勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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陸ノ三

ヨシヒコとウィズが出会ってその日の夜に結婚式を挙げる

 

この前代未聞の事件を前に、夕方頃、三人の仲間は拠点としている屋敷で集まり緊急会議を行う事にした。

 

「さてさてさ~て、とんでもない事態になりましたなぁ」

「そんな呑気に言ってんじゃないわよ! 勇者がリッチーと結婚とか何考えてんのよヨシヒコの奴!」

「それも会ったばかりの相手、魔王軍の幹部でカズマ達と繋がっている疑いがもたれているウィズだ、ヨシヒコは時折おかしな行動をするのは知ってはいたが、こればっかりはホントに訳が分からないぞ……」

 

屋敷の居間にて三人揃って各々呟き始めるメレブとアクアにダクネス

 

すると突然、屋敷のドアがバン!と勢いよく開かれた。

 

「ヨシヒコがリッチーと結婚するって本当!?」

「クリス!? お前どこでその話を聞いたんだ!? 私達だって数時間前に聞いたばかりだぞ!」

「い、いやほら、アタシって街の情報をくまなく調べる事には長けてるからさ……」

 

何故かヨシヒコの結婚話まで知ってしまっている様子のクリスが血相変えて中へと入って来た。

 

どういう経緯で彼女の耳にその話が入ったのかダクネスが疑問に思ってる中、クリスは苦笑しつつ話を切り出し始める。

 

「アタシの事よりもヨシヒコだよヨシヒコ! 魔王と戦う事を宿命とする勇者が結婚してるヒマなんてないのに! 決戦の前に結婚とかどう考えても死亡フラグだし!」

「クリスの言う通りよ、この結婚はすぐに阻止するべきだわ、そしてドサクサに紛れてウィズを暗殺しましょう」

「そ、そこまではアタシ言ってないよアクアさん!」

「しかしだな、アクアにクリス……私はどうしても解せない所があるんだ」

 

自分の意見に賛同し更にやりたい事も付け足すアクアにクリスがツッコむ中

 

ダクネスはさっきからずっと浮かぶ疑問に眉をひそめていた。

 

「ヨシヒコはともかく、どうしてウィズはアイツとの結婚を了承したのだろう。彼女はヨシヒコやアクアと違って常識的な考えを持っていたと思うんだが」

「ねぇちょっと、なんでさりげなく私も非常識な考えを持ってる人にカウントされてるの?」

「ダクネスよ、俺もそこをずっと疑問に思っていた。どうして彼女があのアクアと同じくバカを体現した男、ヨシヒコと今夜の内に結婚しようなどという愚かな選択をしたのか」

「メレブ、アンタ今私の事もバカだって言ったでしょ? 殴られたいの? メレブさんとダクネスさんは私のゴッドブローで殴られたいの?」

 

さり気なく自分の事も小馬鹿にして来るメレブとダクネスにアクアが無表情で拳を構えていると

 

再び屋敷の扉がバァン!と勢いよく開かれた

 

「おいメレブ! ヨシヒコの奴が結婚するというのは本当か!?」

「ったく何してたんだよお前等! どうしてヨシヒコの結婚止めなかったんだよー!」

「っておいおいおいおい!! え!? ダンジョーとムラサキ!? なに当たり前のようにウチに来てんの!?」

 

慌てて中へと入って来たのはかつての仲間であり今は竜王軍の一員であるダンジョーとムラサキであった。

 

さも当然の様に登場してきた二人に、メレブはやや混乱しつつ立ち上がって彼等の方へ歩み寄る。

 

「もしかしてお前達もヨシヒコの話聞いたわけ!? どうやって!?」

「私はあのデカ乳女の所にまた買い物行った時に、本人に直接ヨシヒコと結婚式を挙げるって聞かされたんだよ」

「俺はまあ……行きつけの店から帰る途中でコイツから話を聞いた」

「え、なに? お前等って普通に町の中を歩き回ってんの? 竜王が何処にいるのかもわからない俺達を差し置いて、お前達は俺達の住む場所まで知ってる訳?」

 

 

ムラサキはウィズから直接、ダンジョーは例の店から帰る途中で彼女と会って話を聞いたらしい。

 

竜王軍の幹部である二人が普通にアクセルの街中を歩きまわっている事にメレブがいささかショックを受けるも

 

