ガヴリール
ヴィネット
サタニキア
ラフィエル
何故かサターニャだけ違和感があるんですよね。なんででしょう。
というわけなのでサタ姐さんだけ本名ではありません。(今更)
(嗚呼……素敵な方を見つけてしまいました……!)
白羽=ラフィエル=エインズワースは天使である。
容姿端麗、文武両道。抜群のプロポーションをもち、特に胸部の発達が非常に著しい。長く伸びた銀髪に十字架の髪留め、後ろ髪に結んでいる大きな赤いリボンが特徴的である。
彼女は天使学校を次席で卒業し、首席のガヴリールと同じ舞天高校に通い、平穏な日々を過ごしていた。しかし彼女にとっての平穏は『退屈』の一言に尽き、
そんな彼女に転機が訪れた。
「あの~」
「何よあなた」
「通りすがりの学生です。ところでどのように
いつも通り学校へと通う道での出会い。同じ制服を着た赤髪の少女が、小さな犬と袋を引っ張り合っているのを目撃した。少女の手に握られているのは市販のメロンパン。犬はどうやらそのパンを欲しがっているようで、一人と一匹はメロンパンを巡って本気で喧嘩をしている。
一見野良犬に絡まれる可哀想な女子高生だが、少女からひしひしと感じる『面白い人オーラ』は常軌を逸脱していた。
長らくなかった、体が震える感覚。本能的に目の前の少女が面白そうだと肉体が告げている。朝一番に見慣れない光景を目にし、ラフィエルは確信した。
――彼女は素晴らしい玩具になる、と。
「……急に何?」
口からうっかり飛び出た本音。本当は天使らしいことを言うつもりだったのだが、赤髪の少女はラフィエルを間違いなく変なやつだと思っただろう。
もっとも、飛びかかってくる犬を回避することに必死で、ラフィエルを意識している余裕はなさそうだ。
「いえ、犬が苦手でお困りなのかと思いまして」
「に、苦手じゃないし――うわぁっ! 今からビシッと言うところだったし!」
口で言う割には犬の挙動に一々大げさなリアクションをとっている。時折聞こえる小さく短い悲鳴がラフィエルの
少女は犬と一定の距離を保ちながら謎のポーズをとり、全身に禍々しいオーラを漂わせて告げる。
「犬よ、我が名は胡桃沢=サタニキア=マクドウェル。いずれ全てを統べる者。大悪魔サタニキアの名の下に――ひれ伏せ!」
犬にはさっぱり伝わらなかった。当たり前である。犬は「何言ってんだこいつ……」と言いたげな顔をして再び少女に近寄った。少女は後ずさりして警戒している――全てを統べるには時間が掛かりそうだ。
長ったらしい名前にどこか聞き覚えがあると感じながらも、ラフィエルが申し訳なさそうに会話に入る。
「あのー、そこは犬語で話さないと」
「犬語ぉ?」
「犬の気持ちになって話し掛ければ、心を通い合わせることだって……きっとできます!」
嘘である。そんな話聞いたことないし、単純にワンワン吠える少女の姿を拝みたいだけだ。
「……分かったわ。――ワン! ワンワン!」
「大丈夫です、伝わってます!」
「……ワン! ワンワンワン! ワン!」
「ぷふっ、そうですその調子――」
言う通り真面目に犬語で話し始めた少女を後ろから楽しげに眺めるラフィエル。その姿があまりに滑稽過ぎて笑いが漏れる。
神はなんと運命的な出会いをさせてくれたのだろう。この人をずっとからかっていきたい――そう願ったその時、信じられない光景が前方に繰り広げられていた。
「な――すみません、ちょっと来てください!」
「ワンワ……ぐぇ、何すん……もがっ!?」
犬化した少女の首根っこを掴み、騒ぎ立てないよう口を塞いでから近くにあった電柱の後ろに隠れる。犬はよっぽど利口なのか同じように電柱に身を隠し、対価と言わんばかりにメロンパンを奪い取った。少女は気付いていないが、今は犬真似やメロンパンどころではない。それに匹敵する――否、それ以上の衝撃と驚愕が、ラフィエル達のいた場所の少し先で待ち構えていたのだ。
陰からひっそり顔を出す。よく見たことのある少女と、あまり知らない人物がいた。
「頼むって里九! いやほんと、マジで! 一生のお願いだから!」
「えぇいやめんかこの駄天使! 離れろ!」
一人の少女が一人の少年に、往来の場で堂々と抱き付いている。
しかも事もあろうか少女はガヴリール。ラフィエルと同じ天使で、天界に居た頃に比べるとかなり性格が変化した。天使らしからぬ言動と私生活や学校での生活態度。勿論面白いもの好きなラフィエルは、今も昔もガヴリールのことが大好きである。
もう一方の少年は、おそらくガヴリールと同じクラスの来栖という男。何度かガヴリールと仲良く会話している姿を目にしたことがあり、彼女とは違って多分ただの人間である。
一応どちらも知っている人物――しかしクラスが違うため、ラフィエルは二人がどのような関係であるかを知らない。仲の良い友人だとばかり思っていたのだが。
「私はお前がいないと駄目なんだよー!」
「俺はお前がいなくても問題ないんだよ! ひっつくな!」
(あのガヴちゃんがそこまで依存しているというの!?)
半泣きで縋るガヴリール。どう見ても演技ではないし、第一に演技する意味がない。
間違いなく、彼女の言葉は本気である。
(でもガヴちゃんが殿方に籠絡されるなんて……)
「この間まではあんなに優しかったのに、私以外に相手ができたっていうのか!」
「元々そんなつもりはない! 俺は俺一人でやっていけるんだよ!」
(しかもかなり縺れ込んだ話をしておられるようで……!)
