八方ふさがりの状態となりつつあった。

 

 だが、市民を戦火に巻き込んで良い筈が無い。自分の命を捨てる事で、この戦争を終わらせる事ができるなら、そうするしか方法は無いだろう。

 

 南米は再び連合の傘下に組み入れられる事になるだろうが、それも仕方がない。多くの市民が犠牲になるよりはましだ。そしていずれ、数年後か数十年後かに第2、第3の「切り裂きエド」が現れてくれれば、きっと南米の独立を果たしてくれるはず。そうなれば、自分がしてきた戦いにも、きっと意味がある筈。

 

 そう考えて、剣を収めようとしたエド。

 

 しかし、その時だった。

 

《エド!!》

 

 熱い響きが籠められた声が、エドの思考を遮った。

 

 見れば、シューティングコートで身を隠していたアウトフレームが、堪らず物陰から飛び出してきている所だった。

 

 叫んだのは、言うまでも無く、操縦桿を握っているジェスである。

 

 野次馬根性すら超越してしゃしゃり出ていく護衛対象を見て、ジェスの後ろに立っていたカイトは、頭痛がする思いで頭を抱えている。

 

 突然のアウトフレームの出現に地球軍も驚いた様子で、一時的に攻撃する手を止める。

 

《このッ まだ隠れている奴がいたか!!》

 

 ダガーLが1機、シュベルトゲベールを振り翳してアウトフレームへ斬り掛かろうとする。

 

 アウトフレームの背後から振り翳される大剣。

 

 しかしそのダガーLの眼前に、上空から盾が投げつけられた。

 

 突如、目の前に出現した盾によって進路を遮られ、動きを止めるダガーL。

 

 そこへ、両手にビームサーベルを構えたエアリアルが急降下してくると、そのまま一閃、ダガーLの両腕を肩から斬り飛ばして戦闘力を奪う。

 

「ジェス、今の内に!!」

《すまん、キラ!!》

 

 キラに背中を守られながら、ジェスは改めてレナと対峙するエドの方へと向き直った。

 

《俺はずっとエドを・・・・・・そしてこの、南アメリカを見てきた。俺はジャーナリストだ。エドのやっている事を正しいかどうか、判断する立場にはない》

 

 熱い思いと共に、ジェスは己の全てをぶつけるように言葉を紡ぐ。

 

《だけど、ここで戦いを放棄するなんて、アンタらしくないぜ!! 俺が見てきた《切り裂きエド》は本物だった!!》

 

 ジャーナリストに求められるのは、公正な判断力と中立の立場である。ジェスのようなフリーのジャーナリストは特に、どちらか一方の勢力に強く肩入れする事は、暗黙のタブーであるとも言える。

 

 故にジェスは、これまで自分が見てきた「真実」を記事にして、世界中に発信してきた。

 

 だからこそ今、言葉を連ねる事ができるのだ。

 

「・・・・・・確かにな。ここまで来て迷ってどうする。ジェス、お前の言うとおりだ」

 

 エドは何かを悟ったように、静かな声で告げる。

 

 全ては南米人の為。

 

 もし脱走などせず、あのまま地球軍に居続ければ、エドの将来は明るかっただろう。ジェーンとも幸せな暮らしをする事ができただろう。エドにはそんな明るい未来もあったのだ。

 

 だがエド、祖国とそこに住む人々を守る為に、敢えて苦しい戦いの道を選んだ。一度はジェーンとも死闘を演じた。

 

 そしてそんなエドだからこそ、人々は彼を英雄として認め、共に戦ってきたのだ。

 

 そのエドが、ここで折れる事は決して許されない。選んだ道を、最後まで走りきる事が、エドの使命であった。

 

「俺は《切り裂きエド》!! 南米の英雄だ!!」

 

 改めて宣言するように、叫び声をあげる。

 

 英雄は、英雄として最後まで戦い続けると。

 

 それに対して、

 

 レナもまた、何かを諦めたように静かに目を閉じると、語りかけるように言葉を紡ぐ。

 

《そう・・・・・・あなたが戦うと言うのなら、私もこの戦争を終わらせ、被害を少なくするために剣を抜く。エド、あなたはここで死になさい!!》

 

 言い放つと同時に、

 

 レナは遂に、シュベルトゲベールを抜き放った。

 

 同時に肩からマイダスメッサー・ビームブーメランを抜き放ち、エド機に向けて投げつける。

 

 旋回しながら向かっていくブーメラン。

 

 対してエドは、それを紙一重で回避する。

 

 だが、レナの攻撃はそこで終わらない。

 

 更にもう1基のブーメランを抜き放ち、それも投擲する。

 

 回避行動を取ろうとするエド。

 

 しかし体勢が崩れ、機体が大きく流れてしまう。

 

 その隙を、レナは見逃さなかった。

 

 流れるような動きで、ソードカラミティの左腕に装備したロケットアンカー・パンツァーアイゼンを射出。エド機の左腕を捉える。

 

「このッ!?」

 

 とっさに振り解こうとするエド。

 

 しかし、遅い。

 

 エドが行動を起こすよりも早く、レナはワイヤーを巻き上げてエド機を引き付けると、そのままシュベルトゲベールを振るう。

 

