勇者ヨシヒコと魔王カズマ   作:カイバーマン。

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弐ノ二

無事に『アクセル』へと辿り着いたヨシヒコ一行は

 

アクアの案内の下、無事に冒険者ギルドへとやって来た。

 

この場所でヨシヒコとメレブは、冒険者として登録し、この世界での職業を手に入れて更なるパワーアップを目指すのであった。

 

「ここが冒険者ギルド……入りましょう」

「うむ、ここから我々の異世界デビューが始まるのだ」

 

先陣を切って両手でウエスタンドアを開けて中へと入るヨシヒコ。メレブもその後ろについて一歩店の中へと踏み出す。

 

まず最初に見た光景は、様々な見た目をした人種達が、

 

テーブルの上で豪快に食事をしていたり

 

ヒソヒソ声でダンジョンの情報を交換していたり

 

冒険に赴く為に慌ただしくし準備をしているパーティーがいたりと

 

所狭しに冒険者たちがたむろしていた。

 

その中でも何人かは、この町に来たばかりの新参者であるヨシヒコとメレブを物珍し気に見ている者達もいた。

 

「おぉ、なんかいよいよ冒険物ファンタジーっぽくなってきたと感じて来た」

「彼等は我々の様に魔王を倒そうと集まっている者達なのでしょうか」

「違うわよ、ここにいる連中の大半は色々な目的を持って集まっているの、魔王の討伐なんて考えてるの私達ぐらいのモンね」

 

メレブの後から入って来たアクアがヨシヒコに教えてあげると、彼は「なるほど……」と短く呟きつつ、早速冒険者用の受付場を見つける。

 

「あそこで話を済ませれば私も彼等と同じく冒険者として認められるんですか?」

「そういう事ね、色々と細かな事は聞かれると思うけどすぐに済むから」

「わかりました、では」

 

アクアに確認した後、すぐにヨシヒコは何人かいる受付嬢の方へと足早に進んでいく。

 

 

そして金髪で一際巨乳の受付嬢の所へ実に滑らかな動きで、少し長い行列に加わった。

 

「ん? なんで他の受付カウンターは空いてるのに、わざわざ並んでいる所に行ったのかしら?」

「フフッ、ヨシヒコとの付き合いが短いお前にはわからんだろうな、いいかアクアよ、ヨシヒコという男は」

 

疑問を持って小首を傾げるアクアにメレブはわかり切った様子で笑みを浮かべると

 

「巨乳超大好き」

「……は?」

「あそこにいる受付嬢の中でヨシヒコは、ひと際美人尚且つ巨乳な女を鋭く見抜いて並びに行ったのだ」

「バカじゃないの?」

「バカだよ、でもバカだからこそヨシヒコなの。という事で俺もヨシヒコと一緒に並んできまーす」

 

ヨシヒコの性癖を笑顔で教えて来るメレブにアクアは思わず口をポカンと開けるも

 

それをよそにメレブは颯爽とヨシヒコの方へ歩いて行った。

 

「結局アンタも同じ列に並ぶんじゃないの……」

「すまない、ちょっと友人と話し込んでいたので遅れてしまった」

 

呆れるアクアの所に一人遅れてやってきたダクネスが現れた。

 

「二人は無事に登録し終えたのか?」

「まだよ、今行列に並んでる所」

「……わざわざ空いてる場所があるのに何故?」

「バカだからよ」

「?」

 

両肩をすくめながらバカの一言で片づけるアクアに、どういう事だとダクネスがキョトンとしていると

 

 

しばらくして、遂にヨシヒコ達が受付の番になった。

 

「はい、今日はどうなされました?」

「冒険者として登録しに来ました」

「ヨシヒコ胸見過ぎ」

「えーそれではます登録手数料として一人千エリスとなりますが……」

「千エリス?」

「千ゴールドじゃないの?」

「いえ、千エリスです」

 

ウェーブのかかった髪の巨乳が丁寧にそう言うと、ヨシヒコとメレブはスッと後ろに振り返り

 

「すみません」

「お金貸して」

「私はイヤよ」

「仕方ない、じゃあここは私が……」

 

すぐにこっちに振り返って来た彼等を察してすぐに拒否するアクアに代わって、ダクネスがヨシヒコ達の代わりに払ってくれた。

 

