勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

17 / 50
其ノ伍 ゴブゴブ♂パンツレスリング
伍ノ一


ザッザッザッと足音を鳴らしながらいつもの様に魔王の手掛かりを求めフィールドを彷徨うヨシヒコ一行

 

しかしそこへ毎度の如く魔物が立ちはだかる

 

『ピンクモーモンがあらわれた』

 

「え、やだ、超かわいいモンスター出て来たんですけどー!」

「こ、これは……ううむ確かになんて愛嬌のあるモンスターだ……」

 

悪魔の様な小さな羽根をパタパタと動かしながら宙に浮かび(糸で吊るされている)

 

尻尾と体を左右に揺らしながら大きな耳をヒクヒク動かすつぶらな瞳をした魔物が一匹で現れると

 

そのあまりにも可愛らしい見た目にアクアは早速目を輝かせ、ダクネスもちょっと惹かれた様子で頬を紅く染める。

 

「あんなにも愛らしい見た目をしているのだからきっと無害なモンスターなんじゃないか?」

「いやいや、ウチの魔物を甘く見ちゃいけませんってダクネスさん」

 

ちょっと近づいて撫でてみたいという衝動に駆られてしまうダクネスに、横からメレブがすかさず口を挟む。

 

「あんな見た目でもね、れっきとした魔物だから。俺達の事を倒しに来た魔物だから」

「油断するなダクネス、かつて共に旅をしていたダンジョーさんもそうやって可愛い敵に油断して何度も痛い目を見ているんだ」

「私をあんな男と一緒にするな、いやしかしでも……やはり私としてはどストライクな可愛さだし……」

 

親切に相手の魔物に警戒を怠るなと忠告してくるメレブに続いて、彼の隣にいたヨシヒコも過去の体験を彼女に話してやるも

 

ダクネスはモジモジしながらどうしても触りたい様子。

 

すると何も考えてないアクアがヘラヘラしながら

 

「あんなに可愛いモンスターが私達に悪さする訳ないじゃないの、ちょっと頭撫でてやるぐらいいでしょ。触って来なさいよダクネス」

「い、いいのかアクア!?」

「私はスライムちゃん派だから今回はアンタに譲ってあげるわ」

「よ、よし!」

 

ヒラヒラと手を振ってダクネスに触って来いと促すアクア。

 

すると意を決したかのようにダクネスは恐る恐る魔物の方へと歩み寄る。

 

「おお! こうしてよく見ると手触りの良さそうな毛並みじゃないか! これはきっとかなり抱きこごちが良さそうだと見たぞ!」

「おいダメだって近づくなダクネス! 可愛い見た目に騙されるな! 偉大なる先生の画力に惑わされるな!」

「フフフ、メレブは心配症だな。こんなニヒルなスマイルを浮かべた愛くるしいモンスターが私達に危害を加える訳……」

 

背後から必死に呼び止めようとするメレブに半笑いを浮かべつつ、ダクネスは怖がらせない様に優しく魔物に手を差し伸べた

 

しかし

 

その見た目キュートな魔物は突如シャアァァァァァ!!と大きな口を開けて鋭い牙を光らせると

 

「ん? ギャァァァァ!!!」

「ほーら言わんこっちゃない!」

 

つぶらな瞳から一転してギラギラと赤く輝かせ、完全に油断していたダクネスに思いきり襲い掛かったのだ。

 

彼女の差し伸べた手を無視して、魔物はダクネスの喉元に激しく牙を突き立てる光景を見て、メレブが慌てて声を掛ける

 

「立ち位置を意識してダンジョーみたいな事しなくていいから!」

「そんな事私が知るか! ま、まさかこんな凶暴なモンスターだったとはぁ!!」

「大丈夫かダクネス!」

 

引き離そうとしながら懸命にもがくダクネスにすかさず駆け寄るヨシヒコ

 

