勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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拾弐ノ二

心優しき盗賊・クリスが率いるアクセルの冒険者達の援護のおかげで、ヨシヒコ達は頂上を目指してさらに奥へと駆け上がっていく

 

だが

 

れんごくまちょうAがあらわれた!

れんごくまちょうBがあらわれた!

れんごくまちょうCがあらわれた!

 

「ってうわ! なんかすげぇ強そうな魔物が三体も現れた!」

「おいヤバいぞ! 回復できるアクアが魔力ゼロだってのに! こんな強そうなの相手にしたら全滅じゃねぇか!」

「カズマ君カズマ君、俺も、俺も魔力ゼロだよ?」

「いやアンタは別に魔力があろうがなかろうが関係ないだろ」

 

紅く輝く巨大な怪鳥が同時に三体も現れ慌てるメレブとカズマ。

 

「とりあえず一旦撤退!」

「異議なし! みんなここは引くぞ!」

 

二人の指示を聞いて即座に魔物達から距離を置いて身を隠すヨシヒコ達。

 

魔王へ辿り着く為の通路は魔物の背後にある頑丈そうな扉だ、つまりこの魔物を押しのけなければあの扉を開ける事は出来ない。

 

 

「おのれまだ魔物がこんなにも……我々は一刻も早く魔王を倒さねばならないというのに……」

「任せろヨシヒコォ! ここはこの戦士・ダンジョーが囮となってお前等の道を切り開いてやる!」

「ダンジョーさん!」

 

そこへ名乗り出たのは戦士・ダンジョー。どうやら自分の身一つでここを切り開くつもりの様だ。

 

「ヨシヒコ、ここは俺に任せろ、俺は無様にも魔王に心を支配され奴の思うがままにお前達に牙を剥けてしまった……だから俺はあの時犯した罪を償なわなければいかん」

「ダンジョーさん……」

「う~ん、心を支配されてた割りには普通の時とあんま変わらない感じだったけどね」

 

隣りからメレブがボソッと呟きつつも、ダンジョーは手に持った剣をサッと引き抜いて魔物達の方へ向かおうとすする。

 

「囮になった俺をこの場に見捨てて、お前達は先に行け!」

「ダンジョーさんそれは出来ません、仲間を見殺しにして先を進むなど、勇者として、仲間として、絶対に私には出来ません」

「そうだぞダンジョー! いくら罪の意識を感じて一人でカッコつけて死ぬのは身勝手過ぎる! お前がここに残るのであれば私だって!」

 

決死の思いで自らを犠牲にしようとするダンジョーだがヨシヒコはそれを絶対に許さない。

 

彼と刃を交えた経験もあるダクネスも、己の剣を手に持って共に戦おうと前に出ようとする。

 

だがその時

 

 

 

 

 

「へ、悪ぃがここは俺達に活躍の場を譲ってくれませんかね、勇者御一行様」

「なに? は! お前は!」

 

不意に背後から聞こえた”けだるそうな呑気な声”にダクネスがバッと振り返ると、そこにいた人物を見て驚愕の表情を浮かべる。

 

自分達を追いかけに来たのであろうその者達の正体は……

 

 

「ちわーす、万事屋銀ちゃん、再びこっちに戻って来ましたー」

「フ、何か面白れぇモンが見れると思ってやって来てみたら、このタマキン様に相応しい舞台が用意されてるみたいじゃねぇか」

「私達の前に現れて散々変なお願いをして来た銀髪天然パーマの男! それと大盗賊タマキン!」

 

それはかつてヨシヒコ一行に襲い掛かって来た2枚目の盗賊・タマキンと、銀髪天然パーマの木刀操る侍・坂田銀時であった。

 

現れた彼等にダクネスが驚く中、ムラサキはタマキンの超絶イケメンフェイスに心を射抜かれ

 

「きゃー! なにあの盗賊! 超カッコいいー! 天パの方はたいしたことないけど」

「へ、悪いが俺は女の心を盗むつもりはねぇぜ、盗むなら心だけでなく、その身体事俺のモンにしてやるよ」

「キャー! 台詞がキザで超素敵! タマキン様ー!」

「ムラサキよ、お前が彼の事をタマキン呼ばわりするのは、ダメだと思う、凄く、ダメだと思います」

 

