機動戦士ガンダムSEED 南天に輝く星   作:ファルクラム

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後書きにオリジナル設定があります。


Episode-09「降りしきる、天に吼える」

 

 

 

 

 

 

 

 南米独立戦争は、正にピークを迎えようとしていた。

 

 レナ・イメリアとエドワード・ハレルソンの対決を機に、大々的な南米大陸侵攻を開始した地球連合軍。

 

 組織としては最大規模の勢力を誇る地球連合軍に対し、質、量ともに劣っている南米軍の抵抗はあまりにも無力であると言えた。

 

 南米軍が地球軍に勝っている点があるとすれば、それはただ一つ。「祖国を取り戻したい」と願う、兵士一人一人の願いと、そこから発せられる、天を衝く程に高い士気だけだった。

 

 しかし、今やその唯一の勝機すら、彼等の手から零れ落ちていた。

 

 ナイロビで開催されていたヤキン・ドゥーエ戦役の停戦交渉。その和平条約の中にある、「開戦前の状態に国境線を戻す」と言う一文。これが、それまでかろうじて維持されていた南米軍の士気を崩壊させたのだ。

 

 労せずして国は自分達の手に戻ってくる。

 

 全ては無駄だった。

 

 今までしてきた苦労も、舐めた辛酸も、犠牲になった全てに人々の魂も、

 

 全て無駄だったのだ。

 

 その事を知った時、南米軍の人々は全ての戦う意味を失い、ただ膝を突く事しかできなかった。

 

 そこへ、好機とばかりに攻め込んで来た地球連合軍。

 

 士気の瓦解した南米軍を、地球軍はまるで蟻塚を潰すように次々と撃破していった。

 

 このまま南米は、地球軍に蹂躙されるままになるかと思われた。

 

 正に、その時、

 

 風は、力強く吹き上がった。

 

 フリージャーナリストを名乗る、ジェス・リブルと言う男は言った。

 

 「南米の英雄」エドワード・ハレルソンは倒れた。

 

 しかし、南米を想い、南米の為に立ち、南米の為に戦う事ができる全ての人が「南米の英雄」なのだと。

 

 真実を告げるその言葉は、消えかかっていた南米人の心の炎を、再び力強く燃え上がらせた。

 

 戦う理由など、無くても構わない。

 

 否、戦うのに十分な理由なら、誰にだってある。

 

 地球軍が南米を焦土にするために攻めて来ると言うのなら、自分達はそれに立ち向かう為に戦う。自分達の国を守る為に。

 

 それだけで、彼等を突き動かすには充分だった。なぜなら、この国に住む全ての人々が「南米の英雄」であるのだから。

 

 南米軍の反撃が始まった。

 

 多くの市民が立ち上がり、手に武器を取って侵攻してきた地球軍に立ち向かっていく。

 

 そして、この光景こそ、エドワード・ハレルソンが真に願った事でもあった。

 

 地球軍の大攻勢を前にして、各所で次々と対抗する砲火を撃ち上げる南米軍。

 

 勿論、地球軍も黙ってはいない。

 

 そもそも地球軍は、質も量も南米軍を大きく凌駕している。いわばこの戦いは、初めから勝敗が決まっているような物なのである。

 

 南米軍の士気が予想に反して高いせいで苦戦を強いられているが、大兵力を利用した物量戦で押し潰せば、決して勝てないはずはなかった。

 

 大兵力を展開し攻め込んでくる地球軍と、密林に潜んでゲリラ戦を仕掛ける南米軍の戦いが、南米大陸の各所で展開される。

 

 

 

 

 

 この状況で、エースパイロット達も黙っていない。

 

 ジェーンはフォビドゥンブルーを駆って海中で奮戦し、地球軍が上陸するのを水際で阻止している。

 

 フォビドゥンブルーで出撃したジェーンの任務は、海上に展開した地球軍洋上艦隊を攻撃し、南米大陸に対して行われている海上封鎖を破る事にある。

 

 しかし、その任務がいかに困難であるかは、他ならぬジェーン自身が良く判っていた。

 

 ジェーンは南米軍にとって、ほぼ唯一と言っても良い海上戦力である。南米軍にも固有の海軍は存在しているが、しかし肝心の水中用モビルスーツがほぼ全く配備されていないのが現状である。

 

 自分が孤軍である事は、誰よりもジェーン自身が良く理解している。

 

 しかし、それでもジェーンは行かない訳にはいかない。

 

 エドが、愛しい男が命がけで守ろうとした南米を、彼女自身も救いたいと願っているから。

 

 海中を鮫の如く疾走するフォビドゥンブルー。

 

