魔物によって囚われの身であったダクネスを解放した(自力で出て来た)ヨシヒコ一行だが
そこでかつての仲間であったダンジョーと敵対する形で久しぶりの再会をする。
魔物を連れたダンジョーとヨシヒコ、そして共に戦ってくれるダクネス
回復支援のアクアと「そういや異世界に来てからなにも食ってないわ、すっげぇ腹減った」と頭の中で呟くメレブ
ヨシヒコ達の異世界の物語が今ここで幕を開けるのだ。
「行くぞ! まずはモンスターの方を倒す!」
『ふん! かかってこい小娘風情が!』
戦いのゴングが鳴った瞬間、ダクネスが真っ向から魔物の方へ剣を構えて走り出す。
その勇ましい姿に後ろで眺めていたメレブも「おおー」と感嘆の声を上げる。
「なになに、最初アレ?って思ったけどなんか使えそうじゃないあの子」
「甘いわね……ダクネスの本領はここからよ」
「おー、そこまで言われるとますます期待しちゃうよ俺ー」
隣りで腕を組みながら静かに呟くアクアに、メレブがニヤニヤしながらダクネスの活躍に期待していると
「うおぉぉ~!」
ダクネスが魔物目掛けて豪快に剣を振り下ろす。
だが初撃は残念ながら魔物の目の前であり、当たる事は無かった
「ぬおぉぉ~!」
続いて二撃目、剣を横薙ぎに振るうも魔物の横で空しく空を切る。
「せいやぁ~!」
三撃目、再び振り下ろした剣は魔物とは全く関係なく、その辺にあったツボを割る『まもりのタネを見つけた!』
「はぁぁ~!!」
四撃目、魔物とは反対方向、つまり自分の後ろにいたメレブの目と鼻の先の所で振り下ろされる。
「ってあっぶね! なんで俺の所に振り下ろしてんの!」
「く! 今度こそ! っとぉぉ~!!」
「いやそこでなんでまた俺に剣を振る! バカ!? ダクネスさんバカ!?」
危うく味方に斬られそうになりながら慌てて後ろにのけ反るメレブ、全く状況が掴めず混乱していると
ずっと隣で腕を組みながら突っ立っているアクアが
「ダクネスはね……剣を振っても敵に絶対に当たらないのよ!」
「あ~! ちょっと前に期待していた俺こそがホントのバカだ~!!」
カッと大声で叫んでダクネスの重大な弱点を教えてくれたアクアにメレブはすぐに残念そうな表情。
まさかの事実にもはや絶望しかない
「お前等ホント今までよく冒険やれてたな! 俺達が言うんだから相当だぞ! こりゃ残りの仲間にも全く期待できないわ! うん!」
「大丈夫よ、攻撃は当たらなくてもダクネスは防御力が凄く高いの、ちょっとやそっとじゃ倒れない筈よ」
「いや倒れなくても敵を倒せなきゃ意味ないでしょ! 勘弁してよ~」
もはや泣きそうな表情で嘆くメレブをよそに、ダクネスはようやく魔物の方へ向き直って再度、乱暴に剣を振るう。
「はぁぁぁ~~!!」
「ほら! はぁぁぁ~~!!とかカッコ良く叫んでも完全に当たってないし、魔物の方も困惑気味じゃん」
「フ、やるな……」
『いやその……はい』
「魔物の方が気を遣ってるし、もうすげぇこっちが申し訳ない気持ちなんだけど~」
自分の目の前をただ豪快に剣を何度も振るってるだけのダクネスに、魔物・ジャミラスは棒立ちしたままどうしたらいいのか困っている様子、しかし……
「隙あり!」
『なに!? ぐは!』
ダクネスに気を取られている内に突如ヨシヒコが横やりを入れて剣を突き出してきた。
呆気に取られたその隙に魔物はヨシヒコに会心の一撃をいれられ為す術なく倒される。
まずは魔物の方を倒す事に成功したヨシヒコはすぐにダンジョーの方へ振り返った。
「邪魔な魔物はいなくなりました、勝負ですダンジョーさん」
「フン、その程度の魔物を倒したぐらいでいい気になるなよヨシヒコ。お前の本当の敵は俺だ」
「いえ、あなたは敵ではありません、私の大切な仲間です」
「まだそんな事を言うか、全くお前は本当に甘過ぎる男よ……」
