玖ノ一
アルカンレティアからアクセルの街へ戻ろうとしたのだが帰りの馬車代が無かった。
という事で仕方なくヨシヒコ達は徒歩で帰る事に
するとその道中で
「あーはいはい、ちょいとごめんよー、悪ぃけどちぃと付き合ってくれや」
突然岩の影からヨシヒコ達の前を通せんぼするかのように現れたのはかなりくだけた口調の男
どうやらヨシヒコ達をここから先へ通すつもりは無いらしく、それを見てアクアはハァ~と疲れた感じで面倒臭そうにため息をつく。
「うへぇ、こんな時によりにもよって盗賊出て来たわね……しかも凄いけだるそうな奴が……」
「なんなんだあの男の生気の無い目は……まるで死んだ魚のような目だぞ、やる気あるのか?」
「いや待てアクア、ダクネス……あの男の見た目とあの感じ……俺どっか知っているような気がする」
小指で耳をほじりながらダラダラとした姿勢を見せつけ、一見隙だらけな状態の男ではあるが
アクアとダクネスがジト目を向けながら呆れた様子で呟く一方で、メレブの表情は険しくなる。
「あの死んだ魚のような目、そして空と雲をモチーフにしたのような独特な着物……腰に差してるのは『洞爺湖』と彫られた木刀……そして極めつけは……あの銀髪の天然パーマ!! お前はもしや!」
「坂田銀時です、つい最近までジャンプで連載されてた『銀魂』って奴の主人公やってました、はい」
「うわ普通に自分で名前言っちゃったぁ……しかも作品名まで言っちゃったぁ……」
数々の特徴を捉えてメレブはほんわかとぼかそうとしたのに、あっさりと自分の名前を言って軽く手を挙げて挨拶してきたのは坂田銀時という男だった。
するとヨシヒコはすかさず前に出て怪しむ様に目を細める。
「メレブさん、あの男は一体何者なんですか……? こうして見る限り、ただの盗賊とは思えないのですが……」
「うむ、俺も噂話でしか聞いた事のないのだが、なんでも金さえ払えば何でもやるという万事屋を営んでおり、いつもはあんな感じでけだるさ全開のスタイルなのだが、いざという時は大切なモノを護る為に腰に差す得物でどんな相手であろうと戦いを挑むことが出来る、侍と呼ばれているとても強い男だ」
「いや滅茶苦茶知ってるじゃないのアンタ」
「なるほど、それは絶対に油断できない男ですね、しかし……」
坂田銀時という男についてちょっと詳しく説明するメレブにアクアがボソリとツッコむ中
彼からその特徴を聞いてそう簡単には倒せそうにないと思いつつも、ふと頭にちょっとした疑問を浮かべるヨシヒコ。
「あの、私の勘違いかもしれませんが……だいぶ昔に出会った魔王の使いとどこか顔付きが似てませんか?」
「……そこに触れてやるなヨシヒコ」
「あー小栗旬はいい感じに俺をやってくれたよ」
「小栗旬って言っちゃった……どこの世界でも自由だな銀さんは……」
再び手をビシッと挙げながら勝手に自己紹介する銀時に、メレブは対処しきれないと首を傾げている中
ヨシヒコはそんな彼の方にチャキッと剣を抜いて構える。
「お前が坂田銀時とかいう男だろうが、小栗旬とかいう男だろうが関係ない、私達の道を阻むのであれば、勇者として無理矢理にでも押し通らせてもらう」
「いやちょっと待てって、そういきなり堅苦しい真似よりも先に俺の話聞いてくれよ、な、エリザベス」
「私はヨシヒコだ! エリザベスなんて名前では断じてない!」
「源外のジーさんからも上手く言ってコイツの得物収めさせてくれない?」
「え、源外のジーさんってどちら様!? ワシそんな名前じゃ……俺そんな名前でもないしジーさんでもないから! メレブだから!」
どうやら銀時の方はいきなりヨシヒコ達と剣を交えるつもりは無かったらしい。
訳の分からない事を言いながらやれやれと首を横に振ると、銀時は「あのさ」と改まった様子でこちらに話しかける。
「俺別にね、アンタ等の行く手の邪魔をする為に殺すとか金品を掻っ攫ってやろうとかするつもりは全く無ぇから、確かに銀さん金ないよ? でもそんな真似する程落ちぶれてねぇし」
