勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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玖ノ四

魔王の城の前で現れたのは

 

まさかの魔王に体を奪われているサトウカズマさんであった。

 

「意外ね、アンタの事だからどうせ城の中に引き籠って出てこないと思ってたんだけど」

 

「お前少しは懐かしの再会なのにどんだけ俺を引き篭もり扱いしたんだよコラ、ここは俺達の城の敷地内だから俺だって普通に出歩くわ」

 

「”俺達”の城ですって?」

 

「そうだよ、俺と俺の体の中にいる竜王っていう魔王のおっさんと共同制作したんだよこの城は」

 

カズマの見た目も性格も全くと言っていい程変化は無かった、元からクズマとか呼ばれている男なのでその辺は気にしないアクアだが、彼の身体から何やら物凄く嫌な気配を感じてすぐに顔をしかめる。

 

「うげ、てかなによアンタの身体凄く臭いんですけど~? えんがちょよえんがちょ、カズマさん体の中を魔王に浸食されながらよく平気な顔してるわね引くわ~」

「うるへぇ! 臭く感じるのはお前だけだろうが!」

 

鼻をつまんで突然カズマが臭いと主張するアクアに、すぐにムキになった様子でカズマが叫ぶも

 

彼女は隣にいたメレブの方へ振り向いて

 

「ねぇねぇメレブさん、カズマさん臭くない? アレ絶対臭いわよね?」

「あ、本当だクッサ! マジ臭いんだけどあの子! なんか! イカの臭いがするんだけど!」

「おい止めろそういうイジメみたいなの! ていうかイカ臭いってなんだよ! お、お、俺からそんな臭いする訳ねぇだろうが!」

 

邪悪な気配を感じ取れるアクアならともかく、普通の人間のメレブはカズマからの臭いを感知できるはずがない。

 

ノリで臭い臭いと余計な事まで言うメレブに、カズマはちょっと動転しながらもすぐに否定する。

 

「お前等なぁ! 魔王を相手にしてるのになんだそのゆるーい感じは! 少しはもっと怖がったり絶望したりしろよ!」

 

「バカな事を言うなカズマ! お前は魔王などではない!」

 

緊張感の欠片も無い勇者の一行を前にして魔王カズマのは早速ダメ出しをすると、そこへすかさずアクアと同じくかつてカズマの仲間であったダクネスが身を乗り上げる。

 

「どれだけ見繕ってもお前は所詮小悪党程度にしかなれない小者! そして私達の大事な仲間だ!」

 

「大事な仲間に向かって小物の小悪党とか言うんじゃねぇよ! あれ? てかお前……」

 

「ん? どうしたカズマ? 久しぶりの再会で見違えた私の変化に気付いたのか?」

 

仲間と言いつつもディスって来るダクネスに対しカズマは顔をしかめてしげしげと彼女の整った顔つきを眺める。

 

そして少しは強くなったんだぞと自信ありげに両手を腰に当てている彼女に向かって最後に首を傾げて見せて

 

「……どちら様?」

「はぁ!?」

「いやすみません、俺の事を仲間とか言ってたけど……俺、おたくとパーティーなんて組んでましたっけ?」

「おいおいおいおい! ま、まさかお前! アクアの事は覚えておいて私の事を忘れたのか!?」

「あ、はい、全く覚えてないです」

「~~~~~~!!!」

 

自分の事を忘れたと真顔で言い出すカズマにダクネスは無言で地団駄を踏んだ後

 

怒ってるのか悲しんでるのかよくわからない表情で彼に向かって

 

「ダクネスだ! お前やめぐみんを幾度もこの身を盾にして護ってあげたクルセイダーを! そんなあっさり忘れるなんてどういうつもりだ!」

 

「あ、思い出した。あの攻撃が全く当たらないクセに堅さだけはいっちょ前の役立たずクルセイダーか、よぉダクネス、お腹の腹筋は順調に割れ続けているか?」

 

「くッ! 思い出してくれたのはいいがそこから更に言葉攻めを続けるか……! フ、流石はカズマだ、相変わらず私のツボを心得ているな」

 

手をポンと叩いて思い出したかのように心に突き刺さる責めを与えて来るカズマに、ダクネスが身悶えしながら荒い息を吐くと、「うへぇ」とドン引きした様子でカズマは頬を引きつらせる。

 

「相変わらずドMの変態野郎だなお前……」

「相変わらず? ちょっと待て! やっぱりお前私の事覚えているじゃないのか!?」

「当たり前だろ、お前みたい変態ドMクルセイダーをそう簡単に忘れる訳ねぇだろうが」

 