改めてダンジョーと対峙するヨシヒコ、そんな中で彼に横から獲物を奪われてしまったダクネスはというと
「せいや! は! モンスターが消えた! もしや私が倒したのか!」
「ううん全然違う、魔物倒したのヨシヒコ君、そんで今はダンジョーと戦ってるからもう邪魔しないで」
やっと目の前で魔物が消えた事に気付いたダクネスに、後ろから手を激しく横に振りながら教えてあげるメレブ。
するとダクネスは隣でジリジリと距離を縮めて今にも剣を交えそうなダンジョーとヨシヒコに気付いて
「見えたぞ、そこか!」
「も~だから邪魔するなって言ってんじゃんよ~!」
次倒すべき相手はダンジョーだと見定めて、かつての仲間同士の対決という燃える展開に空気も読まずに参戦するダクネス。
そして当然、彼女の攻撃はダンジョーに当たりもせず、振り下ろされた剣は床に突き刺さってしまう
「しまった!」
「そして勝手にピンチになる~! なんなんだお前! ホント何がしたいのか俺に教えてくれない!?」
「おい、女のクセに男と男の戦いに水を差すな!」
自分とヨシヒコの戦いに邪魔されたのが気に食わなかったのか、剣を床に突き刺して動けない状態のダクネスに斬りかかるダンジョー
しかし寸での所でダクネスの前にヨシヒコが立ち塞がる。
「させません!」
ダンジョーの剣を自分の剣で受け止めながらヨシヒコはガキン!と音を立ててはじき返した。
「大丈夫か」
「すまない……助けようと思ったのに足を引っ張ってしまって……」
「足など引っ張っていない、共に戦ってくれるだけで私にとってはこの上ない助けになっている」
「そうか、ありがたい言葉だな……」
申し訳なさそうにするダクネスにそう語りかけながら、ヨシヒコは弾き飛ばしたダンジョーの方へと立ち向かう。
「行きます!」
「来い!」
二人の剣が再びぶつかり合い、そして幾度も激しい音を立ててぶつかり合う。
互いに一歩も譲らず戦う二人を眺めながら、何もできないでいる状態のアクアとメレブはハラハラしながらその戦いを見守る。
「アクア! 俺達は俺達のやるべき事をやろう!」
「ええ! 私だってやってやるわよ!」
「よし!」
アクアと頷き合うとメレブは彼女と一緒に突然手拍子を初めて
「頑張れ頑張れヨシヒコ!」
「フレーフレーヨシヒコ!」
「いけいけヨシヒコ!」
「負けるなヨシヒコ!」
「強いぞヨシヒコ!」
「勝てるぞヨシヒコ!」
「「ふぅぅぅぅ~~~~!!!」」
手拍子だけでなく足でステップ取りながら肩を抱き合いちょっとした応援ダンスをやり始めるメレブとアクア
彼等の声援が届いてるのかわからないが、ヨシヒコは荒い息を吐きながらダンジョーと鍔迫り合いに
「まだ本気じゃない様だな、それでは俺に勝てんぞ……!」
「勝つのではない! 私はあなたを救う為に戦ってるんです!」
「まだ言うか!」
「く!」
未だに完全には本気になれてない上に疲れが出始めるヨシヒコを攻めながらダンジョーは弾き飛ばして彼を豪快に吹っ飛ばす。
後ろに尻もちを突いて倒れてしまったヨシヒコをメレブとアクアが「「ああ~!!」と悲痛の叫びをあげていると
「待て! 私が相手だ!」
「またお前か……何度も何度も邪魔しおって」
「うわまた来ちゃった~!」
倒れて動けないでいるヨシヒコに前に、先程とは逆の形で自分が彼を護るかのようにダンジョーの前に立ち塞がるダクネス。
キッと鋭い目つきで睨まれながらも忌々しそうに舌打ちするダンジョーに、ダクネスはまたもや剣を振り払う。
「女だからと言って私をナメるなぁ~!」
「ハッハッハ、全然当たらぬぞ小娘! お~この辺は暑いからもっと風を吹かせてくれ~」
特に何もしていないのに全く当たる気配のないダクネスの剣筋に
もはや笑いさえ込み上げて来てダンジョーが彼女をバカにしていると
ダクネスが悔しそうに振り下ろした渾身の一刀が
「はぁ!」
「どうしたどうした~、ん?」