ムラサキはめんどくさそうに手をヒラヒラと振って

 

「そんなのお前等がマヌケなだけじゃん、それよりも今はヨシヒコの話が先っしょ」

「ムラサキの言う通りだ、今は魔王の仲間だの勇者の仲間だの言い合ってる時ではない、あのヨシヒコが結婚するという話の方が大切だ!」

「……お前等もう、普通にこっちに戻ってきた方が良いと思うよ、うん」

 

本当竜王に操られているのかと今のムラサキとダンジョーを見ながら激しく疑問に思いつつ

 

メレブは今の仲間であるアクアとダクネスの方へ振り返る。

 

「っとまあこんな事言ってますけどどうします?」

「仕方ないわね、こうなったらコイツ等も連れて一緒に結婚式に参加してやりましょ、そして何もかもぶち壊すのよ」

「おお水色頭、話わかってんじゃんお前」

「私だって腹が立ってんのよ、あのビッチリッチー略してビッチー、ヨシヒコなんかのプロポーズにコロッと乗せられるなんて」

「私もあの女前々からいけ好かなかったんだよねー、なにあのおっぱい? 見てるだけで超ムカつく」

 

二人の参加にアクアが珍しくすぐに認めると、ムラサキも彼女の意見に賛同し何度も頷いた

 

ダクネスもまたダンジョーに目をやりながらしばしの間を置くとゆっくりと呟く。

 

「この者達は確かに私達の敵ではあるが、今のヨシヒコに対してだけは恐らく私達と同じ気持ちだろう。旧知の仲間である彼等の話を聞けば、ヨシヒコも正気に戻ってくれるやもしれんしな」

「まあ俺達は確かにヨシヒコの敵だ、しかしアイツがまた下らん事に現を抜かして魔王の戦いから脱落しかねん真似はこちらも早急に対処しなければならん、ここは一時的に共闘を結んでやる」

「フン、だがせいぜい私達に油断する事無いようにな、うっかり背中を見せたらその時は仮にも戦士であるならわかるだろ?」

「その言葉そっくり返してやろう、あくまで俺達の主は魔王カズマ、いずれはお前達まとめて倒してやるから覚悟しておけ」

 

相手に対して全く警戒は緩めていないと、ダンジョーとの一時的共闘(三度目)を了承するダクネス。

 

そして一人残されたクリスにメレブが振り向き

 

「それで胸平2世、お前も俺達と共にヨシヒコの結婚式に来るのか?」

「何そのあだ名今すぐ止めてほしいんだけど……いやそりゃアタシだってヨシヒコにはキチンと自分の役割を全うして欲しいし、その為ならなんだって……ん?」

 

 

こちらの胸を見ながら変なあだ名で呼んでくるメレブにクリスは不愉快極まりない様だが結婚式には参加する事に。

 

 

だがそんなクリスに驚愕の表情を浮かべ絶句する者が一人

 

彼女と同じく胸が乏しいムラサキである。

 

「おお……おお! おおぉ~!!」

「え、なに!? 急にアタシの胸の前で手を振ってどうしたの!?」

 

何故か嬉しそうに自分の胸元の前でブンブンと手を上下に振るムラサキにクリスが戸惑っていると

 

そんな彼女に向かってムラサキは嬉しそうにガッツポーズを取って

 

「頑張って……!」

「な、なんかエール送られたんだけど!? どういう事!? どういう事なのメレブ!?」

「仲良くやってあげて、初めて心の底からわかりあえる同志を見つけられて喜んでると思うから」

「そして君はなんでいきなり泣いてんの!?」

「あまりにも哀れでつい……」

 

ムラサキがクリスに何かしらのシンパシーを感じてる様子に、困惑してるクリスをよそに思わず涙ぐむメレブ

 

「これからも貧乳と貧乳で傷のなめ合いをしてあげて……」

「君達ってどうしてそう……人のコンプレックスをいちいち突いて来るのかな……」

「そしてそんな胸平シスターズに悲しみと哀れみを抱いている俺は……」

 

 

 

 

 

「新しい呪文を覚えたよ」

「ってここで!?」

「ここでだよ、急にフッと頭に舞い降りて来たんだよ」

 

