壱ノ一
ヨシヒコ
それは幾度も魔王の脅威から仲間と共に世界を救った勇者の名前
これは彼が再び新たな地で、新たな仲間と共に邪悪なる魔王と戦うお話。
まず目を開けるとそこは暗闇だった。
「……え?」
突然の出来事に困惑しつつ上体をゆっくりと起こすも、何処を見ても周りは何も見えなかった
最初に暗闇の中で目覚めたその者の名は『メレブ』
マッシュルームカットと鼻の下のほくろが特徴的な魔法使い。
覚える呪文はほとんど役に立たないがヨシヒコの窮地を幾度も救った事が一応ある。
基本的には暴走気味のヨシヒコの良きツッコミ役をしてあげたりと世話役を自ら買って出ている。
「いやちょっと怖いんだけど、え? どゆこと?」
ここはどこなのだろうか、というかそれ以前にここに来た記憶そのものさえ無い……
メレブが一人途方に暮れていると、ふとすぐ隣に誰が自分と同じく横になっている姿が確認できた。
「あ」
「違う私はスズメを食べたんじゃない、私が食べたのはスルメだ」
勇者・ヨシヒコである。
ヨシヒコはカッと大きく目を見開きながらブツブツとうわ言の様に呟いている
「あんなに可愛らしいスズメをどうして私が食べたと思うのか、そんなに疑うというのならその剣で私の腹を突いて中身を確認してみるがいい、いや待て本気にするな、その剣を今すぐ降ろすんだ、何度も言うが私はお前のペットのスズメは断じて食べていない、決して塩で焼いて網焼きでこんがりと焼くなど断じてしていない」
「……相変わらず気味の悪い寝方と寝言だなぁ~」
長々と呪文の様に意味不明な事を呟き続けるヨシヒコを感心する様にしばし見つめた後、メレブは軽く彼の頬を叩く。
「おいヨシヒコ、起きろヨシヒコ、起きなさいヨシヒコー」
「そうだ私が食べたんだお前のペットは既に私の消化器官を通じ大腸に達して私の身体の糧となり……は!」
「……ああちょっと気になる所で目を覚ましちゃった」
寝言の内容がややシリアスな所になった所でヨシヒコが遂に目覚めた様子。
彼こそが勇者『ヨシヒコ』
紫色のターバンとマントがトレードマークであり、腰に差しているのは故郷の村に伝わる伝説の剣・「いざないの剣」
あらゆる困難に自らの勇気を奮い立たせて立ち向かい、この手で幾度も強敵を倒していった正に勇者と呼べる存在。
しかし向こう見ずな所があったり天然気味な所があったり空気が読めない所があったりなど、絵本に出てくる完璧な勇者になるのは未だ程遠い。
時には魔王を倒すという役目さえも放棄してしまう程抜けた一面も持っている。
それでも正義感に満ち溢れ、お人好しで熱血漢な性格こそ、真の勇者に相応しい器なのかもしれない
「おはようございますメレブさん……」
「ああうんおはよう、そしてもっと周りを見てみんさい」
「……随分暗いですけどここは一体」
「いや俺もさっき起きたばかりだからよくわかんないけどさ……もしかしたら“アレ”の仕業かもしれないんだよねー」
「アレ?」
少々心当たりがあるのか小首を傾げながら呟くメレブ
アレとは一体何の事だ? よくわかっていないヨシヒコは上体を起こしてゆっくりと立ち上がろうとすると……
ヨシヒコよ! ヨシヒコよーッ!
「! 今のは……!」
「あーやっぱりアイツの仕業か……」
頭上から聞こえる大きな声が二人の目をより覚まさせる。
聞き慣れたその声にヨシヒコがすかさず反応するとメレブもめんどくさそうに立ち上がりながら顔を上げた。
ヨシヒコよー! ヨシヒコよー!!
「いやもう聞こえてるから! さっさと姿現せって!」
ヨシヒコ!? ヨシヒコやーい!! ヨーシーヒーコくーん!!
