勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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其ノ陸 愛、それはどんなモノにも勝る強さ
陸ノ一


その昔、キールという名のアークウィザードが、たまたま街を散歩していた貴族の令嬢に一目ぼれをした

 

だがその恋が実らないと知っていたキールは、ひたすら魔法の修行に没頭する。

 

月日は流れ、キールはいつしか国一番のアークウィザードと呼ばれるようになった

 

キールは持てる魔術を惜しみなく使い、国の為に貢献する。

 

やがてキールは多くの人々に称賛され、王城にてその功績を称える宴が催された。

 

王は言う、その功績に報いたい、そなたの望みであればどんなものでも一つ叶えよう、と

 

それに対してキールは静かに口を開いた

 

この世にたった一つ叶わないと諦めていた望みがあります。

 

それは虐げられている愛する人が、幸せになってくれる事……

 

そう言うとキールはあろう事か王様の妾の一人を攫って逃げたのです。

 

攫った妾はかつて街で見かけた貴族の令嬢

 

彼女は親にご機嫌取りの為に王様の妾として差し出されました。しかし王様に可愛がられる事なくその上、正室や他の妾とも折り合いが上手くいかず虐げられていました

 

ならば要らないのであればと、キールは王様から彼女を攫ってしまったのです。

 

逃げる途中で攫ったお嬢様に求婚を申し込むと二つ返事で承諾されたキール

 

そこからは王国軍の追手と幾度も戦いを交えながらの愛の逃避行の生活

 

妻となったお嬢様を護る為に重傷を負い、それでも彼女を護り抜くのだと人を止めてリッチーにまで成ったキール

 

それでもなお妻は彼を愛し続け、国と戦いながら世界を飛び回る生活にも泣き言一つ言わずいつも幸せそうに笑ってくれていた。

 

やがて二人はとあるダンジョンに身を潜める事となり、そこで彼女は静かに最期を迎える事となった。

 

しかし妻に先立たれてもリッチーとなったキールは死ぬ事は出来ない。

 

そして横たわる彼女の骸がベッドの上で朽ち果て、白骨化する程の月日が流れた頃

 

とってもチャーミングで可愛く素敵なアークプリースト

 

100人がすれ違えば130人が失神するであろうと断言できる程の美貌を持つ超絶美しい水の女神がそのダンジョンに降臨されたのだ

 

一人の哀れなヒキニートを従者として連れてきたマジで美し過ぎる彼女の降臨にキールは心の底から喜び

 

どうか自分を浄化して欲しいと頼み込むと、慈悲深くて優しくて寛容な心を持つ女神様はそれを快く受け入れ、彼を天へと還し、不自然な胸を持つアレな女神の所へと導いてあげたのです。

 

そして「願うなら彼女に頼みなさい、どんな形でもいいからお嬢様と再び会いたいと、その望みはきっと叶うわ」と、消えゆく彼にそう助言まで言ってあげる洒落にならない程の神対応をする美しき女神

 

それを聞いて安心したのか、キールは一瞬安らいだような表情を浮かべると

 

すぐにフッとその姿を消し、無事に天へと還って行きました

 

もう一度愛する妻と会える事を心から願いながら

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、この話の中に出てくる超絶美女と称される程のナイスバディな女神様って言うのが、何を隠そうこの私って訳なのよ」

「……へぇ~」

 

山の中を歩きながら自慢げにドヤ顔を浮かべて

 

自分の事を指差す自称水の女神のアクアに、ずっと彼女の話を聞いてあげていたメレブが気のない返事をする。

 

「なんだろう、すげぇいい話だったのは認めるけど、その女神とかいう存在の表現がやけに誇張し過ぎててそこだけが非常にウザイ、キールとお嬢様の話は凄く良かったのに、女神の下りがしつこ過ぎてウザイ」

「2回もウザイって言わないで! 全て事実よ!」

 

地面に落ちてた松ぼっくりを拾ってそれを適当にほおり投げながらさっきまでの話を評価するメレブだが、それにアクアは不服な様子で振り返る。

 

