勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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拾ノ三

死体とミイラの間で産まれたタマゴから孵ったのは禍々しいオーラを放つ漆黒の鎧だった

 

彼を新たに仲間に加入したヨシヒコ達は森の中をひたすらに進み続けていると、やっと開けた場所に出れたのであった。

 

「ここが書かれていた湖でしょうか?」

「ほほう、どうやら書かれていた事は全てウソという訳ではなかったみたいだな」

 

森の奥にひっそりとあった大きな湖が彼等の前に現れた。

 

メレブの後頭部に直撃した石を包んでいた、あの手紙通りに湖があった事がわかるとヨシヒコとメレブは早速近づいてみる。

 

「手紙の通りならこの湖の底に魔王を倒す為の聖剣があるんでしたよね」

「Arrrrrrrr!!!」

「しっかし随分と深いぞここ……底にあるとしたらかなり深く泳がないと難しくない?」

「Ohrrrrrrr!!!」

「私も流石にここまで深いと息が保ちません、どうすれば……」

「Ahrrrrrrrr!!!」

「おいよろい! うるさい! さっきから凄くうるさい!」

 

ヨシヒコと相談している時にずっと耳元で叫びっぱなしのよろいにメレブが叫んで彼の方へ顔を上げようとすると

 

「Uaaaaaaaaaa!!!!」

「ってうわぁ! ドラゴン出たぁ~~~~!!」

 

頭上を見上げると湖の水面から勢いよく八つ首のドラゴンがこちらを血走った目を向けて現れていたのだ。

 

ずっと湖の底に気を取られていたせいで現れていた事に全く気付かなかった。

 

よろいが叫んでいたのはきっと自分達に警告を促していたのだろうか……

 

「ヨシヒコ! 顔上げて顔!」

「え? うわ! メレブさんドラゴンです!」

「うん俺が先に気付いてるからわかってる! どうやらコイツが、あのクーロンズヒュドラというこの湖を住処とする怪物みたいだな……」

 

八つの首が揃ってこちらを凝視している事に慌てて後退するヨシヒコとメレブ

 

どう見ても一筋縄ではいかない凶悪な魔物に違いない。ヨシヒコ達はすぐに4人で固まって行動を開始する。

 

「いや~! 何よアレ首がいっぱい生えてて超キモイ~~~!! 私後衛で支援だけするから後よろしく!」

 

「これが噂に聞いていたドラゴン系のモンスター……いいぞこういうのと戦えるのを待っていたんだ! 前衛は私一人に任せろ! 奴の攻撃を全部受けきってやる!」

 

「うん、コイツは俺の呪文全く効かなさそうだから後ろで隠れるわ俺」

 

「ドラゴン……お前にはなんの恨みも無いが、聖剣を手に入れる為に倒させてもらうぞ」

 

ダクネスが満面の笑みで前衛に、アクアとメレブは急いで後衛に避難。

 

そしてヨシヒコは中衛の位置でクーロンズヒュドラに向かってバッと手を突き出し

 

「いけ! 共に戦う魔物達よ!」

 

その号令に応えるかの様に冬将軍とロボが颯爽と彼の前に躍り出て戦闘態勢に

 

2匹ともやる気満々の様子で得物を構えているも、よろいだけは何故かその場から少し離れて立ちつくすのみ。

 

そして彼等の陣形を眺めながら、八つ首のドラゴンもまた敵と見定めて攻撃を開始し始めた。

 

「さあ来るなら来い! 徹底的に私だけを狙って執拗にいたぶり続けるがいい!! ほら早く私に攻撃を……」

 

 

 

 

 

 

「あ」

「ダクネ~ス!!!」

「開始1秒も経たずに食われてしまった~~!!」

 

攻撃方法がまさかの口を大きく開けてからの丸呑み。

 

八つの中の一つの頭に襲われたダクネスは、間抜けな声を最期にあっけなく食べられてしまう。

 

するとドラゴンのお腹の中から

 

