勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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参ノ四

異世界の魔物、ジャイアントトードに成す総べなく食べられてしまうヨシヒコ達(ダクネス除く)

しかしそこに現れた真打、謎の魔法使いによって魔物達は盛大に吹っ飛ばされた

 

そう、魔物が口に入れていたヨシヒコ達も一緒に

 

「ヨシヒコ! アクア! メレブ! 大丈夫かーッ!?」

 

壮大な爆発によって辺り一面がまる焦げ、カエル達もまる焦げになってる所をダクネスが慌てて駆け寄った。

 

必死に仲間の名前を叫ぶも、流石にこれ程の爆発に彼等もただでは済まないだろうと懸念していると

 

「あっぶねぇ……! 死ぬかと思ったぁ……!」

「うわメレブ!」

 

仲間の捜索中に声がしたのでダクネスはすぐに振り向くと

 

そこにはまる焦げになってないギリギリの場所で

 

全身粘液塗れのメレブが背筋をピーンと伸ばしながら、目の前で黒焦げになっている魔物達を凝視していた。

 

「お前は無事だったのか!」

「おおダクネス……いや、カエルに食われてた時に咄嗟にコイツの口の中でソゲブ使ったんだよ」

 

黒焦げガエルを指差しながらメレブは食べられてる中で相手の運気によってなんらかの不運を起こす呪文をカエルに掛けていた事を話す。

 

「そしたらコイツ、口の中に突然デカい口内炎出来たらしくてさ、あれって地味にキツイじゃん、食べれなくなったり、喋りづらくなったり、それとずっと気にしてベロで腫れた部分を触って見たりとか……だから俺、その出来た口内炎に思い切って蹴り入れてみたのよ、そしたら、ブッ!って吐き出してくれました」

「そ、そうか……良かったな」

「脱出した後いきなり爆発してビビったわーホント、爆発にどんだけ予算使ったのか個人的に気になるな……」

 

ベトベトの頭を掻きながら間一髪で脱出できた事に一安心しているメレブに

 

ダクネスはあまりカッコいい脱出方法ではないなと思っていたが、それは言わない事にした。

 

「しかしメレブはともかく他のみんなは……」

「皆さーん!」

「お、ヨシヒコ! お前も無事だったのか! あれ? なんで死体とミイラもいんだ?」

「それとお前達にとっては残念だろうが、俺も無事だった」

「うおダンジョー!」

 

他の者達はどうなったのかとダクネスが周りを見渡すと、ヨシヒコが共に食べられた死体とミイラと共に手を振りながらこっちに駆け寄ってきた、当然全身ベトベトにしたまま

 

そしてダクネスとメレブの背後からもムスッとした表情で腕を組みながら、ベトベトのダンジョーが現れた。

 

「いやいやお前が生きてて良かったよダンジョー、でもお前どうやって助かったの?」

「フ、俺を舐め回していたカエルの舌に、思いきり俺のもみあげをジョリジョリィ!っと押し付けてやったのさ……そしたら爆発に巻き込まれる前になんとか脱出できたのよ」

「もみあげジョリジョリィ!か……確かに舌触り最悪だわ……」

 

己が持つ自慢のもみあげを利用して脱出を行ったらしいダンジョーにメレブは微妙な表情で頷いた後、こちらに駆けつけてきたヨシヒコの方へ

 

「それでヨシヒコよ、お前は?」

「私は一緒に食べられてしまった死体とミイラと協力して、無理矢理口をこじ開けて普通に脱出しました」

「そっかー、ヨシヒコの窮地を救ってくれたのかお前達ー」

「最初はモンスターを仲間にしているとアクアから聞いた時はどうかと思ったが、案外頼りになるんだなコイツ等は」

 

ヨシヒコと共にベトベトになりながらも協力して脱出に成功した死体とミイラ

 

そんな彼等をメレブが良く出来ましたと褒めてやっていると、ダクネスも感心した様に頷いて見せた。

 

それに対して死体とミイラも照れ臭そうに後頭部を掻く。

 

