勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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其ノ拾弐 最終決戦! 竜王降臨!
拾弐ノ一


カズマ……起きなさいカズマ……

 

 

 

 

 

どこからともなく自分を呼ぶ声がする

 

いつの間にか仰向けに倒れていたサトウカズマがゆっくりと目蓋を開けるとまず目の前に現れたのは

 

「起きるのです、カズマ……」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「あ、起きた」

 

まさかの金髪ホクロの男・メレブであった。

 

ドアップになるまで顔を近づけていた彼に悲鳴を上げながら、カズマは最悪の目覚めで起き上がる。

 

「ようやく起きたみたいですね、気分はどうですかカズマ?」

「最悪に決まってんだろ……目が覚めたらキノコヘッドのおっさんだぞ……ってめぐみん? あ、そういえば俺……」

 

メレブの顔を手でどけて半身を起こすと、隣にはめぐみんがしゃがみ込んでこちらを覗き込んでいた。

 

彼女に尋ねられてカズマは「う~ん」と腕を組んで首を傾げて。

 

「なんか随分前にお前達とアクセルの近くの山を探索してる途中で空から黒い雷みたいなのが落ちて来て……それから」

 

「魔王の器と見定められ、心を支配され色々と悪さをしていました」

 

「あーそうそう! なんか急に悪い事沢山したいって思う様になっちまって! この城で偉そうにふんぞり返ってた!」

 

「ふむ、どうやら操られていた時の記憶もちゃんと残っているみたいですね」

 

ポンと手を叩いてカズマは自分の体験をハッキリと思い出した。

 

ダンジョー、ムラサキ、めぐみんと一緒にいた時や、激しい嫉妬でアクセルの街にあるサキュバスの店を奪おうとしたり、自分の中に住み着いていた魔王と仲良く談笑したりしていた事も全て

 

そして当然自分がヨシヒコ達に色々と酷い目に遭わせたのも

 

「あれ、でも今俺凄い身体が軽いぞ? 悪い事したいとか考えなくなったし、もしかして魔王のオッサンが俺の体から出てったのか?」

 

「ええ、導きの笛を使ったアクアのおかげで」

 

自分の身体だと頬をさすって確認しながらカズマが立ち上がると、ふと目の前にはドヤ顔で親指を立てるアクアの姿が

 

「ようやく元に戻ったようねヒキニートの使えないカズマさん、この私に助けられた事を未来永劫覚えておきなさいよね」

 

「はぁ、未来永劫は難しいから2日ぐらいでいいか?」

 

「ん~まあいいでしょう」

 

「いいんかい」

 

この駄女神に助けられてしまったのだとわかったカズマは屈辱感を覚え、調子乗っている彼女にそっぽを向く。

 

すると今度は後ろから彼の肩にダクネスがポンと優しく手を置く

 

「どうやら無事に正気に戻れたみたいだなカズマ、全く、お前はいつも世話が焼けるな」

 

「いやいつもってなんだよ、いつも世話を焼いてるのは主に俺だからな? 攻撃もロクに当てられないアホクルセイダーを今までどんだけフォローしてやったのか覚えてる?」

 

「く! だが今回は私達がお前を助けてやったんだぞ! コレで貸し借りなしだ!」

 

サラリと酷い事を言ってくるカズマに、ダクネスはちょっと嬉しそうな反応をしつつもすぐにムキになった様子で叫ぶ。

 

そんな光景を見つめながらめぐみんは満足そうに頷くと

 

「何はともあれ、コレでやっと私達4人揃ったって訳ですね。私も長い間周りを欺く生活には嫌気がさしてたので本当に嬉しいです」

 

「まさかめぐみんが操られたカズマの仲間のフリをして状況を観察していたとはな……私達も騙されたぞ」

 

「私は最初からめぐみんの事を信じていたわよ」

 

「……お前が一番疑ってただろ、事あるごとに裏切りめぐみんと呼んでたクセに……」

 

頷きながらシレッと信じてたと言い出すアクアにダクネスがジト目でツッコミを入れた。これまでの旅の中でアクアがめぐみんの事をどれだけ乏しめていたのか嫌という程覚えている。

 

そしてそんなめぐみんをジッと目を細めて見つめる者が一人。

 

