拾ノ一
魔王のカズマに強大な呪いを解く事の出来る導きの笛とどんな敵であろうと眠らせる愛刀のいざないの剣を奪われてしまった勇者ヨシヒコ
魔王の城を前に撤退した彼は、今絶望のどん底に落ちていた。
「何てことだ……アイテムも剣も失っては……もはや魔王どころかダンジョーさん達にも勝てない……」
「あのカズマという少年、俺達よりも一枚も二枚も上手だったな……最近の子供はお強いんですねホントに」
時刻は夜、すっかり心身共に疲れ切っていたヨシヒコ達は、焚火を中心にしばしの休息を取っていた。
しかし切り札を失った今、今後どうすればいいのかという問題が彼等の頭の中で渦巻いている。
「おのれカズマ! 魔王に組しただけでなくこちらの切り札を奪うとは! 元々卑怯で下衆だと思っていたがまさかここまでやるとは! そんなに私を悔しがらせたいか! そんなに私を辱めたいか!」
「口元から笑みこぼれてるわよダクネス」
口ではカズマの事を罵倒しつつも、ほんのり悦のこもった笑みを隠しきれていないダクネスにボソリとツッコミながら体育座りの状態でアクアは顔をしかめる。
「でもカズマが敵に回ると厄介だとはずっと前から思ってたけどまさかここまでとはね……なんとか策は無いのかしら」
「……諦めましょう」
「……え?」
なにか打開策が無いかとアクアが珍しく思案を巡らせようとしたその時
ヨシヒコの口から思いもよらぬ言葉が聞こえて我が耳を疑った。
すると彼の隣で座っていたメレブが「あーまた……」と呟くとヨシヒコは突然勢い良く立ち上がった。
「魔王を倒すのは諦めて、逃げましょう……」
「……ん? ヨシヒコ? ねぇヨシヒコさん? ちょいちょいヨシヒコさん? アンタ今……ちょっとおかしな事言ってるけど大丈夫?」
「おかしい事など言ってません! 武器もアイテムも失った私達ではもう魔王は倒せない! なら私達がやる事は一つしかないじゃないですか!」
いきなりの展開に思考が追い付かずに困惑するアクアに向かって、ヨシヒコは彼女を見下ろしたまま威勢良く啖呵を切り始めた。
「今から竜王の支配から届かない所まで全速力で逃げるんです! そしてもう二度と戦う事を止めて一生平和のまま生きていくんです! もうそれしか方法はありません!!
」
「おいおいおいおい……主人公が100パー言っちゃいけない事を言い出し始めたぞこの勇者……」
「待って待って……何を言ってるの、ねぇ? ヨシヒコさんは魔王を倒す為にこの世界に来た勇者なのよね? なのに今、魔王から逃げて安全な生活を送ろうとか言い出さなかった?」
ここでまさかの逃亡策を試みようとするヨシヒコにメレブは呆れアクアも目をまん丸にさせると
そんな彼女に向かってヨシヒコはまたしても
「魔王なんてもうどうでもいい!!」
「うわ出た、魔王どうでもいい発言」
「アンタここまで来てそれって……! しっかりしなさいよヨシヒコ! 勇者の自覚あんのアンタ!?」
「なんとでも言って下さい! 私は生きたいんです! 生き延びたいんです!!」
すっかり慣れている様子のメレブと本気で怒るアクアだが、ヨシヒコは決意を決めた表情で全力で逃げると宣言。
「このまま魔王に戦いに挑んだって無駄死にするだけです! 魔王の城では基本的に死んだらもう復活できないんです! 私は怖いんです! 死にたくないんです!!」
「なんだそれは! 見損なったぞヨシヒコ! 魔王を前にして臆したというのか!」
「臆したぁ!」
「ハッキリと答えるな!」
勇者にあるまじき発言を連発するヨシヒコにずっと話を聞いていたダクネスも不甲斐ない彼に向かって立ち上がるも
魔王に恐れをなして弱腰になったヨシヒコは正直にこの場から逃げて生き延びたいと叫ぶ。
「なんと言われても私の答えは変わらない! 私は逃げる! もう一切振り返らずにただただ逃げる! 惨めな姿を晒してでも一心不乱に逃げる!」
「お前……そんなんでよく今まで魔王倒せたな……」
「私は逃げます、例え一人になっても……」
