「ところでお兄様。さっきから気になっていたのですが、………ヨルの
それは今刀華が最も警戒していることだった。
固有霊装は敵の戦闘スタイルを推測する上で重要な情報だ。それがわからないとなると、予期せぬ奇襲を受ける可能性が激増するのだ。
(禄存学園の加我さんのように武器の形をしていないタイプか、あるいは固有霊装をどこかに隠し持っているのか)
現時点ではヨルは完全に徒手空拳。
断言はできないが、少なくとも《鳴神》よりかはリーチの短い武器なのだろう。
突進してくるヨルに、刀華は鋭く横薙ぎに剣を振るう。
武器による防御ではなく体捌きによる回避を旨とする相手には、縦の斬撃や突きは躱されやすい―――回避に必要な身体の動きが少ないのだ。刀華はひとまず間合いの有利は自分にあるものと仮定して、それを保ちつつ切り崩していく策をとろうとした。
しかしヨルは止まらない、どころか加速した。
身体を沈めて刃を頭上にやり過ごしつつ、強引に刀華を自分の射程内に収めた。
熊手のように五指を曲げたヨルの右腕が、ギリギリと後ろに引き絞られる。
しかし刀華も、こうなることは想定内。
(やはり潜り込んできましたか!ここで―――)
瞬間、刀華の全神経が悲鳴を上げた。
――――キケン、と。
ヨルの右腕が霞む速度で掻き消える。
轟音と共に、一瞬前まで刀華の足があった地面が深々と抉り取られていた。
「「「っっ………っ!」」」
その場の全員が絶句した。
伐刀者の戦闘に耐えるよう作られたリングが、まるで熊に一撃をもらった豆腐。
加えてその破壊痕には、五本の細い溝がくっきりと刻まれていた。
この常軌を逸した怪力もそうだが、その先端の五本指が、―――まるで鋼鉄の鉤爪!
「っくうう!」
さらにそこから、ヨルは立て続けに両腕を振るった。地を這うような姿勢のまま両腕の僅かな残像のみを残して、超低空から執拗に刀華の下半身を抉ろうと迫る。
それをバックステップで必死に回避しつつ、刀華は背中に冷や汗をかいていた。
(かつて黒鉄くんの攻撃がステラさんに届かなかったように、魔力に大きな差があれば攻撃はまともに通らないはずですが……これは、喰らったら脚の一本じゃ済みませんね……!)
ヨルの戦い方を見て同時に嫌な顔をしたのは、同じ剣士である一輝とステラだ。
「あれは辛いね。僕たち剣士は、ああいう戦い方をされると一番キツい」
「まず降り下ろす以外の攻撃が封じられちゃうのよね。しかもああ突進しながらやられたら、フットワークも制限される」
「剣っていう得物はスウィングの後半から威力が減退するからね。あそこまでベッタリ地面に張り付かれたら、恐ろしくやりづらいよ」
「だけどそれは体術のみに限った話でしょう?例えばステラちゃんやシズクなら、それこそ魔力での攻撃でどうとでも対処できるじゃない」
アリスが言うが早いか、バチバチと電光を散らす刀華の《鳴神》が斜め下に振り抜かれた。直後爆裂する雷。ゼロ距離での《雷鴎》が地面に激突したのだ。
しかし敵もさるもの、ヨルは伐刀絶技の予兆を見るや即座に横に離脱していた―――悪辣極まる腕力と握力で地面を掴み、突進のベクトルを別方向に曲げたのだ。
そこに刀華が斬りかかる。
それを見たヨルは両足を振り回し、するとそこから二つの塊が刀華の顔めがけて飛んできた。
「靴。器用ですね」
ピッタリ視界を覆うように蹴り出された二つの靴を、刀華は落ち着いて鞘で打ち飛ばす。だが、ヨルもそれで稼いだコンマ一秒の時間で既に体勢を立て直していた。
そしてこの戦いにおける、初めての直接的な接触。
逆袈裟に首筋を狙った刀華の《鳴神》――――ヨルはその鍔の部分に掌底をぶち当て、彼女の一太刀を迎え撃った。
「はああああああっっっ!」
そこを起点に繰り出される猛攻。
電光を纏って全方向から間断なく、時に速度と角度を急転させて襲いかかる白銀の嵐。
しかしヨルもまた一歩も引かない。
掌底で、手刀で、手の甲で《鳴神》の鍔を受け止め斬撃を悉く無力化してしまう。
「これは……刀華さんの本気の攻撃に、その場で対抗し続けている!?」
驚愕したのは珠雫だ。
東堂刀華の《稲妻》………電気で作り出した磁界をもって刃を操作、太刀筋とその速度、さらに角度を急転させる強力な伐刀絶技。
手首の負担が尋常ではないそうだが、急にピッチの変わる攻めは相当にやりづらい。比類なき剣客である兄、一輝ですら《稲妻》を前に己の間合いから押し出されたのだ。
だからこそ、こうしてヨルが一歩も引いていない事実が信じがたいのだろう。
しかし一輝の分析は冷静だ。
「そう驚くことじゃない。素手の回転力は単純に一刀流の二倍。それに腕が見えなくなるほどのスピードがあるから、急に攻めのピッチが変わっても付いていけるんだ。元々剣道においても、二刀流は防御に秀でたスタイルだからね」