肆ノ一
魔王討伐、そして仲間の救出の為に旅を続けるヨシヒコ一行。
そんな彼等が捜索の為に険しい山道を歩いていると……
「うおぉぉ~ッス!!!」
「うわビックリした!」
突如山道の脇の茂みからいきなりハイテンションな男が飛び出した。
男の身なりはヨシヒコの世界にいた僧侶みたいな恰好をしている。
「俺はアクシズ教徒のアークプリースト兼盗賊のケンだ~!! お金を出さないとイタズラしちゃうぞ~!!」
「んーつまり僧侶であり盗賊やってるって事でよろしいのかな?」
「よろしよろし超よろし~! よろしこよろしこよろしこぴーん!!!」
「おお……不思議とこういうキャラ嫌いじゃないんだよな俺」
プリーストと盗賊の二足の草鞋を履いていると自称する男、ケンはヨシヒコ達に向かって笑顔でピョンピョンと跳ねまわる。
そのハイテンションなウザさにメレブが少し心惹かれてる中、ヨシヒコは即座にいざないの剣をチャキッと構える。
「お前達に渡す金など無い、欲しくば私達を倒してみるがいい」
「ま、待ってヨシヒコ! あの盗賊さっきアクシズ教徒って言ってたの! 流石に私の可愛い信者を! この女神であるアクア様が率いるパーティが倒すというのは如何なモノだと思うわ!」
「いやしかし、だからといって金を渡す訳には……」
アクシズ教徒は水の女神アクアを崇拝する教徒。
その教徒に属するというケンをこのまま斬るのは止めて欲しいとアクアがヨシヒコにお願いしていると……
「おーいケーン! お前一人でなにつっ走ってんだよー!」
「ああ! 後ろから凄く聞き覚えのある声がするぞ! でも俺は振り返らない! そして前も見ない!」
「ちょっとケン! 両手で目を隠さないで俺を見てくれよ~!」
「何も見えませ~ん! 何も聞こえませ~ん! 何も言いませ~ん! 見猿聞か猿言わモンキッキー!!」
「言ってるじゃないかよケン坊~!」
ケンの背後からまた一人男が手を振って現れた。
かなりの長身でしかも高そうな鎧を着飾って騎士風の恰好をしている。
男は目と耳を塞いで身体を左右に揺らしながら目も合わせようとしてくれないケンに
笑顔で肩を叩いた後、すぐにヨシヒコ達の方へ振り返って
「よし聞けお前達! 俺はクルセイダー兼盗賊のゾータイ様だ! 曲がった事が大嫌い! は~ら~だゾータイです!!」
「あ、原田って言っちゃった……」
「あ、ごめん……」
うっかり台詞を間違えたのか、男は申し訳なさそうにこちらに軽く頭を下げた。
「……あの、リテイク~……します?」
「あーいいようん、そのまま気にしないでやっちゃって」
「ホントごめんね……よーしお前等! 俺とケンに目を付けられた己の不運を恨むがいい!」
苦笑しながらメレブと意味深なやり取りを交えつつ、今度はクルセイダー兼盗賊のゾータイという男がヨシヒコ達の前に立ちはだかる。
「さあ俺に! 任しとけぇ~!」
「く! 私と同じクルセイダーの身でありながら盗賊に身を堕とすとはなんという愚かな男だ! 正しき聖騎士の名の下にこの私が成敗してやる!」
同じ聖騎士の身でありながら悪の道に走ったゾータイに、ダクネスは奥歯を噛みしめながら大剣をすぐに構えると
好戦的な彼女を見てゾータイはますますテンションを上げて
「おうおうおう! 正義ぶった可愛い女騎士様がおいでなすったぜ! よーし行くぞケン! まずはあの女をやっつけてやろうぜ!」
「オッスオラ、ケン! なんだかすんげぇワクワクすんぞ~!」
ゾータイに続いてやっとケンも目から手を離して戦闘モードに突入した様子。
ゾータイもまたダクネスの剣に負けない程立派な大剣を振りかざし
ケンはヨシヒコ達に向かってニヤニヤしながら懐から
一個の真っ白な石鹸を取り出した。
「これがオイラの切り札だ~!! アクシズ教徒印の! なんでも落とせる石鹸~!!」
「石鹸!? バカな! そんなモノが武器になる筈がない!」
