アクセルの街では男性の冒険者をターゲットに、彼等にお好きな夢(エッチなの)を提供してその代わりに精力を頂く事を生業とするサキュバス達が人知れずお店を経営しているらしい。
ここは滅多に人が寄り付かない薄暗い裏路地
そこへフラリと入るとすぐに目当ての店を見つけて中へと入る。
「いらっしゃいませ~何名様ですか」
「一名様で」
今までに見た事が無い露出度半端ない衣装かつ魅惑的な体つきをした女性が現れ愛想良さそうに尋ねて来ると
ほぼ裸に近い女性を目の当たりにして頭の中がオーバーヒートを起こしかねない程興奮しているのを隠しつつ、平静を装いながら素直に返事をした。
「当店でのサービスは初めてですか?」
「はい」
「では、ここがどういった店なのか、私達が何者なのかはご存知ですか?」
「はい」
既に大体の話は聞いているので素早く返事すると、女性ことサキュバスの店員さんはそれに満足したかのように空いているテーブルへと案内する。
「それではご注文をお好きにどうぞ、ああ勿論ご注文なさらなくても結構です、こちらのアンケート用紙に必要事項を記入して会計時に渡してくれれば構いませんので」
席へと着くと早速店内を歩いている他のサキュバス達の恰好を思いきりガン見していると
最初に案内してくれたサキュバスが一枚の用紙をスッとテーブルの上に置いた。
どうやらこのアンケートに沿った質問に答えれば自分が最も見たい夢を見せてくれるらしい。
「あのすみません、夢の中での自分の状態や性別や外見というのは……」
「はい、状態というのは夢の中では王様や勇者になってみたいという、等ですね。性別というのは自分が女性側になりたいというお客様もおりますので、それと自分が年端も行かない少年になって年上のお姉さん冒険者に押し倒されたいという要望もよくあります」
「なるほど……」
女性になりたいだの少年になりたい等という願望も無いし、元々勇者である自分にはあまり関係ないが
どうやら思った以上に多数の利用者の為に細かな設定を練って、希望する夢を見せてくれるらしい。
サキュバスの丁寧な話を聞いてますます期待で胸と鼻の穴が膨らむと、アンケートに目を通しながら更にもう一つ質問
「相手の設定というのは……どこまで細かく指定できるんですか?」
「どこまでも、です、お客様が好みの容姿や性格、口調までもが思いのまま、実在する人物であろうと存在しない人物であろうと、お客様が望む相手であればどんな年でも大丈夫です」
「マジですか!?」
「マジです」
アンケートを掴んでいる手にうっかり力を込めながら驚くも彼女は即答。
「肖像権やその他諸々関係ありません、だって夢ですから」
「そうですね! 夢なら何も問題ないですね!」
肖像権とかはよく知らないが
とにかくただ夢を楽しむだけなら何をしても大丈夫だという事だ
相手の容姿、年齢、性格や好感度も思いのままと聞いて改めてこのサキュバスの店の素晴らしさを実感した。
「それではお客様、アンケートを書き終えたらまたお呼び下さいませ」
「はい喜んで!!」
興奮し過ぎて変なテンションになりながら力強く返事すると、サキュバスの店員は席から離れて行った。
彼女の官能的な後ろ姿をじっくり拝み終えると、早速アンケートを書こうと一緒に置かれていた羽ペンを手にして取り掛かろうとする。
だがそこで
「やはり来ていたか、勇者ヨシヒコよ」
「!!」
何を書こうか顔をほころばせながら嬉しそうに悩んでいる所へ
隣りの席に座っていた男に不意に聞き慣れた声で名前で呼ばれ
ヨシヒコはすぐにバッとそちらに振り返った。
「メ、メレブさん!」
「フフ、待っていたぞヨシヒコよ、お前なら絶対この店に来ると予想していた」
隣りの席に座っていたのはまさかのメレブであった。
てっきり知り合いはいないと思っていたヨシヒコはすぐに慌てた表情を浮かべる
「違うんですメレブさん、これはあくまで勇者として調査に来ているんです、ここにいる者は一見女性ですが実態は魔物です、彼女達が本当に人間に危害を加えていないのか、まずは身を持って体験してじっくり調べようと……」
「あーもうそういうのいらないからヨシヒコちゃん、わかってる、同じ男としてもうわかってるから」