「うむ、どうやら使用通貨も我々の世界とは違うようだ」

「ゴールドでしたら魔物を倒すだけで手に入るんですけどね」

「エリスとか倒しても全く出てこなかったよな、難易度高いよここ~……」

 

ゴールドならここに来るまで何度か倒した魔物からいくつか回収してるというのに……

 

思わぬ場所で躓いてしまったヨシヒコとメレブが今後どう生計を立てていくのか悩んでる中、ダクネスが二人の料金を受付嬢に払ってくれた。

 

「ヨシヒコ、メレブ、登録手数料を払っておいたぞ」

「ありがとございまーす」

「感謝する」

「いや後でちゃんと返して欲しいんだが……」

「このご恩はマジ永遠に覚えておくから、マジに」

「凄く感謝する」

 

押しつけがましい礼を言いながらダクネスをたじろかせ

 

改めてヨシヒコとメレブは受付のカウンターの前に

 

「よろしくお願いします」

「だからヨシヒコ胸見過ぎ」

「では冒険者となる前に説明はいりますか?」

「あ、もう俺達冒険者の仲間がいるんで、詳しい話は後でアイツ等に聞いておくんで大丈夫っす」

「そうですか、それじゃあ……」

 

会釈しながらメレブが説明は不要だと言うと、受付嬢は彼等の前にスッと書類を差し出した。

 

「ここにお二人共、年齢、身長、体重、身体的特徴等の記入をお願いします」

「わぁ~どうしよ俺、そんなの全然覚えてないよ~、前に体重計ったのいつだっけ~?」

「メレブさん、わからない場所は大体このぐらいだと思って書いてみればいいですよ」

「そういうヨシヒコよ、お前……自分の身長50メートルってなんなの……巨人じゃん、超大型ヨシヒコじゃん……」

「これぐらい心の大きな男に成長したいんです」

「いいよそういう心構えは書かなくて……お姉さんこのゴジラに新しい紙渡して……」

 

自分の体重何キロだったかと思い出そうとしながらついヨシヒコの記入欄を見て思わず口を抑えて噴き出してしまうメレブ。

 

すぐに受付嬢は代わりの紙を、体重2万トンとか書いているヨシヒコに渡した。

 

程無くして二人は真面目に書き終えると、二人同時にスッと受付嬢に書類を渡した。

 

「はい結構です、ではどちらかが先にこちらの冒険者カードに触れて下さい、触れた人のステータスが数値化されて、その後、数値に応じてなりたい職業を選んでいただきます」

「メレブさん、どっちから先にやります?」

「ヨシヒコよ、ここは先にやらせてくれ」

 

遂に職業を選ぶイベントが始まると聞いて、すぐにメレブがヨシヒコよりも一歩前に出る。

 

「ここは俺が一発物凄いレアな職業になって、ここにいる人達をみんなアッと驚かせたい」

「確かに、メレブさんなら凄い職業になれるでしょうね、わかりました、私は後でいいです」

「悪いな」

 

得意げに笑いながら両手に持った杖を左右に振りつつ、メレブはふと背後でこちらの様子を見ているアクアとダクネスの方へ振り向いた。

 

「喜べお前達よ、この場で今、伝説の魔法使い誕生の瞬間を拝ませてやろう」

「はいはい、いいからさっさとカードに触れなさいよ」

「そんな期待してない表情も今の内だ、それでは……」

 

勿体ぶった台詞を吐いてくるメレブにめんどくさそうに手をヒラヒラさせて促すアクア。

 

それに従いメレブはそっと受付嬢が差し出した冒険者カードを触れてみる。

 

その瞬間、彼のステータスはすぐに数値化され、それを見て受付嬢は……

 

「はいありがとうございます、メレブさんですね……あ~これは……うん、いや~……」

「おおっと、あまりにも高くて声も出ない的なパターン?」

「う~ん…………ふぅ~む……」

「……あれ? なにその難しい表情、凄く不安になって来たんだけど」

 

みるみる表情が険しくなっていく受付嬢

 

メレブが徐々に不安感を募らせていると、やっと彼女は顔を上げて

 

「とりあえず聞いておきたいんですけど、メレブさんが今も優先的になりたい職業ってありますか?」

「あ、まあそうっすねぇ~、まあ最低でも魔法使いにはなっておきたいっすね~まあでも、欲を言えば賢者とかになってみたいとは思ってるんですけど~、なれます?」

「えーと、魔法使いという事はつまり『ウィザード』でよろしいでしょうか? でしたら……」

 

