温泉が名物の観光街・アルカンレティアにダンジョー達を救う事の出来るアイテムがあるという仏のお告げを聞いたヨシヒコ達。
彼等はアクセルから少し離れたその街へと赴く事になった。
「いやー久しぶりにこんな遠出したなー」
「馬車に乗って一日半も掛かりましたね」
ヨシヒコ達は無事にアルカンレティアの入り口に辿り着いた。
アクセルから乗れる馬車に乗って長い移動の間ずっと座りっぱなしだったおかげでヨシヒコとメレブは既にフラフラだ。
「はぁ~ここが仏の言っていたアルカンレティアか~、結構よさげな街ですこと」
「まずは仏の言っていたアイテムがあるのかどうか住人に話を聞いてみましょう」
「え、それより先に温泉入った方が良くない? 俺座りっぱなしのせいでケツと腰が痛くてさ~……」
二人でそんな会話をしながら少し街並みを見てみようかと街に一歩足を踏み入れたその時
「ようこそアルカンレティアへ! アクシズ教徒への入信希望者ですか!?」
「ってうわビックリした!」
いきなり下からニュッと現れた男性の村人にメレブが驚くのも束の間、それが合図だったかのように次から次へと村人達がこちらに集まって来るではないか
「よくぞ来てくださいました旅の者よ! 今なら特別キャンペーン実施中で! ここにサインをして頂くだけでなんと宿代が1割引きするチケットを破格の値段で買う事が出来ます!」
「水の女神アクア様を崇拝するアクシズ教徒の総本山へようこそ! ささ! 話は後でしますのでまずはこの入信希望に一筆!」
「わざわざ遠い所からありがとうございます! 特産の食べれる石鹸はいりませんか!? 今ならここに名前を記入するだけで好きなだけ貰えちゃいます!」
「ちょちょちょ! なにいきなり怖い! えぇ!? なんか一斉に村人達がワラワラと出て来たんだけど!」
皆揃ってニコニコしながら一枚の紙きれと筆ペンを持って寄って来る。
この明らかに普通ではない事態にメレブが慌てふためいていると、後ろから「フフフ」と笑い声が
「これが私の可愛い信者ちゃんが住まうアルカンレティアよ、信仰心と布教させようとする熱意が人一倍強いとっても良い子達が住む街なの」
メレブと違って落ち着いた様子で両手を腰に当てて笑っているのはアクア。
魔物であるはぐりんを連れ歩きながら彼女は得意げにこの街に住む者達の特徴を教えてあげる。
「隙あらば観光にやって来た連中を片っ端から私の信者にしようと頑張ってくれてるのよ、まあなんて素晴らしいのかしらここは……」
「おお! その水色の頭は正に水の女神アクア様と同じ! もしかしてあなたは我々よりもずっと強い信仰心を持つアクシズ教徒ですかな!?」
「フフフ、聞いて驚きなさい、私が本人のアクア様よ!」
「熱心なアクシズ教徒であれば是非とも教会においで下さい!」
「いやだから、私が正真正銘本物の水の女神アクア様なんだけど……」
「構いません! そんな痛い妄想をしている可哀想なお人でも! 女神アクア様は全て優しく受け入れてくれます!