すぐに早口で長い言い訳を呟き始めるヨシヒコだが、メレブは得意げに笑ってそれをすぐに止める。
「考えてる事はみんな一緒、ここにいる人達はみんな同じ、みんなみんなエロい夢見たくて来てるの」
「私は彼等とは違います! 私は決してエロい夢を見たいが為にここに来ている訳ではありません!」
「うんヨシヒコ、まずはこっちをちゃんと見てから話そうか。さっきから店の中を歩いている店員さんをチラチラ見過ぎ」
「怪しい事をしていないかチェックしているんです!」
「もう素直になれよヨシヒコ、いやエロヒコ」
血走った目で次から次へと視界に入る露出度の高いサキュバス達にすっかり夢中になっているヨシヒコへ
メレブは苦笑しながら自分のアンケートを書き始める。
「まあこういう機会なんか今まで一度も無かったんだから、またとないチャンスなんだから思いきり楽しもうぜ相棒」
「すみません……ちなみにメレブさんは一体どんな夢を見ようと思っているんですんか?」
「え、それを答えるのは流石にこっ恥ずかしいな~、まあでもいいや、ヨシヒコには教えてあげちゃおっかな~」
観念した様に謝るとヨシヒコは早速メレブがどんな夢を見ようとしているのか尋ね出す。
それを聞いてアンケートをスラスラと書きながら照れ臭そうに笑うと、メレブは声を潜めて彼の方へ顔を近づけた。
「まず俺がね、10歳位の魔法使いの少年になってですね、それでとある学校の先生になるんですよ、あ、その学校は女子校ね、これ一番大事だから、そんで自分より年上の女子生徒に……」
一旦そこで言葉を区切るとメレブはニヤリと笑いかけて
「ラッキースケベをかましたい」
「ラッキースケベ!?」
「うむ、直接的なエロはいらない、ただただラッキースケベを体験したい、うっかり転んでパンツ覗いたり、くしゃみで生徒のスカートをめくりたい」
メレブが見たい夢の設定を聞いてヨシヒコが驚いていると、彼は更に話を続ける。
「ちなみに相手はね、ホントは可愛いんだけどぉ、前髪で顔を隠しちゃう恥ずかしがり屋さんで、そんで本が好きな女の子、という設定」
「凄い……! メレブさんもうそこまで細かく設定を練り上げていたんですね……!」
「声優は能登麻美子」
「声優ってなんですか!?」
「小林ゆうの子も捨てがたいと思ったんだけどね~」
意味深な言葉と人名を呟きながら顎に手を当て一人ニヤニヤと笑っているメレブ
彼の話を聞いてヨシヒコもすぐに自分の願望を叶えようとアンケート用紙を手に取って羽ペンで書き始めていると……
「フ、たかがラッキースケベだけを夢見るとは随分と小さな夢だな、メレブよ」
「なに? ってうお! お前は!」
不意にメレブに対して挑発的な物言いをする者が隣から声を上げる。
その人物は……
「ダンジョー!」
「ふ、よもやこんな所でお前達と出会うとはな」
「いやそれこっちの台詞、竜王軍の幹部のクセにこんな街中、しかもあろうことかこの店に現れるとか何考えてんの?」
メレブの隣に座っていたのはまさかのダンジョーであった。
竜王軍の幹部である彼がどうしてここに……
「おいダンジョー、お前一応魔王側なのにこんな所で油売ってて良いのかよ?」
「バカ言うなこれも世界征服の為の仕事よ、この俺が夢などというモノで現を抜かすと思うか? ここに来たのはいずれカズマが支配するであろうこの街でどんな商売をやっているのか視察に来たまでの事だ」
「え、カズマ君この街支配する気なの?」
「当たり前だ、アイツはもう魔王だ。一番先に支配するならまずこの街だとすぐに言い切ったぞアイツ」
「ほう、その理由とは……なんとなくわかるけど」
何故にこの街、アクセルの支配を最初にしようとカズマが目論んでいるのか、顎を手で触れながらメレブはこの店の事を考えながらほんのりと察していると
「うし、書き終わった」
間が悪い事に丁度アンケート用紙を書き終えたのか、ダンジョーはすぐに席から立ち上がると、誰よりも素早い動きで会計の所へ
そして会計係のサキュバスに、いつも強面のダンジョーがにこやかな笑顔を浮かべて
「書き終えました!」
「はい、ありがとうございます」