顎に手を当てながらドヤ顔で尋ねて来るメレブに、受付嬢は首を傾げながら少し申し訳なさそうな表情を浮かべると

 

 

 

 

 

 

 

「今メレブさんが選べる職業は基本職の『冒険者』か……『ウィザード(笑)』だけです」

「………………………ん?」

 

ウィザードの後におかしな単語が入っていた事に、メレブは目をパチクリさせながら耳を彼女の方に向ける。

 

「あの、すみませんなんかちょっと聞き間違いかもしれないから一応確認しますけど……ウィザードって言った?」

「いえ、ウィザード(笑)です」

「お、おぉ……困惑し過ぎて状況を上手く理解できない」

 

聞き慣れない職業の名にメレブが半笑いしていると、受付嬢は至って真面目な表情で説明を始める。

 

「ウィザード(笑)というのは、いわゆるウィザードを目指すにはまだまだ半人前の人を救済する為の職業みたいなものです。つまり半端モンのウィザードという事です」

「あ~なるへそ~……つまり俺はその……数多の経験を得て幾度も魔王を倒した実績があってなお……半端モンだと言う事でよろしいでしょうか?」

「言ってる事はよくわかりませんがそういう事ですね……その、メレブさんのステータスは全体的にちょっと低めでして、所々高い所はあるんですけどこれではまだ「ウィザード」を名乗るのはちょっと……」

「うんうんうん、わかった皆まで言うな、これ以上言われると泣くよ? 公の場で思いきり泣く自身あるよ?」

 

辛い現実を目の当たりにし、メレブは何度も頷きながら受付嬢の話を止めて、仕方なく

 

「じゃあその……『ウィザード(笑)』でお願いします」

「えーと、まあこれから頑張ってください……頑張ればいつかは『ウィザード』になれるかもしれませんから……」

「あの、職業の記入欄の所、この最後の(笑)だけを少し薄くすることは出来ないでしょうか……?」

「すみませんそういった真似をしたら職業偽造になりますので……(笑)ははっきりと書かれます」

「ですよね~、うん、聞いた俺がバカでした~失礼しま~す」

 

受付嬢の言う通りハッキリと『ウィザード(笑)』と記入された冒険者カードを受け取った後

 

メレブはフラフラした足つきでアクアとダクネスの所に戻って来た。

 

「……なんかもうやだこの世界」

「登録お疲れ様~、ウィザード(笑)様、ブフッ!」

「ま、まあそんなに気にするな、彼女も言っていただろう、頑張れば『ウィザード』ぐらいにはなれるかもしれないと……」

 

ずっとメレブと受付嬢の話を近くで聞いていたアクアとダクネス。

 

ダクネスは苦笑交じりに気を落とすメレブを励まそうとするが、アクアの方はこれ愉快と楽し気にお腹を抑えながらゲラゲラと笑い出す。

 

「伝説の魔法使いとか威勢の良い事言って、それで職業が『ウィザード(笑)』って何よそれ! あーおかしい! そもそもそうなると予感はしていたのよ私は! だってここに来るまでアンタってロクに役に立たなかったじゃないの! ねぇ今どんな気持ち? アレだけ偉そうな事言っておきながら結局(笑)とかどんな気持ち? プークスクス!」

 

心底腹の立つ笑い方をしながらバカにして来るアクアに対し、メレブは挑発的な笑みを浮かべながら一言

 

「黙れ女神(笑)」

「ああん!? ちょっと今女神の後に(笑)付けたでしょ! まるで私が女神を自称する可哀想な人だと言いたい訳!? すぐに撤回しなさい!」 

「落ち着けアクア、正直私もお前の事はその……可哀想な人だとは思ってる……」

「え、嘘でしょダクネス! まだ私の事信じてないの! 私は本当に女神なのよ! 水の女神のアクア様なのよ!」

「叫ぶな……それ以上騒ぐと周りの視線が痛い……」

「見ないで下さーい、ウチの女神(笑)をそんな目で見ないで下さーい」

 

ダクネスに女神と自称する痛い人だと薄々思われていた事にショックを受けた様子で

 

周りの人々から可哀想なモノを見る目を向けられてもなおムキになりながら自分は女神だと主張し始めるアクア。

 

しかしそんな事をしている一方で

 

「はッ!? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「ん? 何かあったのか?」

 