「あの人が救われたのは私のおかげなのよ! 誇張でもなんでもないわ!」

「てかさ、それ本当の話? お前が作ったとかじゃないよね?」

「な訳ないでしょ! 全部本当の事よ! ダクネスも知ってるでしょ!」

 

自分を疑って来るメレブに本当の事だと叫ぶと、アクアはすぐに隣を歩くダクネスに同意を求める。

 

「アンタだってあの時裏切りめぐみんといたじゃないの!」

「いやまあ私はダンジョンの外で待機していたし、直接現場を目撃した訳じゃないんだがな、でもカズマからも話を聞いたし本当だという事は間違いないだろ」

「そっかーカズマ君が言うなら本当の事なんだろうなー、ごめんアクア、お前を疑ったりして」

「え、ちょっと、ちょっと待って……私が言っても信じないのにカズマが言ったらそんなあっさり信じるの……?」

 

カズマが言うのであれば間違いないだろうと頷くメレブとダクネスに、仲間同士の信頼性に不安を覚えてショックを受けるアクア。

 

「仲間の私よりも魔王とか名乗ってるあのヒキニートの肩を持つなんて信じられないわアンタ達……ねぇねぇヨシヒコはちゃんと私の事を信じて……は! ヨシヒコ!」

「うお! ヨシヒコお前!」

 

助け舟を探す感じで後ろを歩いていたヨシヒコの方へ話しかけるアクアだが

 

メレブと一緒に彼を見てギョッと目を見開く。

 

「超感動している! アクアの話を聞いて超泣いてるヨシヒコ!!」

「ピュアよ! ピュア過ぎるわヨシヒコ!!」

 

さっきまで大人しかったので気になってはいたのだが

 

なんとヨシヒコはこちらが気付かない内に目から尋常じゃない程の大量の涙を流し感動していたのだ。

 

凄い形相の泣き顔に一同が軽く引いていると、ヨシヒコは嗚咽漏らしながらアクアに近づき

 

「大変すばらしいお話で涙が止まりません、やはり女神は凄いです!!」

「いいわヨシヒコ! そういうリアクションが欲しかったのよ私は! 薄情な仲間と大違いだわ!」

「本当に感動しました、もう感動し過ぎて涙と鼻水が止まらな……ズズゥゥゥ!!!」

「ってちょっとぉ!! なに私の羽衣で鼻かんでんのよぉぉぉ!!!」

 

期待以上の反応をしてかつ自分を褒め称えるヨシヒコにアクアは悪くないとすっかり機嫌を良くするが

 

感動のあまり鼻から出て来た鼻水を拭う為に、ヨシヒコはちゃっかりとアクアが首に掛けている羽衣を手に取って鼻をかみ始める。

 

そんな彼を叱りながらアクアがヨシヒコから羽衣を取り返そうと躍起になっていると……

 

 

 

 

 

ヨ、ヨシヒコさーん! ヨシヒコさーん!

 

突如空に浮かぶ雲を割って、神々しい光がこちらに降り注がれる。

 

「あら? このタイミングでこの気配は仏……いや違うわね」

「んんん? なんか声が違う様な……いつものダミ声じゃなくてこれはもっと澄んだ女性の声っぽいような……」

 

ヨシヒコから強引に鼻水塗れの羽衣を奪い取って空を見上げながら首を傾げるアクア。

 

てっきりいつも通りに仏が空からお告げをしにやってくると思っていたのだが、明らかに声が違うと察して目を細めるメレブ。

 

すると彼等4人を前にして空から姿を現したのは

 

 

 

 

 

「ど、どうも……幸運を司る女神、エリス、です……」

「な、なにぃ!? エ、エリス様だとぉ!?」

「は!? なんでアンタが出てくんのよ!」

 

現れたのは仏ではなくまさかのアクアの後輩にしてダクネスが信仰している女神、エリスであった。

 

申し訳なさそうにこちらに軽く頭を下げながら出て来た彼女に、ダクネスは意表を突かれ、アクアは眉間にしわを寄せて首を前に傾ける。

 

