ドラゴンナイトかと思いきやドラゴンナイト(笑)に就職してしまったヨシヒコ
ショックのあまり冒険者ギルドから走り去った彼は
一人ポツンと小さな橋から、下を通る川を虚ろな目で見ていた。
「何てことだ……今から冒険が始まるというのに、私は勇者どころかいきなり失業者になってしまった……」
心に深い傷を負いながらヤケクソ気味に、橋から川に向かって小さな石ころを投げ落とす。
石ころは川の中にポチャリと音を立てて沈んでいった。
「ダメだ、勇者でもないなんでもない私に、もはや魔王を倒す資格など無い……」
橋の手すりにもたれながら自暴自棄になってしまうヨシヒコ、しかしそんな彼の背後に……
「おお、もしかして君がダクネスが言っていたヨシヒコって人?」
「?」
突如飛んで来た少女の声にヨシヒコがゆっくりと振り返ると
そこには銀髪ショートカットの、華奢な体つきをした(より正確に言うと胸が平らな)少女がこちらを見ながら立っていた。
「確かに私はヨシヒコだが」
「あたし、ダクネスの友人のクリスって言うんだ。さっき彼女と会った時に君達の話は聞かせてもらったよ、なんかカズマが魔王になったとか大変な事になってるみたいだね、それに君達は異世界から来た勇者だとかなんとか……」
「魔王か……残念ながら今の私にはもう関係のない話だ」
「え? どうしたの?」
ダクネスの友人だと言うクリスと名乗る少女にから、魔王という単語が出た途端ヨシヒコはまたブルーな表情で橋の手すりにもたれながら項垂れてしまう。
「先程私は冒険者ギルドという場所で冒険者として登録してきたのだ、その時私が貰った職業は、ドラゴンナイトだった」
「え!? それって超レアな職業じゃん! いきなりそんな凄い職業になれるなんてとんでもない事だよ!」
「しかし相棒の竜がいないドラゴンナイトはロクに強くなれないと聞かされ、つい周りのノリに身を任せてしまった時にはもう遅く、もはや今の私はドラゴンナイト(笑)に成り下がってしまった……」
「あ、ああそういう事ね……」
ついちょっと前に起きた出来事をポツリポツリと呟きながら、ヨシヒコは地面にあった中くらいの大きさの石ころを拾って川に向かって投げる。
川に落ちた中くらいの石はボチャンとやや大きめの波紋を残して川の底に消えた。
「この世界には勇者という職業は存在しない、つまり今の私はもはや勇者でもなんでもないただのちっぽけな失業者でしかないのだ」
「そっかーそれでこんな所で一人落ち込んでたんだ」
「すまないが少し一人にしていてくれ、今の私ではもうこの世界ではなんの役にも立つ事は出来ない……」
「いやいや、事情が概ねわかったけど、ますます君の事ほっとけなくなったよ」
そっとして置いて欲しいと嘆きながら、地面に手頃な石が無いかと探すヨシヒコにクリスは腰に両手を当てながらそこから退かない様子。
「魔王は勇者じゃないと倒せないと言うけどさ、なら君はこの世界が魔王の力に飲み込まれて魔物の世界にされてもいいの? 困ってる人を見過ごすことが出来るの?」
「それは断じて出来ん、例え住む世界は違えど、魔王の脅威が迫る世界をみすみす見殺しになど私には出来ない、しかし今の私はもう……」
「ヨシヒコ、君は何処の世界でも君のままだと思うよ、この世界でも君達の世界の様に沢山の人が困ってるんだ、ほら」
そう言ってクリスはある方向を指差した。
「なに!? 何故いつの間にこんなあからさまな大岩が!」
そこにはなんと2メートルはある巨大な大岩が、道の真ん中に置かれて多くの通行人の邪魔をしていた。
「おいどういう事だよ! なんでこんな大岩が街の中に転がり込んでんだよ!」
「なんでも岩石の調査から戻って来た冒険隊が、うっかり荷車に積んでた大岩をここに落としてしまったらしいぞ」
「チクショー! これじゃあ馬車が通れねぇじゃねぇかよ!」
岩の向こうからブーブー文句が飛び交っている中、クリスはヨシヒコに語りかける。
「こういうトラブルはウチじゃすっかり日常茶飯事なんだ、誰だってみんな困ってる、それら全てを救う事なんて到底できやしないけど、今の君でもやれる事がちゃんと……ってヨシヒコ?」
クリスが言い終える内に既にヨシヒコは無言で動き出していた。
