勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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拾弐ノ三

ヒサと愉快な仲間達のおかげで次期魔王候補・ドークは跡形もなく消滅。

 

ヨシヒコ達はそのまま何事も無く余裕で回復ポイントの泉の前へ辿り着いた

 

『ヨシヒコたちのHP・MPがぜんかいふくした」

 

「ねぇ、なんで泉の前を通りかかっただけで私達回復してるのかしら?」

「最後なのにそういう事言わないで、いいでしょそういう仕様なんだから」

 

自分の魔力が完全回復してる事に疑問を覚えるアクアに、同じくMPを回復させたメレブがボソッと窘めつつ

 

この魔王の城攻略もようやく残す所、目の前にある魔王の部屋のみとなり

 

ようやく最後の大仕事が待っていると杖を構えて意気込む。

 

「ホントここに到着するまで色んな人に助けてもらったなぁ俺達」

 

「アクセルの冒険者達、メガネンジャー、盗賊軍団、仲間のモンスター、それとヨシヒコの妹……ここまで助けて貰っておいて恩を返さない訳には行かないわ」

 

「だな、絶対生きて帰ろうぜ」

 

「お礼にみんなをアクシズ教徒に入れてあげましょう、それが私達にとっての彼等への恩返しよ」

 

「ん? それは俗にいう恩を仇で返すという奴じゃないかな?」

 

うんうんと頷きながらここに来るまで助けてくれた者達をアクシズ教に歓迎しようと決めるアクア、すかさずメレブが目を細めながらツッコミを入れていると、ダンジョーとダクネスが割って入る。

 

「俺達がアイツ等への恩返しはただ一つ、それはこの世界を支配せんと企む愚かな魔王を討ち滅ぼす事だろ」

 

「ああ、ここに辿り着けたのはクリス達が私達を護ってくれたからだ、魔王を倒して胸を張って帰ろう」

 

「その後アクシズ教に迎え入れるのね」

 

「お前、お前本当一回黙ってろ、うん、もしくはアクシズ教滅んじゃえ」

 

「なんでよー!」

 

二人の話を聞いた上でも頑なに勧誘を希望するアクアに遂にメレブが冷たく一言。

 

滅べと言われてムキになるアクアをよそに、そこへムラサキとめぐみんも話に加わる。

 

「しかしさー、何が一番驚いたって、あのヨシヒコの妹とその仲間だよな。なにアレ? 強過ぎじゃね?」

 

「確かに強かったですがそれよりも私はあの中に見知った顔を何人か見つけちゃったんですけど……ゆんゆんがどうして彼女の仲間に、それにあの見事な爆裂魔法をぶっ放した女性は……」

 

「確かにあれはチート級の強さだったわね、女神の私もビックリよ、まさかヨシヒコの妹があんなに過去最大の英雄クラスの力を秘めていたなんて……ってあれ?」

 

二人が素直にヒサとそのパーティーの存在に驚いたり複雑な気持ちになったりしている中、相槌を打ちながらふとアクアは気付いた。

 

「そういえばその妹のお兄さんのヨシヒコと、ウチのクズマさんはどこ行ったのかしら?」

 

「ああ、あの二人なら」

 

ふと彼等がいないのでアクアがどうしたのだろうと思っていると、めぐみんは部屋の端っこを指差す。

 

「あそこで二人仲良く座り込んで落ち込んでます」

「あ! 何やってんのよダブル主人公!」

 

ヨシヒコとカズマ、二人は部屋の隅っこで体育座りしてズーンとした空気を醸し出しながら項垂れて激しく落ち込んでいる様子。

 

一体どうしたのかとアクアが顔をしかめて歩み寄ってみると、二人がボソボソと何か呟いているのが聞こえた。

 

「まさか実の妹があんなに強くなっていたとは……もしかしたら私よりもヒサが魔王と戦った方が良いのでは……」

 

「今更ながら、あんな化け物みたいな強さを前にして自分の惨めさを知りました、元の世界に帰りたい……」

 

