勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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肆ノ四

風の如くヨシヒコは走る

 

呆気なく死んでしまった仲間三人を生き返らせる為のゴールドを稼ぎに

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ヨシヒコ速い! ペース落として!」

 

背後からさっきから何度も叫んでいるクリスの声も聞かずに

 

行く手を阻むスライムやらゴーレムやらを自慢の剣で難なく倒していくヨシヒコ。

 

しかし下級の魔物ばかりでは得るゴールドもやはり少ない。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

横一列に綺麗に並んで、斬って下さいといった感じで立っている魔物達を剣を横に振るいながら一気に駆け抜けて倒していくヨシヒコ。

 

斬り損じた魔物達はクリスと、ヨシヒコが仲間に加えた死体とミイラに任せる。

 

「いくら先輩……アクアさん達を復活させたいからって焦り過ぎだよ! こんなんじゃいつか体力が尽きて……」

「次はあの雪山だ! 行くぞぉ!!」

「人の話聞いてよ!」

 

全く聞く耳持たない様子でヨシヒコは目の前にある大きな雪山を指差すとすぐに走り出していった。

 

彼に従って死体とミイラも追いかけるので、クリスもまた仕方なく彼等の後を追った。

 

 

 

 

しばらくして

 

「ハァハァ……! なかなかの強敵だった……!」

「う、うわぁウソでしょ、勢いに任せてつい挑んじゃったけど……よく見たらこのモンスター……いやこの精霊」

 

登山しつつ魔物達を撃破していく中で、ヨシヒコ達は思いもよらぬ強敵と対峙する事になった。

 

しかし完全に勢いにノリに乗っていたヨシヒコ達は、逃げずに真っ向勝負

 

かなりの苦戦はしたもののなんとか倒す事に成功してしまった。

 

信じられないと言った感じで倒した相手を見下ろすクリスの視線の先には

 

真っ白で巨大な鎧武者

 

「冬将軍じゃん! 凄いよヨシヒコ! これ確か物凄い懸賞金かけられている超やばい精霊だよ!」

「懸賞金……それはゴールドか?」

「え、いや……エリスだけど」

「ならばいらん!!」

「えぇー!!」

 

ゴールド払いではなくエリス払いと聞いてヨシヒコは即座に懸賞金などいるかと叫ぶと、勿体無いと驚くクリスを尻目にすぐに何事も無かったかのように先へ進もうとすると

 

「……」

「は! 何てことだ、先程の戦いでミイラが負傷してしまった!」

「いや冬将軍の戦いで仲間一人が負傷した程度で済むなら安い方だと思うよ……」

 

不意に傍にいた仲間のミイラがガクッと腰を落とし、自分の膝を両手で押さえ始めた。

 

それを見て死体が「しっかりしろ!」と言った感じでミイラの両肩に手を置いてる光景を見て

 

ヨシヒコはマズいと感じ、クリスはその程度の損傷で済んだ事にもはやツッコむ気力も失せる。

 

「ここまでよくやったミイラ、馬車に戻って休みなさい」

 

共に戦ってくれたミイラに礼を述べつつ、ヨシヒコはすぐに馬車に行くよう指示。

 

それに素直に従い、死体に肩を貸してもらいながら無念そうに馬車へと向かうミイラ。

 

「戦える仲間が一人減ってしまった、このままだとこの先は更に過酷に……は!」

「どうしたのヨシヒコってええ!?」

 

パーティーが三人になった事は大きな痛手だと感じていたヨシヒコであったが

 

ふと前へと振り向くと目の前で

 

先程倒した冬将軍がこちらに深々と頭を下げて土下座のポーズを取っていた

 

『なんと ふゆしょうぐんが なかまになりたそうにこちらにどげざしている』

 

「冬将軍がこっちに土下座してるんだけど! も、もしかして冬将軍は自分を負かしたヨシヒコに感服して仲間になろうとしている、とか?」

 

とりあえず仮説を述べてみるクリスは恐る恐るどうするべきかとヨシヒコの方へ振り向くと

 

彼は迷い無き眼差しで力強く頷き

 

「よし! ならば来い!」

「えぇー!?」

 