「仏はどうしたのよ仏は! なにアイツってばもしかしてサボったの!? 無能のクセに仕事まで放棄したっていうの!?」

「いやそういう訳じゃないんです、実は先日……仏先輩は別の世界にいる時にちょっとした事故に遭って入院してまして……それでその代わりに私がこうして皆様の前に姿を現したって事情が……」

「あ、わかった。ちょっとした事故ってそれ、店の中で酔っ払ってその店の店員にボコボコにされた事でしょ」

「えぇー!? どうしてわかったんですか!?」

「いや事故現場直接この目で見たから私、アイツが出て来た時に店員に喧嘩売ってやられた瞬間まではっきり見たから」

「そうだったんですか……私は見舞いに行った時に初めて聞かされましたよ……」

 

どうやら仏はあの無愛想だの貧乳だの呼んでいた店員にとっちめられて別世界で入院しているらしい。

 

そして代わりにヘルプとしてやってきたのがこのエリスという訳だ

 

「わー、なになにエリスってたまに会話の中に出てくるあのエリス様? 結構可愛いじゃーん、年いくつ?」

「メレブ! 女神エリス様に対してその口の利き方はないだろ!」

「アハハ……」

 

砕けた感じでエリスに話しかけるメレブにダクネスに厳しく窘めている一方で

 

「あれ? あ、ヨシヒコ! あんたまさか!」

「……」

 

アクアはふと隣にいるヨシヒコをみてある事に気付いた。

 

ちゃんとエリスの方を見上げて、ヘルメット無しではっきりと肉眼で視認している事に

 

「見えるの!? 仏は見えないクセにエリスは普通に見えちゃうのアンタ!?」

「見えます、はい……ヘルメットを被らなくてもハッキリと」

「え、マジで? あ、ホントだ! ヨシヒコちゃんとエリスちゃんがいる方向向いてる!」

「あのー、私が見える事に何か問題でもありましたか?」

「あー大丈夫大丈夫、仏の時は普段この子ってば肉眼で見る事出来ないから」

 

ヨシヒコがこちらをまっすぐに凝視してくるのでエリスが困惑していると、アクアがいいからいいからと手を振る。

 

「逆に普通に見えてる事に驚いてるだけ、いいからアンタは話進めなさい」

「は、はぁ……」

「おいアクア! お前までエリス様に対してそんな態度を取るな! 天罰が下るぞ!」

「なんで私が後輩に対して態度改めなきゃいけないのよ、先輩よ私、水の女神のアクア様よ?」

「……そうだな、悪かったなアクア」

「えぇー!? なんで急に可哀想な目を向けるのダクネスさん!?」

「あ、あのー、それじゃあ話進めちゃっていいですか……? お告げっていうのやりますから……」

 

アクアとダクネスのやり取りを頬を引きつらせながら見下ろした後

 

エリスは小さく手を挙げて早速本題に入った。

 

「えとですね……皆さんが拠点としているアクセルの街に、実はリッチーが人に紛れて店を開いているらしいんですよ、それを是非調査、もしくは討伐を行って欲しいんです」

「すみませんリッチーとは一体なんでしょうか? 先程女神の話の中にも出ていましたが……」

「ヨシヒコさんのお仲間で例えるならあの……死体とかミイラとかいますよね? ああいうアンデッド系のモンスターを統率して操る事の出来る者で、アンデッドの王とも呼ばれています、上級魔術にも通じているのでかなり危険な存在です」

「凄い、流石はもう一人の女神、私の仲間である彼等の事も把握しているんですね」

「アハハ……まあ一応共に戦った仲なんで……」

 

自分の仲間として加わっている死体やミイラの事も把握した上で、リッチーという存在をわかりやすく説明してくれたエリスにヨシヒコが素直に感心していると、彼女は彼等に聞こえない様小声でボソリと呟きながら話を続ける。

 

「しかもそのリッチーはこちらの世界の魔王軍の幹部だという噂もあります、冒険者の街に何故入り込んでいるのかは知りませんが野放しにしていると危険です」

「ほう、こちらの世界の魔王軍の幹部、それは確かに見過ごせませんな、あの街には色々と世話になってるし」

「一刻も早くそのリッチーが人に害を与えるのかどうか詳しく調査して、もし何かしらの行動を起こして人々に何か危害を加える可能性があるとしたら、すぐにでも討伐して欲しいと思います」