「アウチ! なんてこと! ヨシヒコシスターの強さを目の当たりにして! 二人揃ってブルーになっちゃってるわ!」

 

「そしてお前は、なんで欧米風のリアクションを取る? しかもちょっと古めの感じの」

 

己の不甲斐なさを嘆くヨシヒコとカズマを見て、自分の額をパチンと叩いてリアクションを取るアクア。

 

するとその叫び声を聞いて、メレブを先頭に他のメンバーもゾロゾロとやってくる。

 

「大丈夫だって、なんだかんだで二人共主人公じゃん、最後の活躍するのは主役だろ? ここで落ち込んでないでさっさとラスボス倒しちゃおうぜ」

 

「そうだぞヨシヒコ、お前は俺やムラサキ、そしてカズマを救ってくれた、正に仏に選ばれた真の勇者、妹に後れを取っている筈がない」

 

「魔王を倒すのは勇者の仕事なんだろ? なんだかんだで最後にカッコよく決めたんだから、今回もバシッと決めてやろうぜ、ヨシヒコ」

 

「皆さん……ありがとうございます」

 

メレブ、ダンジョー、ムラサキ、昔からの長い付き合いである彼等から励ましの言葉を受け取り

 

ヨシヒコはようやく顔を上げてちょっとだけ元気になった。

 

そしてカズマの方も

 

「んん……おいめぐみん、なにかカズマを励ます気の利いた言葉とか無いか?」

 

「いや私に振らないで下さいよ……だって今までずっと魔王に操られていた良い所なしのカズマですよ? 一体何処を持ち上げて励ませばいいんですか? 突き落とすのであればいくらでも言えますけど」

 

「カズマさんに良い所なんてあったかしら? 鬼畜でスケベでクズでヘタレで童貞でヒキニートで……うーん、どれもマイナス要素しか無いわね、ていうかよく今まで恥知らずに生きてこれたわねこの男……」

 

「お前等……マジでぶっ飛ばすぞコラ」

 

ダクネス、めぐみん、アクア、長い訳ではないが仲間として行動を共有していた筈の彼女達から、励ましどころか罵られる始末

 

カズマはようやく顔を上げるも、元気になるどころか三人に対して痛い目見せたろかと怒りと悲しみが湧いた。

 

「あのなぁ、お前等今まで俺がどれだけ頑張って来たのかわかってます? 駄女神と頭爆裂娘魔法使いと脳筋メス豚聖騎士にどんだけ俺が苦労したのか……」

 

「さあ皆さん! ヒサに負ける訳には行きません! 我々の力を合わせて魔王を倒しましょう!」

 

「「「「「おー!!!」」」」」

 

「聞けよ!!! 俺を置いて勝手に行くな!」

 

クドクドと今までの愚痴を呟き始めるカズマをよそに

 

すっかり立ち直ったヨシヒコはメンバー全員に号令をかけると皆も手を挙げて応え、縦一列に並んで奥にある魔王の部屋へと向かう事に。

 

置いてかれたカズマも慌てて彼等の最後尾について仕方なくついて行くのであった。

 

 

 

 

 

 

この城の最後の部屋の前に設置されている頑丈そうな巨大な扉

 

それを力自慢のダンジョーとダクネスが協力して開けると、いよいよ魔王の間が現れた。

 

その瞬間部屋の内部から今までにない邪悪なオーラを肌で感じつつも、ヨシヒコ達は構わず無言で進んで行く。

 

いかにもラスボスがいるというムードが流れる中、部屋の中へと入ると、ポツンと置かれた玉座の上に一人の男が座っていた。

 

「え? あ、もう来ちゃったの?」

「お前が私達の世界で封印されていた魔王……竜王か」

「うん、まあそうだけど……私が竜王です」

 

厳しい表情を浮かべて睨み付けて来るヨシヒコに対し、男は平然とした様子で答える。

 

大きめなグラサンと少々違和感ある髪型、右手には何故かマイクが握っている

 

