勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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漆ノ三

ヨシヒコとアクアが長い通路を超えると、そこにあったのは信じられない光景であった。

 

「な! なんなんだここは! 私達は先程ダンジョンにいた筈なのに!」

「流石に女神の私でさえもわからないわ……けどなぜかしら、さっきから胸の高鳴りが収まらないの……!」

「私もです……! 何故だから知らないが物凄く駆け回りたい程興奮している私がいます……!」

 

そこは見渡す限り一面の広大な場所であった。お店や不思議な建物も設置されており、真ん中には大きな城まである所から察するに、ここはどこかの王国なのであろう。

 

しかもそれだけではない、所狭しと自分達以外の人々が笑顔を浮かべながら歩き回っており、老若男女問わず皆が心の底から楽しんでいる。

 

ヨシヒコ達もまた道行く彼等に釣られて不思議とワクワクし始めていると、そんな彼等の所へフリフリと手を振りながら二匹の奇妙な者達が駆け寄って来る。

 

「あ! 見てヨシヒコ! さっき私がダンジョンで見た人影って多分アレよ! きっとあの黒いネズミだわ!」

「リボンを付けている方は女性なんでしょうか……しかし何故だ、彼等を見ているとますます私の中の興奮が収まらない……!」

「私もよ、今すぐにあの子達に抱きつきたくてしょうがないって気持ちで一杯だわ……!」

 

もしかしたら自分達を襲いに来た魔物、とも考えれるはずなのにどうしてであろう。

 

ヨシヒコとアクアはあの二人の黒いネズミ(全身モザイク加工済み)に対して警戒どころか逆に強い親しみを覚え始めている。

 

二人のネズミはヨシヒコとアクアの方へ駆け寄ると、それぞれに手を差し出して無言で握手しようと誘って来た。

 

ヨシヒコとアクアは間髪入れずに全く警戒心も無い様子で彼等とガッチリ手を繋ぐ。

 

「おお……! 手を繋いだだけなのに、なにかもう面倒なしがらみをすべて忘れてしまう程暖かいモノに包まれた気分だ……!」

「なんなのよあなた達……どうして手を繋いでるだけなのにこんなにも私の中の疲れを癒してくれるのよ……」

 

ヨシヒコは男の子の、アクアは女の子のネズミらしきものに何も言われずに手を繋がれたまま、心の底から湧き上がる幸福感にすっかりダンジョンやメレブ達の事さえも忘れ去っていると

 

二人のネズミはヨシヒコ達にスッとあるモノを差し出す。

 

それはこの広大な国の事を詳細に書かれている地図だった。

 

「どうやら彼等は私達にこの国を回って見ろと言ってるみたいですね、女神、どこから行きましょうか」

「流石ヨシヒコねここに来るまでちょっと渋ってたのに、もうすっかり私同様ここに魅了されてしまったみたいね……」

「だって見て下さいこの地図を! 地図を見てるだけでもう滅茶苦茶ワクワクするんですよ! どっから行けばいいのか迷ってしまうぐらいに!」

「私もよ! 美味しそうなモノが売ってる店とかこのアトラクションとかいうのも凄い行ってみたいわ!」

 

二人揃って地図を眺めているだけなのに、既に収まり着かない程のテンションに身を任せてヨシヒコとアクアは意気投合し、まずは適当に歩いてみようと足を進め始める。

 

「ありがとう黒いネズミよ! またどこかで会おう!」

「バイバイ黒いネズミ! ガールフレンドと仲良くね!」

 

地図を渡してくれた二人のネズミにお礼を言うと、彼等もまたピョンピョンと跳ねながら手を振って見送ってくれるので、それを見ているだけでもうヨシヒコとアクアは既に冒険の疲れなど吹き飛んでしまった。

 

「それじゃあまずはこの草木が茂っている場所へ向かいませんか!? 私この、船に乗ってガイドと共に探検するというの一度体験したいんですけど!」

「やだ、私も丁度それに乗りたいと思ってたのよ! だったらすぐに行くわよヨシヒコ! それと行く間にあるお店で何か食べましょう!」

「はい! 地図によるとここを歩けばチョコチェロスという不思議なお菓子が売ってるみたいです!」

 

 

二人は来て早々すっかりこの世界に魅了されて

 

スキップしながらしばらくここを満喫する事にしたのであった。

 