こちらに向かって得意げに笑いかけながら歯に付く台詞を並べるタマキンにメロメロなご様子のムラサキに

 

メレブがちょっと笑いながら彼の名を叫ぶ事を咎めていると。

 

「おいお前達!」

「俺等の事も忘れんなよ!」

「しゃあない! ここは俺達も手を貸すで!」

「お前達は! 前に私達を襲った凄腕の盗賊三人衆!」

 

ヨシヒコ達の前にまた新たな人物達が名乗り出る。

 

今度アークプリースト・聖騎士・アークウィザードという上級職で固められたベテラン盗賊三人衆。

 

ケン、ゾータイ、ジュンジュンだ。

 

そして間髪入れずにまたもや二人の人物がひょっこり現れ

 

「ヨシヒコさん! 遅れてすんません! 俺等も来ました!」

「どうもどうも! あん時は失礼しました!」

「アンタ達は! 最初に私達を襲いに来た盗賊兄弟じゃないの!」

 

小さい兄と大きい弟、中途半端に盗賊をやってすぐに引退した元盗賊・現機織り職人の見習い

 

ツヨシンとレーイジだ。

 

「元気そうじゃない! あれからちゃんとやってるのアンタ達!」

「いやー皆さんには本当迷惑掛けてすんませんでしたわ! 今はもう心を入れ替えて! お兄ちゃんと頑張ってコツコツと働いてますねん!」

「それは良い事ね、ちゃんと親孝行もすんのよ」

「お前に言われんでもちゃんと弟は頑張っとるわ、アホ」

「ああ!?」

 

上から目線で弟に助言するアクアに対してその間に割って出て来て真顔で毒を吐く兄。

 

思わずアクアがドスの効いた声を漏らしてる中、ヨシヒコの方は盗賊三人組に話しかけている。

 

「皆さんはもしかして……我々を助けに来てくれたんですか?」

「実はお前等に負けてからは盗賊すんのもアホらしくなってな、今はこうして悪い魔物を倒して誰かを護る傭兵稼業で働いてんねん」

「それで俺達はここに来たって事よ、悪い魔王を倒して、この世界を護ってやろうってな」

「そうだったんですか、盗賊なんかよりもそちらの方がずっとお三方には向いてると思います」

 

ジュンジュンとゾータイもすっかり盗賊稼業から身を引いた様子で、今では傭兵として頑張ってるみたいだ。

 

それを聞いて安心するヨシヒコにジュンジュンも「せやねん」と笑顔で答える。

 

「だって俺等よくよく考えてみれば、上級職三人やもんな! 大抵の相手なら倒せるっちゅう事でぶっちゃけ盗賊時代より稼いどんねん!」

「いやー気付かなったかよねー! 人から金奪うよりも、人を助けた方が儲かるなんてさー!」

 

二人でゲラゲラ笑いながらそう言い合っていると、ヨシヒコの下へすっとケンがニコニコしながら歩み寄り

 

「久しぶりぶりー! ヨシピコ!」

「ヨシヒコです」

「あの、前回言いそびれちゃったんだけど! アクシズ教にいっちょ入ろうぜ兄弟! 俺達でこの素晴らしい世界に祝福を与えるんだ!」

「アクシズ教……う! なぜかその名前を聞くと頭が……!」

「待てヨシヒコ、思い出すな、絶対に思い出すな」

 

アクシズ教への誘いを行うケンの言葉に突然頭を押さえて何かを思い出そうとするヨシヒコ

 

そこへすかさずメレブが割って入って、すぐに彼の頭を撫でながらストップさせるのであった。

 

「なんだか、俺達が見ていない内に随分とヨシヒコは色んな者達と関わって来たみたいだな」

「私ももっと早くタマキン様と出会いたかったなー」

「あ、ジュンジュンさんですねあの人、子供の頃よく食べ物を恵んでもらいました、凄く良い人です」

 