「うるさ! なんでどんどんテンション上がってんだよ! いいからさっさと出て来いって!」
最初は威厳ある声付きであったのに徐々に悪ノリで叫んでる様な調子に
眉間にしわを寄せながらメレブはもういい加減にしろと叫ぼうとしたその時
「さっきからずっと後ろで呼んでんだろうが! さっさと振り返れよテメェ等!!」
「うわ! ビックリした!」
「仏!」
急に真後ろから先程の声が更に大きくなったのでメレブとヨシヒコはビックリして同時に振り返った。
そこにいた人物こそ、まさに『仏』であった。
仏と言うだけあって見たまんまの格好をしており、ヨシヒコ達に魔王討伐の命を出し、旅の道中で何度も空に現れては道を示した張本人。
しかし実際の所はやる気が無かったり曖昧な指示を出したりたまに台詞を噛んだり忘れたりと、正直頼りになる存在と素直に言い切れる人物ではない。
ちなみに空に浮かんで現れる時はヨシヒコは目視することが出来ず、メレブが取り出す目に掛ける何かがないと見る事は出来ない。
だがこうして空からではなく目の前に現れると、目に掛けなくても見ることが出来るのだ。
「ったくなんでずっと上向いてんだよ、ずっと後ろから呼んでたじゃんよ」
「いやずっと上から声がしてたよさっきまで! なんなんだよここ! どんな構造してんの!?」
「あーもういいや、とりあえず今から話するからちゃんと聞いて、ね?」
「調子狂うな全く……」
上を指差しながらすぐ様抗議しようとするメレブをはいはいといった感じで両手でなだめる仏。
少々ムカつきながらもメレブは渋々従うと、最初にヨシヒコが仏に尋ねる。
「仏、我々をここに呼んだ理由は何でしょう、まさか再び魔王が私達の世界に」
「その通りだヨシヒコ、我々の世界から遂に恐るべき魔王が復活してしまったのだ、それも今まで戦った魔王とは比べ程にもならない恐ろしい力を持った魔王の中の魔王が」
「なんだと……! それではこんな事してる場合ではない! 早く私達を元の場所に返してください!」
「そうだよ、魔王が復活したんなら早く倒しに行かねぇとマズイじゃん」
「……今回はそう事が単純に行くモノではないのだ」
魔王復活と聞いては勇者としてすぐにでも立たなければと焦るヨシヒコとメレブ。
しかし仏は静かなトーンで彼等にゆっくりと語りかける。
「今回お前達に倒してもらわねばならない魔王は、魔王の中でも群を抜いて強いと称された邪悪の権化、その名は『竜王』と呼ばれている」
「竜王……!」
「なんか将棋強そうな名前」
魔王の中でもトップクラスの実力を持つという竜王という存在にヨシヒコは驚き、メレブが一人ボソッと呟いてると仏は更に話を続ける。
「しかしその竜王は我々の世界ではなくなんと別の世界! つまり異世界へと渡って数百年封印されていた間の衰えを回復させる為に力を蓄えているのだ!」
「え、異世界!? ひょっとして前にFF村とかあった所!?」
「いやそっちとは別、完全なる別世界だねホント、色々な意味で」
「色々な意味で!? あ、俺なんかわかった気がする!」
「一体どういう事なんですかメレブさん?」
「ヨシヒコよ、今俺達はいわゆる異世界ラノベのテンプレートに沿って段取りを進められているのだ」
「……テンプレート?」
異世界という言葉に敏感に驚くメレブが一人よくわかっていない様子のヨシヒコに振り返って説明する。
「近頃流行っているとは聞いていたが、どうやら我々もその流れに乗ってしまったらしい」
「流行ってる?」
「異世界は凄いぞヨシヒコー、異世界に行くと神様から凄い力を貰って敵をバンバン倒し放題らしい、どんな相手も指先一つで……パーン!」
「パーン!?」
「しかもそんだけ強いんだから当然周りからめっちゃモテる、凄くモテる、マジえげつない程モテる!」
「えげつなくモテる!?」
「ハハハ、ヨシヒコ鼻息荒い」
