「だけど流石に迂闊に攻めれないみたいね。《稲妻》のアドバンテージは生きてるわ。だけど……」
アリスの顔が険しく歪む。
かつて東堂刀華と戦った珠雫を思い出したのだ。
あの時、珠雫は序盤に得意の魔術戦に持ち込んだ………しかし結果は、その得意な土俵で刀華と互角。その後『武術』という差により珠雫は敗北した。
立場はひっくり返っているが、今回も同じだ。
刀華は自分の武術に《稲妻》という能力を上乗せして今、ヨルと互角。
もしヨルがもう一押しを持っていれば、戦局は一気に傾いてしまう。
「いや、まだそう簡単にはいかないよ」
しかしアリスの危惧を感じ取った一輝は、即座にそれを否定した。
何故なら一輝は知っている。
東堂刀華という騎士の引き出しはこの程度で尽きるような浅い底ではないことを。
「東堂さんには刀からゼロ距離で電撃を撃ち込む技がある。これは近接での打ち合いなら絶対に避けられない。しかも相手は素手だから、その効果はずっと向上する」
実際にやられた一輝だからわかる。
電撃はただダメージを与えるだけではない。電気刺激で筋肉を強制的に硬直させるのだ。
だから相手は次の動作がどうしても遅れ、そこから刀華は着実に敵を切り崩していく。
今ヨルと撃ち合う彼女は、ここぞという機会を虎視眈々と狙っているのだろう。
しかしヨルもこの膠着状態を良しとすまい。
どちらが打開の口火を切るか、周囲は固唾を飲んでリングを見詰めていた。
しかし。
((違う))
ずば抜けた魔力制御能力を持つステラと珠雫だけは、それとは違うものが見えていた。
そして二人が見た状況は、正しい。
刀華は電撃によるショックを狙っているのではない。
もうとっくに使い続けているのだ。
(電気が、通らない………!?)
内心に生じる動揺を、刀華は内に押し込める。
本来なら電撃を浴びた人体は筋肉が硬直し、激痛を発するはずだ。
しかしヨルの表情や動きには、一切の乱れもない。
一瞬、彼の《
彼女の雷撃は、彼女の魔力によるもの。
だからわかった。
雷撃は《鳴神》を通じてヨルの手に流れ、───そしてろくに流れないまま消えていた。
(………成る程。貴方は並外れて皮膚が分厚いんですね)
己の能力たる電気。その理解を深めるため、電気に関する知識を刀華は常に学んでいた。
その中にあったこぼれ話、それこそが解答なのだと刀華は驚く。
常人なら死に至るような電流を浴びても痛みも痺れもしない人間が、実際に中国に存在する。
検査によると彼の皮膚は常人より1,5倍も分厚く、これが抵抗となり電気を通さなかったということらしい。
恐らくヨルも似たようなものなのだ。
(奇しくも相性は最悪、ですか)
しかし。
だから何だ?
この程度の劣勢を覆さずして、破軍の長が務まるのか?自分の背負ったものは、この程度で吹き飛ぶ重さなのか?
そして何より。
今、自分と真っ向から剣と拳を交わすこの男。
本来なら撃ち合いが成立しない程の剛力を持っていながらずっと防御に徹しているこの男、その相眸。
『この程度か』と値踏みしているその舐めた目を───斬り捨てずして何とする!?
「はぁぁぁあああああああっっ!!!」
烈迫の気合いと共に、刀華は《鳴神》を振り抜いた。
魔力による増強プラス《稲妻》による加速によって繰り出された剣は、鍔を捕らえようとしたヨルの腕を大きく弾き飛ばした。
やや驚愕したヨルだが、即座にもう片方の手を不可視の速度で刀華に振るう。地面を抉ったあの一撃だ。
しかしそれが届くより先に、刀華はヨルの懐に潜り込み、そして激突した。
「!?」
やはり魔力で力を増強した、剣術の『当て身』だ。
超至近距離に入られ、ヨルの一撃は空振り。
全身を鉄塊として放つタックルを受け、その身体は大きく後ろに仰け反り───さらに足が僅かに宙に浮いた。
大きすぎるその隙を、刀華が見過ごす訳もない!
この熾烈な激突の中、不思議と意識は静寂だった。
時が緩やかになった感覚の中、刀華は静かに《
そこから放たれるのは、音すら遠く置き去りにする抜刀術。
強力な磁界を発生させ刀身を射出する、落雷すら切る異次元の速度と破壊力。
そのまま東堂刀華の通り名となった、必勝不敗の伝家の宝刀─────!!
「《雷き───────!!、! ! !?」
刀華の声が完全に詰まる。
それを見ていた一輝達や生徒会も目を見開いて驚愕していた。
刀華の当て身を喰らい後ろに倒れかけていたヨルが、まるで時間を巻き戻したように元の場所に戻り────剣を抜こうとする刀華の腕を掴んでいたのだから!!
明らかに不自然な挙動。
そのカラクリに一番に気付いたのは、やはり一輝だった。
「足元が……!」
ヨルの足がついた地面、その足指を起点に、蜘蛛の巣のような亀裂が入っていたのだ。
そこに大きな力が加わった証拠だ。