「あ、それと」
いつになく機嫌の良さそうな表情でダンジョーは懐から一枚の小さなカードを店員に差し出す。
「今回のでスタンプカード溜まったから」
「あら~いつもご利用して下さりありがとうございます、スタンプが溜まったお客様は次回から特別にデラックスコースを堪能できますよ?」
「デラックス!? それは中々魅力的な響きだ……ん~近いうちにまた来ちゃおうかな~?」
「はい、いつでも歓迎しております」
「フ、この店こそが俺が探し求めていたエデンだったという訳か……」
嬉しそうに溜まったスタンプカードを提示したり、妙に甘えた声で店員に絡んで
最後にいつもの感じで呟くとダンジョーは顔をほころばせながらメレブの方へ振り返り
「よし、サキュバスの皆さんに迷惑はかけたくないから今回だけはお前等を見逃してやる」
「いやそれよりも! お前ここの常連だったのかよ! やっぱ仕事じゃないだろ! 完全プライベートだろ!」
「だからこれが仕事だ! 魔王として迂闊に動けないカズマの為に! 俺がちゃんと足を運んで街の状況を逐一報告しているのだ!」
「街の状況を調べるならこの店にばっか来てないで他の所も行けよ! なにスタンプ溜めてんだよエロ助! デラックスコースってなんだよ羨ましい!!」
「誰がエロ助だ!」
ツッコミつつも最後にちょこっと本音を暴露するメレブにダンジョーは一喝すると
再びクルリと首を戻して店員ににこやかな笑顔を浮かべ
「それじゃあ本当に、本当に近い内に遊びに来るから、じゃ!」
「はい、毎度ありがとうございました~!」
「ハハハ! さぁて夢の中で大暴れするぞ~! 課長島耕作! 行って来ます!」
「行ってらっしゃいませ~!」
完全にキャラがブレまくってる様子で妙にノリの良い店員と最後の挨拶を済ませると、こちらに脇目も振らずにスキップしながら店を出て行ったダンジョー。
アレは間違いなく仕事じゃなくて楽しみに来てる顔だ、去っていく彼の背中を見ながらメレブは強く確信を持つ。
「はて、あのおっさん……本当に魔王に操られているのだろうか……どう思うヨシヒコ?」
「え? 何がですか?」
「いやだからダンジョーの事よ」
「ダンジョーさんですか? 確かに今どこで何をしているのかは気になりますね」
「あれ?」
一心不乱にカリカリと音を鳴らしながらアンケートに記入していたヨシヒコが、メレブに話しかけられるとキョトンとした顔を上げる。
この反応もしかして……
「お前もしや…さっきまでここにダンジョーがいたのに気づかなかったのでは?」
「え! ダンジョーさんいたんですか!?」
「おいおいおいどんだけアンケート書く事に集中していたのよ……」
「こんな店にダンジョーさんが、一体目的は何なんでしょうね?」
「いやこの店に来た時点で目的は一つでしょ? 俺達とおんなじ夢の中でエロい事したいんだよ」
ボケてるのか天然なのか、いやヨシヒコの事だからほぼ間違いなく天然の方だなと
ダンジョーにずっと気付いていなかったそんなヨシヒコに呆れながらメレブはガタッと席から立ち上がる。
「じゃあ俺達も会計済ませるか、ヨシヒコも書き終わっただろ?」
「はい、まず私はとある寮に住んでいて、そこで寮の管理人として働く巨乳の女性と親密な関係になりたいと思います」
「おお、俺が聞かずとも自分から言いおったぞコイツ……でもなるほどなぁ、めぞん一刻パターンか」
まっすぐな目で自らの夢の内容を話すヨシヒコに、聞いてる自分が恥ずかしくなるなと思いつつメレブは優しく彼の肩に手を置いた。
「頑張れよ五代裕作」
「いえヨシヒコです」
「わからない事があったらすぐ俺に、そう、ネギ先生に聞きなさい」
「いえメレブさんです」
会計を済ませて店を出ると、ヨシヒコ達は店の外でちょっとした話を終えるとすぐに拠点である大きな館へと戻って行った。
と言っても館に戻ってすぐに就寝、という訳ではない。
「んじゃ、俺達はちょっくら野暮用で出かけてくるから」
「朝までには戻ってきますので、それまで留守をお願いします」
「……」
ヨシヒコ達が戻るとすぐ目の前に現れたのは、お気に入りのソファの上でくつろいでいるアクアだった。