得意げに石鹸を突き出してきたケンにヨシヒコが武器を構えたまま怪訝な様子を見せていると
ケンは石鹸を手に持ったままニヤリと笑い
「なんとこの石鹸……食べれちゃう!」
「なんだと!? 凄い!!」
「待てヨシヒコ冷静に考えろ! 食べれる石鹸は凄いというより明らかにヤバい!」
「あの! ちょっとかじってもいいですかそれ!」
「おおっとヨシヒコさんの純粋な好奇心が石鹸に興味を示してしまったか~!」
食べれる石鹸を聞いて興味津々のヨシヒコはちょっと欲しくなったのかソワソワし始める。
石鹸の魅力にすっかり戦意が削がれてしまったヨシヒコにメレブが嘆いていると……
「ちょ! 待て待て待てお前等! なに俺を置いて勝手に戦おうとしてんねん!」
そこへ間に入ってやって来たのは、前回の盗賊同様独特な方言を使う者。
ぱっと見自分達とは違う人種なのではと思うぐらい顔の彫りが深く
そしてマントを羽織って三角帽子を被った色黒の男だった。
男はすぐにケンとゾータイの方へと駆け寄ると、しかめっ面で軽く二人の頭を小突く。
「やる時は一緒に戦うってちゃんと打ち合わせしたやろうが! ケン! お前回復担当なのになに一番先に現れとんねん! お前先にやられたら後の俺等大変やん!」
「あ、そうだった、めんごめんご~! めんごろり~!!」
「コイツ絶対反省してへんな……それとゾータイ」
変なテンションで謝罪してくるケンに慣れた感じで呟くと、男はゾータイの方へと振り返り
「お前はちょっと興奮し過ぎ、最初の名乗りでいきなりミスるとかないでホンマ? この後反省会やからな」
「あのその件は言わないでジュンちゃん、俺も本気で反省してるからそこは……」
どうやらこの男はパーティのまとめ役を買っているらしい。ヘラヘラ笑っているケンを一喝し、ゾータイにはお互いに半笑いを浮かべながら反省させた後、改まった様子で男はヨシヒコ達の方へ振り返り
「待たせたな、俺はアークウィザード兼盗賊、そしてその実態は……」
大げさにマントを翻しシャキーンとポーズを決めると
「紅魔族随一のエラが張った男と語り継がれ! そして上級魔法とツッコミの二つを併せ持つ使い手! アホ二人のまとめ役ジュンジュンや!!」
「おージュンジュン今日も決まってるー」
「ジュンちゃんカッコいいー!!」
「いや世辞はいらんって……」
傍でパチパチと拍手するゾータイとケンに満更でも無さそうに微笑むジュンジュン
しかし紅魔族と聞いてアクアは彼に向かって目を細める。
「紅魔族ってアンタ……もしかしなくてもあの裏切りめぐみんと同族? こりゃまた面倒な相手ね……」
「裏切りめぐみん……おいアクア……お前まだめぐみんが私達と手を切って魔王の方に鞍替えした事根に持ってるのか?」
めぐみんの裏切りの件については絶対に許しちゃおけないと思っているアクアに、ダクネスが声を潜めながら耳打ちしていると
「ほほう」とメレブもまたジュンジュンを見つめながら目を細める。
「あのちんちくりんへっぽこ魔法使い(爆笑)のめぐみんさんと同郷の方でしたか……ならばこの俺が倒せば、もはや完全に紅魔族なんかより俺の方が優れていると立証できるという訳ですな」
「アンタじゃ無理よ、だってアンタだし」
「即無理だと言うな、俺を誰だと思ってる」
「だからアンタだから無理だって言ってんの、ウィザード(爆笑)さん」
「(爆笑)じゃない(笑)だ! そこを間違えるな! 大事な所だぞ!」
敵が魔法使いだと聞いて無駄に燃えているメレブにアクアが素っ気なく言葉を返していると
「さあこっちも三人揃ったしそろそろやっちゃうぜ!」
「俺達の力! とくと味わうのだ~!!」
「お前等ホンマ後で後悔しても知らんからな、素直に金出したら許してやっても構へんぞ」
三人揃った瞬間先程までよりも強いプレッシャーを放ちながら意気揚々と構えるゾータイ、ケン、ジュンジュン