メレブとダクネス、魔王軍の幹部さえもほったらかしにして……

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、ヨシヒコ達が楽しんでいるのも露知れず、突如現れた爆発人形と戦闘中のダクネスとメレブはというと

 

「ゼェゼェ……! 人形は! 人形はもういないのかー!?」

 

幾度も爆発に飲まれながらもまだまだ元気といった感じで一心不乱に人形を探し始めるダクネス。

 

人形がやってくる通路だけを進み続けてすっかりここがどこなのかさえわからないでいると

 

彼女の背後からヒーヒー言いながら追いかけてきたメレブがやっと追いついた。

 

「おま……ダクネスお前……人形相手にはしゃぎ過ぎ……!」

「すまん、だが自分で自分を制御できなかった、初めて倒せる敵が現れたことにどうしても我慢が出来なかったんだ」

「そんな敵を倒せて嬉しいんなら、そもそもちゃんと敵に攻撃を与えられるスキルでも習得すればいいじゃん……」

「それは出来ない、自らの攻撃で相手を倒してしまったら、相手の攻撃を受けられないじゃないか」

「ん~ヨシヒコとアクアに埋もれてるけど、ダクネスさんも相当おバカさんですよね」

 

自ら攻撃に当たってくれる上に爆発してこちらにダメージを与える敵

 

そんな爆発人形を倒す事に快感を覚えて、ダクネスが物凄くいい顔でキリッとしているのをメレブが優しく微笑んだまま頷く。

 

「いやまあ敵を倒しててくれたのはありがたいけど、お前が無闇に突っ込み過ぎたおかげで、ここがどの辺なのか全く分からないんだよホント」

「そういえば……人形相手につい夢中になり過ぎて進む方向さえも覚えていなかった……」

「ヨシヒコ達もどこにいるかわからないし……これはかなり困ったことになりましたなー」

「そうだな、ヨシヒコやアクアもきっと私達と同じく過酷な試練を強いられている筈なのに、私とした事がつい我を忘れてしまっていた……」

 

パーティーを分断されて戦力も大幅ダウンしている今、ヨシヒコとアクアの合流が何よりも優先すべき事であったのにそれを忘れてしまうとは……

 

自らの愚かな行いにダクネスがしょんぼりしてちょっと落ち込むのであった。

 

その頃ヨシヒコ達は

 

『このチェロスというのは大変美味ですね!』

『そうね! 一口噛むごとに付着してる砂糖がえげつない程下にポロポロ落ちるけど全く気にならないわ!』

 

明るい日差しの下で食べ歩きを満喫していた。

 

「彼等の安否が心配だ、すぐにでも助けに行かねば」

「うむ、ここは俺達だけで切り開いてヨシヒコ達に会いに行こう」

 

ヨシヒコ達が何処で何をしているのか全く知らないダクネスとメレブは、どうにかしてこの迷路のような通路を二人だけで攻略しようと決心する。

 

だがそこへ

 

「む! 待てダクネス! あっちの通路からこっちに向かって来る足音が聞こえるぞ!」

「なに!? もしかしてヨシヒコ達か!?」

 

足音が聞こえたと叫ぶメレブが指差した方向に向かってすぐに駆け出すダクネス。

 

そして慌てた様子で彼女がその通路の曲がり角まで差し掛かると

 

 

 

 

 

 

「ハッハッハッハ! よくぞ来た冒険者達よ! 数多の罠と迷宮を超えてよくぞ我輩の元までやって来た!」

「ってうわ! だ、誰だお前!」

 

いきなり壁の向こうからニュッと顔だけ出しながら盛大な高笑いを上げるのは、先程の爆発人形と同じ仮面を付けた不気味な男であった。

 

突然出てきた彼にダクネスは肩をビクッと震わせすぐに後退して剣を構えると、男は「これはこれは」と顎に手を当てながら姿を現す。

 

「もしかしてここに誰が潜んでいるのか知らずしてうっかり潜り込んでしまった冒険者達か? ならば教えてやろうではないか! この我輩の正体を!」

「なんだと! 貴様一体何者だ!」

「やっべぇ、さっきの爆発人形と同じ仮面付けてるよコイツ……もしかして俺達はヨシヒコ達を探そうとしていたのにまさかの……」

 

仮面の男が自分達の前に現れて盛大に自己紹介しようとする中でメレブは彼の正体を薄々勘付いていた。

 