「す、凄いぞヨシヒコ! ドラゴンの胃の中に入れるなんて初体験だ! このまま為す術なくゆっくりと消化されてしまうのかと想像してしまうと……興奮する!」

「お腹の中でも普通に喋れるのかダクネス! 待っていろ! すぐに私が出してやる!」

「……お構いなく」

「……え?」

 

食べられているというのになぜか歓喜の声を上げるダクネスを急いで救出しようと叫ぶヨシヒコだが

 

ドラゴンの腹の中から聞こえた彼女はそれをやんわりと断りを入れる。

 

一瞬自分の耳を疑うも、ヨシヒコはすぐに助け出そうと冬将軍とロボに指示

 

「二人がかりであのドラゴンを倒せ! まずはダクネスがいる奴の腹に攻撃だ!」

 

魔物使いらしく的確に指示を与えると、それに従って冬将軍とロボは機敏に動いてドラゴンのお腹を攻撃する。

 

しかし冬将軍が繰り出す刀による居合切りも、真っ赤に点滅してからのロボの目からの強力なビームを当てると

 

ダメージが通った途端たちまち体の傷が癒えていくクーロンズヒュドラ。恐ろしい再生能力だ

 

「ダメだ! この2匹の攻撃を持ってもビクともしない……! コレがこの世界のドラゴンの強さか……!」

「ハァハァ……! ヨシヒコ今お前! 魔物達に私がいる場所をピンポイントに狙ってくれたな!」

 

改めてこの世界の魔物の強さに驚いてるヨシヒコを尻目に、ドラゴンの腹の中からまたしても興奮した様子でダクネスが叫んでいる。

 

「おかげでヌメヌメした胃の中から凄い衝撃を受けてどこが上か下なのかわからないぐらい引っくり返されてしまったぞ! どうもありがとう!!」

「ダメだ、魔物に食べられた事でダクネスが我を失っている……」

「心配するなヨシヒコ、アイツは元から失ってる」

「なんとしても早く助け……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「わ! 冬将軍とロボが食われた!」

 

悔しそうに奥歯を噛みしめるダクネスに後ろからメレブが杖で体を支えながらツッコミを入れていると

 

クーロンズヒュドラと戦闘中だった冬将軍とロボが、隙を突かれてダクネスの時と同じようにパクッと食べられてしまった。

 

「おのれよくも私の大事な仲間を次々と……! 許せん! ヨシヒコパーンチ!!」

「ヨシヒコパンチ!? え!? なにそれヨシヒコパンチって! そんなクソダサい技初めて聞いたんだけど!」

 

みすみす仲間を三人も失ってしまった事に、ヨシヒコはヤケクソ気味に素手の状態で真正面から突っ込んでいく。

 

物凄くダサい技名を叫びながら拳を突き出す彼を見てメレブが戸惑っていると

 

ヨシヒコ渾身の右ストレートがポスッと軽い音を奏でてクーロンズヒュドラのお腹に当たった。

 

それを食らってなお全く効いていない様子だったので、ヨシヒコは恐る恐る後ろに下がると……

 

「ヨシヒコキーックぬわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「あ、やっぱダメだったぁ! ヨシヒコパンチがダメならヨシヒコキックにしようと思ったのに! やる前に食べられちゃった!」

 

助走をつけて今度こそと間抜けな技を叫びながら蹴りを行おうとする。

 

しかし案の定、クーロンズヒュドラのはヒョイッと彼を掴み上げて、そのまま空中へほおり投げて別の頭がパクッと丸呑みしてまった。

 

残されたのは後衛のアクアとメレブだけに……

 

「あれ? もしかして今残ってるのって私達……」

「んー……メレブパンチはアイツには効かないと思うからパスで、頑張ってアクアパンチで倒して水の女神(笑)」

「はぁぁ!? ちょっとなに! 自分だけ戦いに参加しないつもり! この期に及んでビビってんじゃないわよ!」

 

軽々とヨシヒコ達をペロリと平らげてしまったクーロンズヒュドラに、自分ではとても太刀打ちできないと両手を上げるメレブ。

 