「それじゃあお前は一体、私達に何の用があるというのだ」
「ちょっと、エリザベス……じゃないか、ヨシヒコ君にお願いがあってここに来たのよ俺」」
「私に?」
どうやらヨシヒコの方へ用があったらしく、両手を腰に当てながら銀時は一歩前に詰め寄ると、突然真面目な表情を浮かべながらキリッとした目つきで
「主人公のポジションを俺に譲ってくんない?」
「な、なんだと!?」
叫ぶ銀時にヨシヒコは目を見開き驚きの表情を浮かべ言葉を失ってしまう
まさかのここに来て主人公交代を要求、これにはアクアもすかさず身を乗り上げ、
「ふざけんじゃないわよ、主役の座を譲れですって!? お金は奪わないとか言っておきながら! もっと大事なモン取ろうとしてるじゃないの!」
「あー違う違うそういうツッコミじゃダメ」
「え?」
すぐに彼の要求を拒否しようと叫ぶアクアだが、そこへ銀時が軽く手を横に振って
「ウチの作風に合わせた感じにして、せめてセリフの頭「オィィィィィィ!!!」って付けるとかさ」
「アンタの所のツッコミ方なんて知らないわよ!」
「オイィィィィィィィィ!! 主人公の座を寄越せとかナメてんのかこの毛玉頭!! ぽっと出のゲストキャラが調子こいてんじゃねぇぞコラァァァァァァ!!!ってな感じでいいから」
「あー……」
ツッコミ方についてダメ出しして来た上にツッコミの参考例も挙げて来た銀時に、アクアは顎に手を当ててなるほどと縦に頷く。
「それなら結構できるかもしれないわ私、今までも似たような感じで叫んでたし」
「オイィィィィィィィィ!! 奴の口車に乗せられるな水色頭!! 奴は俺達を徐々に自分達の作風に合わせていって、最終的にこの作品を自分の作風一色に仕上げて乗っ取ろうとしているんだぞ!!」
「え、そうなの!? てかアンタもオイィィィ!を使ってんじゃないの!」
「とにかく奴の言葉に惑わされちゃ駄目! 自分を貫いて!」
「いやそうは言っても、私達って結構アッチと似たようなモンよ?」
メレブのツッコミと適切な忠告に対してアクアはやや納得していない様子で顔をしかめている中
ダクネスもまたヨシヒコの隣に立って警戒する様に銀時を睨み付ける。
「主役の座を欲しいというのは私にはよくわからないが、要するにヨシヒコの代わりに自分がこの世界で魔王を倒そうという訳か?」
「んーまあ、別に倒しちゃってもいいけど? そういうデカい相手倒すの慣れっこだし」
「無理だな、お前みたいな腑抜けた男に魔王を倒す事が出来るなんて私は到底思えない。悪いがこのまま消えてくれ」
「いやいやいやだから倒せるって、つかそんないきなり追い出そうとするの酷くない?」
銀時を観察してすぐに魔王を倒す勇者としては相応しくないとバッサリと言い切るダクネスに、髪を掻き毟りながら銀時は半笑いで
「自分で言うのもなんですけど、銀さん結構強いからね? 昔は白夜叉とか呼ばれて、こう、ブンブン刀振って敵を倒して行ってたんだから」
「強いと自称するのであれば尚更自分の居場所で戦ったらどうなんだ、お前がいるべき場所は本来ここではないのだろう」
「自分の居場所ねぇ……」
自分のいるべき場所に帰れと素っ気なく促すダクネスに対し、銀時は寂しげな表情を浮かべながらポツリと
「まあこういう事言うのもなんだけど、ウチ、原作もう完結しちゃったからさ、戻ってもやる事無いのよ実際」
「げ、原作? 完結って何を言ってるんだお前?」
「つまりね、銀さんもう……お前達と違って自分の居場所無くなっちゃったの……最終回迎えちゃったから」
「!?」
何を言っているのかよくわからないが、どうやらこの男はもう自分がいるべき大切な居場所がもう無くなってしまったと言っているみたいだ。
それを聞いてダクネスがショックを受けていると、銀時は目を地面に落としながらはぁ~とため息をついて