するとダクネスは力を振り絞ってバッと魔物を両手で引き離すのに成功すると

 

「ヨシヒコ頼む!」

「なに!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ヨシヒコぉ!」

 

ポイッと引き離した魔物をヨシヒコにパスをすると、今度は彼の首を激しく噛み始める魔物。

 

先程のダクネス同様ヨシヒコが懸命に引き離そうとしていると

 

急いで回復呪文を唱える為にアクアが彼の方へ駆け寄る、しかし……

 

「女神! お願いします!」

「へ!? いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ヨシヒコからのキラーパスを食らって今度はアクアが魔物にガブガブと噛まれまくる羽目に。

 

自分の首に獰猛な牙を突き立てる魔物にアクアが痛みに耐えながら泣き叫んでいると

 

「あ、今日って燃えるゴミの日だっけ? ごめん出すの忘れちゃったから一旦家に帰んない?」

 

アクアが襲われているのを完全無視してメレブは彼女に話しかけつつそっと距離を取った。

 

「ってなんでアンタだけ近づいて来ないのよ! せい!」

「うわこっち投げんなバカ! 痛い痛い痛いマジ痛いって! すんげぇ痛いからこれ!」

 

怒りに身を任せてメレブに向かって魔物をぶん投げるアクア

 

魔物はまたしても標的を変えて、メレブの首に思いきり噛みつく。

 

「もう無理! ダクネスパス!」

「おいなんでまた私に! あだだだだだ! ヨシヒコパス!」

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉ!! 女神パス!」

「ちょっと私はもういいって! あぁぁぁぁぁぁぁ!! メレブパス!!」

 

それからしばらく

 

魔物が疲れ果てた所をヨシヒコに倒されるまで

 

延々と4人で魔物を回し続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

「あーダクネスのせいで酷い目に遭ったわホントに……」

「待てアクア! お前が撫でて来いって私をけしかけたんだぞ!」

 

ようやく魔物を退治して解放されると

 

全員を回復させて窮地を脱すると、アクアが早速ダクネスに責任転嫁

 

「お前だってわからなかっただろ! まさかあんな可愛らしい見た目であんな恐ろしい牙を剥きだして噛みついて来るなんて誰が思うか!」

「全くお前達はまだ俺達の魔物を侮ってるみたいだなー」

 

ジト目を向けてくるアクアにダクネスがムキになって反論している所を

 

首を押さえながら二人に向かってメレブがため息を突く。

 

「ウチの世界の魔物はマジヤバいからな、ぶっちゃけお前等の世界よりヤバいから絶対」

「おっとそれは聞き捨てならないわね、私達の世界のモンスターだって凄いのよ、現にアンタってばウチのジャイアントトードを相手になんにも出来なかったじゃない」

「出来てましたー、スイーツ掛けましたー」

「ただ甘いモン食べたくさせただけじゃないの全く……」

 

どちらの魔物が強いかについて論争を始めようとするアクアとメレブ

 

子供じみた言い分をするメレブにアクアが呆れてそっぽを向いていると

 

 

 

 

突如、パァーッと空から光が降り注ぎ、見上げると雲の上からいつものシルエットが

 

「あ、仏だわ。めんどくさ」

「久しぶりの登場だな」

「ヨシヒコ、いつもの」

「ありがとうございます」

 

すぐにそのシルエットの正体が仏だと気付き

 

メレブから受け取ったライダー〇ンヘルメットをヨシヒコが被ると同時に4人で空を見上げる。

 

するとシルエットが徐々に鮮明に見える様になり

 

 

 

 

「やぁ、久しぶりだねみんな……」

「えぇ!? どうしたのアンタ!?」

「なにその目のアザ! は!? どうしたお前!」

 

どことなく覇気がない顔で、左眼の周りに青いアザがくっきりと浮かべながら仏がこちらに向かって力なく笑いかけてきた。

 