先程メレブを冒険者として登録した受付嬢が素っ頓狂な声を上げたので、店内にいた者達のほとんどが何事かと即座にそちらに振り返る。

 

ダクネス達もそちらに顔を向けると、そこには受付嬢の前で棒立ちしているヨシヒコの姿が

 

「すみません、もしかして私、何かしちゃいました?」

「おぅいヨシヒコ~! なんだそのどこぞの転生主人公みたいな台詞は~!?」

「え、もしかしてその受付嬢、アンタの数値見て驚いてるの?」

「はい、私がカードに触れた途端、彼女が急に驚いて」

 

どうやらヨシヒコも冒険者カードに触れてステータスの数値化を行ったらしい。

 

しかし彼のステータスを見て受付嬢は尋常じゃない程驚いていた。

 

「な、なんなんですこの数値!? 魔力は少なめで知力は絶望的に低い事以外は、他のステータスが平均よりも遥かに凌駕していますよ! 知力は絶望的なのは置いといて、冒険者として初めて登録する方がここまで高ステータスだなんて前代未聞ですよ! ホントに知力は絶望的なのに!」

「うん、わかった、わかったから何度も言わないであげて」

 

驚いた様子で何度も同じことを繰り返す受付嬢に、メレブは冷静に手の平を向けながら止めさせる。

 

「そこまで知力が絶望的だと連呼されると、ヨシヒコが救いようのないバカだと周りに認知されてしまうから」

「ちなみにそちらにいる水色の髪をした方、アクア様と同じ知力です!!」

「やっぱり救いようのないバカだった! どうしよう! 俺達のパーティーに救いようのないバカ二人揃っちゃった!!」

「なんで私と同じ知力だとわかって絶望すんのよ!」

 

咄嗟に受付嬢が指さした方向にいたアクアに振り返り、メレブは彼女とヨシヒコは同レベルのバカだと察して泣きそうな顔を浮かべていると

 

受付嬢はやや興奮した面持ちで

 

「まさかアクア様もを超える逸材がいたなんて! ここまで桁違いな人がいたとは驚きです! 知力が必要な職業はまず無理ですが! それ以外の職業ならなんにでもなれますよ!」

「では勇者でお願いします」

「……あ、すみません、勇者という職業はないんですけど……」

「勇者が無い!?」

 

なんにでもなれると聞いて、ヨシヒコは仏頂面ですぐに勇者を選ぼうとするが、どうやらこの世界では勇者という職業は無いらしい。

 

「勇者というのはあくまで偉大な功績を行った者に捧げる称号みたいなモノなので……」

「なんという事だ、私が勇者になれないなんて……!」

「でもホントにほとんどの職業になれますよ、聖騎士の『クルセイダー』や最高剣士の『ソードマスター』、回復支援特化の『ハイプリースト』、それと……」

 

次々と数多くの冒険者たちが羨む上級職の名を上げながら最後にボソリと

 

 

 

 

 

 

「あの超レアな職業として成り手の少ない、『ドラゴンナイト』にだってなれますね……」

「……ドラゴンナイト?」

 

彼女がその名前を呟いた途端、突如周りの者達がひどくどよめき始めた。

 

当人のヨシヒコはそれが一体何なのかわかんないでいると

 

いつの間にか近くにいたメレブが彼の肩をポンと叩く。

 

「ヨシヒコ、お前今やったぞ、確実にやったぞ」

「何をですか」

「この周りの連中の反応を見て分かった、断言しようヨシヒコ、お前が選ぶべき職業はドラゴンナイトだ……!」

「どうしてそう言い切れるんです?」

「こういう職業を選ぶ時は、まず周りが羨ましがる凄い珍しい職業になるのが主人公のお約束なのだ」

「そうなんですか……!?」

 

ニヤリと笑いながら顔を近づけて耳打ちして来たメレブに、ヨシヒコは目を見開く。

 

「それに職業の名前にドラゴンが付いてるのが何よりのポイント、あの伝説の大ヒット漫画も! そして俺達には欠かせないあの超絶ヒット作にだってドラゴンの名前が入っている! ヨシヒコよ、これはもはやお前の運命だ、お前もドラゴンを名乗る時が来たのだ!」

「私がドラゴン!?」

「そうよヨシヒコ! なっちゃいなさいよドラゴンナイトに!」

「女神!」

 

強くドラゴンナイトを推してくるメレブに便乗して、アクアも右手を高く掲げながら賛成する。

 