「ところで皆さん、女神とムラサキは?」

「あ、そうだアイツ等忘れた、ちゃんと脱出できたのかな?」

 

ふとアクアとムラサキの姿が見えない事に気付いたヨシヒコに尋ねられて、メレブも首を傾げて周りを見渡してみると

 

ふと間近にあった黒焦げのカエルの口がいきなり開いて

 

「おいしょぉ!」

「どっこいしょぉ!」

「うおぉ! カエルの口からヌルヌル女が2体生まれた!」

 

力任せに口をこじ開けて出てきたのは、メレブ達と同じくベトベトのアクアとムラサキ

 

いきなり現れた彼女に思わずメレブもビックリして後ずさり

 

「ちょ、ビクッたわーマジで、え? もしかしてお前等、あの爆発をカエルの体内で耐えきったの?」

「うわ~~んもうホントに最悪よ~! ヤバい感じがしたから慌てて口を閉じさせて隠れてたの、用心してカエルの防御力も底上げする支援魔法掛けながら!」

「そしたら次の瞬間もうカエルの中でグルグル掻き回れてさ! もうマジ最悪だった! てか気持ち悪くてもう吐きそう……おえ!」

「んー……ある意味俺達の中で一番男らしい対処法したんじゃないかな……」

 

核爆発を冷蔵庫で耐えきったインディなジョーンズみたいな真似をやってのけたアクアとムラサキに、メレブが素直に凄いと賞賛していると

 

「それにしても先程の爆発の原因は一体……」

 

ヨシヒコは黒焦げになっているジャイアントトード達を見つめながらポツリと呟く。

 

「私達が苦戦していたカエルがこうもあっさりと全滅するとは……」

「フッフッフ、どうやら私の爆裂魔法の威力にすっかり腰砕けしてるみたいですね、我等が盟主に仇なす愚かな勇者達よ」

「なに!?」

 

不意に背後から聞こえた声にヨシヒコはすぐにバッと振り返るとそこにいたのは……

 

マントを羽織り、三角帽子を被った王道的な魔法使いの衣装に身を包み、左眼には眼帯を付けた少女そこにいたのだ。

 

「我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん! 我が必殺の爆裂魔法に恐れをなしたなら! 尻尾を巻いて元の世界に戻り、盟主に滅ぼされる時を待つがいい!!」

「ああ~! アレってめぐみんじゃないの! ひょっとしてカエル吹っ飛ばしたのってアンタのお得意の爆裂魔法!?」

「そうだ、私がお前達をどうすれば助けられるのかと手をこまねいていた時、突然彼女が現れたんだ」

「めぐみん……アレが女神とダクネスの仲間の一人……」

 

決め台詞を吐きながら突如現れた人物は、アクアたちの仲間の一人、紅魔族のめぐみんだった。

 

彼女が現れたことにアクアが驚きダクネスが頷いていると、ヨシヒコもそんな彼女を凝視する。

 

「あの……なんで彼女は倒れてるんですか」

「めぐみんは爆裂魔法を1日1回使うと、膨大な魔力を空にしてあんな風に倒れちゃうのよ」

「……」

 

ヨシヒコが彼女を凝視する理由

 

それは倒れたままの状態でこちらにドヤ顔を浮かべながら先程の口上を堂々と叫んだ事である。

 

彼女が倒れた理由をアクアが説明していると、その隙を突いてダンジョーとムラサキがめぐみんの方へ駆け寄り

 

「おいしっかりしろ小娘、全くヨシヒコ達を倒すとはいえまさか俺達まで巻き込むとは……」

「いやーすみません、でもしょうがないじゃないですか。あんだけ大量に爆裂魔法を放ちがいのあるモンスターが現れたら、爆裂魔法の使い手として身体が勝手に動いちゃうんですよ、ってうわ! 身体ヌルヌル!」

「動くのは良いけど、その後ぶっ倒れて毎度毎度背負わされる私達の身にもなれっての……」

 