しかし支援魔法と宴会芸が取り柄のアクア一人では勝つ事など出来る訳がなく

 

二人目掛けてドラゴンの長い首が二つ、ゆっくりと伸びていくのであった。

 

「わぁぁぁぁぁぁ!! このままだと私達まで食べられちゃう~!!」

「も~強過ぎだろコイツ~! ヤバい! なんにも出来ずに全滅だコレ!」

 

二人して逃げる事も出来ずにギャーギャーと喚きながら叫んでいる中でもクーロンズヒュドラはみるみる迫って行く。

 

しかしそこで

 

「Gaaaaaaaaa!!!」

「見て! 遂にあの怪しいモンスターが動き始めたわ!」

「ホントだ! さまようよろい! さまようよろいだと言われるけど本当にさまようよろいかどうか疑わしいさまようよろいが戦おうとしてるぞ!」

 

このタイミングで遂に漆黒の鎧が動き出す。

 

ガシャンガシャンと音を鳴らしながら機械的な動きでクーロンズヒュドラの方へと勇ましく向かっていったのだ。

 

「今までなにボーっとしてたのよ! でもなんかアレよね、見た感じは本当に強そうに見えるわね」

「いや確かに見た目は超強そうに見えるが、あの恐ろしい再生能力を持つドラゴンに果たして勝てるかどうか……」

 

 

期待半分と不安半分でアクアとメレブが離れて見守っていると、よろいに向かって八つの頭の内の一つが襲い掛かる。

 

「Ohrrrrrrr!!!」

「「跳んだぁ!!」」

 

ヨシヒコ達同様丸呑みにしようと大口を開けて来たドラゴンを寸での所で引き寄せてからのジャンプで回避。

 

地面から5メートル近く離れた所まで飛翔すると、そのまま立ち続けに襲い掛かって来る二つの頭を軽々と両手両脇で掴んで

 

「Uaaaaaaaaaa!!!!」

「「叩き付けたぁ!!」」

 

豪快に地面に叩き付けたのも束の間、そのまま二つの頭を両脇に抱えて一気に引き上げるかのような動きをすると……

 

「Arrrthurrrrrr!!!!」

「「持ち上げたぁ!!」」

 

 

とんでもない怪力である、アクアとメレブが同時に叫んでる中、よろいは二つの頭を掴んだ状態から、クーロンズヒュドラを湖から引きずり出してそのまま高々と持ち上げる。

 

そしてそのまま全身を地面に豪快に叩き付けてみると、その衝撃でドラゴンの口から冬将軍とロボ、そしてヨシヒコとダクネスがヌルヌルの状態で滑りながら出て来た。

 

「おぉ……出てこられた! 冬将軍とロボも無事だ! ダクネスも助かったぞ!」

「おい誰だ! 人がお楽しみの途中でいきなり邪魔した奴は! 出て来い!」

「大変だ、ドラゴンの腹から脱出してもダクネスが正気を失ったままだ……」

「だからヨシヒコよ、そいつは俺達と出会った時からとっくに失くしてるの、正気」

 

 

外に出れた事に喜びながらヨシヒコは立ち上がるも、ダクネスはまだドラゴンの胃の中を堪能しきれていなかったのかえらくご立腹の様子。

 

地面でのたうち回る彼女を見てヨシヒコはショックを受けるが、メレブは冷めた様子でツッコミを入れ、それにアクアも無言で頷く。

 

「よろいの奴がお前の事を助けてくれたんだよ、凄かったぞ今の、あのシーンを撮るのにどれだけ予算がかかったのかは考えたくないけど」

 

「スタイリッシュにヌルヌル動き回りながらドラゴンを翻弄して、そのまま一気に投げ飛ばしてアンタ達を吐き出させたのよ」

 

「そうだったのか……よろい、流石は死体とミイラの子供だ……私達を助けてくれて感謝する……」

 

「Arrrrrrrrr……」

 

メレブとアクアに一部始終を聞かされてヨシヒコは深くよろいに感謝した。

 