 しかし程無くその行く手には、真っ直ぐこちらに向かってくる複数の機影が確認できた。

 

「チッ やっぱり、タダじゃ通してくれないか・・・・・・」

 

 舌打ちしながらジェーンは、自身に向かってくる機影を睨みつける。

 

 相手はGAT-706S「ディープフォビドゥン」。ジェーンも一時期乗機にしていた、地球連合軍の主力水中機動兵器である。

 

 第2次カサブランカ沖海戦の折には少数の戦力で、それまで無敵を誇っていたザフト軍の水中モビルスーツ部隊を撃破している。

 

 ジェーンのフォビドゥンブルーを改良した機体である為、性能は向こうの方が高い。そして数も、言うまでもない事だろう。

 

 だが、

 

「上等だよ!!」

 

 ジェーンは一声吠えると、速度を上げて斬り込んで行く。

 

 これは退く事の許されない戦い。ならば、前に進む以外、ジェーンに道は無かった。

 

 

 

 

 

 圧倒的な光景が、そこにはあった。

 

 居並ぶダガーLを駆る地球軍のパイロット達は、ただ呆然と、その光景を眺める事しかできない。

 

 目の前で戦っている敵は、たった1機のストライクダガー。

 

 しかし彼等は、そのたった1機のストライクダガーを抜く事ができずにいた。

 

《おのれ、たかが1機で!!》

 

 ダガーLの1機が、不用意にストライクダガーに近付こうとする。

 

 しかし次の瞬間、

 

 目にも止まらぬ速さで、ストライクダガーは動いた。

 

 ビームサーベルを持つダガーLの右腕を、弾くストライクダガー。

 

 それだけで、ダガーLの右腕はへし折られ、あらぬ方向にひん曲がる。

 

《なッ!?》

 

 驚くパイロット。

 

 しかし、ストライクダガーの動きは、尚も止まらない。

 

 ラッシュの如く、繰り出される拳撃。

 

 嵐のような攻撃は的確にストライクダガーを捉え、一撃ごとに深刻なダメージを与えていく。

 

 それに対して、パイロットは何をする事も出来ない。ただコックピットに座し、破壊されていく自機を眺めている事しかできなかった。

 

 その間にもダガーLは装甲をボコボコにされ、地面に倒れ伏す。外見からは確認できないが、内部の機構もズタズタにされ、機能を停止しているのは明らかだった。

 

 旧式機。それも、武器を一切使わず、「素手」のみの攻撃でモビルスーツを撃破する様を見て、地球軍の間に動揺が走った。

 

 そんな地球軍を前にして、

 

「ここは通さん。是非にと言うのなら、俺が相手になる」

 

 厳かな声で《拳神》バリー・ホーは告げる。

 

 その圧倒的な存在感を前に、地球軍のパイロット達の間に、戦慄が急速に広がるのを押さえられなかった。

 

 

 

 

 

 各戦線で、地球軍を相手に奮闘を続けるエース達。

 

 そんな彼等を中心に、反撃に転じていく南米軍。

 

 各所で上がった反撃の炎は、やがて南米全土を覆う巨大なうねりとなった、更に大きく燃え上がろうとしていた。

 

 そして、更にもう1人。

 

 エド無き今、南米軍最後の切り札とも言うべき少年もまた、戦線に加入しようとしていた。

 

 

 

 

 

 それは、悪夢の如き光景だった。

 

 侵攻してきた地球軍に対して、迎撃の為に出撃した南米軍。

 

 その南米軍が、たった1機の機体に圧倒され、次々と破壊されていく。

 

 南米軍の方でも、どうにか地球軍の侵攻を防ごうと、必死の防戦を試みているが、そんな奮闘をあざ笑うかのように、その機体は南米軍を蹂躙していく。

 

 手にした双剣が弧を描くたび、確実に南米軍は数を減らしていく。

 

 そのコックピットの中で、

 

「クックックックックック」

 

 パイロットは、くぐもった笑い声をあげた。

 

「馬~鹿め等がァ!! そんな黴の生えたような機体で、勝てるとでも思っているのか!! そんな簡単な事も判らんとは、この間抜け共が!!」

 

 ベイル・ガーリアンは、地面に這いつくばる南米軍の兵士達の様子を見て、面白くてたまらないと言った感じに高笑いを上げる。

 

 実際、彼の楽しさは絶頂と言って良かった。

 

 楽しくて、楽しくて、笑いが止まらなかった。

 

 既にベイルが率いる部隊は、進撃途上にあった3つの街や村を灰燼に帰しながら、更に南米の奥地へと進んでいる。

 

 勿論、その場で目に付いた人間は、軍人、非戦闘員を問わず皆殺しにして通り過ぎてきた。

 