実はちゃんと彼が自分の事を忘れていなかったと知ってすぐに詰め寄るダクネスを、カズマはめんどくさそうにそっぽを向く。

 

そして今度は初めて顔を合わせる人物、メレブの方へと振り返った。

 

「アンタの話はよくこの二人から聞いてるぜ、なんでもクソの役にも立たない呪文しか覚えない無能の魔法使いだってな」

 

「うわぁひでぇ覚えられ方してる~、ちなみに俺もお前の事はアクア達から聞いてるぜカズマ君、卑怯で狡猾でクソみたいな性格をしているクセに口だけはいっちょ前で戦闘だと全く役立たずのクズマさんだと」

 

「うわぁひでぇ覚えられ方してる~」

 

「いやーお互い仲間に酷い言われ様で、泣きたくなるね!」

 

「なんか俺……アンタとは普通に仲良くいけそうな気がする」

 

自分とメレブの間に何か共通するナニかを感じ取りながら、魔王と勇者のパーティーという壁を超えて友情的なモンが芽生えかけそうになっていると

 

「そんで最後は……」

 

カズマは対峙している四人目の人物の方へと一層険しい顔つきをして目を細めた。

 

「俺の中にいる魔王を頼んでもないのに倒しに来やがった、異世界の勇者のヨシヒコ様、という訳ですかい」

「そうだ、私が勇者ヨシヒコ。こうやって顔を合わせるのは初めてだな、魔王カズマ」

 

勇者ヨシヒコと魔王カズマ

 

二人の主人公が遂に交差した瞬間であった。

 

「アンタの話はダンジョーさんやムラサキさんからちゃんと聞いてるよ、そんでさ? その上でど~しても一個だけ教えて欲しい事があるんだけどさ」

「なんだ」

 

するとカズマはすぐに人差し指を立ててヨシヒコに向かってたった一つの質問を投げかけた。

 

「そこにいるアホアクアとメス豚ダクネス、どうしてここに来るまでその辺に捨てておこうとは思わなかった訳?」

 

「捨て……何を言い出すんだお前は!」

 

「いや待って、冷静に考えてみようぜ勇者ヨシヒコ様、アンタは俺である魔王を倒す為に遠い世界からやってきたんだろ? 元の世界に帰る為には魔王を倒さなきゃいけない、なら普通は強くて頼りになる奴を仲間にして最強パーティーで挑むのが至極当たり前だと思うんだ、なのに……」

 

こちらの質問に憤慨した様子のヨシヒコにカズマはまあまあと手でなだめながら、チラリとアクアとダクネスの方へ目をやる。

 

「こんな全く使えない奴等を……どうしてこんなラストダンジョンにまで連れて来たのか、俺にはどうしても理解出来ないんだよなぁ」

 

「はぁ!? ちょっとカズマ何言ってんのよ!」

 

「そ、そうだぞ! いくらなんでも酷いぞそれは!」

 

「ロクに攻撃を当てれないダクネスはともかく支援魔法と宴会芸を取得している私は必須に決まってるでしょ!」

 

「私をこき下ろして自分の必要性をアピールするなお前は!」

 

失礼な物言いをするカズマにアクアとダクネスも当然抗議の声を上げる。アクアの方はダクネスを乏しめた上で自分がいかに使えるか誇示しているが

 

それにしてもこのカズマ、魔王に体を乗っ取られている割には依然と全く変わらない。

 

「ていうかカズマ、お前なんにも変わってないんだな本当に……魔王に操られてるようにはとても見えないぞ」

 

「んーまあ俺別に魔王のオッサンに住む場所を提供してるだけだし、操られてねぇから」

 

「な! だったらなんで魔王なんかに手を貸すんだ! お前は確かにクズだったが根は善人……だった筈だぞ!」

 

「おい、今ちょっと善人だって言う所をためらっただろお前」

 

別に自分は魔王に操られている訳ではない自己主張するカズマにダクネスが歯切れの悪そうに元々彼自身は悪党では無かったと呟くと、カズマはいつの間にか手に持っている導きの笛をクルクルと回しながらめんどくさそうに

 

「まあ利害の一致って奴だよ、俺は一生楽して好き勝手に暮らしたい、魔王のオッサンはこの世界を支配したい。オッサンが世界征服すれば俺が征服した事にもなるんだし、そうすればやりたい放題だろ?」

 

「やりたい放題って具体的に何がお望みなのよカズマさんは」

 

「夢のハーレムを作り放題だ、異世界に来たら無敵になってそのまま可愛い女の子を集めてハーレム結成、最近流行ってんだろこういうの?」

 

