アクセルの街のすぐ近くに山
そこには竜王カズマと手を組み街中の男達にとんでもない悪夢を見せるという大罪を犯したゴブリン達が隠れ住んでいた。
元々あった洞窟を利用して拠点に改造し、そこでゴブリン達は一仕事終えて仲間達と談笑を交えながら休んでいると
「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」
洞窟の入り口から突然の怒号と仲間達の悲痛な叫び声。
表で何かあったのかと入り口のすぐ傍で待機していたゴブリン達は傍にあった武器を拾おうとする
だが時すでに遅く
「ゴブリン倒すべし!」
「!?」
先陣を切って現れた勇者ヨシヒコがゴブリン達の所へ剣を抜いて現れた。
強い殺気を放ちながら、ビックリして固まっているゴブリン達に颯爽と斬りかかる。
「ゴブリン屠るべし!」
ヨシヒコに続いて他の冒険者達も一斉になだれ込んで来た。
皆憎しみのこもった眼差しをゴブリン達に向け
戸惑うモノ、怯えるモノ、立ち向かおうとするモノ関係なく、ゴブリンであれば容赦なく鉄槌を下していく。
「俺達に酷い夢見させやがって!」
「やっちまえ! 相手がゴブリンだろうが今回ばかりは我慢ならねぇ!」
「今から俺達がお前に悪夢を拝ませてやる!!」
冒険者、否、今の彼等はゴブリンスレイヤー
その心にゴブリンに対する慈悲は一切持ち合わせていない
ムキムキな男とランデブーするという夢を見せられた者達は
もう強い憎しみ以外の感情は持ち合わせていないのだから
「ゴブリンは全て……勇者であるこの私が斬るッ!」
「うおぉぉぉぉぉ!! ヨシヒコに続けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「なんてこった……こうやって勇者と呼ばれる存在を間近で見られるとは衝撃だぜ……」
「俺達は今……後に歴史に記される伝説の一つを見ているんだ……」
先陣を切るヨシヒコは鬼神の如き迫力で次々とゴブリンを倒して行きながら奥へと進んでいく。
そんな勇敢に進んでいく彼を見て、本当に真の勇者なのだと確信した冒険者達は続々と後へと続いていった。
「お前達! ヨシヒコだけにいいカッコさせるな! このダンジョーに続けぇ!!」
「おお! なんだこのもみあげのオッサン! 滅茶苦茶強いぞ!」
「オッサンのクセにやるじゃねぇか!」
「オッサンに続けぇ!!」
「オッサン言うなぁッ!!!」
そしてヨシヒコに負けじと剣を振りかざして大暴れするのは戦士・ダンジョー
自分の所の魔王がやらかした事にも関わらず、すっかりアクセルの冒険者に肩入れしてゴブリン達を薙ぎ倒していく。
オッサンでありながらも大活躍する彼の頼もしい背中に、他の冒険者達もオッサン言いながら彼について行く。
「うむ、ヨシヒコとダンジョーも大活躍の様だな、ならばいよいよ俺の出番という訳か」
ヨシヒコとダンジョーの活躍を眺めた後、真打ち登場みたいな形で顎をさすりながら洞窟の入り口から現れたのはメレブ。
右手に持った杖を構えるとニヤリと笑いながら目の前の戦場を見てもなお余裕の態度
「よしお前達、その目にとくと刻むがいい、この大魔法使いメレブの大活躍を!」
・
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・
・
・
「あれどうし……おおっと~、俺の後ろ誰もいな~い」
てっきり「一生メレブさんについて行きます!」的な歓声が後ろから聞こえるかと思っていたのだが
彼の背後にはもう誰も立っていなかった冒険者達は皆、ヨシヒコやダンジョーと共に先へと進んでいる真っ最中である。
「え? 待って、ひょっとしてこれ、俺だけ放置? あ~……」
ついて来てくれる者が自分だけいないとわかったメレブは一人寂しそうに髪の毛の先をクルクル指に巻いた後
何度かため息を突いてうんうんと頷いた後
「よし! みんなの後に続け俺ぇぇぇぇぇ!!」
