ルドラサウムはランス君がお気に入りのようです   作:ヌヌハラ・レタス

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LP7年 9月後半 作戦(3)

 

LP7年 9月後半――

マジノライン 魔人討伐隊、浸透突破作戦

 

 

マジノラインを抜けたランス率いる魔人討伐隊。

 

ランスにとっても“想定外の事態”があったため、作戦の計画変更を余儀なくされていた。

 

だが、ランスはその不満を態度にすることはなかった。

むしろ、いつも以上の自信を身に纏い、並々ならぬ覇気を満ち溢れんとしていた。

 

(こういうときこそ、苛立った態度に表さない男こそが、いい男なのだ。がははは)

 

このランスの振る舞いは、“ランスからすると”年を重ねるごとに自然と身に着けていたものである。

しかしそれは、各国の女王であったり、北条早雲、真田透琳、朝倉義景のような一流の賢者、知識人、そういったランスを好む面々が、入れ替わり立ち代わり何十年もの間、大変なお節介を焼いた苦労の結晶に他ならないのだが、その苦労は十二分に報われていたといえよう。

 

(がんばれイージス。なに、失敗してもいいぞ。恋人の俺様が尻ぬぐいをしてやる。がははは)

(恋人か……まぁ、やれるだけやってみよう)

 

かなみに代わって魔人討伐隊の進軍をサポートしたのは、イージス・カラーだった。

 

マジノラインを抜けた先、魔物の領土は、森に覆われているため、カラーの森で守備隊長を務めるイージスにとっては、人間たちの国土よりも相性に恵まれる。

加えて、このときは、幸運にも闇夜の雨音が部隊の存在を薄めていた。

 

イージスは、一癖も二癖もある部隊の面々を見事、敵陣奥深くまで進めることに成功する。

なによりうまかったのは、クセの強い性格の面々に焼いた世話だろう。イージスの隠れた才能、苦労症だった。

 

(……ランス、パステル様、このあたりでどうでしょうか)

(ふっふっふ、妾の番かの?)

 

 

 

この奇襲作戦の目的は、もちろん「魔人メディウサの討伐」である。

しかし、行く手を阻む魔物の数は膨大だ。奇襲とはいえ、魔人メディウサの元にたどり着くは、決して容易なことではない。

 

――そもそも常識であればこの作戦は、通常決して採用されない作戦であっただろう。まともな軍師であれば、この作戦の成功の目算を到底説明することができないからだ。

いわば、この作戦は確率ではない“ランスだから”こそ採択がされた作戦だった。

ゼスの副王マジックがランスを信じて採りあげ、ゼスの軍師ウルザがランスに賭けた奇襲作戦なのだった。

 

並の神経では、プレッシャーでまず潰されるほどのゼスの期待。

ここからの戦いを想像すれば、ひりついた空気が隊内に漂うのも必然であったが――ランスにとっては、あの日、あのときの風のひとつに過ぎない。そう。大冒険の風だ。

 

 

(――パステル、派手に一発かましてやれ)

 

 

ランスの奇襲作戦は、精鋭隊全員を驚かせた。

敵陣の真只中で、パステルの呪いの魔法「大規模モルルンBM」をつかうというのである。

 

これは、人間であろうが魔物であろうが男であれば、殲滅することができる悪魔のような呪いである。その威力は、かつて、カラーの森を襲ったヘルマン軍を壊滅させた(生存者わずか一名)とんでもない大魔法だ。

敵との交戦をなるべく避け、魔人メディウサの元まで進軍する――ランスにとっては、このようにも解釈される好例だった。

 

(ふっふっふ。妾のすごさを、愚かな人間どもにも教えてやるわー)

 

ただし、モルルンBMの効果からランスは逃れることができない。

当初の予定では、神魔法レベル3の才能を持つクルックーに守らせるつもりだったのだが、しかし、いないものはしかたがない。ランスは、クルックーの代役にリズナ・ランフビットを抜擢した。

 

リズナも支援魔法は、前回のゼスの騒動のころから勉強を続けてきている。

ランスを支えたいという献身的な思いだけで弛まぬ努力を継続できるのが、リズナという人間だった。

 

魔法絶対防御の体質になってしまう以前から、リズナの魔法耐性は、人類最高クラスであったといえる。そのため、魔法バリアは、おそらく得意な部類の魔法のはずだが……リズナは、魔法バリアという魔法をあまり活用したことがなかった。(必要がなかったせいでもある)

 

「ランスさん、私で大丈夫でしょうか……」

「うむ。リズナちゃんも支援魔法を練習し始めて何年もたつ。信頼してるぞ」

 