かつて敵として対峙した者達が、今回は味方として応援に来てくれた。

 

その出来事にダンジョーは感心し、ムラサキもまた羨むように目を向け、めぐみんは知り合いを見つけていた。

 

しかしカズマだけは「う~ん」と首を傾げて顔をしかめている。

 

「なーんか頼りになりそうな連中だな……コイツ等に任せて大丈夫なのか?」

「おいそこの! そこの主人公っぽい少年!」

「はい主人公ですが、なんだよ奇抜な髪の毛をした侍風のおっさん」 

 

するとカズマの方へ、坂田銀時が慌てた様子で駆けつけて来た。

 

「実はウチの原作、もう終わっちゃったからこっち暇なんだよ、だから『このすば!』の主人公の座、銀さんに譲って」

「無理です」

「オイィィィィィィィィ!! 即答かよ!」

「は~うっさいうっさい、耳元で叫ぶな」

「なあ、俺とお前ってなんか似たようなタイプじゃん? なんかけだるそうな感じだし目が死んでて、いざって時に前に出て活躍する所とかさ、だからいきなり主人公が変わっても違和感ないと思うんだよ」

「いや変わるだろ! まるっきり違うだろ! 間違いなく苦情殺到モンだよ!」

「300円あげるから!!」

「いらねぇ!!」

 

それから数分程しつこく譲ってくれとせがんで来る銀時に、カズマは無理矢理彼を魔物達の方へと押し付けて

 

他に来た者達も一緒に魔物達と戦う事になり、その中をコッソリと掻い潜ってヨシヒコ達は先へと進むのであった。

 

「少年! この化け物倒したら! よろしく!」

「よろしくねぇよ! 心配しなくてもアンタは作品終わっても誰からも忘れられねぇよ!!」

「あ、うん……ありがと」

 

 

 

 

 

 

魔物達を元盗賊+侍に任せて先を進んだヨシヒコ達。

 

だが扉を抜けて更に先へ進んでみると、またしても……

 

「うわぁ……また強そうな魔物がいるぅ~……」

「やっぱり魔王がいる付近だから、下の階層よりも強い魔物を置いてるのかしら……」

 

物陰からそっと顔を出しながらメレブとアクアが困った様子で呟く。

 

通路の先に開いた広い部屋では、またしても手強そうな魔物・ダースドラゴンという魔物達が4体もいたのだ。

 

7メートル近くある巨大な図体でズシンズシンと歩き回りながら、魔王へとさらに近づく事が出来る扉を護っているみたいだ。

 

「よし、今度こそ俺の出番みたいだな……たかがドラゴン、何匹いようがこのダンジョーが一人でやり合って見せよう」

「ふざけるなダンジョー! そんな無茶を私達が許すとでも思ったか!」

「いや待ってくださいダンジョーさん、どうやらダンジョーさんが体を張る心配はないみたいです」

「なに?」

 

またしても単身で挑み時間を稼ごうとするダンジョーにダクネスが一喝、しかしヨシヒコは安心しきった様子でおもむろに後ろの方へ振り返る。

 

するとそこにいたのは……

 

 

 

 

「どうやら私が今まで仲間にした魔物達が、ここを通す為に援護してくれるみたいです」

「うわ! な、なんだこの魔物の数は!」

 

ザッザッザッと隊列乱れず行進して現れたのは、なんとヨシヒコと共に戦う事を誓った魔物達であった。

 

その異様な光景にダンジョーが驚いていると、ムラサキ達もまた目を大きく見開いて

 

「お前どんだけ魔物を仲間にしてたんだよ!」

「おお、ロボもいるじゃないか、アイツは飛び道具を持ってたり二回攻撃も出来る有能な奴だ、実を言うと私はちょっと尊敬している」

「いや……魔物を尊敬するってのはどうかと思うんだけど私……」

 

隣りで普通に魔物の説明を始めるダクネスにムラサキが真顔でツッコんでると、めぐみんもまた何か見つけた様で

 

