勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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拾弐ノ五

竜王の第三形態、真・竜王の降臨によって、ダンジョー、ダクネス、ムラサキが死亡。そしてアクアは行方不明。

 

仲間の死を嘆く暇も無いヨシヒコは、カズマ、メレブ、めぐみんという残された4人のパーティーで最後の決戦に挑むのであった。

 

「フハハハハ! とりあえず逃げずにまだ挑みに来る事は褒めてやろう! だが今の貴様等に果たしてこの我が倒せるかな!?」

 

「倒す、でなければ私達を護る為に散って逝った者達の想いが無駄になる……見るがいい竜王、コレが私の切り札だ」

 

「なに?」

 

正義の心を熱く燃やしながら、嘲笑を浮かべる真・竜王に全く臆することなくヨシヒコは奥の手を試みる。

 

聖剣・エクスカリヴァーンを左手に持ち替えると、今度は右手に愛剣・いざないの剣を持って……

 

「奥義……二刀流!」

「おおヨシヒコカッコいい! なんか、ラノベ主人公っぽい!」

「いや、ただ剣を二本持っただけじゃね?」

 

キリッとした表情でカッコつけたポーズを取りながら二本の剣を同時に装備するヨシヒコ。

 

それを見てメレブは中々良いんじゃないかと顔に笑みを浮かべるが

 

カズマはそれで強くなったのかどうかいささか疑問だと首を傾げる。

 

「確かにアニメや漫画だと見栄えはカッコいいけど、二刀流になっただけでそう簡単に強くなれる訳が……」

 

「行くぞ竜王ぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「あ、行っちまった……」

 

カズマの正論も聞かずにヨシヒコは二刀流の構えで真・竜王目掛けて突っ込んでいく。

 

一見無謀にも見える特攻、しかしヨシヒコは……

 

「とぉ!!」

「ぬ!?」

 

自ら突っ込んで来るヨシヒコに、真・竜王は太くなった右腕で豪快に殴ろうとするも、ヨシヒコはその攻撃をヒラリと避けてそのまま腕の上に飛び乗った。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

「まだ抵抗するか……それでこそ我を倒しに来た勇者よ!」

 

真・竜王の腕に飛び乗ったヨシヒコは、そのまま彼の頭部目掛けて突っ込んでいく。

 

途中で強烈な火炎弾や左手による妨害があるもそれをかろうじて避け切って、両手の剣を振り回して敵の身体に攻撃をし続けながら。

 

「えぇーーーー!? なんだあの人! なんで二刀流になっただけであんな強くなってんの!?」

 

「まあ多分……思い込みだね、ヨシヒコ、バカだから」

 

「バカってすげぇ!」

 

雄叫びを上げながらたった一人で奮闘して見せるヨシヒコの底知れぬ思い込みパワー

 

それを見てカズマは素直に褒め称え、今の彼の頑張りをどう活かすかすぐに思考を巡らせ始めた。

 

「けど今のままじゃ大したダメージをあのクソ竜王に与えられねぇ……なんとかアイツを怯ませる一撃を浴びせてやらねぇと……でも俺の貧弱な攻撃じゃ精々時間稼ぎにしかならねぇからな……」

 

「んー、俺の呪文も攻撃系が無いから無理っすねー」

 

「となると、めぐみんの爆裂魔法が一番期待大なんだが……」

 

「すみませんカズマ……なんとか自力で立ち上がるぐらいにまでは回復したんですが……魔力そのものはまだ回復していません……」

 

「あーいいよ気にすんな、元はといえば、初手で終わらせようと焦ってお前に使わせた俺が悪いんだから……」

 

カズマの攻撃は大したこと無いだろうしメレブに至っては攻撃系の呪文すら持っていない。

 

そして唯一爆裂魔法という強力な攻撃方法を持つめぐみんもまた、杖を支えになんとか立つことが出来る状態で魔力の方はほとんど空だ。

 

「皆さん! 私が時間を稼いでいる隙に、コイツに決定打を!」

 

「すまん! もうちょっと待ってくれ勇者様! こっちで色々と考えてるから引き続き頼む!」

 