 まるで恐怖を見せ付けるように進撃するベイル。

 

 圧倒的な性能を誇る機体を使用して、這い回る蟻を潰すが如く。健気にもか細い抵抗を続ける敵をひねり殺していく。これほど楽しい戦いは、彼には他に無かった。

 

 力の差を知りながら、無駄な抵抗をしようとする南米軍の連中には愛おしさすら感じてしまう。勿論、そんな連中には親愛の情をたっぷり込めて踏み潰してやるのだが。

 

 無抵抗な奴らを踏み潰す瞬間は、ベイルにとって一種の快感ですらあった。

 

 しかも今回は、ベイルにとって楽しい事はそれだけではない。

 

 彼の乗るモビルスーツ。それは漆黒に塗装され、手には巨大な双剣を構えた凶悪な様相の機体である。

 

 それは、南米人なら子供でも見慣れているものである。

 

 ソードカラミティ。

 

 ベイルは地球軍の総攻撃に際し、この機体を乗機として選んだのだ。

 

 「南米の英雄」と称えられたエドワード・ハレルソンが使用していた機体を、地球軍が使い、南米の蹂躙を行う。これほど愉快な戦いは、他にはなかった。

 

 一方の南米人にとっては、悪夢であり絶望であり、そして屈辱ですらあるだろう。

 

 あれはエドではない。

 

 それが頭では分かっていても、実際にソードカラミティがシュベルトゲベールを振り翳して自分達に斬り掛かってくる様を見て、平静でいられる筈が無かった。

 

 エドが乗った機体が、南米を滅ぼす為に使われる。それだけでもはらわたが煮えくり返りそうな思いになる。

 

 また1機、ソードカラミティの剣に切り裂かれ、爆発炎上する。

 

「良い機体じゃないかッ 流石、英雄殿は良い趣味しているよ。自分の乗っていた機体で、自分の国を滅ぼされるんなら、尚更だろう!!」

 

 高らかに、笑い声を上げるベイル。

 

 それに同調するように、他の地球軍兵士達もこれ見よがしに笑い声をあげる者が出る。

 

 自分達こそ真の意味で地球人であり、他の奴らはそれ以下の存在でしかない。

 

 そう言った考えが蔓延しているのは、地球軍の部隊の中では珍しい事ではない。そんな彼等にとっては、南米軍を虫けらのようにひねりつぶしていくベイルの戦いぶりは、爽快ですらあった。

 

 南米人はザフトと、コーディネイターと手を組んでいた。それだけでも万死に値し、地球という崇高な星で暮らす資格は無い。速やかに排除する必要がある。

 

 勿論、南米とプラントが手を組んでいたというのは、ベイルの勝手な思い込みなのだが、彼等にとっては、それすらもどうでも良い事であると言えた。ようは自分たちの行為を正当化できれば、それで良いのだ。理由など、あとでいくらでもでっち上げる事ができた。

 

「さあ、行くぞッ 南米の害虫共を1人残らず叩き潰し、俺達の星を守ろうじゃないか。青き清浄なる世界の為にな!!」

 

 ベイルの宣言に、高らかに唱和する地球軍。

 

 誰1人として、自分達が虐殺に加担していると言う認識はない。むしろ、理想の為に、崇高な精神を持って聖戦に臨んでいると言う誇りすらあった。

 

 自分達に逆らう「悪」と言う存在を排除し、地球を元の豊かで美しい、清浄な星に戻す事こそ、地球軍の使命であると思っている者達ばかりである。

 

 彼等は南米軍兵士の遺骸を踏み潰し、蹴散らしながら炎の中を進軍していく。

 

「そらそらそらァ!!」

 

 上機嫌に声を上げながら、ベイルは胸部のスキュラを発射。接近しようとしていた南米軍のストライクダガーを容赦なく吹き飛ばす。

 

「どうした!? 国を取り戻すんじゃないのか!? だったらこんな所でヘタレてないで、もっと掛かってくればいいだろうが!!」

 

 連続して放たれるスキュラ。

 

 その砲火が吹き荒れる度、地は抉られ、炎が逆巻いていく。

 

 ベイルの高笑いは続き、本来なら保護すべきアマゾンのジャングルが灰燼に帰して行く。

 

 その行軍を止め得る者は、誰もいないのか?