するとその礼に応えるかの様によろいはヨシヒコに対して胸に手を当て軽くお辞儀をする。

 

だがホッとしたのも束の間、よろいによって叩き付けられたクーロンズヒュドラが

 

「あ、ヤバい! お前達その場から一旦逃げろ! ドラゴンがまた起き上がるぞ!」

 

「やっぱりまだ倒し切れなかったみたいね、流石は十億エリスの懸賞金がかかってるだけあるわ……」

 

首を左右にフラフラさせながらも、異常な回復力をもってすぐに元気になったかのように目を覚ましたのだ。

 

慌てたメレブがすぐに号令をかけると、ヨシヒコとダクネス、そして魔物三匹は急いでメレブとアクアの方へと退く。

 

「マズいですね、私達の攻撃はほとんど通らない上にすぐに回復してしまうとは……」

 

「よろいの攻撃は効いているが、コイツだけしか戦えない以上、倒し切るにはかなり時間がかかるぞ」

 

「Aaaaaaaaaaa……!!」

 

「そうねぇ、魔王のおかげで私達にはもう時間はあまり残っていないってのに、コイツを早く倒すにはどうしたら……」

 

よろい1匹だけでこのドラゴンを仕留めるには相当な時間がかかる筈

 

間もなくこの世界が魔王によって闇に覆われてしまうという状況でそんな悠長な真似は出来ない。

 

どうしたもんかとクーロンズヒュドラ攻略に悩む一同

 

しかしその時

 

「アレ? 倒す? そういえばどうしてあのめんどくさいドラゴンを倒さなきゃいけないんだっけ?」

 

「バカだなお前ーもう忘れちゃったのー? アイツがいる湖の底に魔王を倒す為の伝説の剣が眠ってるんだよ」

 

「あのドラゴン、もう湖から出ちゃってるんですけど?」

 

「……あ、本当だ」

 

「バカねーメレブさん、見たまんまの状況なのにそれに全く気付いていなかったなんてプークスクス!」

 

アクアはふと気付いた、自分達の当初の目的はドラゴン退治ではなく、そのドラゴンが潜む湖から聖剣を手に入れる事だと。

 

つまり今、湖からほおり出されたドラゴンが陸地にいるのだから、湖は完全に無防備になっているという事だ。

 

メレブに嘲笑を浮かべた後、こちらに対して威嚇するかのように吠えているクーロンズヒュドラの方に目をやったまま、アクアは目をキランと輝かせてニヤリと笑みを浮かべる。

 

「私にいい考えがあるわ」

「本当ですか女神!?」

「フフフ、いい?手短に作戦内容を伝えるからちゃんと聞いておきなさい」

「うわーコイツの作戦とかぜってぇ乗りたくねー」

 

良い案を閃いたとドヤ顔のアクアに、メレブは嫌そうな顔しつつもこの状況を打破できるならと彼女の話を聞いてみる事に

 

すると突然彼女は両手を地面に突いてクラウチングスタートの構えを取ると……

 

「いっちょ私が湖の底に潜って来るから! アンタ達は死ぬ気でそのドラゴンの足止めしなさい! 以上!」

 

「うわぁ!! あの野郎俺達を囮にしやがった! きったねぇ!」

 

勢いよく地面をけり出し毛駆け出すと、ドラゴンの横を突っ切ってそのまま湖に向かって両手を上げてザッパーン!とダイブするアクア。

 

こんな巨大なドラゴンを足止めさせろとか無茶な要求だけ残して湖の中へと消えていった彼女に、メレブは恨めしそうに呟きながらもすぐに杖を構えてクーロンズヒュドラの方へ

 

「もうこうなったらやるしかない! 行くぞヨシヒコ! ダクネス!」

「はい! 私は魔物を操って食い止めます!」

「私はもう一度丸呑みされてくる! 後は頼んだ!」

「よしダクネス! お前はもう帰れ!」

 

恍惚とした視線をドラゴンに向けながら息を荒げるダクネスをメレブが一喝していると

 