ランスの言葉に勇気づけれられリズナは、魔法バリアをランスに二重、三重にかける。

リズナを抱き寄せるランス。

 

「あっ……(ドキドキしてしまいます)」

(ふん……しかたないの)

 

ほどなくパステルの大規模モルルンBMが発動する。いかにも毒々しいオーラが暗い森の中を走り抜ける。

リズナは、目を閉じて深い呼吸を繰り返した。心臓の音がうるさかった。

 

 

(いち……、に……、さん……)

 

 

数秒の沈黙。

 

リズナにとって、その時間は、とてもとても長く感じられた――のだが、突然、リズナは何者かに唇を奪われると共に、豊かな胸を揉みしだかれた。

 

「――っ!!?」

「がはははは、よくやったぞリズナちゃん! ここからは、俺様の出番だ! サテラ、突撃だーーー!!」

「まかせろランス!!」

 

この手癖の悪さ! もちろん、ランスであった。

緊張から一転、リズナは思いもよらない不意打ちのせいで、一瞬のうちに出来上がり、腰がくだけてしまった。(予想以上に“上手い”のも問題だった)

 

ランスとサテラは、競い合うようにして生き残った僅かな魔物を蹴散らしながら、魔人メディウサのもとへと雁行して駆け抜けていく。

 

(――ふん、まったく世話のやける男だ。ひとつ貸しだぞ)

 

人知れずパステルは、ランスとの約束をひとつ守った。

あとは――

 

 

 

 

◇ ランス、サテラと共に魔人メディウサを打ち取る

 

 

「がはははは!! 俺様参上、とーーー!!」

「こんな夜中に、なに……面倒ねー」

 

ランスと魔人サテラは、魔軍の混乱に乗じて、魔人メディウサのもとに迫った。

 

これほどの電撃的奇襲は、歴史上極めて稀、いや二度と再現の無いものであっただろう。

しかも、ほんの僅かな時間の間に敵陣は崩壊し、完全にその機能を麻痺させている。このときの魔人メディウサは、未だ状況の急変に気がついていないほどであった。

 

魔人メディウサは、眼をこすりながら、趣味じゃない男(ランス)との戦闘を避けるため、従者アレフガルド(♂)を呼び出した。……が、駆け付けたアレフガルドは、かなり具合の悪そうな様子であった。

 

魔人メディウサは、アレフガルドにランスを“さっさと殺すよう”命令する。

一流の執事であるアレフガルド。ぷるぷると小刻みに震えながらも、何一つ言い訳することなく、主人の命令を忠実に従いランスに迫るも――

 

「とりゃーーーー!!!!」

「(グサー)ぎゃーーーーー!!!」

 

哀れなアレフガルド。

いともあっさりランスの攻撃の直撃をうけて、死亡する。

 

技能レベル3。選ばれし者が、これだけあっさりと殺されてしまった例は、過去にフレッチャー・モーデルのような本来の実力を失った「例外」しか存在していなかった。

仮に、魔人メディウサのオーダーが、ランスを“さっさと殺す”でなければ、万能な執事の技能に解釈の余地が残っていたかもしれない。仮に、アレフガルドの戦う相手が規格外の男でなければ、まだ一矢報いることはできたかもしれない。

 

哀れなアレフガルド。

彼の最後は、わずかな可能性さえも存在していなかった。

 

「……は? アレフガルド?」

 

魔人メディウサの思考が一瞬止まった。

アレフガルドにとっては残念なことだが、それは彼を慮ったものではなかった。

想像だにしなかったくらいのクソ雑魚として散っていったアレフガルドの無残な姿に……話が違うじゃない、といった類の苛立ちの感情から生じた隙であったのだが――

 

 

もちろん、その隙は、見逃されなかった。

 

 

サテラの振るった鋭い鞭が、魔人メディウサの片腕を締め潰して捕まえる。

それと完全に同時のタイミングで、ランスが魔人メディウサの股間に生える蛇を一刀のもとに両断、地面に落ちた蛇の頭を踏み潰した。

 

ランスやサテラのような、どこか調子のよい輩は、こうした敵の間抜けな隙をつくのが大好物なのだった。

相手の虚をついた攻撃。大得意とするところである。

 

「くっ!?」

「メディウサ! サテラとランスの勝ちだ!」

「おりゃーー!! もういっちょうだーー!」

 

ランスは、長身のメディウサを床に押し倒し、両目を魔剣カオスで切り裂いた。

さらには、返す刀で美しい腹部に魔剣カオスを突きたてる。

 

(っ!? ぐ……そっ、そんな……っ……!?)