「見て下さいカズマ! 隊列の中に冬将軍までいますよ! 前にカズマを首ちょんぱした冬将軍が!」

「ウソだろオイ! なんでいるんだよ冬将軍! あんな奴まで仲間にしてたのかアンタ!」

 

かつて自分が体験した惨劇を思い出してカズマがすっかりビビっているも、そんな彼に冬将軍は軽く手を振っているので、「ハハハ……」と頬を引きつらせがら手を振り返す。

 

一方アクアの方は魔物の群れの中に2体ほど気になる魔物がいるのを「あ!」と発見して指を差す。

 

「新婚旅行とかで留守にしていた死体とミイラまでいるじゃないの!」

「ほほ~どうやら我々がピンチだという事で、あの二人も助けに来たみたいだ、わざわざ来てくれるなんて義理堅い者達だ」

 

ちょっと前に仲間から抜けた死体とミイラが自然に加わっていたのだ、それを見てメレブは喜ぶがアクアは苦い表情。

 

「別に助けに来なくていいのに……アンデッドなんてもう私は沢山……いった!」

「お、久しぶりに死体の蹴りを見たぞ! ナイスキック!」

 

また余計な事を言い出すアクアに死体がすぐに駆け寄って彼女の脛辺りに強烈なキックをお見舞い。

 

それをミイラがすぐに死体を羽交い絞めにして止めに入るも、脛を押さえながらアクアはダウン。

 

「いつつ……前世がお嬢様だったクセになんであんなアクティブに動けるのよあの死体……」

「Aaaaaaaaaaaa!!!!」

「ってうわ! 死体とミイラの息子のよろいまでいるじゃないのよ!」

 

今度は二人の間で出来たタマゴから孵ったさまようよろいの登場である。相変わらず禍々しいオーラを放ちながら奇声を上げるのは変わっていない。

 

そしてよろいはすぐに死体とミイラの方へ歩み寄ると

 

「Gaaaaaaaaaaaa!!!」

「ああ! ここでまさかの感動の親子初顔合わせ! 二人が出て行った時はまだタマゴだったもんな~」

「どうでもいい! 凄くどうでもいいわ!」

 

親子でガッツリ肩を組んで喜びを共有する家族を見てメレブが涙ぐむも、アクアはドン引きした様子で後ずさりしつつヨシヒコの方へ振り返り

 

「あのドラゴンの群れはコイツ等に任せましょう、最悪死体は食われても良いし……ってヨシヒコ!?」

「あ! ヨシヒコお前!」

 

ヨシヒコの方へ振り返ったアクアが驚いていると、メレブもすぐに気付いて仰天の声を上げる。

 

なんとヨシヒコが……

 

「泣いている! よろいが死体とミイラと抱き合ってるのを見て!! ヨシヒコが感動して引く程泣いている!!」

「超ピュアよ! この状況でもピュア過ぎるわヨシヒコ! もはやピュアヒコね!」

 

滴る涙も拭わずに鼻水まで垂らしながら号泣する彼がそこにいた。

 

どうやら死体、ミイラ、よろいの家族が揃った事に感動して耐え切れなかったみたいだ。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!」

「よし、とりあえずヨシヒコ、いやピュアヒコを連れて先の通路へ進もう」

「アンタ達後は任せたわよ……っていっつ! アンタまた蹴ってんじゃないわよ!」

 

嗚咽を漏らしながら盛大に泣き出すヨシヒコを連れてメレブは他の者達と共に奥へと進む事にした。

 

その途中でアクアは死体にまた蹴られはしたが、彼等に任せてヨシヒコ達は更に先へと駆けていくのであった。

 

「おい! なんか後ろからドラゴン達の悲鳴が聞こえるのは俺だけか!?」

「おおカズマ凄いですよあのモンスター達! 恐ろしい程にドラゴン達を圧倒しています! うわ! あのロボ目からビーム撃てるんですか!? 黒い鎧の方は物凄く派手に動き回りますね!」

「アイツ等ひょっとして、俺達より強いんじゃないの?」

 

 

 

 

 

 

魔物達の活躍に興奮しているめぐみんを引っ張ってカズマがヨシヒコ達の後を追う。

 