会話の内容が完全に昼ドラだ。
友人の痴話というものは聞いていて生きた心地がしない。むしろ大好物だという者もたまにいるが、親しかった相手が一人のモノになってしまう喪失感は大きいものである。心にぽっかりと、大きな穴が空いてしまったような感覚に陥ってしまう。
同時に、ラフィエルの中では、繰り広げられる修羅場をもっと見ていたいという新たな感情が芽生え始めているのだが。
「でもそうですね。ここは友として、ガヴちゃんの幸せを祈るべきですよね……!」
「んぐぐ……ぷはぁっ! いきなり何なのよ!」
「あ、ごめんなさい。すっかり忘れてました」
口とついでに鼻、二つの酸素の運搬口を塞がれていた赤髪の少女が拘束から逃れた。いつの間にか犬は姿を消しているため、彼女のメロンパンはどこかで美味しく頂かれることになるだろう。
呼吸を封じられていたためか少女は修羅場に意識が回らなかったらしく、ようやく気が付く。
「何よアレ、ガヴリールと里九じゃない。朝っぱらから威勢の良いことね」
「それはあなたも同じ……え? ご存じなんですか?」
「当たり前じゃない。ガヴリールは私の憎きライバルだし、里九は忠実なる僕よ」
「あー。余計訳が分からなくなりそうなのでやっぱりいいです、なんでもありません」
赤髪の少女が邪険に扱われたことに立腹するが、今はそれどころではない。彼女の事は後々で存分に弄った上で更に弄り倒させて貰おう、とラフィエルは心に固く誓った。
再び痴話喧嘩へと目を向けると、少年は引き剥がしたのか、ガヴリールが自分から離れたのか分からないが、二人は向かい合って会話を続行していた。
「諦めろガヴリール。俺は今回のレイド戦は一人でやるって決めたんだ」
(ん? レイド?)
修羅場にしては随分と修羅場らしくない単語が飛び出し、ラフィエルは首を傾げる。
少年の口にしたレイド戦というものは以前にも聞いたことがあった。確かガヴリールが下界の娯楽に没頭し始めた頃、学校で『ネトゲ』の話をされた時に言っていた――気がする。
つまり二人の会話は痴情の縺れなどではなく、ただのゲームの話だということになってしまう。堕落してからのガヴリールのゲームへの執着心はかなりのものであるため、少年のことがゲーム内でどうしても必要になり、彼に縋るしかない状況にでも陥ってしまったに違いない。
(よくよく考えてみれば、ガヴちゃん今はゲームしか眼中にありませんもんね。生活だって苦しいって聞きましたし……なんだ、ただのゲーム友達さんですか)
ホッと胸を撫で下ろす。安心したような少しがっかりしたような――ともあれ、浮いた話ではなかったということだ。
「ひどい、里九最低。この間のことをもう忘れたっていうんだ」
「いやその話を出すのはナシだろ。たまたまだったんだし」
「折角の機会を無駄にしてくれちゃってさ! この甲斐性意気地根性無し!」
「俺足りないもの多過ぎだろ。それにこの間はほら、初めてだったんだから仕方ないだろ」
(なんかまた気になる話が出てきましたよー? まさか本当にそうだったりしませんよねー?)
修羅場復活。このまま聞き続けていれば四人揃って遅刻確定だ。いい加減この場を離れなければと思うラフィエルだが、体が言うことを聞いてくれない。本能はまだ修羅場を望んでいるようだ。
と、陰ながら見守るラフィエルはあることに気が付いた。先程まで隣に居たはずの赤髪の少女がいないのだ。忽然と姿を消した少女を探すが、近くには見当たらない。
それも当然――少女は修羅場のど真ん中に割って入っていたのだから。
「はーっはっは! 朝から鬱陶しいくらい元気ねお前ら! もう少しこの大悪魔サタニキア様の佇まいを見習ったら?」
(何やってるんですかあの人!? でも、凄い……あの中に入れるなんて、どれだけ空気が読めないんでしょう!)
刹那、直感が確信へと変わる。面白そうな人だとは常々思っていたが、彼女は稀に見る
「朝からやかましいのはお前だよ、サターニャ。私は今こいつと大事な話してるんだ。邪魔しないでくれ」
「ふん、そうやって逃げようったってそうはいかないわ。今日こそはあんたと決着をつけてやるんだから」
「いいところに来てくれたサターニャ! じゃ、後はよろしく」
「あっおい! 待てよメイン盾――じゃなかった里九!」
「この私の実力をもってすればあんたなんて一瞬で塵芥と化す――ちょっ、本当に逃げようとするなぁー!」
――なんというか、混沌としている。
ただでさえカオスの塊のような空間だったのに、一人加わっただけで更に意味不明な空間へと変貌していた。彼女には場を掻き乱す才能でもあるのだろうか、否、あるに違いない。
「とりあえず、名前を教えてもらおうかしら」
退屈な毎日に強い刺激と快楽がやってきた。それもとびっきりの。
青天の霹靂。人生は何があるのか分からない、つまらなくて仕方がないと思っていた学校生活も、ほんの少し人と会話しただけで
まずはこの出会いを大切に、楽しめる限りをとことん楽しもう――ラフィエルはそう誓うのだった。
結局ガヴリールと少年の関係性は、彼女の中で結論が出ないまま保留されるのだが。