長きに渡る異世界での様々出会いと試練の数々
その集大成である魔王の城へ行けという仏のお告げに従い
遂にヨシヒコ達は
「アレが魔王である竜王の城……」
「うわぁ、いかにも魔王の城ですって感じねぇ~、もうちょっと捻ったらどうなのよ」
この世界に突如として建てられた魔王の城を初めて見る事が出来た。
まだ距離はあるがその城の上にだけ雷雨が降り注いでいたり、城の周辺が毒の湖と化しているのを確認できる。
そのラスボスがいますよ的な雰囲気を醸し出す城に対し、アクアが率直な感想を呟いている中
遠くに見える魔王の城を見つめながら、ダクネスは額から汗を流しつつ恐怖を感じる。
「この距離からも感じるぞ、あの城を中心に禍々しいオーラが見える、それに臭いもだ……今まで嗅いだ事の無い悪臭がここからでもハッキリとわかる……」
「あ、それ俺がオナラしちゃったからだと思う」
「またかお前! この緊迫したムードの中で何を出しているんだお前は!」
「しょうがないでしょ! 人間なんだから出るモンは出るんだよ!」
隣にいたメレブを中心に放屁の臭いが充満している事に気付いたダクネスは慌てて手を振りながら怒鳴りつける。
この状況でもこの男は相変わらずふざけている行動ばかりだ……
「急ぎましょう、私達にはもう時間があまり残っていません。魔王を倒しこの世界に平和をもたさなければ」
「そうね、あの城にはカズマや裏切りめぐみんもいるしね、二人共とっちめてやりましょう」
「なあアクア、お前だけなんか目的が……っておいメレブ! お前またしただろ!」
「ごめんごめんごめん! なんか歩く度にお尻から出てくるようになっちゃった! 昨日の晩飯にニンニク入ってたせいだコレ!」
メレブのオナラを我慢しつつ一行は同じ目的の為に(アクアは若干違うが)、魔王の城を目指すのであった。
そしてしばらくして、魔王の城がいよいよ目の前に現れた時、ヨシヒコ達の前にあるモノが見えて来た。
それは毒の湖に覆われた城に、唯一渡れる事が出来ると思われる石造りの大きな橋であった。
「この橋を渡り切れば……遂に魔王の城に辿り着ける」
「だがヨシヒコ、この橋から落ちれば毒の湖に真っ逆さまだ、用心して進めよ」
ラストダンジョンはもう近いが、ここで足元の注意を怠って毒の湖に転落なんてオチは避けたい。
ダクネスに釘を刺されながらヨシヒコは先頭を歩き、縦一列の状態で慎重に橋を渡り始めた。
「凄いわねこの湖、いかにも毒だと主張している紫色だし泡がポコポコ出てるし、ここまでお約束通りのモンを出されると流石にちょっと感心しちゃうわ」
「まあここ最近はこういったお約束的なラストダンジョンなんて無いからなぁ、わかりにくかったりしょぼかったりで」
「ラスボスならこういうお城でデデーンとふんぞり返って待ってるべきよね、あ、なんか昔のゲームやりたくなって来た、悪魔城と魔界村やりたい」
「お前、結構難易度高いの好きなんだな……あ、俺ゼルダが好き」
「えぇ~あれ謎解きとかめんどいから私あんま好きじゃな~い」
「バッカ、冒険に謎解きは必須だろ! ゼルダさんを好きじゃないとかあり得ないっしょ!!」
ヨシヒコとダクネスの後ろで全く緊張感を持っていないアクアとメレブがゲーム談議に花を咲かしてると
あまり頑丈そうではないボロボロの橋を、何度かアクアが落ちかけるもなんとか渡り続けて数分後
長い橋の中間地点なのか、ヨシヒコ達はかなり広めの、円形状に造られた所に辿り着くのであった。
「随分と歩いたが、まだ城には着かないか」
「やはりこうして城が近づくにつれ、本当の魔王退治が出来るんだと思うと胸が高鳴ってくるな……」
「なるほど、恐らく魔王と戦う事に体が緊張しているのだろう、かつての私、そして今の私もそうだ」
「ああ、しかし緊張しているのもあるが、やはり強敵と剣を交えるという事に武者震いも覚えるぞ」
「魔王の城を前に恐怖で立ちすくむどころか強き者と戦えることに喜びを感じるとは、流石はダクネス、聖騎士の鑑だ」
広めの場所に出てヨシヒコとダクネスがどんどん近く見えて来る魔王の城を見上げながら言葉を交えている中
「やるとしたらスーファミまでのゲームよね、あの頃が一番プレイするのにドキドキしてたもの」
「いやいや64も捨てがたいですって、64のゼルダとかマジ半端ないんですってホントに」