すると男はこちらに向かって挑戦的に指を突き付けるとニヤリと笑ったまま

 

「我がダンジョンへようこそ冒険者達よ! そう我輩こそがこのダンジョンの主にして魔王軍の幹部! この世のすべてを見通す大悪魔にして地獄の公爵! バニルだ!!」

「お、お前が魔王軍の幹部だと!?」

「いやー最悪のタイミングでボス戦になっちゃった~……」

 

男の正体は魔王軍の幹部にして大悪魔のバニル

 

明らかに強敵臭いそのボスキャラの登場に今だヨシヒコ達と合流も出来ていないメレブは頭を抱え、ダクネスもまた剣を構えながらグッと奥歯を噛みしめる。

 

「魔王軍の幹部には悪魔もいたのか……だがエリス様に仕える私が悪魔などに負ける訳にはいかん! 来るなら来い!」

「チッチッチッ、小娘、言っておくが我輩をあまり甘く見るもんじゃないぞ、我輩は普通の悪魔ではなく大悪魔、強がりだけで勝てる相手ではないと肝に銘じておけ、わかったかな最近腹筋が更に割れ始めて来た事でお困りになっている女騎士よ」

「ふ、ふ! 腹筋!?」

 

舌を鳴らしながら警告するバニルだが、それとドサクサに何やら意味深めいた言葉も付け足すと、明らかにダクネスが動揺した様子で持っている剣を震わせ始めた。

 

するとメレブが「え?え?」と彼の発言と彼女の反応を見てすぐに食いつき

 

「腹筋、腹筋割れてんのダクネス? それで、え? 困っちゃってるんですか? 腹筋割れて?」

「わ、割れてる訳ないだろ! 全てコイツの戯言だ! 悪魔の囁きなんか信用するんじゃない!」

「フハハハハハ! 我輩の言葉が戯言だと言っておきながら! どうしてそんなに強く動揺しているのかな女騎士よ!」

 

しつこく追及してくるメレブにすぐにダクネスがムキになった様子で一喝するも

 

そんな彼女の愉快な姿を見てまたバニルは嬉しそうに高笑いを上げる。

 

「先程我輩自身が言った事をもうお忘れかな!? 我輩はこの世の全てを見通す大悪魔! つまり貴様等の心の底までばっちりお見通しなのだ! ご理解出来たかな! 最近夜食を取り過ぎたせいでちょっとお腹出て来たもんだから、思い切ってダイエットしようかな~とか現在進行形で考えているそこのキノコ頭よ!」

「うわマジかよ当たってる! 心を読めるって! うわ何コイツすっげぇヤバいじゃん!」

「いや、我輩と相対している状況下でダイエットしようかどうか考えられる貴様も貴様で相当ヤバいと思うぞ」

 

心の中を見通す事の出来る事が出来るという、物凄くとんでもない力を持つバニルに慌てふためくメレブだが

 

この状況下でも下らない事ばかり考えているメレブに思わずバニルも真顔でツッコミを入れる。

 

「それともう一つ貴様に言っておくが……」

「止めろ! これ以上俺の心の中を読むな! ダイエットしようとは考えてるけど実は夜食を止める気は無いという俺の甘い考えを読むな!」

「いやそうではない、我輩が言いたいのはお前の心の中の事ではなく……」

 

両手を突き出してこれ以上頭の中を読まないでと叫ぶメレブに対し、バニルは冷静にスッと指を差す。

 

彼ではなく彼の頭上に向かって

 

 

 

 

 

 

「貴様、気付いておらんのかもしれんが憑かれているぞ、なかなか可愛らしい女子供の幽霊に」

「えぇー!?」

「ほほう、貴様が肩車しているその小娘の霊の心を読んでみると、どうやら以前はとある屋敷に住む自縛霊だったらしいが、最近その屋敷に住み始めた貴様の事をえらく気に入ったらしく、それ以来ずっとお前に取り憑く様になったみたいだな」

「あぁぁぁぁぁぁ!! 超心当たりあるそれ! ヨシヒコとアクアが言ってた幽霊だ絶対!」

 

自分が子供の幽霊を肩車しているとバニルに指摘されてすぐに察してパニックになるメレブ。

 