「んー、アンタやっぱ操られてない? 元々アホだったけど今は更に拍車がかかってアホみたいな事言ってるわよ」

 

「救いようの無いアホに言われたくねぇよ! いいだろ別に! とにかく俺は自分の夢を叶える為に魔王と手を組んだんだよ!」

 

 

調子の良い事を言い出すカズマをアクアはただジッと疑いの眼差しを向けていた。

 

ハッキリ言って臆病者ではあるが変なプライドだけは高いあのカズマが魔王と手を組むとは思えない。

 

きっと彼もまたダンジョーさんやムラサキと同じく上手く操られているだけなのだろう。

 

「こりゃあ導きの笛でどうにかして正気に戻してやった方が良さそうね、ってあれ? そういえばヨシヒコ、笛はどうしたのよ?」

 

「気が付かない内に魔王カズマに奪われました……」

 

「へ? あ、本当だ! いつの間にかアイツが持ってる!」

 

「お前やっぱバカだろ、さっきからずっとクルクル回して見せびらかしてたぞ俺」

 

早速元に戻してやろうとヨシヒコに導きの笛を使ってもらおうとするが、しょぼくれた様子で彼が指差した歩行には、導きの笛を得意げに手で回すカズマの姿が

 

「忘れたのか駄女神、俺のスティールにかかればこんなの簡単に奪えるんだよ」

 

「スティール!? あ~そうだわ! アイツには他人が持っている物を奪い取る技があるのよ!」

 

「他人の物を奪い取る!? なんて恐ろしい技なんだ……!」

 

「何を奪えるかはランダムなんだけど、カズマったら幸運値だけはやけに高いから、えげつないのよ……」

 

「そうそう、例えばこんな風に……」

 

カズマが持つ十八番の一つ「スティール」

 

対象の人物からランダムで所持品を奪い取るという盗人みたいな技だ。

 

そしてアクアの説明を聞いて油断していたヨシヒコに向かって、カズマは手の平を突き出し

 

彼が両手に構え直したいざないの剣に向かって

 

「スティーーーーーール!!!」

「!?」

 

カズマが叫ぶと同時にヨシヒコが手に持っていたいざないの剣がパッと消えた。

 

呆気に取られるヨシヒコを尻目に、いつの間にか剣はドヤ顔を浮かべるカズマの右手に

 

「な?」

「しまった! いざないの剣を奪われてしまった!」

「なんだか随分とボロッちい剣だな……まあいいや、コイツは俺が使っておいてやるよ」

「ふざけるな! 返せ!」

「返して欲しければ力づくで奪ってみろよ勇者様」

 

自慢の愛剣をあっさりと奪われてしまい焦るヨシヒコに、カズマはヘラヘラ笑いながら奪ったいざないの剣を彼に向かって突き出す。

 

この少年、やる事は姑息で卑怯だが、アクアやダクネスを引き連れていただけ会ってやはり一筋縄ではいかない相手の様だ……

 

「あの剣はヨシヒコが初めて旅に出た時から愛用しているモノ、それを奪うとは魔王カズマ……やりおる」

「感心してる場合じゃないわよ! ヨシヒコが戦えなくなったら私達もうまともに攻撃する手段が無いのよ!?」

 

アクアは支援魔法や宴会芸しか覚えていないし、ダクネスは攻撃がロクに当てれない、メレブは説明不要。

 

こんなパーティーでなんとかやっていけたのは、リーダーであるヨシヒコの剣の腕前があってこそなのだ。

 

感心するメレブにツッコミながらアクアは急いでカズマの方へと振り返る。

 

「カズマ! 怒らないからその剣だけは返しなさい!!」

 

「はぁ? ふざけんな、魔王を倒しに来た勇者にそんな真似出来る訳ねぇだろうが」

 

「いい加減にしなさいよこのバカカズマ! アンタねぇ! 元はといえばこの世界にいる魔王を倒す為にこの世界に連れて来てやったのよ! そんなアンタがなんで倒すべき魔王なんかと仲良くしちゃってるのよ! 思い出しなさい! アンタは魔王を倒す為に選ばれた勇者なの!」

 

「フン、俺が勇者だって……?」

 

珍しく本気で怒っている様子で怒鳴り散らしてくるアクアの「勇者」という言葉にピクリと反応すると

 

カズマは突如勢いよくカッと目を大きく見開いて

 

 

 

 

 

「もう勇者なんてどうでもいい!!」

「「「「!?」」」」」

 

どっかで聞いた事のある様な台詞を

 

