勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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漆ノ二

ヨシヒコ達は仏のお告げにより北東へと向かい、ダンジョー達を元に戻すアイテムを取りに地下ダンジョンの入口へと来ていた。

 

もう災難な目に遭うのはこりごりだと嫌がるアクアを無理矢理連れて

 

「いーや離して! もう私は酷い目に遭うのはコリゴリなのー!」

「女神、我々には女神の癒しの力が必要なんです」

「知らないわよそんな事! 早く離し……あれ?」

 

ダクネスとヨシヒコで代わりばんこに引きずって連れて来たアクアは

 

ヨシヒコに後ろ襟を掴まれながらジタバタと暴れていると急にキョトンとした顔を浮かべ

 

「……ここがあの仏が言っていた地下ダンジョン?」

「はい、とても禍々しく危険な気配を感じます……これは間違いなく我々を脅かす巧妙な罠が……」

「私、ここに一度入った事あるわよ?」

「え……そうなんですか?」

「うん、カズマと二人で」

 

ヨシヒコ達の前にとうとう現れた地下ダンジョンの入り口

 

数多くの冒険を繰り広げたヨシヒコはすぐにそのダンジョンが危険だと察知するが

 

このダンジョンに入った事のあるアクアはさっきまで不機嫌だったクセに急にヘラヘラと笑い出し

 

「あのねぇヨシヒコさん、ここって色んな冒険者が入っているせいで宝箱も残ってないもぬけの殻よ? ダクネスだって覚えてるわよね?」

「ああ、実を言うと私もここのダンジョンは知っている、前は入り口前で待機していたから中はどうなっているかわからないが……確かに中にはそれらしい価値のあるお宝は無いとクリスから聞いた事がある」

「私がカズマと来た時はリッチーのキールがいたんだけど、もう彼もいないしね、つまりもう完全になーんにも危険もアイテムも無いのよこのダンジョン」

「えぇ~……どゆこと~?」

 

実を言うとアクアとダクネスはこの地下ダンジョンに来た事があったみたいだ。

 

ダクネスは入り口前で待機していたが、アクアはカズマと共に内部に赴いて、色々と探索をした結果もう何も残ってないと確認済みらしい。

 

しかしその答えにメレブは眉間にしわを寄せ頭の上に「?」を浮かべる。

 

「じゃあ仏が言っていた事は、全部デタラメ的な感じ?」

「絶対そうよ、アイツいい加減だもの」

「うわぁ~珍しく真面目にお告げしたと思ったらこれだよ……」

 

落胆した様子でガックリ肩を落とすメレブ、どうやらこのダンジョンにはもう宝箱一つ残っておらず、当然ダンジョー達を助けるアイテムも無い確率もほとんどない。

 

恐らく魔王軍の幹部がいるというのも仏のでっち上げだという可能性が高いだろう

 

しかしヨシヒコとダクネスはまだ疑っているらしく、この探索し尽くされたダンジョンの入り口をジッと見つめていた。

 

「皆さん、仏のウソかどうかはまだわかりませんよ。もしかしたら中に何か残っているかもしれません」

「そうだな……もしかしたらアクアとカズマが出て行った後に何かしらの変化が起きた可能性もある、竜王が現れてからというもの予想できない事態が多すぎるし、もしかしたらここにも影響が……」

 

目当てのアイテムが見つかる確率はゼロではないとヨシヒコとダクネスが言うも、アクアはしかめっ面を浮かべてちょっと嫌そうに

 

「えーなにその入ろうとする空気~、また中に入らなきゃ駄目なの私ー? ここアンデットがウヨウヨいて超嫌なんだけど……」

「ここは一旦様子を見に行ってみようアクア、アンデット相手なら尚更お前の力が必要なんだ」

「お願いです女神、何もないとわかったらすぐに帰りますので」

「仕方ないわねー後でシュワシュワ奢りなさいよ? ホントにちょっと入ったらすぐ帰るからね私」

 

二人に言われて渋々と言った感じでダンジョンへの同行に参加するアクア。

 

