ルドラサウムはランス君がお気に入りのようです 作:ヌヌハラ・レタス
巨大戦艦を出たランス一行を迎えたのは、世界最大の宗教集団であるAL教の騎士と、その法王たるクルックーであった。
それをランスは落ち着いた様子で迎え入れる。
膨大な数の魔軍侵攻により、人類滅亡の危機にあることを告げるクルックー。
無表情ながら珍しく緊張した様子のクルックーだったが、ランスは、やはりクルックーをやさしく抱き寄せた。一流の紳士、いや男の振る舞いであった。
「がははは! 大丈夫だ。全部、俺様に任せろ」
ランス達は、早うし車に乗って、長い距離を強行軍で突破し、自由都市にあるランス城へと急ぐ。
クルックーは、魔軍侵攻の詳細をランスにまだ話してはいなかった。
しかし、最短で自由都市に帰るための道中指揮は、なんとランスが取っていた。
ランスがどうしてそこまで意を汲んでくれたのか、クルックーは聞かなかった。なんとなく、ランスなら自分の想像のななめ上をいくことがあると思ったからだ。
さて、ランスの指揮は単純明瞭だった。早うし車が、もっとも速く走れる道を最速で進めていた。
未だ道の整備に遅れるヘルマンにおいては、ただ道を選ぶだけで敵と出会う危険性は跳ね上がった。実際、ヘルマン領土を侵略せんとする魔物将軍と3度も交戦になった。
しかし、いずれも時間をとったとはいえない。すべて、ランスが一撃のもとに殺してしまったからだ。
魔軍の侵攻は恐ろしい速度であったが、このランスの鮮やかな逆襲によって、侵攻は一時的に麻痺してしまい、半月以上は軍の再編に追われることとなった。
(この事実を後に知ったシーラの心情が、どんなであったかは想像に難くない)
のちに、このランスの功績は、少なくとも数万のヘルマン人を救っていたことがわかっている。
この時点においては、AL教の騎士テンプルナイトらは、世界の危機に際して、北の果てまでやってきた法王の行動に、不安がなかったわけではない。
だが、法王のこの行動が必要であったことを完全に理解することができたと言える。
この男こそが、“魔軍との戦いを決める人類の英雄”だと。
◇
LP7年 9月後半――
City ランス城――
各国の代表は、(ランスが戻る以前に)ランス城に集まっていた。
機転を利かせたランスが、巨大戦艦から戻る道中、ヘルマンのフレイヤ率いる闇の翼との連絡をかなみに取らせていた。そこからコンピューターを使って、ランス城における各国合同の首脳会議の実施を募ったのだった。
コンピューターは、謎の多いテクノロジーであるが、その有用性から、ゼスをはじめとして自由都市、リーザス、最後にヘルマンにおいても僅かながら研究が進められていたのだった。
この後もコンピューターは、大戦において、情報の伝達という重要な役割を担うことになるが、その先駆けとなる通信は、ランスの一通の電文から始まったとされている。
ランスの先見の明に、各国の代表は(苦笑を伴った)さまざまな感情を抱いたが、先の時代を知る今のランスからすると、情報のやり取りを思念魔法で伝言したり、早うしを利用する時代の感覚をまだ取り戻せていなかったともいえる。今回は、功を奏したかたちであった。
(ただし、カラーの森にコンピューターは無かったため、カラー種は今回も欠席)
代表者による会議の場に参加していたのは、もちろんリーザス、ゼス、ヘルマン、自由都市、JAPANの主たる人物たちだ。その他にもランス城が小さく見えるほどに、諸国の大物の政治家、王、貴族が所狭しと集まった。
場には重々しい空気が立ち込めていた。肝心の会議が、うまく進んでいないためである。
「い、いい加減にしなさいよ! その話だと、リーザス以外は滅亡よ!」
「そんなの知らなーい。リアとリーザスは生き残れるもーん!」
リーザスのリアとゼスのマジックの意見が合わない。
(リアは、故あって挑発を繰り返していたのだが、マジックは全力でリアの挑発と討論していた)
自由都市は各都市ごとのリーダーになるため、意見の統一がさらに難しい。様子を伺っている。
JAPANの香姫とヘルマンのシーラは、なんとか大陸の各国と協調したいのだが、その一歩目が難しい。まだ、無傷でこの会議に挑むことができたJAPANはまだしも、ヘルマンはもっとも魔軍の侵攻が内部まで進んでいたため、現在の立ち位置も難しくなっていたのだ。
(どうすれば、この会議をよい方向に向かわせることができるのでしょうか)
シーラの補佐で会議に望んでいたクリームは、懸命に、魔軍との大戦に挑む道筋を見出さんとしていた。
大統領は歴の浅さから政治的な手腕において未熟な面が少なくない。それをクリームは、補佐しなくてはならないのだが、どう考えてもリアを、マジックを納得させる方法が思いつかない。
それぞれの国には、それぞれの歴史があり、そして今の地位があった。
例えば、リーザスは、ゼスとヘルマンに対して、並では済ませられない大きな“貸し”をしている。それを「今返せ」と言うこともできるのだ。
クリームは、このような事態に際したからこそ、改めて人類の団結の難しさを噛みしめていたが、それは、同じ立場であるアールコート、ウルザも同じ思いを感じていた。(リーザスは、ランスの希望あってアールコートがリーザス代表の軍師として赴いていた)
しかし、そもそもの話では、今回の大戦は、魔軍に致命的ともいえる先手を取られた状態にある。
それでいて、各国首脳をこれだけ早期タイミングで集結することができたのだ。これ自体が奇跡的なことなのだ。
だからこそ、今回の会議にかける思いは誰しもが大きく、人類の未来と存亡に関わる、それこそ一生に一度以上の大事であると理解していたのだが……誰もが口を噤んでいた。
多くの者は、わかり始めていた。
人類をまとめあげることができる者など、やはり存在していないと。
そして、一部の者は、最初からわかっていたのだ。
こんな会議などどうということもない。“彼”がすべてを決めるということを。
その人物は、10月前半にCityのランス城に帰途する予定とされていたが、実際は、それ以上の速さで9月後半に戻れる連絡が入っていた。
(……ランス兄様、早く戻ってきてください。)
JAPANの代表、香姫の心の声は、果たして届いたのか。
時代は、少しばかりはやい風雲急を告げる。
補足:
時期が半月ほど早まったため、アールコートは現時点では無事です。
もちろん、ランスが指名したのは、そういう意味を含みます。