偶然にもダンジョーの顔からパサッと何かを切り落とした。
それについダンジョーは落ちた何かを確認する為に床を見下ろすと
すっかり諦めていたメレブもそれに気付いて指を指し
「あ、ダンジョーのもみあげ落ちてる」
「いや~~~ん!! あたいのもみあげ~~~!!」
「うげ! なんか急にオネェ口調になったわよこいつ!」
強面の顔からは想像できないオネェ言葉で叫びながら慌てて切り落とされたもみあげの片方を拾い上げるダンジョー。
そしてドン引きするアクアに見られながら切り落とされた部分をすぐに手で隠し始め
焦った表情を浮かべてダクネスとヨシヒコから後退する。
「お、おのれ! よくも俺の大事なもみあげを! 仕方ないここは撤退するしか……!」
「え、なにもみあげ取れただけで逃げるの?」
「戻って早くくっつけなければ……!」
「逃がすかまて!」
「いやダクネス追うな! お前がダンジョーと本気でやり合ったら100パー負ける! 頼むから追うな!」
もみあげが取れた瞬間急に弱々しくなった様子で後ろに下がり始めるダンジョーをダクネスが追おうとするもそれをメレブが急いで止める。
彼女を憎らし気に睨み付けた後、ダンジョーは手でもみあげのあった部分を隠しながら出口の方へ
「今回の所は見逃してやる! ヨシヒコ! そしてダクネスという女騎士よ! 次会う時は俺は新たな仲間を連れてくる! 覚悟しておけ! さらばだ!」
「ダンジョーさん!」
「え、俺呼ばれなかった、なんで?」
メレブは付き合いの長かったダンジョーに見向きもされなかったのでちょっと心が傷付く
クルリと背を向けて一目散に行ってしまうダンジョーを追おうと立ち上がろうとするヨシヒコを、ダクネスが手を差し伸べて起こしてあげた。
「大丈夫かヨシヒコとやら」
「すまない、あの時助けてもらえなければ私はダンジョーさんに斬られていただろう」
「気にするな、私も同じようにお前に助けられたのだからな、これでおあいこだ」
ひとまず勝利出来たと互いの健闘を称えていると、アクアが近づいてヨシヒコに回復魔法をかけてあげる。
「しっかしアンタの仲間も容赦しないわねぇ、アレ本気でアンタを殺すつもりだったわよ」
「はい、さっきのダンジョーさんは何か鬼気迫る感じがありました」
「確かにおかしい、主に俺が完全に無視されていたことが、うん、ホント傷付いた」
HPを全快させてスッキリした様子のヨシヒコにメレブは何度も頷いた後首を傾げる。
「もしやそちらのお仲間のカズマ君同様、魔王に操られてる可能性があるな」
「とりあえず一旦ここを出ましょう、すぐに出ればまだダンジョーさんに追いつけるかもしれません」
「わかった」
まずは洞窟からの脱出を優先するヨシヒコにダクネスもコクリと頷く。
「どうやら私が想像していたよりもずっと大変な事が起きてるみたいだな、カズマとめぐみんがいなくなった今、アクアがそちらの仲間入りをしているとなれば、悪いが私も君達と共に行動しても構わないか?」
「もちろん構わない、共に戦ってくれる者が増えるとは心強い。頼りにしてるぞ、ダクネス」
「ああ、あまり当たらないがどうか私の剣を使ってくれ、改めてよろしくな、ヨシヒコよ」
握手をしながら共闘を誓い合うヨシヒコとダクネス。
かくして仲間がもう一人増えたのであった。
『ダクネスが仲間に加わった』
「な、なんか今変な音楽が鳴ったぞ!」
「気にしないでいいわよ、コイツ等の世界の常識なんだって」
「あ、先に言っておくけど、ぼうけんのしょが消えた時の音楽はマジでトラウマもんだから!覚悟しておけよ!」
「アレは怖いですね……正直魔王よりも恐ろしい……」
「いやまずぼうけんのしょとはなんだ……?」
数十分後、新メンバーが加わったヨシヒコ一行は洞窟から脱出した。
「はぁ~やっと出れた~、疲れたし腹減ったしダンジョー出て来るしもみあげ落ちるし大変だったわ~」