 

 そう思った次の瞬間、

 

 出し抜けに、地球軍の隊列を吹き飛ばすような勢いで、爆炎が踊り上がった。

 

「何だ!?」

 

 最前まで上機嫌で破壊を振りまいていたベイルは、突然の事に素っ頓狂になって声を上げて機体を振り向かせる。

 

 その視線の先には、地球軍の陣中に踊り込んできた、1機のモビルスーツの姿があった。

 

 かなり重装備な機体である。

 

 両肩と足首にはミサイルランチャーを装備し、右手には大型の無反動砲、左手には突撃銃を持ち、腰には対艦刀の類と思われる長大な剣を鞘に入れて装備している。その他、ビームライフルやビームサーベルと言った基本的な装備も確認できる。

 

 そのコックピットの中で、

 

 キラ・ヒビキがゆっくりと、顔を上げた。

 

 ザフト軍の拠点から、エアリアルを駆って急いで前線に駆けつけたキラ。全速力で飛んできただけあり、辛うじて地球軍の侵攻に追い付く事ができた。

 

 エアリアルは今、本来の姿とは似ても似つかないほど、全身に追加した多数の武装を装備しているが、これらは全て、ザフト軍の整備員が好意で譲ってくれた物である。

 

 装備の少なさは、エアリアルにとっては欠点の一つでもある。特に敵が多い状況ではなおさらだ。それを考えれば、下手をすると国際問題にもなりかねない兵器の提供を、非公式とはいえ応じてくれたザフトの関係者には、感謝の言葉も無かった。

 

 キラはコンソールを操作して、翼に取り付けられたタンクを切り離す。

 

 このタンクは推進剤とバッテリーがセットになった物で、モビルスーツの活動時間を延長する事ができる。言わば、モビルスーツ用のドロップタンクである。このタンクのおかげで、エアリアルは全速力で駆け付けたにもかかわらず、一切の消耗無く戦闘を開始する事ができた。

 

「行くぞ」

 

 静かに呟くキラ。

 

 同時に、全ての武装を解放した。

 

 両肩と両脛脇に装備したミサイルランチャーを開くと、そこから一斉にミサイルを発射する。

 

 突然の事で、回避すらままならない地球軍。その隊列の中に飛び込んだキラは、正に台風の目のように暴れまわる。

 

 手にした無反動砲と突撃銃を駆使して次々と、立ち尽くしているダガーLを撃破して行く。

 

 しかもキラは、その全ての攻撃を、急所を外して行っている。

 

 手足や頭部を破壊され、戦闘不能に陥る機体が続出する地球軍。

 

 反撃しようにも、味方機が邪魔でエアリアルを捕捉する事ができないでいる有様だ。

 

 そんな中キラは、冷静に、しかし高速で、地球軍の戦闘力を奪っていく。

 

 ミサイルを撃ち尽くしたランチャーをパージ、身軽になったところで、無反動砲と突撃銃を構え直す。

 

 そこへ、シュベルトゲベールを振り翳して、ダガーLが2機、エアリアルに斬りかかってくる。

 

 しかし、振り下ろした大剣が、エアリアルを捉える事は無い。

 

 その前にキラは、高機動を発揮して後退しながら回避。同時に地面を滑るように横移動しながら、両手に構えた突撃銃と無反動砲を打ち放つ。

 

 たちまち、狙われたダガーLは、腕や足を吹き飛ばされてしまった。

 

 大破した機体は1機も無い。全てが、武装や手足、頭部を狙った攻撃である。

 

 猛攻を続けるエアリアル。

 

 しかし、そこで、無反動砲の弾丸が尽きてしまった。

 

 元々、携行弾数はそれほど多くない。5~6発も撃てばすぐに弾切れを起こしてしまう。

 

 そこへ、好機とばかりに斬りかかってくるダガーL。弾切れを起こした事で、今ならエアリアルを倒せると踏んだのだろう。

 

 だが、それは早計というべきだった。

 

 キラはエアリアルを操作しては無反動砲をひっくり返して砲身部分を把持すると、そのままフルスイングの要領で一気に横薙ぎに振り抜いた。

 

 ガインッ

 

 砲身はダガーLの頭部を捉え、強烈な音がジャングルに轟き渡る。

 

 ザフト軍が正式採用している無反動砲は、戦艦の装甲をも突き破る事ができる砲弾を撃ち出す関係から、かなり頑丈に作られている。

 

 その一撃をまともに食らったダガーLの頭部は、骨格が引きちぎられるように破壊され、まるで野球のボールのように彼方のジャングルまで吹き飛ばされて沈んでいった。

 

 役目を終えた無反動砲。

 

 それを投げ捨てるとキラは、今度は腰に手をやった。

 

 柄を持つと、腰に下げた剣をスラリと抜き放つ。

 

 優美な実体剣の姿が、そこにはあった。

 

 軽く反った刀身は細く、まるで三日月のような印象がある。ここが戦場でなければ、一種の芸術品のようにさえ思えた。

 