彼女からすれば一度は目で見たダンジョン、アンデットに追われるのは中々にトラウマではあったが

 

先っちょだけ入ってとっとと引き上げて家で休もうだのと安直に考えていた。

 

「ほらメレブ、アンタも行くわよ」

「うむ、では参ろうか、この世界で初めてのダンジョンへ」

 

 

アクアに誘われてメレブも素直に頷くと、いつも通りの四人のパーティーで

 

既に何度も攻略されている地下ダンジョンの中へと入るのであった。

 

 

 

 

 

 

「中へと入りましたが、特におかしい点は見当たりませんね」

「だから言ったでしょ、ここはもうなんにも残ってないって」

 

薄暗いダンジョンの入口へと入ったヨシヒコ達。

 

すぐに周りを見渡すもアクアは前回と違う点は何もないとハッキリと答える。

 

「でもちょっと嫌な臭いがするわね……おかしいわね、前来た時はこんな臭い無かったのに。もしかしたらダクネスの言う通り、このダンジョンで何か起こっているのかしら……」

「ごめん、俺ちょっとオナラしちゃった」

「くっさ! マジ最悪なんですけどこの毒キノコ!」

 

突如何やら嗅いだ事の無い異臭がする事にすぐに勘付くアクア。

 

しかしそれがメレブの放つ放屁の臭いだったと知って、ヘラヘラ笑いながら謝る彼をアクアが軽蔑の眼差しで距離を置く。

 

「あーもう本当に最悪だわ、私もう先に帰っていい? 入口まで来たんだしー」

 

ため息交じりにそんな事を言いながら、アクアがふと壁に手を掛けた時……

 

「ん?」

 

彼女の手の先からカチッと突然何かが起動したような嫌な音が。

 

その瞬間、入口の部屋がゴゴゴゴゴ!と激しく揺れ出して

 

「わわわ! 急に揺れてどうしたの! 言っとくけど私のせいじゃないんだからね!」

「いやお前が明らかになんか押しちゃったんだろコレ!」

「も、もしやトラップか!?」

「これはマズい、早く脱出しないと」

 

 

揺れの激しさからして何かとてつもなく嫌な予感を覚えると、4人は素早くダンジョンからの脱出を試みる。

 

「逃げましょう女神!」

「ま、待って! 置いてかないでよー!」

「早くしろメレブ!」

「あ、ごめん! またちょっとオナラ出ちゃった! 別に常時オナラが出やすい訳じゃないんだよ! 多分朝食に食べた焼き芋のせい!」

「そういう報告はいらん!」

 

アクアとヨシヒコ、ダクネスとメレブで急いで出ようとするが

 

「なんだと! 出口が無い!」

「え~嘘でしょ~!? てことは私達もしかして……!」

「閉じ込められました……」

 

なんと先程入って来たばかりの出入口が忽然と消えて、代わりに分厚そうで頑丈そうな石の壁がそこにあったのだ。

 

おまけに

 

「うわうわ! 俺達の間に地面から壁が生えてきた!」

「一旦後方に下がるぞメレブ!」

 

今度は部屋の丁度中心、そこから天井に向かってこれまた硬くてとても壊せそうにない壁が現れたのだ。

 

メレブとダクネスは急いで後方に退きながらすぐに気付く

 

壁の向こうにはヨシヒコとアクアがいる事に

 

「ヨシヒコ! アクア! 私達はとりあえず無事だがそっちは大丈夫かー!?」

「大丈夫だダクネス! 私と女神はちゃんと無事だ!」

「無事じゃないわよ~! 何よコレもう帰りた~い! おウチに帰して~~~~!!!」

「無事じゃなかったみたいだ!」

 

壁の向こうから聞こえる声からしてアクアは泣き叫んではいるもののどうやら二人とも無事みたいだ。

 

すると、突然右側の壁からズシン!と音を立てて、いきなりダンジョンの奥へと進む入口が出現した。

 