「待って妄想じゃないの! ホントに私がアクア様なのよ~!」
自分が本物の女神だと言い放つアクアをアクシズ教徒の村人は軽くスルー。
信者からも信じてもらえないとアクアが一人泣きそうな顔を浮かべていると、彼女の横で突然怒鳴り声が
「ああ!? エリス教徒だと!? そんな奴がよくもまあ神聖なるこの街へとノコノコと観光しにやって来たもんだな! ペッ!」
「い、いや私は別にここへ観光しに来た訳じゃ……」
「おのれ邪教徒共め! この街で布教活動でもしたらすぐに追い出してやる! ペッ!」
「そんな事はしない! 私達はただこの街であるモノを探しに来ただけであって!」
「おおい母さん店の前に塩まいてくれ! ついでにあのエリス教徒の小娘に思いきりかけてやんな! ペッ!」
「うわ! 塩が目に!」
アクシズ教徒の村人が寄ってたかって怒鳴っている相手はエリス教徒のダクネス。
どうやらアクシズ教徒は異教徒に対してはえらく冷たい態度を取る様で
ダクネスが自らエリス教徒だと言った途端、急に悪態を突きながら地面に唾を吐き始めた。
オマケに店から出て来た中年の女性に思いきり塩を投げつけられるという酷い目に遭わされ、ダクネスは罵声を浴びせられながら彼等に背を向け……
「……なんて素晴らしい人達なんだろう……ここまで理不尽で不当な扱いをしてくれるとは……!」
「ねぇちょっと、なに一人で興奮してんのダクネス? マジで? そんな酷い扱い方されてお前本当にマジで?」
無邪気そうな小さな子供達に「あっち行け異教徒ー」と蹴りを入れられながら徐々に顔に悦が込められていくダクネスにドン引きしながら、メレブはすぐにこの場から離れようと決める。
「マズい、このままだと村の者達にウチのクルセイダーが変態だとバレてしまう、とりあえず一旦宿屋に避難しよう」
「仕方ないわね、本当はもっと信者のみんなと語り合いたいけど……私も長旅で疲れたし宿屋で休憩するのに賛成だわ」
「わ、私はしばらくこのままで……」
「いやお前をちびっ子にイジめられながら放置させる訳にはいかないから、さっきガキ大将っぽい奴が「犬のウンコ探しに行こうぜ!」とか叫んでたし」
子供達に蹴られながら嬉しそうにしゃがみ込んでいるダクネスを無理矢理引っ張ってメレブはアクアと共に村人達から逃げる様に進む。
しかしそんな時アクアはふと気付いた。
「あ! ちょっと待ってヨシヒコはどこ!?」
「やべ! よりにもよって一番このタイミングで置いてけぼりにしちゃいけないアイツを忘れてた!」
ヨシヒコが傍にいないとアクアが叫ぶとメレブはすかさず周りを見渡す。
すると自分達よりもかなりの数のアクシズ教徒に囲まれているヨシヒコの姿が……
「あ、いた! こっちだヨシヒコ!」
「メレブさん! すみません私は彼等に行く手を阻まれて進むことができません!」
どうやらヨシヒコはすっかり逃げ道を塞がれて動けないみたいだ。
それでもなお彼はメレブに向かって叫び続け
「メレブさん達は先に宿屋に行っていてください! 私もすぐに追いかけます!」
「わかった! 念の為言っておくけど間違ってもその連中の言葉に惑わされてアクシズ教徒になるなよ!」
「はい!」
「フリとかじゃなくて本気で言ってるんだからな! 絶対なっちゃダメだぞ!」
「はい!!」
念入りに口酸っぱくしてメレブは何度もヨシヒコに確認すると、アクアと抵抗するダクネスを連れて宿屋がある方へと一気に駆けて行く。
その姿を見送るとヨシヒコもすぐに「通してください! 道を開けて下さい!」と村人達に叫びながら彼等の後を追いかけようとすると……
「カ、カッコいい……!」
「?」
ふと足元から聞こえた小さな声に反応してヨシヒコは下に目をやる
するとそこにはまだあどけない表情を浮かべる小さな女の子がキラキラした目をこちらに向けていた。
「お兄ちゃん、凄くカッコいい……! もしかして冒険者なの?」
「私はヨシヒコ、魔王を倒す為にこの地にやって来た勇者だ」