こんな男が勇者と呼ばれて幾度も魔王を倒したのは本当なのか?と今更になって疑問に思うダクネスをよそに
ヨシヒコはザッと一歩後ろに下がる。
「皆さん、まだ魔王を倒すと言うのであればお任せします、私はもう逃げますので」
「っておい! 待てヨシヒコ! ちょっと落ち着いて私達の話を聞け!」
「ヨシヒコ! 女神の命令よ! ステイよステイ! 私の言う事を聞きなさい!」
「いくら女神の命令でもこればっかりは聞けない……私は死にたくないんです、それでは」
「あ!」
ダクネスだけでなくアクアも急いで立ち上がって彼を引き留めようとするも
ヨシヒコは最後に軽く頭を下げると、背中向けて一目散に茂みの中へと消えて行ってしまった。
そして残されたダクネスとアクアがショックで呆然と立ちすくんでいると
「あ~あ、逃げちゃったか~ヨシヒコ、ま、いっか」
「逃げちゃったかじゃないだろメレブ! お前だけなに呑気に座り込んでるんだ!」
「急いでヨシヒコを追うのよ! アンタ私達よりもずっと昔からヨシヒコの仲間だったんでしょ! 心配だと思わない訳!?」
一人だけ座り込みながら黙って話を聞いていたメレブは、やけに落ち着いた様子でその場から動こうとしない。
それにダクネスとアクアが頭に来た様子で怒鳴りつけるも、彼は身体を左右に揺らしながら「ん~」と呟くと
「いやだって、ヨシヒコの事だからどうせすぐ戻って来るし」
「「……は?」」
「アイツ、本当にバカなんだよねぇ~」
二人と違ってメレブが全く心配いらない様子でいる中
彼等と別れたヨシヒコは、一人暗闇の中をトボトボと歩いていた。
「魔王を倒すなんて今の私には無理だ、仏に頼んで元の世界に戻り、カボイの村で平和に暮らそう」
そんな弱気な事を呟きながらヨシヒコは項垂れたまま歩いていると
おいヨシヒコーッ!! ヨシヒコ待てコラーッ!
「は! 仏!」
突然聞こえた夜空からの天の声
ヨシヒコはビクッと反応してすぐに顔を上げると、満月をバックにスッと人物の姿が
「くおらヨシヒコてんめぇ! なに魔王にビビッて逃げようとしてんだぁ!」
「タイミング良く来てくださって感謝します、仏。今すぐ私を元の世界のカボイの村に戻してください」
「え? ちょっとさ、なに言ってるの? 仏がさ、仏が怒ってる上でその頼み事する普通? ていうかヨシヒコ、あのさ……そっちに私はいないぜ?」
現れて早々激怒している様子の仏の声がハッキリと聞こえると、ヨシヒコはすぐに自分を助けて欲しいと頼み込む。
勇者にあるまじき頼み事に思わず仏は口をポカンと開けて固まってしまうも、ふとヨシヒコが自分がいる方角ではない別の方向を見ている事に気付いた。
「あ! そうか仮〇ライダーのヘルメット被ってないから私の事見えないんだヨシヒコ!」
「すみません、声は聞こえるのですが仏の姿は全く見えません……」
「ちょ! もうヤダ―! なんなんすかもー! 終盤なんだしそろそろ肉眼で見えて欲しいんですけどー!」
未だ自分の事を肉眼で視る事の出来ないヨシヒコに仏がプリプリ怒りながら頬を膨らませるも、その姿さえもヨシヒコは拝むことが出来ないのだ。
「じゃあもういいや、私の声ね、この声だけをハッキリと耳で感じ取って話を聞いて下さい、わかった?」
「はい、それじゃあ私をカボイの村に……」
「いやだから先に私の話を聞けって言ってんだろうがコノヤロー、おいコノヤロー、仏の話が最優先だろうがバカヤロー」
「すみません」
「うん、許す」
この際姿は見えなくても声だけは聞かせてやればいいかと、勝手に話出そうとするヨシヒコを黙らせながら
仏は改めて話を始めた。
「まあ~とりあえず私もこっからちゃんと見ていたけどさぁ、ヨシヒコ、ヨッ君は今、魔王に対して凄くビビッてるって感じだよね? 凄くビビりにビビりまくってらっしゃいますよね? ビビりーマンだよね?」
「ビビってます、凄くビビってます、一刻も早く魔王から逃げたいです」
