勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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肆ノ三

真っ暗な暗闇の中でヨシヒコは一人ゆっくりと目蓋を開けた。

 

「ここは一体……」

「お目覚めですか、ヨシヒコさん」

「!?」

 

どうしてここにいるのか理解出来ておらず、しかもいつの間にか自分が小さな椅子に座っていた事に困惑していると

 

すぐ目の前に見知らぬ銀髪の女性が自分と向かい合う様に座っている事にヨシヒコは気付いた。

 

「失礼、あなたは……」

「私はエリス、あなた達のように冒険の途中で未練を残し死んでいった者達を見送る女神です」

「あ、あなたが女神エリス……!」

 

メインヒロインを張れるようなおっとりとした感じで静かに語りかけて来た人物がまさかの仏やダクネスの言っていた幸運の女神・エリスだと知って、すぐにヨシヒコは目を大きく見開いて見せた。

 

「どうして女神であるあなたが私の目の前に……」

「そうですね……出来ればこういった形であなたと会いたくはなかったです」

「それは一体どういう事ですか」

 

女神エリスは悲しそうにヨシヒコから目を逸らし俯くと、しばらくして彼に対し包み隠さず真実を告げた。

 

「勇者ヨシヒコさん、あなたは死んでしまいました」

「なんですって!?」

「あなた方の世界にあった即死呪文によって……あなたも含めパーティは全滅です」

「全滅したんですか!?」

「しました」

 

それを聞いてすぐにヨシヒコは少し前の出来事を思い出した。

 

偶然塔の中で出会った男に、アクアが呪文を掛けてみろと自信満々に言って

 

結果、男の掛けた即死呪文で他のみんながバタバタと死んでいった光景を

 

「何てことだ……こうもあっさりと死んでしまうとは、幾度も魔王を倒した私とした事が不覚を取ってしまった」

「あの、己を責めないで下さいヨシヒコさん、アレはまあ……事故みたいなモノですしそれに責任はどちらかというと呪文を掛けろと吹っ掛けた先輩にあると思いますので」

 

先輩と呼んでいるのは恐らく同じ女神のアクアの事であろう。

 

責任は彼女にあるとエリスが上手くヨシヒコに罪の意識を感じさせないようにしてあげていると

 

しばらく俯いていたヨシヒコがゆっくりと彼女の右方へ顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

「それで、皆さんを生き返らせるのにどれだけお金かかるんですか?」

「……え?」

「いや、こうやって全滅した場合、私の世界の場合、お金さえ払えば仲間を生き返らせてくれる教会があるんです、いくらかかるんですか?」

「あ、あなたはそれを本気で言っているのですか……?」

 

真顔でそんな事を尋ねて来るヨシヒコにエリスは深く悲しんだ。

 

金を払えば死者を蘇られさせる事が出来るなどというそんな美味しい話など当然この世界にある訳がない。

 

冒険の中で死んでいった冒険者達は、皆ここでエリスのご加護と共に天へと送られるか、輪廻の輪を潜り転生するのかのどちらかだけだ。

 

きっとヨシヒコは、その現実に直視することが出来ずに自分の頭の中で空想を描いてしまっているのだろうと思ったエリスは、俯きながらも女神として彼に残酷な言葉を……

 

「もう一度言います、あなたは死んでしまったのです、そして仲間達も……あなた達はもう二度と生き返る事は……」

 

 

 

 

 

 

「セーブスル?」

「え?」

 

エリスがヨシヒコに何か言いかけていた途中で

 

急遽彼女のすぐ背後から片言の言葉で尋ねて来る声。

 

咄嗟にエリスが振り向き、ヨシヒコも気付いてバッと席から立ち上がる。

 

そこに立っていたのは

 

「ソレトモ? 呪イヲ解ク? ソレトモ? 生キ返ラセル?」

「神父……!」

「は、はい!?」

 

毎度ヨシヒコがお世話になっている教会の神父であった。

 

いきなり暗闇の中から光照らされ現れた神父の登場に、流石に女神エリスも予想していなかった。

 

 

「誰ですかあなた!? どうして私の部屋に……ってあれ!?」

 

更にエリスは気付く、ここはもう彼女が創り出した死者を送る為の空間ではなく

 

いつの間にかちょっとみずぼらしい教会になっている事を

 

「え! ど、どこですかここ!? 何が起こってるんですか!?」

「すみません、仲間を生き返らせて下さい」

「ヨシヒコさん!? なに自然に受け入れてるんですか!?」

 

席から立ち上がって困惑した様子でオロオロと周りを見渡すエリスを尻目に

 