この紫のローブに身を包んだ少々年を取ってそうな見た目をした男こそが、この世界で倒すべき相手・竜王。

 

「……なんか見た目パッとしねぇオッサンにしか見えねぇんだけど……」

 

「うーん、お昼の番組とかで長年司会やってそうなベテランの風格はあるんだよなぁ」

 

「なに言ってんですかあなた?」

 

想像していたイメージよりもかなり違うと顔をしかめるムラサキ、そして意味不明な例えを使うメレブにめぐみんがジト目でツッコミ。

 

「私も確かにこれが竜王だというのはどうも納得いかないですね……こんな中年男性がずっとカズマの体内に入り込んでたんですか?」

 

「口に出すと妙に生々しいから止めてくんない? いやでも、俺が竜王のオッサンに体の内部から支配されていた時は、結構何度も頭の中で会話していたのは覚えてるけど……」

 

カズマはジッと竜王を眺めながら呟き終えると、静かに縦に頷いた。

 

「正にこんなイメージのオッサンの口調だったな、だから俺は確信できる、このオッサンこそラスボスだ」

 

「お、こうして君と顔合わせるの初めてだね、改めましてこんにちわ~、竜王で~す」

 

「あ、どうも、カズマで~す」

 

目の前の男こそ竜王だとハッキリと言うカズマに対し、その竜王からまさかの律儀に挨拶され、思わずカズマも頭を下げて返事してしまう。

 

 

「いや~、君はね、私がこの世界に来た直後からしばらく体貸してくれたよね?」

 

「そーですね」

 

「おかげで君の身体を隠れ蓑として力を蓄えられて……こっちもすっかり元気になっちゃったよ」

 

「そーですね」

 

「そんで君はもうお役御免という事で、殺しちゃっていいかな?」

 

「いいともーっていい訳あるかぁ!!!」

 

 

ついノリで言ってしまった事に我に返ってすぐにツッコミ直すカズマ。

 

「あぶねぇ~あの口調で話しかけられるとつい「そーですね」と「いいともー」って言わなきゃいけない空気に呑まれちまった……」

 

「確かに、あの男の放つ独特的な雰囲気に、俺もまたもや心を支配されかけてしまった……正に奴は、喋りのプロ中のプロ!」

 

「なるほどね、ああやって私達を操ってた訳か……」

 

一度竜王に心を支配されていたカズマとダンジョー、ムラサキだからこそよくわかる。

 

この男の話す雰囲気に流され、身も心も支配されていくというあの時の体験を今鮮明に思い出すことが出来た。

 

そして竜王は自ら「それでさ」と話を続けていく。

 

「勇者、ヨシヒコだっけ? よくわかんないけど君アレなんでしょ? 私を倒しにわざわざこっちの世界に来たんでしょ?」

 

「そうだ竜王、我々の世界だけでなくこちらの世界の支配まで目論むお前を、勇者として絶対に見過ごせん」

 

「いやいやいや、そんな堅苦しい事言ってないでさ、もうちょっと肩の力抜いて私の話を聞いてよ」

 

「勇者が魔王の言葉に耳を貸す訳がない」

 

「まあそう言わずに、きっと聞けばすぐに悪くない話だってわかるから」

 

キリッとした表情で正に勇者の鑑と言った感じの台詞を放つヨシヒコだが、竜王はめげずにちょっと笑みを浮かべながら彼の顔をジッと見つめながら玉座の肘掛けに頬杖をついて

 

 

 

 

 

「ここで私の味方になったら、この世界の半分を君にあげちゃってもいいよ?」

「……は?」

 

適当な感じだがサラッととんでもない事を言い出す竜王にヨシヒコは眉間にしわを寄せて我が耳を疑う。

 

すると竜王は更に言葉を付けたし

 

「もうそろそろ潮時じゃないの? 勇者として悪い魔物と戦い続けるなんて、本当はもう嫌になってるんでしょ? いつまでもいつまでも戦いの日々で、挙句の果てに異世界にまで送り飛ばされちゃって」

 