そんな彼等にヨシヒコ達もすぐに戦闘の準備に
「なんて威圧感だ……しかし相手がどれ程の手練れであろうと私は勇者、行く手を阻むのであれば倒すのみだ」
「その通りだヨシヒコ、盗賊稼業に身を染めたクルセイダーなど捨て置けん」
「んー出来ればあのアクシズ教徒の子は倒して欲しくないんだけどー?」
「来たれ紅魔族、この俺の魔法をとくと拝んで恐れおののくがいい」
盗賊三人組に対して各々言葉を呟きながら
彼等の対決が今始める。
15分後
「うわぁ~!」
「ヨシヒコ! しっかりしろ!」
「ちょ! ちょっとなんなのよあの三人! 強過ぎでしょ!」
「俺の魔法が全く効かないなんて……紅魔族! 恐るべし……!」
あっという間に吹っ飛ばされて倒れるヨシヒコをダクネスが慌てて抱き起こし
アクアとメレブは見た目以上に強い盗賊三人組にオロオロしながら驚いていた。
「それにしてもなんという息の合ったトリオ、各個それぞれ優秀な能力を持っていながら更に抜群のチームプレイ、コレは相当なベテランのトリオに違いない……!」
「盗賊と言ってもアークプリーストにアークウィザードにクルセイダー、よくよく考えればコイツ等が強いのなんて当たり前じゃないの~! あれ? アークプリーストにアークウィザードにクルセイダー……裏切りめぐみんがいた時は私達もそんなパーティだった気が……」
ヨシヒコがやられてすっかり負けムードが流れている所で
盗賊三人組は勝ち誇った様子で不敵に笑みを浮かべる。
「ど~だ俺の半端ねぇ連携攻撃は!」
「俺のすんばらしい支援魔法の数々を見てビビっちゃったかコノヤロー!」
「フン、その程度の戦力で俺の上級魔法は防ぎ切れへんぞ」
ゾータイが大剣を肩に担ぎながらダクネスに抱き起されるヨシヒコに唾を飛ばしながら叫ぶ。
「見たか勇者さんよ! これが弱肉強食の世界だ! これ以上痛めつけられたくなかったらとっとと有り金全部寄越しな!」
「く! 誰が渡すものか、お前達に渡すならいっそここで死んだ方がマシだ!」
「おいヨシヒコ! それは私が言うべき台詞だぞ! ズルいぞ抜け駆けするなんて!」
「いや抜け駆けとかそんなんないからね?」
悔しそうにしながら叫ぶヨシヒコにすぐ様ダクネスが抗議し、それをメレブが冷静にツッコミを入れていると
彼女は自分の傷一つ付いてない鎧を晒して
「ていうか私はまだ全く傷付いてない! ヨシヒコだけ攻撃しないで私にも攻撃しろ!」
「いやだって! お前だけ身体滅茶苦茶硬いから全然ダメージ通らないんだよ!! マジ堅ぇんだよその身体! この全身筋肉!」
「な! それだと私の身体そのものが硬いみたいじゃないか! 言い直せ! 身体ではなくこの鎧が硬いのだと!」
「おいケン! コイツホントにすっげぇ堅いよな!」
「ん~? よし! ユーアー筋肉モリモリマッチョガール!! はーいマッスルマッスル!! 両腕から力こぶを出しながら~ハッスルハッスル~!!」
「そのふざけた呼び名は止めろコラァァァァァ!!」
「わぁ~! 筋肉モリモリマッチョガールが怒った~! 逃っげろ~!!」
ゾータイに話を振られてケンはヘラヘラ笑いながらダクネスに両腕で力こぶを出すポーズ。
彼の言葉と態度に強い憤りを感じた彼女は口調を荒げて掴みかかろうとするも、ケンはすぐにバカみたいに叫びながら逃げ回る。
するとそこで一人冷静なジュンジュンがめんどくさそうに
「なぁもうええんちゃう? 俺この後用事あんねん、さっさと終わらせたいからはよここで金出すか死ぬか選べや」
「あ、ちなみに僕ちんも用事がありますでございまするご主人様~」
「え? ケンとジュンちゃん用事あんの? あ、わかったぞ俺~」
二人揃って用事があると口走ったジュンジュンとケンに期待した様子でニヤリと笑う。
