ルドラサウムはランス君がお気に入りのようです   作:ヌヌハラ・レタス

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LP7年 9月後半 準備(3)

LP7年 9月後半――

City ランス城――(ランス)

 

がはははは。今回も俺様が人類代表総督だー。俺様、いっちばーん!

 

「シィル、シーラ。喉が乾いたぞ。二人でキンキンに熱いお茶と、ゴウゴウに冷たいお茶をもってこい」

「「はい。ランス様」」

 

俺様のそばにいるシィルとシーラが楽しく元気そうだと気分がいい。

あとは、クエルプランもいれば……そうだ。あいつが俺様をこの時代に“呼んだ”なら、そろそろ現れてもいいものなのだが。それとも、今は地底深くで仕事をしてるのか? 謎だ。

 

「ランス。それで、これからどないする気や?」

 

コパンドンか。……うん? 髪が長いな。

気のせいか……俺様が魔王やってたころよりも、おばちゃんに見え……。

 

「ランス?」

「ん? あぁ、そうだな。ウルザちゃん、アールコートちゃん、あと、クリームちゃん! 地図をもってこい。俺様が天才の策を授けてやる!」

「は、はい! おじ様!!」

 

アールコートちゃんが、あわてながら軍議用の地図を俺様の前に広げた。

急いで戻ったつもりだったが見事なまでにヘルマン、リーザス、ゼス、自由都市は、真っ赤にマーキングされているな。それから、各国それぞれに2~3個の駒が置かれているが、これは魔人どもだな。

 

「なるほど。真っ赤だな。どこから手をつけたらいいのか、わからんというところか」

「……各国それぞれに救援を求める声があり、どれもが至急を要します」

「ふん。愚か者どもめ」

 

クリームちゃんか。さっそく天才である俺様の考えに探りを入れてきたか。

若いころの俺様なら、クリームちゃんの真面目な話が嫌で「がははは! 可愛い子がいるところを救いに行くのだー!」と一言入れて、ため息をひとつもらうところだが、そうはいかんぞ。

確かに、真面目な空気は嫌いなのだが、魔王やってた頃は俺様を含めてもっと酷かった。なので、こういう空気も慣れてしまったのだ。

 

そのうえ、クリームちゃんは、頭が固いから、なんでも真に受けてしまうからな。

言って損をするなら、言わんのだ。がははは。今の俺様なら、空気も読めてしまうのだ。

 

「よし。決めたぞ」

 

 

 

 

ランスの打ち立てた(9月後半)作戦は、「カラーの森 救出作戦」であった。

これは、ランスの事情を知るものであれば、ランスを人類の代表にした時点で、代替条件や必須条件のようなものになっていたともいえる。軍師でいえば、クリームは困った顔をしたが、事情を知るウルザ、アールコートがうまくフォローしていた。

 

「ゼスにいる魔人メディウサは、あやしい魔法を使う上に……危ないからな。呪術に強いパステルもだが、状態異常を回復できるカラーは、絶対に役に立つぞ」

 

いくつになっても、こういうところでいらぬ言い繕いをするのがランスであった。

もちろん、メディウサにそのような特徴は“現在のところ”確認されていない。

ランスのわかりやすい嘘に、マジックはもちろん、ランスと関係を持ったことがある女性は、みんな温かい気持ちを抱いた。

 

(ランス様、やっぱりリセットちゃんが心配なのですね)

 

なんとなく目を合わせて、クスリとこっそり笑みをこぼすランスの奴隷がふたり。

ランスが言葉の中に隠した心がわかるからこそ、すっかりのぼせているようだった。

 

 

つぎに、ランスは、カラーの森の救出作戦にあわせて、ゼスの対応を第一とした。

つまり、ランス率いる特別攻撃隊こと「魔人討伐隊」は、まず、カラーの森へ進軍し、その次にゼスへ向かうことになる。

 

現在のゼスの状況は、キナニ砂漠から侵攻する魔人ガルディア軍の対応が危険な状況にあるが、むしろ、ランスが危険視していたのは、マジノラインで足踏みをしている魔人メディウサであった。

 

今のところ、マジノラインで魔人メディウサの侵攻は停滞しているが、ランスの記憶では、マジノラインは不可解なことに、ある日突然、一夜にして突破されている。しかも、その後の被害は、ランスにとって実に苦々しいものでしかない。絶対に阻止しなければならないだろう。

 

地図に手をやりながら計画の流れをスラスラと説明していくランスは、いつもとはまるで違う本気の表情だ。ゼスの副王であるマジックは、その姿に心の底から感謝していた。

 

自分に子供ができたと思えば、これだけの大戦が勃発し、精神的には重たいストレスがかかっていたのだ。

(過去には結婚式をすっぽかされたこともあり、ランスに愛されていないのではないか、という漠然とした不安がなかったわけでもない)

 

ふっと気が緩まされたマジックのおでこをランスが、かるく小突いた。今度は「俺様に任せろ」といわんばかりの表情だった。

 

(ありがとう……ランス。ほんとに)

 

 

 

 

第一対応としたゼス以外の国にも、ランス自らの手で対応策の検討が進められた。

最も魔軍の侵攻が内部まで進んでいるヘルマンの対応はこうだ。

 

ひとつは、各国軍師も理解のできない不思議な対応である。それは、兵士の性別によって配属する先を変えるというものだった。男の兵士であれば魔人バボラ、女の兵士であれば魔人ケッセルリンクの対処に向かうといった具合である。

 