「俺だって本当はさ、こんな世界に来てわざわざ自分を売り込もうとするなんてやりたくないんだよ、けどこうでもしないとダメなんだ、このまま誰からも忘れ去られて、銀魂はもう過去の作品だと言われるくらいなら……手足ぶっ潰れてもいいから必死に足掻いてみてぇんだよ俺は」
「そ、そこまでしてどうして主役になりたいんだお前は……」
「まあそのなんだ、笑っちゃうかもしれねぇけど、こんな俺みたいなちゃらんぽらんを主人公として認めてくれた仲間達に、最期くらい恩返ししてやりてぇと思ってさ」
明らかに自分の言葉に動揺している様子のダクネスに、畳みかけるかの様に銀時は懐から一枚の写真を取り出す。
それはきっと彼等がかつて共にいた仲間達が映っている写真なのであろう、眼鏡の少年と、黒い制服を着た物凄く地味な青年は隅の端っこに追いやられて卒業写真の欠席者扱いみたいにされてるが
そこには間違いなく銀時が時に一緒に働き、時に戦い、時に手を取り合った大切な仲間達が映っていた。(一人だけメレブと妙に似ている老人がいるが気にしないでおく)
「俺がこっちで主人公になれば、俺と同じくテメーの居場所を失ったアイツ等もこっち来れるかもしれねぇと思ってさ……」
「見かけによらずなんて仲間思いの男なんだ……ヨ、ヨシヒコ、一回ぐらい主役の座を代わってやってもいいんじゃないか?」
「確かにそこまで仲間を助けたいのであれば……一回ぐらいは彼に勇者としての役を譲っていいような気が……」
「オイィィィィィィィィ!! 騙されてんじゃねぇぞそこの二人!!」
銀時の仲間を大切にするその心意気に、ちょっとの間主役をやらせてあげてもいいんじゃないかと思うヨシヒコとダクネスであったが、そこへメレブが慌てて手を伸ばして待ったを入れる。
「あのな! コイツだけじゃなくてコイツの仲間までこっちに来たらそれこそこっちの世界が崩壊するぞ! あっちの世界の住人なんか本当にヤベぇんだぞ!」
「どうしてもダメですか? 1回ぐらい譲ってあげても私は構わないんですが?」
「勇者としての自分を大切にしなさいヨシヒコ! こんな奴等の連中をこっちに引き入れたら地獄絵図になるのが容易に読み取れるの! ウチはクロスだから! トリプルとか絶対やらないから! まあちょっと仏のせいでとある世界とちょっぴり繋がってるけども! この天然パーマの男の世界とは絶対に繋がっちゃダメ!」
「なあヨシヒコ、メレブがここまで頑なに止めておけと言っているんだから、きっとワケがあるんだろう」
絶対にダメだと断固阻止しようという姿勢を貫くメレブを見て、ようやくダクネスも彼の熱意に応えるかの様にヨシヒコの方へ振り返った。
「申し訳ないが今回は見送るという形でどうだろうか?」
「……私は一回ぐらいなら変わってあげても良いと思ってる、なんなら二回でも三回でも」
「おい……お前本当は単にサボりたいだけなんじゃないか?」
「ダクネスよ、ヨシヒコとは……そういう勇者なんだ」
「え、もしかして俺……こっちの世界で主人公やるのやっぱダメな感じ?」
「ダメに決まってんでしょ、さっさと自分の世界へ帰りなさいこの腐れ天パ」
ヨシヒコ本人は別に構わないと真顔で言っているが、メレブとダクネス、そして最初から反対しているアクアの反応を見て、銀時はやや苦い表情を浮かべながら「ええ~」と後ずさり
「どうしてもダメ?」
「ダメだ」
「本当に?」
「ダメよ」
「先っちょだけでも?」
「ダメ、先っちょもダメ」
「チッ、わかったよ……」
ダクネス、アクア、メレブの順に拒否られた銀時は、軽く舌打ちすると手に持っていた写真をポイッと投げ捨てる。
「あーあ、この世界は冷てぇ奴等ばかりですなぁホント、仕方ねぇ、素直に諦めてとっとと帰るとしますか……」
「おい、大切な仲間が映ってる絵を今簡単に捨てたぞアイツ……」
「きっとお前やヨシヒコから同情を貰う為に餌に過ぎなかったのであろう、ああいう男なのだ、坂田銀時という男は」
自分の目の前で堂々と悪態突きながら写真を捨てる銀時にダクネスが唖然とし、メレブが説明している中で