そう、この館で寝る事が出来ないのは他ならぬ彼女の存在があるからだ。
彼女は常にこの館に悪霊や侵入者を払いのける結界を張っている。
もしこのままここで寝ても、夢を見せにやって来てくれるサキュバス達が入る事が出来ませんでしたー、というオチが容易に見える。
それではせっかくのお楽しみを堪能できない、と判断した策士・メレブは、ヨシヒコと事前に打ち合わせをして最寄りの宿屋を借りて寝る事にしたのである。
そして目の前の彼女にあくまで悟られない様に細心の注意を払いながら
先程店の外で打ち合わした通りの流れで話を進めていくメレブとヨシヒコ
しかしそんな彼等をアクアはソファに肘を掛けながらジーっと目を細め
「……怪しい、凄く怪しいわ二人共、私とダクネスを置いてしばらく顔見せないと思ったら今度はこんな時間から野暮用? 一体何を企んでいるのかしら」
「バッカお前何も企んでねぇよ! だよなぁヨシヒコ!」
「はい!」
意外と勘の鋭いアクアに悟られぬ様にすぐに否定して潔白だと叫ぶメレブとヨシヒコ
しかしアクアはやはり「本当かしら?」と呟きながら疑う姿勢を崩さない。
「ねぇダクネス、アンタもこの二人怪しいと思わない?」
「い、いやどうだろうな……」
「ていうかなんでアンタこっち見ないのよ」
「……」
不意に一緒にいたダクネスに同意を求めようとするアクアだが、何故か彼女はヨシヒコ達に視線を向けずにただただ顔を赤らめて目を逸らし続けていた。
「その……野暮用となら仕方ないんじゃないんか? 野暮用となら……」
「いやいや絶対おかしなこと企んでるわよ絶対、ほら見なさいよヨシヒコの顔を」
気まずそうに目を逸らし続けるダクネスに対し、アクアはヨシヒコを顎でしゃくる。
「さっきからあの子ずっとニヤニヤしてるのよ、しかもただのニヤニヤじゃないわ、明らかにエロい事考えてるニヤニヤよ」
「ニヤニヤ!?」
思わずダクネスがバッとヨシヒコの方へ振り返ると
「何を言っているんですか女神! 私は勇者です! ニヤニヤしてる訳ないじゃないですか!」
「ほ、本当だ……! なんていやらしく下卑た笑みを浮かべているんだ……!」
「あ~ヨシヒコ……表情でバレるからいつもの真顔に戻って……」
口元を横に広げて物凄く何かを期待してる様な表情を浮かべるヨシヒコを見てダクネスは一歩後ずさり
彼の隣に立っているメレブも耳元でささやきながら必死に平静を取り戻せと呟いている。
「アレは絶対下心剥き出しだわ、女神の私が言うんだから確実にそうよ」
「エロい事なんて考えていません!」
「いいえヨシヒコ、女神の前で嘘はいけないわ、その証拠にアンタの下半身」
館に戻って来てからずっとニヤニヤしっ放しで説得力の欠片もないヨシヒコの弁明を聞き流して
アクアはピッと指をヨシヒコのある場所に向かって突き付ける。
「物凄い事になってるわ、きっとそれが原因でダクネスがアンタの事を直視できないのよ」
「あぁー! ヨシヒコさん!? 何てことだヨシヒコさんの下半身がとんでもない事になっておられる!」
彼女が指を差した方向は、丁度ヨシヒコの股間の部分
ズボンの下から盛り上がって、これまた見事で立派な一本角が上に向かって立ち上がっていたのだ。
「さてはヨシヒコ、アンタ野暮用とか言って外出して、油断している私達の部屋に忍び込んでやらしい事する気なのね」
「そそそそそうなのかヨシヒコ!? なんて破廉恥な奴なんだお前は!」
「誤解だダクネス、私は仲間に対してその様な感情を抱いた事は一切ない! 断じてない!」
「だったらそのニヤニヤ笑いととんでもなく盛り上がっているソレはなんなんだ!」
アクアの推測と真っ赤な顔を両手で隠しながら叫ぶダクネスに、ヨシヒコは下卑た笑みを浮かべながら否定するも
両手で顔を隠しつつも、指の間からバッチリと目を覗かせながらダクネスがすかさず彼の股間を指差す。
「ていうかホントになんなんだ! 男というのはそんなにも凄くなるのかそこ!」
「生理現象だ、男として生まれたからには必ずしもこうなる。ですよねメレブさん」
「いやお前だけ特別だから、一緒にしないで」
野球のバットでも入ってるんじゃないかと思うぐらい異常に膨らんでいる股間に向かってメレブが冷静に首を横に振る