「勇者!? 凄いお兄ちゃんって勇者様なんだね! だからそんなにカッコいいんだ!」
憧れのヒーローに出会ったかのように眩しい笑顔を見せる女の子にヨシヒコは満更でも無さそうにフッと笑う。
すると女の子は恥ずかしそうに一枚の紙を取り出して
「あの、カッコいい勇者様……良かったら私の為にサイン書いてくれないかな……友達に自慢したいの、魔王を倒す為に戦う素敵な勇者・ヨシヒコのサインを貰ったんだぞーって」
「ああ構わない、私なんかのでよければいつでも書いてあげよう」
「本当!? やったー! はいじゃあこのペンでここに名前書いて!」
勇者として長い旅を続ける中で、サインをねだられる事なんて滅多に無かったヨシヒコはすぐに嬉しそうな反応を見せつつ、彼女が差し出しだ紙とペンを受け取るとサッと自分の名前を書いて渡す。
「ほら、これで友達に好きなだけ自慢しなさい」
「ありがとうお兄ちゃん! それと!」
ヨシヒコのサインを受け取った女の子はニッコリ笑ったまま彼の方へ紙を見せつける。
「入信おめでとう! ヨシヒコお兄ちゃん!」
「……ん?」
入信おめでとう……彼女にそう祝福されて眉をひそめつつヨシヒコはその紙をジッと見つめる
その紙には自分が読めない文字がズラリと並んでいるが、もしかして……
「もしやこれは……! アクシズ教の入信希望書……!?」
「うん! これでお兄ちゃんもアクシズ教徒だね!」
「おいみんな! 今ここに俺達の同志がまた一人増えたぞ!」
「共にアクア様を称えてより自由な世界を楽しもうぜ!」
ヨシヒコはこの世界の字が読めない、どうやらそれが仇となってしまったみたいだ……
まさかこんな幼い女の子がこんな巧妙な罠を仕込んでいたとは……
「しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
周りの村人からも祝福されながらヨシヒコは両手で頭を抑えながら、己の失敗に嘆くしかなかったのであった
勇者ヨシヒコ・アクシズ教に入信決定
その頃メレブ達はアクシズ教徒の追手を振り払って宿屋に辿り着き
やっと静かになったと部屋の中で落ち着いて椅子に座っていた。
「遅いなぁヨシヒコ、アクアの奴も気が付いたらいないしどこ行ったんだろー」
「メレブ、私はふと思ったんだが……」
「うーん出来れば思ったままにして欲しいけど、今暇だから言ってみなさい」
椅子の背もたれに頭を預けながら退屈そうにしているメレブに
ベッドに腰掛けながらダクネスがモジモジした様子で顔を赤らめて
「ここに永住してみないか?」
「うんやっぱり思ったままにしとけばよかった、答えは「ふざけんな」です」
「ここにいるアクシズ教徒は凄いぞ! 大人も子供も関係なく皆エリス教徒を人間として扱わないんだ! 本当に素晴らしい!」
「お前、エリスちゃんにマジ一回ぶん殴られてこい」
興奮した面持ちでベッドから立ち上がるダクネスにメレブが冷めた表情を浮かべながら、コイツを一人で相手するのめんどくさいから誰か来てくれと頭の中で願っていると
「お待たせみんな! 水の女神であられる最高の美少女! アクア様のお帰りよ!」
「コイツもコイツでめんどくせぇ~……」
部屋のドアをノックもせずにバタンと勢いよく開いて現れたのは、アクシズ教徒が一杯触れ合えた事ですっかり上機嫌のアクア、足元には当然の如くはぐりんが笑顔を浮かべてついて来ている。
「ねぇ聞いて聞いて! 私ふと疑問に思ったからここの宿屋の店主から情報収集って奴をして来たの! そしたらどんな情報を貰えたと思う!?」
「知らないよ、食べれる石鹸の美味しい調理の仕方とか?」
「アンタにしては鋭いわねメレブ、けどそれだけじゃないの」
「それもあったんかい!」
当てずっぽで適当な事を言うメレブに対し得意げに人差し指を立てると、アクアは店主から聞いたこの街の話を始める。