やけに親しそうに会話しながら倒れためぐみんをヌルヌルの身体で背負うダンジョー。

 

自分の身体にもカエルの粘液が付いた事に彼女が嫌悪感を示していると、ムラサキが素っ気なく一言呟く。

 

そんな彼等の様子を見てヨシヒコはすぐにハッと気付いた。

 

「もしや彼女もまた、ダンジョーさんやムラサキと同じく竜王に……」

「ええ! ウソでしょめぐみん!? まさかカズマだけじゃなくてアンタまで操られちゃったの!?」

「く! 恐れていたことが起きてしまったか! 正気に戻れめぐみん! 新たな魔王に己の身体を好き勝手操られるという羨ましいシチュエーションを一人で体験しおって! なんなら私と替われぇ!」

「ダクネス、アンタ少しは本音隠そうとか思わない訳?」

 

前半は建て前、本音は後者だとすぐに読み取れるダクネスの叫びに、アクアが冷静にツッコミを入れていると

 

ダンジョーにおんぶされながらめぐみんはあっけらかんとした感じで

 

「いえ、私は別にダンジョーさんやムラサキさんの様に操られてる訳じゃないですよ」

「はぁ!? じゃあなんでそいつ等と一緒にいるのよ!」

「なんでって、好きで竜王様の下で働こうって思っただけです、竜王、いえ魔王カズマの下で」

「ア、アンタまさか! 自分の意志で私達、いやこの世界をを裏切って魔王の下に就いたっていうの!?」

「はいそうです、だってカッコいいじゃないですか魔王の幹部の肩書とか」

「え、そんな理由!? そんな理由でこの世界を裏切ったの!?」

 

なんと彼女は心を支配されてる訳でもなく、自らの意志で竜王の下で働いてると正直に暴露し始めた。

 

これにはアクアも驚いて一瞬言葉を失ってしまていると、めぐみんはキョトンとした表情で

 

「んーあなた達との冒険はそりゃ悪くなかったと思ってるのは確かですよ、だけどそれはそれ、コレはコレ、アレもアレ」

「いやアレもアレって何よ……」

「とにかく私はもうあなた達の仲間ではありません、ダンジョーさんやムラサキさん、そしてカズマと共にこの世界ともう一つの異世界も支配すると決めたんです私は」

「きー! めぐみんのクセに女神の私を裏切るなんてーッ!」

「ホントにどうしたんだめぐみんの奴……まさか本気で私達と戦うつもりなのか……?」

 

まさかの裏切り宣言にアクアは怒った様子で地団駄を踏み、ダクネスはめぐみんを見つめながらどういう事だと困惑の色を浮かべていると

 

「お前達よ、ちょっと良いか?」

「は? 何しに出てきたのよウィザード(笑)さん」

 

微妙な空気が流れている三人の間に割って出てきたのはまさかのメレブ。

 

彼の登場にアクアがすぐにしかめっ面を浮かべると、メレブはスッとダンジョーに抱っこされているめぐみんを指差して

 

「ずっと、ずっとずっと前から気になっていたんだが……めぐみんというのはあだ名みたいなのじゃなくて……本名?」

「そうですよ私の名前はめぐみんです、てか誰ですかあなた?」

「………ブフッ!」

「……おいキノコ頭今なんで笑った、理由を言え」

 

めぐみんが本名だと聞いて即座に含み笑いを浮かべるメレブ

 

それに対しカチンと来た様子でめぐみんは睨み付ける。

 

「私の本名に何か言いたい事があるなら言ってみなさい」

「ん~、いや無いっすね、フフ、ちなみにあの~めぐみんはぁ~? お父さんとお母さんの名前はなんて言うの?」

「……母はゆいゆいで父はひょいざぶろーですが」

「ぶっはッ! 今時のキラキラネームも裸足で逃げ出す一族!」

「おいお前! 私だけでなく両親の名前でも笑ったな! それだけは許さん! 絶対に許さん!」

 