こんな洞窟で一人で放置されたら間違いなく殺されると悟り、一目散に冒険者達の方へ駆けていくメレブであった。
ヨシヒコ達が奥へと進むと、そこには一際巨大なゴブリンが待ち構えていた。
「お前がここのボスか!」
「なんと巨大な魔物だ……だがヨシヒコ! お前であればやれる筈だ!」
「はい! うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
他のゴブリンよりも5倍はあるであろうボスゴブリン目掛けてヨシヒコは剣を構えて正面から飛び掛かる
しかし
「ぐわ!」
「ヨシヒコ!」
ボスゴブリンは巨大な図体にも関わらず動きは俊敏であった。
飛び掛かったヨシヒコをいとも容易く丸太のような腕で弾き飛ばしてしまう。
「つ、強い……!」
「頑張ってくださいヨシヒコさん!」
「サキュバスさんが俺達の街に残ってもらう為に!」
「俺もう少しでデラックスコース出来るんだよ! 奴を倒してくれヨシヒコ!」
「俺も! ムキムキな男達でデラックスコースやりたい!」
「キース、お前……」
「そうだ……サキュバスさんの為にも私がここで敗れる訳にはいかない……!」
いつも以上に張りきった様子で、仲間達の声援を背中で受けながらすぐに立ち上がるヨシヒコ
しかしこのままではやられてしまうのも時間の問題である。
ダンジョーが相手とヨシヒコの力量の差をはっきりと読みながらどうにかせねばと考えていると
「どうやらお困りの様だな」
「メレブ!」
「魔法使い(笑)!」
「おい今誰が魔法使い(笑)って言った、お前かダスト、ソゲブかますぞ貴様」
「違う違う! 俺じゃねぇから!」
窮地に現れたのは皆を必死に追いかけて来たメレブであった。
傍にいたダストという一人の冒険者に杖を向けた後、ヨシヒコの前に立ち塞がるボスゴブリンを睨み付ける。
「ダンジョー、俺が今から奴に呪文を掛けて隙を作ってやる、そしたらお前は他の冒険者達を引き連れて一斉攻撃をお見舞いしてやれ」
「出来るのかメレブ!」
「フ、俺を誰だと思っている、まあ見てなさい、俺が過去に覚えた呪文その2……」
相手に対して全く恐れも抱かずにメレブはほくそ笑むと、杖を構えてひょいとボスゴブリンに向かって叫ぶ。
「ほい!」
そう叫んだ瞬間ボスゴブリンは一瞬嫌な顔を浮かべ急に動きを止めたではないか
しかも両手で頭を抱えるとブンブンと首を横に振り出して正しく隙だらけの状態に。
「おお! 奴の動きが止まったぞ! 行くぞお前達!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
「今奴は、一瞬頭によぎった嫌な思い出に苦しんでいる真っ最中だ、俺はこの呪文をかつて……」
「『トラウム』、と名付けたんでございます」
「よっしゃあ今だ行け行けぇ!!」
「ぶっ飛ばしてやるぜゴラァ!」
「これで終わりだヒャッハー!!」
「おや? 誰も俺の呪文にツッコミ無し?」
ドヤ顔で掛けた呪文を披露するメレブだが、冒険者達の耳にはまったく届かず、ダンジョーと共にボスゴブリンに攻撃を繰り返していく。
一人取り残されたメレブは寂しそうに足元にあった石ころを蹴飛ばし
「アレだな、やっぱムラサキやアクアのツッコミが無いと、調子狂うな」
「メレブさんありがとうございます、おかげで奴に隙が生まれました」
「お、ヨシヒコ、今の俺のトラウム見てどうだった?」
「無敵ですね! もうこれで勝ったも同然ですよ私達!」
「その言葉が聞きたかった、そしてすかさずヨシヒコに……」
駆け寄って来たヨシヒコに絶賛されて、ちょっと気分良くなった様子でメレブは杖を構えると今度はヨシヒコに向かって
「サスオニ!」
「!」
今度はこの世界で得た新呪文を掛けてやる。
するとヨシヒコは一瞬戸惑いながらも剣を構え
ボスゴブリンに向かって対峙するかのような形をとってみると
「うおぉ~今のヨシヒコ超カッコいい~~!!」