 

 

 

 

 

 

またしばらくして

 

ヨシヒコ達は無事に雪山を下山して、現れる魔物を倒して行った。

 

ミイラのヘルプとして仲間に加わった冬将軍と共に

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ヨシヒコ! 冬将軍が! 冬将軍が思った以上に強い! ていうかヤバい!」

 

一つ目の怪人やら仲間を呼ぶ泥の手等、ユニークな魔物を倒して行く中でクリスは気付いた。

 

雪山の精霊である筈の冬将軍が、こんな暖かい気温の平原であろうとお構いなしにヨシヒコに続いて魔物達を蹴散らしていく事に

 

「どんだけ強いかというともう言葉に出来ない程強い! ねぇヨシヒコ! 冬将軍のせいで私と死体の出番が……ってあぁー! 死体が冬将軍に対抗心燃やしてモンスターが一杯いる方へ!!」

 

無茶苦茶に刀で暴れ回って次々と魔物を倒して行く冬将軍を前にクリスが自分の必要性を失いかけていると

 

彼女と一緒に蚊帳の外にされかけていた死体が、「あんな新参に負けてたまるか!」といった感じで単独で大量にいる魔物達に突っ込んでいく

 

だが

 

「あ! 死体がなんか妙にメカメカしい、というか完全にメカのモンスターにやられた!」

 

クリスが止めようとした所で、数体の魔物を蹴りで倒していた死体の前に思わぬ強敵が

 

4本の細い足でガチャガチャと音を立てて華麗に動き回り

 

背中に弓矢を差し

 

右手に鋭いサーベルを持った一つ目のロボ型の魔物だ。

 

1ターンで2回も行動出来るという優秀なスペックで、死体をどんどん追い詰めていく。

 

しかし

 

冬将軍に対抗心を燃やす腐った死体はこの程度では挫けなかった。

 

「死体が! 死体がすぐに起き上がってからのタックルで反撃に移った!」

 

ロボに向かって4本の足でも耐え切れない程の強烈なタックルをかまして仰向けに倒すと

 

そのままガンガンと赤く光る目玉に向かって自慢の蹴りを何度も叩き落とす事に成功する死体

 

もはや実況解説役みたいになっているクリスをよそに、ロボ型魔物は次第に鈍い音を出しながら停止してしまった。

 

そしてそれと同時に、戦い疲れたかのように死体も膝から崩れ落ちる。

 

「よくやった死体」

 

だが倒れる直前で死体はヨシヒコに抱き抱えられ、彼に称賛の声を貰うと死体はグッタリとしながらも嬉しそうに親指を立てた。

 

そんな死体をヨシヒコは冬将軍に預け

 

「我々の為に戦った勇敢な死体を馬車に連れて行ってくれ」

「ヨシヒコ、随分と魔物と打ち解けてるんだね、あたしとしては正直複雑なんだけど……」

 

よくよく考えればこうも上手く魔物に信頼されている人間というのも珍しい

 

それこそ真の勇者の素質という奴なのだろうか、それともただ物事を深く考えないバカだからなのだろうか……

 

彼に指示された冬将軍は深々と忠誠心たっぷりに頭を下げると、ダウンした死体を背に乗せて大事そうに馬車へと連れて行く。

 

「しかしミイラに続いて死体が……これはかなりマズイ、どうしたものか……は!」

「またどうしたのさヨシヒコ、あ!」

 

死体がやられてしまった事にヨシヒコはまたしても頭を押さえて悩むも、すぐに彼はクリスと一緒に声を上げた。

 

『なんと キラーマシーンがおきあがり なかまになりたそうにこちらをみつめている』

 

まさかの奇跡、死体がなんとか倒したあのロボが、ヨシヒコの仲間になろうと立ち上がって来たのだ。

 

するとヨシヒコはすかさず

 

「よし! ならば来い!」

「えぇー! またそんな簡単に仲間にしちゃうの!?」

 

躊躇なくそのロボをパーティに迎え入れるのであった。

 

 

 

 

 

そしてまたしばらくして

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

アクセルの街によくわからないけどなんかデカい4足要塞が近づいて来てたので

 