慣れた様子でヨシヒコは神父に話しかけて仲間の復活を依頼する。

 

「三人まとめてお願いします」

「待ってくださいヨシヒコさん! 無理なんですよ生き返らせるなんて! それに教会の神父がそんな真似出来る訳……!」

「出来ルヨ、素人ハスッコンデロ」

「ええええ!?」

 

あっさりと死者の復活が出来る事を言ってのける神父にエリスが驚愕を露わにしていると、神父は再びヨシヒコの方へ振り返って

 

「三人共生キ返ラセルノ?」

「はい」

「良イケドオ金掛カルヨ、異世界カラノ出張費ガカサムカラ、元ノ世界ヨリモ金取ルヨ」

「そうなんですか!? あの……ちなみにいくらかかるんですか?」

「ソウダネ~……」

 

仲間の復活は割増価格だと聞いて、ヨシヒコは恐る恐る神父に尋ねると

 

彼はとぼけた様子で首を傾げながらしばらく間を置いた後

 

「ダクネスサン・8000ゴールド、アクア様・42000ゴールド、メレブ……」

 

神父はちょっとだけヨシヒコから目を逸らすとすぐに視線を戻して

 

「イル?」

「いります」

「ジャア……1エリスデイイヤ」

「足りない……! メレブさんはともかくダクネスと女神を生き返らせるにはゴールドで払わなくてはいけないのか……!」

「て、ていうか先輩死んじゃったんですか!? ウソ本当に!? あの! 女神なんですけど先輩!!」

 

ヨシヒコは激しく後悔した

 

実はこの世界でゴールドは必要ないとわかった時から、魔物を倒してゴールドを手に入るという作業を全く行わなくなってしまっていたのだ。

 

しかしまさか教会での使用金貨はまだゴールドだったとは……

 

ガックリと肩を落とし落ち込むヨシヒコに、神父は一切妥協はせずに

 

「足リナイナラ……稼グシカナイヨネ」

「はい」

「金一杯持ッテソウナ魔物倒シテ、稼イデキナ」

「わかりました、すぐ戻ってきますんで」

 

現実的な彼の言葉にヨシヒコは深く頷くと、踵を返して教会の出口へと歩き出す。

 

そしてその途中でまだアタフタしているエリスの方へ振り向いて

 

「ところで、もう一人の女神、一つお聞きしたい事があるのですが」

「……今この世界で何が起こっているのか困惑している私に何か御用ですか……?」

 

最後に尋ねて来たヨシヒコに、エリスは戸惑いながらもとりあえず彼の質問には答えるべきだと身構えていると

 

 

ヨシヒコは自分の胸に両手を当てて……

 

「ボォォォォォォォォン!!!」

「……」

 

両手の甲をこちらに向けながら、叫び声と共に一気に突き出すという仕草をして来たヨシヒコに

 

さっきまで動転していたエリスの表情が一瞬にして真顔になった。

 

「あの、私の仲間が前に仏にエリス様はどのような方なのかと尋ねた際に、仏が機嫌良さそうにこんな事をやっていたのですが、コレはもう一人の女神と一体どのような関わりが」

「ありません」

「無いんですか?」

「ありません、絶対にありません、そして二度とそれを人前でやってはいけません。わかりましたか?」

「いやでも」

「絶対にしないで下さい、さもないとあなたに天罰が下ります」

「……わかりました」

 

なんか真顔で凄く詰め寄って来てえらい威圧感を放ってくる彼女に、少々たじろぎつつヨシヒコも素直に頷いた。

 

「ではもう一人の女神、行って来ます」

「……ていうかどうしてあなただけ普通に生き返っているんですか?」

「勇者ですから」

「……あなた方の世界は一体……」

 

キリッとした表情で答えるヨシヒコに、もうツッコむのも疲れたといった感じでエリスはそのまま走り行く彼を見送る事にした。

 

「……所で私はどうやって元の場所に戻ればいいんでしょうか?」

「セーブスル?」

「え……」

 

光り輝く出口へと向かって行ったヨシヒコを見送った後、どうやって帰ろうか考えていると不意に神父が話しかけて来た

 

「生キ返ラセル?」

「い、いえ私はここに用事無いので……」

「アァ!? ジャアサッサト出テケー!!」

「ひ!」

 

エリスがただの冷やかしだと思ったのか、突然神父が口調を荒げて彼女の方へ歩み寄って

 

 

「用事ガ無イナラサッサト帰レー!」

「で、出て行きます! すぐに出て行きますから! 押さないで下さい!」

「サア出テケー! 今スグココカラ立チ去レー!!」

 