「それって怪しかったらさっさと殺せって事?……見た目の割には結構シビアな性格してるんですねエリスちゃん」

「メレブ、ドサクサに紛れてエリス様をちゃん付けするな」

 

この世界を護る事を何よりも重要視しているエリスにとっては、人々に害を与える存在は絶対悪であり排除すべき存在でしかない。

 

そのリッチーが不審な行動見せたら暗殺なり正面から斬るなりしてくれとお告げを下す彼女にメレブがちょっと物騒だなと苦笑いを浮かべていると

 

「ねぇエリス、私とダクネスはその魔王軍の幹部のリッチーの事もう知ってるんだけど?」

「ええ!? そうなんですか!?」

「そうなんですか!?」

「そうなんでございまするか!?」

「いやなんでアンタ達もエリスみたいに驚いてるのよ」

 

あっさりとそのリッチーの事を知っていると呟くアクアにエリスが、続いてヨシヒコ、最後にメレブと三人揃って同じようなリアクションで驚くのをツッコミながらアクアが話を続ける。

 

「ダクネスも知ってるでしょ、あのロクでもない魔道具を売って全然儲けが無い貧乏リッチー、アイツの事よきっと」

「ああ、私もエリス様の話を聞いてすぐに思い浮かんだ、しかし魔王軍の幹部と言っても今は名ばかりで、おまけに人を害を与える様な真似をする様にはとても見えなかったぞ?」

「人に害を与えるかどうかについてはまだ完全に判明されてはないけどね、だってリッチーですもの、アンデッドを操るちょーえんがちょーな奴よ? 裏で何やってるかわかったもんじゃないわ」

「その言い方だと死体とミイラを操るヨシヒコもまたリッチーと並ぶ危険人物と判断されるんだが……」

 

うへぇと舌を出しながら思いきり嫌悪感を示して見せるアクアだが

 

アンデット系どころか魔物全般、その上精霊まで使役できるヨシヒコの方がよっぽどヤバいんじゃないかと、ダクネスは一般的な視点からボソリと呟く。

 

「だがあのリッチーは本当に危険だとは思えないぞ、見た感じちょっとドジでおっちょこちょいで商才の無い奴なだけなんだが……」

「見かけで判断してはいけませんよダクネス、リッチーなどという輩をそう簡単に信用してはいけません。キチンと詳しく調べてから問題ありかどうか判断するべきです」

「わかりましたエリス様! エリス様の神託を受け! 魔王軍の幹部であるリッチーの事を調べて来ます!」

「……エリス相手だとあっさり決断するのねアンタ、私の時はよく渋るクセに……」

 

騎士らしくエリスに返事するダクネスを、私だって女神なのに……と恨みがましい目つきを向けるアクア、

 

「話がまとまったんならとっととあのリッチーの所へ行くわよ、カズマの奴がいた時は邪魔されたけど、今度こそアイツを浄化してやるわ」

「いや出会ってすぐに浄化する気じゃないだろうなお前、まずは調査が先なのを忘れるなよ」

 

アンデット系に対しては何かと敵意を燃やすアクアに、ダクネスがジト目で釘を刺していると

 

エリスは「え~と……」と呟きながらお告げというのはコレでいいのかな?とこちらに首を傾げる。

 

「と、とりあえず私はコレで……皆さん頑張ってくださいね」

「あ、ごめん、最後に一個だけ聞いていい?」

「ええ、私が知っている事であればなんでも答えますけど」

 

お告げを終えて帰ろうかとしているエリスに不意に話しかけるメレブ

 

すると急にシリアスな表情を浮かべながらキリッと顔を上げて

 

「パッドバズーカ事件について詳しく聞きたいんだけど?」

「……」

「……待て女神エリスよ、何故無言で目を逸らすんだい?」

「……知りません」

「ほほう、知らない割には随分と間があったのは気のせいだろうか?」

「で、では私は帰りますので! 失礼します!」

 