「アンタほとんど何もしてなかったでしょ……」
「したよ! ダクネスの武器拾って来たの俺よ俺!」
「それにしてもヨシヒコとメレブは異世界から来たという話は驚いたな……」
一番最初に出て来たメレブが解放されたかのように両手を上げながら「あ~」と声を漏らしているのを冷めた目つきで見つめるアクアの後で
洞窟から出る途中で彼等から聞いたダクネスは怪訝な様子でアゴに手を当て考える。
「しかもその異世界から魔王が来て、その魔王がカズマの身体を乗っ取ったとは……これはヨシヒコ達の問題だけでなく私達の世界の問題でもあるみたいだな」
「そうねあのダンジョーとかいうおっさんがめぐみんの事も知ってたみたいだし」
竜王に体を奪われたカズマだけでなく、ダンジョーの口から出て来ためぐみんの事も心配だ。
一刻も早く助けねばと思いたい所だが、アクアはやるせない表情ではぁ~とため息を突く。
「ていうかそもそも、この世界に誰がこんな面倒事押し付けてきたのよ、責任者出て来なさいよ全く」
アクアが苛立ちを募らせながらヨシヒコ達のいる世界の管理者に責任取れとブツブツ呟いていると
ヨシヒコ―! ヨシヒコ―!!
「え、な、なに!?」
「天から声が!」
「お、そろそろ頃合いだと思ってた」
洞窟の中から最後にヨシヒコが出て来た途端、急に天から彼を呼ぶ声が
驚くアクアとダクネスを尻目にメレブはわかりきってるかのように天を見上げると
空に浮かぶ雲の中から、こちらを見下ろす巨大な仏が浮かび上がっているではないか
「うげ! ア、アイツは……」
「な、なんだ一体! 空に何者かが現れたぞ!」
「ああ大丈夫、アレウチの世界の神様みたいなモンだから」
「神様だと!? アレがお前達の世界の神様……!?」
仏が現れた途端急に慌てて顔を隠すアクア、そしてどよめくダクネスにメレブが安心させるように声を掛けている。
ヨシヒコも彼等の隣に立ち、4人で並ぶように仏を見上げると、仏は彼等を見下ろしながらゆっくりを口を開く。
「ヨシヒコよ、無事に異世界へと降りたようだが、どうやら早速波乱に巻き込まれたみたいだな、やはりお前は勇者、道を歩けば幾度も試練に立ち向かわなければならぬ運命に……ってあれ? ヨシヒコ?」
「……」
威厳のある声でヨシヒコに語りかけようとする途中で仏は気付いた。
彼がさっきから自分のいる方向とは全く別の所を見つめている事に
自分を探してるかのようにキョロキョロしているヨシヒコを、仏は目をぱちくりさせながらゆっくり問いかける。
「ん~これはもしや~? ヨシヒコだけ私の事見えてない的な?」
「……すみません、声は聞こえるんですが」
「おいちょっともうやだ~、もういい加減見えてくれないとホントに泣きそうになるんだけど私! なんでヨシヒコ君だけ俺の事見えないのかな? 不思議だわ~、仏でもわかんないわそこん所~、ミステリアス!」
ヨシヒコは空に浮かぶ仏を何故か肉眼で見ることが出来ない。
その事に毎度毎度嘆く仏をほっといて、メレブは慣れた感じで袖の奥からガサゴソとある物を取り出すと
「ほれヨシヒコ、これ被ってみろ」
「はい」
と言って取り出した物をヨシヒコの頭にカポッとハメてみた。
触覚の付いた青色の顔の下半分が出てる謎のヘルメットを
「あ~ラ〇ダーマンのヘルメットだ~!! 懐かしい~!」
「見えます……! 仏の顔がはっきりと!」
「いやそれで見えてもらわれると、なんか敵として認識されてるみたいで嫌だわ私」
懐かしの特撮ヒーローと同じヘルメットを被って驚いた様子でこちらを視認した様子のヨシヒコに苦笑しながら
仏は困ったように耳たぶを触りながら首を傾げる。
「あ~なんだろう、あのさ、ちょっとラ〇ダーマンは古過ぎじゃない? いや私は滅茶苦茶知ってるけどさ、今時の子とか知らないと思うぜ? なんなら最近のあの~今風の? 魔法使いだとかパイナップルとか~そっちのヘルメットの方が良いと思うんだけど? どう?」