先程カズマの様子を顔を近づけて見ていたメレブである。

 

「おいめぐみんみん、もしかしてお前、ヨシヒコがカズマ君に剣を奪われて途方に暮れていた時に……」

 

「めぐみんです、ああ、あの時あなた達に聖剣の在り処を伝えたのは何を隠そう私ですよ」

 

「てことは俺の後頭部に向かって思いきり石をぶつけて来たのも……」

 

「私です、年頃の女の子に対してあんな酷い真似をした当然の報いです」

 

「おのれ、確かに石をぶつけられても仕方ない事をしたという自覚があるから……素直に認めるしかなくて悔しい……」

 

へッと嘲笑を浮かべながらあの時の出来事を言い出すめぐみんに、メレブは悔しそうに顔を歪めながらもなにも言い返せなかった。

 

「ていうか敵と味方の両方を欺いて影ながら支援を行うなんて……そんなカッコいいポジションにいたとかますますジェラシー……!」

 

「フ、ポンコツ魔法使いじゃ到底できない芸当ですものね、この爆裂魔法に選ばれし者である私だからこそ見事に演じ切れたんです」

 

「ムカつく~~~! カズマ君! スティールして俺の時みたいにコイツのパンツを奪え!」

 

「おいおいこんな奴のパンツを盗んで俺に一体なんの得があるっていうんだい? げふッ!」

 

あまりにも腹が立つのでメレブはカズマに代わりに仕返ししてくれとお願いするが

 

当のカズマはめぐみんの下着を奪う事に何のメリットがあるのだとヘラヘラと笑い飛ばす。

 

結果、めぐみんが真顔で歩み寄り彼の顔面に右ストレートをかますのであった。

 

 

 

 

 

 

カズマがめぐみんに怒りの鉄拳を食らってると、少し離れた所で彼と同じく魔王の支配から解放されたダンジョーとムラサキがヨシヒコと話をしていた。

 

「まさかこの俺としたことが魔王に操られてしまうとは……面目ない! 戦士として失格だ! すまんヨシヒコ!」

 

「いいんです、ダンジョーさんとムラサキが無事に元に戻ってくれたんですから」

 

「仏の野郎が私とオッサンだけをいきなりこっちに飛ばしたからさ、適当に歩いていたら見事に魔王に体を奪われたカズマにバッタリ出くわしちゃって……あ~マジ最悪」

 

悪に染まっていた心は浄化され、いつもの二人の戻ってくれた事にほっと一安心するヨシヒコ。

 

「これでまた皆さんと冒険が出来ますね」

 

「フ、そうだな、しかし冒険の前に俺達はここで為すべき事がある」

 

「私達を操ってヨシヒコ達と戦わせやがって、あんの竜王って奴にはたっぷりお礼してやらねぇと気が済まないっつうの」

 

「勿論です、今度こそ我々の力を合わせてこの城の最上階にいる魔王を討ち倒しましょう」

 

ダンジョーとムラサキは晴れて再びヨシヒコの仲間に戻り、二人もまた魔王と戦う気満々の様子だ。

 

そんな彼等を一層頼もしく思いながらヨシヒコもまた力強く頷いていると、そこへカズマ達の所にいたメレブが戻って来る。

 

「ほほう、ダンジョーとムラサキもようやく元に戻ってくれたみたいだな、では再び我等四人の力で世界を救いに行くとしますか」

 

「アンタ達だけじゃないわよ」

 

メレブの一声に異議を唱えたのは両手を腰に当てたアクア。

 

彼女がヨシヒコの方へ歩み寄ると、ダクネス、めぐみん、カズマも集い始める。

 

「余所者の魔王なんかに私達の世界を好き勝手にされてたまるモンですか、私達だけ置いてけぼりなんて無しよヨシヒコ」

 

「急ごしらえのパーティーだったとはいえ、私達はここまで一緒に苦楽を共にして来た仲間だろ? なら最後まで共に戦おうじゃないか」

 

「私は今までヨシヒコさん達と敵対する必要がありましたがもうその理由もありませんしね。カズマを助けてくれたお礼です、私の爆裂魔法で魔王を木っ端微塵にしてみせましょう」