目を拭い終えると一瞬にしてこちらにドヤ顔を浮かべて突如新しい呪文を覚えたと報告するメレブ。

 

しかしそれを聞いてもなおアクアと、そしてムラサキははぁ~とため息吐いていく首を傾げ

 

「もうさ、そういうのいいのよホント。相も変わらず役に立たないんだから」

「どうせお前の事だからロクでもない呪文なんだろ?」

「アクアムラサキバカ、ホントバカ、原作での扱い(笑)、今回は仲間にだけ掛ける事の出来る、画期的な支援魔法なのだよ」

 

二人揃って文句を垂れてくるのでメレブは得意げに返事しつつ、持っていた杖をすぐに構えた。

 

「それを今から見せてやる、ダクネス、今回はお前に掛けてしんぜよう」

「わ、私にか……? よしいいだろう、支援魔法なら今後役に立つかもしれないしな」

「まあダクネスったら、アホアクアと違って話の分かる本当に良い子、そしてそんな良い子のダクネスにすかさず! せい!」

「うお!」

 

やや緊張した面持ちで掛けられる態勢に入ったダクネスにメレブは瞬時に杖を振って呪文を掛けてみた。

 

しかしダクネスの見た目は何も変わらない

 

「はぁ? なんにもなってないじゃないのダクネス」

「はいはいやっぱ使えない呪文でしたー、残念でしたー」

「お黙り駄目ヒロインコンビ、よく見てみろ」

 

何も効果が無いではないかとアクアとムラサキに馬鹿にされてもなおメレブはニヤリと笑みを浮かべたままだ。

 

すると呪文を掛けられたダクネスは急に顎を手で当て考えるようなポーズで

 

「青春を楽しむ愚か者共は砕け散ればいい……」

「は?……は?」

「青春とは嘘であり、そして悪である」

「ねぇメレブさん、ダクネスがちょっとおかしなこと言ってるんですけど……」

「よし! 呪文成功!」

 

急にボソボソと近づかないと聞こえない声量で呟き始めるダクネスにアクアが怪訝な様子で目を細めている中で

 

メレブは嬉しそうにガッツポーズを取っていた。

 

「この呪文はな、掛けられた仲間はいわゆる周りに対してちょっと斜に構えた態度を取り、いかにも「俺人生悟っちゃってるんで~、まあでも君等には理解出来ないと思うけど~」とひたすら捻くれて物事にも素直に対処しない性格になってしまうのだよ、強いてその症状の名を言うのであれば……そう「高二病」、そして俺はこの仲間を高二病にする呪文を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「オレガイル」っと今さっき命名しました」

「いや仲間を高二病にするとか支援じゃなくて弱体化させてるだけなんだけど……」

「バカか貴様、敵としての立場で考えてみろ、こんな周りから一歩引いて状況を上手く見れてる俺カッコいいと思い込んでる可哀想な人が出てきたら……哀れでしかない! 故にそいつだけを避けて戦う様にする筈! つまりこれは相手の攻撃を避ける為の呪文だ!」

「いや味方一人使い物にならなくなるんだから結局戦力が減るだけじゃないの!」

「なぜ自分の感じている楽しさを、自分の正しさを、己一人で証明できないのか……」

「ちょっとー! なんかダクネスの目が死んでるんですけどー! 死んだ魚のような目になってるんですけどー!」

 

濁った目を天井に向けながら急に演説でもおっ始めそうな雰囲気のダクネスに引きつつ、アクアはメレブに早速ツッコミを入れていくのであった

 

そして今回も役に立たない呪文を覚えた所で、時間もそろそろと言う事でムラサキが親指で館のドアを指差す。

 

「もうコイツの使えない呪文とかどうでもいいからさっさとヨシヒコの所へ行こうぜ、結婚とか絶対阻止しないと」

「あ、そういやムラサキさ、結婚で思い出したんだけどお前ほら、例の……」

「え、なに例のって……? あ」

 

式場へと行こうと促すムラサキにメレブはふと思い出したかのように彼女に何か言いたげな表情で

 

彼が何を言おうとしているのかムラサキがうっすらと察しているとメレブが突然両手でパチパチと鳴らし始め

 

「とりあえず、おめでとう、例の件、本当におめでとう」

「いやちょ……止めろってもー!」

 