自分だけでなく両親の名前にも噴き出すメレブにめぐみんがダンジョーの背中で暴れていると、ムラサキがベトベトの身体をなんとか落とそうとしながら

 

「もうあんな奴どうでもいいから一旦帰ろうぜ! もうすぐに風呂入りたいんだよ私! あー全然落ちないんですけどこの粘液!!」

「それは俺も同感だ、暖かい風呂に入って体のヌルヌルを落とし……汚れたもみあげを綺麗に整えなければ」

「待ってください! あのキノコ! あのキノコ野郎だけはここで仕留めたいんです!」

「そうは言ってもお前はもう例のあー……爆発魔法? もう使えないんだろ? ならいくらアイツでも流石に倒せんじゃないか?」

「爆裂魔法です! オッサンになるとホント物覚えが悪くなるんですね!」

「オッサン言うな!! ったくこれだから子供は好かん!」

 

背中でギャーギャ―叫ぶめぐみんに一喝するとダンジョーは彼女を背負ったまま最後にヨシヒコの方へ

 

「そういう事だヨシヒコ、今回は一時共闘をしたという事で特別に見逃してやる。次に会った時は再び敵同士だ、覚悟しておけ」

「わかりました、こちらも今全身ヌルヌルで正直戦う気力が無いので……決着はまたの機会に」

「うんそうだな、今日は解散という事で、それじゃ、お疲れ」

「はい」

 

もはや会話よりもさっさと帰りたいという思いがお互いに強かったのか、すっかり憔悴しきったダンジョーはムラサキと共に踵を返してこちらに背を向けながら行ってしまった。

 

「あのキノコ頭だけは絶対に許しません! 次に会ったら全力で私の爆裂魔法をお見舞いしてやります!」

「はぁ~メレブなんかを目の敵にする奴がいたとはな……」

「私はやっぱあの水色頭が気に食わないんだよね~、ちょっとぶりっ子アピールしててマジ嫌い」

「そう言うな、一緒にヌルヌルになった仲なんだろ? フフフ」

「なにスケベな目してんだエロジジィ!」

 

そんな掛け合いをしながら彼等は何処へと消えて行った。

 

残されたヨシヒコ達は、ひとまず戦いが終わったと安心しつつ己の身体がベトベトな事にウンザリして来ていた(ダクネスを除く)

 

「はぁ~とりあえず町に戻ろっか、ダンジョー達の事はひとまず置いといて」

「そうね、私達を裏切っためぐみんに対しては色々文句があるけど……とにかく風呂に入りたい……」

「うう……私だけ……私だけ粘液塗れになれなかった……」

 

そんな事を言いながらトボトボと帰路に入ると、ヨシヒコは窮地を救ってくれた死体とミイラの方へ振り返って

 

「お前達も風呂に入って汚れを落としなさい」

「ちょっと! アンデッドを風呂になんか入れようとしないでよ! コイツ等なんて元々死臭が漂ってんだから今更どうでも……いった!!」

 

魔物と同じ風呂を使えるかとすぐさま抗議するアクアだが、そんな彼女に死体がおもむろに近づいて前蹴り

 

「アンタなんなのよもう! 本気で浄化するわよ!!」

「死体! め!」

 

蹴られた膝を押さえながら浄化魔法を使おうとするアクアをまあまあと窘めながらメレブが死体に注意。

 

アクアに対してはやたらと好戦的になる死体をミイラが彼の両肩に手を置きながらなだめていると

 

 

 

 

 

ヨシヒコー! ヨシヒコー!!