銀時はこちらに背を向けてフラフラと何処かへと歩き出す。
「じゃあ俺、今度は別の世界当たってみるわ、お疲れさん。魔王退治頑張れよ、勇者一行様」
「私は主人公代わっても良いぞ!」
「だからダメだって、そう簡単に主役の座を他人に明け渡すんじゃないのお前は」
「思えばこのヨシヒコという男も、あの男と同じぐらい癖が強いんじゃないだろうか……」
「カズマもね、やっぱ案外あの銀時って言う男の世界とも上手くマッチ出来るかもしれないわね……」
背を向けながらこちらに手を振って銀時は、行く当てもなくどこかへ歩いて行ってしまった。
是非主役を代わって楽させて欲しいと懇願しているヨシヒコと
そんな彼を見てもしかしたらあの坂田銀時という男も上手くこっちに馴染めたんじゃないかと思うダクネスとアクアを残して……
「やっぱダメ?」
「だからダメだって言ってるでしょうが! さっさと帰りなさいよもう!」
「私は一向に構わない!」
「ヨシヒコはもう黙ってなさい!」
「ちょっともっかい話しない? 俺の魅力もっと伝えるから」
「しつこいわねホントに! なんなのよアンタ! お願いだから帰って!」
それから雲の様に掴み所のない男・坂田銀時にしつこくせがまれ数十分
やっとこさ彼を追い払うのであった。
「ちなみに銀魂は、まだ終わってないからね、ジャンプGIGAでちょっと続く予定だから」
「え、そうなの!? じゃあまだまだアイツの物語終わってないじゃないの!」
「てことは本格的にここへ何をしに来たんだアイツは……」
「私は主役を代わってもいいぞー!!」
そして謎多き侍・坂田銀時と別れた一行はトボトボと道を歩いていると
ヨシヒコォォォォォォォォ!!! おいヨシヒコォォォォォォォォ!!!
空から物凄くうるさい声がこちらに向かって飛んで来たので、一同は立ち止まって顔を上げる。
「なんで? なんでアイツまで銀魂風に叫んでるんだよ、腹立つなー」
「メレブさん、やはりあの男に魔王を倒してもらうのもアリなんじゃないでしょうか」
「ナシだよ、勇者が魔王倒す役目を他人に任せようとしちゃダメだろライダー〇ン」
まだ引きずっているヨシヒコにメレブはウンザリしつつも、懐からいつものヘルメットを取り出して優しく被せてあげた。
すると空に浮かぶ雲の上からすっかりお馴染みである仏が現れる。
「はい仏でございまぁぁぁぁぁす!! 今回もお告げやっちゃうぜオイィィィィ!!!」
「いや使い方思いきり間違えてるだろそれ……もうお告げするなら普通にお告げしてくれ頼むから」
「はい、普通にやりまーす」
「言われたら意外とあっさり素直に聞くんだよなアイツ……」
対応するのめんどくさいからその口調止めろというと、すぐにいつもの口調に戻って真顔になる仏。
聞き覚えが良い時と悪い時の差ってなんなんだ?と仏を見ながら疑問を覚えるメレブをよそに
早速仏はヨシヒコに向かってお告げを始めるのであった。
「さてヨシヒコよ、ダンジョー達を救うアイテム、導きの笛を手に入れたのであればもはや進むべき道は一つしかない」
「それは仏、道は一つしかないという事はつまり……」
「ここからしばらく西の方角へまっすぐ進みなさい、時間はかかると思うであればひたすらに進め、超進め! 死ぬ気で進め! さすればお前達の行く先に……」
「魔王の城が見えてくるであろう……!」
「魔王の城、遂に!」
「うむ! 遂にお前達が魔王と戦う時が来たという事だ!!」
この異世界に来て遂に最終目的地、魔王の城へと導く仏に、ヨシヒコは魔王との決着の時が近いと感じていると
メレブ、アクア、ダクネス、ここに来るまで共に戦ってくれた仲間達も覚悟を決める。
「やっとここまで来たのか俺達……ダンジョーとムラサキがいなくなった時はヤバいと思ったが……アクアとダクネスが仲間になってくれたおかげで……ますますヤバいと思う様になりました」
「長かったわねぇ、ようやく魔王討伐に向かうのね私達、あと裏切りめぐみんも一緒に倒さないと」