「バ、バカな事を言うな! 私は勇者! 為すべき使命を果たす事こそがこの上ない本望だ! 私は決して戦いの日々に嫌気がさした事など断じて無い!」

 

「あーこの世界の半分を支配出来ちゃったら、きっと毎日贅沢し放題なんだろうなー、それに綺麗なネエちゃんと遊び放題、楽しいだろうなー」

 

「綺麗なネェちゃんと遊び放題!?」

 

「あ、ヤベ、アホのヨシヒコがすぐ食いついた」

 

竜王の言葉巧みな誘いに即座に抵抗して見せるヨシヒコだが、竜王が放った「どんな女の子とも遊び放題」という言葉にカッと目を見開き鼻の穴を膨らましてしまう。

 

それを見てメレブはすぐに呆れた様子で呟き

 

「マズい、このままだとヨシヒコは竜王の誘いに乗っかってしまう」

 

「はぁ!? そんな訳無いでしょ! 勇者ヨシヒコが悪の親玉の取引なんかに乗るもんですか!」

 

「ならば今のヨシヒコを見てみるがいい、めちゃめちゃ目が泳いでいる」

 

「あーホントだわ! 激しく目を上下に動かしてバタフライしてるわ!」

 

ヨシヒコが竜王の話を受ける訳がないとあくまで信じようとするアクアだが、メレブに促されて彼の顔を見た途端すぐにヤバいと察した。

 

さっきまでまっすぐだったヨシヒコの目は、すっかり迷いに迷ってあらぬ方向に行ったり来たりしているのだ。

 

「綺麗なネェちゃんと遊び放題……いやしかし、勇者として魔王の誘いに乗るのは……いやだが、コレはまたとないモテるチャンスなのでは……」

 

「おい騙されんな勇者様! あんな誘い文句はRPGじゃテンプレなんだよ! 魔王がそんな口約束を守る訳ねぇんだから!」

 

ここに来てブレにブレまくる情けないヨシヒコにカズマが思わず一喝して叫んでいると、そこへ竜王が彼の方へも視線を向けて

 

「あ、なんならもう半分は今までお世話になった君にあげちゃおうか? 私は元いた世界を支配するから、君等二人でこの世界の支配、よろしく」

 

「……ほほぉ」

 

「おい! ヨシヒコだけでなくカズマまでもが悩み始めたぞ!」

 

「しかも結構乗り気なリアクション取りましたよこの畜生! 自分で騙されるなと言っておいて!」

 

自分もまた竜王に誘われるとちょっと「ああ、それは悪くないかも」と顎に手を当て頷いて見せるカズマに慌ててダクネスとめぐみんが叫ぶ。

 

ダメだこのダブル主人公、どうにかしないと……皆がそう思ってどうにか説得しようとしたその時

 

「クリエイト・ウォーター!」

「ぶッ!」

「冷たッ! 何すんだこの駄女神!」

 

ここでまさかのヨシヒコとカズマの顔面に、アクアが遠慮なく魔法を使って盛大に水をぶっかける。

 

突然の出来事にヨシヒコとカズマはすっかり水浸しになってしまっていると、悪びれる様子も無くフンと鼻を鳴らして両手を腰に当てるアクア。

 

「これで二人共、頭は冷えたかしら?」

「……はい」

「おかげさまで……」

「じゃあとっととこのグラサンのオッサン倒して、世界救うわよ」

 

竜王の話術による洗脳攻撃ですっかり我を失っていたヨシヒコとカズマを叱咤して正気に戻すと

 

目の前の竜王に向かってどうだと言わんばかりにアクアがビシッと指を突き付ける。

 

「残念だったわね竜王、アンタの洗脳術なんてこの水の女神のアクア様にかかれば簡単に見破れちゃうのよ、無駄話はもうお終い、とっとと私達にやられなさい、この悪党」

 

「いやー流石はアクア様、私の考えは全てお見通しでしたか、では代わりにどうです? 私の仲間になってくれたら、この世界の住民を全てアクシズ教徒にしてあげるというのは?」

 