 一閃される大剣の一撃。

 

 しかし、エドもまた負けてはいない。

 

 大剣が振り下ろされる直前に機体を回避させ、剣閃から逃れる。

 

 レナの斬撃は、エドの機体後部を削っただけにとどまった。

 

 再び対峙する両者。

 

 しかし、

 

「これは、少しまずいかも・・・・・・」

 

 他の地球軍機の掃討を終え、一騎打ちの様子を見守っていたキラは、呻くように呟いた。

 

 周囲の地球軍はすでに全機戦闘不能に陥り、残った者達も、辛うじて動ける機体が抱える形で退避していった。

 

 事実上、この場に残っている地球軍戦力はレナのソードカラミティのみである。

 

 しかし、そんな不利など一切意に介する必要が無いと言わんばかりに、レナはエドを圧倒している。

 

 ハチから聞いた話によると、レナは大戦中、GAT-X103「バスター」の量産型である「バスターダガー」を乗機とし、的確かつ強烈な砲撃でザフト機多数を屠ったと言う。その為、レナ・イメリアと言えば砲撃戦の名手と言うイメージが強い。

 

 しかし今、接近戦においてもトップクラスの実力である事が、実地によって証明されていた。

 

 正直、キラですら、接近戦オンリーでレナと戦ったら、勝てるかどうか。

 

 対峙するエドにも、焦りが見え始めているのが、見て分かった。

 

「クソッ ソードを起用に乗りこなしやがる」

 

 どうにか体勢を立て直したエドが、荒い息と共に言葉を吐き出す。

 

 地上戦、それも接近戦においては絶対の自信を持っていたエドが、自分の土俵でこうまで苦戦させられると、いったい誰が予想しただろう?

 

 対してレナは、余裕すら感じさせる足取りで接近してくる。

 

《機体の能力を最大限に引き出す事は、戦ううえで当然の事よ。あなたはシュベルトゲベールに頼りすぎ。強力な武器は隙も大きい事を知りなさい》

 

 確かに、元々「対艦」刀の名が示す通り、シュベルトゲベールをはじめとした大型剣は、敵艦の装甲を切り裂く事を最大の目的としている。キラも大戦中はグランドスラムやティルフィングと言った大型対艦刀を器用に使いこなしていたが、あれはキラの技量故である。普通のパイロットなら、対モビルスーツ戦における白兵戦では、対艦刀よりも取り回しが効きやすいビームサーベルを選択する事だろう。

 

 そう言う意味で、レナの指摘は全く正しい。隙が大きな武器を使うなら、その隙を補うための工夫が必要だった。

 

 だが、そんな事以前に、エドは緊迫した状況であるにもかかわらず、妙に可笑しい気分にとらわれていた。

 

「こんな所に来てまで授業かよ、教官?」

 

 レナの口調が、訓練生時代のそれと全く変わらなかった事が、エドにとって妙にツボだった。

 

 だが、ここは戦場であって教室ではない。

 

 エドも生徒ではないし、レナもまた教官としてこの場にいるわけではない。

 

 互いに互いの信念の為に戦う者同士、剣を交える宿命にあった。

 

「だが俺は、コイツの剣を信じているんだ!!」

 

 エドは言い放つと、2本のシュベルトゲベールを並列のツーハンデットモードに構え、最後の勝負をかけるべくレナ機へと突撃していく。

 

 対して迎え撃つレナは、双剣に構えたシュベルトゲベールの刃を交差させ、更に胸部スキュラにエネルギーを充填する。剣での勝負を掛けるエドに対して、残った全ての武器を用いて迎え撃つ構えである。

 

「これで、勝負!!」

《良いでしょう!! 「英雄」の最後、見届けてあげるわ!!》

 

 スキュラを撃ち放つレナ機。

 

 その強烈な閃光が、エド機を薙ぎ払おうと奔流を発する。

 

 迫る、光の渦。

 

 それに対して、

 

 エドは、僅かに機体を傾け、最小限の動きで回避行動を行う。

 

 閃光は、僅かにエド機の頭部を掠めて行くにとどまった。

 

 フリーハンドになるエド。その機を逃さず、一気に勝負を掛けるべくシュベルトゲベールを振り上げる。

 

 対して、レナもまだ勝負を投げてはいない。

 

 双剣に構えたシュベルトゲベールで、カウンターの一撃を返そうとする。

 

 その両者がすれ違った。

 

 次の瞬間、

 

 レナ機が構えたシュベルトゲベールは中途から折れて斬り飛ばされ、

 

 エドの剣は、

 

 レナ機の腹部を、剣先で斬り裂く形で見事に決まった。

 

 吹きだしたオイルが、返り血のようにエド機を濡らしていく。

 

 勝敗は、決した。

 

 

 

 

 

 コックピットを下りたエドは、すぐさま倒れているレナ機へと駆け寄った。

 

 敵対してしまったとは言え、レナはエドにとって旧知の間柄。死なせたくはなかった。

 

 エドの剣は、ソードカラミティの腹部、コックピット付近を掠める形で斬り裂いている。中にいたレナが重傷を負っている可能性は大いにあった。

 