「ほほう、これはこれはこれは……いかにも罠ですと言わんばかりに現れたな」

「メレブ、これはやはり……」

「うむ、侵入者を閉じ込めて戦力を分け、更にはご丁寧に奥へと進む道を開く。これは間違いなく、ダンジョンのボスがよくやる手でございます」

「ボスのクセに回りくどい手を使って来るな……もうちょっとシンプルな構造で良かったんじゃないか?」

「それは違うぞダクネス、ボスだからこそ回りくどくてめんどくさいダンジョンを好むのだよ」

 

知った風な口を叩きながらドヤ顔を浮かべるメレブに「なるほど……」と素直にダクネスが感心していると

 

壁の向こうからヨシヒコ達の声が

 

「メレブさん! いきなりこっちに扉のようなモノが出現しました!」

「いや~~~! もうこれ完全に奥へと進むがいいってボスから誘われてるのよきっと~!」

 

向こうから驚いてるヨシヒコと泣いているアクアの声がハッキリと聞こえる。

 

どうやらあっちの方にも同じように奥へと進む為の扉が出現したらしい。

 

「やはりあっちもか、ダクネス、俺達はどうやら二手に分かれた状態でこのまま先へと進むしかないらしい」

「そうみたいだな、おい! ヨシヒコ! アクア! 私達はこっから奥へと進むであろう通路へ向かう!」

 

こうなっては仕方ないとメレブと頷き合うと、ダクネスはまたヨシヒコ達に呼び掛ける様に

 

「だからお前達もその扉を潜って奥へと進んでくれ! もしかしたらいずれ合流できるかもしれない! 出口を見つけるのはその後だ!」

「わかった! 私も女神と一緒に奥へと進んでみる!!」

 

仲間同士の合流を最優先とし、奥へと進む事を決めたパーティー。

 

ダクネスの要望にすぐにヨシヒコも応えると、アクアを連れて奥へと続くと思われる扉の方へ近づく。

 

「行きましょう女神、一刻も早くメレブさんとダクネスと合流しなければ」

「いや! この真ん中の壁をぶっ壊せばすぐに済むでしょ! なんでわざわざ奥へと進んで合流なんて面倒な手間かける必要があるのよ!」

「ああいう壁は何故か異常なほど堅いんです、よくわからないけど何があろうと絶対に壊れないんじゃないかってぐらい頑丈に出来ているんです」

「ああ、ゲームでよくあるお決まりのパターンね……脱出ゲーでよくある何があっても破れない窓みたいな?」

 

はぁ~とため息を吐いてもうツッコミするのもめんどくさいと言った感じのアクアをの手を取り、ヨシヒコはそのまま奥へと進むのであった。

 

「では私達も奥へと進むか」

「うむ」

 

二人が奥へと進む音を確認した後、ダクネスとメレブもこちら側の扉を潜って中へと進んで行くのであった。

 

 

 

それから数十分後

 

「中はちゃんと灯りがついていて案外明るいんだな、地下ダンジョンなのに」

「んーこれは明らかに俺達を誘い込もうとしてるよなー絶対」

 

階段を駆け下りて真っ直ぐ進み、どんどん奥へと進んで行くダクネスとメレブ

 

辺りを警戒しながら進む中で、幸いにも途中で魔物と遭遇する事は一度も無かった。

 

「例え誘い込む罠だとしても私達には進む以外無いからな……それにヨシヒコとアクアが心配だ、あの二人ならすぐに罠にかかりそうだ早く見つけねば」

「それわかるわ~、知能レベルが全く同じのバカ&バカだし、足元に釣り糸垂らしたバナナでも置いとけばすぐに引っ掛かりそう」

 

先程から一向に合流出来ないヨシヒコとアクアを心配そうに呟くダクネスにメレブは深く頷きつつ、すぐに不安そうな表情を浮かべた。

 

「でももしかしたらあの二人よりもさ、今の俺達の方が危険かもしれない……かな?」

「確かに……攻撃を全く当てられない私とロクな呪文を持たないお前しかいないからな……」

「やだダクネスさんまでキツイ事おっしゃる、いやーこれでも結構頑張ってると思うんだけどなー、前回はちょっと失敗したと強く反省しているけど」

「ん? 前に反省する程の失敗なんてした事あったか?」

「いやまあ、こっちの話ですよアリスさん、じゃなかったダクネスさん」

 