いつもと違って随分と暗いテンションとそのアザに、早速アクアとメレブが食い付くと、仏は「いや~」と苦笑しながら後頭部を掻き

 

「マジムカつくわホント、マジ次会ったらボコボコにしてやるよあのクソゼウス」

「ゼウス? あれひょっとして……ゼウス君と何かあったのお前?」

「なにアンタ? もしかして喧嘩して殴られたの?」

「実はそうなんすよ~、ちょっと聞いて下さいよ皆さ~ん、酷いんすよアイツ」

 

ブツブツと小言で文句を垂れつつ、それを聞いて何かを察したメレブとアクアに仏は軽く頷いて見せた。

 

「ほら、前に私がミスって別の世界にうっかり降臨しちゃった話ししたじゃない?」

「あ、色んな神様が徒党を組んでなんかやってる世界だっけ?」

「そこで私、ヤベェと思って偶然視界に入った男の子に「それでは勇者よ! 魔王を倒すのだ!」とか言っちゃった事も話したよね?」

「あーはいはい、白髪紅眼の小さな男の子にだっけ?」

 

ちょっと前に仏がヘラヘラしながら語っていた失敗談をメレブが首を傾げながら思い出していると

 

殴られた左眼を押さえながら仏ははぁ~と深いため息を突き

 

「その子ね、ゼウス君の孫だったんですよ、はい……」

「すげぇミラクルじゃんそれ! あ! だからお前ゼウス君に呼びつけられたんだ!」

「はは~ん読めたわよ、かわいい孫にアンタが口から出まかせ言ったもんだから、それであのエロジジィがキレてアンタをぶん殴った訳ね」

 

まさかのデタラメにお告げした相手の少年がゼウスの孫だったらしく

 

それを聞いて話の経緯を理解した様子のメレブとアクアに向かって、仏は不満げな表情を浮かべ

 

「ひっでぇ話だよねホント、私殴られるような事した?」

「いやしたでしょ! 勝手に適当なお告げしてトンズラして! おまけにそのお告げした相手が自分の孫だったらそりゃあのジジィも怒って当然よ!」

「でもさー口で注意するだけで良くね? あのジジィ出会い頭にいきなりこっち殴りかかって来たんだぜ? なんにも言わずにいきなりゴッドパンチとかマジねーよアイツ、思わず仏つねりでアイツの手の甲を全力でつねっちゃったよ」

「しょーもない仕返しね……」

 

殴られた事に腹を立てた様子でアクアに愚痴を言いつつ、仏は「まあでもね」と頬を掻きながら

 

「あのジジィはともかく孫の方には悪い事したという自覚はあるのよマジで、だからちょっと今から向こうの世界に行って、直接謝罪に出向こうと思います、どう?」

「どう?ってなんで俺達に聞くの? そうするのが当然に決まってんだろ」

 

何故かこちらに尋ねて来る仏にメレブがすかさずツッコミを返していると

 

仏の話をずっと黙って聞いていたヨシヒコがおもむろに一歩前に出て

 

「あの、それなら私も一緒に謝りに行きましょうか?」

「おいおいおい何故に君が謝りに行くんだいヨシヒコよ? お前はまだこっちの世界でやる事あるでしょ」

「うん、その気持ちだけは受け取っておくから。ヨシヒコはこっち来なくていいから、なんか余計ややこしくなりそうだし」

 

何故か別の世界へ行く意欲満々のヨシヒコだが、メレブと仏がすぐに諫めて関わらなくていいからと釘を刺す。

 

「大丈夫だから私、だってもうその少年に絶対に許されるという確固たる自信があるのよ実は」

「お、なんか強気だな仏。謝罪する時になにか秘策でもあるのか?」

「フフフ、あるぜとっておきのが……」

 

得意げにそう言うと仏はガサゴソと下の方から何かを取り出す。

 

「いい? 謝るのも大事だけど、完全に許してもらう為には謝罪の折りに渡す粗品が要なのよ? という事で仏が渡す粗品はこちら、じゃじゃん!」

 