メレブに祝福されて満更でも無さそうに照れ臭そうにはにかむムラサキ

 

「よかったなムラサキ、長続き……するといいな……」

「……おいオッサン、いきなりネガティブな事言わないでくれる?」

 

かつて自分で経験したかのように苦い表情を浮かべながら呟くダンジョーに嫌な顔をするムラサキ

 

「結婚とは人生の墓場だ、せいぜい仮初の幸福で作られた一時の幻影の中で生き続けるがいい」

「おい金髪デカパイ娘コラァ! 何様だよテメェはよぉ!」

 

死んだ目をこちらに向けながらフンと鼻を鳴らして悪態をついて来るダクネスに詰め寄って胸倉を掴もうとするムラサキ

 

「待ってムラサキ! ダクネスはまだ術に掛かってるせいで変になってるだけだってば!」

「あ、クリスつったっけ?……お前もそんなんだけど……私みたいにチャンスあるからね絶対!」

「え、なんで励まされたのあたし……」

 

混乱するクリスに対しては何故か優しく励ましの言葉を送るムラサキ

 

「ねぇねぇなんでみんなムラサキに言葉送ってるの? あ、きっとアレね! 私知ってるわよ! アレでしょアレ! 相手の名前何だっけえ~と……あ! そうそう!」

 

周りから言葉を貰っているムラサキに最初はわからなかったアクアだが

 

すぐに分かった様子で手をポンと叩いてムラサキを指差し

 

 

 

 

 

「タマキン! アンタあのタマキンとアレなんでしょ! タマキンよね! タマキンとアンタがまさかの……いったッ!!!」

「うおぉらぁーッ!」

「ムラサキ、もっと本気で蹴っていいよそいつ」

「水色頭……そういうのを面白半分に言うのは俺もどうかと思うぞ、例えギャグであろうと……そういうのはいかん」

「アクアさん、そればっかりは絶対に洒落にならない……マジで謝ってお願いだから」

「流石に私も素で幻滅したよお前には」

「え、どうして!? 私なんで周りから冷たい目を向けられてるの!? 私もアンタとタマキンさんの事を祝福してあげようとしたのにーッ! いったい! ホント痛い! ごめんなさいムラサキさん! 許して下さい木南さん!」

 

思いきり名前を間違えてくれたアクアのお尻にムラサキ渾身の回し蹴りが炸裂。

 

しかしメレブ、ダンジョー、クリス、そしてダクネスまでもが完全にムラサキの行動を支持し、アクアに対してひどく冷たい視線を向けながら傍観するだけ

 

その後、日が落ちるまでムラサキは泣き叫びながら謝るアクアのお尻にキックをかますのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてしばらくして、ムラサキにお祝いの言葉を送り終えた後、ヨシヒコから聞いた式を挙げる場所だと思われる所に一行は辿り着いた。

 

「約束通り指定された場所に来たけど……」

「うーむ……どう見てもここは……」

「墓場じゃないのー!」

 

街から離れた場所にポツンとある寂しげな雰囲気の墓地

 

月が昇る夜空の中でこんな所に来る羽目になるとはと、メレブとダンジョーが嫌がってる中アクアも早速文句を上げていた

 

「本当にここでヨシヒコは結婚式おっ始める気なの!?」

「うーん、ねぇアクアさん、さっきからアクアさんを中心に周りから亡霊の気配がウジャウジャと沸き出てるような気がするんだけど……」

「それは仕方のない事よクリス、私はアンデットを引き寄せる体質なの、女神の宿命みたいなモンね」

「いやアタシはちゃんと力を制御……まあ先輩なら仕方ないか、うん……」

 

周りに並ぶ墓から未練を持った亡霊たちが集まって来るのをクリスは眺めつつ

 

それを仕方ないと得意げに語り出すアクアに呆れながら奥へと進んで行った。

 

そして彼女の隣を歩くのは

 

「ぼっちは平和主義者なのだ。無抵抗以前に無接触。世界史的に考えて超ガンジー……」

「ねぇメレブ! ダクネスがまだ元に戻らないんだけど! さっきからずっとネガティブな事ブツブツ呟いてて亡霊以上に怖いよ!」

 

まだ隣で死んだ目をしながら何か意味不明な事を口走ってるダクネス

 