「わかった!」

 

「参ったな、あの様子からして長くはもたないぞ……」

 

ヨシヒコの方はまだ真・竜王の体の上を飛び回りながらなんとか粘っている。

 

しかしいい加減ウザったく感じたのか、徐々に真・竜王の攻撃は激しくなっており、このままでは捕まるのも時間の問題だ。

 

どうしたモンかとカズマが「う~ん……」と腕を組んで必死に考え込んでいると

 

「まあそうやって焦らさんな、必死に考えても良い策なんて生まれんぞ、ほれ、飲み物でも飲みんさい」

 

「え、あ、どうも……」

 

お母さん的な感じでメレブがニコニコ笑いながら、懐からスッと瓶に入った飲み物を取り出してカズマに渡す。

 

それを受け取ったカズマはふと「ん?」と彼から受け取った瓶をまじまじと見つめる。

 

「コレ……なんか色がおかしいけど飲んで大丈夫なのか?」

 

「あ、問題ないから安心して、俺もさっきここに来る途中で同じ奴見つけて、自分で飲んだけど特に異常とか無かったから」

 

「ホントか~? だって凄い紫色っぽいぞコレ……」

 

「ホントホント、結構美味かったし、あとすげぇテンション上がる、まるでMPが一気に回復した感じ? そんぐらい元気になるから」

 

「それ聞くとますます怪しいんだが……魔力が一気に回復した気分って一体どんな……ん?」

 

メレブの説明を聞いてカズマはふと手に持った瓶を見つめて固まった。

 

「なぁ……もしかしてこれ飲めば魔力回復するって事か?」

「んーまあそんな感じのアイテムかもしんないねー、俺よく知らないけど」

「おいじゃあコレ……さっさとめぐみんに飲ませておけば……」

「……あ」

 

ずっと持っていたアイテムの使い道がわからず飲み物として愛用していたメレブは、カズマの一言でハッと気づく。

 

実はこの瓶、正しい名前は『エルフの飲み薬』、MPを全回復させるアイテムなのだ。

 

そうとわかったカズマは、即座にめぐみんの方へと歩み寄って

 

「おいめぐみん! これ今すぐ飲め! 魔力回復してもう一発爆裂魔法だ!」

 

「わかりました! 全くこのド腐れキノコ! こんな有用なアイテムをどうしてずっと隠し持っていたんですか!」

 

「めぐみん、俺の事を責めるより、まずは己が為すべき事を為しなさい!」

 

「私が成すべきことは魔王よりもあなたに爆裂魔法を食らわす事です!」

 

ここに来てそんな使えるアイテムとずっと持っていたとは……めぐみんはメレブに悪態を突きながら、カズマから受け取ったエルフの飲み薬を腰に手を当てグイッと一気に飲んでいく。

 

そしてカズマは「よし!」と叫んで、希望が見えて来たとまた次の一手を模索する。

 

「爆裂魔法があれば奴に一撃かませられるぞ! 後はもう一つ、もう一つアイツ強力なダメージを与える方法があれば確実に……!」

 

「フフ、ならばそこで俺の出番という訳だな」

 

「……ロクでもない呪文しか持ってないアンタに何が出来るんだよ……」

 

「いや、ふと気づいたんだが、もしかしたらワンチャン、俺の呪文で奴を倒せるやもしれん……」

 

「は?」

 

メレブの提案など全く信用出来ないと顔をしかめるカズマだが、とりあえず聞いてあげる態勢に

 

するとメレブはニヤリと笑いながら杖を振りかざし

 

「この俺の不幸を振り撒く呪文、「ソゲブ」ならいけると思うんです、参謀殿」

 

「ソ、ソゲブ……? 不幸を振り撒くって具体的にどんな風に?」

 

「うむ、よくぞ聞いてくれた」

 

「いや聞かねぇとわからねぇから聞いてんだよ」

 

「この呪文は、対象の運に比例して、一回だけ不幸な目に遭わせることが出来るのだ、つまりその者が運が良ければ良い程、この呪文の力は上がり、凄い不幸を呼び寄せる事になる」