「まあという事で、俺達はちょっと外出してくるから。それとあの、お前等にはなんにもしない事は誓うから、うん。それじゃあおやすみ」
「二人はゆっくり館で休んでて下さい」
これ以上アクアとダクネスに追及されたら更にボロが出てしまうと判断し、メレブは無理矢理話を纏めて館から出ようとする。
ヨシヒコもそれに従ってアクア達に軽く一礼すると
それと同時に膨らんでいた股間からカチッという変な音が鳴り
彼の膨らんだ一本角がグィングィンと激しく円回転を始めた。
「それでは行きましょうかメレブさん」
「おおヨシヒコ回ってる……ヨシヒコさんのバット超回ってる……!」
目の前で勢いよく回転し続けるので必死に笑いを堪えながらメレブは口元に手を当ててサッと目を逸らす。
「絶対さっきなんか押したでしょ……え、腰? 腰にスイッチとかあるの?」
「さあ何を言っているかわかりません、これも生理現象です」
「すげぇコイツ……どうして目の前でアレがぐるんぐるん回ってるのに普通に話せるの? 怖いんだけど……」
口元を押さえたままなおも込み上げてくる笑いを抑え込みつつ、メレブはそのままの状態のヨシヒコと共に館を後にするのであった。
そして残されたアクアとまだ顔を赤らめているダクネスはというと
「ダクネス、念の為に言っておくけど自分の部屋の窓やドアにはしっかり鍵かけるのよ、今宵のヨシヒコは本気よ、本気で私達を襲いに来る獣なの、言うなればエロスの化身よ」
「エロスの化身ってなんだ……」
「はぁ~モテる女神は辛いわね~ここは徹底的に館を封鎖して入り込めない様にしましょ」
「うむそうだな……ここは仲間としてアイツの頭を冷やしてやらないと」
「メレブが来たら殺していいわよ」
「よし、寝床には剣を置いておこう」
いずれ再び獣と化して襲い掛かって来るであろうヨシヒコ(ついでにメレブ)の対策を徹底的に練る二人であった。
そして一方でヨシヒコとメレブは手筈通り近くの宿屋で一晩を明かす事にした。
「ヨシヒコ、俺この世界に来れて心底良かったと思ってる」
「私もです、我々がこの世界に来た本当の目的が今わかりました」
「いやそれとこれとは違う、超違う、魔王倒すのが俺等の本当の目的」
各々ベッドに入って天井を眺めながら、二人は初めてこの世界で体験できる楽しみを今か今かと期待と鼻の穴を膨らませていた。(ヨシヒコは掛け布団も膨らませている)
「しかし、こうして興奮してばかりでは俺達の所へ派遣に来るサキュバスさん達にも悪い、俺達が持つ全てを使って全力で寝るぞ」
「わかっています、私が持つ力の全身全霊を持って寝てやります!」
「その粋だヨシヒコ! いい夢見ろよ!!」
「はい!」
互いに気合を注入し終えると、メレブは灯っていた明かりを消して部屋を暗くして完全に寝る態勢に入った。
後はもう寝るだけだ、それだけで最高の時間がやってくる。
「それじゃあおやすみヨシヒコ!!」
「おやすみなさいメレブさん!!」
天井に向かって全力で叫ぶと二人はゆっくりと目蓋を閉じて眠る事に集中するのであった。
1分後
「富・名声・力、この世のすべてを手に入れた男、海賊王・ゴールドロジャー。彼の死に際に放った一言は人々を海に駆り立てた」
「え? いつもの寝言言ってるって事はヨシヒコもう寝たの?」
「俺の財宝か? 欲しけりゃくれてやる。探せ! この世の全てをそこに置いてきた!」
「ヨシヒコ、今回だけはその、その寝言は止めて欲しいんだけども? あの、やってくるサキュバスさん達が絶対怯えるから」
「男達はグランドラインを目指し夢を追いつづける。世はまさに大海賊時代!」
「違うから大海賊時代じゃないから! なに今回の寝言! なんかすげぇ夢とロマンに満ちたワクワクの冒険が始まりそうでつい気になって眠れなくなるから止めて!!」
寝始めて1分で熟睡モードに入ったヨシヒコの口から出てくる寝言のせいで
メレブは完全に寝入るのにかなり時間をかける事になるのであった
「これだけのー! 希望ぉー! 拾いまくれぇー!!」
「オープニングまで歌うの!? あ、でも歌詞微妙に変えて何か、何かを誤魔化そうとしている」