「通りで最近やけに肩が重いなって思った……おいちょっと! この幽霊なんとかならないの!?」

「フハハハ、好きにさせてやれば良いではないか。どうやらその小娘の幽霊は屋敷に籠りっぱなしだったおかげでひどく冒険物語に憧れていたみたいだぞ、貴様と共に色んな場所に行くことができる様になって大変感謝している様だ」

「えぇ~……じゃあ三章辺りからずっと一緒にいたって事? じゃあ俺ちょっとマズい事が……あの、女の子が行っちゃいけない場所に一回だけ行ってるんすけど……大丈夫すかね?」

「む? なるほどなるほど……確かにその店は子供には刺激が強過ぎるな、今後はもう行かない事をおススメするぞ」

「そっすよねー、小さなお子さんには見せられないですもんね、惜しいけどもう行かない事にします、良いアドバイスありがとうございましたー」

 

悪魔のクセにやたらと詳しい事まで教えてくれた上に助言までしてくれるバニルに、メレブは素直に軽く頭を下げてお礼を言っているとダクネスがすぐに彼等の間に躍り出て

 

「待て待て待て! さっきから一向に状況が読めんが! 悪魔の囁きに耳を貸すなと言っただろメレブ! コイツは魔王軍の幹部! つまり敵だ!」

「けどコイツの心の中を見通すという力はどうやら本物みたいだ、相手の心を読むって事はこちらの動きも読めるって事、そんな強敵にヨシヒコとアクア抜きにして、俺達だけでやれるのか?」

「やるしかないんだ! このダンジョンにある魔王に操られるモノさえ元に戻す事の出来るアイテムを見つける為には! まずはコイツを倒すしかない!」

「ほう、アイテムとな……」

 

 

例え心を読む相手であろうと負けてたまるかと闘争心を剥き出しにするダクネスの言葉にピクリと反応すると

 

バニルはゴソゴソと懐からあるモノをスッと差し出す。

 

「アイテムというのはよもやコレでは無いか?」

「あ! なんだそのあからさまな宝箱は! もしやその中にダンジョー達を助けるアイテムが!」

「中身は見ておらんが我輩はこんなモノをダンジョンに用意していない、いつの間にか置いてあったので不審に思い回収しておいたのだ」

「最悪だ……俺達が求めていたアイテムが魔王軍の幹部に既に取られていたなんて……」

「ふむ、貴様等の心を読む限りどうやらコレを得る為にわざわざ我輩が作ったこのダンジョンに潜り込んだという訳か……」

 

これ見よがしに赤い宝箱を取り出すとメレブがもの欲しそうに見つめて来るので、彼等の心を読んですぐに察するとバニルはニヤリと悪魔らしい嫌な笑みを浮かべ

 

「フハハハハハ! つまり貴様等はこの我輩からこの宝箱を奪い返さねばいけないという事か! よかろうかかって来るがいい! 丁度こちらも退屈していたのだ!」

「見ろメレブ、アイツはやはり悪魔だ、我々があの宝箱を欲しがってると察するとすぐにそれを餌にして誘って来た、もはやこの場で逃げる事は勇者の一行として絶対に出来ないぞ」

「えぇ~でも一体どうやって倒せばいいんだよ……心を読むなんて反則だって絶対……」

「ほほ~キノコ頭の方は我輩の力の前に怯んでいるというのに、貴様はずいぶん強気だなクルセイダーの娘よ」

 

かかってこいとボスキャラらしい台詞を吐くバニルを前にメレブはすっかり弱腰になっているが、ダクネスは全く諦めていない様子で剣を突き出したまま一歩も退かない覚悟を取る。

 

「当たり前だ、例え心を読まれようと知った事か! エリス様の名の下に! 私が貴様を斬る!」

「ふむ、勇ましい事を口では言っているが、果たしてそれが貴様の本性か?」

「なに!?」

「我輩は文字通り全てを見通す悪魔、貴様が何故我輩を倒したいのかそれも当然わかっている、そう、実は貴様は……」

 

何を言い出すんだと眉をひそめながら警戒してくるダクネスに、バニルは嘲笑を浮かべたままダクネスだけでなくメレブにもはっきりと聞こえる声で

 

 

 

 

「ここで我輩を倒せば目立てるチャンスだと思っているのであろう? 何故なら貴様は他の仲間の存在のおかげですっかり影が薄くなってしまい、その事でずっと悩んでいたのだからな」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「フハハハハハハハ!! 図星を突かれて我を失ったか空気娘!!」

 