「こんだけ周りから羨望の眼差しを向けられるなんて最高じゃない! どこぞのヒキニートなんか基本職の冒険者だったのにアンタはドラゴンナイトよ! これはもう十分に誇っていい事だわ!」

「誇っていいんですか!?」

「そうよ超誇りなさい! この女神が全面的に許可するわ!」

 

すっかり舞い上がった様子でヨシヒコを担ぎ上げるアクア、だがその傍にいたダクネスは一人怪訝な表情を浮かべ

 

「なあ三人共、ちょっと言いにくい事なんだが……ドラゴンナイトはちょっと特殊な職業で実は……」

 

何か言いたげな様子で話しかけるダクネスだが、そんな彼女の言葉が聞こえていないのか

 

メレブとアクアは最後の一押しで

 

「ドラゴンナイトになったらヨシヒコ、お前確実にモテるぞ」

「モテるわね、なにせドラゴンですもの、ドラゴンはモテるわよホントに」

「……」

 

その言葉がヨシヒコを強く決心させた。

 

「なります、ドラゴンナイトに」

「ヨシヒコ!?」

 

二人に対して力強く頷いて見せると、言葉を失うダクネスをよそにヨシヒコはすぐ様受付嬢の方へ振り返り

 

「ドラゴンナイトでお願いします」

「ヨシヒコ、いやドラゴンナイト、いい加減胸以外の場所を見たらどうだ?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいヨシヒコ様! 私もつい言ってしまいましたけどドラゴンナイトはまだ止めておいた方が! 確かに凄くレアな職業ですけどそれは必要なステータスだけじゃなく他にも色々と訳があるんです! それは……」

「何を言われようと私はドラゴンナイトになると決めたんです!! 私はモテたいんです!!!」

「わ、わかりました……」

 

モテたいという心の底からの渇望を抑えきれずについ叫んでしまうヨシヒコの強い気迫に押されて

 

受付嬢は彼の職業を認定した。

 

「ではドラゴンナイト・ヨシヒコ様、改めまして冒険者ギルドへようこそ、我々スタッフ一同、今後の活躍を期待しております」

「よっしゃあ!! ウチのヨシヒコがドラゴンナイト来たぁ!!」

「これでもはや魔王なんか敵無しね!」

 

職業名にドラゴンナイトと記入された冒険者カードをヨシヒコが受け取った瞬間、メレブとアクアが大いに盛り上げる。

 

「ヨシヒコ、今のお前、今までで一番輝いて見えるよ、ダンジョーやムラサキにも見せてやりたいぐらいだ」

「ありがとうございますメレブさん」

「ねぇねぇ、どうせならここにいる連中にバシッと決めてやりなさいよ」

 

しみじみと呟くメレブにヨシヒコは微笑を浮かべて礼を言うと、アクアは早速ふと傍にあった椅子を見つけて

 

「ほら、ここに片足だけ置いて立ってみなさい」

「はい」

「連中には背中を見せたままね」

「はい」

 

彼女の言われるがままにヨシヒコはその通りの態勢になると

 

メレブは「はい注目ー!」と両手を叩きながら冒険者達に大きな声を上げてより注目を集める。

 

「えーそれではご紹介させて頂きます! 我等がパーティーのリーダーにして魔王を倒す為に現れた伝説の勇者! その名も!」

「はいヨシヒコ振り返って!」

 

周りを囲む群衆に向かって、ヨシヒコは片足を椅子の上に置いたままサッとマントを翻しながらドヤ顔で彼等の方へ振り返った。

 

「初めまして皆さん、ドラゴンナイト・ヨシヒコです」

「「「「「おー!!」」」」」

 

その瞬間、爆発したかのように一気に沸く冒険者達。

 

アクアも両手を上げてピョンピョン跳ねながら更に囃し立て、メレブもヨシヒコに力強く両手を叩いて祝福する。

 

そんな彼等の歓声を浴びながらヨシヒコは満更でも無さそうな顔ですっかり上機嫌になっていると

 

 

 

 

 

「えーとそれではヨシヒコ様、相棒の『竜』の登録書類はお持ちでしょうか?」

「……なんですかそれ?」

 

先程の受付嬢の台詞が静かに響き渡り、それにヨシヒコがキョトンとした表情を浮かべた途端

 

さっきまでバカみたいに盛り上がっていた連中が一気に周りは静まり返った。

 