ヨシヒコ達に向かって強く叫ぶカズマ。

 

「そんなモンやってられっか! 何が勇者だよ! やってる事は毎回お前等バカ共のお守りじゃねぇか! もうお前等に振り回されるのはゴメンなんだよ! これからはもう魔王と一緒に自分だけの人生を楽しむって決めたんだ!」

「なんて男だ……女神に勇者として任命されていながら「どうでもいい」だのと……恥を知れ!!」

「「……」」

 

溜まった鬱憤を吐き出すかのように叫び出すカズマに対しヨシヒコは険しい表情で彼を一喝。

 

しかしそんな彼をメレブとアクアは「お前が言うな」という意味を込めて冷めた目つきを向ける。

 

「今からでも遅くはない! すぐに魔王と手を切り私と一緒に魔王を倒そう! そしてもう一度女神やダクネス、そしてめぐみんと手を取り合い再び冒険に……!」

 

二人の視線に気付いていない様子で勇者らしく闇に堕ちたカズマを救い出そうと必死に説得を試みるヨシヒコだがそこへ

 

 

 

 

「エクスプローーージョン!!!!」

「!?」

 

少女の咆哮と共に大爆発がいきなりヨシヒコ達を襲った。

 

直撃では無かったものの、カズマとヨシヒコの間で爆発が起き

 

そのおかげで橋は崩れて二つの陣営は離れ離れになる形に

 

「これは……まさか爆裂魔法……!」

「くッ! 外れてしまいましたか……!」

 

危うく爆発に巻き込まれて毒の沼に落ちると事だったヨシヒコが、仲間達と慌てて後ろに避難していると。

 

向かい側のカズマ陣営の方から悔しそうに舌打ちする少女の声。

 

「あんの腐れキノコヘッドをこの手で抹殺するチャンスだったのに!」

「わーーー!! 戻って来ためぐみんちゃんが倒れながら凄い形相で俺の事睨んでるーー!!」

 

 

昂る殺意と共にめぐみんが杖を握り締めて倒れていた。

 

どうやらメレブを倒すという強い執念が彼女を再びここに連れて来たらしい。

 

「カズマもいたんですね! ならこちらも四人です! この場でキッチリと決着つけましょう! そして私に辱めを与えたあの外道魔法使いに復讐を与える機会を!!」

「落ち着けよめぐみん、なんだお前、何かあったのか?」

「聞いてやるなカズマ、コイツにも色々あったんだ……」

「女の子なんだからそっとしておいてやれよ」

「……本当に何があったんだ?」

 

どうして彼女がメレブに対して強い憎しみを抱いているのかよくわかってない様子のカズマに、ダンジョーとムラサキが重い口を開いて尋ねる彼を制止する。

 

ここまでめぐみんが怒っているのだがよっぽどな目に遭ったんだろうなと推測しつつ、倒れる彼女の手をしゃがみ込んで取ると、慣れた感じで背負っておんぶするカズマ。

 

「戦う必要なんかもうねぇって、俺に剣とアイテムを奪われてもう戦える力もねぇみたいだしよ、魔王の情けだ、ここは逃がしてやるよ」

「な! 私達と戦わずして城に戻るつもりか!」

 

導きの笛といざないの剣を奪われて、おまけに橋は分断されてもう向こう側には行けない。

 

もうこちらで打開する手は無いと悔しそうに両膝から崩れ落ちるヨシヒコと同じく、メレブ達も歯がゆそうに

 

「ここまで完全にナメられるとはな……無理も無い、確かに俺達はカズマ君の言う通り打つ手なしの状況だ」

 

「きー! カズマなんかに尻尾を巻いて逃げるしか出来ないなんて……!」

 

「見逃すつもりかカズマ! 私にはそんな情けはいらん! そんな屈辱を受けるくらいならいっそここで殺せー!」

 

「ダクネスうるさい」

 

こんな状況でも相変わらず平常運転のダクネスにメレブが素っ気なく呟いていると

 

めぐみんを背負ったままカズマはダンジョーとムラサキを引き連れて、こちらをほったらかしにしながら背を向け、自分の拠点である魔王の城の方へと帰って行く。

 

「さあ帰ろうぜ、伝説の勇者様って奴も大した事無いってわかったしよ」

 

「なんでですかカズマ! あのメレブを倒すチャンスですよ!」

 

「心配するなめぐみん、奴らはいずれ再び俺達に挑んでくる筈だ」

 

「おいおいダンジョーさん、それは無いだろ、アイツ等にはもう俺達に戦う気力なんかねぇって」

 