そんな掛け合いをしながらヨシヒコ達だけでなく自分達の事も心配に思いつつ曲がり角を進んでみると

 

先程までずっと一本道であったにも関わらず、そこには複数の出入口が空いている部屋にやって来てしまったのだ。

 

「おいメレブ、どれが正解への道なのか全く分からないぞ……」

「コレが仏の言っていた迷宮への入り口という訳か、任せろ」

「わかるのか!?」

 

まさかダンジョン内のマップを頭の中に浮かべる事が出来るとかいう画期的な呪文でも覚えたのだろうか

 

ダクネスが期待の眼差しでメレブを眺めていると、彼は杖を地面に置いてゆっくりと手を離す。

 

すると杖はカランコロンと地面で音を立て、複数ある入口の一つの方に倒れた。

 

「あっち」

「待てぇ! なんださっきのは! それはどう見ても信憑性ゼロの運任せじゃないか!」

「いやコレ、たまに当たるんすよ、2割ぐらいの確率で」

「2割なら当てずっぽで進んでみるのと何も変わらないだろ!」

 

微笑を浮かべるメレブにダクネスがさっきまで抱いていた期待を返せと思いながら叫んでいると

 

ふとメレブの杖が指し示した方向の入り口から

 

「おや? 待てダクネス、なんかいきなり出て来たぞ」

「なんかって……な、なんだあれは? 仮面を付けた小さな人形か?」

 

いきなり現れた謎の物体

 

てちてちと足音を立てながら現れたその正体は、手の平サイズにして白黒の仮面を被ったお人形だった。

 

二人が眉をひそめて歩いて来たその人形を眺めていると

 

その人形はてちてちとメレブの方へと近づいて来る。

 

「ほほう、悪くないデザインだと思っていたがこの人形、どうやら俺の溢れ出るカリスマに惹かれてここにやって来たみたいだ」

「……いつお前がそんなモノを溢れさせたんだ? お前が常に溢れ出してるのは胡散臭さだけだろ」

「ハハハ、ダクネスって二人きりになると結構キツイんだね……おーよちよちこっちおいでー」

 

割とキツイ言葉をジト目で言ってくるダクネスに苦笑しつつ、メレブは近寄って来る人形を手に取って頭を撫でやろうとすると……

 

「あれ?」

 

突如人形がカッと光り輝き始めたと思ったら

 

「おぅふ!」

「メレブ!」

 

まさかの爆発

 

その衝撃をまともに食らってしまったメレブにダクネスが慌てて駆け寄ると

 

「ゲホッゲホッ! まさか爆発するとわ……!」

「うおメレブ! お前頭が!」

「え? あ! うっそヤダ!」

 

幸いにもそれほど強い爆発ではなかったのか、顔面に食らった筈なのに顔を煤だらけにする程度で普通に生きているメレブにダクネスが安堵するのも束の間

 

爆発の衝撃でメレブの頭が

 

「アフロ! これ完全にアフロになってるでしょ!」

「まあ髪型が変わる程度で済んだのだから良しとするか……それにしても爆発する人形とは」

「いや全然良しじゃないし! 俺のキューティクルな髪が一瞬にして金髪爆発アフロになっちゃったし!」

 

自分の頭をふと触ったメレブは一瞬にして強いショックを受ける。

 

なんと自慢のキューティクルヘアーがモッサモサのアフロに変貌してしまっていたのだ。

 

何度も頭を触ってその触感を感じながらメレブが「いつ戻るんだよ……」と呟いていると

 

「おいメレブ! またあの爆発する人形がやって来たぞ! しかも何体も!」

「うえぇ待ってよー! 俺これ以上アフロになりたくないって!」

「任せろ!」

 

一体かと思いきやワラワラと出てくる謎の爆発人形

 

アフロを手に持ったままメレブが慌てて退くと

 