「この街にやって来た時、いきなり私の信者ちゃん達に取り囲まれたじゃない? あれちょっと不思議に思ったのよ、だってアクシズ教徒であれば普通はもっと回りくどい手を使ったり陰湿な嫌がらせを続けた上で布教するのがセオリーなの、けどあの子達はほとんど直接的に私達にサインをせがんで来た、これはきっとおかしいと考えたの私」
「いやお前の言ってる事全てがまずおかしい! なんだ陰湿な嫌がらせって! それをやるのが普通ってなんなんだアクシズ教って!」
「でねでね、その事で店主に聞いてみたら、なんでも観光地に来るお客さんが減ったせいでその分布教活動もままならない状態になってるみたいなの、だからみんな私達が来た途端あんなに必死だったのね」
「おいアクア! どうしてこの街に観光客が減ったのか教えてやろうか! ここの住人とアクシズ教という存在のおかげ! それ以外に無い!」
「それで、一体どんな原因でこの街に観光客が減ったのか聞いてみたのよ」
「この娘、俺の正論を完全に無視する気だな……」
椅子から立ち上がったメレブが指を突き付けハッキリとモノ申すものの、アクアは全く耳にも入れずに自分だけ勝手にしゃべり続けた。
「どうやらこの街の観光名所である温泉にね、入ると身体を悪くする出来事が増えているんですって」
「温泉? ほーそいつは確かに妙だな、身体の状態を良くする温泉が逆に悪くするって」
「それで私、試しにこの宿屋で出してる温泉を調べてみたんだけど……少量だけど毒らしきモノが混入されていたわ」
「え、毒!? てかお前そんなのわかるの!? 初めて知ったんだけど!」
「私は水を司る女神よ、水の中に何が混ざってるかなんて簡単にわかるわよ」
アクアの意外な能力にメレブが驚く中で、ダクネスもまたようやく正気に戻って話を聞いていた。
「という事はこの街に観光客が減ったのは温泉に毒が混入された事が原因という訳か? しかし温泉に毒を混ぜるとはなんと卑劣な……一体誰がそんな真似を……」
「それがまだわからないのよ、私の可愛い信者ちゃんを困らせるなんて絶対に許せないわ、なにがなんでも突き止める必要があるわね」
「でも俺達がここに来た本来の目的は、仏の言っていたアイテムを探し出す事だからなー」
この街の温泉に毒を混ぜた犯人がいる
観光名所を潰されてはアクシズ教徒の存続が危ういと察したアクアは一刻も早く犯人を探さねばと主張するが
メレブはしかめっ面を浮かべながら目を細め
「犯人探しについては一応俺達も協力はするけど、本命はアイテムだって事を忘れるなよ」
「ああ、仏の言っていたアイテムの在り処なら分かったわよ」
「え、うそぉ!? マジで!?」
「なんでもこの街の近くにある一番大きな山を登った先にある温泉の源泉が流れる所に、神聖なる蔵が置かれていて、その中にそれらしきモノがあるんですって、悪に染まり切った魂の汚れを浄化するとかなんとか」
「うむ、そのアイテムの効果が本当なら、まずはここにいる街の住人達に使ってやりたいが……」
既に仏のお告げで示されたアイテムが置かれてる場所まで把握していたアクア
まさか彼女がここまで仕事してくれるとはと、メレブ素直に感心する様に頷いた。
「ていうか今回のお前凄い役立つじゃん、なに? あの夢の国に行ったおかげで心が洗われたとか?」
「あのねぇ私が役立つなんてずっと前からわかり切ってる事じゃないの、アンタと一緒にしないでくれる?」
フンと鼻を鳴らしながらアクアは自慢げにドヤ顔を見せつける。
「それにこの街を脅かす出来事を排除する為なら私は喜んで仕事するわよ、だって私はここにいる子達が崇拝する女神、アクア様なんだから!」
「そういやヨシヒコが全然戻ってこないなー、怖いけど一旦街に出て探してみるか」
「そうだな、こうも遅いとやはり心配だ、アクアは部屋で休んでていいぞ」
「一番決める所で無視しないで! 無視されるのが一番キツいの!」
また訳の分からない事言ってると、メレブとダクネスは彼女の言葉も無視してヨシヒコを探しに部屋を出る事に
置いてけぼりにされそうになったアクアは慌てて「私も行くー!」と彼等の後を追うのであった。