ヨシヒコの命令に従い冬将軍・ロボ・そして漆黒のよろいが一斉に動き出す。

 

「身体への攻撃は効かない! ならばドラゴンの首を取り押さえて拘束だ!」

 

先程よろいが行っていたかのように冬将軍とロボは体の方ではなく首を集中的に狙い始めた。

 

ロボはビームと剣の連続攻撃でドラゴンの頭にダメージを与えて怯んだ所を剣で突き刺し拘束。

 

冬将軍は二つの頭を同時に相手取りながら力任せに首根っこを掴んで身動き取れなくさせる

 

「Gaaaaaaaaa!!!」

 

そしてよろいに至っては左右の腕で二頭、両腕が塞がってる所へ攻撃しに来たもう一頭を両足で挟んでそのまま身体を捻って首の骨をへし折ってしまった。

 

「さっきから! さっきからアイツだけアクロバティックな動きし過ぎー!」

 

規則外な強さと動きを魅せ付けてくれるよろいにメレブが思わず叫んでしまう

 

あのよろいは本当に自分達の世界の魔物なんだろうか……

 

ロボが一頭

 

冬将軍が二頭

 

よろいは三頭

 

これで八頭の内の六頭の動きを封じたことになる、後の二頭は……

 

「私が出る! 盾役なら任せろ!」

「ダクネス!」

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 

そう言って叫んで勇ましく突撃していったのはダクネス。

 

未だ残っている二頭の執拗な噛みつき攻撃を剣で受け止めながら高い防御力で怯みもせずに足止めに徹する。

 

「丸呑みじゃないのが不満だが、これもまた良し!」

「引くわ~、ダクネスさんホント引くわ~」

 

自分の前で上手く盾役になってくれている彼女に微妙な気持ちになりながらも、メレブはスッと杖を構え

 

「だがよくやった。八つの頭の動きを封じ込めた今こそ、この俺が活躍する時!」

 

クーロンズヒュドラの方へと得意げに突き出した。

 

「この俺がかつて覚えた呪文によって、このドラゴンの攻撃力を下げる!」

「攻撃力を下げる! 凄い! 今度はどんな呪文を思い出したんですかメレブさん!」

「フッフッフ、慌てなさんな……ほい!」

 

メレブが呪文を使うと聞いただけでテンションが上がってしまうヨシヒコをよそに、メレブはニヤリと笑いながら早速敵に呪文を掛けた。

 

すると

 

 

 

 

クーロンズヒュドラの八頭の口元が全部しゃくれた。

 

「こ、これは……! ドラゴンの顎が全部しゃくれになっている! メレブさんこれは!」

「そう、この呪文こそ俺が長き冒険の中で会得した呪文の一つ、敵味方のどちらかをしゃくれさせる呪文だ!」

「凄い! しゃくれたドラゴンが上手く口を閉じられなくなって明らかに攻撃の勢いを失っている!」

 

掛かった者がしゃくれる呪文

 

ただの人間に使えばなんら意味の無い呪文なのだが

 

大口を開けて噛みついたり飲み込んだりする様な大型モンスターにとっては、噛みつこうとしても上手くかみ合わないせいでかなりイライラしている様子。

 

「俺はこれをかつて……」

 

 

 

 

「シャクレナ……と絶対にそう名付けたとハッキリ記憶しております!」

「流石はメレブさんだ……! しゃくれてしまってはまともに攻撃する事も出来ない……」

 

自信ありげに自分が昔名付けた呪文を思い出して叫ぶメレブ。

 

ヨシヒコは感心した様に頷いて見せると

 

目の前でイライラしながら拘束されている状態の八つの頭がもがき苦しむのを見渡しつつ再度頷き

 

「では、最後に私の出番が来たようですね」

「え、待ってヨシヒコ、え? お前今剣も持ってない状態だよ? 出番って一体何する気?」

「メレブさん、私がかつてアクセルの街で手に入れた職業を忘れたんですか?」

「……うんごめん、忘れた、完全に忘却の彼方に消え去った」

 