「いや魔法使いもパイナップルも随分前だから……ていうかさっさとお告げ言えよ!」
ヨシヒコの被るヘルメットに疑問を持ちかける仏だが、メレブがめんどくさそうに流しながら話を進めようとする。だが仏は「あーはいはい」と適当に相槌を打ちながら
「あ! でも待って! いやちょっと、ちょっとだけお告げ待って! すぐ済むから! ちょっとこっちの用事やらせて!」
「なんだよ用事って! こっちは急いでるんだよ早くしろよ!」
「だからすぐ済むって言ってんだろうがキノコ野郎が! 焼いて食うぞ! よし、じゃあ……そこのお前」
「……」
苛立つメレブを一喝すると仏はすぐに口元に微笑を浮かべたまま
一人だけこちらに顔を背けて黙り込んでいるアクアの方へ優しく話しかけた。
「……何してんの? そんな所で?」
「……」
「こっち、こっち見て、もう全部わかってるから、仏だからずっと見えてたから、今更顔隠さなくてもいいし、つかその見た目で即行わかったから、あ~何やってんだろこのバカって」
笑いかけたまま仏がアクアにそう言うと、彼女は気まずそうにしながら顔を上げる。
「……」
「ねぇ? 黙ってないでなんか私に言う事ない? どうしてそんな所にいるのか仏に是非教えて欲しいな~、お口ムニュムニュするの止めて? 聞いてるでしょ水色頭、お口ムニュムニュするの止めてちゃんと言いなさい、ほら」
「う……うるっさいわねぇ!! アンタに関係ないでしょうが仏のクセに!! 私だって好きでこの世界にいる訳じゃないのよ! それもこれも全部カズマとかいうヒキニートのせいなんだから!!」
「うぉい急にキレてきたよコイツ! おーこわ!」
挑発的にネチネチと問い詰めていると遂にアクアがキレて食って掛かって来た。
その反応にゲラゲラ笑いながら仏はパンパンと手を叩くと
「はいじゃあお告げいきまーす!」
「ええ! 今のが用事!? どゆこと!? あ! まさかコイツと知り合いなの!?」
いきなりコロッと態度を変えてお告げを始めようとする仏に拍子抜けするメレブ。
もしかしてアクアと知り合いだったのかと尋ねるも、仏はしれっとした表情で首を横に振り
「ううん全然知らない」
「はぁ!? ちょっとアンタ何言ってるのよ!!」
「いや~全く知らないわ~、はいそれじゃあヨシヒコ君、仏の話を聞いて下さ~い」
「はい」
「あの仏~……! 天界に戻ったら絶対とっちめてやる……!」
あからさまに知らないフリをする仏にアクアがワナワナと怒りで肩を震わせている中
仏はこちらを見上げるヨシヒコに改めてお告げを下す。
「ヨシヒコよ、先程の戦いでわかったと思うが、お前の仲間であったダンジョーは今普通ではない、恐らく竜王によって心を操作されている可能性がある」
「やはり……仏、心を操作されているとは具体的にどういう事なのでしょうか」
「人の中にある善の心を悪の心にすり替え、その者の欲望を解放させてしまうという、いわば恐ろしい呪いなのだ」
「呪い……」
ダンジョーの変化の理由を知ったヨシヒコは静かに呟きつつ、ふと隣にいるアクアをチラリと見る。
「それなら状態異常を治せる女神の力があれば……」
「竜王の呪いは普通ではない、この世界にあるとされている伝説のアイテムを使わねば呪いを解く事は出来ない様だ、つまりどこぞのバカ女神がアホみたいにヘラヘラ笑いながら「うっひょひょ~い! ビビデバビデブー!」とか叫んでダンジョーの呪いを解こうとしても無理であろう、ブフ! 想像したらクソ面白い!」
「アンタの中で私どんだけ頭ヤバい奴にされてんのよ!」
「あ、ごめんねー、今ヨシヒコと話してるから黙っててー、ね~?」
「うう! 泣きたくなるほど悔しい……!」
ここからでは殴る事も蹴る事も出来ないと一人嘆くアクアをよそに