仏が勿体ぶった様子で時間をかけると、サッと両手である物を持ってこちらに見せつけて来た。

 

「デビルマン!」

「いや漫画かよ! しかもおま! 神々がいる世界に悪魔が主人公の漫画持って行くってどんなチョイスだよ!」

「そう? やっぱハレンチ学園の方が良かった?」

「な、なんで永井先生の作品限定……? アレだぞ、バイオレンスジャックは絶対止めろよ?」

 

ドヤ顔で悪魔の主人公が描かれた漫画を取り出す仏にメレブが呆れていると、ダクネスが怪訝な様子で口を挟む。

 

「その書物がどれ程の名作なのかは知らないが、本気で謝りに行くのならキチンと謝罪という礼式作法に乗っ取った粗品を渡す事が大事だと思うんだが?」

「いやいや、心配ないからダクネスちゃん。大抵の男の子ってのは漫画好きだから、この仏の私物コレクションを渡せば絶対に許してくれるから」

「私物なのかそれ!? じゃあますますダメだろ!」

 

生真面目に正論を述べるダクネスだが仏はすっかり勝利を確信した様子で聞く耳持たず。

 

そんな余裕たっぷりな態度を見せつけて来る仏に、ダクネスは何やら嫌な予感を覚えるも、これ以上は言わないでおく事にした

 

「まあ私達には関係ないからほおっておくか……ところで仏よ、そろそろお告げを言ってくれないか?」

「え……お告げって?」

「忘れるな! 魔王討伐の為に私達を導く言葉を授けるのが仏の仕事なんだろ!」

「あ~ここん所色んな目に遭ってたから忘れてた、めんごめんご」

「アクアとメレブがしょっちゅう喧嘩腰になるのがわかる気がするな……」

 

物凄く適当な感じで平謝りしてくる仏を見上げながらダクネスがちょっとイラッと来ていると

 

仏は「う~ん」と何を言おうか迷った様に腕を組んで黙り込んだ後

 

「あ、じゃあさじゃあさ、今回はヨシヒコとメレブにだけお告げするわ。後の二人は今回は無し、今日は家で休んでて下さい」

「いやいやどういう事だそれは、どうして私とアクアだけお告げ無しなんだ」

「えーとですねー、うん、まあほら、たまにはね? たまには良いじゃない? いつもさ、ヨシヒコに振り回されて大変じゃん、だからたまにはゆっくり休みなさいという、仏の粋な心遣いです、はい」

「な~んか怪しいわね~、どうせロクでもない事ばかり考えてるアンタの事だから、私達の目を盗んで変な事企んでるような気がするんですけど~」

 

なんか怪しいとすぐにジーッと疑いの視線を仏に向けるアクアだが

 

しばらくして不意にダクネスを連れて街の方へと歩き出す。

 

「まあいいわ、行きましょダクネス、男はほっといて女だけで休日を満喫しましょう」

「うーん私はどうしても腑に落ちないんだが……一体仏は何を考えているんだ?」

「私も正直おかしいとは思うけど、疲れてるのは確かだからお言葉に甘えて休ませてもらうわ」

 

そう言ってアクアは仲間無理矢理にダクネスを引っ張りながらアクセルへと戻って行った。

 

残されたヨシヒコとメレブはそんな彼女達をしばし見送っていた後

 

「さてと」と仏が不意にこちらに向かって話しかけてフフっと笑う。

 

「はい、これで邪魔者はいなくなりましたと、それじゃあお前達、私のお告げをちゃんと聞いておくがいい」

「なーんでアイツ等は休みで俺達にだけお告げ?」

「黙って聞いた方がお得だよ~、まず最初に言っておくけど、このお告げを聞いた瞬間お前達は間違いなくハッピーになれる」

「いやそのハッピーという古臭い表現の時点で不安しかないんだけど……」

 