なんか得意げに言っている所悪いが、残念ながらメレブは素で忘れてしまっている様子。

 

それでもヨシヒコはお構いなしに彼に向かってフッと笑って

 

「私の職業は……ドラゴンを征して操る騎士! ドラゴンナイトです!」

 

「おお! 思い出した! なんかもうずっとその設定使われなくなったから、いつの間にか自然消滅した設定だと思ってた……」

 

「はい、確かに今まではこの世界で冒険していても、ドラゴンと巡り合う機会が無かったので全く役に立ちませんでしたが、今ようやく、私の職業が役に立つ時が来ました……」

 

 

ドラゴンナイトヨシヒコ……そう言えば随分前に、アクセルの街で冒険者として登録する時に職業としてヨシヒコが選んでいたのをようやく思い出したメレブ。

 

今こそドラゴンナイト(笑)から、本物のドラゴンを操る真のドラゴンナイトになる時……

 

「それをここで証明して見せます!」

「ヨシヒコ!」

 

ダクネスが抑えつけている二頭の内の一頭の方へ飛び掛かるヨシヒコ。

 

一体何をする気だとメレブが驚いたその次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

「よ~しよしよしよし!! よ~しよしよしよし!」

「……え?」

「ヨ、ヨシヒコ、急にどうしたんだお前……?」

 

急にドラゴンの頭に飛び乗ったと思いきや、急に満面の笑みを浮かべたまま甘い声で囁きつつ優しく撫で始めるヨシヒコ。

 

メレブが戸惑い、思わずダクネスも剣を構えるのを止めて呆然と立ちすくすも、ヨシヒコは全く気にせずにひたすらドラゴンを愛で続ける。

 

「よしよしよし! 良い子ですね~! ドラゴンはね、本当は心の優しい生き物なんですよ~! よ~しよしよしよし!!」

 

「メレブ、ヨシヒコの様子がおかしいんだが……」

 

「いや待てダクネス、確かに様子がおかしいというか若干キモいが、アレもまたヨシヒコなりのドラゴンへの愛情表現に違いない」

 

「愛情表現!?」

 

甘えた声を耳元で囁きながら頬ずりしてくるヨシヒコに、流石のクーロンズヒュドラも固まって動けなくなってしまう。

 

そしてメレブはヨシヒコの行動を見てふとピーンと鋭く察した。

 

「間違いない、ヨシヒコ、いやヨシゴロウさんはああやってドラゴンと心から打ち解けようとしているんだ」

 

「ま、まさか他の魔物達と同様に、十億の懸賞金が掛かった恐ろしいドラゴンをも手懐けるつもりなのか!?」

 

「うむ、確かにそう簡単ではないだろう、しかしドラゴンナイトという職業なら、それは不可能とは言い切れん」

 

ドラゴンとの対話をし、倒すのではなく心服させるというまさかの戦法を取って見せるヨシヒコに

 

そんな戦い方があるのかとダクネスが驚いていると、メレブは静かにコクリと頷くのであった。

 

聖剣を手に入れる為にやるべき事はやった、後はもう勇者と女神に任せるしかない。

 

「信じよう、俺達のドラゴンナイトの力と、湖の底に潜っていったアークプリーストの力を」

「……そうだな」

 

 

 

 

「よしよしよしよ~し! 可愛いですね~! 食べちゃいたいくらい可愛いですね~よしよし!」

 

「あ、見ろダクネス! ヨシゴロウさんが遂にドラゴンの顔を舐めようとしているぞ! あれもきっと愛情表現だ!」

 

「アハハハハハ~! 本当に良い子ですね~~!!」

 

「止めろヨシヒコぉ! 目が完全にイッてるしどう見ても正気じゃない! 流石に舐めるのは止めろ! 他の頭がお前の奇行を見てめっちゃ怯え始めてるぞ!」

 

「ダクネスに言われるなんて相当だなヨシヒコ……」

 

「Ohrrrrrrr!!!」

 

「ハハハ、コイツに至ってはホント訳わかんない」

 


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