そこへ剣を構えたダクネスがすぐ様人形相手に斬りかかる。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

「いや待てダクネス! お前が剣を振っても当たる訳……」

 

スライムでさえもかすりもせずにまともに当たらないクセに、その上あんな小さな人形に攻撃を当てれる訳ないだろと

 

メレブが止めに入ろうとする時すでに遅く、飛び掛かって来る爆発人形にダクネスは威勢よく斬りかかる

 

しかし爆発人形はまるで自ら斬られるかのようにダクネスの剣先に当たり……

 

メレブの時と同様光り輝き、そして爆発

 

「くっ!」

「うっそ当たった! でも爆発した!」

「まだまだー!」

「無事なのお前!?」

 

多少のダメージは負ったものの流石の防御力。

 

顔に付いた煤も拭かないままダクネスは猪突猛進の構えで次々と湧いて来る爆発人形目掛けて斬りかかっていったのだ。

 

「当たる! 当たるぞ! 私の攻撃がどんどん当たるぞ!!」

「良かったねぇ……ってか置いてかないで! 勝手に一人で突っ込むな!」

 

 

爆発人形は自ら斬られに行くかのようにダクネスの剣の餌食となっていた。

 

その度に起こる爆発に巻き込まれながらも、攻撃を当てれるという喜びを体感しすっかり調子を良くしたダクネスは単独で走り出す。

 

メレブの杖が指し示した方向に向かって、まだまだ湧いて来る爆発人形を斬りながら突き進みながら

 

「フハハハハハハ!! さあどんと来い! うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ホントにこのまま進んでいいんだろうか……ていうかコイツの方がちょっと心配なんだけど」

 

不安に思うメレブをよそにダクネスは高笑いを浮かべながら奥へと進むのであった。

 

その先に何が待ち構えているのかも知らずに

 

 

 

 

 

 

一方その頃、彼等と別行動しているヨシヒコとアクアはというと

 

「あれ、この道さっき通りましたっけ?」

「うえーまた私達グルグル回ってたのー! もうやだ疲れたー!」

 

迷路のように入り組んだ地形で、さっきからずっと迷っている様だ。

 

同じ場所を行ったり来たりしながら歩き回っていると、アクアは遂にその場にへたり込んでしまう。

 

「やっぱこんなダンジョン来るんじゃなかったわー! 幹部とかそんなのどうでもいいからせめて出口だけでもいいから見つけてよー!」

「女神、どうでもいいだなんて言ってはいけません、我々は世界を救う旅をしているんです、どうでもいいだなんて絶対に言ってはいけないんです!」

「はぁ!? アンタこの前、魔王なんてどうでもいいとかもっとヤバい事ほざきやがったでしょうが!」

 

ヨシヒコの身勝手な説教にすかさずアクアがキレ気味にツッコんでいると

 

「ん?」

「どうしました女神」

「いやさっき、アンタの背後でなんか黒い影が動いてるのが見えたような……」

「影?」

 

彼の方へ顔を上げてアクアはふと気付いた。

 

ヨシヒコの背中で何やら黒い物体がかすかに見えた事を

 

疲れも忘れてアクアは立ち上がると、その正体を確かめる為にそちらの方へ歩き出す。

 

「モンスター、という感じはしなかったわね……もしかしたらこの迷路を抜けれる方法を知ってる人かも、行きましょ」

「わかりました、けど油断しないで下さい」

 

黒い影を追いかける事にしたアクアとヨシヒコは急いで消えて行った方角の方へとやや駆け足で進んで行く。

 

すると曲がり角に差し掛かるとまたもや

 

「あ、また見えた! 何かしら……大きな頭でその上に耳っぽいのが二つ……人間ではなさそうね」

「大丈夫なんでしょうか、我々をおびき寄せる罠なのでは……」

「その可能性もあるんでしょうけど不思議とそうは感じないのよねアレ……あ! 今度はあっちに行ったわ!」

 

ピョンピョンと跳ねる様に進んで行くそのシルエットを見ている内に、アクアは何やら不思議な気持ちになった。

 

まるでそのシルエットを見ているだけで今までのイライラが収まって来るかのような……

 