「64? あ~……ドンキーコングなら好きだけどやっぱりスーファミには勝てないでしょ~」
「言ったなお前~、じゃあスマブラやろうぜスマブラ、絶対お前ハマるから」
魔王の存在すらもすっかり忘れて、アクアとメレブはまだゲームの話に夢中になっていた。
だがその時……
「フ、ようやく魔王を倒す勇者御一行がやって来たみたいだな」
「!」
そこへ突然聞こえた来たのは低いダンディーな男の声
するとまるでヨシヒコ達を待っていたかのように
魔王の城へと続く道を通せんぼした状態で腕を組む男が立っていたのだ。
強面の顔と凛々しいもみ上げ、かつてヨシヒコ達と共に大区の苦楽を共にした仲間
「そろそろ来ると思いました、ダンジョーさん……」
「臆せずにここまでやって来た事は褒めてやろう、だがヨシヒコ、そう簡単に俺達がここを通すと思うなよ」
「く! そう簡単には魔王の城には行かせないという事か……!」
元仲間にして今は魔王の手によって悪に染まってしまったダンジョー
彼を前にしてヨシヒコとダクネスが早速身構えていると、不敵な笑みを浮かべるダンジョーの背後から
「竜王の所へは行かせねぇぞ、ここでお前等まとめて全員倒してやる」
「ムラサキ!」
スラリとした細身と将来性ゼロの貧乳の持ち主・村の娘、ムラサキまでもがダンジョーと共に現れた。
「魔王に歯向かう愚か者、そしてこの世界の巨乳は全て私が滅ぼしてやんよ」
「な! この世界の巨乳を滅ぼすだと! それだけは絶対に許す事は出来ない! 巨乳だけは絶対に滅ぼさせはしない!! この世全ての巨乳は私が護る!!!」
「……ヨシヒコ、巨乳だけじゃなくてちゃんと世界の方も護ってくれ……」
胸についてコンプレックスを強く持つムラサキは、どうやらヨシヒコがなにより大好きな巨乳を滅ぼそうとしている様だ。
そうはさせないとヨシヒコはやる気に満ちた表情を浮かべて剣を抜くのだが、隣にいるダクネスは微妙な表情。
するとそんな彼女に向けて強い殺意を放ちながら、ムラサキは懐から短剣を取り出して突き付ける。
「手始めにまずはそこの金髪デカパイ女ぁ! お前だけは絶対に私が倒す!」
「わ、私を変なあだ名で呼ぶな! 別に好きで胸が大きくなったわけじゃないんだぞこっちは!」
「うわ今の発言チョームカつく、好きで胸が大きくなったわけじゃないんです~、とかふざけんじゃねぇぞコラァ!!」
隣にいるダンジョーが思わず「あ~まあまあ……」と優しくなだめてやるぐらい、ムラサキは鎧で隠しきれていないダクネスのたわわな胸を前に凄い剣幕で怒鳴り始めると、すぐにヨシヒコとダクネスの背後に向かって
「それとお前も私の標的だ水色頭! 性格も腹立つし乳もデカいし……この場で痛い目に遭わさねぇと私の気が済まないんだよ!!」
水色頭ことアクアに向かってそう言葉を投げかけるムラサキ。
だが呼ばれている方のアクアはというと
「やっぱりひたすら強敵を倒し続けていく単純なゲームが一番面白いのよ、長ったるいムービーやイベントも必要ないの、自分の腕のみを頼りながら無我夢中で進んで行く、それこそ本当のゲームなのよ」
「古い、その考えはあまりにも古過ぎ、長ったるいムービーやイベントだって全然アリだよアリ。それを見て感動したり興奮したりして、よりゲームが楽しくなるって人もいるんだから」
「いーやそうやって古い思想だと決めつけて過去の面白さを切り捨てるのは良くないわ、MOTHERシリーズやってみなさい、泣くわよ?」
「MOTHERは確かに泣けるけど今のゲームでも泣けるもん一杯あるからね、Wiiのプロゴルファー猿やってみ? 超泣けるから!」
「それ別の意味で泣けるってだけでしょ!」
「不二子不二雄A先生の事を思うと泣けてくるんだよホントに……」
ムラサキの声など全く届いていない様子でまだメレブと夢中になってゲームの話を続けていた。
これには「あんの女ぁ~!」とムラサキも怒り心頭の様子で
「ヨシヒコが結婚するって聞いた時は仲良くしてやったが! 今回はもう許さねぇぞ! おいやるぞおっさん!」
「おっさん言うな! ヨシヒコよ! かつては仲間として共に冒険をしていた仲だが! その縁を今この場で断ち切ってやる!」
「切れませんし切らせません、私達はどんな形であろうとずっと仲間です、例え敵同士になったとしても」
アクアのせいですっかり怒っているムラサキが短剣を構えてヨシヒコ達と対峙する。ダンジョーもまた彼女に続いて腰に差す剣を急いで抜く。