笑いを必死にこらえながら仏は再び話を続けた。
「ヨシヒコよ、まずは力を手に入れるのだ、ダンジョー、いや竜王をも超える力を手に入れよ!」
「ではまず私はどうすればよろしいのですか」
「ここから南西にある町へと向かうのだ、そこでお前は更なる力を授かるであろう!」
ビシッと右の方へ指を指し示す仏、それに釣られてヨシヒコも右の方へ振り向くと
「いや南西はあっちだぞ」
と言ってダクネスが左の方向へ指差した。
思いきり右を指差してしまった仏はバツの悪そうな顔で腕を下ろして
「うんまあその……頑張ってください」
「……アイツ道間違えたぞ、だっせ~……」
「うるせぇな! 仕方ねぇだろ私ココの世界よく知らねぇんだから! 初めてなんだもん! 仏初めてなんだもんこの世界!」
指摘されて下唇を震わせながら言い訳を始める仏。
するとふとメレブが「つーかさ」と仏に向かって眉間にしわを寄せる
「ダンジョーが呪いにかかったのってさ、ぶっちゃけお前がなんも考えずに俺達より先に飛ばしちゃったからじゃない? だからお前のせいだよね?」
「え? 私のせい?」
「あとその、カズマ君? 彼が魔王に体を乗っ取られたのもさ、お前が自分の世界をキチンと管理できずに魔王をみすみすこっちに逃がしちゃったせいなんじゃないですか?」
「ん~? それも私のせい?」
「あ~~~! そうよ! 元はと言えばカズマが変になったのも私達の世界に大変な事が起きてるのも! 全部アンタの管理がずさんだったって事じゃない!」
「ん~……ん? んん?」
「ん?じゃねぇよ!」
「誤魔化そうとしてんじゃないわよ!」
急にメレブとアクアに問い詰められ始め、キョドった様子で苦笑を浮かべながら誤魔化そうとするも
二人はジト目で彼を見上げる。
「コレはアレだな、責任取って土下座でもしてもらわないとダメだな」
「そうよ! そこで今すぐ私達に土下座しなさい!」
「いやいやいや! その誰が悪いとかさ、今決める事じゃなくない? その~私だってほら、こうして皆さんを導く為に頑張ってる訳ですし~、そんな人を悪者呼ばわりする前にさ、みんなで力を合わせて頑張ろうぜ!」
「うん、わかったからそこで土下座して」
「は~や~く~、さっさと地面に頭こすりつけて」
「おーいー、今いい感じで纏めようとしたよ私ー! もう勘弁してくれよ~! 私だってちゃんと悪いと思ってるんだからさー!」
二人合わせて土下座しろコールしてくるメレブとアクアに、仏は頬を引きつらせるといきなり「あ!」とハッとした表情を浮かべて後ろに振り返る。
「ゴメンゴメンゴメン! ちょっと今友達が遊びに来たからまた掛け直すわ、じゃあまた今度で! うん!」
「嘘つけよ! お前に友達なんている訳ねぇだろ!」
「おい! ちょ! 待ってそれは言い過ぎだろ! そこはね、「お前逃げようとしてるから嘘吐いてるだろ!」とかならわかるよ! けどさけどさ! 友達の存在そのモノさえ否定されるとかなり精神的に来るぜ!?」
「いや! 間違いなくお前に友達はいない!」
「いますー! 沢山いますー! ホントに今遊びに来たんですー! ゼウス君がファミコンしに来たんですー」
「おいおいおいすんげぇ名前出したな! そんな超メジャーな神様出されるとますます胡散臭いから!」
「胡散臭くありませんーん、ホントに僕はゼウス君と友達なんですー「最近ウチの孫がダンジョンで大活躍しててマジヤバい」っていっつも自慢されてるんですー、ぶっちゃけちょっとウザいと思ってますー」
鼻をほじりながら子供の様にムキになって友達はいるんだと言い続けると、天に浮かぶ仏の姿が徐々に薄くなっていく。
「ではさらばだヨシヒコー!」
「うわ逃げやがった! マジで最悪だなあの仏!」
ゆっくりと消えながらこちらに嬉しそうに手を振って消えていく仏
メレブがしかめっ面で呆れた後、すぐにヨシヒコ達の方へ視線を戻す。