「二人共俺の為に誕生日会開いてくれるんだろ~? もう勘弁してくれよ~俺もう結構な年なんだぜ~?」
「……え?」
「……ん?」
「今更祝われても恥ずかしいしよ俺~、ほら、三人共もう結婚して子供もいるんだしさ~、なのに今更昔みたいに三人でお誕生日会とか……あれ?」
はにかみながら体を揺らし内心喜んでる様子のゾータイだったが、キョトンとした様子でこちらを見つめる二人に目をパチクリさせて固まってしまう。
「あ、あれ? 二人共用事があるって言うから俺てっきり……」
「……すまん、ゾータイ。俺今日家族で飯食いに行くねん」
「ごめん、俺も……」
「あーそうなんだ……」
さっきまでのハイテンションと打って変わってどんよりした空気が三人の中で流れ始めるも、ゾータイがすぐに無理に笑いかけながら
「あ! 大丈夫大丈夫! 俺は全然気にしてないから! そんな仕事仲間の誕生日なんかより家族を優先するのは当たり前じゃん!」
「ホンマすまんな」
「ごめんゾータイ」
「いいって! さっき言ったじゃん誕生日会とかもう恥ずかしいって! だから全然気にしてないから! ほら! 家族とご飯食べに行くなら早い所コイツ等やっつけちゃおうぜ!」
空元気でそう叫びながらゾータイはヨシヒコ達を倒そうと彼等の方へ振り返る、しかしその表情は
「……よ、よ~し、お前等覚悟しろ~……」
「うわあからさまに超テンション下がってる!」
「そんな事無いぞ~……ほーらかかってこ~い……」
「見るからにすっごいやる気無くしてんですけど、アンタ本当は誕生日会開いて欲しかったんでしょ?」
「うるっせぇなそんな事思ってねぇよ! こちとらいくつだと思ってんだよ!」
激しく落ち込んだ様子でフラフラと大剣を振りながら無理に戦おうとしているゾータイだが
メレブとアクアに言われてムキになった様子で怒鳴り始めた。
そしてそんなタイミングで、後ろにいたジュンジュンとケンがこちらに背を向けながらゴソゴソと何かを取り出そうとしている。
「お誕生日会なんていらねぇし! 今まで毎年さ! トリオでいちいちやってた事自体めんどくさいなと思ってたし! 必要ねぇんだよ俺達にはバッキャロー!!」
「ハッピーバースデートューユー」
「お誕生日会なんてもう二度と……え?」
「ハッピバースデートューユー」
突然背後からお誕生日に使う歌を歌い出す二人にゾータイがポカンとした様子で振り返ると
「「ハッピバースデーディア、ゾータイ!!」」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ケーキだ!!!」
「「ハッピーバースデートューユー!!」」
「俺の大好きなイチゴ一杯乗ってる奴~!!」
ケンとジュンジュンが満面の笑みで取り出したのは二人がかりで持たなければいけない程巨大なケーキ
それを見て先程怒ってたゾータイが一瞬にして笑顔になる。
「二人ともちゃんと準備してたの!? え、じゃあ家族と一緒にご飯食べに行くって奴は!?」
「それは本当やで」
「俺とジュンジュンと、そしてゾータイでこれから飯食いに行く約束」
「もうこんだけ長年付き合ってれば、もう俺等も家族みたいなモンやろ?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! やべぇ超泣きそう~~!!」
ケンとジュンジュンの粋な計らいにゾータイは感動のあまり涙で目を滲ませながら叫んだ。
「もうマジでショックだったんだからなこっち~! ホントすげぇブルーになってたんだからもう~!」
「お誕生日会なんてもういらんとか言うてたよな?」
「強がりに決まってんじゃ~ん! だって俺ここんところずっとこの日を楽しみにしてたんだぜ~!?」
「ハハハ、いくつやねんホンマ!」
「ドッキリとかもう勘弁してよ~! ホッとし過ぎて腰が抜ける所だったじゃんかよ~!」