 エドは機体をよじ登り、装甲の裂け目から内部を覗き込む。

 

 自分の愛機と同型である為、構造も勝手知ったるものである。

 

 全ての明かりが落ちて暗くなった内部を覗き込むと、レナが朦朧とした意識を持ち上げるように、エドを見上げて来ていた。

 

「エド・・・・・・見事、だったわ・・・・・・・・・・・・」

「レナ!!」

 

 かつての教官は、見事に自分を乗り越えたかつての生徒を、そう言って手放しに称賛する。

 

 最後の激突。

 

 あくまでも剣による決着に拘ったエドに対して、レナは全ての武装を使用して迎え撃とうとした。

 

 この両者の戦い方は、どちらが優れていると言う訳ではない。状況によっては、勝敗が逆転していてもおかしくは無かった。

 

 しかし今回は、エドの「一撃」が、レナの「多彩」を打ち破る形となった訳である。

 

「さすが・・・・・・英雄、は・・・・・・強い、わね・・・・・・」

「しゃべらない方が良い。すぐ助けてやるからな!!」

 

 そう言うと、機体のハッチを強制解放しようとするエド。

 

 そんなエドを、レナは微笑ましそうに笑って見詰める。

 

「・・・・・・やさしい、のね・・・・・・あの子(ジェーン)が、あなたに惹かれたのも・・・・・・判る・・・・・・・・・・・・けどね・・・・・・」

 

 そこまで言ったとき、状況を見守っていたキラが、何かに気付いた。

 

「危ないエド、離れて!!」

 

 だが、遅い。

 

「ここは、戦場よ・・・・・・・・・・・・」

 

 そう言ったレナの手には、黒光りする拳銃が握られていた。

 

 レナはまだ、勝負を諦めていなかった。相手を気遣わずにはいられないエドの性格を見越して、最後の切り札を残していたのだ。

 

 火を噴く銃口。

 

 その銃弾は、キラ達が見ている目の前で、エドの胸を真っ向から貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コックピットに座し、ラキヤは機体を立ち上げて発進準備を整えていく。

 

 ストームは元々、試験用の機体である為、整備性は悪く、更にマニュアルも複雑すぎる為、稼働状態に持っていくのにずいぶん時間がかかってしまった。

 

 そして、その間に随分と、戦況は動いてしまっていた。

 

 地球連合軍は南米大陸に対して大攻勢を掛け、《切り裂きエド》に対する最後の刺客であるレナ・イメリアも出撃していった。

 

 当初、招集された4人の刺客の中で、残っているのはラキヤだけである。

 

「《白鯨》ジェーン・ヒューストンは敗れて敵に降り、《月下の狂犬》モーガン・シュバリエは失敗、そして《乱れ桜》レナ・イメリアはMIA、か・・・・・・」

 

 レナの生存を信じたいところではあるが、部隊も壊滅した為、レナが生きていると言う情報は今のところ入ってきてはいない。

 

 その間にラキヤには、別の任務が言い渡されていた。

 

 前線部隊への航空支援。

 

 南米では大規模な航空戦ができない為、必然的に少数精鋭の部隊展開とならざるを得ない。そこで、飛行型モビルスーツの乗り手であるラキヤに命令が下ったのだ。

 

「とは言っても・・・・・・」

 

 サングラス越しにラキヤは、自嘲気味に笑う。

 

 可笑しかった。

 

 これが笑わずにいられようか?

 

 かつて、「プラントで生活しているナチュラル」と言う理由で、同世代の子供達からいじめを受けていた自分。それ故に普通に生活する事ができず家を出ると、身分を隠してザフト軍に入隊した。そして今度は地球軍の捕虜になると、「ザフト軍に協力していた、裏切者のナチュラル」と言う理由で、地球軍の軍人として戦っている自分。

 

 こんな今の自分を見て、義妹(いもうと)達はどう思うだろう?

 

 ルナマリアは、きっと怒るだろう。下手をすれば殴られるかもしれない。

 

 メイリンは、きっと悲しむだろう。あの娘は優しい子だから。

 

 そして、

 

「・・・・・・・・・・・・アリス」

 

 そっと、その名を呼ぶ。

 

 幼い頃から共に過ごして来た、年下の幼馴染。

 

 かつては妹達と同様に思っていた少女の存在が、ラキヤの中で恋心に変わったのは、いつの頃からだっただろう?

 

 アリスも、きっと今の自分を見たら呆れるだろう。それとも、泣いてしまうだろうか? あの娘も結構泣き虫なところがあるから。

 

 しかしもう、それもどうでも良い事だ。

 

 自分はもう、アリスに会う事はできないのだから。

 

「・・・・・・無くす物は、どうせ、もう何も無いんだ」

 

 低い声で呟くラキヤ。

 

 同時に、発進可能を告げるシグナルが灯った。

 

「この命の光、燃え尽きるまで行こう」

 

 そのサングラスの奥で、ラキヤは美しかった過去に背を向け、空虚と化した未来を見詰めていた。

 

 

 

 

 

Episode-07「舞い散る桜吹雪」      終わり

 

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