クリスが怯える中で後ろからメレブが嬉しそうに

 

「フフ、驚いたかペチャパイ盗賊、実は俺がダクネスに掛けた新呪文『オレガイル』は……何故だか知らないが効力の時間が物凄く長いのだよ」

「つまりますます役に立たない呪文って訳だね! もう二度と使わないで!」

「怒られちゃったー」

「お前私の大切な友達を怖がらせてんじゃねぇよ」

「……なんでだろう、今日会ったばかりのムラサキが妙にアタシに好意的だ……」

 

怒られたメレブにムラサキが睨みを利かせているのを、自分の胸を抑えながらクリスが一人戸惑っていると

 

「お待ちしていました、皆さん」

「あ! ヨシヒコ!」

 

そこへ前方から嬉しそうにヨシヒコが歩み寄って来た。

 

「まさかダンジョーさんムラサキ、それにクリスも来てくれるとは嬉しい限りです、コレなら式がより大いに盛り上がりますね」

「ヨシヒコ! 今すぐ正気に戻りなさい! あんなリッチーなんかと結婚しちゃ絶対アンタ不幸になるわ!」

「あんなデカパイ女にたぶらかされてんじゃねぇよヨシヒコ!」

「ヨシヒコ冷静になれ、結婚というのは……そう簡単にしてはいかんのだ……」

「わぁ。ダンジョーだけ自分の体験談みたい……」

 

会って早々すぐに問い詰めにかかるアクアとムラサキ、そして歯切れの悪そうに呟くダンジョーに思わず笑ってしまいそうになるメレブ。

 

そんな中でクリスだけは遠慮しがちに

 

「ねぇヨシヒコ、式を挙げる場所って本当にここで合ってるの? ここ墓地なんだけど……」

「そうだ、ほら、こうして私の仲間の魔物やウィズさんが呼び寄せた者達が集まって式の準備を始めている」

 

ヨシヒコがそう言うと後ろに振り返り

 

そこでは墓地の中でポツンと置かれている、もう利用されていない廃墟同然の教会がポツンとあった。

 

その教会の前ではヨシヒコが仲間にしたロボや冬将軍が、受付をしているかのようにテーブルを前にして椅子に座っている。

 

「ああ、あのロボ大人しくなったんだ……冬将軍もまたこっち戻って来たんだね……」

「あの2匹が受付って相当シュールだな~……」

 

ロボと冬将軍とは一緒に戦った仲であるクリスが頬を引きつらせ苦笑していると

 

メレブは場違い間半端ないその2匹を見て小首を傾げる。

 

「ていうか受付がいるって事は俺等以外に式に参加する奴っているの?」

「もちろんですよメレブさん、もう既に親族の方々がお見えになっています」

「親族?」

「参加者は皆さんで最後です、さあもう始まりますので早く行きましょう」

 

そう言ってヨシヒコは自分達も教会に入ろうと促すのだが

 

「待ちなさいヨシヒコ! 今回私達がここにきたのはアンタとウィズが結婚するのを止めに来たのよ!」

「そうだそうだ! いい加減お前のその巨乳だから好きになるって体質をどうにかしろー!」

 

そこでアクアとムラサキが単刀直入に本題を切り出す。

 

しかしヨシヒコはそんな二人に対して頭の上に「?」を浮かべてキョトンとした表情

 

「どういう事ですか?」

「どういう事もこういう事もそういう事もないわよ! 女神として勇者のアンタをリッチーのウィズなんかと結婚させる訳にはいかないって言ってるのよ!」

「私とウィズさんが結婚……?」

 

威勢良く啖呵を切って詰め寄って来るアクアに、ヨシヒコは眉をひそめて首を傾げ

 

 

 

 

 

「もしかして皆さんは何か勘違いしてませんか? 今回結婚するのは私とウィズさんじゃありませんよ」

「へ? だってアンタ、自分とウィズで結婚式を挙げるって……」

「はい、それは言いました」

 

周りに変な空気が突然流れ始める。

 

あれ?っといまいち状況が呑み込めない一同の代表として尋ねて来たアクアに

 

ヨシヒコはハッキリと頷きながら答え始めた。

 