メレブの問いを聞いた途端急に耳が聞こえなくなったかのように振る舞うエリスを見て

 

これは完全に何か知ってるなとメレブが踏んでいると彼女はそそくさと退散する準備を始めてしまう。

 

「それではご武運を!」

「おい逃げんなエリス! 仏から聞いてからずっと気になってんだよこっち! パッドバズーカって一体何があったんだオイ!!」

 

慌てて手を振りながらサッと雲の中に隠れて消えていくエリスに向かってメレブが叫ぶも

 

彼女の気配はあっという間に消えてしまった。

 

「一体いつになったら謎は解き明かされるのかパッドバズーカ事件……」

「私も以前に彼女に尋ねてみたんですが、忘れろと言われました」

「え~超気になるんすけど~」

 

杖を左右に振りながらどうしてもエリスの起こしたそのパッドバズーカ事件とやらを解明したいメレブであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてしばらくして、ヨシヒコ達はアクセルの街へと戻ると

 

早速魔王軍の幹部であるリッチーが営んでいるという魔道具店の前へとやって来ていた。

 

「ここが人々を脅かす魔王の手先がいると言われる店か」

「見た目は普通のお店にしか見えないけどな……」

 

店そのものは魔王軍の幹部がいますといったアピールも無くごくごく普通の見た目。

 

初めて見たヨシヒコとメレブは顔を上げてまじまじと見つめる。

 

「そういえばさ、さっき話してたキールって魔法使いもリッチーになったんでしょ? でもリッチーになってもそんな悪い事とかしてなかったみたいだし、ここにいるリッチーも悪い事した話が今まで無いなら、案外普通に無害かもしれないぜ?」

「甘い、甘すぎるわメレブ、キールはあくまで特別な例よ」

 

振り返って尋ねて来るメレブにアクアはやれやれと首を横に振る。

 

「コイツは魔王軍の幹部にまで成りあがってるの、リッチーに成った上に魔王の手先になるとか、もうコレ100パー何か企んでるでしょ、100パー黒でしょ絶対」

「そうですね、人々を苦しめる魔王の手先になるとは、これは許される事ではありません」

「流石わかってるわねヨシヒコ、それでこそ勇者よ、そんな勇者に女神たる私が神託を下すわ」

 

自分の話をあっさりと受け入れてしまうヨシヒコにアクアは肩に手を置きながら賞賛していると

 

店のドアの前まで連れて行き彼に指示を伝える。

 

「中入ったら速攻斬りなさい」

「はい!」

「はいじゃない! アクアの話を鵜呑みにするなヨシヒコ! お前はどうしてアクアの言う事をなんでも信じるんだ!」

 

ニヤリと笑うアクアに斬って来いと命令されて力強く返事するヨシヒコに

 

ダクネスが後ろからすぐに止めようとするが、既にアクアはドアノブを回して

 

「はい開けた! はい次ヨシヒコGO!! 斬って斬って斬りまくりなさい!」

「魔王軍の幹部! 覚悟ぉぉぉぉ!!!」

「っておい! まず話を聞く所から始めろってエリス様に言われただろ! く! カズマがいてくれたら……」

「前から思ってたけどアイツ、ヨシヒコ乗せるのホント上手いな……」

 

勝手に開けて勝手に店の中へとヨシヒコを突撃させるアクア

 

ダクネスが嘆き、メレブがちょっと感心している中、ヨシヒコは雄叫びを上げながら店の中へとお邪魔した。

 

すると

 

 

 

 

 

 

「あ、いらっしゃいま……えぇ~~~~!?」

 

剣を構えたまま乱暴にヨシヒコが店内へ突撃すると、奥から現れた店主と思われし女性が顔を出してきた。

 

戦う気満々の様子の彼を見て素っ頓狂な声を上げつつ、オドオドした様子で後ずさりしているとアクア達も店内へと入って来る。

 

「御用改めよ、神妙にお縄に付きなさいリッチー」

「ってああアクアさん! お久しぶりですね何か御用……え? お縄に付けってどういう事ですか!?」

 