バニルが言葉を放った瞬間既にダクネスは地面を蹴って彼に向かって襲い掛かっていた。

 

激昂した様子で容赦んなく斬りかかるも、バニルはその場で身を翻してヒラリと簡単に避ける。

 

「ずっと目立った活躍も無い上にあまり前に出れない自分! その事に対していつも強い不安に押し潰されそうになりながら毎日夜も眠れず! どうすれば目立てるのかと日々悶々とした生活を送っていたのであろう!?」

「野郎ぶっ殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

「ダクネスお前……そんな悩みがあったのか……」

「言うなぁ! 何も言うなぁぁぁ!!」

 

触れてはいけない自分の秘密を楽し気に暴露し始めたバニルを黙らせるには、もはやこの場で倒すしかないとダクネスは一心不乱に剣を振り続ける。

 

しかしやはりというかその攻撃は一切当たる事無く、更には後ろからメレブに同情的な眼差しを向けられた事でますます惨めな気持ちになってしまった。

 

「いやでも今よく考えてみると……ヨシヒコと俺、あとアクアに比べると……ん~確かにほんのちょこっと目立ってはいないかもしれない……あ! でもほんのちょこっとよちょこっと!」

「止めろぉ! そんな慰めは聞きたくない!」

「ククク、そうだぞキノコ頭よ、そんな事を言ってもこの地味な娘がより一層惨めになるだけだ。貴様が本当に思ってる事を言ったらどうだ?」

 

喋りながらもダクネスの攻撃など余裕で避けれるといった感じで、バニルは彼女の背後で哀れんでいるメレブに愉快そうに笑いかける。

 

 

「「んー面白い設定は持ってるんだけど、その設定に頼り過ぎな所あるんだよねー、俺達が話してる時もぶっちゃけありきたりな事ばかり言ってる印象があるなーって常々思ってたし、あと君さ、仏と絡む時とかあんま喋らないよね? まああの時は基本的に俺とアクアがボケる仏にツッコミまくるって所だから会話に入りにくいのはわかるんだけど、ヨシヒコみたいにちょっとしたボケを挟むとかそういうの出来ないかなーとかたまに隣で考えていたりします」とな!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「マジで止めろ! 俺の監督ぶった偉そうな心の声を読むんじゃないこの悪魔! あー泣かないでダクネス! いつもそう思ってる訳じゃないから! 前回の話ではそこそこ良い味出してたと本気で思ってるから!」

 

彼女に対して密かによく考えていた事を一語一句正確に呼んで代弁してしまうバニルのおかげで、すっかり泣き顔になってしまったダクネスにメレブも申し訳なさそうに謝りながら駆け寄る。

 

「お前は悪くない! なんにも悪くない! 原作ではちゃんと……まあマシかな……?」

「訳の分からない事を言って誤魔化そうとするなぁ! 原作ってなんだ!!」

「フハハハハハ! どうした小娘! そんなに目から鱗を落としていては当たらぬ剣がますます当たらなくなるぞ!」

「くっそぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

メレブのおかげでますます頭に血が昇って目からも涙を落とし始めてちょっと可哀想になって来たダクネス。

 

しかし彼女の攻撃は無情にも嘲笑うバニルには全く当たらない。

 

「だが安心するがいい冒険者達よ! ここで負けたとしても我輩は人間を殺す事は絶対に無い! 我輩にとって人間は悪感情を生み出す存在だからな! 我々悪魔はそれを食すこと何よりの好みなのだ!」

「え、俺達を殺さないの?」

「当然だ! この場で貴様等が力尽きた場合はちゃんとダンジョンの入り口にでもほおり捨てておいてやろう! 迷っている仲間二人も我輩がちゃんと探しておいて同じようにほおり捨ててやるわ!」

「へー俺等だけじゃなくてちゃんとヨシヒコ達の事もわざわざ探してくれるんだ、結構良い所あるじゃん」

「うぉい! 悪魔に向かってなに感心してんだ魔法使い(笑)!!! 仮にも魔法使いと名乗っているんならコイツに呪文の一つや二つ掛けてみろ!!」

「やだダクネス凄く口悪くなってる……ごめん今から呪文使います、ですからお怒りを鎮めて下さい……」

 

自分達を殺す気など毛頭ないらしいバニルに安心しているメレブに、泣き顔を浮かべながらもブチギレるダクネスに怒られてすぐに杖を構えだすメレブ。

 