「けどそれは新郎新婦としてではなくて、結婚式を挙げる為の準備やお手伝いを二人でするという事です」

「え?……つまりアンタとウィズは結婚しないって事?」

「はい、今回の主役は私達ではありません」

 

首を横に振って自分とウィズが結婚する訳ではないと否定するヨシヒコにアクアとムラサキがしばし口をポカンと開けていると

 

やや混乱している様子でダンジョーがヨシヒコの方へ一歩前に出る。

 

「では今回は……一体誰が結婚するというのだ?」

「皆さんが知っている者達です」

「俺達が知ってる者達……? 一体誰の事を言ってるんだ?」

「それは……」

 

 

 

 

 

 

 

数分後、ヨシヒコ達はみんな教会の中にいた。

 

そこにはもう新郎新婦の親族たちが所狭しと座っている。

 

アンデット系の魔物がウジャウジャと

 

「あの……すげぇ周りにゾンビ系の魔物がいるんだけどヨシヒコ……」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! こんな所にいたくない! 早く出たい!」

「せんぱ……! アクアさん騒がないで! 隣のゾンビがめっちゃこっち見てるから!」

 

あちらこちらで見た事ある様なゾンビ系の魔物が沢山座っており

 

一緒に座りながらもメレブは困惑し、アクアは泣き叫び、クリスはそんな彼女を必死になだめている。

 

そんな中でダクネスは一人足を組んで偉そうにふんぞり返り

 

「フン、人は誰しもいずれは死ぬ時が来る。故に今周りにいる死体などただの己の未来の結末でしかない、己の未来に怯えてどうする、死ぬ事など別段驚くべき事でも無いのだからな」

「……そういえばさっきからダクネスの様子がおかしいんですけどなにかあったんですか?」

「気にするなヨシヒコ、メレブが呪文を掛けてからずっとこうだ」

「なんかしばらくこうなんだとよ、乳だけじゃなくて態度までデカくなりやがってコイツ……」

 

急にキャラが変貌しているダクネスの姿にヨシヒコが不思議そうに見ていると、隣からダンジョーとムラサキがめんどくさそうに簡単に説明してあげていると

 

 

 

程無くしてガチャリと教会の門が開き

 

そこから新郎新婦がいよいよお見えになった。

 

今宵結婚式を挙げるその二人とは

 

 

 

 

 

ヨシヒコの仲間となった死体とミイラである。

 

「「「「「えぇぇぇー!?」」」」」」

 

まさかの新郎新婦に一同が驚いてる中、二匹は親族に祝福されながら腕を組んでヴァージンロードを歩いて来たのだ。

 

「ごめんちょっと良いツッコミが思いつかない! なになになに!? ヨシヒコが結婚式を挙げようとした相手……まさかのアイツ等!?」

「いつの間にそんな間柄になってたのよ! ていうかとりあえず私から素朴な質問があるんだけど聞いていい!? どっちがオスでどっちがメス!?」

「落ち着けアクア! 多分ミイラの方がオス! 正式名称がミイラおとこだったしメスの可能性は多分ない!」

「じゃあ私の事を執拗に蹴って来たあのいけすかない死体はメスだったっていうの!?」

 

とりあえず状況を全く呑み込めずにメレブとアクアがややパニックに陥っている中で

 

唖然とした表情を浮かべるクリスが、恐る恐る隣に座るヨシヒコの方へ

 

「ね、ねぇヨシヒコ、あの2匹っていつの間にそんな関係に……は!」

「おおヨシヒコが! ヨシヒコが新郎新婦を見て漢泣きしている!」

「ドン引きよ! まだ親族誰一人泣いてもいないのにガチ泣きするとかドン引きだわヨシヒコ!」

 

仲間の二匹が結婚する姿を見て感動のあまり嗚咽を漏らしながら本気で泣いているヨシヒコに

 

クリスは驚き、メレブとアクアも仰天の声を上げると、ヨシヒコは鼻をすすりながら涙を腕で拭う

 

「すみません……ただあの二人がやっと皆に祝福されながら式を挙げられるのだと思うとつい……」

「え~とヨシヒコ、アタシ達まだ理解出来ないんだけどこの状況……せめてどうしてヨシヒコがこの式を挙げようとしたのか教えてくれるかな?」

「実は……前々からあの者達には式を挙げたいという強い希望を私は聞いていた」

「そうだったの!?」

 