 

「……」

 

三人は意気揚々とヨシヒコ達と共に戦う事を宣言するも、カズマだけは顔をしかめて後ずさり、どうやら迷っている様子。

 

「いやいやお前等な……相手は魔王だぞ? 俺達はまだこっちの世界に最初から要る魔王すら倒してないってのに……ここは勇者御一行に任せて俺達はアクセルでのんびりと……」

 

「はぁ? 元はと言えばカズマさんが魔王なんかにマヌケに操られたから色々と面倒になったんでしょ? それぐらいの責任取りなさいよ」

 

「お前は本当に隙あらば逃げ腰になるな……こうなったらもう進むしかないだろ、ここはヨシヒコ達を信じるだけでなく、私達も共に戦うべきだというのがどうしてわからんのだ?」

 

「カズマ、本意ではないと言え私とカズマが魔王に手を貸したという事実は消えません、ここは罪滅ぼしとして彼等に協力しないと街に戻っても一生白い目で見られますよ? 下手すれば国家反逆罪として打ち首に……」

 

「あ~~~もう! しょうがねぇなぁ~~~!!!」

 

周りから色々と言われまくって耐えられなくなったカズマは、ヤケクソ気味に叫ぶとヨシヒコの方へズイッと一歩前に出る。

 

「言っておくけど俺は本来平和主義者なんだ、魔王と戦うなんてガラじゃない」

 

ムスッとした顔をしながらそう言うも、右手をゆっくりとヨシヒコの方へ伸ばすカズマ。

 

「けど多少の罪悪感もあるしダンジョーさんやムラサキとは操られていたとはいえ結構付き合いあったからな、だからここは手を貸してやるよ勇者様」

 

「ご助力感謝する、サトウカズマ、共に魔王を倒しに行こう」

 

カズマが伸ばした手にヨシヒコは快く掴んで固い握手を交える。

 

ヨシヒコパーティーとカズマパーティー、合計8人のメンバーが遂に一致団結した瞬間だった。

 

アクアはそんな光景を満足げに眺め終えると、「さ~てと」と早速口火を切り出す。

 

「そんじゃ、とっとと魔王を倒してちゃっちゃっと世界救っちゃいましょ」

 

「待ってくれアクア、お前とメレブは確かもう魔力が残ってないんだろ? そんな状態で魔王の所へ出向くのは無謀過ぎないか?」

 

「フフフ、それはいらん心配だぞダクネスよ」

 

メレブはともかく回復役のアクアが未だ魔力を回復しきっていない状態なのに不安感を覚えるダクネスだが

 

問題ないとメレブが自信満々に答えた。

 

「ラスボス前の部屋には、大抵仲間全員を完全回復させる様なモノが設置されているのがもはや常識なのだ。もしくはラスボス自身が俺達を回復してくれる事だってある」

 

「そんな訳あるか! どこの魔王が自らを倒しに来た連中の為に、わざわざ回復させるポイントを直前に設置してくれるんだ!」

 

メレブの話を即座に否定するダクネスだが、そこへカズマがすぐに口を挟み

 

「いや多分してると思うぞ、俺は魔王のオッサンに操られていた時はこの城の中を色々と回ってたんだけど、確かに最上階の部屋に繋がる直前にそれらしきモンがあった気がする」

 

「な、なんだと……!?」

 

どうしてわざわざそんな自分を不利にする真似をやるのだろうか……ラスボスの思考にいまいち理解出来ていないダクネスをよそに、メレブとカズマは勝手に話を進める。

 

「ほほう、カズマ君がこの城の中の構図を知っているという事は、ここから最上階に楽に行ける方法もわかっているという事だな?」

 

「最上階、つってもその部屋の中には一度も入った事ないけどな、ほとんど魔王のオッサンに洗脳されていたから自由に動き回る事は出来なかったし」

 

「最上階の部屋に着くまでの道のりがわかっていれば十分だ、案内頼むぞ、俺のパンツを盗んだカズマ君」

 

「その件についてほじくり返すのは止めろ! パンツの件は不可抗力だ! あ、それと」

 

ニヤリと笑いながら道案内頼むと呟くメレブに一喝した後、カズマはふとそこで拾ったいざないの剣をヨシヒコに渡す。

 