「いやでも……ここで役に立つ呪文ってなんだろう……やっぱここはダクネスの力で勝って欲しいから相手の動きを止める呪文とか?」

「笑止! この我輩の動きを止めるだと! 果たして貴様が覚えている呪文のどれにそんな望み薄い効果が……おいちょっと待て、本当にこれは呪文か? 長年生きた我輩でさえこんな訳の分からん呪文は初めて拝見したぞ……」

 

一体メレブがどんな呪文を覚えいてるのだろうと彼の頭を覗いた時、そのあまりにも役に立たない呪文の数々にバニルが真顔で一瞬思考を停止させていると、その隙を突いてメレブが勢い良く杖を構える。

 

「よし、掛ける呪文を決めたぞ悪魔よ。この俺が最近覚え直した呪文・パート3を食らわしてやろう」

「ほほう、ではその呪文が一体何なのかすぐに読んで……おい、本気でこんな呪文を掛ける気か我輩に、効く訳ないだろ、もうちょっと真面目に考え直せ、いや他の呪文も全部酷いが……」

 

ダクネスの攻撃を避け続けながらもメレブにツッコミを入れたりと忙しいバニルに対し

 

「滅びよ悪魔!」

 

杖を思いきり振って、メレブが呪文を掛けてみた、するとバニルは突然

 

 

 

 

 

「む? む? む?」

 

突然ピタリと止まるとソワソワし始め、しきり己の胸の部分をまさぐり始めた。

 

その様子を見てメレブはしてやったりの表情で

 

「かかったな、この呪文を食らった相手は、ブラを付けてようが付けてまいが関係なく、まるでブラがズレている時の様な凄い不快感に襲われてたちまち集中力を失うのだ、私はこれを……」

 

 

 

 

 

 

「『ブラズーレ』と、確か前にそう名付けた気がする」

「な、何故だ! 何故我輩にこんな馬鹿らしい呪文が! く!」

「ああ~ブラ付けてないのに! ブラ付けてないのにすっごくもどかしい様子でクネクネしてるよこの悪魔さん!」

 

メレブかつて覚えた呪文・ブラズーレの意外な威力を前にして流石のバニルも困惑した様子で、戦いそっちのけで体をくねらせ始めた。

 

すっかり焦っている様子の彼を見てメレブは満足そうに微笑むとすぐに

 

「やれダクネス!」

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

彼の叫び通りに目の前で動きが止まるバニルに対してダクネスの怒りの会心の一撃が炸裂。

 

今までの鬱憤を晴らすかの如く振り下ろされたその一刀を食らったバニルは、フラフラと後ろに後退していきながら

 

「ぐぅ、よもやこんな情けない死に方をするとは……仕方ないこの宝箱は貴様等に与えてやろう……さらばだ……変な呪文しか覚えられないキノコヘッドと影が薄くて目立たない女騎士よ……」

 

最期にそれだけ言い残すと、意外とあっけなくガックリと仰向けに倒れて動かなくなってしまった。

 

バニルがやられた事を確認するとダクネスはすぐにガッツポーズを取り

 

「魔王軍の幹部! 捕ったどぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「おめでとうダクネス、いやホントにおめでとう……」

 

初めての大手柄に感極まった様子で天井に向かって右手を挙げながら思いきり叫ぶダクネスに

 

メレブもパチパチと両手を叩きながらうんうんと頷きなら祝福する。

 

こうして見事、メレブのアシストもあってダクネスは魔王軍の幹部であるバニルを討伐する事が出来たのであった。

 

そして歓喜の声を彼女が上げている一方で

 

ヨシヒコとアクアはそんな事も知らずに

 

『はーいじゃあ今から滝の下を潜りまーす!』

『女神! 今から滝の下を潜るみたいですよ! あ! 見て下さいあんな所に大蛇が!』

『流石はジャングルね、あっちこっち危険が一杯だわ! でも本当楽しい!』

『右側に座ってる人は滝を見て下さい、左側の人は壁の岩を見て下さーい、真ん中の人は……僕を見てー』

『『アハハハハハハハ!!』』

 

ユニークな事を言いながら終始楽しませてくれる愉快なガイドさんのいる船に乗って

 

すっかり自分達がやるべき本当の冒険を忘れて、密林のジャングルツアーで楽しそうに笑い合うのであった。

 

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