 

魔人メディウサは、このとき敗北を悟った。しかし、敗北を頭で理解しながらも火爆破の魔法を詠唱していた。

この行為は、無意識だった。魔人とは、敗北を知らない生物である。それゆえに生じた本能的な足掻きであったのだが、それは無駄な行為に終わった。

 

魔法を詠唱する魔人メディウサの腕に投げつけられた、一刀の薙刀――名刀景勝であった。

(両目を潰されたメディウサは知る由もなかったが、ランスらには、魔法バリアが付与されていた)

 

「はっ、はっ、……ま、間に合いました……!」

「(よくやった、リズナちゃん) ふん。で、お前は、まだやるか?」

「……はぁ、降参よ」

 

驚くべき速攻と決着。

こうして、魔人メディウサの討伐、奇襲作戦は、終わりを告げた。

此度の大戦、人類にとっては、一人目の魔人討伐であった。

 

 

 

 

◇ ランス (ごほうび)

 

――メディウサの討伐成功。その事実は、魔法テレビによって、即座に喧伝された。

ランスの圧倒的公開“おしおき”によってである。

 

それを、魔物たちは見た。

魔人が人間に“蹂躙”される姿を。

 

あの恐ろしい魔人メディウサは、艶かしくはだけた姿をしており、腹部には魔剣カオスが突き刺さっていた。(もちろん、もう一つ突き立てられるものもあったが)

それは、誰が勝者で、誰が敗者なのか、ひと目で理解できるものであった。

 

「がはははははー!! おしおきだー、とーー!!」

 

魔人メディウサは、大量に失った血のせいか、目元や唇を青に染めて脱力していた……が、どういうわけか、妙に色っぽく悶えており、満更でもない様子だった。

 

 

行き過ぎたサディストとは、実に妙な生き物である。

サディストである自分以上の存在を知ると、その性質が一変してしまうことがあるのだ。ゼス刑務所の所長エミ・アルフォーヌがそうであったように。

(もちろん、魔法テレビでこの放送を見たエミは、ランスの所業に下着を濡らさずにはいられなかった)

 

魔人メディウサは、絶対的強者であるはずの自分を圧倒的な力で打ちのめし、大切な自分の瞳を、体を、徹底的に蹂躙してくるランスに、強烈な性的興奮、快感を覚えていたのだった。

 

「あっ……わ、私が、嘘……でも、っ……ぁぁっ!!(ビクンビクン♡ 恍惚状態!!)」

 

 

マジノライン方面の魔軍は、人類の電撃的な反撃作戦を受け、完全に壊滅した。

過去にも魔軍は、ゼスとの交戦において、(パパイヤ・サーバーの特殊爆弾による)原因不明の大損害を被ったことがある。今回は、それを彷彿とさせる、いや、それ以上に恐ろしいなにかだった。

 

魔軍の中に敗戦の衝撃、爪痕が残った。それは、決してやさしいものではない。

深夜におこった原因不明の大量死。そして、圧倒的、絶対的強者であるはずの魔人の敗北。

 

ランスが人類総統となって間もなかったこの頃、ランスが人類総統の座に就いたという情報が行き届いていない地域も少なくなかった。

そうした地域は、ランスという人物を魔人メディウサの討伐の報と共に知ることになる。

 

実際のところ、ランスという人物の存在は、この先も数ヶ月の間は、存在しない人物、ありもしない虚報として扱われていた地域もあった。あまりにも都合のよい、そして、伝説的な英雄譚を信じることができなかったのである。

 

(なお、魔人討伐に活躍したサテラとリズナは、メディウサの前に、ランスが美味しくいただきました)

 

 

 




EVO見ながら書きました。
ほんとは、4月に書いてたあらすじを書き直しただけです。ごめんわん。

ほんとは2話構成の予定と書いてあった。
すこしはメディウサとアレフガルドが粘る予定ってなってた。
ただ、今見るとおそらくそういう苦労は他作品が頑張るだろうって思ったので、さっくりと。

うちのランスは、強いがモットーでね……!
すいません、ほんとは楽しました。

なんとなく、ゼスは、桶狭間の戦いをゆるく意識しています。
今後の状況が開けますように、という願掛けから連想してましたが、今見ると謎の理由かも。

ゼスなんだし中東に倣ったイベントなかったかなぁ。
私の思うゼス(の雑なイメージ)は魔法使いの差別からの建国、それが行き過ぎての大反乱、都市にイタリアがあったりと、かなり欧州の文化が基底に浸透した中東みたいなイメージです。(魔物領土の都合、欧州はこっちに混じり合ってるのかも、と)

今作のゼスもやべー魔物将軍(カンボジアかな?)が来訪しておられたりと、やっぱり他国のあかん思想が伝来してくる悲しみの国。かわいそなのです。

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