モテると聞いて目の色を変えて顔を近づけて来るヨシヒコにメレブは苦笑。
ここまで食いつくとは思っていなかったがどうやら彼も異世界に興味を持ったらしい。
「わかりました、つまり仏、我々をここに呼んだのは、その竜王が力を付ける前に同じように異世界へと渡って倒しに行けという訳ですね」
「えーまあそんな所ですねはい」
「では行きましょうメレブさん」
「焦るなヨシヒコ、服そんな引っ張らないで」
仏の会話を早急に終わらせてメレブのローブをこれでもかと強く引っ張って行こうとするヨシヒコを、彼に引っ張られながら冷静にメレブが諭す。
「まだ具体的な話聞いてないじゃーん、大丈夫だヨシヒコ、異世界にいるであろう女性達は逃げないから、お前が来るのをちゃんと待っているから」
「しかし私は一刻も早くロニエとティーゼに会いたいんです!」
「いやロニエとティーゼって誰よ? 何もう既に頭の中でヒロインの名前決めてんの?」
既に頭の中で自分のストーリーを展開してヒロインまで創造しているヨシヒコ
切羽詰った様子で急に叫んでくる彼に軽く引きながらメレブはまあまあとなんとか抑えながら仏の方へと振り返った。
「なあ仏、俺達の世界から逃げた魔王を追う為に異世界に行くってのはわかったけどさ、その前にまず俺達になんか渡すモンあるんじゃないの?」
「は? なに?」
「いやだからすげぇ力とか武器とかくれって事だよ、俺達を異世界に送るならその前にめっちゃ強い武器とか魔法を授けるのが普通じゃありません?」
手の平を差し出してなんかくれと合図するメレブだが、仏はよくわかってないのか怪訝な様子で首を傾げながら
「いや別にないけど? 私そんなの出来ないし」
「ええー!? お前マジかよ! 仏のクセにしょーもな!」
「面と向かい合ってる時に仏にお前とか言うんじゃねぇよ!」
出来ないとキッパリ即答してしまう仏にメレブは口をあんぐりと開けて驚愕の色を浮かべる。
しかも仏は小指で耳をほじりながらやる気無さそうに
「あーそれと異世界に行く時なんだけどさ、現在装備してる武器は持ち込み可です、が、レベルとステータス、あと覚えている呪文は全てリセットされるんでよろしく」
「いやそれ逆に弱くなるって事じゃん俺達! なんだよレベルリセットって! それじゃあまた1から鍛え直しかよ!」
「はいそうでーす、また1から頑張ってくださーい、草葉の陰で応援してまーす」
「耳をほじった指で鼻をほじり出すな鼻を!」
割と重要な事を適当な感じで説明しながら今度は鼻をほじり出す仏にメレブがキレる。
「ほらヨシヒコなんかさっきまでずっとワクワクしてたのに! 目の前で餌を取られた子犬の様な表情を浮かべているし!」
「……」
「ヤバい目が死んでる! ホントに期待してたんだモテる事に!」
ヨシヒコは生気の無い表情を浮かべていた。
期待していた分ショックが大きかったのか、顔は蒼白になり目も輝きを失ってしまい、もはや言葉さえ出ない程心が折れてしまった様だ。
そんな彼の肩を揺さぶりながらメレブが必死に励ます。
「元気出せヨシヒコ! コイツに期待した俺達がバカだっただけだって! まずは今お前が最も大事な使命を思い出せ! それが今お前を動かす最大の理由になるじゃないか!」
「……そうですね、まだ異世界に行っていないというのにここで私が心折れる訳にはいかない……」
メレブに左右に体を揺さぶられながらヨシヒコはようやくその目に輝きを取り戻す。
そう、彼はまだその足を異世界に踏み入れてすらいないのだ。なのにここで落ち込んでる訳にはいかない、彼には何よりも大事な使命があるのだから
「待っていろアリスにセルカ! 私は私の力のみで絶対にモテてみせる!!!」
「違うヨシヒコ、俺達の目的魔王討伐だから、モテる事を最優先にしないで、それとさっき言ってた女の子と名前違うんだけど? ハーレム? ヨシヒコ君はハーレムを築きたいの?」