「え、本当に!? そんな事出来……!」

 

「クリエイト・ウォーター!」

 

「わっぷ!」

 

ドヤ顔で決まったとカッコつけるアクアに対しても、竜王はヘラヘラと笑いながらも彼女にも甘い囁き。

 

そしてまんまと引っ掛かりそうになったアクアに、正気に戻ったカズマが真顔で彼女が先程使った水の魔法を唱えてぶっかける。

 

「どうだ水の女神のアクア様、これで頭は冷えたか?」

「……はい」

「よーしじゃあ改めまして、始めようぜ竜王のオッサン」

 

髪の毛からポタポタと水を滴り落としながらアクアが頷くと、カズマは早速竜王の方へ振り返って挑戦的な視線を向ける。

 

「思えばアンタには色々とやりたい放題されてたんだ、こっちもそろそろ仕返しさせてもらうぜ」

 

「あ~……そうかそうか、どうしても私を倒したいのね、はいはい了解しました」

 

ヘタレのクセにやけに強気な態度に出るカズマ、竜王もその態度がカチンと来たのか、ようやく玉座から重い腰を上げて立ち上がった。

 

「だったらもう選択肢は必要ないね、んじゃ、みんなまとめて死んでもらい……」

「今だやれぇめぐみん!」

「え?」

 

立ち上がって竜王との戦いがいよいよ開始する直前で、まさかのカズマが大きく叫んでサッと横に身をズラした。

 

するとその背後で待ってましたと言わんばかりに詠唱を終えていためぐみんが竜王に向かって杖を構えて

 

 

 

 

 

「エクスプロージョン!!!!」

 

その瞬間、竜王に向かって彼女の豪快な爆裂魔法がドォォォォォォン!!と轟音を立てながら炸裂。

 

いきなりの出来事にキョトンとしていた竜王はそのまま彼女の魔法に飲み込まれ、激しい爆裂音と共にヨシヒコ達の前からあっという間に見えなくなってしまった。

 

「「「「「……」」」」」

 

いきなりラスボスが目の前から消えた……その光景を目の当たりにしてカズマとめぐみん以外が言葉を失っていると

 

ふぅ~と満足した様子でため息をこぼしながら、めぐみんがその場にドサッと倒れ込む。

 

「ようやくです、ようやく我ながら見事な爆裂魔法を撃てました……私はもうこれで満足です……」

 

「えぇー! おいちょ! なにいきなりラスボスに大技決めてんだお前-!」

 

魔力が尽きて床に倒れながらも満ち足りた表情を浮かべている彼女に、事の状況を理解し終えたメレブがようやく叫び声を上げた。

 

「え、なに!? もしかしてこれで……竜王、やられちゃった……?」

「よし、事前に上手くめぐみんと打ち合わせしておいて正解だったな、さ、帰ろうぜ」

「えぇーーーー!? 本当にコレで終わりっすか!?」

 

目論み通りと一人納得した様子で帰ろうとするカズマだが、メレブを代表に一同困惑気味。

 

するとカズマがそんな彼等の方へ振り返り

 

「正面から魔王なんかと戦うなんて出来るかよ、俺は最弱職業の冒険者だぞ? だからあのオッサンが調子乗って隙を見せた所を、めぐみんの爆裂魔法でぶっ飛ばそうって計画してたのさ」

 

「うわうわうわ! ウソだろカズマ君! えぇ~このラスボス戦という物語で最も盛り上がるタイミングで……」

 

「カズマさん引くわ~、流石にそれは私も引くわ~……」

 

「マジ最低なだなお前」

 

「カズマ、お前という奴はどうして私達の想像をはるかに超えるゲスさを見せてくれるんだ……」

 

「竜王と雌雄を決する戦いを前に、ここで奇襲をかけるとは……やはりカズマ、お前は俺が見込んだ通りの狡猾な男だ……人としては全く尊敬出来んがな」

 

彼の告白に沈黙を貫いていた一同が口を揃えてブーイングの嵐。

 