「アンタの剣返すぜ、ずっと使ってた大事な得物なんだろ?」

「ああ、私が旅立った時からずっと共に戦ってくれた剣だ、ありがたく頂こう」

「いやまあ……盗んだのは俺だし」

 

エクスカリヴァーンを小脇に挟んだままカズマから剣を受け取るとヨシヒコ、コレで実質二本の剣を装備している事になる。

 

「では皆さん、行きましょう」

 

「うむ、案内頼むぞ、パンツ君。案内がてらにまた俺のパンツ奪うなよパンツ君」

 

「カズマだ! なに勝手に頭の中で俺の名前改名してんだ!」

 

「メレブに付き合うとめんどうですよカズマ、相手の名前を弄るのが好きという哀しい趣味の持ち主ですから」

 

「めぐみ~ん! めぐみんめぐみんめぐみ~ん! め~ぐみんみん! めぐめぐみんみん!」

 

「私の名前で変な歌を作曲するなぁぁぁぁぁ!!!」

 

早速仲間入りしたカズマとめぐみんをニヤニヤしながら華麗なステップを踏みつつ弄り倒すメレブ。

 

するとそんな事をしている真っ最中に

 

 

 

突如下からドドドドドド!っと何か物凄い人数の集まりが下から駆けあがってくる足音が

 

「いや~! なによいきなり! せっかく一致団結した所なのにまたハプニング!?」

「落ち着けアクア! なんだ……下から凄い足音がこっちに向かって飛んでくるぞ……」

「この気配俺にはわかるぞ……なにか……わからんがヤバい気がする……」

「なんにもわかってねぇじゃねぇかよオッサン!」

「仲間になってもホント使えないわねオッサン!」

「二人でオッサン言うな!」

 

一体何事かと一同驚いていると扉の方が勢いよく開かれ

 

 

 

数十体にも及ぶ凶悪そうな魔物の群れがやって来たのだ。

 

「うっわ! うわうわうわ!! 魔物! 魔物がこんなに沢山現れた!」

 

「我々を魔王の所まで行かせない様ここまでやって来たというのか……」

 

「おい! 悠長な事言ってねぇで早く逃げるぞ! 今の状態じゃ俺達あんな数に勝てねぇって!」

 

「ちょっとカズマ! アンタ一人だけなに逃げようとしてんのよ!」

 

下の階層で討ち漏らした強そうな魔物達がこちらを敵と見なしてジリジリと近づいて来る。

 

それを見て慌てふためくメレブと冷静に悟るヨシヒコに叫びつつ、状況判断をいち早く理解してヤバいと感じたカズマだけ一目散に逃げようとする

 

だが

 

「ってあれ?」

 

そこで不思議な事が起きた、こちらに近づいて来る魔物達が突然ピタッと足を止めたのだ、これにはカズマも逃げるのを止めて首を傾げる。

 

すると突然魔物達が後ろの方へ振り返ったと思いきや、またもやドドドドドド!!と凄い数の足音が

 

「どうやらまた何か来るみたいですね、新手のモンスターでしょうか?」

「わからん……だがあのモンスターの反応は一体……」

 

めぐみんとダクネスが怪訝な様子を見せていると、次の瞬間

 

目の前の魔物達が突如慌ただしく動き始めたかと思いきやワーワー!と騒ぎ声が飛んできたのだ。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「助けに来たぞヨシヒコォォォォォォ!!!」

「アクセルからはるばるやって来たぜぇぇぇぇぇ!!!」

「お前達は! アクセルの街の冒険者達!」 

 

密集している場所に所狭しといる魔物達を毛散らして来ながら現れたのはヨシヒコがよく知るアクセルを拠点にしている冒険者達。

 

かつてサキュバスとゴブリンの件で協力し、共に戦った仲の彼等がどうしてここに……

 

「銀髪の貧乳の嬢ちゃんにちょいと聞いたんだよ、今アンタ達がこの世界を救う為に戦ってるってな!」

 

「魔王相手じゃ流石にヨシヒコも死ぬだろうと思ってよ! あの時の借りを、お前が死ぬ前にここで返しておかなきゃならねぇと思ってな!」

 