「見ろみんな! ヨシヒコさんの勇ましい姿を!」
「ありがてぇ……! 俺はこのお姿を見る為に今まで生きて来たんだ……」
「いやもうこれ誰が何と言おうと勇者という言葉を表した存在そのものだね、うん」
「結婚してくれヨシヒコォーッ!」
「キース、やっぱりお前……」
「お前は俺達の太陽だァァァァァァァ!!!」
周りの仲間にひたすら褒めちぎられるサスオニの効果を受けて、ヨシヒコは周りの冒険者から絶賛の嵐
するとヨシヒコは体の内側から沸々と力が湧き始め
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!! テンション上がって来たァァァァァァァ!!!」
「……流石、単純なヨシヒコ」
前々から周りから褒められてテンション上がるという内容だと聞かされていたので
思い込みの力で見事テンションをバーストさせてステータスを一時的に上昇させる事に成功するヨシヒコ
するとボスゴブリンに激しい連続攻撃を加えて弱らせることに成功したダンジョーはクルリと彼の方へ振り返り
「今だヨシヒコ!! 勇者の剣をおみまいしてやれ!」
「行きます!!」
ダンジョーの叫びと共にヨシヒコは剣を構えたままボスゴブリン目掛けて飛び掛かる
そして
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
見事に会心の一撃を食らわして、ボスゴブリンを縦に真っ二つに両断するのであった。
かくして、サキュバスを賭けた冒険者と竜王の戦いは
無事に冒険者達の勝利で幕を閉じるのであった……
一方ヨシヒコ達がゴブリン達を倒している頃
アクアとダクネスはまだ街中をうろついていた。
「よしもう限界だアクア……私はもう帰って寝るぞ……! 本気で寝るぞ……!」
「気は確かなのダクネス! 今館に戻ってぐっすり寝てたら! けだものヨシヒコがアンタを襲いに来るのよ!」
昨日の夜からずっと一睡もできていないダクネスを、アクアは声を荒げながら必死に眠らせまいと叫ぶ。
しかしダクネスの方は目蓋がくっつきかけて半分眠っているような状態だ
「徹夜してる上にそろそろ夕方じゃないか……年頃の乙女がこんな睡眠時間を取らないというのはどれだけ危険だと……」
「いいの!? アンタの純潔を奪われちゃってもいいの!? 寝てる隙にあんなこんな事されていいの!?」
「そもそも一向にやってこないじゃないかヨシヒコ達……アクア、これはやっぱりお前の勘違いだったんじゃ……」
そろそろアクアの話も全く信じられなくった様子のダクネス、するとそこへ
「あれ? お前等何してんのそんな所で?」
「二人共やけに眠そうな顔してますけど大丈夫ですか?」
「え? ってあぁー! 起きて! ダクネス起きて!!」
道の真ん中でダクネスの胸倉を掴み上げながら眠らせまいとしているアクアの所へ
ゴブリン退治を終えたメレブとヨシヒコが不思議そうな顔で現れたのだ。
「私達が全く隙を与えない事にしびれを切らして正面から来たって訳ね! 上等よかかってらっしゃい!」
「……何言ってんのお前? ごめんちょっとわかんない」
「女神、私達は今から他の冒険者達と祝勝会に参加しに行って来ます」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!? 私の方こそアンタ達が何言ってるのかわかんないんですけど!」
ファイティングポーズを取って戦う気満々のアクアに対しメレブがキョトンとしていると
「おーいヨシヒコにメレブ! 先に行って待ってるぞー!」
「わかりましたー! 私達もすぐに行きまーす!」
「え、今のもみあげのおっさんってもしかして……」
「という事で、私達はコレで」
ヨシヒコが真顔で先程の戦いによって、この街の冒険者達と強い絆に結ばれ、それをお祝いする為に宴に行く事を話し始める。