メレブ、アクア、ムラサキ、ダクネス、ダンジョーと流石に空気読めとカズマに対して軽蔑の眼差しを向けるも

 

ヨシヒコだけは一人輝いた目を彼に向けて

 

「凄い! コレから長引くであろう戦いを早めに終わらせて仲間の犠牲を減らす為に! あえてここで先手を打って終わらせるとは! こんな卑怯で狡猾で仲間思いな戦術を見るのは初めてだ!」

 

「いやそれ、冒険物としては邪道中の邪道だからね? 普通はやっちゃいけないからね?」

 

上手い具合に称賛の声を上げるヨシヒコにボソッとツッコむメレブをよそに

 

カズマは満更でも無さそうに鼻を高々と伸ばしながら、最後に竜王がいた方へと視線を向ける。

 

「さて、念の為にあのオッサンがやられたかどうか確認しておくか、まあウチの爆裂娘の魔法を食らって無事な訳ねぇと思うけど……」

 

めぐみんが部屋の半分を吹っ飛ばしたおかげで、砂埃が立ち込められている。

 

気にせずカズマは勝ち誇った様子で玉座があった方に振り向いてみた、すると……

 

「いや~普通するかなこんな真似、まだ私、戦う準備する前だったのにいきなり凄いの撃って来るなんて……」

 

「……へ?」

 

「おかげでほら、私の恰好ボロボロになっちゃったよ」

 

砂埃の中からあのけだるそうな独特の口調がこちらに向かって飛んで来た。

 

砂埃が晴れる、するとカズマ達の目の前に、服をボロボロにし頭を爆発アフロにさせた竜王が

 

顔を煤だらけにしてまだまだ健在の様子で現れたのだ。

 

「今時の若い子ってさ、そういう常識的な事から外れた方がカッコイイとか思ってんの? あーそう、ならこっちもいきなり本気出させてもらうから」

 

そう言うと竜王はひどくご機嫌斜めな様子で服に付いた汚れをパンパンと鳴らして落とすと

 

右手に持ったマイクを、真上に向かって思いきり掲げる。

 

「はーい、変身」

「!?」

 

その言葉にカズマが驚いたと同時に、竜王の身体が突然紅く光り輝く。

 

すると彼の姿は真っ黒になり、みるみる形を変えて巨大化していき……

 

「下がれ! 奴が巨大化した事によって天井が崩れるぞ!」

 

「もう何やってんのよカズマ! アンタが怒らせいでいきなり第二形態になっちゃったじゃない!」

 

「お、俺は悪くねぇ! 爆裂魔法使ったのはめぐみんだ!」

 

「ちょっとカズマ! 私はあなたの言いつけを守った上で実行しただけですよ! 根本的に悪いのはあなたでしょ!」

 

 

天井にピシッ!とヒビが入るとすぐにボロボロと崩れ落ちていき、空に浮かぶ満月がこっからでもよく見えた。

 

ダクネスが慌てて皆を下がらせ、アクアとカズマが口論し、めぐみんが倒れたまま言い訳していると

 

徐々に変貌した竜王の新たな姿がハッキリと皆の前に映し出される。

 

「グギャァァァァァァァァァァァ!!!!」

「あ、あれは正に……」

「竜の……王!」

 

ダンジョーとヨシヒコは真上を眺めながら絶句の表情を浮かべる。

 

それは先程までの人型とは遠くかけ離れた姿であった。

 

紫色の鱗と鋭い目を光らせ、大きな牙が生え揃った口を空に向かって開きながら、耳をつんざく程の強烈に吠えてみせるその姿は

 

正に竜王の名に相応しい姿であった。

 

自分達を遥かに超えた巨大なドラゴンを前にメレブとムラサキも驚愕しながらその場で固まり

 

「う~ん、流石はラスボス、一筋縄ではいかないって訳ですね、はい」

「お前はなに一人で納得してんだよ!」

 

なるほどと頷くメレブにすかさずムラサキがツッコミを入れるのであった。

 

次回、竜王との最終決戦・開始

 

 

 


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