 「MA-M92 斬機刀」と呼ばれるこの武装は、日本刀を意識したデザインがされており、従来、ザフト機が標準装備していた西洋剣風の重斬刀に比べて、切れ味が格段に優れているのが特徴である。

 

 材質や精製法など、かなりの量の機密事項がふんだんに使われている武器であり、本来ならザフト軍の最重要機密兵器にも属する代物だが、この武器もまた、ザフト軍はエアリアル出撃に際して提供してくれた。ただし「使用後は確実に処分する」という条件付きではあるが。

 

 余談だが、この斬機刀を主要装備とするジンの最終発展型は「ジン・ハイマニューバⅡ型」と言い、主に機動力と接近戦能力を強化した機体であるの。この機体を装備した一部の元ザフト兵士が、やがて最悪のテロリズムを引き起こす事になるのだが、それはまだ先の話である。

 

 迫るダガーLに対し、手にした刀を振るうエアリアル。

 

 次の瞬間、

 

 驚くほど軽く、ダガーLの装甲は切り裂かれた。

 

「これは!?」

 

 何あろう、一番驚いているのは斬ったキラ自身である。

 

 ビーム刃でもないのに、ダガーLの装甲が紙のように切れてしまった。

 

 三日月のような刃が風を撒いて旋回する度、確実にダガーLは切り裂かれていく。

 

「すごい・・・・・・」

 

 一瞬キラは、それが戦いの為の武器である事も忘れて見惚れてしまう。

 

 優美な外見とは裏腹に、恐るべき切れ味である。しかも、バッテリーを一切消耗しないで使える分、デッドウェイトである事を除けば、ビームサーベルよりもよほど効率が良い武器である。

 

 こんな物を作ってしまうあたり、ザフトの技術は侮れない物があった。同時に、提供してくれたザフト軍の整備員が、使用後は確実に処分するように言っていた訳も理解した。これは正直、判らない話でもなかった。

 

 改めて刀を構え直すエアリアル。

 

 そこへ、業を煮やしたとばかりに、シュベルトゲベールを振り翳したソードカラミティが斬り込んで来た。

 

「おのれ、生きている価値も無いクズ虫の分際で!! よくも好き勝手に暴れてくれたなッ 貴様など、この俺の手で引き裂いてやる!!」

 

 振り下ろされるシュベルトゲベール。

 

 その剣閃を、キラは正確に見極めてスラスターを噴射すると、上昇しながら斬撃を回避。同時に、左手に装備していた突撃銃を撃ち放つ。

 

 放たれる弾丸。

 

 しかし、

 

「間抜けがッ そんな物が効くと思っているのか!?」

 

 TP装甲を装備しているソードカラミティが相手では、実体弾は効果を持たない。

 

 勿論、キラはその事を充分に承知している。

 

 撃ち終った突撃銃を投げ捨てると、素早く腰に手を伸ばすエアリアル。

 

 そこへ、

 

「そぉら、死ねェ!!」

 

 シュベルトゲベールを振り翳して斬り込んでくる、ベイルのソードカラミティ。

 

 その鼻っ面目がけて、キラは腰から取り出したハンドグレネードを投げつけた。

 

 接触と同時に、爆発を起こすハンドグレネード。

 

「ぐおッ!?」

 

 これには、流石のベイルも思わず声を上げる。

 

 いかにTP装甲とは言え、爆発の衝撃まで無効化する事はできない。鼻っ面で起こった爆発のせいで、ソードカラミティは凄まじい振動に見舞われた。

 

 空中でバランスを崩すソードカラミティ。

 

 そこへ、

 

 斬機刀を振り翳したエアリアルが斬り込んで来た。

 

 振り下ろされる刀。

 

 対して、バランスを崩した状態のソードカラミティは、防御も回避もままならない。

 

 エアリアルの斬撃をコックピット付近に受け、ソードカラミティは更なる振動に襲われた。

 

「オォォォォォォォォォォォォ!?」

 

 轟音、衝撃。

 

 ソードカラミティは、そのまま地面に勢いよく叩き付けられた。

 

 同時に、コックピット内のベイルも、思わず意識が飛びそうになる程の衝撃に襲われた。

 

「く、クソッ!!」

 

 悪態を吐きながらも、首を振ってどうにか意識を回復させ、体勢を立て直そうとする。

 

 しかし、いくらベイルが操縦桿やコンソールを動かしても、ソードカラミティはピクリとも動かない。

 

「クソッ なぜ動かん!?」

 

 あらゆるレバーを滅茶苦茶に動かすベイル。

 

 しかし、やはり結果は同じ。ソードカラミティは唸るような駆動音を響かせるだけで、全く動こうとしなかった。

 