ゴールド稼ぎに夢中になっていたヨシヒコが飛び掛かり、程無くして倒す事に成功した。

 

冬将軍の強大な一撃

 

新参のロボの怒涛の連続攻撃

 

おまけのクリスのおかげでヨシヒコ達はアクセルに迫る脅威を排除出来たのだ。

 

「おおー! なんだあのターバン野郎は! 俺達が手も足も出なかったあの巨大要塞デストロイヤーを容易く倒しちまったぞ!」

「俺知ってるぞあの冒険者! 確かついちょっと前にフラリとこの町にやって来ていきなりドラゴンナイトになったとんでもねぇ男だ!!」

「マジかよ! これはもう後々英雄になるに違いねぇ伝説の誕生だな!!」

「どこぞの仲間置いて逃げ出したカズマとかいうチキン野郎と大違いだわ!」

 

後ろでワイワイと自分を称えて評価しているのも気にも留めずに、ヨシヒコはすぐに倒したデストロイヤーに近づく。

 

「ゴールド! ゴールドはどこだ!」

「えーとねヨシヒコ、デストロイヤーは人が作ったただの巨大要塞だから、ヨシヒコ達の世界にいる魔物と違ってゴールドは落とさないんだよ」

「なんだと! それでは苦労して倒した意味が無いという事か……仕方ない、とりあえずこの赤くて大きな丸い球でも拾って売る事にしよう」

「ってそれコロナタイトじゃん! 無尽蔵にエネルギーを生み出せる魔石!」

 

瓦礫の中からヒョイと拾い上げて見せたヨシヒコの手にあるモノは

 

デストロイヤーの動力源であった、赤く燃え盛るコロナタイト

 

滅多にお目にかかれない程かなり貴重なモノであり、クリスはすぐに気付いて驚きの声を上げるが

 

彼女が声を上げたのは貴重だからというだけではない

 

「点滅しながら赤く輝いてるって事は! このままだと爆発しちゃうよこのコロナタイト!」

「なんだと! 爆発を防ぐにはどうすればいい!」

「無理だよ! だってコレってデストロイヤーの動力源としてずっと働いてた奴なんでしょ! 制御を失ったコロナタイトは恐ろしい威力の時限爆弾だよ!」

 

どうやらヨシヒコの持つコロナタイトという魔石は結構ヤバい爆発を起こすヤバい奴だったらしい。

 

クリスの説明を聞いてヨシヒコは顎に手を当てどう処理するべきかと考えていると

 

ふと視界に入ったのは仲間であるロボ

 

そういえば彼の身体は……

 

「……」

「ヨシヒコ? どうしてロボをジッと見つめてるの? なにやろうとしてるの? コロナタイト手に持ったままどうしてロボに近づいていくの?」

 

嫌な予感を覚えたクリスをよそに、ヨシヒコは真顔でロボの方へ近づいていき、そして……

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

「ま、待ってぇ~ヨシヒコぉ~!!」

 

ヨシヒコは今、猛スピードで走るロボの背中に乗ってゴールド稼ぎに勤しんでいる。

 

新調した真っ赤な目をピカピカと光らせながら、4本の足を狂ったように動かして何者にも止められない程の馬力を持ったロボに乗りながら

 

「速い! 速過ぎる! 速過ぎて風圧が……!」

「無尽蔵のエネルギーを手に入れちゃって完全に暴走してるんだよロボ! とにかくなんでもいいからスピード緩めてよ! このままだとあたしと冬将軍置いてかれちゃうから!」

 

ギュインギュインギュイーン!等と激しい機械音を鳴らしながら手に持ったサーベルを振り回しつつスピードをどんどん上げていくロボ

 

そのおかげで上に乗っていたヨシヒコはまるで巨大扇風機を顔面から受けてるかのような凄い表情に

 

「しかしこれ程のスピードとパワーがあれば敵は無い! ロボよ! まずはこの近くにいる魔物を全てやっつけるぞ!」

 

暴走中でありながらも彼の命令が聞こえたのか、ロボはその辺にいる魔物達の真横を通り過ぎると同時にサーベルでどんどん斬り伏せていき、コロナタイトとなった目からビームを乱射して撃破していく。