背中を両手で付きながら無理矢理教会から追い払おうとする神父に、エリスは慌てて逃げる様に教会から出て行く羽目になった。

 

一人教会に残された神父は出て行ったエリスに対してチッ!と強く舌打ちした後

 

懐から謎の石鹸を取り出しそれを躊躇なくパクリと一口食べるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方エリスより先に外に出たヨシヒコはというと

 

「早くゴールドを、一刻も早くゴールドを集めなければ……!」

 

教会から出た先は自分達の拠点の街・アクセルであった。

 

すぐにヨシヒコはゴールド稼ぎに赴く為に、街中を駆けながら魔物のいるフィールドへ向かっていると

 

「ま、待ってーヨシヒコー!」

「む?」

 

急に後ろから呼び止められたので振り返ると

 

そこには銀髪の少女・クリスが慌てた様子で駆け寄って来た。

 

「おお、そなたはいつぞやのダクネスの友人である……平胸!」

「クリスね! あたしの名前はクリス! なに平胸って! 怒るよ本気で!」

 

名前ではなく特徴で覚えていたヨシヒコに、クリスはぶん殴ってやりたいという衝動に駆られながらもなんとか踏み止まると

 

「そ、それよりなんか慌ててるみたいだけどなんかあったの!?」

「ああ、実は仲間を生き返らせる為に急遽大量のゴールドが必要になったのだ」

「へ、へぇそうなんだー! だったらあたしも手伝ってあげようか?」

「なに!?」

 

若干棒読みな感じで頷きながら、自分も協力しようと自ら志願して来たクリスにヨシヒコは軽く驚く。

 

「いいのか? そなたはそなたで巨乳になるという大いなる野望がある筈なのに」

「おい、そんな野望があるって君に一度でも言った? 今自分で勝手にあたしの設定考えたよね、貧乳の夢がみんな巨乳になる事だとは限らないから」

「ならば巨乳になりたくないのか?」

「ああ!? わかりきった事聞かないでよ! そんなモンなりたいに決まって……! って今はそんな話してる場合じゃないから!」

 

感情的に何か叫ぼうとしたクリスだがすぐにズレた話題を元に戻す。

 

「お金稼ぎなら盗賊のあたしに任せてよ! 幸運値も高いし仲間にいれば色々と恩恵を授かる事間違いなしだよ!」

「なんと、それはありがたい! ではすまないがお前の力を私に貸してくれ」

「モンスターを倒してサクッと先輩……じゃなくてアクアさんやダクネスを助けよう! それと君のもう一人の仲間の……名前なんだっけ?」

 

言いかけた言葉を慌てて訂正し直しつつ、アクア達を復活させる事に異様に積極的なクリスをパーティに迎え入れるヨシヒコ。

 

『クリスがいちじてきになかまになった』

 

「……なんか今頭の中に音楽が流れた様な」

 

突然脳内で流れたBGMにクリスが疑問を持っている中、そんな彼等の下へ何者かが駆け寄って来る気配が

 

「おお! お前達!」

「ってうわ! いきなり街中にアンデット系のモンスターが二体も!」

 

ヨシヒコの所へダッシュで駆けつけてくれたのは

 

前に仲間にした死体とミイラ。

 

どうやらヨシヒコのピンチを悟った二体は、彼の窮地を救う為に馳せ参じたらしい。

 

「お前達がいれば心強い、よし! 我々の仲間を生き返らせる為に金を稼ぐぞ!」

「ええ!? コイツ等モンスターだよ!? 大丈夫なの!?」

「魔物と言えど改心して私の仲間になってくれた者達だ、何も問題は無い」

 

魔物達と一緒に腕を高く掲げて「えいえいおー!」と叫んでいるヨシヒコに、クリスは不安そうに尋ねるも彼はすぐに何も心配はいらないと言ってのける。

 

「では出発だ! クリス! そして死体とミイラ! 魔物を狩って狩って狩りまくるぞ!」

「っていきなり走らないでよヨシヒコ! ま、待ってー!」

 

死体とミイラを引き連れてヨシヒコは意気揚々と街の出入口から出発するのであった。

 

それを慌ててクリスも追う。

 

かくしてヨシヒコ以外メンバー総チェンジの新生パーティによる怒涛のゴールド稼ぎが始まるのであった。

 

 

 

 

 

「ああーッ! 棺桶忘れたぁッ!」

「棺桶!?」

「女神達が入ってる棺桶だ! ちょっと教会行って持って来る!」

「先輩が入った棺桶持って行くって……わからない……仏先輩が作った世界のシステムがわからない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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