しかし敵である彼女達に対してもヨシヒコはあくまで仲間だと頑なに信じ続けている様子で、彼等を倒すのではなく救う為に剣を構えた。
するとそこへ
「また似たような事やってますねあなた達、そうやって何度も何度も同じ言葉を繰り返し続けて、見てるこっちとしてはよくもまあ飽きないモンだと呆れますね」
「は! お前は!」
「あ!」
ダンジョー達の背後からツカツカと足音が聞こえて来たと思うと
そこにはマントを翻しながら杖を構えて颯爽と現れる眼帯を付けた小さな少女が
ヨシヒコが驚き、ダクネスもまた動揺している中、彼女はバサッと付けているマントを思いきりなびかせて
「我は紅魔族随一の魔法の使い手にして竜王カズマの側近、めぐみん! 未だ足掻く愚かな勇者共よ! 我が必殺の爆裂魔法によって永遠の眠りにつくがいい!!」
「めぐみん!」
「あぁ!? めぐみんですって!?」
自己紹介を兼ねた長い口上をあげながら久しぶりにヨシヒコ達の前に現れたのは、自らの意志でカズマ側に付いためぐみんであった。
彼女まで現れた事ににダクネスが叫んでいると、さっきまでメレブとの話に夢中になっていたアクアが反射的にそちらへ振り向いた。
「あぁー! 裏切りめぐみんじゃないの! よくもまあノコノコとまた私達の前に姿を現せられたわねこの裏切り者!! 女神に背を向け魔王に魂を売った愚行がどれだけの大罪なのかその身でしかと味わうがいいわ!」
「アクアの事は無視していいから聞いてくれめぐみん! 今お前がやっている事は冗談じゃ済まされない行為だ! 遅くはない! 今からでも私達の下へ帰って来い!」
「やれやれ、相変わらずアクアもダクネスも元気そうですね、しかし残念ながら私は己の大罪を償う事もあなた達の下へ帰るという事なんて真似もあり得ません」
今まで溜まっていた鬱憤を晴らすかのように悪態をついて来るアクアと、戻って来いと必死に説得して来たダクネスにため息をつくと、めぐみんは右手に持った杖でカツンと橋の床を叩きながら断る。
「私は私の成すべき事があるんです、だからあなた達を見限りこっち側についたんです」
「めぐみん……」
「言ったわね、よしヨシヒコ許可するわ。裏切りめぐみんの首を刎ねなさい」
「めぐみんもそうだが、お前もお前で良くそんな簡単に割り切れるなアクア……」
面と向かい合ったままハッキリと自分がやりたい事やると宣言するめぐみんにダクネスがちょっとショックを受けてるが
アクアは平然とヨシヒコに対して彼女の首を取れと命令。
どうやら本気でめぐみんを裏切り者として断罪する気らしい。
するとめぐみんはこちらに剣を構えたまま見据えて来るヨシヒコの方へ顔を上げると、おもむろに口を開いた。
「そういえば勇者ヨシヒコさんとやら、こうしてノコノコと魔王城に出向いたという事は、魔王となったカズマへの秘策となるなんらかの切り札を用意しているのですか?」
「その通りだ、だからこそ私達はここへ来たんだ、ゆいゆい」
「おい私の名前を間違えるな、ゆいゆいは私の母の名前だぞコノヤロー」
「ダンジョーさんやムラサキ、そしてもしかしたらそのカズマという少年を救う事が出来るアイテムを私達は手に入れて持って来たんだ、ひょいざぶろー」
「わざとやってるな貴様、めぐみんだって言ってんでしょうが、ひょいざぶろーは私の父の名前です」
天然なのかそれともわざとなのか……2度も名前を間違えて来るヨシヒコにめぐみんは若干イラッとしながらも
彼が無策でここに来た訳ではないと知って「なるほど」と呟きコクリと縦に頷いた。
「この二人に加え、そしてカズマも正気に戻すアイテムですか……いいでしょう、ならば是が是非にでもあなた達を通す訳にはいきませんね」
「いや、通させて頂く、何故なら私は魔王を討つという使命の下に戦う勇者、例え相手が女神やダクネスの仲間であるお前であろうと、私はこの足を止める訳にはいかない、わかったか、こめっこ」
「おい、こめっこは私の妹の名だぞ、どうしてその名前まで知ってるんですか……しかしそれはどうでしょうね、忘れたんですか? アークウィザードである私が持つ最強の魔法を……」
一切迷わずに剣を構えながら対峙するヨシヒコに、めぐみんは手に持っていた杖を一回高々と掲げた後すぐにヨシヒコ達の方へ突き付ける。
「爆裂魔法、コレを食らってまだそんな偉そうな口が叩けるか見物ですね」