「おいみんな、これでムラサキの奴もダンジョーみたいに呪いにかけられてたら、アイツ今度こそ土下座させようぜ」
「全くよ、めぐみんまで呪いにかかってたら焼き土下座にしましょ」
「あー焼けた鉄板の上で土下座させるんでしょ? よし、是非仏にやってもらおう」
アクアの提案にメレブも力強く賛成している中、お告げを聞き終えたヨシヒコは被っていたライダーヘルメットを取る。
「どうやら今回も、我々には多くの苦難が待ち構えているようですね、メレブさん」
「ホントだな、しかも今回はダンジョーとムラサキがいない。以前よりも更に辛くなる旅になるやもしれん」
「ちょっとー、私達の事忘れてんじゃないのー?」
メレブにヘルメットを返しながらヨシヒコは今後の旅もより困難になると呟いていると
それに反応してアクアとダクネスが振り返ってきた。
「私達が代わりに仲間になってやるんだからちっとは有難く思いなさいよ、この水の女神たるアクア様がいれば竜王なんてけちょんけちょんにして簡単にクリアしてやるわ」
「私達もカズマとめぐみんを探す目的があるからな、互いの目的を叶える為に共に手を携えよう」
アクアとダクネスという頼もしい(?)仲間が出来たヨシヒコ。
それに気付いてヨシヒコもフッと彼女達に笑いかけ、メレブも満更でも無さそうに持っている杖に身を預けながら笑う。
「まぁ、あんまり役に立つとは思えないけど、騒がしい旅の方が俺達には似合ってるし、そう悪くないな」
「はい」
ボソッと呟くメレブの言葉にヨシヒコもハッキリと頷いて見せると
彼等は早速南西のある街へと向かい歩き出した。
「それでは早速仏が言っていた場所に向かいましょう」
「南西の街という事は……きっと『アクセル』だな、丁度よかった、あそこは私達の拠点でもあるんだ」
「街かぁ……一体そこで俺達にどんな力が授けられるんだろうな」
「私街に帰ったらご飯食べたーい、もう全然食べてなくてお腹ペコペコー」
「あ、俺も腹減ってるからご飯食べたーい、お腹ペコペコ―」
「いやアンタが言っても全然可愛くないから」
「ハハハ……貴様もな」
ワイワイと談笑を交えながら、ヨシヒコ達は南西にある街『アクセル』に向かう為に山を下りて行く。
彼等の冒険はまだ始まったばかり、果たしてこの先どうなる事やら……
そしてそんな彼等を心配そうに木陰から見つめる者が一人
「兄様、兄様は今回も魔王と戦うのですね、ならばヒサは決めました」
隠れていた木の上からバッと姿を現してヨシヒコ一行を見送るのはヨシヒコの妹であるヒサ
「今度こそはヒサも兄様と一緒に魔王を倒せるよう強うなろうと思います! この異世界で凄く強くなって! 兄様の隣で戦いとう思います!」
そう強く決意を露わにして強くなることを決心するヒサ、だがそこに
「ハッハッハ! 貴様今魔王を倒すとほざいたな! 魔王を倒すのであればまずはこの俺を倒して見せよ!」
「は! あなたは!」
ヒサの方へのっそのっそと歩いて来たのは、甲冑に身を包ませた首なし騎士、その右手には兜を被った首らしきものが置かれている。
「俺は魔王軍の幹部の一人! デュラハンのベルディア! 少し前にとある冒険者達にタコ殴りされた上に消し飛ばされてしまったが! 命からがらこの地に蘇ったのだ!」
「なんと! 魔王軍の幹部という事は……兄様の敵!」
わざわざ律儀に自己紹介してくれるデュラハンのモンスター・ベルディアに、ヒサは早速兄が倒そうとしてる魔王の手先だと察し、華奢な身なりで拳を構える。
「ならば少しでも兄様の負担が軽くなるよう! ここでヒサがあなたを倒します!」
「ハッハッハ! 魔王軍に歯向かう事がどれほど恐ろしいのかわかってないみたいだな! 面白い、来い!」
ヨシヒコが見てない所で始まった。
魔王軍の幹部・ベルディアVSヨシヒコの妹・ヒサ
二人の戦いの決着は
次回へ続く。