「この街の冒険者達と、そしてダンジョーさんも交えて楽しんできますので、女神とダクネスはまた館で休んでて下さい」
「だからなんでダンジョーがいんのよ! アイツ今カズマと裏切りめぐみんの仲間になってんでしょ!?」
「一時的な共闘をした縁で、今日一日だけそのわだかまりを捨てるとおっしゃってくれました」
「共闘……? ア、アンタ達どっか行ってたと思ったら冒険に行ってたの!? 私達抜きで!?」
「詳しい事は言えません」
「なんでよ!」
どっからツッコめばいいかわからない、そう思いながらアクアがどこから追求しようかと少ない脳みそで考えていると
「冒険って……やっぱりアクアの思い過ごしだったんじゃないかZzzzzz……」
「うわ! ちょっとダクネス寝ないで! ここ外なんだから!」
ヨシヒコ達が自分達に襲い掛かる心配など無かったとわかったダクネスは、遂に限界を迎えてフラリとアクアにもたれながら眠りに入る。
それを見てメレブは眉間にしわを寄せて首を傾げ
「は? 急に眠り出してダクネスの奴どうした?」
「そういえば女神も目の下にくまが、疲れているのではやはり館で休んだらどうですか?」
「だ、誰のせいでこうなってると思ってんのよ!」
「いや知らないけど、どうしたお前等、今日おかしいぞ」
「おぅい! どう見てもおかしいのはアンタ達でしょうが!」
どうも互いに話が見えてこないヨシヒコとメレブ、アクアとダクネスの間で一体何が起こったのか互いに理解出来てないでいると
「こうなったらハッキリと教えてもらうわよ! 今日アンタ達がどこで何をしていたか……」
ヨシヒコー! ヨシヒコよーッ!
「ってもうこのタイミングでぇ!! ふざけんじゃないわよ仏!」
「ヨシヒコ、例の」
「はい」
上空からいつもの調子であの声が飛んでくる。
すぐに気付いたアクアは爆睡しているダクネスを背負ったまま天に向かって睨み付け
ヨシヒコもまたメレブが袖の下から取り出したライ〇〇マンヘルメット被っていつもの態勢で見上げた。
するとそこへ夕日をバックに雲の上からパァーッと光が降り注ぎ
「……はい、仏です」
「ぶふぅ!! ア、アンタどうしたのよその目! ぶははははは!!」
くっきりと現れた仏を見てアクアが思わず吹き出してしまう。
左目に付いてたアザが、今度は右目の方にも付いていたのだ。
これにはアクアだけでなメレブも口を押さえて笑いを堪える。
「あれ!? 前見た時は片方だけにアザ付いてたのに! どうしたの仏!?」
「パンダよパンダ! 仏パンダよぶはははははは!!!」
「……あのね、そうやってさ、いきなり人の顔を見て笑うのはいけない事だと思うんだ私」
両目にアザを付けた仏をメレブとアクアが盛大に大笑いをしていると、仏は面白くなさそうにしかめっ面をしながら呟く。
「聞いて、ねぇ聞いて? これ一体誰にやられたと思う?」
「えー誰だろうー? ゼウス君の孫?」
「ブブー、あの子こんな事しない、会って来たけど滅茶苦茶良い子だった、謝ったらすぐ許してくれた」
「ああそうなの良かったじゃん、じゃあ、またゼウス君?」
「またブブー、正解はですね……ん?」
何故にいきなりクイズ形式になったのか不思議に思いながらも、アゴに手を当てながらとりあえず適当に答えてあげるメレブ
2回不正解になると仏はようやく答えを言おうとするも、咄嗟に誰もいない横へと振り返り
「え? 店内での通話はお断り? ああはいはい、すぐ済むから、すぐ済むから大丈夫」
「っておい! お前なに!? 今どっか店の中にいんの!? まだそっちの世界にいる訳お前!?」
「うっさいよキノコ、お前の声今店の中にすげぇ響き渡ってるから、声のトーン落として」
「え、なに? 俺達の声ってお前じゃなくてそっち側全体に聞こえてるの?」
叫ぶメレブに大きな声を出すなと忠告しつつ、仏は嫌そうな顔でシッシッと手で追い払う仕草
「いやだからもうすぐ終わるって言ってんじゃん、それより飲み物のおかわり来てないんだけど、早く持って来てよ、君、店員でしょ?」