巨大な大岩の前に立つと、彼は両手でパンパンと鳴らして、大岩と地面の隙間に両手を入れて
「ふんぬー!」
「え! いやヨシヒコ何やってんの!? そんな大岩流石に一人じゃ無理だって!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
あんな大岩を持ち上げる事な出来やしないとクリスが慌てて止めに入ろうとしたその時
ヨシヒコの雄叫びと共に
巨大な大岩がググっと浮上し……
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うえぇ!? あんな巨大な大岩を一人で持ち上げちゃった!」
なんとそのまま両手で大岩を高々と掲げ上げてしまうヨシヒコ。
彼の持つとんでもない怪力にクリスが目を丸くさせ、岩の向こう側にいた通行人も口を揃えて驚きの声を上げている。
「ヤバ! ヤバ過ぎだよヨシヒコ! まさかそんな大きな岩を持ち上げる怪力があるなんて……ってなんで大岩持ったままあたしの方に近づいてくるの!?」
「ふぅ! ふぅ!」
「いや待って待って待って! 足ガクガクしてんじゃん! 膝プルプル震えてるじゃん! もう持ち上げるの限界なんでしょ! 頼むからその状態のままこっちに……!」
歯を食いしばり息を荒げながらこちらに振り返って来たかと思いきや、まさかの大岩を掲げたままこちらに向かって歩いて来た。
意図が分からないクリスは慌てて両手を突き出して止まれと指示するもヨシヒコは無言で徐々に近づいていく。
そして橋の真ん中辺りまで来た所でやっと足を止めると
「ふぅぅぅぅん!!!」
大岩を凄まじい形相で思いきり川に向かってほおり投げたではないか。
そして
パスンという乾いた音を立てて、大岩は川の上にプカーと浮いたまま水流に流されていった。
「……なんで浮いてるのあの大岩?」
サァーっと流されていく大岩を眺めながらクリスが呆然としていると
あの大岩を持ってきたと思われる冒険隊が数名が慌ててやって来た。
「あ! 大変です隊長! なんか川に落とされたみたいで流されてます!」
「なにぃ何てことだ! アレは火山のふもとで取れた貴重な『ハリボテ岩石』! 今度の冒険でアレを演出に使おうとしていたのに……なんとしてでも回収せねば! 行くぞ諸君! 俺について来い!」
「はい隊長!」
数名の隊員を引き連れて、眉毛と顔の濃い屈強そうな隊長が急いで川の下流の方へと駆けて行った。
ハリボテ岩石……名前通りならつまり見た目は重そうだが、実は中身は空っぽの川に浮かぶ程の軽い石……
「それを知っていれば誰だって持ち上げれたのに……てかそんな軽いなら君はなんであんな重そうに持ち上げてたの!?」
「いや、私は本当に重いと思っていたんだが……どうやら案外軽かったみたいだ」
「見た目で重いと頭の中で決めつけた結果、本気で重く感じてたって訳? いやいやいやいや……どんだけ天然なの君? いやバカとも言えるね、うん」
自分の両手を見下ろしながら真顔で呟くヨシヒコにクリスが怪訝な表情を浮かべるも、まあいいやとため息を突く。
「でもまあ、困ってるみんなの為に岩を持ち上げようとした時点で立派だよ」
「いや、私は川にほおり投げる為の手頃な石が無いかと探していたら、偶然アレを見つけただけなんだが」
「あ、そうだったんだ……うーん、でも何はともあれ困ってた町の人を救ったのは変わりないからいいか」
「私が街の人を救った……?」
自分としては善意ではなくあくまで川に石をほおり投げたい衝動に駆られて勝手に体が動いていただけだったらしい。
そうぶっちゃけるヨシヒコにクリスが苦笑していると、大岩を取り除かれた事で多くの通行人がワラワラと橋の上を歩いて来た。
「おおさっきの人! いやいや助かったよ!」
「アレって本当は軽かったんだろ? でもそれにすぐに気付いて運んでくれるなんて流石だね!」
「これで時間通り馬車を進められそうだ、ありがとよ」
「……」
笑いかけながらヨシヒコに感謝しつつ、人々は通り過ぎて行った。
残されたヨシヒコはそんな彼等を無言で見送る。
「そうか、こうなってしまった私でもまだ人を救うことが出来るのか……」
「そうそう、やっとわかったみたいだね」
彼等を見つめながらようやくわかった様子で頷くヨシヒコにクリスは静かに腕を組んで彼に問いかける