ヨシヒコにハンカチを貸してあげながらクリスが死体とミイラの事について問いかけると

 

彼は受け取ったハンカチで涙を拭きつつ鼻を噛みながら話し始めた。

 

「あの者達は前世の頃から出逢っていて、結婚できたのは良いが身分差もあって親族や友人等、誰一人からも祝福されない夫婦だった」

「いきなりすごい事話し始めたね! 前世の頃から夫婦だったって! あの死体とミイラにそんなロマンスエピソードが隠されていたの!?」

「それでも二人は幸せだったんだが、その後妻は先に亡くなり、夫はそれからしばらく経った後に亡くなり、二人は違和感のある膨らみ方をしている胸を持つ女神の力によって生まれ変わって再び巡り合う事が出来たらしい」

「い、違和感のある膨らみ方をした胸を持つ女神……だ、誰の事それ? 私そんな女神知らないよ……?」

 

彼の口から死体とミイラの過去を知り、更に二匹を生まれ変わらせた女神の事を聞いてクリスが何故か戸惑っていると、ヨシヒコは再度口を開く。

 

「生まれ変わった時にはもう前世の記憶は無かったみたいだが、二人は出逢った瞬間過去の沢山の思い出が蘇ったらしく、そして彼等は今度こそ周りに認められた結婚式を挙げたいと私に頼み込んで来たんだ」

「いや先輩から頼まれたから出来るだけ生まれ変わり先は二人共近しい所にしようとやったんだけど……まさかモンスターになっていたなんて……と、とにかく死体とミイラの話はわかったよ、その話を聞いたからヨシヒコは結婚式を挙げようとしたんだね」

「ああ、しかし肝心の牧師的役割の適任がどうしても見つからなくて困ってた時に……」

 

ブツブツ呟きながらもうちょっとマシなモンに転生させてあげればよかったなどと、おかしな事を口走りながら後悔しているクリスをよそに

 

ヨシヒコはふと死体とミイラの前に立つ一人の人物に目を向ける。

 

「リッチーはアンデットの王と呼ばれる存在だと女神から聞いたので、それならばとウィズさんにお願いしてみたらあっさりと承諾してくれた」

「え、え~と、ミイラさんでしたっけ? あなたは死体さんを妻と迎える事を誓っちゃいますか~?」

「まあアンデット同士の結婚なら確かにリッチーが牧師役になるのは妥当かもね……すんごい下手くそだけど彼女」

 

教壇に立ち、緊張した様子でたどたどしい口調で死体とミイラに声を掛けていくウィズをやや不安げに見つめながらぼやきつつクリスはようやく事の真相がわかった。

 

ヨシヒコは彼女と結婚するつもりで式を挙げようとしたのではない

 

仲間の死体とミイラの願いを聞き届ける為にウィズに手伝って貰って式を挙げたのだ。

 

そしてクリスと同様、周りで聞いていた一同も納得した様に頷く。

 

「死して生まれ変わった後も変わらぬ愛か……フ、そこまで互いを想い合う心があるとは大したもんだ」

「死体とミイラってのがおかしいけど、私はちょっと羨ましいかも」

 

 

ダンジョーとムラサキが微笑みながら呟く隣で、メレブとアクアもぼんやりと結婚を誓い合っている二人を見つめる。

 

「いくらアンデット嫌いのお前でも、空気位は読めるよな」

「あのね、私だってちゃんとそれ位出来るわよ、まああの死体の方には色々とムカつく事があるけど今日ばかりは特別に……ん?」

 

メレブに言われてムスッとした表情で返事しながら、ウィズの下で愛を誓い合う死体とミイラを見つめていたアクアはパチクリと目を大きく見開いた。

 

それと同時に他の一同も「あれ?」と不思議そうに彼等を見つめ

 

ヨシヒコだけはただ嬉しそうに頷く。

 

 

教会の窓から照らされた月の光が浴びた2体のアンデットがぼんやりと別の姿に見えた

 

 

 

それはそれは気品に溢れた美しく優しそうなお嬢様と

 

 

みずぼらしい身なりでありながらも彼女の事は命に代えても護ると強い決意を目に秘めたカッコいい魔法使いであったそうだ

 

 

 

 

 


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