勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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其ノ拾壱 ヨシヒコVSカズマ
拾壱ノ一


「うわすげ! このドラゴンホントに毒の湖泳げんじゃん!」

 

「流石はあらゆる場所を転々とし、気に入った場所が決まるまであらゆる環境の中を生き抜くモンスターだな」

 

城を囲む様に置かれた毒の湖を、前回仲間にしたクーロンズヒュドラの上に乗ってスィーッと進みながら

 

メレブとダクネスが感心してる間にも、一行はみるみる魔王の城へと近づいて行った。

 

「コレが魔王の城……なんて禍々しいオーラだ」

 

「くっさ! 邪悪な気配がプンプンしてて本当臭いわ! よくこんな所にいられるわねカズマ達! えんがちょよえんがちょ!」

 

魔王の城の真上にだけ暗雲が立ち込め、黒い雷が途切れることなく落ちている。

 

いかにもラストダンジョンっぷり半端ないその城目掛けて、ドラゴンの首を掴みながらヨシヒコは身を引き締め、アクアは鼻をつまんで本気で嫌がっている素振り

 

するとそこへ

 

ヨシヒコ……ヨシヒコ……

 

いつもの声が空から木霊したので四人はすぐに顔を上げた。

 

「これは最後のお告げに来たか仏、ヨシヒコ、ライダーヘルメットを受け取るがいい」

 

「ありがとうございます」

 

「ん? なあアクア、仏の声、随分と小さくないか? いつもはもっとやまかしいぐらいの声量だった気がするんだが」

 

「確かにそうね、まるで周りにバレないようコッソリと私達に語りかけてるみたい」

 

メレブから最後になるであろう〇イダーマンのヘルメットを受け取りすぐに被るヨシヒコだが

 

ダクネスとアクアは上から聞こえるか細い声に眉をひそめる。

 

するといつもみたいにパァーッと輝く光は無く、うっすらと巨大なシルエットが上空に浮かび上がり

 

「……おはよ~ございます」

 

ぼんやりと仏が現れたのだ、声を潜めて周りを警戒するかのようにキョロキョロと周りを見渡す彼に、メレブは「ん? どした~?」と目を細めて首を傾げる。

 

「なんで、早朝ドッキリの時みたいな感じになってんのアイツ?」

 

「アンタねぇ、こっちはいよいよ魔王の城に着こうとしてんのよ? 最後ぐらい真面目にやりなさいよ」

 

「し! 声がデカい……! もうちょっと声のボリューム落としてツッコミ入れて……!」

 

ドラゴンの上に乗り毒の湖を渡っている途中でお告げを聞くという状況下で、アクアが呆れた感じでツッコんでいると仏は人差し指を口元に当てて静かにしろのポーズ

 

「こっちは今……大変な状況になってんの……! ダンジョンの中に潜ってる真っ最中だから……!」

 

「はぁ! ダンジョンってなに!? え!? 仏なのにダンジョンにいるってちょっと意味わかんない!」

 

「ていうか今の私達だって大変な状況なんですけど!? もう魔王が目と鼻の先で待ち構えてんのよ!」

 

「だからうるさいつってんでしょうが!! いてッ!」

 

「あ、なんだ! 今仏の奴! 明らかに後ろから誰かに殴られたぞ!」

 

黙らせようとメレブとアクアよりも大きな声を出してしまうが、突然後ろから何者かに殴られたのですぐにクルリと振り返る仏。

 

「おいお前、今殴った? 仏の頭を殴ったでしょ? 正直に言ってみ? 怒るから」

 

「怒るんかい」

 

「仏の! 仏の頭殴るなんて何考えてんだむっつり小娘コラ! え、黙りなさいって? 仏に対してよくも……あ、ごめんごめん静かにする、静かにするから、剣で刺そうとするのだけはマジ止めて」

 

「なに? 一体どんな状況に絡まれてんのアイツ? むっつり小娘って、もしかして前に仏の奴をボコボコにした店員さん?」

 

こちらに後ろ姿を見せながら誰かと揉めている様子の仏、程無くして仏の方から謝罪して静かにすると何者かと約束しているみたいだが、こっちからではイマイチ状況が掴めない。

 

ヨシヒコもまたヘルメットを被ったまま顎に手を当てながら難しそうに

 

「あの、そろそろお告げをして欲しいんですが、仏」

 

「ん? あ、お告げね。はいじゃあね、お互いヤバい状況だしね、なるべく短く、短くお告げ言うからよく聞いといて」

 

「だからなんでお前もヤバい状況になってんだよ……」

 

「どうせ短く済ませるとか言っといて、長々と下らない事喋りだすに決まってるわよ」

 

ヨシヒコからの催促には素直に聞いて、メレブとアクアの言葉もスルーして、仏は慎重に警戒しながら改めて話を始めた。

 

「いいかヨシヒコよ、しかと聞け。その魔王の城の中では、魔王こと竜王の力が強く働いており、もしそこで死んでしまった場合、お前達はもう生き返る事が出来ない様になっている」

 

「な、なんだと!?」

 