「ヨシヒコはさ、前の世界では勇者として戦ってたみたいだけど、それは今の君では出来ない事なの?」
「それは……いや、例え勇者という名誉が無くても、やはり私は困ってる者達を見過ごす事は出来ない」
「つまりそういう事だよ、肩書きも名誉も関係なく、魔王に苦しめられてる人々を救う為に戦う事が自分の使命だとしっかりと理解している、それこそが真の勇者・ヨシヒコなんだよ」
「そうか! 例えドラゴンナイト(笑)と呼ばれようとそれで構わない 私は私のまま! どう呼ばれようと私は困ってる人の為に魔王を討伐する!」
クリスに真意を説かれてやっとヨシヒコは頭の中のモヤモヤが吹っ切れた。
もう迷いはないとヨシヒコはいざないの剣を鞘から抜いて天に掲げる。
「私は勇者ヨシヒコだァー!!!」
「い、いやヨシヒコ、周りの目があるからそんな高々と叫ばないで……」
「ありがとう、胸の平らな少女よ、おかげで私は迷いを断ち切ることが出来た」
「む、胸の平らな少女!?」
周りがクスクス笑っているこの状況に耐え切れないでいると、そんなクリスにヨシヒコが剣を鞘に納めながら感謝する。
「お礼と言ってはなんだが、私もお前の悩みを解消する方法を教えておこう」
「へ? いやいやあたしは別に悩みなんかないから……」
「これは私の仲間であるムラサキから聞いた事なんだが……」
悩みなんかないと手を横に振るクリスに対して、ヨシヒコは目を大きく見開いて口を大きく開けると
「おなごは牛乳を飲めば!! おっぱいが大きくなる!!」
「はい!? え、べ、別にあたし胸の大きさとか気にしてないんだけど……いやぁホント、本当に気にしてないんだけどなぁ……あの、気にしてる様に見えた?」
「さらばだ、再び会う事になったらその時もよろしく頼む」
「あ、ちょっと待って! ホントに気にしてないからね胸の事なんか! おっぱいの大きさとかこれっぽっちも気にしてないから! お願いだから変な誤解したまま周りに言い触らすとか止めてよねー!」
言いたい事だけを伝えると満足げにヨシヒコはマントを翻して背を向けて歩き出す。
そんな彼に、クリスは顔を紅潮させて軽くパニック状態になりながら、周りの目も忘れてハッキリとした大声で叫ぶも、まるで聞こえてない彼はズンズンと自らの道を歩んで行くのであった。
それからしばらくして、空がすっかり夕日で赤く照らされていると、ヨシヒコは無事にメレブ達を街中で見つけた
「皆さーん!!」
「あ! ヨシヒコいた!」
メレブ、アクア、ダクネス、三人で戻って来たヨシヒコの方へとすぐに振り返ると
笑顔で手を振りながらヨシヒコが彼等と合流を果たす。
「すみません、ただ今戻って来ました」
「あ~良かったわホントに……全くいきなり出て行くもんだから焦ったんだからねこっちは!」
「うむ、皆こうして君の事をずっと探していたんだぞ、しかし戻って来て何よりだ」
「落ち込んだ原因はついお前を乗せてしまった責任が俺達にもあるからな、何はともあれよくぞ戻って来たヨシヒコ」
「どうやら心配かけていたみたいですね、でも大丈夫です、今の私にはもう迷いはありません」
皆それぞれの言葉でヨシヒコを出迎えると、ヨシヒコは晴れ晴れとした表情で力強く頷いて見せた。
それを見てメレブは「おおっと」と目を軽く見開く。
「本当に大丈夫なのかヨシヒコよ、今のお前はドラゴンナイト(笑)だぞ」
「ちょっとアンタそれで呼ぶの止めなさいよ! ウィザード(笑)のクセに!」
「いえ問題ありません、私はもうなんと呼ばれようと、私は勇者ヨシヒコとして戦う覚悟を決めました」
「お! なんだかしばらく目を離した隙になんか成長してるじゃーん!」
何を言われてもヨシヒコは全く落ち込むことなく、むしろ両手を腰に当てながら誇らしげなポーズ。
メレブも彼の肩をパンと叩きながらニヤニヤ笑みを浮かべた。
「どうしたんだよお前~なんかあったの?」
「ええ、実は先程ダクネスの友人と名乗るクリスという者に会いまして、どういう訳か親切に私の話を聞いてくれたんです」
「クリスが?」
クリスと聞いてすぐにダクネスが反応する。
「そうか、彼女が君の話を聞いていてくれたのか、そのおかげで君の迷いが吹っ切れたというのならば、彼女の友人である私もまた誇らしい」