するとその先に待ち構えていたのは先程よりも広い空間で金銀財宝様々な宝石が所狭しと山積みにされていた。

 

そしてそんなお宝の山の中央で構えているのは……

 

「な、なんだコイツー!? こんなモンスターが城にいたなんて知らなかったぞ俺!」

「大きいですね……それに今までのモンスターとはまるで雰囲気が違いますよコイツ、強者の余裕オーラが半端ないです」

 

カズマとめぐみんが驚いて唖然とするほどの魔物がそこにいた。

 

商人の様な格好をしており、体型は太めで短足のくせに胡坐をかいて、左手にはデカい緑色の珠を持っている。

 

今までの魔物とは違う迫力を感じ一同がどうしていいか警戒していると、その魔物は目だけを動かしてこちらを静かに見下ろし

 

「ようこそ、勇者諸君、私の部屋へ……」

「うわ、喋ったぞコイツ!」

「余裕な感じで喋るのがこれまたイラっと来ますね……」

 

低い声を出しながらこちらを歓迎する魔物にメレブは驚きめぐみんが目を細めていると、そこへカズマが皆より一歩前に出て魔物の方へ顔を上げる。

 

「おいお前! ここは俺が知る限りなんにもない部屋だったぞ! なんでこんな宝物庫みたいになってる上にお前みたいなのがいるんだよ!」

「ファッファッファ、どうだい私のコレクションは、素晴らしいだろ? この世界で部下を使って集めさせたのさ」

「一体何モンだよお前……魔王のオッサンから聞いた事ねぇぞ……」

「そうだろうな、私は今までずっと鳴りを潜めて行動していたのだから、この部屋は本来幻術がかかってなんにも見えない様にしていたし」

 

こんな不気味な奴が今までこの城にいた事さえ知らなかったカズマ、彼が思い切って尋ねると魔物は胡坐を掻いたまま高慢そうにこちらを見下ろしながら答える。

 

「私はドーク、今は竜王様に従って暗躍しているが、やがては魔王と名乗る器を持つ者……」

「!?」

「いずれは竜王様が元の世界へ戻る時、その時は私がこの世界に残り、代わりに支配してよいと約束されているのですよ」

「てことはもしかして……アンタ結構強いの?」

「ファッファッファ、次期魔王に任命されてる私が弱いとでもお思いですかな?」

 

余裕綽々と言った感じで笑い声を上げる次期魔王候補・ドークにカズマは言葉を失う。

 

どうやらこの魔物は、候補とはいえ将来的に魔王になれるぐらいの強さを秘めているみたいだ。

 

「ヤベェ終わった……今度こそ終わったわ俺達……」

「諦めるなカズマ! 相手が誰であろうとこの戦士ダンジョーが斬り伏せてくれるわ!」

「また単身で挑むってか? アンタも好きだなぁ……」

 

 

これで三度目、ダンジョーはまたしても単身で挑もうと剣の柄を強く握りしめる。

 

カズマが呆れる中ドークと対峙するダンジョー、しかしドークの方は「ふむ……」と短く呟き

 

「囮役であるあなたが一人で私に挑み、その隙に他の者はこの先にある竜王様の部屋に向かうと? それはいささか難しいですねぇ……」

「なに!?」

「何故ならこの私がそう安々とあなた方全員を見逃すつもりなど毛頭ないんですよ」

 

そう言ってドークが軽くパチンと指を鳴らすと、宝物の山の中から、次から次へと……

 

おどるほうせきABCDEFGHがあらわれた

ふくぶくろABCDEFGHがあらわれた

ミミックABCDEFGHがあらわれた

トラップボックスABCDEFGHがあらわれた

キングミミックABCDEFGHがあらわれた

ゴールドマンABCDEFGHがあらわれた

ギガゴールドマンABCDEFGHがあらわれた

その他大勢の魔物達があらわれた

 

「いやあ! なんか魔物が一杯出て来たわよ!」

「おいおいマジかよ……ここに来てまだ魔物がこんなにいたのかよ~」

 