入って早々ジト目で指を突き付けてきたアクアに、女性が困惑の色を浮かべていると

 

ダクネスがメレブとヨシヒコに説明してあげる。

 

「ほらあれがリッチーのウィズだ、一応魔王軍の幹部らしい」

「えぇ~~~~!? アンデッドの王っていうからてっきり死体やミイラのお仲間だとばかり思ってたのに!」

 

彼女がエリスが言っていた魔王軍の幹部・リッチーことウィズだと聞かされて驚くメレブ

 

見た感じ自分達と変わらない人間であるし、かなり綺麗な女性だしそれに……

 

「ボインボインですやん! ボインボインし過ぎておりまんがな! ビッグボイン!!」

「なんだそれ、呪文か何かか?」

 

ウィズの豊かに実った胸を見てつい思いきり叫んでしまうメレブ。

 

何言ってるのかわかってない様子のダクネスが怪訝な表情を浮かべていると、ウィズが恐る恐るこちらに近寄って来て

 

「あの、もしかしてウチに何か御用でしょうか? それとそちらのお二方の男性は初めて見るんですけど……」

「ああ、そうだったな。コイツはめぐみんに代わって私達の仲間に入った魔法使いだ、一応」

「どうも、ボインです、じゃなかった、メレブです」

 

胸のせいで名前を言い間違えながらウィズに微笑むメレブ

 

そしてアクアもまた剣を構えて立っているヨシヒコの肩に手を置いて

 

「そんでコイツがカズマに代わって仲間に加わったヨシヒコよ、はいヨシヒコやっちゃって、こんなリッチーとっととやっつけちゃって」

「ア、アクアさんやっつけるってどういう事ですか? 先程からどうも物騒な感じがするんですけど……」

 

さっきからヨシヒコにウィズを斬れと頑なに命令するアクアの頭を掴んで、すっかり怯えているウィズに代わりに頭を下げるダクネス。

 

「すまない、アクアの奴どうも好戦的になっていてな、私から言っておくから安心してくれ。それとヨシヒコもいいい加減剣ぐらい下ろせ……っておいヨシヒコ?」

「ちょっとどうしたのよヨシヒコ~? 早くこんなアンデッド倒しちゃいなさいよ~ってあれ?」

 

ダクネスに頭を掴まれたままアクアはヨシヒコの方へ顔を上げるとふとおかしな点に気付く。

 

さっきからウィズと対峙したままヨシヒコは全く微動だにしないのだ。

 

すると「どうしたどうした~?」とメレブもまた不思議に思ってヨシヒコの前へと立ってみると

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ど、どうしたのよメレブ! 一体何が……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「なんだヨシヒコがどうかしたのか、まったく世話の焼ける……あぁぁぁぁぁ!!!」

「えーと、どうしたんですか皆さん?」

 

困惑しているウィズをよそに三人はヨシヒコの姿を前から見て同じように声を上げる。

 

何故かというとそれは……

 

 

 

 

 

 

「ヨシヒコの目が! ピンクのハートの形になってしまっている!」

「古典的だわ! 古典的過ぎるわヨシヒコ!」

 

ヨシヒコの両目に付いているのはちょっと大きめの形をしたピンク色のハートではないか。

 

どうやらウィズと初めて顔合わせた瞬間から、彼は……

 

「ま、まさかヨシヒコの奴、ウィズを一目見た瞬間……」

「うむ、間違いない、この見た目、このビッグボイン、よくよく考えればこれはヨシヒコにとってこのウィズという者は正に理想の女性に違いない」

 

ちょっと大人しめな印象とはちきれんばかりの巨乳であるウィズを改めて確認したメレブは、予感しているダクネスと信じられないという表情を浮かべるアクアにハッキリと頷く。

 

 

 

 

「ヨシヒコは……彼女に恋をしてしまいました!!」

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

「あ、あの……私だけ話が良く見えないんですけど……」

 

 

 

ヨシヒコ、初めての異世界で恋に落ちる。

 

 

 

 

 


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