変な言い方をしながらますます怪しく見える仏にメレブが片目を釣り上げて不安になっていると

 

仏はそっと声を潜めて自分達にだけ話すような感じでこっそりと話を始めた。

 

「二人はさ、”サキュバス”って魔物知ってる?」

「知りません」

「フフ、ヨシヒコ即答過ぎ、俺が教えよう、サキュバスってのはだな、見た目はすげぇ魅力的な人間の女性で、男が寝てる隙に夢の中で精力を奪って殺すとかいう悪魔だ、要するに超エロい魔物」

「超エロい! そんな魔物がいるんですか!?」

「まあウチの世界にはいないけどね、似た様なのはいるけど、11だと仲間の一人がそんな感じに、おっとこれはネタバレ」

 

思い出しながら仏の言ったサキュバスという魔物について簡単に答えつつ、メレブはヨシヒコと話してる途中で慌てて手を口で押さえていると

 

 

仏はニヤニヤしながらゆっくりと口を開く。

 

「実はこっちの世界にもサキュバスはいるんだけどさ、どうも私達の知ってる普通のサキュバスとは違うみたいなのよ」

「ほほう、こっちの世界にはいるのかサキュバス。で? 何が違うというのかな?」

「あのね、夢の中で精力を奪うってのは同じなんだけど、殺すまではしないんだって、せいぜい起きた時に妙にダルく感じる程度、全く死ぬ危険性は無い」

「ああ、殺しはしないのね、ちょっとしたイタズラ感覚なんだこっちのサキュバス」

「しかも、寝ている男の夢を自由自在に作れる、どんな夢でも見せてくれる、どんな夢でも! そう物凄くとんでもない夢でも!」

「ちょいちょい、なに急に興奮しだしてんのおたく?」

 

鼻息荒げに説明を始める仏にメレブが不審な様子で眺めていると

 

「そんでここからが本題です、もしも、もしももしももしももしももしも!!」

「もしも多いなぁ……さっさと言えって」

 

 

 

 

 

 

「そんな人間に優しくてすんばらしい夢を見せてくれるサキュバスが、男の願望を叶えるサービスを提供してくれる店があると聞いたら、どうする?」

「……詳しく話を聞こうじゃないか、仏よ、いや仏様」

 

溜めるに溜めた仏の本題を聞いてすぐにキリッとした表情でマジになるメレブ。

 

いつになく真剣な表情でこちらを見上げて来る彼にヌフフといやらしく笑みを浮かべながら

 

仏は早速話を続けた。

 

「あのですねー、君達が今拠点にしているアクセルの街にはですねー、男性の冒険者をターゲットにサキュバス達が精力確保の為にこっそりとお店を開いているらしいんすよー」

「ほほう、それはそれはなんと仕事熱心なお人達だ、是非ともその仕事に協力してあげたいですなー」

 

男性からの精力を搾取する為にサキュバス達が冒険者の集う街中でそんな店を隠れて開いていた事を知って

 

みるみるテンションが上がると同時にメレブの顔もほころんでいく。

 

「でもさ、俺達そんな話聞いた事ないぜ?」

「そりゃおいそれと口外しちゃマズいからに決まってんでしょう、サキュバスの店の事を女冒険者が知ったらどうする? 間違いなく討伐されるっしょ?」

「確かに! じゃあ一部の男達がしっかりとその秘密を守ってるから! 今まで部外者の俺達は知るすべも無かったんだ!」

「そうそう、私もここ最近の間で知ったのよ、ちょっと下界の光景を眺めていたらね、小耳に挟んだんですよ、まあ私の耳は小耳じゃなくて大耳だけど、フフ」

「いやそんな下らないボケは挟まなくていいから、サキュバスの、サキュバスの店を詳しく教えて!」

 

自分の大きな耳を指で触りながらクスリと笑う仏に、やや興奮した面持ちでメレブが叫ぶ。

 