 

突如天から声がし、大きな雲を掻き分けて大きなシルエットが後光と共に現れた。

 

しかしそれを見てアクアとメレブは思いきり嫌そうな顔で

 

「さっさと帰りたいのになんなのよ全く……」

「アイツ本当空気読めねぇわ……はいヨシヒコってうわ……ヘルメットもビチャビチャだ……」

「私は大丈夫です、もう全身ビチャビチャなので気にしません」

 

懐から粘液塗れのライダーマ〇ヘルメットを取り出すと、ヨシヒコはそれを受け取って普通に被って天を見上げる。

 

するとシルエットはくっきりと実体を現し

 

「ちっす! いや~今日もまた色々と大変でしたな~!」

「……」

 

いつも通り出て来て、陽気に笑いかける仏に

 

ヨシヒコ達はもう返事をする気力もなくただ見上げるだけだった。

 

それに対し仏は「んん?」と目を細め

 

「あっれ~みんな元気無いぞ~? もうちょっとテンションアゲアゲしようよ~」

「うぜぇ……今回は特にうぜぇ」

「そりゃムラサキがダンジョーと同じく操られている事が発覚したり、めぐみんとかいう子がまさか自分から竜王の方に寝返ってたとか色々あったけどさ~、落ち込んでたって何も始まらないぜ~?」

「落ち込んでじゃないわよ、イラついてんのアンタに」

「さっさと帰れ仏! もうこっちはさっさと風呂入りたいんだよ! 焼き土下座の件は後にしてやるから!」

「わぁお、今回はやたらと機嫌が悪いですねお二人さん」

 

粘液塗れだからさっさと帰りたいと思っているというのに、相も変わらず人をイラつかせることが得意な仏は

 

ヘラヘラ笑ったまま話を続ける。

 

「それじゃあまあ手短に話すからさ、パパッと聞かせてパパッと私も消えるから。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ仏に付き合ってプリーズ!」

「はい」

「ヨシヒコ、お前もたまには怒ってもいいと思うよアイツに」

「ダクネスも黙って聞いてないで一度は文句言った方が良いわよ」

「いやぁあんな性格でも流石に相手が神様だとやはり恐れ多いというか……」

 

素直に聞いたり黙ったまま空を見上げているヨシヒコとダクネスにメレブとアクアが助言していると

 

仏は「ではいっきまーす!」と叫んで話を始めた。

 

「今回なんとか倒したでかいカエルいたでしょ? この世界はね、あーいうウチの世界では出てこない様な強力な魔物が一杯います。つまり今回は魔王が呼び出した魔物だけでなくこの世界の魔物とも今後ぶつかり合う可能性もあるという訳ですね、はい」

「確かにかなり強力な魔物でした……我々はこれからもあのような魔物と戦わなければいけないのですね」

「はい、その通りでございまーす」

 

ヨシヒコの返事に仏はコクリと頷く。

 

「しかも、しかもしかもしかも、どうやら我々の世界の魔王だけじゃなくて、こっちの世界に元々いる魔王、そいつが率いている魔王軍の幹部とも戦うかもしれないという可能性もあるんだよコレが」

「なに! てことは私達は我々の世界の魔王だけでなく! こっちの世界の魔王の脅威とも立ち向かわなければいけないんですか!?」

「まあこっちの魔王の事は私なんにも知らないから適当に相手してやればいいんじゃないかな?  あ、でも多分超強いと思うぜ? 魔王軍の幹部」

「超強い!? そうなんですか女神!?」

「ん~まぁ~確かにそこそこ強いんじゃないかしら?」

 

こちらの世界の魔王軍の幹部は超強いかも

 

そう言われてヨシヒコはすぐにこの世界に詳しいであろうアクアに尋ねると、彼女は眉間に眉をひそめながら首を傾げ

 

「と言っても幹部の内の一人はもうやっつけたし、二人目はアクセルで儲からない店やってるわ」

「魔王軍の幹部が町でお店を開いている!? そっちの方が大丈夫なんですか!?」

「うわビックリ、ヨシヒコが珍しくツッコミした」

「平気平気、リッチーなのが気に食わないけど人間を襲う様な真似はしないって言ってるし、まあいざとなったら私がサクッと浄化してやるから問題ないでしょ、なんなら今からでも浄化しに行く?」

 

肩をすくめながら自信満々にアクアがそう答えるも、ヨシヒコは少々不安そうな態度

 

すると上空の仏が「おーい次行くよー」と気楽な感じで言いながら話を続け始めた。

 

 