 

「つまり竜王の野郎がどれだけ運が良いかに賭ける呪文って事か……ん~じゃあ一か八か掛けてみるか? あんま期待出来ねぇけど」

 

「やる、やらせて下さい! 最後の最後で私! 活躍したいんです!」

 

「あーはいはい、急にグイグイ来るなコイツ……じゃあ作戦に入れておくからよろしく……」

 

自慢げに説明するメレブだが、そのソゲブという呪文は明らかに博打技、竜王が運が良いのか悪いのかわからない

し、一体どんな効果になるのかも全く持って未知数だ。

 

しかし贅沢も言ってられないし、カズマは藁にも縋る思いで顎に手を当てジッと考えながら、ソゲブという呪文の効果をもう一度頭の中で整理しつつ、作戦に組み込んでいく。

 

そして考えがまとまったのか、カズマは真・竜王の方へ目をやりながらニヤリと笑って見せる。

 

「よし、作戦はまとまったぞ、メレブ、めぐみん、ここからは俺の案に従ってお前等の力を見せてくれ」

 

いよいよ真・竜王を倒す為の秘策を思い付いたカズマ、メレブとめぐみんの協力の下、彼は強力な相手を前にとんでもない大博打に出る事に

 

その作戦とは……

 

 

 

 

 

 

「ぬわぁぁぁぁ!!!」

「……遂にわが力の前に屈する準備が出来たか、勇者よ……」

 

カズマ達が裏で動いてる中で、ヨシヒコは盛大に吹っ飛ばされていた。

 

どうやら遂に真・竜王の拳をまともに食らってしまったらしい……

 

「く! たった一撃でこの威力とは……! ドラゴンナイトによる『よしよし攻撃』も効かない、どうすれば……」

 

「クックック、貴様に頭をなでられた時は不思議と心地よかったが残念だったな、魔王を手名付けるなど出来ると思うな、さあ、絶望の中で散るがいい……!」

 

背中から瓦礫の山にぶつかり、思うように身体が動かなくなってしまったヨシヒコに、竜王は更なる追撃、トドメヲ刺そうと右手を振り上げる。

 

しかしそこで

 

「クリエイト・アース!」

「ぬ?」

 

突如小さな土の塊が真・竜王の目に当たった、しかしその程度の土の量では目潰しにさえならない。

 

ヨシヒコに攻撃するのを一旦止めて、飛んで来た方向に真・竜王が目をやると

 

「……なにがしたいんだ小僧……もしやそんなちんけな呪文で我を倒そうとか本気で思っておるまいな……」

 

「くそ……こうしてまともに対峙するよやっぱこえぇなコイツ」

 

「カズマ……!」

 

土属性の初球魔法を食らわしてきたのはいつの間にかこちらに近づいて来ていたカズマであった。

 

彼が単身で出て来た事にヨシヒコが驚いていると、ここで更にカズマが驚くべき行動をとる。

 

「けどここで逃げても結局死ぬんだから仕方ねぇよな!」

 

「なに!?」

 

「おい竜王のオッサン! 今まで散々この冒険者カズマ様の身体を借りてたんだ! 滞納してた家賃払いやがれ!」

 

 

なんとカズマ自ら単身でこちら目掛けて突っ込んでいったのだ。

 

それに一瞬驚く真・竜王であったが、すぐに両手の拳を振り上げて

 

「くだらん悪あがきを!」

「うお!」

 

カズマの近くの床に思いきり振り下ろすと、グラグラと激しく揺れて地震が起こりだす。

 

振動で足元がふらつき歩く事さえ難しくなるが、それでもカズマは前だけを見つめて

 

「負けるかぁ!!」

「何故だ……どうしてこ奴がここまで必死になって我を倒そうと……」

 

なおもまだ進み続けて、遂には自分の左腕に乗って、先程のヨシヒコと同じ動きでこちらの顔の方へ駆けて来るではないか。

 

カズマの体内にいた真・竜王は彼の性格を良く熟知していた。

 