 

そして倒された魔物達が落としたゴールドを

 

ロボとヨシヒコの後を追いかけているクリスと冬将軍が丁寧に拾っていった。

 

「よし! このペースであればすぐに溜まるに違いない! 行くぞロボ! 発進だ!」

「ねぇ君もしかして楽しんでない! ロボットに乗れてはしゃいでない!? 顔えらい事になってるのに気づかないの!?」

 

風圧で思いきり歯茎がハッキリと見えるぐらい凄い顔をしているにも関わらず

 

ヨシヒコはロボに乗ったままの魔物退治を続行する。

 

彼の表情を一瞬だけ見えたクリスは、あまりにも無茶な稼ぎ方法に心配そうな表情を浮かべるのであった。

 

 

 

 

「仏先輩の世界はこの人が勇者で大丈夫だったんでしょうか……」

 

 

 

 

 

 

 

そして程無くしてヨシヒコは遂に目的金額を手に入れる事に成功した。

 

急いで街に戻りクリスと共に教会に行ったヨシヒコは、そこの神父に指定されたゴールドを一括払いして

 

無事に仲間達を蘇らせるのであった。

 

「いやーまさか異世界でも死んでしまうとはなー」

 

蘇ったばかりのメレブが先程まで死んでいたのに、ヘラヘラと笑いながら教会から出てくる。

 

「油断したなー、まさかあの時の男がいたなんてなー」

「私は未だに己の身に起こった体験が信じられないぞ、今までずっと死んでいたなんて……」

「私……女神なのに死んでたの? 女神なのに……?」

 

メレブに続いて放心状態のダクネスと、虚ろな表情で激しく落ち込んでいるアクアも教会から出てくる。

 

そして最後に彼等を復活させたヨシヒコとクリスも

 

「まさかホントに生き返るなんて……あの神父一体何者……?」

「コレで再び皆さんと旅ができますね」

「うむ、面倒をかけさせたなヨシヒコ、ところでその少年なのか少女なのかはっきりしない者はどなた?」

「少女だよ! いきなり失礼だな君!」

 

メレブはヨシヒコの方へ振り返ると、早速クリスが何者なのかと尋ねて来た。

 

クリスが叫ぶ中ヨシヒコは冷静に

 

「彼女はメレブさん達を生き返らせる為に協力してくれたダクネスの友人のクリスです。前に私が落ち込んでいた時を助けてくれた、とても気の良い奴です」

「あ、そういや前に聞いた事あったな。ムラサキ以上の貧乳だって」

「ひ、貧乳!?」

「確かにヨシヒコの言う通りう~ん……壁! 超絶壁! ムラサキ2号改!」

「……!」

「落ち着けクリス、今は無事に生き返れた事を喜ぼう」

 

しげしげとクリスを眺めながらハッキリと感想を述べたメレブに

 

クリスが無言で彼に掴みかかろうとするのを、すかさずダクネスが背後から羽交い絞めにして引き止める。

 

「お前にも礼を言わせてくれ、私達が死んでる間ヨシヒコの手助けをしてくれてありがとう」

「べ、別に礼なんていらないよ、困ってる友達を助けるのは当たり前じゃん」

「それにしても私達を生き返らせるのに相当お金がかかったと聞いたが、一体二人だけでどうやって稼ぐことが出来たんだ?」

「ああ、あたしとヨシヒコの二人でやった訳じゃないよ、ヨシヒコが仲間にしたモンスター達も協力してくれたし」

「モンスター達が?」

 

どうやら自分達を生き返らせる為に仲間になった魔物達も一役買ってくれたらしい。

 

それを知ってダクネスはヨシヒコの方へ振り向くと

 

「して、そのモンスター達は一体何処に?」

「ミイラと死体は今馬車で休んでいる、道中で新しく仲間にしたロボはどういう訳か止まる事が出来なくなってしまったので、今は放置して単独で魔物を狩り尽くしてもらっている。冬将軍は、やっぱり暖かい気候は苦手らしく、今は雪山に戻って英気を養っている」

「待て、待て待て、ちょっと待て」

 