街に出ると運良く大量の信者達は見えなかった
というか自分達以外の人すらいない、不気味な程に静かだ
「なんかぁ……急に誰もいなくなったけどどうしたんだこの街……」
「何故だ……おいアクシズ教徒の者達よ! エリス教徒がここにいるぞー!」
「自分でアピールするなこのおバカ ったくヨシヒコの奴どこ行ったんだよー」
「あ! いたわあそこ!」
さっきまで自分達に群がって来た者達が全く見えない事にメレブがちょっとビビっていると
ダクネスが周りにある建物に向かって必死にエリス教徒だと叫んでる中で、アクアはふと指差して叫ぶ
するとその先でこちらに向かってブンブンと手を振りながら
「皆さーん!」
「あ、ヨシヒコいた! 良かったー」
はぐれていたヨシヒコが笑顔でこっちに戻って来た。
ようやくこれで合流出来たとメレブはホッと一安心。
「ったくもー、宿屋で俺達を心配させてー、途中で道草したり買い食いしちゃダメって言ったでしょ」
「すみませんメレブさん、その代わりにメレブさんにとっても為になる良い話をお持ちしました、この話を聞けばメレブさんは絶対に幸せになれます」
「ほほぅ、それはちょっと興味ありますな、なになにどんな話?」
最初はお母さん口調で叱りつけるメレブだが上手い話があると聞いてすぐに興味津々の様子
するとヨシヒコは笑顔のまま彼に一歩歩み寄り
「メレブさんもアクシズ教に入信しましょう!」
「……はい?」
「メレブさん! アクシズ教には素晴らしい教えがあるんです! その教えに従えばきっとメレブさんの人生もバラ色間違いなしです!」
「……」
目を爛々と輝かせながら詰め寄って来るヨシヒコに、メレブはただ瞬きを何度もしながら口を半開きの状態で絶句した。
もしやこの男
「おいヨシヒコ……お前まさか~……アクシズ教徒になってたり~とかはしてないよね?」
「この世界の者達が全てアクシズ教徒に染める為に! 私と一緒に戦いましょうメレブさん!」
「なってる~! めっちゃいい笑顔でアクシズ教徒になってる~!」
やはりというべきか、周りに流されやすいヨシヒコは案の定この街の住人達によってすっかりアクシズ教徒の一員になってしまったらしい。
しかもなってすぐにこの強引な勧誘を仲間にやってのけるとは、やっぱりヨシヒコはバカだった。
しかし彼の変化を嘆くメレブをよそに、アクアは凄く嬉しそうな表情で
「遂にアクシズ教徒になったのねヨシヒコ! アンタなら絶対見込みあると思ってたのよ!」
「は! 女神! いえ! 我々アクシズ教徒を導く星であられるアクア様!」
自分の信者になってくれた事にアクアが喜んでいると
ヨシヒコは突然跪いて彼女の手を優しく振れると
「今まで私がアクア様に犯した数々の愚行をお許しください! これからはこの身が燃え尽きようと、例え魂の一かけらになろうと、私はアクア様のお言葉のままに従います!!」
「やだこのヨシヒコ……滅茶苦茶ステキじゃない……! 私の言う事なんでも聞くんだって!」
「おぉい! なにお前ちょっと嬉しそうにしてんの! 目を覚ましなさいヨシヒコ! こんな奴の言う事を聞いちゃいけません!」
上目遣いで忠誠を誓ってみせたヨシヒコにアクアは満更でも無そうな反応を取るのでメレブは慌てて止めに入る。
そしてダクネスもおかしくなっているヨシヒコにすぐに駆け寄って
「メレブの言う通りだヨシヒコ、お前がアクシズ教徒になるのは勝手だがこんな茶番をしてる場合じゃないんだ、一刻も早くこの街にあるダンジョーとムラサキを救うアイテムを見つけねばならない、それは勇者であるお前が一番わかっているだろう」
「……」
「え、な、なんだヨシヒコ? 急にこちらを睨み付けて……」
ヨシヒコを諭してやろうと話しかけて来たダクネスに対し無言でスクッと立ち上がると、彼女を睨み付けながら突然表情を一変させて
「エリス教徒である貴様がこの私に知った風な口を叩くなぁ!!」
「ええ!?」