アクアは最早躊躇も見せずに迷路のような通路を、人影を頼りにヨシヒコと共に走り抜けて行った。

 

すると

 

「ちょっと待ちなさいよ! あれ? いない……」

「見て下さい女神! 何やら壁に文字が書かれています!」

 

人影を追ってグングン奥へと突き進んでいると、曲がり角を曲がったところで忽然と人影が消えていた。

 

アクアが首を傾げているとヨシヒコは左右に分かれた通路の壁に何やら文字らしきものが書かれた看板が貼られていた。

 

「読んで下さい」

「ああ、アンタそう言えばこの世界の文字読めないんだっけ、どれどれ……」

 

二人で近づいてみるとヨシヒコの代わりにアクアがそれを読んであげる

 

「右側の方の看板には「こちらは滅茶苦茶鬼畜な罠が張り巡られ、更に強くて怖ーいボスがいるので警戒するがいいフハハハハハ!」ってめっちゃムカつく感じに書かれているわね」

「なるほど、つまり勇者として進むべき道は右側の通路ということですね」

「待って、左側にはこう書かれているわ「さあこっちに進んで! 夢とファンタジー溢れる素敵な国が君達を楽しませる為に待っているよ! ハハッ!」って」

「物凄く怪しいですね、これは間違いなく罠です」

「うーんでも……」

 

右側の道と左側の道、看板に書かれてる言葉が本当であればヨシヒコ達としては即座に右側を選ぶべきである。

 

しかしアクアは左側の通路を眺めながら寂しそうに

 

「私、こっち行きたい……」

「何を言っているんですか女神! 明らかにそっちは罠です! 我々はボスのいる右側に向かうべきです!」

「待ってヨシヒコ、私がここに来るまでずっと言っていた事覚えてる?」

 

何を言い出すんだと勇者らしく叫ぶヨシヒコだが、それをアクアが手を突き出して遮ると彼女は疲れた表情でため息を吐き

 

「私はね、今までの理不尽かつ辛い体験ですっかりストレスが溜まっているの、だから癒しを提供してくれる場所を強く求めているの、そしてここに書かれているのが本当なら」

「待ってください、まさかこっちの通路に女神が求めている場所があると思っているんですか? ダメです危険すぎます」

「ならヨシヒコもついて来ればいいじゃない、罠ならすぐに逃げればいいんだし、ちょこっと見るだけだから、ね?」

「しかし……」

 

グイグイと自分の腕を引っ張りながら左側に行こうと誘おうとするアクアにヨシヒコは顔をしかめた後、しばらく考えた後ボソリと

 

「そうですね、それで女神のイライラが収まるのであれば……わかりました、少しだけ様子を見に行ってみましょう」

「流石ヨシヒコね、話わかるの早くてホント助かるわー、メレブやダクネスだったら絶対にこうはいかなかったわ」

「ただし、仮にこっちの道にホントに女神が望んでいた癒しの場所があったとしてもちょっとの間しかいられません」

 

話がまとまった事に上機嫌に笑いかけるアクアにヨシヒコはすぐに厳しい表情で

 

「我々は一刻も早くメレブさん達と合流し、このダンジョンにあるダンジョーさん達を助けるアイテムを手に入れなければいけないのですから」

「うんわかってる! ホントにちょこっと見学だけしてすぐにこっちに戻るから! 水の女神として誓うわ!」

 

罠であろうと目的の場所であろうと即座にこっちに戻る必要があると念を押すヨシヒコに

 

自分の胸に手を当てて堅い約束を誓うと、アクアは早速彼の腕を引っ張って

 

「んじゃあ! 行ってみましょうかこっちに! なんだか知らないけど凄くワクワクするのよね私!」

「ホントに大丈夫なんですか女神?」

「大丈夫よ! 私を信じなさい!」

 

未だ不安そうなヨシヒコと共にアクアは意気揚々と左側の通路へと進んで行くのであった。

 

果たしてこの先で彼女達が待ち構えているモノとは……

 

次回へ続く

 

 

 

 

 

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