「ちなみにこれ計画したの、ケンや」
「ケン坊~!! このイタズラ小僧め~!」
「ちょ! ゾータイ今は! 今は頭叩かないで! ケーキ落としちゃうから!」
「このケーキ作ったの、俺の嫁」
「えぇ! まりなんが作ったの~!? 今度お礼言うから家行くね」
三人で笑顔のままじゃれ合った後、ゾータイはすっかり活気を取り戻した様子でヨシヒコ達の方へクルリと振り返り
「よーしこれからパーッとお誕生日会する為に! 景気づけにお前等をギッタンギッタンにしてや……」
はちきれんばかりのスマイルで再び大剣を構えようとしたその時
さっきからずっと隙だらけだった二人にゆっくりと近づいていたヨシヒコが
「そい!」
「はん!」
「せい!」
「おう!」
「とぉう!」
「びっくらポン!」
「あ! ケーキヤバい!」
三人に向かって駆け抜けながら、あっという間に彼等を剣で横薙ぎで斬り伏せたのだ。
そしてケンとジュンジュンが倒れた時に慌てて彼等が持ってたケーキを取り上げるメレブ。
それと同時に三人は川の字になりながら地面に横たわって、幸せそうな顔で眠りにつくのだった。
「強敵でしたね……隙が無ければ負けてたかもしれません……」
「お、お前ってたまに容赦ない所があるな……そういう所はカズマと少し似てるぞ……?」
無表情で剣を鞘に戻しながら一息ついているヨシヒコに、ダクネスが頬を引きつらせて彼のドライな一面に恐怖を覚えいている中、メレブが持ったケーキをアクアがもの欲しそうに見つめる。
「ねぇねぇそのケーキ食べていい?」
「ダメだって、これはこの三人のなんだから」
そう言ってメレブは両手に持った皿に乗せられたケーキを眠っているゾータイのお腹の上に乗せて(乗せた瞬間寝ている筈のゾータイが「う!」と呻き声を上げたがスルーする)
一行は彼等をおいて再び山道を歩き出すのであった。
「あ! 食べれる石鹸を貰うの忘れてしまった!」
「いやいらないからそんな変なの!」
しばらく歩くと、ヨシヒコ達の前にぱっと見15メートルぐらいの大きな塔が現れた。
山の中に建築されたと思われる謎の細長く伸びたその塔を見上げながら
ヨシヒコ達は怪訝な様子で近寄って見る。
「あの、見るからに怪しい塔ですねメレブさん……」
「怪しいねぇ~、とてつもなく怪しい、うん」
目の前には扉らしきモノはあるのだが、何の為に作られたのかさえわからないこの不思議な塔に入るべきか迷っている様子。
「そういえば冒険者ギルドで、「最近山の中に不審な塔が出来たから調査して欲しい」ってクエストがあったな、もしかするとコレかもしれないぞ」
「ダクネスの言う通りならここを調べればクエストの報酬を貰えるって事ね、全く誰が建てたのかしらこんな胡散臭い塔……」
「報酬か~、何事にも旅には金は必要だし、俺達には悪く無い話かもしれんぞー」
「行ってみましょうか」
ダクネスの情報をキッカケに、ずっと突っ立っていた一同は塔の中を調査してみようと考え始めた。
全ては明日を生き抜く為の生活費の為である。
早速ヨシヒコを先頭に、ドアを開けて塔の中へと入っていくのであった。
「中はえらく薄暗いですね、皆さん足元を注意して下さい」
「うへーなんかジメジメしててやだここー、私だけ塔の前で待ってていい?」
「ここは我慢しろアクア、もしかしたらこの塔を作ったのは魔王の手先かもしれない、そうであればめぐみんやカズマの情報を知るチャンスかもしれないぞ」
「さてさてそろそろ俺の中で新しい呪文が目覚めそうな中~、ちょっくらお邪魔しますよ~」
ヨシヒコ、アクア、ダクネス、メレブの順番で中へと入っていく一同。
各々声をを出しながらまずは薄暗い中を探索しながら最上階を目指すのであった。
しかし彼等は一つ大事な事を見逃してしまっていた。
このドアの隣に名の書かれた表札あった事を
『スズキ』と書かれたその表札を