「しかも飲み屋っぽい所にいるなアイツ……」
「うわ、アイツの店員に対する態度、超最悪なんですけど……」
店の中で横暴な客として振る舞う仏にメレブとアクアが嫌悪する表情を浮かべていると
店員は向こうへ行ったのか、仏は再びこちらの方へと振り返る
「じゃあ邪魔者はいなくなったので正解言いまーす、正解は、ゼウス君の孫と親密な女神、です」
「あーなるほど、お前が変な事吹き込んだから、その女神さんが怒りましたという訳?」
「まあそんな所? あ~今思い出してもすげぇ腹立つ~」
「いやお前のせいだから仕方ねぇだろ」
「デビルマン渡したのに~」
「いやデビルマンがダメだったんじゃないの!?」
「じゃあハレンチ学園?」
「そっちもダメだね!」
やはり仏の謝罪方法が間違っていたんじゃないかとメレブがツッコんでいると
アクアが「ねぇねぇ」と仏の方へ口を開く。
「ちなみにその女神って誰?」
「紐よ紐、ほらエリスの奴の永遠のライバル」
「あぁ~紐ね~、それなら納得だわ、前々からアンタ達仲悪かったし」
「え、私ってそんな紐と仲悪かった?」
「いやぁ結構悪かったと思うわよ? 忘年会の時にいつもロキの奴と紐をからかってるじゃない」
仏とアクアが紐がなんだと会話しているのを聞いていたメレブは
「あの……紐で通じる女神ってどんな女神?」
一体どういう事なのかと訳が分からなそうに首を傾げていると、ふとヨシヒコが仏の方へ前に出る。
「仏、ならば私もそちらの世界へ行って、その女神とやらに一緒に謝りに行きましょうか?」
「いやだからヨシヒコは行かなくていいんだって、どうしたお前? そんなに向こうの世界興味津々なの? こっちの世界飽きちゃったの?」
またもや向こうの世界へと行きたがるヨシヒコにメレブが彼の裾を整えてあげながら優しく尋ねていると
仏の方も苦笑しながら彼に話しかける。
「うん、ヨシ君、ヨッ君はほら、ね? そっちでの使命があるからさ。こっちの世界には干渉しなくていいから、紐の方には私がいずれリベンジかますからその世界で大人しくといて、ホントややこしくなるから、クロスがトリプルになる的な意味で」
「お前はお前でリベンジかますってなんだよ、今度はちゃんと謝れよ、その紐の女神とやらに」
「はぁ!? 絶対イヤだわ! 仏は! 仏は孫の方に謝りに行ったんだよ! アイツなんにも関係ないからね! いきなり横からしゃしゃり出て来て私の顔面にグーパン……!」
メレブに窘められてまた謝りに行けと言われるが仏は全く反省する気ゼロの様子
ちょっと興奮した様子で叫び始めると、その途端また彼は横へと振り返り
「だからすぐ終わるつってんだろうがぃ! 今ちょっと立て込んでんだコノヤロー! とっとと飲み物置いて帰れコノヤロー!」
「出た、また店員に言われてるぞアイツ……」
「そりゃあんだけ騒げば店にもいい迷惑よ」
再び店員に注意でもされたのか、仏は逆切れ気味に怒鳴り散らしている
「ほらここだよここ! ったくもーお客様に向かって無愛想なツラしやがって……」
すると今度は仏の前に
バンッ! 思いきりテーブルにでも叩き付けたかのように並々注がれたお酒が乱暴に置かれ
「おふッ!」
その衝撃で仏の顔面にビシャァ!とこぼれた酒が飛び散った。
「お、一瞬だが店員の腕らしきものがコップをカウンターに叩き下ろす瞬間が見えたぞ」
「中々見所ある店員じゃないの、気に入ったわ、アイツにかましてくれて私もスカッとしたし」
仏に軽く嫌がらせしてくれた事にメレブとアクアがニヤ付きながら、やってくれた店員を称賛していると
急いで顔を拭いながら仏はすぐに店員がいると思われる方へと振り返り
「おま! お前コノヤロー! 仏に向かってなんて真似してくれてんだ小娘! そっちがそう来るならアレだよ? こっちもやるよ?」
「うわ仏、しょーもねー、店の店員につっかかるとかマジしょーもねー」