ドークのコレクションに擬態していた魔物達がわんさかと出現する。

 

これにはコッソリと宝物を取っていたアクアも両手を上げて驚き、ムラサキはガックリと肩を落とす。

 

絶望的な状況を前に心を折れ掛けている一同を見て、ドークは満足そうに「ファッファッファ」とまた変な笑い声を上げると

 

「コレで君達は私を前にして逃げる事は出来ません……さあどうします? 大人しく私のコレクションになるか、ここで無残に死に果てるか選びたまえ……」

「どちらも選ばん、私達が選ぶべき道は、お前を倒し、そしてその先にいる魔王を倒す事、それだけだ」

「ほう、流石は勇者、そう来ますか」

 

臆する訳にはいかないと全力で戦おうとするヨシヒコにドークはさほど動じずに素直に認めつつ、フワフワと浮いたまま静かに構える。

 

「ならば私も今後の為の予行練習として、勇者御一行をこの手で始末する事にしましょう」

「負ける訳には行かない、例え次期魔王と多くの魔物達に囲まれても……私がここでは負ける訳には行かない!!」

「ファッファッファ、さてさて楽しみです、抗えない絶望を前にして、いつその台詞を自ら撤回するのか」

 

魔王の間までもう少し、こんな所で倒れてしまっては今までの苦労が水泡と帰す。

 

立ち向かう姿勢を解かないヨシヒコの強き覚悟を笑い飛ばしながら、ドーク自ら戦おうとしたその時……

 

 

 

 

「お待ちください!」

「!?」

 

ドークと戦う直前で急に後ろから飛んでくる声に、ヨシヒコは反射的にバッと後ろに振り返った。

 

何故ならその声はずっと小さい頃から聞き慣れた声だったからだ。

 

もしやと思いヨシヒコが後ろに目を向けるとそこに立っていたのは

 

「兄様は!! 必ずヒサがお助けします!!」

「ヒサ!?」

 

まさかの妹であるヒサが登場、それにヨシヒコはカッと目を見開き信じられないと言った表情を浮かべる。

 

そもそも彼女がこの世界にいる事自体初めて知ったのだから

 

「どうしてお前がここに! いや、それよりここは危険だ、危ないから下がってなさい!」

「いいえ下がりません! ヒサはもう決めているのです! 今度こそ兄様の為にこの身を挺して共に戦うと!」

「バカな事を言うな! お前はただの村娘! 戦えるわけがない!」

「問題ありません! ヒサはこの時の為に、多くの仲間を連れて来ました!」

「なに!? 仲間だと!?」

 

彼女はヨシヒコにとって大事な妹、こんな所にいてはダメだと声を荒げて避難しろと叫ぶ。

 

しかしヒサは一歩も退かず、そればかりか彼女の背後からゾロゾロと様々な者達がバッとヨシヒコ達の前に現れた。

 

「魔王軍の幹部! デュラハンのベルディア!」

 

「わ、私こそは紅魔の里の族長の血を受け継ぐ者にして最良の魔法使い、ゆんゆん!」

 

「あ、どうもお久しぶりです、スズキです」

 

「魔王軍の幹部、グロウキメラのマッドサイエンティスト、シルビアよ」

 

「えーと一応魔王軍の幹部です、久しぶりですね皆さん、リッチーのウィズです」

 

「フハハハハハ!! 久方振りだな筋肉娘とホクロ男! 魔王軍の幹部にして全てを見通す大悪魔! バニルさん参上!!」

 

「ピキー! 今回は勇者さんとアクアさんのお役に立つ為にやってきたピキー! 魔王軍の幹部のプラチナキング、ハンス!」

 

「あら、どっかで見た事があるような子が……魔王軍の幹部、邪神のウォルバクよ、よろしくね」

 

「この世界は至高の御方であられるヒサ様の物! そしてそのヒサ様を崇め奉り従順する一番の下僕こそあたし! 魔王軍の幹部にしてヒサ教の設立者! ダークプリーストのセレスティア!!」

 

「初めましてお兄様! ベルセルグ王国の第一王女! ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリスです!」

 