何も見えない暗闇の中で決心したかの様に叫んでいるヨシヒコの背中にツッコミながら、メレブはふとある事に気付いた。
よくよく考えればどうして自分とヨシヒコの“二人”しかここにいないのであろう……
「あのー仏さん? ちょっと聞きたい事あるんですけどいいっすかね?」
「えーやだめんどくさい」
「はっ倒すぞ貴様! あのさ、俺とヨシヒコはここにいるのに、さっきからダンジョーとムラサキが全く見えないんだけど」
今更ながらここにいるのはヨシヒコとメレブ、そして仏のみである。
ヨシヒコにはまだ二人大切な仲間がいた。
元盗賊でありながら義理堅くそして頼れる親父的存在の戦士・ダンジョー
あまり戦力にはならないものの、たまにとんでもない活躍をしてくれる村の娘・ムラサキ
彼等もいてこそヨシヒコパーティの完成であるのに肝心な二人がどこにも見当たらないのだ。
その件についてメレブが尋ねると、仏は「いやー」とぼやきながら螺髪を掻き毟り
「実はですね、最初は君等四人を同時にここに召喚しようしたんだけど、私ったらついドジっちゃって二人を右から左に受け流すようにそのまま異世界の方へピューンと飛ばしちゃった」
「はぁ~ッ!? お前マジで何やってるの!? てことはあの二人もう異世界に行っちゃってる訳!?」
「多分そうだと私は思います、はい、まあ最悪死んではいないと思うだろうから、探してきてくれる?って痛ッ! 何すんだテメェ! 仏パンチ!」
「いった! 何が仏パンチだよダッセーなと言いつつの~メレブキック!」
「仏ガード!」
「ソルティリーナ!!!」
あまりにも勝手が過ぎる行いと言動に遂にメレブが思いきり仏に肩パンをかます。
それに負けじと仏もメレブに殴りかかり二人はそのまま揉みくちゃに
そしてヨシヒコは一人まだ脳内にいるヒロインの名前を叫びながら意気揚々と異世界へ渡る決心をするのであった。
それが今から数十分前の話
異世界にいるという竜王と呼ばれる魔王を倒す為に、ヨシヒコとメレブはその異世界の地に足を踏み入れた。
「なんだろう、異世界って言うから来た瞬間即凄い光景が目に映るかと思ったのに……」
空は雲一つない程の快晴、ではあるのだが二人がいるのはだだっ広い深く茂った山の中であった。
「俺達の世界で旅していた時となんら変わりない光景なんだけど」
「私もそう思います……まるで何度も歩いた山の中の様な」
「普通は町とかに降ろすよね? はじめの町的な? いきなりこんな何処に進めばいいのかわからない山の中に降ろされてもどこ行けばいいかわかんねぇっての」
「まずは町に辿り着くのを最優先にしましょう、ヒロインの捜索はその後という事で」
「いやヒロインはもういいから、たまには魔王の事も思い出してあげてヨシヒコ」
半ば仏に突き落とされるような感じでこの地に舞い降りたヨシヒコとメレブはいつもと変わらない掛け合いをしながら山の中を歩き始める。
「それにしてもダンジョーさんとムラサキの事も心配ですね、二人はきっと状況が掴めないままこっちの世界に送られた筈です、一刻も早く合流しないと」
「うむ、しかし事を急ごうとするな、我々はどこぞのバカ(仏)のおかげでレベルも1になってしまい技や呪文も失ってしまったのだから、この辺のモンスターと戦っていきながらレベルアップする事も忘れずにな」
「はい、着実に強くなっていきながらお二人を探しましょう」
かつて魔王を倒した実績を持つ経験値は全て失ってしまった。
しかし幾千回も行い続けた戦闘の記憶は未だ体に蓄積されている。今はこれを利用して効率く良く進めて行く事に
「でも二人だけのパーティって不安だなー、つか今まともに戦えるのヨシヒコだけじゃん、俺呪文一つも覚えてないし」
「そうですね、二人が見つかるまでずっとこの調子ではマズイ……あ」
「ん? どしたヨシヒコ?」
戦闘参加人数がほぼ1人だけという状況に淡い危機感を覚えていたヨシヒコが、小さく口を開けて何かに気付いた様子。