「その店が一体何処にあるのか! 迷える俺達に早く道を指し示してくれ仏よ!」

「お、お前必死だなぁ! メレブさんそんなにムラムラしてたんですか!? えーとね、お前達の住む館から歩いて数分ぐらいの所に昼でもすげぇ薄暗い裏路地があるっしょ? そこを隈なく探してみて、表向きはただの喫茶店みたいな感じでやってて目立たないけど、そこがサキュバスさん達のお店だから」

「うわすげぇ詳しく教えてくれた……あぁそんな場所あったなぁ確か」

 

彼が必死過ぎて軽く引きながらも丁寧に場所を教えてあげる仏。

 

そしてその場所に何処か覚えがある様子でメレブは縦に頷く。

 

「で? 具体的にどんなサービスを受けられんの?」

「そりゃお前、店に行ってからのお楽しみでしょうよ」

「うわやっべぇ、俺この世界に来て初めてワクワクして来た、オラワクワクして来たぞ」

 

店の中で一体どんな体験があるのか今から楽しみで一杯な様子のメレブは

 

口元を緩ませながら隣に立っているヨシヒコの方へ

 

「おいヨシヒコよ、これはまたとない機会だぞ。今すぐサキュバスの店へトゥギャザーしようぜ」

「いえ」

 

スケベなヨシヒコの事だからすぐにでもその店に行きたがろうとするであろうと予想していたメレブだったが

 

なんと彼は真顔のまま全く興味を持っていない表情で

 

「私はその様な店に行くつもりはありません」

「ええヨシヒコ!? なに言ってんだお前! 年中ムッツリスケベェなお前ならすぐに食いつくと思ったのに!」

「メレブさん、私は勇者です、そんな男の欲望を弄ぶような、ましてや魔物が営む店に等行くわけがありません」

「……とか言っておいて本当は行きたいんだろお前」

「そんな事は絶対にありません、私達はそんな所で現を抜かす前に、この世界にいる邪悪なる魔王である竜王を倒す使命があるんです、その使命を忘れて破廉恥な場所に赴くなんてしたら、勇者として失格です」

 

 

ライダーマ〇ヘルメットを被ってるおかげでシュールではあるが、サキュバスの店があると聞いても全く動じずに出向くつもりは毛頭ないとハッキリと宣言すると

 

ヨシヒコは被っていたヘルメットを取ってメレブに返す。

 

「女に現を抜かすなど言語道断、私はこれから魔王を倒す為に街を散歩しながら作戦を練ろうと思います。メレブさんもそんな下らない店など忘れて、女神やダクネス同様ゆっくり休んでいてください」

「そっか……流石は勇者だなヨシヒコよ、どうやら俺はエロいサービスしてくれる店があると聞いてすっかり舞い上がっていたみたいだ、申し訳ない」

「いえ、わかってくれればそれでいいんです」

 

受け取ったヘルメット袖の中に戻しながらフッと笑い返してきたメレブにヨシヒコは静かに頷くと

 

踵を返して拠点であるアクセルへと歩き出すのであった。

 

「では私はこれで失礼します、一刻も早く魔王を倒す為の策を閃く為に」

「うむ、ここからなら俺一人で帰れるから安心しろ、また後で会おう」

「はい、それでは」

 

それだけ言い残すとヨシヒコは街の方へと振り返って再び進みだした

 

 

「いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉし!!!」

 

 

両手両足を全力で動かしながら猛ダッシュで

 

「うわぁ……」

「ヨシヒコの奴、全開で走ってるねー」

 

 

砂埃を散らしながら本気の走りでアクセルへと向かうヨシヒコを見送りながら

 

残されたメレブと空に浮かぶ仏は勘付いた様子でそっと顔を合わせるのであった。

 

 

 

 

 

 

「あれ絶対店に行くわ」

「ヨシヒコだもんねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。