「竜王やダンジョー達だけでなく、この世界の脅威とも戦わねばならないという過酷な試練。なればヨシヒコよ、お前もまたお前の世界で培った力を使いこの試練を乗り越えるのだ」

「私達の世界の力? それは一体……」

「魔物を操る力だ、お前には倒した魔物を改心させて仲間にするという力を自然に持っている」

「なんと!」

 

試練を乗り越えるための力、それは魔物を仲間にして共に戦う事だと述べる仏にヨシヒコは目を見開く。

 

「ヨシヒコよ、今回の様に4人だけでは辛い時もある、だからこそ時には魔物の力にも頼ってみるといい、さすれば今まで開けなかった扉も、仲間にした魔物次第で容易に打ち砕く事も出来るはずだ!」

「魔物の力……確かに今回も仲間になった魔物達のおかげで命を救われました」

「なればもう進むべき道はわかっているであろう……」

 

腕を組みながらこちらをジッと見据えて来る仏にヨシヒコが力強く頷くと、それに対して仏は一際大きな声で

 

「さあ行くのだヨシヒコよ! 仲間と共に! 己に忠誠を誓った魔物と共に! この世界に立ち向かうのだ!」

「はい!」

 

仏の叫び声にヨシヒコもまた大きく返事すると、聞き終えたは仏はスッと元に戻って

 

「うん、大変いいお返事でした、そんじゃ今日のお告げは終了でーす。ではまた次回~」

「切り替え早ッ! アンタ最後ぐらいビシッと締めて消えなさいよ!」

「いやだってぇ~、こっちもこっちで予定入ってるから~!」

「予定入ってるからって最後適当に終わらせようとしてんじゃねぇ!」

 

 

酷く雑な感じで締めようとする仏にアクアとメレブがブーイングしていると、仏はめんどくさそうに耳たぶを触りながら

 

「いやさ~マジでこっちもホント急にゼウス君に呼び出しされて大変なのよ、なんか知らないけど「オイ! お前ちょっとこっち来い! 言いたい事あるからすぐに来い! ダッシュで来い!」っていきなりキレ気味で連絡来てさ、だから今からすぐ行かなきゃならないのよあっちに」

「出たよゼウス君……もうお前の話に毎回出てくるな……その内本人が出て来そうで怖いわ」

「まあ私がふざけ過ぎると急にキレる事あるからさアイツ、今回もきっとそんな感じだと思うから、適当に相手して来ますわ、あ~めんどくせぇ~」

「いやお前のそういう態度がゼウス君は許せないんだと思う」

 

鼻をほじりながらだるそうに呟く仏を見て

 

人をイラつかせる事に関してはコイツの右に出る者はいないであろうと断言できるとメレブが思っていると

 

仏の姿は徐々に薄くなっていき

 

「ではさらばだヨシヒコよー!」

 

といつもの別れの言葉を残してスッと消えていった。

 

「アイツ終始ずっと真面目にお告げするとか出来ねぇのかな……」

「あー無理よアイツには、昔からあの性格だから」

 

ヨシヒコからヘルメットを受け取りながらぼやくメレブにアクアが手を横に振って無理だと答えていると

 

素顔に戻ったヨシヒコは顔にこびり付いた粘液を手で払い落しながら

 

「しかし仏から良いアドバイスを頂きました。魔物を改心させ仲間にしていく、今後は彼等魔物の力も存分に発揮して貰いましょう」

「うむ、こいつ等はホントに役に立つからな、ぶっちゃけ俺達よりも使えたりして……」

「えぇ~……ホントに~?」

 

役に立つと言い切るヨシヒコとメレブに、アクアはまだ傍にいる死体とミイラをジト目で睨み付ける。

 

「確かにスライムみたいなチャーミングなモンスターを仲間にするのは私は大賛成だけど、アンデット系はもうたくさんだわ……」

「ワガママ言うもんじゃないぞアクア、彼等はヨシヒコを救う為に健気にも自分よりも大きなジャイアントトードに挑んだんだぞ? その勇気は素直に賞賛するべきなんじゃないか?」