「動け!! 動けよ、このポンコツがァ!!」

 

 自らの機体を罵るベイル。

 

 しかし、ソードカラミティは、まるで主の意志に逆らうように、倒れ伏したまま動こうとしない。

 

 実はこの時、ソードカラミティは墜落のショックで伝達系統が破損し、エンジンからのエネルギー伝達が機体の方に行き渡らなくなっていたのだが、しかし見様によっては、かつて「南米の英雄」が駆ったソードカラミティと同型の機体が、南米人を虐殺しようとするベイルに対して自らの意志で逆らっているようにも見えた。

 

《隊長、もはやこれまでです!!》

 

 倒れ伏したソードカラミティを見かねて、2機のダガーLが、両脇から助け起こすようにして持ち上げる。

 

 どうやら撤退するつもりらしい。

 

 キラの攻撃によってほとんどの機体が損傷を負い、更に頼みのソードカラミティまで大破させられたとあっては、もはや彼等にキラを倒す事は不可能だった。

 

 逃げ帰っていく地球軍の部隊を、キラは黙って見送る。

 

 元より、こちらも余裕がある身ではない。逃げる敵まで追っていられるほど暇ではない。

 

 敵を撃退できた。今はそれで、戦果としては充分すぎた。

 

 ちょうどその時、エアリアルの後方から別の反応が近付いて来るのが、センサーで分かった。

 

 今度は地球軍ではない。振り返ると、南米軍所属のストライクダガーが数機、エアリアルの方に近付いてきた。

 

《エアリアル、キラ君か!?》

 

 通信機のスピーカーからは、聞き覚えのある男性の声が響いてきた。

 

「アルベルトさん。どうしてここに?」

 

 エドの部下だったアルベルト・コスナーが、どうやらこの部隊の指揮官であるらしい。

 

 アルベルトは、相手がキラと判って機体を寄せてきた。

 

《地球軍の部隊が侵攻して来たって報告を受けてね。急いで駆け付けたんだけど・・・・・・》

 

 アルベルトは周囲を見回してから言った。

 

 周りには、撃破したダガーLの残骸が散乱しているのが見える。

 

 これら全てをキラ1人でやった事を考えれば、他の人間からは、たとえそれが味方の戦果であっても戦慄してしまうだろう。

 

《どうやら、遅かったみたいだね》

 

 その口元には、苦笑が浮かべられる。

 

 まさか、自分達が到着する前に、キラが全ての敵を倒してしまうとは思っても見なかったらしい。

 

 とは言え、和んでばかりもいられない。敵の一部隊を倒したとはいえ、まだまだ大軍が控えているのだから。

 

「僕が援護します。他の敵の掃討に当たりましょう!!」

《了解した。アテにしているよ!!》

 

 そう言うと、キラはアルベルト達の戦闘に立って進撃を始める。

 

 戦況は、相変わらず南米軍にとって厳しい状況が続いている。

 

 しかし、ほんの僅かではあるが、光明が見えてきたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦況が変わりつつある。それは、戦場にいる誰もが感じ始めていた事である。

 

 兵力は相変わらず、地球軍が南米軍を圧倒している。

 

 しかし、これまでのように、一方的に地球軍が蹂躙していく光景は、殆ど見られなくなりつつあった。

 

 必死の抵抗をつづける南米軍が僅かずつではあるが前進をし始め、侵攻してきた地球軍を押し返し始めている。

 

 ジェスが行った放送の効果は絶大と言って良かった。

 

 真実の声に導かれた南米の人々は奮起し、自分達の国を取り戻すべく戦い始めたのだ。

 

 一方の地球軍の側からすれば、当てが外れた形である。ナイロビ会議の結果を公表し、南米軍の士気を砕いたうえで殲滅戦を行うと言うのが彼等の書いた筋書きだったのだが、ジェスの活躍により、その思惑を打ち砕かれてしまい、予想以上の手痛い反撃を喰らってしまっている。

 

 それでも、地球軍は尚も南米軍に対して戦力的なアドバンテージを持っている。

 

 南米軍の士気が上がったからと言って、何も慌てる必要は無い。これでようやく、条件は五分に戻っただけの話である。ならばあとは、純粋な戦力と戦力のぶつかり合いとなる。そして、その戦いに地球軍が負ける筈が無かった。

 

 再び攻勢を強める地球軍。

 

 それに対して、少ない戦力をやりくりして地球軍の侵攻を阻もうとする南米軍の間で、激しい応酬が行われる事となる。

 

 そんな最中にあって、各エース達も奮戦を続けていた。

 

 

 

 

 

 バリー・ホーの戦いは、間も無く終ろうとしていた。

 