「ヨシヒコ、私そっちにいないから、こっちだからこっち。んーとね、君の正直なところはホント大好き、大好きだけどもこれだけはハッキリと言わせて」
一点の曇り無き眼をあらぬ方向に向けながら答えているヨシヒコに噴き出してしまうも、すぐに勇者を導く存在としての役割を果たす為に本題に入る仏
「まあ確かに導きの笛もいざないの剣も、あのカズマとかいう恐ろしい少年に奪われてしまったけども。だからと言って勇者であるヨッ君がそう簡単に諦めてしまったら、この世界は超マズい事になるんだぜ? もう色んな人が酷い目に遭うんだぜ?」
「それは……」
「まあヨッ君にとっては自分の世界では無いないけどさ、この世界で色々な人達と出会ったじゃん、そんな人達の為に凄く頑張っていたじゃんヨシヒコ、今ここでお前が折れたら、その人達を見殺しにするって事になるんじゃない?」
「……」
確かにこの世界でヨシヒコは本当に沢山の人達との出会いがあった、時には人では無い存在とも親交を深めた。
何よりこの世界には、今まで仲間として長く共にしていたアクアやダクネスもいるのだ。
魔王に支配されかけている今、ここで逃げたら彼女達が一体どんな目に遭うのか……
「ヨシヒコよ、今のお前の心は魔王に対する恐怖心によって支配されてしまっている。だからこそ魔王を相手にするのが怖くて逃げ出そうとしているのだ」
「そうかもしれません、しかしどうしても私は魔王が怖くて怖くて仕方ないんです……」
「案ずるなヨシヒコ、この私がお前の恐怖心を取り除いてやろう。そうすればお前は再び勇者として立ち上がれる筈だ」
「本当ですか仏!?」
「ヨシヒコー、逆向いてるよー、私そっちにはいないよー、こっち、ヨシヒコの後頭部と背中しか見えないよー、背中の方大分汚れてるから洗いなさーい」
ここにいる世界の者達を見殺しには出来ない……
逃げる事に迷いが生じて来たヨシヒコに畳みかけて仏が彼に立ち上がらせる機会を与えようとする。
こちらにちょっと黒ずんだ背中を見せて反対方向に顔を上げているヨシヒコにツッコミながら、仏は話を続けた。
「いいか背中が汚いヨシヒコ、今から私が話す、とある女神の悲しいエピソードをその耳でハッキリと聞くのだ」
「とある女神の……悲しいエピソードですか?」
「その話を聞けばお前はきっと、間違いなく魔王に対する恐怖心も忘れて元気になれる!」
「なんだと! なら是非聞かせて下さい!」
「うむ! 心して聞くがよい!」
ここにメレブやアクアがいればツッコミの一つや二つは入れたであろう。
とある女神の悲しいお話を聞いただけで魔王に対する恐怖を取り除けるのかと
緊迫したこの状況で元気になれるとか胡散臭いにも程があると
しかし純粋なヨシヒコはすぐに彼の話を聞く態勢に入って耳を傾ける
そして仏は語り出す、とある女神の悲しいエピソードを……
「あれはね、結構昔、いやだいぶ昔? いやだいぶでもないか、ほどほど昔の頃のお話なんだけどさ、私はその頃からとある後輩の女神とよく飲んでたりしてた訳よ、私とその後輩、それとオマケで水色頭の~よくわかんねぇバカ? その三人でまあくっちゃべりながら飲む機会が多かったんです、ええ」
「はい」
「まあ神様が三人揃ってもさ、飲み会なんてまあ人間がやってるのと大して変わらんのよ、あそこの店美味しいからと水色頭が言えば、そんじゃ後輩予約して来いと私が言って、その日もいつも通りに三人で集まって飲む事になったんですよ、だけどその日はね、ちょっといつもと違ってたの……」
こちらに対して完全に背を向けている状態であるヨシヒコに笑いを堪えつつ、仏は難しい顔を浮かべながら話を続ける。
「いつもみたいに飲んで騒いでる時にふと「アレ?変じゃね?」とちょっとした違和感を覚えたの、そんでその違和感を覚えたのが他でもない後輩の女神。「なーんかいつもと違くね?」と私、隣に座っていた水色頭とコッソリ話してたの、そしたらその水色頭がね、気付いちゃったのその後輩の違和感の正体に」
「それは一体……」
「胸にね……胸パッド付けてちょっと大きくしてたの」