「色々な事があったが、魔王を倒さねば元も子もないからな、そして一刻も早くカズマの奴も助けてやらねば」
各々様々な感想を呟きながら魔王との世界を賭けた最終決戦に挑もうと腹をくくる。
「時はもう残されていない、間もなく竜王がこの世界を支配しようと深き闇に包み込むであろう。急ぐのだヨシヒコ、二つの世界の命運は、全てお前にかかっているのを忘れるな」
「竜王が遂に自ら動きだしたという訳か……ではすぐにダンジョーさんとムラサキを救って、彼等も仲間に入れて竜王を倒さねばいけませんね」
「ダンジョーとムラサキ、あの二人がいれば竜王を倒す切り札になるに違いない、逆に救う事が出来なければ……彼等と戦うのも止む無しかもしれん」
「仏、私は絶対にダンジョーとムラサキを救います、目の前の人も救えずに世界を救う事なんて出来ませんから」
「うむ、微妙にどっかで聞いた様なセリフだが、その言葉、私も強く信じてるぞヨシヒコよ」
決意を込めた目を(ヘルメットをしているのでわからないが)メラメラと燃やしながら、魔王との決戦、ダンジョーとムラサキの救出、全て成し遂げてみせると仏に宣言するヨシヒコ
その心意気に流石は真の勇者だと満足げに仏はうんうんと頷きつつも
「ん?」
「どうしたました仏?」
「うん、ちょっとごめん、ちょっと少しだけ待ってて」
「?」
突如こちらから目を逸らしてそっぽを向いてしまう仏
急にどうしたのだとヨシヒコ達が怪訝な様子で見つめていると
やがて仏は「ん?」と小さく声を上げてこちらではなく別の方向を指を差し
「なんか、銀髪天パのどっかで見た奴がこっち来たんだけど……」
「オッスオラ銀時、よろしく仏」
「うん、オッス、オラ仏」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!? ちょ! なんでアイツあっちの世界にいんの!?」
ついさっきまでこっちの世界にいた筈の銀髪天然パーマの男・坂田銀時が
しかめっ面の仏に軽く手を挙げて挨拶していた。
「まさかアイツ……こっちの世界がダメだったらあっちの世界に進出したのか……」
「どんだけフットワーク軽いのよあの天然パーマ……ていうかどうやってあっちまで行ったのよ」
異世界を飛び越えているのに平然としていられる銀時に色々と疑問が頭に浮かぶのも
そんな事も露知れず、耳を小指でほじっている仏に対し、銀時がヒソヒソと耳打ちして
「あの、今からこっちの世界の主役を変えてもらうって出来ませんかね?」
「ああ、全然無理、帰ってください」
「大丈夫大丈夫、なんか知らないけど、銀さん、この世界でも上手くやっていけそうなんだわ」
「いやーそういうのはちょっと、私ぶっちゃけ、この世界の本来の主役じゃないし……あの、余所の世界とか行ったらどうっすか?」
「ふざけんなよ、こちとらそうやっていくつもの世界でたらい回しにされてんだよ、この前なんかファーストフードで働いてる魔王に断られたんだぞ、OLとして働いてる勇者には斬られかかったんだぞコラ」
「んーどうしてそこ選んだんだー? あとそこ私が知ってる世界だからあんまり迷惑掛けないでー」
銀時に主役代われと言われても仏は苦笑しながら断りつつ後ずさり
「いやホント無理なんで、無理なんでこっちにじり寄ってくんな! なんで! なんで木刀を力強く握ってんだコラァァァァァァ!!!」
「あ! あんの野郎! 待てやパンチパーマ!! 銀さんを! ジャンプの連載終わってしまった銀さんに救いの手をぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「あー……流石に仏も逃げたか……」
「いや、誰だってあんなのがいきなり出て来たら逃げるわよ普通」
仏を追いかけて銀時は何処かへ行ってしまったらしく、仏が消えた空を眺めながらアクアがジト目でボソリとメレブに呟くのであった。
かくしてヨシヒコ一行、遂に魔王の城へ