アホでヘタレでスケベで卑怯、ケチで小物でいつもやる気が無い、常に楽した生活を送りたがっている自堕落な少年だった筈……

 

そんなカズマがどうして援護も無く一人ぼっちで、短剣をかざしながら自分に突っ込んで来るのか、真・竜王はさっぱり理解出来なかった、故に、ズル賢いこの少年ならなにか仕掛けてくるのでは?と警戒心を強くさせる。

 

すると遂に

 

「いよっし! コレで十分敵の注意を惹きつけられた!!」

 

攻撃はせずにひたすら真・竜王に近づきながらも、実の所ずっと逃げ回っていたカズマ。

 

こちらの動きをすっかり警戒している様子の相手を確認しつつ、カズマは必死に飛び跳ねながら

 

「今だいけ! 金髪ホクロ!」

「うっす! 油断したな竜王! これでお前も終わりだ!」

「なに!?」

 

カズマに気を取られていた所で、自分の足下でメレブがほくそ笑みながら杖を向けて

 

「ソゲブ!! あ!」

 

相手を不幸にさせる程度の呪文が真・竜王目掛けて炸裂、しかし……

 

「ごめんカズマ君、さっき竜王を狙ってソゲブ使ったんだけど、カズマ君があまりにも周りをウロチョロしてたから……間違えて、カズマ君に当たっちった!」

 

「はぁぁぁぁぁぁ!? アンタどんだけ!! どんだけアレなんだよ!」

 

「アレってなんだよ! もっと具体的に言えよ! いややっぱいい、なんか悪口だと思うから」

 

どうやら作戦通りには上手くいかなかったみたいだ。

 

第一手でカズマが単身で真・竜王の注意を逸らしつつ、その隙にメレブのソゲブで先制攻撃をしようと思っていたのだが……まさかのメレブ、カズマに向かってソゲブを誤射。

 

後頭部を掻きながら軽く頭を下げて謝る彼に、ソゲブを掛けられたカズマが真・竜王の肩の上で嘆いていると

 

真・竜王はゲラゲラと大きな口を開けて笑い声を上げる。

 

「フハハハハ、コイツは傑作だ! なんの呪文かは知らぬがまさか味方に掛けてしまうとは! ってあれ?」

「ん? なんか頭上でなんか光ったと思ったら……なんかこっちに向かって迫って来る気配が……」

 

ふと上空からなにかピカッと光るのが見えたので、真・竜王とカズマは同時に顔を上げてなにがあったんだと眺めてみる。

 

すると頭上からこちらに向かってナニかが凄まじい落下速度で落ちてくるではないか、その正体は

 

「なにぃぃぃぃぃぃ!? 隕石がこちらに向かって落ちて来てるではないかぁ!!」

 

「うおい! いくら俺の高い幸運に比例して不幸が起きる仕様だからって! いくらなんでもコレはやり過ぎだろ!!」

 

肉眼でハッキリと捉えられるぐらいに見えて来たと思ったら、それは正に宇宙から舞い降りた隕石であったのだ。

 

メレブの呪文・ソゲブは掛けた相手の幸運が高ければ高いほど、より不幸に陥れる呪文。

 

つまりこの突然の隕石落下は、幸運度が高いカズマに掛けた事による災害なのだ。

 

そして真・竜王と共に驚くカズマであったが、すぐに身の危険を感じた彼はバッと真・竜王の上から飛び降り

 

「あんな不幸なんか食らったら死んじまうわ! おい竜王のオッサン、アンタにやるよ!」

 

「お、おいちょっと待て! 貴様自分が蒔いた種だというのに我に押し付け……!!」

 

寸での所で倒れていたヨシヒコを背負ってタタタッと逃げ出しながら、悪びれもしない表情でこちらに譲ってきたカズマに真・竜王が激怒するも……

 

それと同時に、彼の頭上に隕石が綺麗に着弾した。

 

「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うお!!!」

 

流石に宇宙からの隕石をまともに食らっては大ダメージを負うのも無理はない。

 