そしてヨシヒコの反応を見て、受付嬢は「あ……」と察した様子で

 

「やっぱり知りませんでしたか……ドラゴンナイトは確かにレア職業で覚えるスキルも物凄いんですけど、それは相棒の竜、つまりは自分が騎乗する竜がいてこそ真価を発揮するものなのです、逆にいなかったら……」

「え? そうなの?」

 

彼女の言葉に呆然とするヨシヒコに代わって、メレブが恐る恐る尋ねる。

 

「ドラゴンナイトって……ドラゴン並みに強いって意味じゃないの?」

「いえ、竜騎士です、竜の上に跨って戦う騎士の事です、得意武器は槍で、覚えるスキルもほとんどが槍系のスキルです……」

「槍……でもヨシヒコが使うのは剣……」

「……残念ですが竜に騎乗して戦う前提のドラゴンナイトには剣のスキルはあまりないんですよ、あるにはありますがどれも初級レベルで……」

 

いよいよ雲息が怪しくなってきたと感じながら、今度はアクアが震える手を挙げて彼女に尋ねる。

 

「ね、ねぇ、ヨシヒコは相棒の竜とかそんなのいないんだけど……だったらどうなるの?」

「その、真に言いにくいのですが、そうなる場合ほとんどの職業の恩恵を受けることが出来ず、ハッキリ言って基本職の『冒険者』よりも利点が少なくなってしまいますね……」

「あ~それじゃあ仕方ないわね、じゃあヨシヒコ、転職したら? アンタ他にもいろんな職業選べるんでしょ」

「申し訳ありませんアクア様、その職業になったばかりの方は当分の間は転職できない決まりなんですよ……」

「は? 転職できない?」

 

マニュアル的な回答を出されてアクアは表情を凍り付かせ絶句しながらヨシヒコの方へ振り返ると

 

黙って突っ立っていたメレブがボソリと

 

「じゃあ今のヨシヒコは……」

 

 

 

 

 

 

「ドラゴンナイト(笑)」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「あ! ヨシヒコごめん!」

「ヨシヒコー!」

 

咄嗟に頭の中に浮かんだ言葉をつい口から出してしまった瞬間、ヨシヒコは絶叫を上げながら両手を勢いよく振りながら店から出て行ってしまった。

 

余程ショックであったのだろう、ヨシヒコが何処へと逃げてしまい

 

残されたメレブとアクアとダクネスは焦った様子であたふたする。

 

「マズイ、非常にマズイ! 俺達がつい調子に乗って何も考えずにドラゴンナイトにしてしまったばかりに! ヨシヒコがショックで逃げちゃった!」

「私なんか民衆の前で決めポーズさせちゃったわよ! とりあえず追いかけないと!」

「す、すまない私がすぐにキチンと説明をしておけば……」

 

各々反省しつつすぐにヨシヒコを追おうとする。

 

だがそこで

 

ふと自分達の事を困惑した様子で眺めている冒険者達に気付いた。

 

メレブとアクアはそんな彼等をグルリと見渡した後

 

「おぅい見てんじゃねぇよコラァ!!」

「こちとら見せモンじゃないのよ! シッシ! あっち行きなさいあっち!」

 

唐突にキレだして、先程自分達で注目しろと言ったクセに、一転して見るなと連呼しながら彼等を掻き分けて急いで出入口へと向かうのであった。

 

突然の失業に堪らず逃げてしまったヨシヒコ

 

果たして無事に見つかるのだろうか……

 

 

 

 

 

 

「つうかそこのお前なんなんだよ!」

「え、俺ですか?」

「さっきヨシヒコがドラゴンナイトになった瞬間一番喜んでたくせに! 結局(笑)だった瞬間一番ガッカリした顔浮かべやがって! なんだお前名前なんて言うんだ!」

「えーと……ダストです」

「よしダスト、お前に一言だけ言っておく、お前にドラゴンナイトの何がわかるんだ!」

「ええ!?」

「そうよそうよ! ドラゴンナイトでもないアンタにヨシヒコの苦しみが理解できる訳ないわ!」

「あ~それは~……うーん……」

「二人共その辺にしておけ……さっさとヨシヒコを追うぞ」

「はい、ホントわかってんだろうなお前……」

「ドラゴンナイトのいろはも知らないクセに調子乗ってんじゃないわよ、ったく」

「えぇ……」

 

 

 

 


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