「全滅したら教会に戻される事無く、そのままお前達は永遠の眠りに着く事になる」

 

「うわ、てことは絶対に死ねないじゃん俺達……」

 

「大丈夫よ、女神である私の癒しの力があれば簡単に復活できちゃうんだから」

 

「うわ、てことは絶対に死ねないじゃん俺達……」

 

「なんで二回言うのよ!!」

 

どうやら竜王というのは敗れた者には再挑戦する権利を与えるつもりは毛頭ないらしい。

 

流石は魔王と名乗っているだけあって、死んだら教会で復活、というこちらのお約束のルールも容易くむしできるという事だ。

 

その事にヨシヒコとメレブがショックを受けている中、仏の表情は更に険しくなり

 

「しかもその城の中には恐ろしい魔物達がウジャウジャいる、そう簡単には魔王の下へは行けないであろう。最悪、魔王に敗れる前に魔物の群れに襲われて死ぬ事もあり得る、魔王だけに気を取られずしっかりと用心して進むがいい」

 

「魔王の城に潜む強いモンスター……一体どんな恐ろしいモンスターなんだろうな」

 

恐ろしい魔物と聞いて警戒するダクネスだが、その口元は完全に緩み切っている。

 

「きっと魔王の手先らしく卑劣な手段を使って私達にあんなことやこんな事を……グヘヘ」

 

「ダクネス、アンタちょっとよだれ拭きなさいよ」

 

「無論、城の中には侵入者を阻む為の多くの罠も設置されているみたいだ、うっかり掛かってたった一つの命を失わない様、そちらも注意せよ」

 

「トラップ……ん? 自分の城に罠なんて仕掛けたら住み辛くならないのか?」

 

「ダクネス、いきなり冷静にならないで、魔王の城は大体罠だらけなのは相場が決まってるのよ」

 

魔物も罠もてんこ盛りと聞いてダクネスは隠さずに悦に浸ってしまう。これにはアクアもドン引きだ。

 

「城の中には敵や罠だらけなのはわかったわ、だったら攻略法とかあんの? 教えなさいよ」

 

「えーそこは自分達の力で乗り越えて下さい、今までの冒険で培った経験を生かして、魔王の所まで無事に辿り着いて下さい」

 

「はぁ~使えないわね、アンタ仮にも神様でしょ、私達により簡単に攻略できる為のクソチートな力を授けるとか出来ない訳?」

 

「おいお前、自分を棚に上げて良くそんな事言えるな……」

 

女神と名乗ってる割にはてんでダメダメなアクアに対して仏はボソリとツッコんでいると

 

「え、ヤバい?」

 

不意に横の方へ振り向きながら、緊急事態が起きたかのように顔に焦りを浮かべ始めた

 

「魔物に囲まれてる? ちょちょちょヤダヤダ! むっつり! むっつり私を守れおい! え!? どこへ行くんだむっつり! 仏を置いて行くなむっつり! むっつりーーーーー!!!」

 

「お、仏の奴、なんか魔物に襲われてるっぽいぞ」

 

「大丈夫ですか仏!?」

 

「いいわよヨシヒコ、あんな奴ほっときましょ」

 

 

仏の方からギャーギャーと魔物達が叫んでるかのような声がこちらにまで届いて来た。

 

慌てふためく仏を見上げながらメレブとアクアが真顔でその光景を見てる中で、ヨシヒコは一人慌てて

 

「あの! よければ私が助けに行きましょうか!?」

 

「だからどうしていつもそうやって向こう側に行こうとするの! こっちもう終盤だよ! ここに来ていきなり勇者が別の世界に行ったらこっちどうすんの!」

 

「わー! なんか! なんか襲われてるの 凄く襲われてるの! おい魔物! こっちの紐の方が食べたら美味しいぞ!」

 

「ホントなにやってんだアイツ……」

 

仏が必死に逃げ惑っている光景を見かねてヨシヒコがそちらに行きたそうに叫ぶも、それをメレブが全力で阻止。

 

「ちょ! お前行けお前! 少年は私が責任取って眷属にするから!」とか色々と叫びつつ仏は

 

程無くして徐々にその姿が薄く見えてくる。

 

「ごめんもうこっちヤバいから切る! マジでヤバい! じゃあヨシヒコとその他のみんな! 魔王倒すの頑張って! そんじゃ!」

 

「あ! アイツ消えやがった! なんなんだよあの仏! ここに来て、魔王との最後の決戦をするタイミングですげぇグダグダな感じで締めやがった!」

 

最後に手を振りながら無理矢理話を終わらせるとフッと消えてしまった仏。

 

向こうで何があったのか知らないが、こっちの事情を疎かにしてロクなアドバイスもせずに去って行った仏にメレブも憤りを隠せない。

 

「あの野郎、自分が主役のスピンオフが出来たからって調子乗りやがって……」

「どうやら仏もまた、私達のように厳しい試練を乗り越えようとしているみたいですね」

「追われてるみたいだったな……大丈夫なのか仏は?」

「はぁ~ヨシヒコもダクネスもあんな奴心配する必要ないわよ」

 