「そうだそうだー! 行けーめぐみん! コイツ等全員ぶっ倒せー!」
「1日1度しか使えない魔法だが抜群の威力を発揮するめぐみんの呪文、逃げ場のないこの状況でそれを撃たれたら、ヨシヒコ! いくらお前でも耐えられまい!」
「く! おのれぶっころりー!」
「だから私の名前はめぐみんだって言ってるだろうが! ぶっころりーって! もはや私の家族でもないただのお隣の家に住むニートの名前じゃないですか!」
爆裂魔法、めぐみんが膨大なMPを消費して一気に放ち、そこら一帯を破壊する強力な魔法。
ムラサキとダンジョーも彼女が持つ力を信用しているらしく、このまま彼女が爆裂魔法を唱えれば、一瞬で勝負の決着がつくに違いない。
彼女とここで戦うのはかなりマズイ……ヨシヒコ達はめぐみんが爆裂魔法を唱える前に攻撃するべきか、それともここは一時撤退するべきかと思考を巡らせる
だがその時
「んーちょちょちょ、ちょっといいかなー? めぐみんとやら、よもやここにいる俺の事を忘れてはおるまいな?」
「は! お前は!」
焦るヨシヒコ達を尻目に一人だけ余裕たっぷりの表情で現れる一人の魔法使い。
その人物を前にしてめぐみんの目がカッと見開かれる。
「散々私の名前を弄んでくれた許しがたき魔法使い、キノコヘッド!」
「メレブじゃい! んーめぐみんちゃんはー? 人の名前を間違えるのは失礼だとー、ゆいゆいとひょいざぶろーから教わらなかったのかなー?」
「気安く人の両親を名前で呼ぶな! ていうかそこのヨシヒコって人も思いきり私の名前間違えてるじゃないですか!」
「あぁヨシヒコはいいの、おバカだから」
めぐみんを前にしても少しも怯む様子もなく、むしろ待っていましたと言わんばかりに現れたメレブ。
早速彼女の事をバカにしながら物凄く腹の立つ顔をしたまま、彼はゆっくりとめぐみんと同じように杖を構える。
「さて、ちんちくりん娘、ここいらでハッキリと証明してやる時が来たみたいだな、俺とお前、どっちが優れた魔法使いなのか」
「いやそりゃ、アンタと比べたら裏切りめぐみんの方が優れているでしょ、だって裏切りめぐみんには爆裂魔法があるのにアンタはロクに使えない呪文しか覚えてないし」
「おいバカタレ! 空気を読めバカタレ! 俺の呪文だってちゃんと役に立つわバカタレ!」
後ろから聞こえて来たアクアの野次に一喝した後、メレブは得意げな表情でめぐみんに真っ向から勝負を挑もうとする。
「では勝負といくか、ザ・超変な名前な、めぐみん(笑)さん」
「(笑)を付けるな! 人の名前をストレートで変と呼ぶなんてもう絶対に許さん! あなた程度の凡人! 私の爆裂魔法を使って一瞬で吹き飛ばしてやります!」
「ほう、この俺に対して爆裂魔法か……面白い、ならば俺の返事はこうだ」
挑発を食らってすっかり激怒している様子のめぐみんはもはや躊躇いなく爆裂魔法を唱えるつもりだ。
しかしメレブは、相も変わらず彼女に対して薄ら笑みを浮かべて
「果たしてお前如き小娘が」
「この俺の”爆裂魔法”を食らって立っていられるかな?」
「な!!??」
彼の言葉にめぐみんだけでなく周りもざわつき始める、まさかあのメレブが……
「メレブさん! もしかして遂に!」
「おいメレブ! まさかお前!」
「ウソでしょ! アンタがもしかしてめぐみんと同じ!」
「うむ、ここに来る道すがら、歩きながらオナラが出るという事に悩みを持ちつつ……」
「俺ここに来て遂に、攻撃系、かつ最強の爆裂魔法を覚えたのだよ」
「な、なんだとぉ!?」
味方からも驚かれながら新しい呪文を覚えた事をドヤ顔で告白するメレブ。
しかしそれに一番驚いているのは他でもない、爆裂魔法を最も愛するアークウィザード・めぐみんだ。
「あり得ません! あなたみたいなヘッポコ魔法使いが私と同じ爆裂魔法を扱える訳が絶対にあり得ません!」
「だったらとくと拝むがいい……そして絶望しろ、自分が今まで築き上げていた魔法使いとしてのプライドが、一人の天才魔法使い・メレブ様によっていとも容易く崩される事に……!」
こんな男が爆裂魔法を? それだけは絶対に認めたくないと動揺した様子で叫ぶめぐみんに対し
メレブは静かに杖を突き付けてフッと笑うのであった。
「この俺が覚えた新しい爆裂魔法、とくと味わうがいい……!」
次回、めぐみんVSメレブによる爆裂魔法対決