辺りに衝撃波を生みながら真・竜王は真上から落ちて来た隕石に直撃し、全身が爆発したかのように真っ黒焦げに

 

そんな光景を離れた所から静かに見ていたメレブはフッと笑みを浮かべ

 

「これぞ俺の最強呪文、題して……シューティングスター!!」

「いや嘘つけ! 偶然こうなっただけじゃねぇか!」

「うわカズマ君! こっちに戻って来るの早ッ!」

 

カッコ良くポーズを決めてドヤ顔を浮かべるメレブの下へいち早くカズマが戻って来た。

 

背中には隕石に巻き込まれない為に運んで来たヨシヒコを背負って

 

「助かったぞカズマ……あのままでは私も竜王と共に吹っ飛んでしまう所だった……」

「そうなったら俺とメレブも目覚め悪いしな……とにかくアンタは一旦休んでろ、ここは……」

 

運んで来たヨシヒコを地べたに座らせると、カズマは真・竜王の方へと振り返った。

 

隕石落下という規格外な一撃を食らったにも関わらず、真・竜王は肩で呼吸をしながらまだ健在の様子。

 

「ゼェゼェ……! 貴様等……もうちょっと勇者らしい戦い方をしたらどうなんだ……!」

「うるへぇ、どう戦おうがこっちの勝手だろうが、ほい次」

「次!? 次ってなんだ!?」

 

作戦通りにはいかなかったが、あの憎き竜王に想像以上のダメージが入った事で

 

カズマは実に良い気持ちになりながら、慌てる真・竜王をスルーして早速次の手に出る。

 

彼が親指をクイッと動かすと、背後でバサッとマントを翻す音が

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の爆裂魔法の担い手として後々伝説を残す者!! 手始めに我が同胞達を殺めた大罪人・竜王に我がとっておきの爆裂魔法を食らわせてやろう!!」

 

「貴様……初っ端から第一形態の我に凄まじい魔法をぶっ放して来た魔法使いか……!」

 

「ええそうです、しかし今回は最初の時とは全く違いますよ、なにせ今の私は湧き上がる怒りに身を任せてる状態ですからね、その怒りが生まれた原因であるあなたには、是非とも私の正真正銘本気の爆裂魔法って奴を、特別に披露してあげましょう」

 

「ふん、やってみるがいい。貴様が詠唱を唱えている間に我に殺されない保証など無いがな」

 

「あ、言っておきますけど」

 

あまり表には出さなかったが、自分のせいでムラサキを死なせ、更にはダンジョーやダクネスまで死んでしまった事に強い憤りをめぐみんは感じていたのだ。

 

そして十八番の爆裂魔法を憎き相手に撃つ為に杖を構える彼女、そしてすぐにでも殴りかかって来そうな真・竜王に対しポツリと

 

「私、あなたが他の皆さんと遊んでいる間に、とっくに詠唱終わらせてあるんでいつでも撃てます」

 

「はぁ!? おい待て! てことは貴様……!」

 

「はい、という事で、覚悟して下さい」

 

実はちゃっかりと隠れながら詠唱を完了していためぐみん。

 

後は引き金を引くだけであり、彼女は慌てる真・竜王目掛けて杖をスッと突き出して……

 

 

 

 

「エクスプロージョン!!!!!」

「ほんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

真正面から真・竜王目掛けて放たれたかつてない程の特大爆裂魔法。

 

先程の隕石落下の衝撃よりも威力は上だと一瞬で判断できるぐらい強力な爆発音が、あっという間に敵を飲み込んでしまう。

 

至近距離で赤と黄色が美しく混ざり合った花火の様な爆裂を眺めながら、撃った本人であるめぐみんはうっとりした表情でバタリと倒れる。

 

「快……感……!!」

 

「凄い! 竜王が一瞬にして見えなくなるほどの凄まじい破壊力だ!」

 

「うひょー今のは新記録だな、色合い、効果音、威力、正に申し分ない爆裂魔法だったぜ、めぐみん」

 

「ふふん、もっと褒めて下さい、私の中の燃える魂をイメージして造り上げた渾身の力作なのですから、どうですかメレブさん?」

 