「甘い、奴は、ヨシヒコという男はそう簡単に倒れてしまう様な奴ではない」

 

背中で暴れているめぐみんを何とか背負いながら、まだ油断は出来ないと言い出すダンジョーにカズマはヘラヘラと笑い飛ばすが

 

ダンジョーは険しい目つきでまだ両手を地面に突いてガックリしているヨシヒコを睨み付ける。

 

「どれ程の挫折を繰り返し、幾度諦めて逃げ出す真似をしても、奴は必ず魔王を倒しにここへ戻って来る……それがアイツが真の勇者と呼ばれる理由だ……」

 

「私達はヨシヒコとは長い付き合いだからそういう所わかってんだよ、だからもう一度アイツ等が立ち上がってここへ来た時、その時が本当の勝負だ」

 

「ふーん、元仲間だからわかるって訳か……ま、勇者様の事なんか何も知らない俺からすれば、正にもう勇者なんてどうでもいい、だな」

 

ヨシヒコは再び立ち上がる

 

そう信じ切っているダンジョーとムラサキにへッと笑いながらカズマは彼等を連れて城へと帰るのであった。

 

そして残されたヨシヒコ達はというと……

 

「何てことだ……! アイテムも武器も奪われてしまった……魔王カズマ、まさかこれ程手ごわい相手だったとは……!」

 

 

 

 

 

「クソォォォォォォォォォォ!!!」

 

その場にへたり込んだままヨシヒコは天に向かって咆哮を上げる。

 

突然降りかかった耐え切れない屈辱をカズマに浴びせられた彼を、仲間達は静かに見守るのであった。

 

勇者ヨシヒコ、魔王カズマにまさかの敗北

 

 

 

 

 

 

 

「そんな、兄様が負けてしまうとは……!」

 

そしてそれを物陰から見守っていた見ていたのはヨシヒコの実の妹ヒサ

 

近くに温泉に寄ったばかりなのか、体からはポカポカと湯気を放ち浴衣姿である。

 

「こんな時にこそ妹であるヒサがお傍に行って慰めなければならないというのに……」

「よしなさい、余計な同情はより彼を惨めな思いにさせるだけよ」

「あなた様は先程温泉でお会いした……!」

 

悔しそうに牛乳瓶を持った手に力を込めるヒサだが

 

そこへ赤毛のショートヘアに巨乳の美女が同じ浴衣姿で現れた。

 

 

「ウォルバクよ、まさか私の半身を探しにここまで来てみたら、どうやらこの世界に大変な事が起こってるみたいね」

「そうなんだピキー! 僕達が従ってい魔王よりも強大な力を持った魔王がこの地に現れたんだピキー!」

「へ?」

 

魔王軍の幹部にして怠惰と暴虐を司る邪神・ウォルバク

 

崩れ落ちているヨシヒコを眺めながらこの世界に危機が訪れているのを察していると、ゴロゴロと銀色の太ったスライムがそこへやって来ると急にかつての様な口調で

 

「久しぶりだなウォルバク……温泉好きなのは昔から変わってないみたいだな……まだ己の半身は見つからんのか?」

 

「そ、その声はもしかしてあなたハンス……!? 随分と斬新なイメチェンに踏み切ったわね……」

 

「そうだピキー! 今はこのヒサ様と共に勇者ヨシヒコ様と女神アクア様をお助けしようと頑張ってるんだピキー!」

 

「ほ、本当に変わったわねあなた……まあ見た目も口調も可愛くなってるから前より良いと思うわ、声が合ってないけど……」

 

アクアの愛すべきスライムであったはぐりんと魂と体を融合させたハンスは今ではゴールデンスライムと呼ばれる魔物になり、見た目も中身もすっかり生まれ変わって根っからの良い子になってしまった。

 

同じ魔王軍の幹部として付き合いがあったウォルバクはそんな別人になったハンスを見て困惑するものの、可愛いから大丈夫だとすぐに頷いて見せるのであった

 

「兄様、ヒサは信じています……兄様がもう一度立ち上がってくれるのを……」

 

「へープニプニしてるかと思ったら凄く堅いわね、私の爆炎魔法は効くのかしら?」

 

「魔法の呪文は大体効かない体質になったピキー! だから食らってもダメージは通らない筈だピキー!」

 

「……ねぇハンス、同胞として言わせてもらうけど……その低音ボイスでピキーってのは流石にどうかと思うわ……」

 

ウォルバクとハンスが隣で雑談を交わしてる中、ヒサは一人両手で祈るポーズを取る

 

 

果たして彼女の祈りはヨシヒコに届くのか……

 

次回に続く

 

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