消えてしまった仏に悪態を突きながらヨシヒコのヘルメットを取ってあげるメレブ

 

ヨシヒコとダクネスが仏の安否を心配する中、アクアはフンと鼻を鳴らし

 

「もういいわあんな奴、私達だけでとっとと世界を救いましょ」

 

「だな、とりあえず相手はカズマ君たちだけじゃなく魔物や罠も沢山あるって事だけはわかったし、その辺も気を付けながら進んでみるか」

 

「すみません、とりあえずこっちよりも先に向こうの世界を何とかした方が……」

 

「いいのヨシヒコ! あっちは仏に任せとけばいいの! 俺達は俺達でまずこの世界を護ろう! 無事に完結しよう!!」

 

未だ未練タラタラなヨシヒコを諭して、一行はドラゴンの上に乗ったまま魔王の城へと再び進みだすのであった。

 

 

 

 

そして

 

「着いたー! 魔王の城到着しましたー!」

 

「ようやくここまで来れたわね! うげ、こうして間近で見ると更に陰気臭いわね、まるでカズマみたい……」

 

「アクア、お前カズマをなんだと思ってるんだ……? だが確かに嫌な雰囲気だ、見てるだけで気分が滅入る」

 

毒の湖を無事に渡りきって、ヨシヒコ達は遂に魔王の城の目の前に立つ事になった。

 

メレブ達が魔王の城を見上げて各々感想を呟いてる中で、ヨシヒコはここまで連れてってくれたクーロンズヒュドラに手を振って感謝し終えると、改めてジッと目の前にそびえたつ魔王の城を睨み付ける。

 

「待っていろ竜王、この聖剣でお前を倒し、勇者として世界を救ってみせる……!」

 

右手に持った鞘に収められた聖剣、エクスカリヴァーンをキラリと輝かせながらヨシヒコは勇ましくそう呟いた。

 

それにメレブも満足げにうんうんと頷き

 

「例えどこの世界にいようとお前は相変わらず勇者としての貫禄っぷりを見せつけてくれるな、なんだかんだでやはりお前こそが真の勇者だ」

 

「ありがとうございます、メレブさん」

 

「フフフ、コレは俺も負けていられないな」

 

「え?」

 

ヨシヒコの事を称賛しなあがら、メレブはニヤリとほくそ笑みながら持っている杖を構え

 

「ヨシヒコ、俺はここで、このタイミングで、今正に魔王の城へ乗り込むという絶好のタイミングで……!」

 

 

 

 

 

「新しい呪文を覚えたよ……」

「本当ですか!?」

「お前は相変わらず変なタイミングで覚えるな……」

 

ここに来てまさかの新呪文を会得してしまったメレブに、ヨシヒコは驚きダクネスは頬を引きつらせる。

 

しかしアクアだけは全く期待してない表情で腕を組みながらため息をつき

 

「はぁ~出た出た、もういいわよアンタの呪文なんて、とっとと行きましょ」

「待て、待てバカ、本当にバカ、自称女神(バカ)、今度の呪文、恐らく最後になるであろうこの新呪文は本当に凄いんだぞ」

「何度もバカって言うんじゃないわよ魔法使い(笑)」

「いいかよく聞け、俺は遂になんと……!」

 

死ぬほどどうでもいいという感じでさっさと城の方へと歩き出そうとするアクアを呼び止めて、メレブは得意げに笑みを浮かべながら

 

「召喚呪文を覚えたよ……」

「召喚!? メレブさん遂に召喚する呪文を覚えたんですか!? 凄い!」

「なに? それは本当に凄いな、一体何を召喚できるようになったんだ?」

「まあまあ慌てないでお二人さん、呪文は俺の話が終わってからお披露目してやろう」

 

ここに来て召喚呪文を会得してしまったメレブにヨシヒコとダクネスが素直に感心している中

 

メレブは自慢げに話しを続ける

 

「この呪文は本当に凄い! この世界で俺が今まで覚えた中でダントツに素晴らしい呪文! だからこそ俺はこの呪文の名前を……」

 

 

話の途中でふと目蓋を閉じて間を置くと、次の瞬間メレブの目がカッと見開き

 

「「コノスバ!」っと名付けたんだよ」

「コノスバ……! 早く教えて下さいメレブさん! 物凄く気になります!」

「フッフッフ、コノスバ!はなんと……」

 

 

詰め寄ってせがんでくるヨシヒコの反応に満足げな様子を見せると、メレブは杖で体を支えながらドヤ顔で

 

 

 

 

 

 

「ここではない別の世界の住人を……つまり余所の作品のキャラをこっちに助っ人として呼べちゃう呪文なのだ!」

「「!?」」

「な、なんですってー!?」

 

あまりにも衝撃的な召喚呪文に、ヨシヒコとダクネスだけでなく、アクアもまた声を大きく上げて驚いてしまう。

 

メレブがここに来て会得した最強の召喚呪文「コノスバ!」

 

果たしてその呪文が一体何をもたらすのか……

 


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