「む、胸パッド!?」
雷でも落ちたかのような衝撃を受けたかのようなリアクションを取るヨシヒコに、仏も「そこまでオーバーにならなくてもいいから」と軽く頷く。
「まあ~その後輩の事は大分私も付き合い長いから色々とわかってはいるんですよ、自分の胸がね? オッパイがね? 随分小さいなと嘆いていたのよ、だからその日は、ちょっとした決断だったんだろうね彼女、胸パッドを付けて誤魔化して、あたかも微妙に大きくなったんだぞと私達にアピールしたかったんだと思う」
「確かに、貧乳ほど恥ずかしいモノはありませんね」
「ひでぇ事言うなお前、ロキが聞いたらブチ切れるぞ。とにかくね、その後輩が胸にパッド詰めてる事に関してはとりあえず一旦置いておこうと、何も言わずに黙っておこうと水色頭と相談してそのまま朝まで飲み明かした訳よ」
真顔でハッキリと貧乳を乏しめる巨乳派のヨシヒコに仏は苦笑しつつ、その日の飲み会は何事もなく終わったと話した。
「でも今になったらあの時ちゃんと「おいお前! 胸パッドなんて詰めてんじゃねぇよ!」って言ってあげればよかったなとちょっと後悔してる、何故ならその後輩ね、最初私達が気付かないフリをしたのをいい事に……飲みに行く度に胸パッドを増量し始めた」
「胸パッドの増量!?」
「もうね! 飲み会で会う度に一枚一枚微妙に重ねて増やしてるのが丸わかりなのよ! 私と水色頭が気付いてないと思って、調子に乗ってドンドンおっぱい大きくしてんの! 最終的にもう! パッドじゃなくてメロン詰め込んでるんじゃねぇかと思うぐらいデカくなってて! その上でいつもと変わらない態度を装って来るから! 笑い堪えるのに必死だった!」
その後輩の女神は仏が気付いていないと思い込み、徐々にパッドを増量してあたかも自然に大きくなったと演出していたのだという。
人々を導く女神である存在が、自らの姿を偽るとは……
「だからもう流石にね、笑い堪えながら水色頭がその後輩に言っちゃったのよ、「あれ? 最近アンタ、胸デカくなったんじゃない?」って、そしたらその後輩が満更でもない顔で「本当ですかー!? いや、私あんまり自覚無かったんですけど、確かにちょっと服がキツくなったと思ったんですよねー!」ってめちゃめちゃ白々しい事を言いやがって! 俺思わず飲んでたビール噴き出しちゃったもん!」
「同じ神に対しても嘘をつくとは……一体その後輩の女神はどうしてそこまで……」
「だが、そんな彼女にも恐るべき脅威が現れた……」
そもそもどれ程のパッドを詰めていたのだろうかと一度見てみたいと思うヨシヒコだが
仏は急に険しい表情を浮かべて無理矢理シリアスな雰囲気を作った。
「ある日の飲み会の事であった、その時のメンバーはいつもの私とその後輩、おまけの水色頭の三人に加えて、ある一人の女神がフラッと参加して来たのだ」
「もう一人の女神……ですか?」
「そして後輩はその女神と初めて顔を合わせたのだが、一目見た瞬間開いた口が塞がらなかった、何故ならその女神は見た目はロリなのにえげつない程の超巨乳だったのだ!」
「え、えげつない程の超巨乳!?」
「はいそこ、巨乳と聞いて興奮しない、言っておくけどアレだよ? いくら巨乳でもヨシヒコ的には範囲外だと思うよ? 見た目がロリだし、あと紐だし」
巨乳と聞けばすぐに食いつくヨシヒコを軽く諭しながら、仏は「いやー」とあの時の出来事を思い出し始める。
「あの時後輩にそいつを会わせたのは間違いだったねー、偽っている事さえも忘れてすっかり自分は巨乳の仲間入りだと思い込んでいる後輩の前に、なんの小細工もしてない天然の巨乳が現れたんだもの、そりゃ後輩もショック受けますよ」
「見てみたい……小細工もしてない天然の超巨乳を見てみたい!」
「ただそこで後輩が素直に負けを認めていたら良かったのよ、けどあの時のアイツはもうかなり行ける所まで行っちゃってたから、今更引き返すなんて真似は絶対に出来ないと思ったんだろうね、だからあんな事になっちゃったんだろうなぁ」