「ここで俺達が魔物の足止めをしてやる! だからお前は上で威張り腐ってる奴をぶっ倒せ!」

 

「へ! こんな奴等! 俺が一人で全員倒し……アーッ!」

 

「ダストが食われたー! ま、いっか」

 

「ヨシヒコ! 後生だ! 死ぬ前に俺と結婚してくれ!」

 

「キース、お前……よりにもよってこのタイミングでお前……」

 

次から次へと沸き上がる歓声、どうやら彼等は魔王と戦うヨシヒコ達の為に少しでも役立とうと自ら立ち上がりここまで来てくれた様だ。

 

そんな彼等にヨシヒコが一人感動していると、魔物や他の冒険者たちを飛び越えて、彼の頭上からスタッと華奢な体付きの女盗賊が一人着地して来た。

 

「やぁみんな、色々あったみたいだけど無事に仲直り出来たみたいで良かったよ」

「「クリス!」」

「ムラサキ2号!」

「おい……」

 

ヨシヒコとダクネスはキチンと彼女を名前で叫ぶがメレブだけちょっと違う事にいち早く気づいて睨み付けるムラサキ。

 

女盗賊・クリス、ヨシヒコとは正式な仲間ではないものの、度々世話をかけて助けてくれる心優しき冒険者だ。

 

「本当はあたし一人でも行こうと思ってたんだけど、どうやらヨシヒコはすっかり人気者になっちゃったみたいだね、君の為にこんな大勢の冒険者達が助っ人として一緒に来てくれたんだよ」

 

「私の為にこれだけの者を集めてくれるとは……ありがとうクリス、お前には最初から最後まで助けてもらってばかりだな」

 

「固い事言わないでよ、世界を救いたいのはあたしも同じなんだからさ」

 

 

どうやら彼女が上手く先導して冒険者達をここまで連れて来てくれたみたいだ

 

毒の湖はきっと、ヨシヒコがその場に留めていたクーロンズヒュドラで渡ったのだろう。

 

健気に幾度も助けに来てくれるクリスに、ヨシヒコは笑みを浮かべながらなにかお礼をしなければとしばし考えると……

 

「そうだ、この戦いが終わったらお礼に、エリス様のパッドバズーカ事件の事をお前に詳しく教えてやろう」

 

「いやいやだからお礼なんていらな……え……? 今……なんて言った…………?」

 

お礼代わりに良い話をしてやろうと言うヨシヒコだが、それを聞いてクリスの顔色が変わった。

 

「エリス様が体を張って神々を爆笑の渦に巻き込んだという事件だ」

 

「え? ん? え?」

 

「ああそれいい! 絶対聞いた方が良いぜパッドバズーカ事件! 滅茶苦茶笑えるから! 俺もう最初聞いた時は死ぬかと思うぐらい笑った!」

 

「……」

 

メレブが笑いながら是非聞くべきだと叫んでいるがクリスは表情一つ変えずに真顔でスタスタとヨシヒコの方へと近づくとガッと彼の両肩に手を伸ばして

 

「……その話は忘れて、そして周りに言い触らさないで」

 

「なぜだ? エリス様が貧乳なりに悩み苦しみ、その結果胸にパッドを詰め続けるという話のどこが……」

 

「……忘れなさい勇者ヨシヒコ、さもないとあなたを地獄に叩き落とします、いいですね?」

 

「……はい」

 

一瞬クリスがとある人物と被った様な気がしたが、思わぬ迫力の上に何故か敬語口調の彼女につい同じく敬語で返事をしてしまうヨシヒコ。

 

すると彼の肩から手を離すと、「本当にわかってんだろうな?」てな感じでジト目を向けながら後ずさりし、魔物の方へ振り向くと思いきやフェイントかけてまたヨシヒコの方へ

 

「忘れなさい」

「はい」

 

なんでそんな頑なに言わせないのか不思議に思いながらも再度頷くヨシヒコ。

 

パッドバズーカ事件、どうやら全世界にこの話をバラ撒いたら死ぬよりヤバい目に遭いそうだ

 

「……とりあえずヨシヒコ達はとっとと先に行って、ここはあたし達で押さえておくから」

 