「ちょっとー聖騎士のアンタまでアンデットの肩持つって訳?」

「いや私は彼等をアンデットとしてでなく仲間として見てそう評価してるだけで……」

「ったくどいつもこいつもこんな奴等のどこがいいのよ、よく見なさいよ死体とミイラよ? あり得ないでしょ普通……」

 

死体やゾンビをいつの間にか評価しているダクネスに一瞥した後、アクアは早速彼等に悪態を吐こうとすると

 

「いっつ!」

 

背後から忍び寄っていた死体に思いきりお尻を蹴られて前のめりに転倒するのであった。

 

身体を粘液と泥まみれにしてアクアが無言ですぐに起き上がると

 

堪えていた感情が暴走したかのように……

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! もうやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 浄化してやるぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

「落ち着けアクア!」

「逃げろ死体! 馬車にダッシュ! ミイラと一緒にダッシュ!!」

「女神、死体の足の裏が女神を蹴ったせいで火傷してるみたいなのですが」

「アイツよりも毎回蹴られる私に気ぃ遣いなさいよぉぉぉぉぉぉ!! もう私もめぐみんみたいに裏切ってやる~~~!!!」

 

私の扱いは死体以下かと

 

こんな扱いをされるならいっそ自分達を裏切っためぐみんの方についてやろうかとちょっと本気で考えるアクアであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そんな彼等をコッソリと木の影で眺めているのは

 

先日狂戦士として戦う事を決めたヒサであった。

 

「兄様、兄様はこれからお強い魔物を仲間にしていくのですね、ならばヒサも決めました!」

 

重々しい物騒な鎧を身に着けたまま、ヒサは木の影から姿を現す。

 

「ヒサもまた! 兄様の様にお強い仲間を見つけようと思います!」

「ハッハ~! だったら俺はヒサさんの一人目の仲間という訳ですね!」

 

ヒサと同じく木の影から現れたのは首なし騎士のベルディア。

 

「任せて下さい! ヒサさんの為なら俺は何処までもついて行く覚悟なんで!」

 

右手に自分の首を持ったまま左手で自分の胸を強く叩きながら彼がそんな事を叫んでいると

 

「どこ行ったのよめぐみ~ん!! ってああッ! あなたモンスターね!」

「ん?」

 

突如背後から一人の少女が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

杖を持ったその少女は、ベルディアを見つけるや否やすぐにおどおどした様子で

 

「え、えーと……わ、我が名はゆんゆん! アークウィザードにして上級魔法を操る者! そ、そしてやがては紅魔族の長となる存在!」

「こ、紅魔族だとぉ!? く! 俺のトラウマが……!」

「めぐみんがこっちにいるという情報を聞いてやってきたら! まさかこんな悪そうなモンスターと遭遇するとは思わなかったわ! こうして見つけたからには! その……や、やっつけてやりゅ!」

「噛んだ……」

 

緊張しているのか恥ずかしいのか、顔を赤面させながら杖を構えるゆんゆんにベルディアはちょっとほんわかしていると

 

すかさず二人の間にヒサが割り込んで来る。

 

「いいでしょう、ヒサの仲間を倒すというのであれば……ヒサも全力であなたと戦います!」

「ヒ、ヒサさん……!」

「ええ!? あ、あなた人間でしょ! どうしてモンスターを庇おうとするの!?」

「彼は改心して仲間になってくれました、それが例え魔物であろうと関係ありませぬ!」

「ヒサさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

「うえぇ!? あ、あれなんか私の方が悪者みたいな……い、いや私は間違ってない筈! 間違ってないんだから! あ、貴女を倒してそれを証明するんだから!」

 

背後で謎の絶叫を上げるベルディアを無視して

 

上級魔法の使い手の紅魔族・ゆんゆんVSヨシヒコの妹・ヒサ

 

ヨシヒコ達が町へと戻ってる中で、二人の戦いが今始まるのであった

 

 

 

 

次回へ続く。

 

 


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