その日から後輩は天然の超巨乳女神に対して強い対抗意識を燃やしてしまったみたいだ。
元々はただ仏達に見栄を張るだけだった筈なのに、巨乳というモノに元々強く焦がれていた彼女は、その日を境に暴走したのである。
「それからしばらく経った後にね、色んな神様が集うパーティー的な催しがありまして、それで当然仏である私とよくわからない水色頭も参加してた訳ですよ、そこでね遂にあの悲劇が起きてしまったの……」
「遂に語られるんですか、女神の悲しいエピソードが……」
「アレは私が友達のロキって奴と一緒に酒に合うつまみはないかって、他の神々を押しのけながら会場に置かれたテーブルの上を見て探し回ってた時です。その時、彼女は来ました、いや来てしまいました……」
あの時の衝撃は今となっても忘れられない、仏、いや他の神々にとっても鮮明に記憶に残っているであろう。
何故なら……
「その彼女こそ私の後輩でありそして……胸にスイカ二つ突っ込んだかのような! 超爆乳の女神様になられていたのです!!」
「スイカが二つ!? それはもしや!」
「はい詰めました! 天然巨乳ロリ女神に対抗するために彼女は胸パッドを爆買いして全部詰めました!」
「凄い! そんな事を堂々と出来るとは逆に凄い!」
「しかもただのスイカじゃないから! 入善ジャンボスイカっていう、作ったスイカのデカさを競い合う為の大会に使うかのような超大きいタイプのスイカと同じぐらいの超ビッグサイズ!」
あの瞬間、会場にとんでもねぇ奴が現れたとどんちゃん騒ぎしていた神々が一斉にドン引きしたぐらいだ。
「入善ジャンボスイカ女神が現れた途端もう会場にいた神々が一斉にシーンって静まりかえったの! 年中騒ぎっぱなしの神々があんな一斉に黙るなんて! 私が知る限り創世記始まって以来だと思う! 私の隣に立ってたロキも「お、おぉ……」と言葉にも表せられない様子で困惑してたし!」
「怖い、そっから先の事を聞くのが怖いです仏!」
「ちゃんと聞くのだヨシヒコ! 入善ジャンボスイカ女神が引き起こした事件はまだ終わっていない!」
何故だろう、これ以上聞いたらとても悲しい結末を知る事になるかもしれない。
それに恐れるヨシヒコに対し、仏は声のトーンを上げながらいよいよクライマックスを語り始めた。
「そして入善ジャンボスイカ女神は遂に宿敵と一方的に決めつけているあのロリ巨乳を見つける!! 周りがざわめいているのにも気付かずに一直線に進んで勝負を仕掛けようとする入善ジャンボスイカ女神! しかしそこで悲劇が起こった!」
「!」
「水色頭が! 神の一柱であるタケミカヅチと料理を取り合ってた水色頭のアホ女神が! うっかりバランスを崩して転び、そのまま入善ジャンボスイカに後頭部からドーン!!」
「大変だ! 後輩の見栄でつくったスイカが!」
「ぶつかった拍子で後輩も背中から転んでドーン! その衝撃で胸に詰めてた大量のパッドはパーン! そして広場の天井に向かって舞い上がりパパーン! 胸パッドの花火が打ち上がりましたイエー!」
拳を掲げてガッツポーズを取りながらテンション高めに仏は叫ぶ。
「その瞬間もう静まり返ってた神々が大爆笑!! 私も耐えるに耐えてた笑いが噴火してもうゲラゲラと笑った! 水色頭に至っては、自分が原因だったクセに床を何度も拳で叩きながら笑い出して! 終いには笑い過ぎてアゴ外れたんだよアイツ!」
「神々の前でそんな醜態を晒してしまうとは……しかし、私もそんな面白い光景を見てしまったら、お腹を抱えて笑ってしまう自信がある……」
「いやーアレはもう傑作だった、でもロキは笑ってなかったね、アイツも後輩と同じ貧乳だから真顔で固まってた、それ見て更に私大爆笑、ハッハッハーッ!」
あの時の出来事を思い出し再び笑い出してしまう仏、遂には苦しそうにしながら涙目にまでなっている。