この意味を現在理解できるものは、ランス以外に存在しない。もちろんクリームは一時激昂したが、ランスの強硬な姿勢により、配置転換は実施されることとなる。

 

この不思議な配置転換を除けば、理詰めの作戦を得意するクリームも惚れ惚れとする的確な対応であった。

魔人を倒すことはランス以外にはできないため、ランスが魔人と戦うまでの時間稼ぎをするしかない。

つまり、魔人が出てくれば撤退して被害を抑え、魔人がいなくなれば逆襲する。兵士は、一進一退を繰り返す厳しい時間かせぎを旨とし、国民は、首都ラング・バウへの避難を進める――焦土作戦の展開であった。

 

やむを得ない選択であったが、ここまで果断にして、この命令を下せる者がいなかった。

ヘルマンは、大統領の発足からまだ時間も浅い。国民に重い負担をかける選択を大統領であるシーラではなく、人類の総統であるランスが決めたことの意味は大きい。

それは(先ほど声を荒げたばかりの)クリームが一番ランスの決断を理解、支持するところであった。

 

 

――そして、ちょうどこの時、ヘルマンから一通の電文が届いた。

 

「ヘルマン方面魔軍ニ混乱アリ。部隊再編、侵攻停滞ヲ確認ス」

 

この大戦始まって以来、初めての軍略面における勝利であった。

ランスは、過去のJAPAN統一における魔軍との戦いの経験から、魔物将軍を討伐する効果を肌でよく理解していた。

実際、今回の魔軍を動かしているのも魔物将軍であり、より狙い撃ちは効果的である。(その最たる要因は、ケイブリス派の魔人が、軍を動かす指揮能力に乏しいか、あるいは、その気が無いからであったが)

 

勝利に沸く会議室。特に、息の詰まる重たい空気が変わるのを感じたのは、神経を強張らせていたクリームであった。

これまで大した作戦も打てず、闇雲に魔軍の侵攻を阻止せんとしていた現状と比べれば、ランスのやり方は、はるかに建設的で軍略的である。そして、このやり方を各国の軍で展開する方法を考えるのがクリームら参謀、軍師の役目なのだ。

 

「わかっているな」

 

このタイミングでランスの威圧感を伴った鋭い視線は、クリームへと向けられていた。

クリームは理解する――胸の内が“ぞくっ”と痺れる思いであった。

つまり、ランスはヘルマン代表の軍師として、このあとの自分に軍師としての力量を問うているのだ。

 

今度こそ曇りのない眼でランスを捉えることができたと確信するクリーム。

これこそが、敬愛するシーラ様が見ているランスの姿なのだ。クリームの中で、ランスを見る目が確かに変わった瞬間である。

 

自然と最敬礼をとるクリーム。ランスは満足そうに頷いた。

 

 

 

 

――会議室の空気が変わりつつあった。

 

リーザスと自由都市の対応は、よりスムーズに決定がなされた。

天満橋まできているJAPAN軍と急ぎ合流し、ヘルマン同様の魔物将軍を狙った攻撃に切り替える。

あとは、ヘルマンと似たり寄ったりの対応を取るが、地力がある両国には選択肢があった。

 

JAPANの軍は、ほんの数年前に魔軍との戦いを経験したばかりの歴戦の兵だ。そのうえ、援軍として、まずはじめに編入されるのは、織田、毛利、上杉の三家。

それらの名前は、アム・イスエルの起こした汚染魂に関する「導くもの」事件を解決したときに、ランスの冒険に参加していた面々などは、当然覚えがある。

援軍協力を快諾した香姫に、言葉以上の感謝の念を抱いたものは、少なくなかった。

 

真っ赤な血で染まっているかのように見えた地図には、数多くの作戦が書き込まれていった。

そうしているうちに、各国の軍師が、ひとつひとつの作戦について細かな討議を始め、気がつけば会議室は、軍の総司令部さながらの慌ただしい様相になっていく。

 

「弱っちいヘルマンとゼスは、俺様がすぐになんとかしてやらねばならん。その間は持ちこたえろ。任せるぞ」

 

ランスは自身が即座に手をうてないリーザスのリア、アールコート、そして、自由都市のコパンドン、JAPANの香姫の肩を、ひとりひとり拳で叩いた。

 

今までのランスからは、想像もできない行動だ。

驚きと共に、それを実感して、胸のうちに熱いものが広がる。

 

――これが、ランスのカリスマ。

 

この苦境に際して、これだけの男ぶりを発揮するとは、リアは体の火照りを隠せそうもなかった。今晩は、とても一人で眠ることなどできそうもないのだが、しかし、それは、シーラもマジックも同じ思いで、ランスに対して、泣いたらいいのかどうしていいのか、という熱いまなざしを送っていた。

 

今晩ランスを独占するのは、この大戦で人類が勝利するよりも難しいことを悟るリアだったが、ランスと共に早うしで巨大戦艦から戻ってきた面々の“あの”表情の意味が、心底理解できたのだった。

(なお、完全にデレデレでよだれを垂らしていた女忍者は、あとでいじめられた)

 

 




――

感想ありがとうございます。
こんな駄文でも、喜ぶ人がいたなら、やってよかったなーと報われる思いです。

18/04/05 修正
魔人メディウサの状況が、ゲームで言えばゼスのターン(最短2ターン目)になっていたのを修正。1ターン目は、マジノラインは健在なので、魔人メディウサはまだでした。

もうしわけありません。
セーブをロードしなおして、1ターン前の行動をしこみなおした感じです。
生暖かい眼で見守っていただけると助かりますー。

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