あまりの情報量にダクネスが一旦頭を押さえて整理し始める。

 

「なんだ止まらないロボって? それとまさかとは思うが……冬将軍というのはあの冬将軍の事か?」

「ダクネスの考えている冬将軍であってるよ、どういう訳か奇跡的に倒す事に成功したら、なんかヨシヒコの仲間になっちゃったんだ」

「ほ、本当かそれ!? あの冬将軍を倒しただと!? しかも仲間にした!?」

 

クリスから冬将軍を倒して更に仲間に加えたという話にダクネスが驚きを隠せないでいると

 

彼女の叫び声に「どうしたどうした~?」とメレブも歩み寄って来る。

 

「皆の衆、何かあったのか?」

「ああ、ヨシヒコが数億もの懸賞金がかかっていた冬将軍を倒し、更に仲間に加えたらしいんだ」

「おぉー、いいんじゃないヨシヒコ? 仏が言ってた通り強い魔物仲間にしたんだ、やったじゃん」

「うーんそうなんだがな……」

 

実はかつての仲間であるカズマを一度は殺した相手である冬将軍。

 

そんな者が仲間に加わるという事にダクネスとしてちょっと複雑な思いである。

 

「まあ強さとしては申し分ないが、信用できる奴なのか冬将軍は?」

「大丈夫だよダクネス、あたしが見た限り冬将軍はヨシヒコに凄く忠誠を誓ってるみたいだし」

「冬将軍に忠誠を誓わせるって……なんなんだお前、モンスターや精霊に懐かれやすいのか?」

「自分ではわからないが……旅が一旦終わる頃になるといつの間にか馬車が魔物だらけになっている」

「それは心配だな……魔物の方が、夏場なんか特に……」

「夏場はスライムが溶けていた」

「おぉ……思った以上にショッキングだなそれ……そしてそれを普通に言うお前もちょっと怖いぞ」

 

魔王を倒す旅に赴く際に今までヨシヒコは何度も魔物を仲間にして来たが

 

その度に馬車の中は魔物で溢れかえり、ぎゅうぎゅうに押し詰めにされているという地獄絵図になった事がある。

 

そんな光景が脳裏に映ったダクネスは、魔物に対して不憫に思いかつ、ヨシヒコの持つ魔物をスカウトする特性の凄さを知った。

 

「とにかくモンスターの事は置いといて、今はひとまず無事に生き返れた事を喜ぼう」

「そうだね、それじゃあまだ明るいけど、ギルドの酒場で一杯やっちゃう?」

「いや生き返ったばかりだしこちらとしては普通に休みたいんだが……」

「それに俺達金あんま持ってないしなー、ってあれ?」

 

とりあえず今は晴れて蘇った事に安堵しようとするダクネスに、クリスが嬉しそうに飲みに誘おうとする。

 

しかしそんな中でメレブはふとさっきからずっとその場にしゃがみ込んで、その辺で拾った木の枝で土いじりをして落ち込んでいるアクアに気付いた。

 

「なにお前、まだ死んだ事に落ち込んでんの?」

「女神なのに……水の女神であるアクア様なのに……あんなヒョロヒョロの眼鏡男にあっさり……」

「あららー心中察します水の女神(爆笑)! プークスクス!」

「(爆笑)付けないで! 私の笑い方取らないで! ホントに女神なの! 私は本物の女神様なの!」

 

落ち込むアクアに嘲笑を浮かべて笑い飛ばすメレブ

 

すかさずアクアは土いじりを止めて立ち上がって必死に訴えようとすると

 

そんな彼女にクリスが優しく肩に手を置いて

 

「今回はたまたま運が悪かっただけだって、いつまでも落ち込んでないでさ、アクアさんの目的は魔王を倒す事なんだから」

「ふむ、悪くない励まし方ね、もっと頂戴」

「えぇなんで上から目線……ほ、ほら、よく知らないけどアクアさんは女神なんでしょ、だったらこんな所でメソメソしてたら同じ女神のエリス様に上から笑われるよ?」

「あ~アイツにだけは笑われたくないわね、多くの神々を笑いの渦に巻き込んだ爆笑の女神にだけは絶対に」

「ば! 爆笑の女神じゃなくて幸運の女神だよ!」

 