 彼が駆るストライクダガーは、すでに動いているのも不思議なくらいにボロボロに成り果てている。

 

 武器を一切使わず、格闘術のみで敵を倒すバリーのやり方は、どうしても機体に負担を掛ける事になる。駆動系、伝達系は既に大半が機能停止寸前の状態であり、装甲もあちこち破れている。極めつけに、左腕が先程攻撃を喰らって吹き飛ばされていた。

 

 いかにバリーが卓抜した技量と精神を誇る格闘家であったとしても、彼の乗る機体までもが超絶的になる訳ではない。

 

 もはや、バリーのストライクダガーが使い物にならない事は、火を見るよりも明らかだった。

 

 しかし、そのような状態になって尚、バリーは戦う事をやめようとはしなかった。

 

 苦戦の末ではあるが、ダガーLを1機、殴り倒したバリー。

 

 決して勝負を諦めない事。それもまた、戦士として必要不可欠な最低限の要素である事は間違いない。

 

 しかし、

 

「・・・・・・流石に、限界か」

 

 呻くように、コックピットの中でバリーは呟いた。

 

 既に機体は、殆ど動かなくなるつつある。バッテリー残量も既に危険域に入り、あとワンアクションすれば、全ての動力が停止する事は明らかであった。

 

 その事は地球軍の方でも把握しているのだろう。好機とばかりに、ビームサーベルを構えたダガーLが斬り掛かってくる。

 

 それを見たバリーは、一瞬で決断を下す。

 

 もはや、この機体で戦う事は不可能。ならば、次の手を打つまでだった。

 

 振り下ろされたサーベルが、既に殆ど動けなくなったストライクダガーを斬り捨てる。

 

 しかし次の瞬間、バリーはコックピットハッチを開いて、空中に踊り出した。

 

「ハァッ!!」

 

 人知を超える程の跳躍。重力がある事すら忘れたかのような飛翔。

 

 次の瞬間、バリーが繰り出した蹴りは、たった今、ストライクダガーを斬ったダガーLのカメラアイを捉え砕いた。

 

 全く予期し得なかった方法でカメラアイを破壊されたダガーLは、思わずその場で数歩よろける。

 

 そのまま、着地するバリー。

 

 蹴り一つでモビルスーツの戦闘力を奪い、そのまま15メートル下に着地する。もはや人間の範疇で測れる領域を超えていた。

 

 しかし、バリーの奮戦もそこまでだった。

 

 突如、バリーは背後から狙撃されて、肩を貫かれた。

 

「ぐッ!?」

 

 くぐもった声と共に、片膝を突くバリー。見れば、背後に立っている105ダガーが、足部に装備した対人用の機関砲で攻撃してきたのだ。

 

 しかし、12.7ミリの口径を持つこの機関砲の威力は、対人攻撃に用いれば、絶大な威力を発揮する。本来なら、人間の五体など粉々に砕け散ってもおかしくはないところである。それをバリーは、まともに喰らって軽傷の範囲に収まっている辺り、やはり尋常ではなかった。

 

 とは言え、バリーの危機がそれで去ったわけではない。

 

 既に機体も無く、抵抗する術を持たないバリー。

 

 もはやこれまでか。

 

 そう思った次の瞬間、

 

 突如、バリーを攻撃しようとしていた105ダガーが、複数の砲弾を浴びて爆発、そのまま轟音を上げて地面に倒れ伏した。

 

「・・・・・・何が起きた?」

 

 驚いて振り返るバリー。

 

 そこには、新たに密林から出て来た、2機のモビルスーツの姿があった。

 

 1機はザフト軍の主力機動兵器であるジンだが、機体各所に継ぎ接ぎのように色が違う部分がある。

 

 そしてもう1機は、ツインブレードとツインアイを持つ所謂「ガンダム顔」の機体で、白の中に映える、鮮やかな蒼い装甲が目を引く機体である。

 

 蒼い機体は、砲台型のガトリングガンを構え、その銃口を威嚇するように地球軍へと向けている。どうやら、バリーを救ったのは、あの機体であるらしかった。

 

《戦闘を中止しろ!! このジャングルの中にある村を守る任務を受けている。抵抗するなら排除する!!》

 

 蒼い機体から、警告が発せられる。

 

 しかし、相手が2機である事で、地球軍は与し易いと思ったのだろう。地球軍は目標を変更して、新たに現れた2機の方への攻撃を開始する。

 

 対して、青い機体とジンも反撃に転じる。

 

 青い機体は構えていたガトリング砲を巨大な剣に変形させ、向かってくるダガーLを一刀のもとに斬り捨てる。

 