「……色々馬鹿にしててすみません、めぐみんさん」

「よろしい」

 

自分の爆裂魔法に、ヨシヒコ、カズマだけでなくメレブも素直に、というよりちょっとビビった様子で頭を軽く下げてきたので、めぐみんはますます誇らしげな表情を浮かべていた、倒れているが。

 

「見てくれましたか天国に逝ってしまった皆さん……皆さんの仇はこの私が取ってあげましたよ……」

 

 

 

 

 

 

「……まだだ」

「へ?」

 

再び魔力が空になったが、流石にこれで竜王は死んでしまっただろうと安堵するめぐみん。

 

しかしそんな束の間の安心感も消え失せる様な声が、爆裂魔法で舞い上がった砂埃の中から木霊する。

 

「まだ終わってないわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「うえぇ!? ちょちょちょ! なんですかあの竜王! 私の爆裂魔法を食らっておいてまだ生きてますよ!」

 

「流石は魔王、しぶとい……それじゃあ、めぐみんさん、もう一発お願いします」

 

「無理です! 私もう立てないし魔力もすっからかんです!」

 

(役立たず、やっぱめぐみん、役立たず。メレブ、心の俳句)

 

「おいそこの金髪クソホクロ! 今絶対失礼な事考えてたでしょ!」

 

両手を上げて真・竜王が天高く咆哮を上げながら再び立ち上がったのだ。

 

その迫力の前に、すぐに倒れているめぐみんに無茶振りするメレブだが、彼女はもう戦えない状態。

 

そんな彼女を心の中でボロクソに叩きながら、メレブがため息をついていると。

 

「よもやここまで我を追い込むとは流石だ……! ならばここで見せてやろうではないか、我が最終奥義を!」

 

「ヤベェ! いよいよあの野郎、本気で来る気だ!」

 

「く! 今の私達ではもう太刀打ちできる術が!」

 

「さらばだ勇者達よ! 我が業火の中で灰となって消えるがいい!!」

 

焦るカズマとヨシヒコだが、もはや体力も知恵も残っていない、正に万事休すだ。

 

そんな彼等に向かって真・竜王は首をグッと後ろに動かすと、一気に溜めた力を放出するかのようにカッと鋭い眼光を光らせ

 

 

 

 

「竜王のいかり・灰燼!!!!」

 

それはダンジョー達を死なせた「竜王のいかり」の強化版の火炎ブレス。

 

先程のめぐみんの爆裂魔法をも凌ぐ程の全てを灰燼と化す絶大な灼熱が、真・竜王の口から放たれヨシヒコ達を飲み込もうとする。

 

「クソ……これで終わりなのかよ……」

 

「諦めるなカズマ! 希望を捨てたらこの世界は滅ぶ! だから最後の最後まで! 私達は、勇者というのは諦めずに戦い抜くんだ!!!」

 

「いや流石にこれはもう……」

 

迫りくる巨大な炎の渦を前にカズマはガックリと肩を落として死ぬ事を悟る。

 

だがヨシヒコはまだ諦めない、ボロボロになった状態でありながらも、その目は竜王の放つ炎よりも燃え盛っている。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「ヨシヒコ!」

「ヨシヒコさん!」

「ヨシヒコー!!」

 

いざないの剣を持って自ら迫りくる炎に向かって突っ込むヨシヒコ、その後ろ姿にカズマ達が叫ぶも。

 

やがて彼はあっという間に炎の中へと消え……

 

 

 

 

 

「セイクリッド・ゴッド・アクアブレス!!!!!」

 

 

 

 

 

ヨシヒコは炎の中で消えなかった、否、彼は炎に飲み込まれる事は無かったのだ。

 

何故なら彼が炎の渦にぶつかる直前で、頭上から滝の如く凄まじい激流葬が、彼を護る壁となってくれたかのように見事に防いでくれたのだ。

 

やがて炎は水に飲み込まれ、あっという間に消えてしまった。真・竜王の最終奥義が……

 