励まされる中でクリスの口からこぼれたエリスという名に敏感に反応したアクアは

 

いつもの調子に戻って早速エリスに対して酷いことを呟く。

 

「なによアンタ、もしかしてダクネスと同じエリス教徒? 言っておくけどエリスの事実を知ったらアンタも笑うわよきっと、だってあの後輩ったら神々が集まる祝いの席で、紐で胸を強調したロリ巨乳の女神に対抗して胸の中にすんごい数の……」

「わーわーわー!! と、とりあえずアクアさん休もうよ! 話とか一旦忘れて今は休むことに専念しよう! 酒でも飲んで全部忘れよう! 過去の事を綺麗さっぱり! ね!」

「ちょ! アンタ手に力入れ過ぎ! 肩に指食い込んじゃってるから!」

 

アクアが微笑を浮かべながらエリスの話をしようとする途中で、急に目を血走らせてクリスが必死の形相で彼女の肩においていた手に力を加え始めて無理矢理話題を逸らした。

 

彼女のいきなりの行動にアクアは肩に食い込む彼女の指に痛がりながら、その手を払いのけて一歩下がると

 

「ったくホント痛いんだけどアンタ……」と呟きつつ自分の肩を手で押さえる。

 

「でも飲んで嫌な事を忘れるというのは大いに賛成だわ、丁度アクセルの街で復活できたんだし酒場に行きましょう」

「よ、良かった……」

「なんか言った?」

「い、いえ何も言ってません! 早く行きましょう先……アクアさん!」

「……なんで敬語?」

 

急にホッとしたり自分に敬語を使い始めたり色々と怪しい動きを見せるクリスに、アクアが怪訝な表情を浮かべていると

 

「あれ? おかしいなー」

「どうしましたメレブさん」

 

そんな彼女をよそにメレブはふと空を見上げながらしかめっ面を浮かべている。

 

不思議そうに首を傾げている彼にヨシヒコが歩み寄ると、メレブは「いやね」と振り返り

 

「こういうみんなでワイワイ喋っている中で、空気も読まずにいつも仏が空から現れる筈なのに……今日は出てこないから変だなーって」

「言われてみれば……いつもなら仏が現れありがたいお告げを下さる筈なのに」

「あの出たがりがこのタイミングで出てこないっておかしいよなー、もしかして向こうでなんかあったのかアイツ?」

 

こういう時にいつも毎回現れる仏が、何故か出てこない事にメレブが疑問に感じるも

 

「まあ出てこないならそれでいいか、来てもどうせウザイだけだし」

「アンタ達ー! 早く酒場に行くわよー! 今日は落ち込んでる私の為にクリスが奢ってくれるってー!」

「え、マジで!? ゴチになりまーす!」

「ちょ! あたしそんなの聞いてないんだけどアクアさん!?」

 

さほど気にする事でも無いかとあっさりとした感じで呟くと、メレブはヨシヒコ達と共に

 

すっかり立ち直って元気になっているアクアと、困惑の色を浮かべているクリスと共にギルドの酒場へと赴くのであった。

 

 

 

 

 

 

そしてそんな一行を木の影から見つめる者が一人

 

「兄様、強い魔物をお供にし、また一歩魔王に対する戦力を強化したのですね」

 

禍々しく巨大な邪剣を背負いし狂戦士・ヒサが木の影から現れヨシヒコを見守る。

 

「ヒサも兄様に負けぬ様、一人でも多くの仲間を集めようと思います」

「ヒ、ヒサさ~ん!」

 

ヨシヒコに負けないぐらい妙なトラブルに巻き込まれやすいヒサ

 

そんな彼女がガッツポーズを取っていると、彼女の下へ豊かな胸を揺らしながら

 

上級魔法を操りし紅魔族の族長の娘・ゆんゆんが嬉しそうに駆け寄って来た。

 

「ほらほら早く行きましょう~、わ、私、村の外で出来たお友達を自分の村に招待するの夢だったんです~」

「そこにはお強い者達がおるのでございますか?」

「は、はい! 紅魔族の村は基本的にみんな上級魔法を嗜むので、強い人ばかりでしゅ!」

 