「神聖なるアルカンレティアにいるにも関わらず、首輪を付けずに放し飼いにされた駄犬め……もし共に旅する仲間で無かったら即刻犬のウンコを投げつけている所だぞ!」
「……」
「わかったならさっさとそのマヌケに開いてる口を閉じろ! ペッ!」
「お、おお……!」
いつもは絶対にあり得ない様な罵り口調で激しくダクネスを責め立てるヨシヒコ
そしてこちらに対して軽蔑の眼差しを向けながら地面に唾を吐くヨシヒコを見て、ダクネスはそっと自分の胸に手を当てて
「何故だろう……今までずっと共に戦って来たヨシヒコに……初めてちょっとドキッとしてしまった……」
「お前もかーい! てかなんで今のでドキッとした!? 怒っていい所だよそこは!」
散々罵られておいてヨシヒコに対して胸の高鳴りを覚えるというまさかの展開
どんだけイジメられるの好きなんだとメレブがダクネスにツッコむも、ヨシヒコはそんな彼を再び標的に定めて全開の笑顔に元通り
「さあ! メレブさんも私と一緒にアクシズ教に入信しましょう! そしてこの世界をアクア様の名の下に理想郷へと変えてしまうんです!」
「いや俺はいい! 頼むから俺の事はほおっておいてくれ!」
「そうよアンタもなっちゃいなさいよメレブ、この私に永遠に従うという忠誠を誓えば少しは優しくしてあげるわよ?」
「メレブもアクシズ教徒になるという事は、このヨシヒコの様に……よしメレブ、お前もアクシズ教に入信するんだ」
「ちょいちょいちょーい! ヨシヒコとアクアはともかくなんでエリス教徒のお前が俺をアクシズ教徒にさせようとしてんだよ! 絶対に入らないから! 俺は絶対にアクシズ教徒にはならない!」
ヨシヒコの勧誘に便乗してアクアも乗り気な態度、おまけにダクネスまでもが自分を入信させようとして来るので、メレブはかたくなに拒否
するとヨシヒコは彼の方へまた一歩前に出て
「メレブさん! 入りましょう我等がアクシズ教に!」
「だから嫌だって! なんで俺までそんな訳の分からない団体に入らないといけないんだよ!」
「メレブさん……」
絶対に首を縦に振ろうとしないメレブにヨシヒコは真顔になると、軽く咳払いをすると急に大きく口を開けて
「人は~どうして幸せになろうとするのか~♪」
「え、なに、急に歌い出したよこの子」
「人は~どうして自由を求めるのか~♪」
「えーなになになに怖い怖い……意外と美声なのが逆に怖い」
「その答えを、知りたいのであれば、教えてしんぜよう~♪」
怖がりながら頬を引きつらせて後ずさりするメレブに、ヨシヒコは高らかに歌いながら歩み寄っていく
「入るのだ~、し~あわせと~じ~ゆうを掴む~♪」
「「「「「我等がアクシズ教へ~~~♪」」」」」」
「住民出て来た!!」
メレブはビクッと肩を震わせた。
突然ヨシヒコの歌い声に合わせて、先程まで人影すらなかった街の住人達が
こぞって周りの家や店から出て来たのだ。
「「「「「アクシズ教は本当に良い所~♪」」」」」
「ウソじゃないぞ~♪」
「「「「「アクシズ教は本当に自由~♪」」」」」
「犯罪でなければ何やってもいい~~♪」
「「「「「上手くいかないのはあなたのせいじゃない~♪」」」」」
「世間が悪い~~~♪」
街の住人達が後ろで踊ってコーラスしている中でソロで歌い続けるヨシヒコ
そしてみるみる彼の周りにアクシズ教徒達が集まって来る。
「人はいずれ迷うべき事がある~♪」
「けどそれはどちらを選んでも~必ず後悔が襲って来る~♪」
「ならば答えはひ~と~つ~♪」
「どうせ後悔するなら♪」
「今楽ちんな道を選べばいいだけ~♪」
女性の教徒達の歌が終わるとそれに入れ替わる形で男達がバッと前に現れ
「悩む! 前に! 生きよう!♪」
「楽な! 道を! 恐れずに!♪」
「本能の! ままに! 好きなだけ!♪」
「我慢! せずに! やっちまえ!♪」
「ソレコソガアクシズ教徒ノ教エ~~~!♪」
次々出てくる男達の中で最後に出て来た神父の恰好をした人物を見てメレブは目をギョッとさせた。
よく見たら自分達を生き返らせる事の出来る教会にいつもいるあの神父だ。