ヨシヒコだけでなく、カズマ達も、そして真・竜王さえもポカンとして固まっている中

 

そこへザッと現れる一人の少女

 

「全く、ほんと私が見てないと無茶ばっかするんだから」

「め、女神!!」

「ア、アクア!?」

 

にへらと笑いながら姿を見せたのはまさかのずっと消息不明だった水の女神・アクアだった。

 

彼女の登場にヨシヒコとカズマが同時に驚く中、真・竜王もようやく状況を把握して

 

「き、貴様まさか! 我の最終奥義を破ったというのか!? バカな! あの奥義はそれこそ我と同じ魔王! もしくは神と称される者でしか対処出来ぬ筈!」

 

「フフーン、神と称される者、ね……まさにその通りよヘッポコラスボス! この私こそ、水の女神・アクア様よ!!」

 

「あ、そうですか……はい」

 

「信じてよー! 魔王ならちゃんと信じてよー! 目を逸らさないでー!!」

 

自分こそが女神だと胸を張って自慢げに言い出すアクアに対し、真・竜王はぎこちなく返事しながらそっと目をズラす。

 

全く信じてくれていない、むしろ可哀想な子扱いしてくる敵に対し、アクアは必死にアピールしながらヨシヒコ達の方へと駆け寄っていく。

 

「もうなんなのよアイツ! この私が女神だって言ってるのに!」

「いやそんな事よりもお前!」

 

ピンピンした状態で戻って来たアクアに、最初に疑問を吹っ掛けたのはメレブであった。

 

「お前今まで何処に行ってたんだよ!?」

 

「え、私? さっきまで瓦礫の山の底で眠ってたんだけど?」

 

「死んでたんじゃないの!?」

 

「死んでないわよ! 確かにちょっと油断してアイツの炎で吹っ飛ばされちゃったけど! しばらく気絶して倒れてただけで、今はご覧の通りすっかり元気一杯よ!」

 

「うわぁ~、コイツが出て来た事に喜ぶ日が来るなんて夢にも思わなかった~」

 

どうやらアクアは炎をまともに食らったにも関わらず、水の女神としての耐性力でなんとかギリギリ耐え切ったらしい。

 

この絶望的な状況を前にしてヒーラーである彼女が復帰してくれた事に、メレブは認めたくないものの凄く嬉しく思った。

 

「女神、戻って来てくれて感謝します、やはりあなたは本当の女神なんですね」

 

「ちくしょう……最後の最後にコイツに救われるなんて……ま、ありがとよ」

 

「図太いあなたなら生きてくれていると信じていました! アクアがいれば死んでいったみんなも復活出来ますね!!」

 

「い、いやそんなに素直に言われるとちょっと……あーはいはい、みんな揃って私を褒め称えないでよ、わかってるから、私がみんなにとって最も崇拝すべき対象だというのはわかってるから」

 

他の三人も彼女の方へ駆け寄り彼女の帰還に喜ぶ。

 

その反応を見てついアクアは顔を赤らめてちょっと照れ臭そうに後頭部を掻くと

 

すぐにヨシヒコとカズマの方へ振り返り

 

「この私の登場に涙を流しながら歓喜してそのままアクシズ教に入信してる場合じゃないわ、さっさとあそこで悔しそうにしている可哀想なトカゲさんをぶっ飛ばすわよ」

 

「ぐ、ぐぅ~~~!! おのれ~~~~!!」

 

「行くわよヨシヒコ! それとおまけのカズマ!」

 

「はい!」

 

「おまけってなんだよ! てか俺も!?」

 

満身創痍の状態で全ての力を出し切てしまった真・竜王は今度は逆に追い込まる羽目に

 

それを見逃すつもりは無いと、アクアはヨシヒコとにカズマに向かって両手を突き出す。

 

「アンタ達にこの私の加護をありったけ掛けてあげるわ! 攻撃力・守備力・素早さ・運!! 全てのステータスを私の全魔力を使って底上げするわよ!」

 

「な、なんだコレは!! 凄い! 全身から力がみなぎって来る!」

 