 ジンも手にしたライフルで蒼い機体を掩護している。

 

 一方のバリーはと言えば、そんな2機。特に、青い方の機体の戦いぶりに見入っていた。

 

「あの青い機体・・・・・・あれは・・・・・・」

 

 聞いた事がある。

 

 モビルスーツを駆る傭兵部隊の話。構成メンバーは少数ながら、各分野のスペシャリストを揃えており、地球圏最強の傭兵部隊として名高い存在。何より、傭兵でありながら誇りを重んじ、道理に合わない仕事は決して引き受けないと言う、尊敬すべき者達。

 

「・・・・・・傭兵部隊サーペントテール・・・・・・叢雲劾(むらくも がい)

 

 その太刀筋は、格闘術を極めたバリーの目から見ても流麗であり、技量と信念が混ざり合った、気高き剣であるように思えた。

 

 程無く、サーペントテールが地球軍を殲滅するまで、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 キラがその機体の接近に気付いたのは、反攻に転ずる南米軍を上空から援護している時だった。

 

 雲の影に一瞬、光が走ったかと思うと、炎が翼のように広がり、急速に接近してくるのが見えた。

 

「あの機体は!?」

 

 声を上げるキラ。

 

 それは、エアリアルで初めて戦場に立った時に戦った、あのシルフィード級機動兵器だった。

 

 地球軍が攻勢に出てきているのだから、当然、あの機体も出て来るであろう事は予想済みだったが、まさかこのタイミングで出くわす事になるとは思わなかった。

 

 しかし、

 

 キラはチラッと、眼下の地上に目をやる。

 

 そこでは今、アルベルトを始め南米軍の兵士達が、迫り来る地球軍に対して必死の抵抗を続けている。今のところ状況は拮抗しているが、それでもいつ均衡が崩れてもおかしくない状態である。

 

 そのような中で、あの機体に出てこられたのでは、南米軍の戦線は一気に崩壊してしまう事にもなりかねない。

 

「僕がやる。それしかない」

 

 呟くと同時に、キラはエアリアルを旋回させて迎え撃つ体勢を整える。

 

 対して、ストームのコックピットでは、ラキヤがサングラス越しに、自分に向かってくるエアリアルの姿を捉えていた。

 

「あいつ・・・・・・・・・・・・」

 

 低い声で呟く。

 

 強敵の出現に、僅かながら心が揺れ動くのが分かった。

 

 かつてはナチュラルのザフト兵として、今は元ザフト兵の地球軍兵士として、異端の道を歩み続ける自分。

 

 心にあるのは、風が吹き抜けるような空虚感のみ。

 

 そんな中にあって、あの敵との戦いだけがラキヤの中で何か、これまでとは違う物を齎してくれるような気がしていた。

 

 もっとも、今の自分が何を得たところで、これ以上変われるとも思えないが。

 

 しかし、

 

「良いよ、相手になってあげる」

 

 呟くと同時に、スラスターの出力を上げエアリアルと対決すべく前へと出る。

 

 どのみちラキヤの任務は、味方の援護である。ここでエアリアルを撃墜できれば、掩護としては最上のものとなるだろう。

 

 両者、対峙しながら速度を上げる。

 

 キラとラキヤ。

 

 互いに王道ではない道を歩く者同士、最後の激突が幕を上げた。

 

 

 

 

 

Episode-09「降りしきる、天に吼える」      終わり

 




エアリアル・フルウェポンカスタム

武装
大型無反動砲×1
重突撃機銃×1
6連装ミサイルランチャー×4
斬機刀×1
ハンドグレネード×2
ビームライフル×1
ビームサーベル×2
対装甲コンバットナイフ・アーマーシュナイダー×2
アンチビームシールド×1
ピクウス頭部機関砲×2

パイロット:キラ・ヒビキ

備考
エアリアルをザフト軍の装備で可能な限り強化した状態。本来なら中立のザフト軍が南米軍に武器供与する事は許されない為、装備の大半は使い捨て可能な物になっている。尚、斬機刀はジン・ハイマニューバⅡ型に使われている日本刀タイプの物で、従来の重斬刀に比べて、切れ味が格段に鋭くなっている。これによりエアリアルの重量はかなり高くなってしまったが、使い捨てのドロップタンクを装備する事で、消費増大分を補っている。





ベイル専用ソードカラミティ

武装
通常と同じ。

パイロット:ベイル・ガーリアン

備考
他のソードカラミティと比べると、特に性能に差がある訳ではなく、たんに「南米の英雄が使用した機体で南米を蹂躙する」と言う目的の元、ベイルが選択した機体。しかし、エドを英雄として称える南米人にとっては、正に悪夢とも言うべき機体。
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