しかしその事に触れる前に、神父は他の住人達の中へと混ざり込んでいき
「「「「「アクシズ教は素晴らしい~♪」」」」」
「悪魔は殺せ~♪」
「「「「「アクシズ教こそ最高~♪」」」」」」
「エリス教徒は潰せ~♪」
「「「「「求む者全てが~♪」」」」」
「ここに~~♪」
「「「「「あ~~る~~~♪」」」」」
再び住人達のコーラスとヨシヒコのソロ
すると沢山いる住人達の中から一人の女の子がトコトコと出て来て
先程からずっと前で歌を聞いていたメレブ達の横を通り抜け
ずっと物陰に隠れていた一人の男を見つけた
「ねぇ、おじちゃんはそこで何してるの?」
「バ、バカ話しかけるな! 連中にバレるだろうが!」
店の影に隠れてずっと様子を伺っていたのは屈強な肉体をした長身の男
男は慌てて逃げようとするが、歌っている途中でヨシヒコは彼と女の子の声に気付いてバッと振り返る。
「どうやらそこにも~! 我等に救いを求める者がいるようだ~!♪」
「そ、そんな訳あるか! 誰がお前等みたいな危ない連中と! 俺を誰だと思ってる!」
「お~のれの心に~! す~なおにな~れ! お前が求むのはアクア様~♪」
「くそ……ここで逃げたら俺のメンツが丸つぶれだ……」
ヨシヒコに指を突き付けられた男は、ここで退いたらずっと付き纏われると思い
自ら彼の前に出て、メレブ達の隣でサッとポーズを取り
「ふ~ざけるな~! お前等みたいなの~死んでもお断りだ~♪」
「お前も歌うんかーい! しかもすげぇめっちゃいい声!」
「誰であろうと~お構いなしに~! 石鹸寄越す~! お前等が本当に大嫌いだ~♪」
いきなり一緒になって歌い出す男にメレブがツッコミ挟む中、ヨシヒコも負けじと彼の方に一歩歩み寄り
「バカな事言うな~! その石鹸は~! なんと食べる事が~出来るのだぞ~♪」
「教えてや~ろ~! 石鹸というのは~! 体を洗う~為のものであり~! 食べるモノではない~♪」
「いいやその考えは~間違っているぞ~! 石鹸というのは~! 洗う為に~使うものだけであらず~♪」
ステップを踏みながら歩み寄って来るヨシヒコに男は後ずさりしながらハッと気づいた。
ヨシヒコだけでなく背後の住人達もこちらに狙いを定めて近づいて来ている事を
「「「「「そうだ、先入観を捨てるのだ♪」」」」」
「可能性、は、なんにだって、あ~る♪」
「「「「「人も、石鹸もお~なじ♪」」」」」
「進むべき、可能性は、無限に、あ~る♪」
「「「「「さあ! 今こそ! その目を開~けて♪」」」」」
「自分の可能性を見つけるのだ~♪」
再び住人達とヨシヒコのハーモニー合唱
それにすっかりビビってしまった男は慌てて後ずさりするもその背後から……
「げぇ! 後ろからも回り込んでやがった!」
なんとそちらからもアクシズ教徒達がゾロゾロとやって来ていた。
完全に挟み撃ちにされた事に気付いた男は苦悶の表情を浮かべると
後ろから来た者達の中で先頭に立っている、あの神父が一番前に出る。
「「「「「ここが~♪」」」」」
「アナタノ~♪」
「「「「「探し~♪」」」」」
「求メテタ~♪」
「「「「「新しい~♪」」」」
「イ~バ~ショ~♪」
盛大に歌いながら「止めろー!」と叫んでいる男を挟み込んで行きそして……
「「「「「ようこそ~~~♪」」」」」
「「「「「アクシ~ズ教~~♪」」」」」
「止めてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
最後にアクシズ教徒達に揉まれ断末魔の叫びを上げながら消えていく一人の男
その地獄絵図の様な光景を目の当たりにしながらメレブはアクアやダクネスと共にパチパチと拍手をし終えると
「うん、100パー入信したくない」
魔法使い・メレブ
アクシズ教徒・まさかの入信完全拒否
そしてアクシズ教徒達に群がられ
石鹸や入信希望書を体の至る所に押し付けられまくっている謎の男はというと
「こんな街……絶対に滅ぼしてやる……」