「いやヨシヒコ、まだ掛けてないわよ、掛けてからそのリアクション頂戴ね」

 

「本当に思い込みバカだなアンタ……」

 

勝手に一人ででテンション上がっているヨシヒコに冷静にツッコミながら、改めてアクアは彼等にありったけの支援魔法を掛けまくる。

 

「さあ行きなさい勇者ヨシヒコ! それとおまけのカズマ!! アンタ達の力を合わせて魔王を倒して来なさい!!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

「ってうお! お前ちょっとやり過ぎだろ! なんかもう身体が爆発しそうなぐらい熱くなってんぞ俺!!」

 

彼女の叫びと共にヨシヒコとカズマから凄まじい勢いでオーラが浮かび上がる。

 

全身くまなく強化されたヨシヒコとカズマは、滾るテンションに身を任せてすぐ様、真・竜王の方へ振り返る。

 

「カズマ! この剣を使え! 今度はお前に奪われるのではなく、私からお前に授けよう!」

「聖剣か……俺が持つ資格あるのかどうか疑問だけど、そんな事気にしてる場合じゃねぇよな!!」

 

ヨシヒコは持っていた聖剣・エクスカリヴァーンをカズマに託すと、彼と共に前方を見据える。

 

「おのれ! 何故だ! どうして貴様等が! この我をここまで追い詰めることが出来たのだ! わからぬ! 力の差は歴然なのにどうしてこうなったのかまるでわからぬ!!」

 

「それは私達が勇者だからだ、勇者は魔王に決して屈さない、だからこそ魔王は勇者の前に滅びる運命にある」

 

「あばよ竜王のオッサン、アンタには散々操られたしコキ使われたけど、せめてもの情けで楽に葬ってやるよ」

 

既にボロボロにされた状態で、ヤケクソ気味に両手を振りかざす真・竜王。

 

そんな彼に負ける気はしないと、ヨシヒコとカズマは一気に駆け抜け、目にも止まらぬ速さで彼の眼前へと飛び上がり、そして……

 

「これで!」

「終わりだ!」

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

ヨシヒコはいざないの剣を、カズマはエクスカリヴァーンを振り上げ

 

最期の雄叫びを上げる哀しき魔王に向かって突っ込みながら、同時に剣を一気に振り抜いたのであった。

 

真・竜王の顔に、ヨシヒコとカズマの一閃がバツの字になってくっきり浮かび上がったかと思いきや

 

 

 

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

眩し過ぎて直視できない程の強烈な白い光が魔王を包み込み

 

その瞬間、勢い良く彼の身体はガラスの様に辺り一面に弾け飛んで

 

「これが、人間の力……」

 

やがて、跡形もなく消えてしまったのであった。

 

「終わったか……」

「はい、長かったですがこれでようやく……」

 

日が昇り、破片がキラキラと舞い落ちる光景を眺めながらメレブとめぐみんは、ようやく終わったのだとそっと微笑むのであった。

 

「一件落着、なのね……」

 

消滅した魔王を見送りながら、アクアは何故か、一人だけ寂しそうに空を見上げる。

 

そこにいるのは戦いを終えたヨシヒコとカズマの後ろ姿

 

彼等を見つめながら彼女はそっと小さく呟く。

 

「ヨシヒコ達とも、お別れか……」

 

 

 

 

かくしてこの世界に現れた恐るべし脅威・竜王は

 

勇者一行の活躍によって敗れ去った

 

長いようで短かったヨシヒコ達の冒険も、コレにて無事に終わりを告げる事となる。

 

そして出会いがあれば別れもある

 

無事に魔王を倒したヨシヒコ達は

 

苦楽を共にした仲間のいるこの世界と

 

遂にお別れする時が来たのだ。

 

 

次回・最終回、さらばヨシヒコ、永遠に

 

 

 

 

 

 

「ところで三人ほどいない気がするのは俺だけだろうか?」

 

「あ、そういえばダンジョーさんとムラサキさん、それとダクネスも死んだままでした」

 

「最終回までに生き返らないと可哀想だなぁ~」

 

 


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