「ああ、初対面の私に気さくに話しかけてくれてとてもいい奴だった、それと胸が平らだった」
「む、胸が平らなのはどうでもいいだろ!」
良い笑顔でクリスの胸が平らだったといらん情報を話すヨシヒコにダクネスがツッコんでいると
すぐ様メレブが身を乗り出してジッと目を細める。
「ヨシヒコ、そのクリスという者はムラサキと比べてどうだった? どっちの方が平らだと思った?」
「おいメレブ! お前まで何を言い出す!」
「はっきり言いますと、私が見る限りムラサキよりも平らな胸でした」
「うっそー! マジかよムラサキより胸が無いとか! うわ、なんか俺もちょっと会いたくなってきた!」
「む、胸が平らとかそんな下らん理由で私の友人に会おうとしないでくれ!」
仲間のムラサキよりも貧乳だと聞いて、会ってみたい気持ちになったメレブにダクネスが恥ずかしそうに叫んでいると
アクアが「まあ何はともあれ」と後頭部に両手を回しながら安堵のため息を吐いた。
「無事にアンタが戻ってきて良かったわよ、今度クリスの奴にいつかお礼して上げなさいよ」
「はい、とりあえず胸が大きくなる方法を教えて来ました」
「ううんそれお礼じゃない、ただの嫌味だから。なにそのドヤ顔、アンタただ女の子に恥ずかしい思いさせただけだからね?」
してやったりといった感じの表情で報告してくるヨシヒコにアクアが冷めた様子で返す中
メレブは杖に体を預けながら「さてと」と改まった様子で呟く。
「ヨシヒコが無事に俺達の下へ戻って来た事だし、新たな旅出を祝ってどっかで飯食いに行きますか」
「あらアンタにしちゃまともな事言うんじゃないの、なら早速冒険者ギルドに戻るわよ! 私の得意の宴会芸を披露してあげるわ!」
「宴会芸!? それは凄そうですね! 是非見せて下さい!」
「いいわよ、私の美しい花鳥風月をとくと拝見しなさい!」
「カズマと違いヨシヒコはアクアの宴会芸に凄い食いつくな……」
アクアが宴会芸をやると聞いてすぐに興味津々の様子のヨシヒコ。
そんな彼をダクネスが苦笑していると、飯に行こうと最初に提案したメレブがふと
「フフフ、こうしてみんな浮かれて飯を食いに行こうとしているテンションの中で、私はその前に一つ素晴らしいご報告をこの場で発表しようと思います」
「は? 何よ急に?」
「メレブさん? は! それはまさか!」
「その通りだヨシヒコ、俺はこの異世界で遂に……」
得意げな顔で何か言いたげな様子のメレブに、何かを感じたヨシヒコがハッとしていると
髪を軽く靡かせながらメレブはサッと決め顔を浮かべて
「新しい呪文を手に入れたよ」
「新しい呪文!?本当ですかメレブさん!?」
「本当だよ、メレブ嘘吐かないよ」
「はぁ~? アンタが呪文覚えたですって?」
呪文を覚えたと呟くメレブに、驚くヨシヒコをよそにアクアは胡散臭そうに見つめる。
「どうせ大した呪文とかじゃないんでしょ、だってアンタウィザード(笑)だし」
「バカ、アクアバカ、女神(笑)、この呪文は正に超、超危険な力を持っているのだ」
「超危険ですって!? それは一体どんな呪文なんですか!?」
「聞いて驚くなかれ、この呪文はな」
速く呪文の内容を知りたがっているヨシヒコの反応にどこか嬉しそうにしながらメレブは解説を始めた。
「放った相手の運値によって、1回だけなんらかの不運を起こすというとんでもない呪文なのだよ」
「不運を起こす? それは一体……試しに私にかけてみてくれませんか?」
「フフフ、相も変わらずアンタも好きねぇヨシヒコ、良かろう」
毎度毎度メレブが呪文を覚える度にかけられたがるヨシヒコに、メレブは得意げに杖を向けると
「せい!」
「!」
呪文をかける音が微かに響くも、何も起きない事にヨシヒコはキョトンとした様子で自分の身体を眺める。
それを見てアクアは軽く鼻で笑う。
「はん、なんにも起きないじゃないの、やっぱり所詮ウィザード(笑)って事ね」
「黙って見ていろ、どうだヨシヒコ、何か変わった事はないか?」
「いえ特には……あ!」
突如ヨシヒコの太ももに強烈な痛みが走る。
「あ! なんだ急に足が……足が攣った……!」
「ほう、そういえば先程ヨシヒコは必死に俺達を探す為に駆け回っていた、どうやらその反動が足に来てしまったらしい」