ヒサの10人の仲間達が次々と現れ自己紹介を終えると

 

終始見ていたヨシヒコ達は口をポカンと開けて固まってしまう。

 

ようやく最初に喋れたのは、顎を指でなぞりながら困惑してる様子のメレブ

 

「え、待って……いやちょっと……あ、ダメだ、ごめん! どこからツッコめばいいのか全く分からない! 状況が呑み込めず俺の頭がパニック!」

「おいおいおい! なんなんだよこのヤバそうな軍団は!」

 

何を言えばいいのかわからずとりあえず謝ってしまうメレブに続いて、ムラサキも彼等を見渡しながら慌てて声を上げるしか出来なかった。

 

そしてダンジョーの渋い表情で首を傾げ

 

「ていうか、先程自己紹介した連中の中で……何人が魔王軍の幹部と名乗ったんだ?」

「見覚えのある連中がチラホラいるわね……うげ、やだ悪魔までいるじゃないの、くっさ!」

「あ、あの悪魔生きていたのか!? おのれぇ騙した上に死んでいなかったとは……!」

「どうしてあの子がここに来てるんですか!? 何考えてんですか本当にもう!」

 

ヒサの仲間である割には結構物騒な肩書きを持つ者が多かった気がすると疑問に思うダンジョーをよそに

 

アクアは鼻を押さえて嫌そうに、ダクネスはしてやられたと肩を震わせながら一緒にバニルを睨み付けている。

 

そしてめぐみんはというと、同じ紅魔族であり唯一の友人であるゆんゆんがいる事に素直に驚いていた。

 

メンバー達がヒサパーティーの登場にどよめいている中、カズマとヨシヒコも無言で顔を合わせて怪訝な表情を浮かべる。

 

「おい、あの綺麗なお姉さんは勇者様の妹で良いんだよな?」

「ああ……彼女は紛れもなく私の妹・ヒサだ」

「なんで……なんであんなに強そうな人達をちゃっかり仲間にしてんの彼女?」

「わからん……兄である私でも、ヒサの行動は昔から読めない……」

 

前々から事あるごとに旅の途中で現れるヒサであったが、まさか異世界にまで乗り込んで来るとは……

 

全く予測不可能な妹にヨシヒコが頭を抱えていると、ヒサは仲間達を連れてヨシヒコ達より一歩前へ

 

「ここはヒサ達が戦います! 兄様は早く言って下さい!」

「確かに仲間達は強そうだが……だからといってお前が強くなった訳ではない! お前は早く逃げるんだ!」

 

兄として妹を危険に晒す訳にはいかないと断固反対するヨシヒコ、だがそこへ仲間の内のアイリスが前に出て

 

「お兄様!」

「お兄様!? まさかそれは私の事か!?」

「お兄様! ここはお姉様を信じてあげて下さい! 彼女は幾度もこの地を救い既に英雄と呼ばれるに値する存在なんです!」

「そうですよお義兄さん!」

「お義兄さん!?」

 

アイリスに続いて今度はベルディアが前に出て来た。初めて会った二人に兄呼ばわりされて困惑するヨシヒコを尻目にベルディアは両手でグッと拳を構えて

 

「万が一なんかあったら俺がヒサさんを全力で護るんで! ここは俺に任せてお義兄さんは先行ってて下さい!」

「そうですお兄様! わたくしも微力ながら力を尽くします!」

「お前達に兄と呼ばれる筋合いは無い!」

 

言い寄って来るベルディアとアイリスに混乱しつつヨシヒコが一喝する中、傍にいたカズマはベルディアを見て目を細める。

 

「てかお前、魔王軍の幹部の首なし騎士だよな? 前に俺達に倒さなかったっけ?」

「馬鹿め、あの程度で俺がくたばるとでも思ったか! 俺はな! このヒサさんへの愛の力で復活したのだ!」

「うわぁ、ちゃっかり妹さんのお婿さんになろうとアピールしてる……モンスターのクセに」

「愛にモンスターも人間も関係ない!」

 