「そんなほとんどの神々を笑わせたという大偉業を成し遂げた元・入善ジャンボスイカ女神はね、「違うんです違うんです! コレはただのアクセサリーなんですー!」って何回も叫び続けて、もう泣きながら落ちた胸パッドを必死にかき集めて誤魔化そうとするんだけど、それ見て私、もうこれ以上ないってぐらい笑った」
「地獄ですね、彼女にとって正に地獄ですね」
「ちなみにその時ロキは、何も言わずに胸パッドを拾ってあげてたよ……」
「優しい方ですね」
神々にとっては爆笑の出来事だが(一人除く)その女神にとっては一生忘れられない出来事になったであろう。
そして話を聞き終えたヨシヒコは真顔で固まっていると仏は笑うのを止めて
「そして後にコレは、神々の間で伝説となり「パッドバズーカ事件」と呼ばれるようになった、その日を境に幸運の女神・エリスは今みたいな真面目な感じになったのです、終わり」
「パッドバズーカ事件!?」
パッドバズーカ事件、それは前々からメレブと一緒にずっと気になっていた女神エリスが引き起こした事件。
まさか今まで話していた事は全てその事件の全貌だったとは……
「あの清純そうな見た目の彼女が……胸にスイカを詰めて爆発させていたなんて……」
「まあ誰だってさ、若気の至りの一つや二つあるもんだよ、それを経験して一人前になれるんだよ、うん」
「は! 仏、もしや仏は誰にだって失敗はある、それは神も勇者も例外ではないと言いたいんですね!」
「その通-り! お前はあの頃のエリスと同じく大きな失敗をして立ち止まっているだけ! 歩き出せば必ず道は開くのだ!」
仏の話から浮かび上がるメッセージを察したヨシヒコ。そう、誰にだって大きな失態は必ずある。肝心なのはそこから立ち上がることが出来るかどうかだ。
「エリスの奴は、アレがキッカケで滅茶苦茶落ち込んでずっと家に引き籠ってた時とかあったの、でも私や水色頭含む周りの神々に沢山励まされ、特にロキの奴が滅茶苦茶励ましてやったおかげで、今はちゃんと立ち直って女神として立派に働いてるんだぜ?」
「そんな事件があったのに再び立ち上がれるなんて……なんて凄い御方だ」
「だからヨシヒコ君だってもうちょっと頑張ろうぜ、アイテムも剣も奪われたからってなによ、お前にはお前にしか使えない最強の武器がまだ残ってんじゃん」
「私にしか使えない最強の武器……は!」
神々の前で赤っ恥をかきながらも女神としての役目を今もちゃんと果たしているエリスに感嘆している中
仏からのありがたいアドバイスを受けてすぐに思い出した。
彼の脳裏に映ったのはメレブ、アクア、ダクネスと共に沢山の魔物のシルエット……
「そうか、私にはまだ魔王と戦える為のとっておきの武器が残っている! ならばこのまま逃げる訳にはいかない!」
「ようやくわかったかヨシヒコ、お前にとっての最強の武器はそう! 仲間との強い絆! それこそが魔王を倒す為の剣となるのだ!」
「すみません、仏! 私が間違っていました! 今すぐにメレブさん達の所へ戻ろうと思います!」
「うむ、行くがいいヨシヒコ。仲間達はきっと、お前が戻って来るのを信じて待っているぞ」
まだ魔王を倒せるチャンスは潰えてない、大切な仲間がいる限り
そうとわかったヨシヒコはすぐにメレブ達と合流しようと決心する。
こちらにまだ背中を向けたままのヨシヒコに、仏も力強く頷いた。
「では行くのだヨシヒコよ! 仲間達と共に! 魔王を倒してこの世界を救うのだー!」
「はい!」
自分がいない方向に顔を上げながら強く叫ぶと、ヨシヒコはメレブ達のいる方角へと全速力で駆けていく。
相変わらずすぐ気が変わる奴だなと思いつつ、残された仏は苦笑いを浮かべるのであった。
「ホント世話が掛かる子だよなぁアイツ……」
ヨシヒコの後ろ姿を見送りながら仏はすっかり保護者の気持ちになっていると
突然ピンポーンと仏の隣から音が鳴った。
「え? こんな時間にお客さん? ったく一体どこの誰だよ……はーい今開けまーす」
その言葉を最後に空に浮かんでいた仏は何処かへ行って消えてしまった。
その後、突然現れた来客に、顔を合わせた瞬間いきなり殴られたのは言うまでもない。