「嘘でしょ。あいつ、足の指で地面を掴んで体勢を戻したっていうの!?」
地面に指が突き刺さるほどの力と、そこから身体を起こす体重移動の技術とマッスルコントロール。
さらにそれらを刀を納刀する刹那の刻にやってのける瞬発力。
物理現象を捩じ伏せた挙動とそれに要求される要素のレベルに、全員が息を呑んだ。
「────靴脱いでなきゃヤバかったぜ」
低い声で称賛を送るヨル。
ばきゅっ、と湿った木の枝を折るような音が刀華の上腕から響いた。
ヨルが握力にものを言わせてへし折ったのだ。
ただし二人の固有霊装は《幻想形態》、実際に折れた訳ではないが……相応のダメージは当然伝わる。
血のような魔力光、《血光》が握り折られた上腕から噴き出した。
(マズい、あの位置のダメージは確実に握力にも影響を及ぼす。あれじゃ《雷切》は無理だ!)
超電磁抜刀術《雷切》のスウィングスピードは音速を優に超え、そしてそれを制御する刀華にも高い技術が要求される。
中でも腕の動きを作る上腕と、刀を支える握力が同時に潰されたとなっては超音速の斬撃など不可能。
技の構えからその攻撃方法を刹那で読み取り、即座に出がかりから潰す。伝家の宝刀を初見で封じ込めたヨルの技量は確かに凄まじい。
しかしこの場にいた全員が読み誤っていた。
《雷切》という必勝の太刀を産み出した東堂刀華。
彼女の己の技に対する、理解の深さを。
確かにこの腕の状態では《雷切》は不可能。
しかし逆の手なら。
刀ではなく────鞘ならば。
瞬間。
周囲の空気を爆散させて、黒塗りの鞘から刃が解き放たれた。
鞘を握っている健常な手で、内部の刃をレールとして射出された黒塗りの鞘を制御。
ヨルに握られた腕の位置はそのままに、刀華は身体を独楽のように回転させた。
逆手に握った超音速の黒鞘が、空気を爆散させながらヨルの側頭部を狙う。
刀に強力な磁界を発生させ、刃ではなく鞘を撃ち出す超音速の『打撃』。
その名は。
「《
その結末に、全員が言葉を失った。
誰もが予想だにしなかった刀華の不意打ちを、ヨルが頭を下げて回避したのは見えた。
しかし音速を突き破り発生する衝撃波には、人一人を打ち倒すには充分な破壊力がある。
それを刀華はヨルに浴びせ、ヨルは爆砕した大気をまともに喰らい────
────結果、刀華は吹き飛んで壁にめり込み、ヨルは拳を振り抜いた状態で静止していた。
「今のは最高にいい手だったが……あそこまでギラついた眼をされちゃあ、何か手があんのがバレバレだ。
あと生憎だが、
親の罵声より浴びてるんでな、と。
魔力によるものではない衝撃波に耐え、
目を剥いて凍りつく黒乃が、一気に水分を失った喉で絞り出した。
「魔力が、増大しているだと……!?それもFランクから、一気にBランク相当にまで………!!」
彼女らの戦慄は当然だ。
魔力の上限が増えるとはつまり、己の可能性の最果てを破った《魔人》と成ったという証左なのだから。
ゆらり───、と身体から墨のように黒い魔力を立ち上らせるヨル。彼は残心を解き、殴り飛ばされた刀華が激突した壁を見る。
その視線に油断の色はない。
なぜなら。
胴体を血光で真っ赤に染め上げた、現実ならば腹部を丸ごともがれるレベルのダメージを負った刀華が────《鳴神》を杖にして、それでも立ち上がったからだ。
「はぁっ………ハァッ…………!!」
食い縛る歯から喘鳴が漏れる。
伐刀者の精神力によっては、
しかし彼女はどう見ても死に体………それでも瞳に力を宿す刀華に、ヨルは問うた。
「………お前は強い。けどこいつは戦争じゃねえ、所詮『遊び』だろう。ここで立つ理由は何だ?何があんたを支えてる?」
「……命が懸かっていようがいまいが、同じです」
軋む身体に鞭を打ち、刀華は二本の足で立つ。
言葉ではなく血を吐き出すように、鬼気迫る表情で彼女は吼えた。
「私は、あなたに負ける訳にはいかない。破軍学園の生徒会長として、皆の信頼を預かる者として………!絶対に!あなたに屈したりはしない!!」
《鳴神》の切っ先がヨルに向く。
雷を纏う身体能力強化の伐刀絶技《疾風迅雷》が刀華の身体を覆うが、しかし刀華にはもう歩く力も残っていない。
そして歩けなくてもいい。
刀を向けさえすればいい。
技と呼ぶには余りにも危険で、未完成。
されどその破壊力たるや、《雷切》を遥かに上回る。
周囲に磁界を形成し、己を弾とするレールガン。
《