「く! どうしてこのタイミングで……」
痛みに呻きながらヨシヒコは傍の壁に手を置いて、吊った右足をビーンと伸ばしながら堪える。
その姿にメレブは満足げに笑みを浮かべながら
「まさかいきなり不幸が襲って来るとは思わないという、まずはそんなふざけた幻想をぶち殺す呪文、私はこれを……」
皆に向かってニヤリとしながら
「『ソゲブ』……と名付けたよ」
「ソゲブ……! 凄い!」
「その代わり呪文を一度でもかけられた人は、もう二度とこの呪文の効果が効かなくなってしまうのだ」
「いやなにそれ全然使えないじゃないの! 相手を一回だけ不幸にさせても意味ないじゃない! しかも足攣らせる程度だし!」
「バカだねぇ~アクアさん本当にバカだねぇ~、足を攣ったらまともに戦えると思う?「あ、痛い! 足が痛い無理! マジで限界誰か足引っ張って! もしくは水飲ませて!」と敵が呻き出した所を、我々が倒す」
「無敵ですね……! もうこれで魔王も楽勝ですね!」
小馬鹿にしてくるアクアに、わざわざ足を痛める敵というシチュエーションで演技をしながら説明するメレブに
足の痛みがようやく治まって来たヨシヒコが確信した様子で頷く。
するとずっと話を聞いていたダクネスがそっとメレブに向かって手を挙げて
「す、すまない……突然不幸に見舞われる呪文というのは少し私も興味がある……私にもかけてみてくれないか?」
「ほほう、どうやら異世界で、ヨシヒコに次ぐ欲しがりさんが現れた様だ。だがそれもまたよし」
どうやらダクネスが自分の新たな呪文『ソゲブ』を経験したいらしいので
メレブは更にテンションを上げて杖を振りかざすと
「ソゲブ!」
お望み通りダクネスに呪文をかけた。
ヨシヒコ同様、特に変化が無い事にダクネスがしばし戸惑っていると、突然
「あ!」
一歩前に歩いた瞬間、何かを踏んだ感触と共にズリッと地面を滑って
「いつ!」
「お! ダクネスが偶然道端に落ちてたバナナの皮を踏んで滑って転んだ! 不幸だ~」
「しょーもな……アンタこれで本当に魔王倒せると思ってるの……?」
「いたた……なるほど確かに不幸が落ちて来たな……ん? うわ!」
「お、どうしたどうした?」
尻もちを着いて転んだ事に不覚を覚えながらダクネスは立ち上がろうとするも、ふとお尻の部分を触った時に何かに気付いた。
「私のお尻にベトベトした感触が! これはもしや卵!? もしかして私が尻もち突いた場所に偶然卵が!」
「ああ~コレはイヤだ~、ベトベトするし洗い落とすの面倒だし~、正にダブル不幸だ~!」
「こんな……人前でベタベタでヌメヌメになってしまった醜態を晒す羽目になるとは……なんて恐ろしい呪文なんだ……!」
「ん~そんな満ち足りた表情浮かべながら言われてもなぁ~」
ベトベトになった手を手拭いで拭きながら、スイッチが入ったかのように興奮した面持ちで叫ぶダクネスに
メレブは一人苦笑した後ゆっくりとアクアの方へ振り返る。
「どうだアクアよ、コレで俺の呪文の恐ろしさをわかったであろう」
「え? アンタこんなの見てホントに私がビビると思ってんの? 連続でかけれるならともかく、相手に1度しか効かない呪文とか役に立たな過ぎでしょ」
「それだけではない、先程ヨシヒコとダクネスにソゲブをかけた事により、今の俺はMPがゼロだ」
「はぁ!? てことは2回しか使えないって訳!? ほんっと使えないわね!」
ドヤ顔浮かべて自分のMPが空になった事を報告するメレブに
アクアが口を大きく開けてはっきりと使えないと宣告すると、腰に手を当ててハァ~と深いため息を吐いてガックリする。
「これならまだ爆裂魔法を使えるめぐみんの方がマシよ……」
「メレブさん、今回も沢山の呪文を覚えて私をあっと驚かせてください」
「よかろう、とくと楽しみにしてるがいい」
「わ、私も何か興味が惹かれる呪文であればかかっても構わないぞ!」
「うむ、俺の呪文に酔いしれるがいい」
「なんでアンタはそんな誇らし気なのよ……それとヨシヒコとダクネス、そんな奴期待しないでいいから」
ヨシヒコとダクネスがすっかりメレブの呪文に期待を寄せている事に不満を持ちながら
アクアは一人文句を垂れながら彼等と共に、食事をする為再び冒険者ギルドに向かうのであった。