メレブも背後からヨシヒコが見つめている方向に目をやるとそこには
「うぇぇぇ~ん!!! どこ行ったのよカズマさ~~~ん!!!!」
若い青髪の少女が地べたに座り込みながら思いきり泣きわめいているではないか
ヨシヒコとメレブはそれを少し離れた所からしばし見つめた後
「泣いてますね」
「うん、凄く泣いてるね」
「カズマさ~~~~~ん!!!!」
「話しかけてみましょう」
「いやー待って待って……もしかしたら俺達を罠にかける芝居かも」
「めぐみん! ダ~クネ~ス!! みんな私を置いてかないで~~~!」
「……さっきからこっちの事をチラチラ見てるんだよな~」
服から目の色まで青一色の格好をした少女は、自分達の存在に気付くと更にやかましく泣き始めた。
ワンワンと泣き声を上げながらたまにこちらにチラリと視線を向ける事にメレブはいち早く気付く。
「うん、通り過ぎようヨシヒコ。アレはちょっと、関わるとマズいと俺の勘が告げている」
「罠の可能性があるという事ですか?」
「いや罠というより、あの娘に話しかけるとめんどくさいイベントが起きそうなんだもん」
「……わかりました、おなごが泣いてるのを無視するのは辛いですが、行きましょう」
なんだか関わるとヤバい気がする、さっきからチラチラこっち見てこちらが話しかけてくるのを待ってるかのような素振りを見せる少女に眉間にしわを寄せて警戒したメレブの一言により
この場を何事も無かったかのように進む事にするヨシヒコ
二人はザッザッと地面を歩き、まだ座り込んで泣き喚いている彼女の背後をスッと通り抜けようとするのだが
「うわぁぁぁぁ~~ん!!!」
「う!」
「しまったヨシヒコが捕まった!」
寸での所でヨシヒコのマントが後ろにグイッと引っ張られる。
メレブの前でいきなり少女が泣きながら彼のマントを強く掴んだのだ。
まさかの強硬策に出てきた彼女にメレブも目を見開いて驚く。
「負けるなヨシヒコ! 振り払ってそのまま進むんだ!」
「く! ふん! ふん!」
「びえぇぇぇ~~~~ん!!!!」
「つ……!」
「すげぇ、マントバッサバッサしてるのに絶対に手を離そうとしねぇぞこの娘」
ヨシヒコが何度もマントを翻して追い払おうとするも、少女はずっと裾にしがみ付いて離れようとしない。
途中からマジの力でひっぺ返そうとするも全然離れる気がしないと悟ったヨシヒコは、彼女から目を離して前の方へ振り向き
「やむを得ない……!ふん!」
「助けてよ~~~!!!」
「あ、ヨシヒコ諦めてそのまま歩き出した、でも未だしがみ付く青髪ガール」
「すみません急ぐんで……!」
「た~すけ~てく~だ~さ~い!!」
「すげぇマントにしがみ付いたまま引きずられてる! そして引きずられながらもなお諦めないこのガッツ! 素晴らしい!」
引き離すのを諦めてそのまま直進しようとするヨシヒコに必死にしがみ付いて離れようとしない少女
身体を地面で擦りながらもなお諦めないその不屈の精神に、後ろで実況していたメレブも思わず拳を握ってガッツポーズ
「ヨシヒコ、とりあえず話だけでも聞いておこうか、ここまでするって事はなんかマジで困ってるっぽいし」
「うおぉー!!」
「ふぇぇぇぇぇぇ~~~~ん!!!」
「ってあれぇ!? 二人共ちょっと待って! そのまんまの状態で行かないで! 他の人に見られたら超恥ずいから!」
互いに負けてたまるかと言った感じで互いに足と手を緩めず
後ろで少女を引きずりながら進み続けるヨシヒコを慌ててメレブが追いかける。
そしてそんな状況をヒッソリと隠れながら者が一人
「兄様……まさか異世界に来るなんて……ヒサは心配です」
木の裏から顔を出しながら心配している娘は、兄であるヨシヒコの身を案じてついて来てしまった彼の妹・ヒサ。
どうやら今回もまた程よく波乱が起こる旅になりそうだ。