堂々とヒサへの想いを暴露するベルディアにカズマがドン引きしていると、幸か不幸か彼の叫びを聞いていなかったヒサは、一人ドークの方へと前に出る。

 

「では兄様、ご武運を」

「待てヒサ! 話はまだ!」

「ファッファッファ、ようやく話が済みましたか、まあ邪魔が入りましたがメインディッシュを彩る為の前菜という事で、早々に頂かせてもらいましょう……」

「止めろ! 私の妹に手を出すなー!」

 

律儀にずっと待ってくれていたドークが遂にヒサに対してゆっくりと動き出す。

 

慌てて後ろから彼女を止めようとするヨシヒコの叫びも虚しく、他の魔物達も一斉にヒサパーティーに牙を剥いた。

 

その瞬間

 

 

 

 

「死の宣告! 即死バージョン!」

 

ベルディアから放たれた死の瘴気でパタパタと倒れていく魔物達

 

「ライト・オブ・セイバー!」

 

ゆんゆんの手から現れた光の刃が問答無用で敵を切り裂く。

 

「ザラキ」

 

スズキが杖を振ったら周りの魔物が為す術なく死に絶えた

 

「メラガイアー!」

 

シルビアの両手から迸る灼熱が魔物達を灰に帰す

 

「カースド・クリスタルプリズン!」

 

ウィズが放った絶対凍結魔法、周りを凍らせ、かつ魔物も凍らせる。

 

「バニル式殺人光線!」

 

特大のビームを撃つバニル、相手は死んだ

 

「ビッグバン!!」

 

ハンスが覚えた凄まじい大爆発で全てを無にする最上級呪文、魔物達が一瞬にして光の中で消えた。

 

「エクスプロージョン!!」

 

めぐみんの十八番の爆裂魔法をウォルバクが使用、当然辺り一面を焦土と化す。

 

「セイクリッド・ハイネス・エクソシズム!!」

 

プリースト系列が扱える破魔魔法をセレナが唱える、悪魔系列の魔物はもれなく全滅した。

 

「セイクリッド・エクスプロード!!!」

 

王の血を引く者かつ聖剣を使用しなければ使えないアイリスの一撃必殺の大技、残っていた魔物は跡形もなく消滅。

 

そして

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ!? バカな! 私の部下達が面白いぐらいに! 私のコレクション事全滅だと!? なんなんだお前達! こんなに強い者達がいたなんて私は聞いていない! かくなる上は私の最強剣技! ギガスラ……!」

「とぉ!」

 

一人ポツンとその場に取り残されたドークは思いもしなかった急展開に狼狽え始める。

 

しかしその隙を突き、地面を蹴ってヒサが飛び掛かり、いつの間にか持っていた大剣を振り上げる。

 

それは剣というにはあまりにも大きすぎた

大きく

分厚く

重く

そして大雑把すぎた。

それはまさに鉄塊だった

 

「ギガクロスブレイク!!!!」

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ドラゴン殺しと呼ばれし大剣を目にも止まらぬ速さで二度振り、クロスさせた刃の斬撃波は意図も容易くドークを飲み込み、残ったのは彼が遺した断末魔の叫びのみであった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

ヨシヒコは一同は目の前で行われた一瞬の出来事に言葉を失い全員でポカンと口を開けて固まっていると

 

大剣を軽々と背負いながら着地したヒサがすぐに彼等の方へ振り返って

 

「さあ行ってください!! 兄様!」

「……」

「行こう、ヨシヒコ……」

「……はい」

 

ヒサのとんでもない強さを目の当たりにしなんだか複雑な気持ちになるヨシヒコを、メレブが袖を引っ張って促し

 

程無くしてヨシヒコ達は全ての危険が排除された平和な部屋を後にし、奥の扉へと進むのであった。

 

そして扉を開けて奥へと進む瞬間、最後尾にいたメレブとカズマが同時にクルリと後ろに振り返り

 

 

 

 

「「もう、アイツ等だけでいいんじゃないかなぁ……」」

 

かくしてヒサ達の活躍によって、ヨシヒコ一行は遂に魔王のいる最上階への道のりを突破するのであった。

 

 


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