「ていうか私達にお告げするのが先でしょ、私達を優先しなさいよ」
「待て、しばし待て、今からこの態度の悪い店員にお客様の制裁、否、神の制裁を加える」
立ち上がった様な素振りを見せながらこちらにブーイングする二人を黙らせると
仏は指を突き付けながら喧嘩腰で相手を睨み付ける。
「この『豊穣の女主人』って店? ここに来てからずっと腹立ってんだよ! 他の店員さんはみんな愛想いいのに! お前だけずっとむっつり無愛想決めやがって! なんなんだお前! 接客ナメてんのかコノヤロー! 仏ナメてんのかコノヤロー!!」
アホなクレームを言いながら仏は足でステップを踏みながらシュッシュッと拳を振り抜く動作
「言っておくけどお前わかってんだからなこっちはー! お前その胸! バスト! 無理矢理寄せて大きく見せようとしてんだろ! お見通しなんだよこのムッツリ見栄っ張り!」
仏が店員の胸の秘密について大きな声でばらしたその瞬間
「でぃふ!」
姿は見えなかったが、店員の影らしきモノが素早く仏の顔面に拳を一撃叩き込んだのだ。
「やったわ! 仏の顔面に会心の一撃!」
「胸だ! 胸の事言われるのはどうしても許せなかったんだ!」
仏が一撃で沈んだ瞬間を両手を上げて歓声を上げているアクアとメレブをよそに
画面から見えない角度で倒れた仏に向かって何度も拳を振り落とされる音が聞こえる。
「いだッ! ごめんごめんムッツリ! 仏! 仏が悪かったから! そんなおっぱいの事気にしてたの気付かなかった私! もう一旦水に流そう、うん! だからもう殴るの止め……!」
何やら呻くような仏の声も殴られる音と交えて聞こえたその時
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
最期の断末魔の叫びを仏が木霊すると
そこから仏の気配がフッと消えて空はまたいつも通りに戻ったのであった。
「……あれ? もしやアイツとの通話が途絶えたか……?」
「え~もっとアイツが痛い目に遭う所見たかったのに~」
「ていうか遂にアイツ、お告げ下さずに自分語りだけで終わらせたぞ」
仏がいなくなったことを確認すると、結局お告げさえもせずに消えた事にメレブがしかめっ面を浮かべると
面白い所だったのにとアクアもガッカリした表情を浮かべる。
「仕方ないわね、ダクネスもずっと寝ちゃってるし今回はさっさと帰りましょ」
「あ、俺とヨシヒコは飲み会に参加してくるから。先帰ってて」
「ああそんな事言ってたわね、じゃあ私も参加するわ、どこでやるの?」
「いや無理無理、お前は無理、今回は男だけでやる予定だから、場所も絶対に教えない」
「はぁ!?」
ダクネスを背に担いだままアクアはヨシヒコ達の行く飲み会とやらに興味を持ったのだが、メレブがブンブンと手を横に振って彼女の参加を頑なに拒否
彼にヘルメットを返しながらヨシヒコも言い辛そうに
「すみません、今回は共に戦った男達の友情を更に深める機会でもあるので、女神は参加できません」
「何それどうゆう事!?」
「どうゆう事も何も、大切なモノを共有し合って熱い戦いに身を投じた結果?」
「ますます意味が分からないわよ!」
ヨシヒコとメレブの言ってる事がいまいちピンと来ていないアクアをよそに
二人は男達が集まり祝勝パーティーをやる場所であるサキュバスの店の方へと歩き出した。
「まあそういう事だからお前はダクネス背負ってそのまま帰ってていいから」
「次飲みに行く時は誘います」
「……なんなのよ一体」
全く理解できずに途方に暮れるアクアをその場に放置して、ヨシヒコとメレブは勇ましい足取りで店へと向かってしまう。
「ていうかダクネス重いんだけど……私このままおぶって屋敷まで帰らなきゃいけない訳?」
「Zzzzzzzzz……」
背中でまだ熟睡しているダクネスを背負ったまま、アクアは一体ヨシヒコ達に何があったのかと考え込みながら帰る事にするのであった。