「頑張れよクリスー、私応援してるからなー!」

 

「ムラサキ、アンタってばなんでクリスにはそんな優しいの?」

 

「私達は同じ悩みを抱えた同志だからに決まってんだろ」

 

「え、えぇ~……あ、あたし別に……」

 

「わかってるから、ね?」

 

アクアのツッコミにムラサキが喧嘩腰に返事しているのが聞こえて微妙な表情で目を向けるクリスだが

 

ムラサキの屈託のない笑顔を向けられてしまい大人しく引き下がるしかなかった。

 

そしてヨシヒコとムラサキのせいでモヤモヤした気持ちを抱きながらも、クリスは再び魔物との戦いに身を投じて行った。

 

「それじゃあ頼んだよみんな! この世界に平和をもたらす事を信じてるから!」

 

「その期待に全力で答えるから安心しろ、では皆さん、ここは彼女達に任せて行きましょう」

 

最後の言葉を交え終えると、ヨシヒコ達はクリス達と別れて上へと続く道へ向かおうとする。

 

だがその時

 

 

「すみません、僕等はここから先へ行けないみたいです」

「俺達はあそこで戦っている冒険者達の方を助けに行きます」

「メガネンジャー……!」

「ていうかまだいたんですかこの人達……どんだけ召喚期間長いんですか……」

 

駆け出す直前でふと背後で立ち止まる五人の少年達、メレブが使った召喚魔法で呼び出されたメガネンジャーだ

 

そもそもまだ消えずにこの世界に留まっている事にめぐみんが眉をひそめる中、ここに残るのは彼等なりの理由があるらしい。

 

「やはり冒険者と言えど相手が魔王の城に住み着く凶悪な魔物なので、苦戦してるみたいですしね……」

 

「ここは少しでも戦力の差をカバーする為に、我々が手を貸す必要がある」

 

「僕等は魔王の所までは行けませんけど、ここで時間を稼いで皆さんの支えになろうと思います」

 

「お前達……ぶっちゃけただの一発ネタ要員だったのにそこまで頑張ってくれるなんて……!」

 

ここで魔物を食い止めると言ってのける頼もしき少年達にメレブがちょっと感動しながら目元を拭うも

 

すぐにキリッとした表情を浮かべてヨシヒコの方へ

 

「行こうヨシヒコ、彼等の、メガネンジャーの想いを胸に抱いて振り返らず先へ」

「ええ、彼等の想いを無駄にする訳には行きません」

「なんで? なんで余所の作品であんだけ頑張れるのあの眼鏡達? 原作で頑張れよ」

 

彼等がどうして臆する事も無く魔物に立ち向かえるのか未だにわからずに顔をしかめるアクアをよそにヨシヒコ達は魔王の下へと向かうのであった。

 

そしてカズマもまた「は~持つべきものは冒険者仲間だわ~」とか気楽な事を言いながらその場を後にしようとすると……

 

「おいカズマ」

「ん?」

 

不意に後ろから話しかけられたので、カズマが振り向くとそこには見知った顔の冒険者達がこちらを凝視して

 

「お前後で覚えてろよコラ……」

「お前がサキュバスさんの店にちょっかいかけたの知ってるんだからなこっちは……」

「魔王に加担したって事はつまり国家反逆罪か、こりゃ極刑確定だな」

「国に殺されるか俺等にボコボコにされるか……さっさと決めておけよな……」

「魔王死すべし、ついでにカズマも滅ぶべし……」

「まあ~俺はこれからもダチとして付き合ってやるよ」

「あ、ダスト生きてた、ま、いいか」

 

おかしい、魔物ではなくこちらに向かって強い殺意を秘めた眼差しを向けて来る……

 

今にでも襲い掛かって来そうな彼等に「ハハハ……」と頬を引きつらせながら渇いた笑い声を上げると、カズマは一目散に駆けだした。

 

そして一緒に走っているメレブの方へふと口を開き

 

 

 

 

 

「なぁ、この戦い終わったらアンタ等は元の世界に帰んだろ? その時に俺もついて行っていい?」

「ん~~~~~~~無理」

 

どうやら魔王を倒してもカズマにはまだ平穏は訪れないみたいだ。

 

 


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