あまり人と話す事に慣れていない様子でたまに噛みながらヒサと話すゆんゆん。

 

するとそんな二人の下へ

 

「おーい! 二人共~!」

 

大きく手を振りながら野太い声でヒサとゆんゆんを呼ぶのは首なし騎士のベルディア

 

完全に彼女達と仲間になっている彼は、街中だというのに堂々と駆け寄りながら

 

一人の男を連れて来た。

 

「ヒサさん! ヒサさんが求める強い奴を見つけましたよ!」

「なんと! まことでありますか!」

「はい! まことであります!」

 

どうやら新たな仲間候補を連れて来たらしく、驚くヒサにベルディアが嬉しそうに報告していると

 

彼の背後からヒョロッとした体形の眼鏡を掛けた男が

 

ヨシヒコ達を随分前に殺してしまった張本人、スズキである。

 

「いやいやいや! 僕強くないですよホントに! ベルディアさんに無理矢理引っ張って来られたんですけど! 僕はただ勇者さん達に謝りに来てただけですって!」

「謙遜すんなよおい~! 俺ちゃんと見てたんだからな~!」

「いたッ!」

 

手を横に激しく振りながらヒサとゆんゆんに否定するスズキだが

 

そんな彼の背中をベルディアが笑いながらやや強めに叩く。

 

「ヒサさん、ゆんゆん。実はコイツ、この街に来る途中で現れたモンスターをなんと呪文一撃で殺し尽くしたんだぞ!」

「凄い! 呪文一つで魔物を!」

「はわわ……もしかして私より凄い魔法使い? それだと私の立場が……」

「そんな褒められる事じゃありませんよ。たまたまですってたまたま、基本的に死なない確率の方が高いんですよこの呪文」

 

ここに来るまで一つの呪文だけで多くの魔物を倒して来たと聞いてヒサが素直に感心し、ゆんゆんは仲間外れにされるのではという恐怖に駆られている中、スズキは照れ臭そうに後頭部を掻きながら苦笑する。

 

「まあでも~ぶっちゃけ住処もさっき処分しちゃいましたし今はやる事無いんで、こんな僕でいいなら協力してもいいですよ」

「ありがとうございます、共に魔王を倒す兄様のお手伝いをしましょう」

「え~魔王を倒すお手伝いですか~? あ~そんな大仕事出来るかな僕に、ベルディアさんどう思います?」

「ハハハハハ! イケるイケる!! 魔王なんざ楽勝だろ!」

「楽天家だなこの人~、首取れてるのに」

「いやいやそれ元からだから」

 

仲間に加わっても良いと言うが、ヒサから魔王を倒すお手伝いをすると聞いて早速不安になるスズキだが

 

ベルディアに豪快に笑い飛ばされ、そんな彼を頼もしく思いながらフッと笑うスズキ。

 

「それじゃあまあ~……やるだけやってみますかね、僕も」

「よし! よく言ったスズキさん! コレからお前も俺達の仲間だスズキさん!」

「あ、スズキでいいですよ僕」

「む? それなら俺もベルディアさんではなくもっと親しく呼ばれたいな」

「そうですか? じゃあ~……ベル君とか良くないですか? 今ピーンと来たんですよ」

「おお! なんかいい感じのあだ名だな! ベル君かぁ~主人公っぽい名前で良い!」

 

どうやらこの二人非常に気が合うらしく、会ったばかりですっかり意気投合してしまうスズキとベルディア

 

そんな彼等をよそにヒサは戦力が増えたことを喜ばしく思いつつ、更なる強気仲間を探しに、ゆんゆんの故郷である紅魔族の村へと赴く事を決める。。

 

「待っててください兄様……! 兄様の隣に立つという夢を叶える為、ヒサもまた強うなろうと思います……!」

「はぁ~いいなあんな風にみんなと仲良くなりたい……」

 

ゆんゆんがベルディアとスズキを眺めながら羨ましそうに呟く中

 

ヒサもまた新たなる旅を始めるのであった。

 

次回へ続く。

 

 

 

 


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