一方ヨシヒコ達の光景を木の影から眺めていた者が一人
「兄様、ヒサがここを離れていた時に、詳しくは知りませんがまたもや戦いに身を投じていたのですね」
木の裏から全身銀色の鎧に身を包んだ女性、ヒサが姿を現した。
銀竜の鱗で編み上げたそう簡単には手に入らない希少かつ高価なレア防具だ。
「流石は兄様です、ですがヒサはこれからもそんな兄様に追いつこうとついていく覚悟です」
「ヒ、ヒサさん。紅魔族の村で作った特注の鎧を着てくれてありがとうございます……」
力強くそう宣言するヒサの横から、オドオドした様子で歩み寄って来たのは紅魔族のゆんゆん
「それにしても大変でしたね、まさか私の故郷を魔王軍の幹部が襲ってて、そして私達もその魔王軍と戦うハメになるなんて……」
「魔王に虐げられる民を見捨てては、兄様に顔向け出来ませぬ」
「いやぁ、ぶっちゃけ私達の村の方が最初から優勢だったんですけどねぇ……紅魔族って基本的にみんな上級魔法を操れますから……」
どうやらヒサもまたヨシヒコに負けじと別の戦いに参加していたらしい。
あの時の戦いをゆんゆんがしみじみと思い出していると、彼女の背後からヌッと新たな人物が
「まあ確かに最初はあなた達の方が優勢だったわね、けど途中でアンタ達が隠していた古代の魔道具を手に入れてパワーアップした私にはそれなりに苦戦していたじゃない」
「あ! シルビアさん!」
彼女の傍に現れたのは赤いドレスを着たグロウキメラのシルビア。
先程ゆんゆんが話していた紅魔族の村を襲っていた魔王軍の幹部その人である。
今は古代の魔道具「魔術師殺し」を体に取り組み、下半身が蛇という姿をしていた。(そしてこの見た目で普通に人里の中にいる)
「あの時は勝てると思ったんだけど惜しかったわぁ、まさかアンタが呼んだ助っ人が私の予想を遥かに上回る強さを持っていたなんて、おまけに何故かベルディアの奴もいたし」
「す、助っ人じゃなくて私の友達……」
「おーい! ヒサさ~~~~ん!!!」
紅魔族の村でヒサ達と戦ったのか、その時の事をしみじみと思い出すシルビアにゆんゆんが恐る恐る訂正しようとしていると
そこへいつもの様に首なし騎士・ベルディアが手を振りながらヒサの下へ馳せ参じると
シルビアを見つけてすぐに足を止める
「ってお前シルビアーッ! なに普通にヒサさんと一緒にいるんだよ!」
「アンタが気にする事じゃないわよベルディア、私を打ち負かしたこの娘がちょいと気になったからついて行こうと思っただけよ」
「そんな事信用できるか! 魔王軍の幹部のクセに!」
「いやそれアンタもだから」
自然にヒサの仲間になったかのように振る舞うシルビアに、彼女の事を前から知っているベルディアは不満げな様子。
すると彼の後ろからヒサと同じく別の世界からやって来たスズキが顔を出し
「まーいいんじゃないですかねぇ、この人滅茶苦茶強いですし、ヒサさんは強い人を仲間にしたいって言ってたから問題ないでしょ?」
「はい、私は兄様の頼れる仲間に負けないぐらい強い人達を集めたいのです」
「ハハハですよねー! 言っておきますけどシルビアの奴はホント強いんで! 期待してて良いですよ!」
「切り替え速いねぇベル君」
ヒサの言葉にあっさりとシルビアの仲間入りに反対する事を止めて大いに賛成して高笑いを上げるベルディア
そんな彼に友であるスズキはヘラヘラ笑いながら「ま、そこが彼の良い所なんだけどね」と言葉を付け足す。
かくしてヒサは、また一人新たな仲間を手に入れるのであった
次回へ続く
「そういえばずっと僕気になってんですけど、シルビアさんってなんで顎に髭生えてるんですか?」
「ああ、私元々男だから」
「えぇー! うっそビックリ! ベル君知ってた!?」
「ううん知らない知らない! 俺も今初めて知ったぞそれ!」
「え~女の人なら仲良くなれると思ったのに、元男の人場合どう接すればいいんだろ私……」